平 成 24 年 6 月 13 日 東 京 弁 護 士 会 平 成 24 年 度 春 季 労 働 法 専 門 講 座 労 働 事 件 解 決 の 過 程 で 社 会 保 険 労 働 保 険 はどうなるのか 場 所 ; 弁 護 士 会 館 3 階 301 会 議 室 時 間 ;18:00~20:00 講 師 鳥 井 玲 子 ( 特 定 社 会 保 険 労 務 士 ) 1
はじめに 労 働 事 件 特 に 解 雇 退 職 の 場 合 事 件 解 決 過 程 で 社 会 保 険 労 働 保 険 の 扱 いが 問 題 となることがあります 例 えば 解 雇 が 無 効 となった 場 合 に 一 度 喪 失 した 厚 生 年 金 保 険 や 健 康 保 険 の 資 格 はどうなるのか 解 雇 退 職 が 争 われている 期 間 中 診 療 等 を 受 けた 場 合 全 額 自 己 負 担 になるのか といった 問 題 です また 社 会 保 険 料 等 は 賃 金 ( 報 酬 )を 基 礎 として 算 定 しますので 賃 金 の 引 下 げ は 同 時 に 社 会 保 険 料 等 の 引 き 下 げを 意 味 し 場 合 によっては これが 給 付 に 影 響 することもあります このほか 退 職 事 由 によって 雇 用 保 険 の 基 本 手 当 の 受 給 内 容 に 違 いがでる 業 務 上 災 害 の 認 定 中 の 健 康 保 険 適 用 の 有 無 等 労 働 事 件 と 社 会 保 険 労 働 保 険 は 密 接 な 関 係 にあります これら 労 働 事 件 解 決 の 過 程 における 社 会 保 険 労 働 保 険 の 扱 いについて 社 会 保 険 労 働 保 険 に 関 する 基 礎 知 識 を 交 えながら 実 務 的 対 応 を 解 説 していきたいと 思 い ます 第 1 社 会 保 険 労 働 保 険 について 1. 社 会 保 険 労 働 保 険 とは (1) 社 会 保 険 通 常 社 会 保 険 とは 医 療 保 険 介 護 保 険 年 金 保 険 及 び 労 働 保 険 を 指 します が( 広 義 には 労 働 保 険 も 社 会 保 険 に 含 まれます) 今 回 は 労 働 保 険 とその 他 の 社 会 保 険 は 分 けることと 致 します また 社 会 保 険 の 中 でも 医 療 保 険 と 年 金 特 に 労 使 関 係 に 影 響 の 大 きい 健 康 保 険 と 厚 生 年 金 保 険 を 中 心 に 解 説 してまいります 以 降 便 宜 上 特 に 記 載 がない 限 り 健 康 保 険 と 厚 生 年 金 保 険 の 総 称 を 社 会 保 険 と 呼 ぶことにします (2) 労 働 保 険 労 働 保 険 とは 労 災 保 険 及 び 雇 用 保 険 を 指 します 2. 加 入 要 件 ( 被 保 険 者 要 件 及 び 被 扶 養 者 要 件 ) (1) 健 康 保 険 健 康 保 険 法 において 被 保 険 者 とは 適 用 事 業 所 に 使 用 される 者 及 び 任 意 継 続 被 保 険 者 をいいます ただし 日 々 雇 い 入 れられる 者 や2 月 以 内 の 期 間 を 定 めて 使 用 される 者 75 歳 以 上 の 者 などの 適 用 除 外 者 に 該 当 する 場 合 は 日 雇 特 例 被 保 険 者 となる 場 合 を 除 き 被 保 険 者 となりません( 健 康 保 険 法 第 3 条 ) なお パートタイム 労 働 者 など 労 働 時 間 や 日 数 が 通 常 の 労 働 者 に 比 し 短 い 労 働 者 2
については 週 の 所 定 労 働 時 間 が 通 常 の 労 働 者 の 所 定 労 働 時 間 の4 分 の3 以 上 か つ 所 定 労 働 日 数 も4 分 の3 以 上 の 場 合 に 健 康 保 険 に 加 入 させなければならないと いう 実 運 用 があります(いわゆる4 分 の3ルール) 参 考 健 康 保 険 の 適 用 事 業 所.. 健 康 保 険 の 適 用 事 業 所 は 次 の1~4 以 外 の 事 業 所 で 常 時 使 用 する 労 働 者 が5 人 以 上 の 事 業 所 及 び 法 人 の 事 業 所 である 1 2 3 4 農 業 畜 産 業 水 産 業 林 業 等 第 1 次 産 業 料 理 店 飲 食 店 旅 館 接 客 業 娯 楽 業 理 容 業 等 サービス 業 弁 護 士 会 計 士 税 理 士 のような 法 務 及 び 専 門 サービス 業 神 社 寺 院 教 会 等 宗 務 業 ( 宗 教 法 人 を 除 く ) 適 用 事 業 所 以 外 の 事 業 所 でも 厚 生 労 働 大 臣 の 認 可 をうければ 適 用 事 業 所 となることができる 任 意 継 続 被 保 険 者 被 保 険 者 ( 日 雇 特 例 被 保 険 者 を 除 く )が 退 職 等 で 被 保 険 者 資 格 を 喪 失 した 後 であっても 一 定 の 要 件 に 該 当 する 場 合 には 継 続 して 被 保 険 者 となることができる( 任 意 継 続 被 保 険 者 となるには 資 格 喪 失 から 原 則 として 20 日 以 内 に 申 出 をしなければならず 2 年 を 経 過 したときは その 日 の 翌 日 に 資 格 を 喪 失 する ) 被 扶 養 者 制 度 健 康 保 険 法 には 被 扶 養 者 制 度 があり 被 扶 養 者 とは 次 に 掲 げる 者 をいう (1) 被 保 険 者 の 直 系 尊 属 配 偶 者 ( 事 実 上 婚 含 む 以 下 同 じ ) 子 孫 及 び 弟 妹 であって 主 として その 被 保 険 者 により 生 計 を 維 持 するもの (2) 被 保 険 者 の3 親 等 内 の 親 族 で(1)に 掲 げる 者 以 外 のものであって その 被 保 険 者 と 同 一 の 世 帯 に 属 し 主 としてその 被 保 険 者 により 生 計 を 維 持 するもの (3) 被 保 険 者 の 配 偶 者 で 届 出 をしていないが 事 実 上 婚 姻 関 係 と 同 様 の 事 情 にあるものの 父 母 及 び 子 で あって その 被 保 険 者 と 同 一 の 世 帯 に 属 し 主 としてその 被 保 険 者 により 生 計 を 維 持 するもの (4)(3)の 配 偶 者 の 死 亡 後 におけるその 父 母 及 び 子 であって 引 き 続 きその 被 保 険 者 と 同 一 の 世 帯 に 属 し 主 としてその 被 保 険 者 により 生 計 を 維 持 するもの 主 として 被 保 険 者 により 生 計 を 維 持 する とは 通 常 次 のような 場 合 を 指 す 1 同 一 世 帯 の 場 合 認 定 対 象 者 の 年 収 が130 万 円 未 満 ( 一 定 障 害 者 又 は60 歳 以 上 の 者 の 場 合 には180 万 円 未 満 )であ って かつ 被 保 険 者 の 年 収 の2 分 の1 未 満 であること 2 同 一 世 帯 に 属 していない 場 合 認 定 対 象 者 の 年 収 が130 万 円 未 満 ( 一 定 障 害 者 又 は60 歳 以 上 の 者 の 場 合 には180 万 円 未 満 )であ って かつ 被 保 険 者 の 仕 送 り 額 より 少 ない 場 合 3
(2) 厚 生 年 金 保 険 厚 生 年 金 保 険 は 健 康 保 険 と 同 様 に 事 業 所 を 単 位 として 適 用 され 適 用 事 業 所 に 使 用 される70 歳 未 満 の 者 が 被 保 険 者 ( 当 然 被 保 険 者 )となります ) 厚 生 年 金 保 険 の 適 用 事 業 所 は 健 康 保 険 の 適 用 事 業 所 と 概 ね 同 じですが 船 舶 が 適 用 事 業 とされる 点 等 が 異 なります なお 原 則 として 厚 生 年 金 保 険 の65 歳 未 満 の 被 保 険 者 は 厚 生 年 金 の 被 保 険 者 であると 同 時 に 国 民 年 金 の 第 2 号 被 保 険 者 となります 厚 生 年 金 保 険 の 被 保 険 者 資 格 を 喪 失 すると 国 民 年 金 の 第 2 号 被 保 険 者 資 格 も 同 時 に 喪 失 することになり ますので 60 歳 未 満 の 場 合 には 通 常 国 民 年 金 の 第 1 号 被 保 険 者 または 第 3 号 被 保 険 者 となります 参 考 日 本 の 年 金 制 度 の 概 要 < 年 金 制 度 の 体 系 > 我 が 国 の 年 金 制 度 は 全 国 民 に 共 通 した 国 民 年 金 ( 基 礎 年 金 ) を 基 礎 に 被 用 者 年 金 を 上 乗 せし た2 階 建 ての 体 系 となっている < 解 説 > 1 階 部 分 全 国 民 に 共 通 した 国 民 年 金 ( 基 礎 年 金 ) すべての 国 民 が 国 民 年 金 制 度 に 加 入 し すべての 国 民 年 金 制 度 者 に 共 通 に 給 付 される 年 金 を 基 礎 年 金 という 2 階 部 分 国 民 年 金 の 上 乗 せとして 報 酬 比 例 の 年 金 を 支 給 する 被 用 者 年 金 ( 厚 生 年 金 保 険 共 済 年 金 等 1) 自 営 業 者 や 農 業 者 は 国 民 年 金 のみに 加 入 するが 民 間 の 被 用 者 は 国 民 年 金 に 加 えて 厚 生 年 金 保 険 に も 公 務 員 等 は 国 民 年 金 に 加 えて 共 済 年 金 にも 加 入 する 民 間 企 業 の 被 用 者 は 厚 生 年 金 基 金 や 確 定 給 付 企 業 年 金 などの 企 業 年 金 に 加 入 している 場 合 もある 1 被 用 者 年 金 各 法 とは 1 厚 生 年 金 保 険 法 2 国 家 公 務 員 共 済 組 合 法 3 地 方 公 務 員 等 共 済 組 合 法 4 私 立 学 校 教 職 員 共 済 法 をいう 厚 生 年 金 保 険 共 済 組 合 国 民 年 金 ( 基 礎 年 金 ) 国 民 年 金 第 1 号 被 保 険 者 自 営 業 者 学 生 等 国 民 年 金 第 3 号 被 保 険 者 第 2 号 被 保 険 者 の 被 扶 養 配 偶 者 国 民 年 金 第 2 号 被 保 険 者 サラリーマン 公 務 員 等 4
(3) 労 災 保 険 労 災 保 険 は 労 働 者 を 使 用 する 事 業 に 適 用 されます 原 則 一 人 でも 労 働 者 を 使 用 すれば 適 用 事 業 となりますが 国 の 直 営 事 業 非 現 状 の 官 公 署 等 は 適 用 除 外 と され 農 林 水 産 業 の 一 部 については 強 制 適 用 ではなく 暫 定 的 に 任 意 適 用 とされ ています( 労 災 保 険 法 第 3 条 第 1 項 ) また 労 働 者 でない 者 や 転 勤 等 で 海 外 の 事 業 所 に 派 遣 された 者 でも 要 件 に 該 当 すれば 加 入 できる 特 別 加 入 制 度 があります 参 考 特 別 加 入 制 度 労 災 保 険 の 特 別 加 入 には 次 の3 種 類 があります 中 小 事 業 主 等 ( 第 1 種 特 別 加 入 者 ) 1 中 小 企 業 の 事 業 主 であること 2 労 働 保 険 事 務 組 合 に 事 務 処 理 を 委 託 する 事 業 主 であること 一 人 親 方 その 他 の 自 営 業 者 ( 第 2 種 特 別 加 入 者 ) 一 人 親 方 その 他 の 自 営 業 者 に 該 当 する 人 は ほかに 労 働 者 を 使 用 しないで 仕 事 をする 人 で 下 記 の 事 業 を 行 なう 者 自 動 車 を 使 用 して 行 う 旅 客 又 は 貨 物 運 送 の 事 業 個 人 タクシー 個 人 貨 物 運 送 業 者 等 大 工 左 官 とび 等 の 建 設 業 漁 船 による 漁 業 ( 産 動 植 物 の 採 捕 ) 林 業 医 薬 品 の 配 置 販 売 業 いわゆる 薬 売 り 再 生 利 用 の 目 的 となる 廃 棄 物 等 の 収 集 運 搬 選 別 解 体 等 の 事 業 海 外 派 遣 者 ( 第 3 種 特 別 加 入 者 ) 特 別 加 入 の 対 象 となる 海 外 派 遣 者 とは 具 体 的 には 次 のような 者 国 際 協 力 事 業 団 等 技 術 協 力 を 行 なう 団 体 から 派 遣 されている 人 日 本 国 内 の 会 社 から 海 外 において 行 なわれる 事 業 に 派 遣 されている 人 なお 転 勤 等 ではなく 海 外 出 張 で 災 害 にあったときは 特 別 加 入 していなくても 国 内 出 張 に 準 じ た 扱 いで 労 災 が 適 用 される (4) 雇 用 保 険 雇 用 保 険 法 において 被 保 険 者 とは 適 用 事 業 に 雇 用 される 労 働 者 をいい 適 用 除 外 (65 歳 になって 新 たに 雇 用 される 等 )に 該 当 しない 限 り 被 保 険 者 となります なお パートタイム 労 働 者 など 労 働 時 間 や 日 数 が 通 常 の 労 働 者 に 比 し 短 い 労 働 者 に ついては 次 の1 及 び2 いずれの 要 件 も 満 たした 場 合 に 被 保 険 者 となります 5
1 31 日 以 上 引 き 続 き 雇 用 されることが 見 込 まれる 者 であること 具 体 的 には 次 のいずれかに 該 当 する 場 合 をいいます 期 間 の 定 めがなく 雇 用 される 場 合 雇 用 期 間 が31 日 以 上 である 場 合 雇 用 契 約 に 更 新 規 定 があり 31 日 未 満 での 雇 止 めの 明 示 がない 場 合 雇 用 契 約 に 更 新 規 定 はないが 同 様 の 雇 用 契 約 により 雇 用 された 労 働 者 が31 日 以 上 雇 用 された 実 績 がある 場 合 ( ) ( ) 当 初 の 雇 入 時 には31 日 以 上 雇 用 されることが 見 込 まれない 場 合 であってもそ の 後 31 日 以 上 雇 用 されることが 見 込 まれることとなった 場 合 には その 時 点 から 雇 用 保 険 が 適 用 されます 2 1 週 間 の 所 定 労 働 時 間 が 20 時 間 以 上 であること 3. 保 険 料 等 について 労 働 保 険 及 び 社 会 保 険 は 労 働 者 の 賃 金 ( 社 会 保 険 の 場 合 は 報 酬 と 呼 びます)に 基 づき 保 険 料 が 徴 収 され 原 則 これをもとに 現 金 給 付 が 支 給 されます( 一 部 の 給 付 を 除 く) したがって 賃 金 が 上 げ 下 げが 保 険 給 付 ( 給 付 )の 引 き 影 響 する 場 合 があります 参 考 各 保 険 の 給 付 の 基 礎 となる 賃 金 ( 報 酬 ) 労 災 保 険 ( 給 付 基 礎 日 額 ) 原 則 労 基 法 の 平 均 賃 金 ( ) 相 当 額 ( ) 平 均 賃 金 ( 原 則 ):これを 算 定 すべき 事 由 の 発 生 した 日 以 前 三 箇 月 間 にその 労 働 者 に 対 し 支 払 われた 賃 金 の 総 額 を その 期 間 の 総 日 数 で 除 した 金 額 ( 労 基 法 12 条 ) 雇 用 保 険 ( 例 : 基 本 手 当 の 場 合 ) 賃 金 日 額 ( ) 45%~80% ( ) 離 職 日 以 前 6 カ 月 間 に 支 払 われた 賃 金 総 額 180 健 康 保 険 ( 例 : 傷 病 手 当 金 の 場 合 ) 標 準 賃 金 日 額 ( 標 準 報 酬 月 額 ( ) 30) ( ) 被 保 険 者 が 受 ける 報 酬 は 千 差 万 別 であるため 事 務 を 簡 略 化 するため 何 階 級 かの 仮 定 的 な 報 酬 を 定 めて その 枠 内 に 現 実 に 支 給 される 報 酬 をあてはめることとしている 現 在 これによって 定 められている 標 準 報 酬 は 第 1 級 (5 万 8,000 円 )から 第 47 級 (121 万 円 )までに 区 分 されている なお 標 準 賞 与 額 は 年 度 累 計 540 万 円 を 上 限 として 1,000 円 未 満 の 端 数 を 切 り 捨 てた 額 となる 6
厚 生 年 金 保 険 ( 例 : 老 齢 厚 生 年 金 の 場 合 : 原 則 の 場 合 ) 平 均 標 準 報 酬 月 額 ( 注 1) 7.125/1000 平 成 15 年 3 月 までの 被 保 険 者 期 間 の 月 数 合 算 平 均 標 準 報 酬 額 ( 注 2) 5.481/1000 平 成 15 年 4 月 以 後 の 被 保 険 者 期 間 の 月 数 ( ) 厚 生 年 金 保 険 の 標 準 報 酬 は 第 1 級 (9 万 8,000 円 )から 第 30 級 (62 万 円 )まで に 区 分 されており 標 準 賞 与 額 は 年 度 累 計 150 万 円 を 上 限 として 1,000 円 未 満 の 端 数 を 切 り 捨 てた 額 となる ( 注 1) H15 年 3 月 以 前 の 被 保 険 者 期 間 の 標 準 報 酬 月 額 再 評 価 率 )の 総 額 H15 年 3 月 以 前 の 総 被 保 険 者 月 数 ( 注 2) H15 年 4 月 以 後 の 被 保 険 者 期 間 の 標 準 報 酬 月 額 + 標 準 賞 与 額 再 評 価 率 }の 総 額 H15 年 4 月 以 後 の 総 被 保 険 者 月 数 7
第 2 解 雇 退 職 の 場 合 の 社 会 保 険 労 働 保 険 の 扱 い( 資 格 喪 失 と 遡 及 適 用 ) 1. 資 格 喪 失 解 雇 や 退 職 の 場 合 通 常 は 雇 用 保 険 ( 翌 月 10 日 まで) 健 康 保 険 ( 喪 失 後 5 日 以 内 ) 及 び 厚 生 年 金 保 険 ( 原 則 喪 失 後 5 日 以 内 )について 夫 々 期 日 までに 事 業 主 が 資 格 喪 失 届 を 提 出 します 公 共 職 業 安 定 所 ( 雇 用 保 険 ) 及 び 年 金 事 務 所 ( 健 康 保 険 及 び 厚 生 年 金 保 険 )は この 届 出 に 基 づき 喪 失 手 続 を 行 いますので 例 えば 裁 判 所 へ の 仮 処 分 申 請 が 行 われていたとしても 喪 失 届 が 提 出 されれば これらの 資 格 は 一 度 喪 失 することになります( 参 考 通 達 参 照 ) 2. 解 雇 退 職 後 の 社 会 保 険 の 扱 い 健 康 保 険 及 び 厚 生 年 金 保 険 の 資 格 を 喪 失 した 場 合 通 常 次 のア.イ.の 扱 いと なります もっとも 多 いパターンは 医 療 保 険 は 健 康 保 険 から 国 民 健 康 保 険 に 変 わり 年 金 は 国 民 年 金 第 1 号 被 保 険 者 になる というものです なお 後 述 いたしますが 後 に 解 雇 無 効 の 判 定 がなされた 場 合 には 保 険 料 の 還 付 保 険 給 付 の 支 給 などが 発 生 します (1) 健 康 保 険 日 本 は 国 民 皆 保 険 制 度 ですので 健 康 保 険 の 資 格 を 喪 失 した 場 合 には 継 続 す る 場 合 を 除 き 他 の 公 的 医 療 保 険 に 加 入 することになります 資 格 喪 失 後 の 選 択 肢 としては 次 のようなものがあります 1 加 入 していた 健 康 保 険 を 任 意 継 続 する( 任 意 継 続 被 保 険 者 となる 2 年 ) 2 配 偶 者 等 の 健 康 保 険 の 被 扶 養 者 となる 3 国 民 健 康 保 険 の 被 保 険 者 となる (2) 年 金 厚 生 年 金 保 険 の 被 保 険 者 資 格 を 喪 失 した 場 合 60 歳 未 満 であれば 原 則 国 民 年 金 の 第 1 号 被 保 険 者 となります 配 偶 者 等 の 被 扶 養 配 偶 者 となった 場 合 には 国 民 年 金 の 第 3 号 被 保 険 者 となります(60 歳 未 満 の 場 合 のみ) なお 第 1 号 被 保 険 者 につ いては 保 険 料 を 個 人 で 納 付 しなくてはならなくなります( 第 3 号 は 不 要 ) 3. 解 雇 無 効 となった 場 合 裁 判 所 が 解 雇 無 効 を 判 定 し その 効 力 が 発 生 した 場 合 には 資 格 喪 失 処 分 が 取 り 消 さ れます この 間 国 民 健 康 保 険 の 被 保 険 者 となっていた 場 合 には 解 雇 無 効 の 効 力 発 生 までに 支 払 われた 国 民 健 康 保 険 料 の 還 付 と 受 けた 保 険 給 付 があれば その 清 算 をするこ とになります(あわせて 健 康 保 険 への 保 険 料 の 支 払 いと 保 険 給 付 の 請 求 をすることにな ります) 国 民 健 康 保 険 に 加 入 せず 自 費 で 診 療 を 受 けた 場 合 には この 間 の 健 康 保 険 の 保 険 料 が 徴 収 され 診 療 費 等 が 支 給 されることになります なお 健 康 保 険 の 保 険 料 は 事 業 主 分 被 保 険 者 分 いずれも 徴 収 されます 8
年 金 の 場 合 も 国 民 年 金 の1 号 被 保 険 者 として 保 険 料 を 支 払 った 場 合 には これが 還 付 され 厚 生 年 金 保 険 料 が 徴 収 されます( 事 業 主 本 人 分 ともに)( 参 考 通 達 参 照 ) なお 通 常 届 出 漏 れ 等 の 場 合 には 保 険 料 の 徴 収 権 の 時 効 が2 年 であることから 遡 及 できる 期 間 は2 年 となりますが 裁 判 所 が 解 雇 無 効 を 判 定 した 場 合 は 雇 用 保 険 社 会 保 険 いずれの 場 合 も このような 制 限 はなく 運 用 されているようです 参 考 解 雇 の 効 力 につき 係 争 中 の 場 合 における 健 康 保 険 等 の 取 扱 について ( 昭 和 25 年 10 月 9 日, 保 発 第 68 号 各 都 道 府 県 知 事 あて 厚 生 省 保 険 局 長 通 知 ) 最 近 企 業 合 理 化 を 行 う 事 業 や 新 聞 報 道 関 係 等 において 解 雇 が 行 われているが これに 関 して 労 資 双 方 の 意 見 が 対 立 し 被 保 険 者 資 格 の 喪 失 について 疑 義 を 生 じた 場 合 においては 左 記 によって 取 り 扱 うこととなっ たので 通 知 する 記 1 解 雇 行 為 が 労 働 法 規 又 は 労 働 協 約 に 違 反 することが 明 らかな 場 合 を 除 いて 事 業 主 より 健 康 保 険 法 施 行 規 則 第 十 条 第 二 項 の 規 定 による 被 保 険 者 資 格 喪 失 届 の 提 出 があつたときは 当 該 事 件 につき 労 働 委 員 会 に 対 して 不 当 労 働 行 為 に 関 する 申 立 ( 労 働 組 合 法 第 二 十 七 条 ) 斡 旋 ( 労 働 関 係 調 整 法 第 十 条 乃 至 第 十 六 条 ) 調 停 ( 労 働 関 係 調 整 法 第 十 七 条 乃 至 第 二 十 八 条 ) 若 しくは 仲 裁 ( 労 働 関 係 調 整 法 第 二 十 九 条 乃 至 第 三 十 五 条 ) の 手 続 がなされ 又 は 裁 判 所 に 対 する 訴 の 提 起 若 しくは 仮 処 分 の 申 請 中 であっても 一 応 資 格 を 喪 失 した ものとしてこれを 受 理 し 被 保 険 者 証 の 回 収 ( 回 収 不 能 の 場 合 は 被 保 険 者 証 無 効 の 公 示 をなすこと ) 等 所 定 の 手 続 をなすこと 右 労 働 法 規 又 は 協 約 違 反 の 有 無 について 各 保 険 者 が 一 方 的 にこれを 認 定 することは 困 難 且 つ 不 適 当 であ るから 当 該 保 険 者 においては 労 働 関 係 主 管 当 局 の 意 見 を 聞 く 等 により 事 件 結 着 の 見 透 しを 慎 重 検 討 の 上 処 理 すること なお 本 年 七 月 十 八 日 付 マッカーサー 書 簡 の 趣 旨 に 基 き 新 聞 等 報 道 関 係 において 行 われた 解 雇 は 労 働 法 規 又 は 協 約 に 違 反 しないものとしてこれを 取 り 扱 うこと なお 解 雇 された 被 保 険 者 で 被 保 険 者 証 を 事 業 主 に 返 還 しないものに 対 しては 不 当 使 用 の 際 には 詐 欺 罪 として 処 罰 される 旨 の 警 告 をなさしめること 2 右 の 場 合 において 労 働 委 員 会 又 は 裁 判 所 が 解 雇 無 効 の 判 定 をなし 且 つ その 効 力 が 発 生 したときは 当 該 判 定 に 従 い 遡 及 して 資 格 喪 失 の 処 理 を 取 り 消 し 被 保 険 者 証 を 事 業 主 に 返 付 すること 3 右 の 場 合 において 解 雇 無 効 の 効 力 が 発 生 するまでの 間 資 格 喪 失 の 取 扱 のため 自 費 で 診 療 を 受 けてい た 者 に 対 しては 療 養 の 給 付 をなすことが 困 難 であつたものとして その 診 療 に 要 した 費 用 は 療 養 費 とし て 支 給 し その 他 現 金 給 付 についても 遡 って 支 給 すると 共 に 保 険 料 もこれを 徴 収 すること 4 第 1 項 の 申 立 又 は 仮 処 分 の 申 請 に 対 する 暫 定 的 決 定 が 本 裁 判 において 無 効 となり 解 雇 が 遡 って 成 立 した 場 合 には すでになされた 保 険 給 付 は 被 保 険 者 から 返 還 されることとし 又 徴 収 済 保 険 料 は 事 業 主 か らの 還 付 請 求 に 基 いて 還 付 手 続 をなすこと (4) 解 雇 の 効 力 等 に 争 いがある 場 合 の 雇 用 保 険 の 扱 い( 基 本 手 当 の 仮 給 付 ) 5 厚 生 年 金 保 険 における 取 扱 についても 右 に 準 じて 適 切 な 措 置 を 取 ること 9
裁 判 所 労 働 委 員 会 等 に 提 訴 申 立 て 提 訴 又 は 地 位 保 全 若 しくは 賃 金 支 払 いの 仮 処 分 ( 以 下 仮 処 分 という)の 申 請 又 は 申 告 をし その 効 力 を 争 っている 場 合 には 労 働 者 保 護 の 観 点 から 解 雇 等 に 争 いがある 場 合 における 措 置 として 一 定 の 場 合 に 限 って 資 格 喪 失 の 確 認 を 行 い これに 基 づき 基 本 手 当 等 を 支 給 することとされて います この 取 扱 いは 解 雇 の 効 力 につき 疑 いがある 場 合 にそれについて 確 定 するまで 資 格 喪 失 の 確 認 を 行 わないことの 例 外 として 行 うものですので 単 に 解 雇 不 服 等 事 実 上 の 争 いがある 場 合 には 対 象 とされません 解 雇 の 効 力 等 について 争 っている 受 給 資 格 者 は 管 轄 公 共 職 業 安 定 所 で 係 争 中 であることを 証 明 するもの( 事 件 係 属 証 明 書 仮 処 分 申 立 書 のコピー 等 )+ 賃 金 等 の 支 払 を 受 けた 場 合 には 保 険 給 付 を 返 還 することを 約 した 確 認 書 面 等 を 提 出 し 基 本 手 当 の 仮 給 付 を 受 けることができます(この 扱 いは 事 業 主 から 離 職 証 明 書 を 添 えて 資 格 喪 失 届 の 提 出 があった 場 合 又 は 被 保 険 者 から 確 認 請 求 があった 場 合 に 行 わ れ 職 権 による 資 格 喪 失 の 確 認 は 行 われません なお 事 業 主 が 資 格 喪 失 届 に 離 職 証 明 書 を 添 えないで 提 出 した 場 合 は 被 保 険 者 が 離 職 証 明 書 を 提 出 するまでは 資 格 喪 失 の 確 認 は 保 留 されます) 事 業 主 が 行 った 解 雇 理 由 を 不 当 として 申 立 て 又 は 提 訴 を 行 っている 場 合 には 裁 判 所 又 は 労 働 委 員 会 がその 解 雇 理 由 を 判 定 する 旨 の 命 令 又 は 判 決 が 確 定 しない 限 り 離 職 票 に 記 載 された 離 職 理 由 によって 所 定 の 給 付 制 限 がなされ 特 定 受 給 資 格 者 には 該 当 しない 等 の 扱 いとすることとされています 手 続 事 務 の 流 れ( 資 格 喪 失 関 係 ) 1 資 格 喪 失 届 ( 事 実 のあった 日 の 翌 日 起 算 10 日 以 内 ) + 離 職 証 明 書 所 轄 公 共 職 業 安 定 所 長 2 離 職 票 ( 事 業 主 通 じて 交 付 可 ) 3 求 職 の 申 込 み ( 離 職 票 + 本 人 確 認 書 類 ) 住 所 地 管 轄 公 共 職 業 安 定 所 長 4 受 給 資 格 者 証 交 付 5 受 給 資 格 者 証 + 失 業 認 定 申 告 書 事 業 主 失 業 者 ( 受 給 資 格 者 ) 10
第 3 その 他 労 働 紛 争 における 社 会 保 険 労 働 保 険 に 関 する 留 意 点 1. 基 本 手 当 ( 雇 用 保 険 )の 受 給 と 離 職 理 由 (1) 特 定 受 給 資 格 者 及 び 特 定 理 由 離 職 者 とは 特 定 受 給 資 格 者 とは 倒 産 解 雇 等 により 再 就 職 の 準 備 をする 時 間 的 余 裕 なく 離 職 を 余 儀 なくされた 者 ( 具 体 的 には 別 紙 (1) 特 定 受 給 資 格 者 及 び 特 定 理 由 離 職 者 の 範 囲 と 判 断 基 準 をご 確 認 下 さい 特 定 理 由 離 職 者 も 同 じ)を 言 います 一 方 特 定 理 由 離 職 者 とは 特 定 受 給 資 格 者 以 外 の 者 であって 期 間 の 定 めのある 労 働 契 約 が 更 新 されなかったことその 他 やむを 得 ない 理 由 により 離 職 した 者 を 言 い ます (2) 特 定 受 給 資 格 者 及 び 特 定 理 由 離 職 者 に 該 当 した 場 合 特 定 受 給 資 格 者 及 び 特 定 理 由 離 職 者 に 該 当 した 場 合 には 次 の1 及 び2のような 扱 いがなされます 1 基 本 手 当 の 受 給 資 格 を 得 るには 通 常 被 保 険 者 期 間 が12 ヶ 月 以 上 ( 離 職 日 以 前 2 年 間 に) 必 要 ですが 被 保 険 者 期 間 が12 ヶ 月 以 上 ( 離 職 日 以 前 2 年 間 間 に)なくても6ヵ 月 ( 離 職 日 以 前 1 年 間 ) 以 上 あれば 受 給 資 格 を 得 る ことができる 2 基 本 手 当 の 所 定 給 付 日 数 が 手 厚 くなる 場 合 がある 3 給 付 制 限 がかからない 4 延 長 給 付 ( 個 別 延 長 給 付 )の 対 象 となる 場 合 がある 2. 労 災 申 請 中 の 健 康 保 険 の 適 用 傷 病 で 休 職 中 の 労 働 者 などから 労 災 申 請 を 考 えているが 労 災 申 請 をすると 審 査 期 間 中 等 は 健 康 保 険 を 使 って 治 療 を 受 けたり 傷 病 手 当 金 を 受 給 したりでき なくなるのか というご 質 問 をよく 受 けます 健 康 保 険 法 の 通 達 では 業 務 上 の 傷 病 として 労 働 基 準 監 督 署 に 認 定 を 申 請 中 の 期 間 は 一 応 業 務 上 の 取 扱 いをし 最 終 的 に 業 務 上 の 傷 病 でないと 認 定 され 健 康 保 険 による 業 務 外 と 認 定 された 場 合 には 遡 って 療 養 費 傷 病 手 当 金 等 の 給 付 が 行 わ れる ( 昭 和 28.4.9 保 文 発 2014 号 )として まず 労 基 署 に 申 請 業 務 外 ならば 健 康 保 険 との 順 序 で 手 続 きを 踏 むことを 建 前 としています しかし 労 働 基 準 監 督 署 へ 労 災 の 申 請 をしても その 後 の 審 査 に6ヶ 月 程 度 かか る 場 合 もあり 実 態 としては 健 康 保 険 の 給 付 ( 療 養 給 付 や 傷 病 手 当 金 の 支 給 )を 受 けつつ その 後 労 災 の 申 請 をして 結 果 として 業 務 上 災 害 であると 判 断 された 場 合 には 協 会 けんぽであれ 組 合 健 保 であれ 健 康 保 険 から 受 けた 傷 病 手 当 金 等 に ついて 返 金 する というケースが 多 いと 思 われます なお 健 康 保 険 の 傷 病 手 当 金 は 一 定 要 件 に 該 当 すれば 退 職 した 場 合 でも 引 き 続 き 受 給 可 能 です( 詳 細 は 参 考 参 照 ) 11
参 考 傷 病 手 当 金 の 支 給 要 件 被 保 険 者 が 療 養 のため 労 務 に 服 することができないときは その 労 務 に 服 することができなくなった 日 から 起 算 して3 日 を 経 過 した 日 から 労 務 に 服 することができない 期 間 傷 病 手 当 金 として 1 日 に つき 標 準 報 酬 日 額 ( 標 準 報 酬 月 額 の30 分 の1に 相 当 する 額 (その 額 に 5 円 未 満 の 端 数 があるときは これを 切 り 捨 てるものとし 5 円 以 上 10 円 未 満 の 端 数 があるときはこれを10 円 に 切 り 上 げるものと する )をいう)の3 分 の2に 相 当 する 金 額 を 支 給 される 傷 病 手 当 金 の 支 給 期 間 は 同 一 の 疾 病 又 は 負 傷 及 びこれにより 発 した 疾 病 に 関 しては その 支 給 を 始 め た 日 から 起 算 して1 年 6 月 ( 歴 月 )が 限 度 となる ただし 次 の1~3に 該 当 する 場 合 は 傷 病 手 当 金 の 支 給 額 が 調 整 される 1 事 業 主 から 報 酬 の 支 給 を 受 けた 場 合 2 同 一 の 傷 病 により 障 害 厚 生 年 金 を 受 けている 場 合 ( 同 一 の 傷 病 による 国 民 年 金 の 障 害 基 礎 年 金 を 受 け るときは その 合 算 額 ) 3 退 職 後 老 齢 厚 生 年 金 や 老 齢 基 礎 年 金 又 は 退 職 共 済 年 金 などを 受 けている 場 合 ( 複 数 の 老 齢 給 付 を 受 けるときは その 合 算 額 ) なお 1~3の 支 給 日 額 が 傷 病 手 当 金 の 日 額 より 多 いときは 傷 病 手 当 金 は 支 給 されず 1~3の 支 給 日 額 が 傷 病 手 当 金 の 日 額 より 少 ないときは その 差 額 を 支 給 することとなる 健 康 保 険 の 保 険 給 付 は 被 保 険 者 に 対 して 行 われるのを 原 則 としていますが 退 職 などにより 被 保 険 者 でなくなった( 資 格 喪 失 ) 後 においても 一 定 の 条 件 ( 次 の1 及 び2)のもとに 継 続 して 保 険 給 付 が 行 わ れる( 期 間 は 最 長 で1 年 6 か 月 間 この 期 間 から 被 保 険 者 である 間 にすでに 支 給 を 受 けた 残 りの 期 間 について 受 けることができる.) 1 資 格 喪 失 の 際 保 険 給 付 を 受 けている 者 ( ) 2 資 格 を 喪 失 する 日 の 前 日 までに 継 続 して1 年 以 上 被 保 険 者 であった 者 ( ) 受 けている とは 現 に 傷 病 手 当 金 の 支 給 を 受 けている 場 合 だけでなく 傷 病 手 当 金 の 受 給 が 可 能 な 状 態 にある 者 が 事 業 主 から 報 酬 を 受 けているため 一 時 支 給 停 止 されている 場 合 も 該 当 する( 平 成 27.6.12 保 文 発 3367 号 ) 3. 社 会 保 険 等 の 届 出 義 務 違 反 に 対 する 損 害 賠 償 請 求 事 業 主 が 雇 用 保 険 や 社 会 保 険 の 資 格 取 得 の 届 出 を 怠 った 場 合 保 険 料 の 徴 収 権 の 時 効 が2 年 であることから 後 に 資 格 取 得 が 確 認 されたとしても 被 保 険 者 期 間 は 2 年 間 しか 遡 れません したがって それを 超 えた 部 分 は 労 使 間 の 問 題 として 別 12
途 解 決 しなくてはなりません このような 事 案 で 数 はあまり 多 くありませんが 雇 用 保 険 関 係 と 厚 生 年 金 保 険 関 係 の 裁 判 例 がいくつがありますので 参 考 に 添 付 致 します( 参 考 参 照 ) 年 金 関 係 の 裁 判 例 では 老 齢 厚 生 年 金 ( 老 齢 基 礎 年 金 )の 受 給 権 が 様 々な 例 外 は あるものの 原 則 165 歳 以 上 であること 2 保 険 料 納 付 済 期 間 及 び 保 険 料 免 除 期 間 を 合 算 した 期 間 が25 年 以 上 あること( 厚 生 年 金 保 険 法 第 42 条 ) から 年 金 の 受 給 権 を 取 得 できておらず 受 給 額 もいくらになるのかが 明 確 になっていない 状 態 の 段 階 では 損 害 額 の 算 定 に 消 極 的 な 裁 判 例 が 多 いと 思 われます( 年 金 関 連 裁 判 例 :リブラ ン 事 件 東 京 地 判 昭 60 9 26 労 判 465-59 京 都 市 役 所 非 常 勤 嘱 託 員 厚 生 年 金 保 険 事 件 京 都 地 判 平 11 9 30 判 時 1715-51 麹 町 社 会 保 険 事 務 所 事 件 仙 台 高 判 平 16 11 24 判 時 1901-60 豊 國 工 業 事 件 奈 良 地 判 平 18.9.5 労 判 925-53( 湊 栄 市 判 例 解 説 労 判 937-6) 大 真 実 業 事 件 大 阪 地 判 平 18.1.26 労 判 912-51 など) 山 口 ( 角 兵 衛 寿 し) 事 件 大 阪 地 判 平 元 8 22 労 判 546-27 1 労 働 者 が 在 職 中 に 年 次 有 給 休 暇 を 請 求 しなかったこと 請 求 しなかった 理 由 は 特 になかったことが 認 め られるところ 年 次 有 給 休 暇 を 消 化 しないまま 退 職 したとしても 使 用 者 に 有 給 休 暇 相 当 分 の 賃 金 を 支 払 う 義 務 が 法 律 上 当 然 に 発 生 するものではない 2 事 業 主 が 雇 用 保 険 の 成 立 届 や 保 険 料 支 払 をおこなわず 退 職 時 に 離 職 票 を 交 付 しなかったとしても 労 働 者 は 被 保 険 者 資 格 の 得 喪 に 関 し 確 認 の 請 求 を 行 うことができ 確 認 を 受 ければ 法 定 の 手 続 を 履 践 した 場 合 と 同 額 の 基 本 手 当 を 受 給 することは 可 能 であるから 基 本 手 当 相 当 額 の 損 害 が 生 じたとはいえない 3 原 告 労 働 者 のり 患 した 眼 疾 患 は 地 下 街 にある 被 告 会 社 の 店 舗 での 勤 務 中 に 近 隣 の 飲 食 店 が 発 生 させ た 煙 によって 生 じたと 認 めうる 証 拠 はないから 労 働 災 害 にあたらない 13
京 都 市 役 所 非 常 勤 嘱 託 員 厚 生 年 金 保 険 事 件 京 都 地 判 平 11 9 30 判 時 1715-51 事 案 の 概 要 被 告 が 設 置 した 区 役 所 及 びその 支 所 における 夜 間 休 日 の 業 務 に 従 事 するものとして 任 用 された 非 常 勤 嘱 託 員 である 原 告 らが 被 告 に 対 し 被 告 の 職 員 である 各 区 役 所 等 の 区 長 ないし 支 所 長 が 原 告 らについて 厚 生 年 金 保 険 法 27 条 の 被 保 険 者 資 格 の 届 出 を 怠 ったため 原 告 らが 厚 生 年 金 の 受 給 権 を 取 得 することができなかったことが 不 法 行 為 であるとして その 使 用 者 である 被 告 ( 市 )に 対 し 民 法 71 5 条 または 民 法 709 条 に 基 づき 損 害 賠 償 を 求 めた 事 案 において 原 告 らは 被 告 と 常 用 的 使 用 関 係 にあり 厚 生 年 金 の 被 保 険 者 資 格 を 有 するから 被 保 険 者 資 格 の 届 出 をしなかった 区 長 らの 措 置 は 厚 生 年 金 保 険 法 27 条 違 反 のものであり 除 斥 期 間 は 満 了 していないとして 過 失 相 殺 をして 請 求 を 一 部 認 容 した 事 例 要 旨 1 京 都 市 の 区 役 所 の 夜 間 休 日 の 業 務 に 従 事 するものとして 任 用 された 非 常 勤 嘱 託 員 で 労 働 時 間 が 一 般 の 職 員 の4 分 の3 以 上 の 者 は 常 用 的 使 用 関 係 にあり 厚 生 年 金 の 被 保 険 者 資 格 を 有 するというべきで あるから 区 長 らが 被 保 険 者 資 格 の 届 出 をしなかったことは 違 法 である 2 厚 生 年 金 の 被 保 険 者 資 格 の 取 得 の 効 力 発 生 は 都 道 府 県 知 事 の 確 認 によって 生 ずるのであって 事 業 主 がする 被 保 険 者 資 格 取 得 の 届 出 は その 前 提 たる 手 続 に 過 ぎず 事 業 主 としては 被 用 者 の 被 保 険 者 資 格 の 有 無 について 疑 義 があれば 届 出 をしておくべきであるから 届 出 を 怠 った 場 合 には 過 失 が 認 められる 3 厚 生 年 金 保 険 資 格 の 届 出 の 懈 怠 に 関 しては 老 齢 給 付 を 受 ける 権 利 が 発 生 したときに 届 出 をしていた 場 合 の 得 べかりし 利 益 も 発 生 すると 解 されるから 不 法 行 為 時 から 相 当 期 間 経 過 後 に 損 害 が 発 生 する 例 外 的 な 場 合 に 当 たり 損 害 発 生 時 から 除 斥 期 間 の 進 行 が 発 生 するものと 解 するのが 相 当 である 4 将 来 の 年 金 支 給 額 は 政 策 判 断 によって 定 まるものであるけれども 被 保 険 者 資 格 取 得 の 届 出 の 懈 怠 と 既 発 生 の 損 害 については 相 当 因 果 関 係 を 是 認 することができ 仮 に 給 付 水 準 の 切 り 下 げが 実 施 されて も 既 得 権 益 はそれなりに 保 護 される 可 能 性 が 強 いことに 鑑 みると 将 来 の 得 べかりし 利 益 についても 相 当 因 果 関 係 を 認 めるべきである 5 不 法 行 為 の 損 害 たる 正 確 な 年 金 受 給 額 を 算 定 するのは 困 難 な 作 業 ではあるけれども その 算 定 方 法 は 法 規 に 定 められており 一 般 人 であっても 算 定 は 可 能 であり 弁 護 士 であればなおさらであるから 弁 護 士 費 用 とは 別 個 に 社 会 保 険 労 務 士 に 対 する 委 任 費 用 まで 相 当 因 果 関 係 のある 損 害 と 評 価 することはで きない 市 が 設 置 した 区 役 所 の 夜 間 休 日 の 業 務 に 従 事 する 非 常 勤 嘱 託 員 について 区 長 が 厚 生 年 金 保 健 法 27 条 の 被 保 険 者 資 格 の 届 出 を 怠 ったため 右 嘱 託 員 が 厚 生 年 金 の 受 給 権 を 取 得 できなかった 損 害 を 市 が 賠 償 すべ き 責 任 があるとされた 事 例 14
豊 國 工 業 事 件 奈 良 地 判 平 18.9.5 労 判 925-53( 湊 栄 市 判 例 解 説 労 判 937-6) 1 被 告 会 社 が 厚 生 年 金 等 の 社 会 保 険 の 加 入 手 続 を 怠 ったために 国 民 年 金 等 の 保 険 料 の 支 払 いを 余 儀 なくされ また 厚 生 年 金 の 給 付 額 も 少 なくなったとしてなされた 元 従 業 員 による 損 害 賠 償 請 求 が 一 部 認 容 された 例 2 法 ( 健 康 保 険 法 48 条 厚 生 年 金 保 険 法 27 条 128 条 )が 事 業 主 に 対 して 被 保 険 者 の 資 格 取 得 に ついて 各 保 険 者 に 対 する 届 出 を 義 務 付 けたのは これら 保 険 制 度 への 強 制 加 入 の 原 則 を 実 現 するため であると 解 されるところ 法 がこのような 強 制 加 入 の 原 則 を 採 用 したのは これら 保 険 制 度 の 財 政 基 盤 の 強 化 が 主 たる 目 的 であるとの 解 されるが それのみに 止 まらず 当 該 事 務 所 で 使 用 される 特 定 の 労 働 者 に 対 して 保 険 給 付 を 受 ける 権 利 を 具 体 的 に 保 障 する 目 的 をも 有 すると 解 すべきとされた 例 3 使 用 者 たる 事 業 主 が 被 保 険 者 資 格 を 取 得 した 個 別 の 労 働 者 に 関 してその 届 出 をすることは 雇 用 契 約 を 締 結 する 労 働 者 においても 期 待 するのが 通 常 であり その 期 待 は 合 理 的 なものというべきである ことからすれば 事 業 主 が 法 の 要 求 する 前 記 の 届 出 を 怠 ることは 被 保 険 者 資 格 を 取 得 した 当 該 労 働 者 の 法 益 をも 直 接 に 侵 害 する 違 法 なものであり 労 働 契 約 上 の 債 務 不 履 行 をも 構 成 するものと 解 すべ きとされた 例 4 社 会 保 険 制 度 は 疾 病 や 老 齢 等 のさまざまな 保 険 事 故 に 対 する 危 機 を 分 散 することにより 社 会 構 成 員 の 生 活 を 保 障 するものであるから 特 定 のものがその 受 益 を 放 棄 して 負 担 を 免 れることは 本 質 的 に 相 容 れないものというべきであり 合 意 があることをもって 当 然 にその 届 出 義 務 の 懈 怠 が 正 当 化 され るものとはいうことはできないとされた 例 5Xが 採 用 に 際 し 被 保 険 者 資 格 について 真 実 に 反 する 説 明 を 受 けた 結 果 これを 信 じて 社 会 保 険 の 加 入 を 断 念 したからといって これをもって 不 加 入 について 同 意 をしたと 認 めることはできないのみ ならず むしろ そのような 事 実 に 反 する 説 明 をして 加 入 を 断 念 させる 行 為 自 体 が 違 法 行 為 を 構 成 し 債 務 不 履 行 にあたるというべきとされた 例 6 法 は 被 保 険 者 資 格 の 取 得 について 単 に 事 業 主 に 報 告 を 義 務 付 けているだけでなく 被 保 険 者 自 身 による 確 認 の 請 求 を 認 めているのであるから その 不 行 使 の 事 実 をもって 被 保 険 者 の 過 失 と 評 価 すべ き 余 地 があるが 本 件 Xに 過 失 があったとはいえないとされた 例 7 本 件 損 害 として 被 告 が 原 告 の 被 保 険 者 資 格 の 取 得 について 届 出 をしていれば 支 払 いを 免 れ 得 たは ずの 保 険 料 合 計 308 万 余 円 給 付 を 受 けられたはずの 厚 生 年 金 合 計 333 万 余 円 を 認 定 し これから 被 告 が 厚 生 年 金 加 入 手 続 をしていた 場 合 に 原 告 が 支 払 いを 要 したはずの 自 己 負 担 分 保 険 料 合 計 254 万 余 円 を 控 除 した386 万 余 円 が 認 められた 例 8 原 告 が 被 告 保 険 者 資 格 を 取 得 したにもかかわらず 保 険 給 付 を 得 られなかったことにつき 慰 謝 料 20 万 円 が 認 められた 例 9 被 告 が 過 去 2 年 間 に 遡 って 社 会 保 険 加 入 手 続 をしたことにより 原 告 が 負 担 すべき 保 険 料 等 の 本 人 負 担 分 合 計 122 万 余 円 を 支 払 ったことにつき 被 告 は 原 告 に 対 して 残 金 74 万 余 円 の 支 払 い 請 求 権 があ るか 原 告 の 損 害 賠 償 請 求 権 との 相 殺 により 消 滅 することとされた 例 15
大 真 実 業 事 件 大 阪 地 判 平 18.1.26 労 判 912-51 1 厚 生 年 金 保 険 法 27 条 の 事 業 主 の 届 出 義 務 は 公 法 上 の 義 務 であるが 同 条 が 労 働 者 に 保 険 の 利 益 を 得 させるという 点 を 目 的 としていると 解 されることに 鑑 みれば かかる 義 務 が 単 なる 公 法 上 の 義 務 にと どまるということはできず 使 用 者 は 雇 用 契 約 の 付 随 義 務 として 信 義 則 上 厚 生 年 金 保 険 の 被 保 険 者 資 格 の 取 得 を 届 け 出 て 労 働 者 が 老 齢 厚 生 年 金 等 を 受 給 できるよう 配 慮 すべき 義 務 を 負 うものと 解 す るべきであり 使 用 者 が この 義 務 に 違 反 して 上 記 資 格 の 取 得 を 届 け 出 ないときは その 行 為 は 違 法 性 を 有 し 債 務 不 履 行 ないし 不 法 行 為 を 構 成 するとされた 例 2 被 告 会 社 は 被 告 のパートタイム 従 業 員 であった 原 告 が 厚 生 年 金 保 険 被 保 険 者 資 格 を 取 得 したにも 関 わ らず その 取 得 を 届 け 出 なかったもので 厚 生 年 金 保 険 法 27 条 に 違 反 するものといわざるを 得 ないが 本 件 においては 結 局 原 告 が 老 齢 厚 生 年 金 を 受 給 出 来 るか 否 か 受 給 額 がいかなる 額 になるかは 明 ら かではなく その 損 害 額 は 明 らかではないことから 被 告 が 厚 生 年 金 保 険 の 被 保 険 者 資 格 の 取 得 を 届 出 なかったことにより 原 告 に 損 害 が 生 じたとは 認 められないとされた 例 3 雇 用 保 険 についても 使 用 者 は 雇 用 契 約 の 付 随 義 務 として 信 義 則 上 雇 用 保 険 の 被 保 険 者 資 格 の 取 得 を 届 け 出 て 労 働 者 が 失 業 等 給 付 等 を 受 給 できるよう 配 慮 すべき 義 務 を 負 うものと 解 するべきであり 使 用 者 が この 義 務 に 違 反 して 上 記 資 格 の 取 得 を 届 け 出 ない 時 や 偽 りの 届 出 をしたときは その 行 為 は 違 法 性 を 有 し 債 務 不 履 行 ないし 不 法 行 為 を 構 成 するとされた 例 4 被 告 が 原 告 の 雇 用 保 険 被 保 険 者 資 格 の 取 得 を 届 出 なかったことは 雇 用 保 険 法 7 条 に 違 反 するものであ り 原 告 について 被 告 A 西 九 条 店 勤 務 時 になされた 雇 用 保 険 法 上 の 短 時 間 労 働 被 保 険 者 としての 届 出 は 事 実 とは 異 なる 届 出 であったところ 原 告 の 被 告 A 京 橋 店 退 職 に 伴 う 失 業 等 給 付 の 受 給 については 工 業 職 業 安 定 所 長 は 原 告 が 短 時 間 労 働 被 保 険 者 であると 確 認 して 不 支 給 処 分 をしたが 同 所 長 が 離 職 証 明 書 の 記 載 のみによってかかる 確 認 をしたのかは 明 らかではないこと 原 告 は 同 処 分 の 審 査 請 求 を することができたのに これを 行 なわなかったことから 被 告 が 原 告 の 離 職 証 明 書 の 短 時 間 の 欄 に 丸 印 を 付 して 公 共 職 業 安 定 所 に 提 出 したことと 原 告 が 雇 用 保 険 による 失 業 等 給 付 を 受 給 できなかっ たこととの 間 には 因 果 関 係 を 認 めることができず 被 告 が 雇 用 労 働 保 険 被 保 険 者 資 格 を 届 出 なかった ことや 偽 りの 届 出 をしたことより 原 告 に 損 害 が 生 じたとは 認 められないとされた 例 5 使 用 者 に 労 基 法 20 条 等 の 違 反 があっても 義 務 違 反 状 況 消 滅 後 は 労 働 者 は 同 法 114 条 による 付 加 金 請 求 申 立 をすることができないとされ 原 告 の 付 加 金 請 求 が 棄 却 された 例 16