税 務 東 日 本 大 震 災 における 税 務 上 の 取 扱 い YAC 税 理 士 法 人 代 表 社 員 清 水 川 浩 司 ( 税 理 士 ) Ⅰ.はじめに 東 日 本 大 震 災 に 関 する 税 務 上 の 取 扱 いについては 昨 年 より 既 に 東 日 本 大 震 災 の 被 災 者 等 に 係 る 国 税 関 係 法 律 の 臨 時 特 例 に 関 する 法 律 ( 以 下 震 災 特 例 法 という )が 施 行 されております 震 災 からもうすぐ 1 年 になろうとして おり 法 人 のお 客 様 におかれましては 地 震 保 険 金 や 補 助 金 等 で 新 たな 資 産 の 取 得 等 がようやく 始 まりだしたものと 思 われます また 個 人 のお 客 様 についても 平 成 23 年 度 分 の 確 定 申 告 に 際 して 雑 損 控 除 の 適 用 を 申 請 される 方 も 多 数 いらっしゃると 思 います そこで 震 災 関 連 で 実 務 上 質 問 が 多 い 事 例 を 取 り 上 げ 圧 縮 記 帳 の 概 要 震 災 特 例 法 の 中 から 新 たな 資 産 の 取 得 等 に 対 する 特 例 の 概 要 被 災 者 生 活 再 建 支 援 金 の 税 務 上 の 取 り 扱 いの 変 更 について ご 説 明 します Ⅱ. 実 務 上 の 取 り 扱 い 事 例 (1) 圧 縮 記 帳 -その1 補 助 金 に 関 してよくある 質 問 当 社 は 被 災 地 に 工 場 を 有 する 12 月 決 算 の 中 小 企 業 法 人 です 新 たな 機 械 の 購 入 に 充 てるため 補 助 金 4,000 万 円 を 宮 城 県 振 興 課 から 受 給 しました この 補 助 金 についての 税 務 上 の 取 り 扱 いはどのようになりますか < 圧 縮 記 帳 の 概 要 > 補 助 金 等 を 受 給 した 場 合 通 常 はその 受 給 した 補 助 金 分 だけ 利 益 が 計 上 され これに 対 して 法 人 税 が 課 されます 国 や 地 方 公 共 団 体 から 法 人 が 受 ける 補 助 金 等 は 事 業 の 経 費 に 充 てる 補 助 金 ( 経 費 補 助 金 )と 固 定 資 産 の 取 得 または 改 良 に 充 てる 補 助 金 ( 施 設 補 助 金 )に 分 類 されます 経 費 補 助 金 は その 交 付 目 的 に 従 って 支 出 した 経 費 が 損 金 に 算 入 されるため 結 果 的 に 税 法 上 の 所 得 は 発 生 しません これに 対 し 施 設 補 助 金 は 交 付 目 的 の 固 定 資 産 購 入 代 金 として 使 用 され いったん 資 産 の 取 得 価 額 として 処 理 されたうえで その 耐 用 年 数 に 応 じて 減 価 償 却 費 として 各 事 業 年 度 の 損 金 とされていくため 即 時 には 損 金 とならず 補 助 金 に 関 する 受 贈 益 から 多 くの 課 税 所 得 が 発 生 します しかし この 受 贈 益 に 直 ちに 法 人 税 が 課 税 されると その 補 助 金 等 によって 取 得 を 予 定 していた 資 産 の 取 得 資 金 が 税 額 相 当 分 だけ 不 足 してしまう 可 能 性 が 高 くなり 補 助 金 の 交 付 目 的 が 達 成 できなくなります そこで 補 助 金 を 有 効 に 活 用 してもらえるように 法 人 税 の 負 担 を 軽 減 する 制 度 が 設 けられています この 制 度 を 圧 縮 記 帳 といいます この 質 問 の 場 合 は 固 定 資 産 の 取 得 を 目 的 とする 施 設 補 助 金 に 分 類 されるため 補 助 金 の 交 付 目 的 に 適 合 した 固 定 資 産 を 取 得 するなど 一 定 の 要 件 を 満 たせば 税 務 上 計 算 される 圧 縮 限 度 額 の 範 囲 内 で 圧 縮 記 帳 を 適 用 すること により 法 人 税 の 負 担 を 軽 減 することができます 2
< 圧 縮 記 帳 の 効 果 > 圧 縮 記 帳 を 適 用 した 場 合 に 得 られる 税 務 上 の 効 果 はどのようなものでしょうか 前 述 のように 圧 縮 記 帳 の 制 度 目 的 は 補 助 金 等 の 受 贈 益 に 対 して 直 ちに 課 税 しないことにより 補 助 目 的 を 損 な わないようにするためのものであり その 効 果 は 税 負 担 を 将 来 に 繰 り 延 べるものとなっています つまり あく までも 課 税 の 繰 り 延 べ であり 課 税 の 免 除 ではないことに 注 意 が 必 要 です 具 体 的 には 次 の 事 例 のように 圧 縮 記 帳 を 適 用 した 場 合 には 普 通 償 却 のみの 場 合 に 比 べて 補 助 金 を 受 給 し た 事 業 年 度 の 課 税 所 得 が 減 額 される 一 方 第 2 期 以 降 は 減 価 償 却 費 の 減 少 により 課 税 所 得 が 増 額 しています そして 減 価 償 却 が 終 了 すると 合 計 での 影 響 額 はゼロになっていますので 圧 縮 記 帳 は 税 負 担 を 将 来 に 繰 り 延 べ ているものであることが 分 かります 実 際 の 制 度 適 用 にあたっては 各 社 の 資 金 繰 り 状 況 収 益 状 況 適 用 対 象 とする 固 定 資 産 の 状 況 等 の 種 々の 条 件 を 踏 まえ 後 述 する 特 別 償 却 の 制 度 とも 比 較 衡 量 の 上 最 適 な 税 務 上 の 制 度 を 選 択 します また 事 例 の 通 り 圧 縮 記 帳 により 各 事 業 年 度 へ 課 税 所 得 が 繰 り 延 べられ 分 散 されることとなりますが 法 人 税 への 上 乗 せ 税 であ る 復 興 特 別 法 人 税 の 影 響 で 将 来 の 各 事 業 年 度 の 法 人 税 率 が 単 一 ではありませんので これも 踏 まえて 制 度 適 用 を 検 討 する 必 要 があります 事 例 建 物 の 取 得 価 額 ;500 耐 用 年 数 ;5 年 償 却 方 法 ; 定 額 法 補 助 金 の 額 ;400 圧 縮 記 帳 により 損 金 に 算 入 した 額 ;400 補 助 金 以 外 の 各 事 業 年 度 の 収 入 ;1,000 事 業 年 度 第 1 期 第 2 期 第 3 期 第 4 期 第 5 期 合 計 1 圧 縮 記 帳 を 適 用 した 場 合 総 収 入 ( 補 助 金 含 む) 1,400 1,000 1,000 1,000 1,000 5,400 固 定 資 産 圧 縮 損 -400-400 減 価 償 却 費 -20-20 -20-20 -20-100 課 税 所 得 980 980 980 980 980 4,900 2 普 通 償 却 のみの 場 合 総 収 入 ( 補 助 金 含 む) 1,400 1,000 1,000 1,000 1,000 5,400 減 価 償 却 費 -100-100 -100-100 -100-500 課 税 所 得 1,300 900 900 900 900 4,900 3 影 響 額 (1-2) 課 税 所 得 の 差 額 -320 80 80 80 80 0 (2) 圧 縮 記 帳 -その2 地 震 保 険 金 に 関 してよくある 質 問 当 社 は 被 災 地 に 工 場 を 有 する 3 月 決 算 の 中 小 企 業 法 人 です 被 災 した 工 場 に 対 して 地 震 保 険 金 を 4,000 万 円 受 給 しました 保 険 差 益 として 収 益 に 計 上 し たため 多 額 の 利 益 が 発 生 することになりそうですが この 場 合 の 税 務 上 の 取 り 扱 いはどのよう になりますか 3
補 助 金 の 場 合 と 同 様 に 通 常 はその 受 給 した 地 震 保 険 金 に 対 して 法 人 税 が 課 されます ただし 法 人 が 固 定 資 産 の 滅 失 損 壊 により 保 険 金 の 支 払 を 受 け その 事 業 年 度 中 にその 保 険 金 をもって 代 替 資 産 の 取 得 をし 又 は 改 良 をした 場 合 には 圧 縮 限 度 額 の 範 囲 内 で 圧 縮 記 帳 が 認 められます また 保 険 金 の 支 払 い を 受 ける 年 度 で 代 替 資 産 の 取 得 が 出 来 ない 場 合 で その 事 業 年 度 終 了 の 日 の 翌 日 から 2 年 以 内 に 代 替 資 産 を 取 得 する 見 込 みであるときは 保 険 金 の 受 け 取 りによる 収 益 の 課 税 を 避 けるため 圧 縮 限 度 額 以 下 の 金 額 を 確 定 した 決 算 において 特 別 勘 定 として 経 理 することにより 損 金 算 入 が 認 められます このように 地 震 保 険 金 について 圧 縮 記 帳 の 制 度 を 適 用 することにより 課 税 の 繰 り 延 べを 行 うことができます 圧 縮 記 帳 の 効 果 は 基 本 的 に 補 助 金 の 場 合 と 同 様 です なお 災 害 その 他 やむを 得 ない 事 由 により 上 記 期 間 内 に 代 替 資 産 の 取 得 等 をすることが 困 難 である 場 合 であって も 保 険 金 等 の 支 払 われた 事 業 年 度 終 了 の 日 の 翌 日 から 2 年 を 経 過 する 日 の 2 月 前 までに 代 替 資 産 の 取 得 等 が 困 難 である 理 由 取 得 期 限 として 指 定 を 受 けようとする 期 日 等 を 記 載 した 申 請 書 を 納 税 地 の 所 轄 税 務 署 長 に 提 出 し 所 轄 税 務 署 長 に 指 定 を 受 けた 日 までに 代 替 資 産 の 取 得 等 をする 場 合 は 圧 縮 記 帳 が 認 められます (3) 被 災 代 替 資 産 等 の 特 別 償 却 特 別 償 却 に 関 してよくある 質 問 当 社 は 被 災 地 に 工 場 を 有 する 3 月 決 算 の 中 小 企 業 法 人 です 東 日 本 大 震 災 により 石 巻 市 に 所 在 する 工 場 が 津 波 で 流 出 し 機 械 装 置 も 損 壊 しましたので 工 場 を 再 建 しようと 計 画 しています 新 工 場 を 被 災 した 工 場 の 跡 地 に 建 築 すれば 特 別 償 却 が できるそうですが 旧 工 場 は 低 地 にあるため 場 所 を 移 転 して 隣 町 に 代 わりの 工 場 を 建 築 する 予 定 です この 場 合 も 特 別 償 却 が 認 められますか 新 設 した 工 場 について 特 別 償 却 が 認 められます また 一 定 の 要 件 を 満 たせば 隣 町 に 限 らず 他 県 でも 特 別 償 却 が 認 められます < 震 災 特 例 法 により 創 設 された 制 度 の 概 要 > 平 成 23 年 3 月 11 日 から 平 成 28 年 3 月 31 日 までの 間 に 被 災 代 替 資 産 等 の 取 得 等 をして 事 業 の 用 に 供 した 場 合 には その 被 災 代 替 資 産 等 について 特 別 償 却 が 認 められます イメージ 図 被 災 代 替 資 産 等 の 取 得 価 額 < 償 却 前 > 普 通 償 却 限 度 額 特 別 償 却 限 度 額 償 却 限 度 額 償 却 後 の 帳 簿 価 額 < 償 却 後 > 4
< 被 災 代 替 資 産 等 とは> この 制 度 の 適 用 対 象 となる 被 災 代 替 資 産 等 とは 次 の 被 災 代 替 資 産 及 び 被 災 区 域 内 供 用 資 産 をいいます こ のように 東 日 本 大 震 災 の 被 災 企 業 はもとより 被 災 企 業 以 外 の 企 業 についても2の 要 件 を 満 たせば 被 災 地 に 投 資 する 資 産 について 特 別 償 却 が 認 められます 被 災 代 替 資 産 等 ( 新 品 に 限 る) 1 被 災 代 替 資 産 東 日 本 大 震 災 により 滅 失 又 は 損 壊 した 次 の 資 産 に 代 わるものとして 取 得 等 をして 事 業 の 用 に 供 した 資 産 で 被 災 した 資 産 の 滅 失 又 は 損 壊 の 直 前 の 用 途 と 同 一 の 用 途 に 供 されるもの 2 被 災 区 域 内 供 用 資 産 取 得 等 をして 被 災 区 域 内 において 事 業 の 用 に 供 した 次 の 資 産 a 建 物 (その 附 属 設 備 を 含 みます ) b 構 築 物 c 機 械 及 び 装 置 d 船 舶 航 空 機 又 は 車 両 及 び 運 搬 具 a 建 物 (その 附 属 設 備 を 含 みます ) b 構 築 物 c 機 械 及 び 装 置 < 特 別 償 却 限 度 額 の 計 算 > この 制 度 による 特 別 償 却 限 度 額 は 次 の 算 式 により 計 算 します 特 別 償 却 限 度 額 = 被 災 代 替 資 産 等 の 取 得 価 額 特 別 償 却 割 合 上 記 の 特 別 償 却 割 合 は 次 に 掲 げる 区 分 に 応 じ それぞれ 次 の 割 合 となります 減 価 償 却 資 産 建 物 又 は 構 築 物 ( 増 築 部 分 を 含 みます ) 特 別 償 却 割 合 取 得 等 の 時 期 中 小 企 業 者 等 その 他 の 法 人 H23.3.11~H26.3.31 18% 15% H26.4. 1~H28.3.31 12% 10% 機 械 及 び 装 置 船 舶 航 空 機 又 は 車 両 及 び 運 搬 具 H23.3.11~H26.3.31 36% 30% H26.4. 1~H28.3.31 24% 20% 5
(4) 被 災 者 生 活 再 建 支 援 金 の 税 務 上 の 取 り 扱 いの 変 更 個 人 の 方 からよくある 質 問 被 災 者 生 活 再 建 支 援 金 に 関 する 税 務 上 の 取 り 扱 いが 変 更 されたと 聞 きましたが その 内 容 に ついて 教 えてください 平 成 19 年 改 正 後 の 被 災 者 生 活 再 建 支 援 法 に 基 づく 被 災 者 生 活 再 建 支 援 金 については これまで 住 宅 や 家 財 に 生 じた 損 失 を 補 填 するものに 該 当 すると 判 断 して 所 得 税 の 雑 損 控 除 の 金 額 の 計 算 上 損 失 の 金 額 から 控 除 する こととしていたところですが 今 般 その 税 務 上 の 取 扱 いを 見 直 し 雑 損 控 除 の 損 失 の 金 額 から 控 除 しないもの と 取 り 扱 うことになりました さらに 平 成 19 年 改 正 後 の 被 災 者 生 活 再 建 支 援 法 に 基 づき 東 日 本 大 震 災 以 外 の 災 害 により 支 給 された 被 災 者 生 活 再 建 支 援 金 についても 遡 って 取 扱 いを 変 更 することとされました これは 被 災 地 の 実 情 に 合 った 望 ましい 変 更 といえます 今 後 新 たに 雑 損 控 除 を 適 用 し 確 定 申 告 書 などを 提 出 される 方 につきましては 見 直 し 後 の 取 扱 いによること になりますのでご 注 意 ください また 既 に 東 日 本 大 震 災 に 係 る 雑 損 控 除 の 損 失 の 金 額 から 被 災 者 生 活 再 建 支 援 金 を 控 除 して 確 定 申 告 書 を 提 出 された 方 については この 取 扱 いの 見 直 しにより 雑 損 控 除 の 金 額 が 増 加 することになり 翌 年 に 繰 り 越 す 損 失 額 が 増 加 する 場 合 や 所 得 税 が 還 付 される 場 合 があります この 場 合 の 雑 損 控 除 の 金 額 の 見 直 しは 平 成 23 年 分 の 確 定 申 告 期 間 が 終 了 した 平 成 24 年 5 月 以 降 に 税 務 署 側 で 作 業 を 開 始 します 税 務 署 の 作 業 が 完 了 次 第 見 直 しに 関 する 案 内 が 届 きますので 納 税 者 には 追 加 の 申 告 等 の 手 続 は 求 められないこととなっています 一 般 的 な 雑 損 控 除 の 金 額 の 計 算 損 失 の 額 - 保 険 金 等 により 補 てんされる 部 分 の 額 - ( 所 得 金 額 10%) ( 被 災 者 生 活 再 建 支 援 金 ) 雑 損 控 除 の 損 失 の 金 額 から 控 除 しない!! 翌 年 に 繰 り 越 す 損 失 額 が 増 加 所 得 税 が 還 付 6