序 皮 膚 リンパ 腫 分 類 は 世 界 的 なコンセンサスがとれた 理 解 しやすいものになってき ました. 長 年, 皮 膚 リンパ 腫 診 療 に 携 わってきたものとして,その 進 歩 には 隔 世 の 感 があり, 皮 膚 科 医 の 役 割 の 大 きさを 再 認 識 しています.その 理 由 として,リンパ 腫 分 類 が 単 なる 細 胞 学 的 あるいは 病 理 学 的 診 断 だけではなく, 腫 瘍 細 胞 の 免 疫 学 的 形 質 や 遺 伝 子 検 査 が 臨 床 応 用 され, 診 断 のためには 皮 膚 所 見 を 含 めた 臨 床 症 状 や 経 過 観 察 が 不 可 欠 であることなどが 挙 げられると 思 われます. 特 に, 皮 膚 リンパ 腫 診 断 では, 皮 膚 所 見 からリンパ 腫 の 早 期 病 変 を 想 起 し, 次 い で 皮 膚 生 検 を 実 施 し,その 所 見 を 皮 膚 科 医 自 身 が 読 むというプロセスが 重 要 です. 皮 膚 リンパ 腫 の 早 期 病 変 の 病 理 診 断 は, 病 理 学 のエキスパートでも 迷 います.それ も 当 然 のことで,リンパ 腫 として 顕 性 化 するまでには, 炎 症 ( 反 応 性 )と 腫 瘍 化 の 境 界 の 病 態 が 存 在 しますし,たとえリンパ 腫 細 胞 が 発 生 してもリンパ 腫 としての 進 行 が 中 断 され 治 癒 に 向 かうこともあるはずです.そのような 場 合 には, 皮 膚 科 医 の 目 で 経 過 を 見 ながら, 必 要 に 応 じて 皮 膚 生 検 などの 検 査 を 実 施 する 以 外 に 正 確 に 病 態 をつかむことはできません. 皮 膚 リンパ 腫 治 療 は, 各 病 型 の 病 期 や 病 態 に 合 わせた 独 特 の 工 夫 があります. 卒 後 臨 床 研 修 必 修 化 の 成 果 の 一 端 でしょうか, 若 い 皮 膚 科 医 は CT, 超 音 波 検 査, MRI,PET/CT などの 画 像 診 断 に 慣 れています. 加 えて,リンパ 腫 治 療 に 用 いら れる 化 学 療 法 薬 の 使 用 法 や,その 薬 剤 から 予 期 される 副 作 用 の 予 測 や 支 持 療 法 など 一 通 りの 知 識 を 学 んでいます.そのため, 主 治 医 として 臆 することなく 皮 膚 リンパ 腫 診 療 にあたる 傾 向 があります.しかし, 同 時 に oncology の 進 歩 や 治 療 の 集 約 化 拠 点 化 が 進 められています. 進 行 期 あるいは 進 行 が 予 測 されるリンパ 腫 では, 放 射 線 科 や 血 液 腫 瘍 科 などとの 協 力 は 不 可 欠 です. 本 書 は, 他 診 療 科 の 先 生 方 にもご 執 筆 をいただき, 皮 膚 リンパ 腫 診 療 に 必 要 なエ ッセンスを 盛 り 込 みました.さらに 実 践 的 知 識 とエビデンスを 得 たい 場 合 には, 皮 膚 悪 性 腫 瘍 取 扱 い 規 約 と 診 療 ガイドラインを 活 用 していただくとよいと 思 います. 2012 年 10 月 専 門 編 集 岩 月 啓 氏 岡 山 大 学 大 学 院 医 歯 薬 学 総 合 研 究 科 皮 膚 科 学 分 野
13 Contents 1 2 2 WHO 4 6 3 12 4 16 5 23 6 Sézary 27 7 Sézary 32 8 35 9 40 10 47 11 53 12 56 13 59 14 63 15 68 16 74 17 78 18 mycosis fungoides 84 19 90 20 Sézary 94 21 folliculotropic mycosis fungoides 99 Column B2 103 vii
22 pagetoid reticulosis 104 23 granulomatous slack skin 108 24 111 25 Sézary 116 26 T adult T-cell leukemia/lymphoma 120 27 primary cutaneous anaplastic large cell lymphoma 124 28 lymphomatoid papulosis 128 29 T subcutaneous panniculitis-like T-cell lymphoma 132 30 NK/T extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type 137 31 hydroa vacciniforme-like lymphoma 141 32 T primary cutaneous T-cell lymphoma 145 33 CD8 T primary cutaneous CD8 + aggressive epidermotropic cytotoxic T-cell lymphoma 148 34 CD4 T primary cutaneous CD4 + small/medium T-cell lymphoma 35 T peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified 152 155 viii
Contents 36 extranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue 158 37 primary cutaneous follicle center lymphoma 162 38 B primary cutaneous diffuse large B-cell lymphoma, leg type 166 39 B intravascular large B-cell lymphoma 169 40 blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm 173 41 176 42 179 43 188 44 191 Column MALT 196 45 197 46 202 Column T 205 47 206 48 211 49 215 ix
50 220 51 ISCL/EORTC 224 52 227 53 230 References 233 Index 257 x
113 8666 1 25 14 TEL 03 3813 1100 00130 5 196565 http://www.nakayamashoten.co.jp/ ISBN978-4-521-73350-0 Published by Nakayama Shoten Co., Ltd. Printed in Japan
各 論 21 毛 包 向 性 菌 状 息 肉 症 (folliculotropic mycosis fungoides) はじめに 毛 包 向 性 菌 状 息 肉 症 (folliculotropic mycosis fungoides)は, 表 皮 向 性 は 認 めないか,わずかしかみられない 一 方, 毛 包 向 性 に 異 型 リンパ 球 が 密 に 浸 潤 する 菌 状 息 肉 症 の 特 殊 なタイプである. WHO 分 類 第 4 版 で 正 式 に 記 載 されている 菌 状 息 肉 症 のバリアントで, ほかにパジェット 様 細 網 症, 肉 芽 腫 様 弛 緩 皮 膚 がある(Swerdlow ら, 2008 1) ). 1 毛 包 向 性 菌 状 息 肉 症 の 臨 床 像 A B C D E F A: 眉 毛 上 の 局 面. 組 織 学 的 には 毛 包 性 にムチン 沈 着 を 認 めた. B: 口 部 に 腫 瘤 を 形 成. C: 全 頭 脱 毛 があり, 毛 孔 性 角 化 を 認 める. D: 眉 毛 が 脱 毛. E,F: 背 部 には 毛 包 一 致 性 丘 疹 が 集 簇 し, 瘙 痒 を 伴 う. 99
2 毛 包 向 性 菌 状 息 肉 症 の 病 理 組 織 像 B A C A: 表 皮 向 性 はみられず, 毛 包 に 異 型 リンパ 球 が 密 に 浸 潤. 浸 潤 細 胞 は CD3 + CD4 + ( 挿 入 図 ). B,C: 毛 包 は 一 部 浮 腫 状 でムチン 沈 着 を 認 める(C:アルシアンブルー 染 色 ). 菌 状 息 肉 症 の 独 立 した 予 後 不 良 因 子 の 一 つである(Agar ら,2010 2) ). ムチン 沈 着 を 伴 うものと 伴 わないものがあり, 被 髪 部 では 脱 毛 を 生 じる. 100 臨 床 症 状 と 病 理 組 織 学 的 特 徴 菌 状 息 肉 症 の 比 較 的 まれなバリアントで, 頻 度 については 報 告 により 若 干 の 差 があるが, 数 %から 十 数 % 程 度 とされる. 臨 床 的 には 毛 包 一 致 性 丘 疹 が 集 簇 性 にみられる 場 合 や, 局 面 腫 瘤 を 形 成 し 被 髪 部 で 脱 毛 を 生 じうるほか(1), 多 彩 な 皮 膚 症 状 を 形 成 し う る (Muniesa ら,2010 3) ).また,しばしば(7 割 程 度 ) 瘙 痒 を 伴 う(Lehman ら, 2010 4) ). 病 理 組 織 学 的 に 表 皮 向 性 を 伴 ってもよいが, 異 型 細 胞 のほとんど,また は 多 くが 毛 包 に 浸 潤 するのが 特 徴 である(2). 従 来, 毛 包 にムチン 沈 着 を 伴 うタイプが 多 いとされていたが, 最 近 の 報 告 では 伴 わないタイプもみられることがわかり,ムチン 沈 着 を 病 理 組 織
21 毛 包 向 性 菌 状 息 肉 症 では 毛 包 性 丘 疹 や 局 面, 腫 瘤, 脱 毛 のほか, 囊 腫, 稗 粒 腫,コメド( 面 皰 ), 黄 色 腫 など 多 彩 な 皮 膚 症 状 を 呈 しうる(3). 3 毛 包 向 性 菌 状 息 肉 症 患 者 にみられた 多 彩 な 臨 床 像 A B C D E F A: 稗 粒 腫. B,C:コメド.C はそのダーモスコープ 像. D: 前 額 部 にみられた 局 面 と 黄 色 腫. E,F: 毛 包 性 丘 疹 は 過 角 化 を 呈 して, 棘 状 苔 癬 様 の 臨 床 像. 学 的 に 証 明 できるのは 50~70 % 程 度 とされる(Lehman ら,2010 4) ;Gerami ら,2008 5) ). 治 療 指 針 と 予 後 以 前 より 予 後 不 良 因 子 と 考 えられていたが,イギリスのグループから 後 ろ 向 き 研 究 ではあるが, 菌 状 息 肉 症 Sézary 症 候 群 1,502 例 の 検 討 で 多 変 量 解 析 の 結 果, 毛 包 向 性 菌 状 息 肉 症 は 毛 包 向 性 以 外 の 群 に 比 べて 独 101
文 献 は 巻 末 に 収 載 立 した 予 後 不 良 因 子 であることが 示 された(Agar ら,2010 2) ).ハザード 比 は 全 生 存 期 間 で 1.52(95 % 信 頼 区 間 :1.19~2.05), 疾 患 特 異 的 生 存 期 間 で 1.74(95 % 信 頼 区 間 :1.27~2.39)であった. まれな 疾 患 でランダム 化 比 較 試 験 は 存 在 せず,エビデンスの 確 立 した 治 療 法 は 存 在 しない. 通 常 の 菌 状 息 肉 症 に 準 じて 治 療 を 行 っていくが, 毛 包 に 沿 ったやや 深 い 浸 潤 であることを 考 えると, 早 期 から 光 線 療 法 を 使 用 しナローバンド UVB よりも PUVA が 有 用 で,さらにレチノイドやイ ンターフェロン α の 併 用 が 有 用 との 報 告 がある(Gerami ら,2008 5) ).また, わが 国 でも 治 験 が 進 行 中 であるが(2012 年 9 月 現 在 ),レチノイドの 一 種 であるベキサロテン(bexarotene)が 有 用 であるとの 報 告 も 散 見 され る(Muniesa ら,2010 6) ). 上 記 の 治 療 に 抵 抗 性 の 症 例 や 進 行 例 では 放 射 線 照 射 ( 広 範 囲 の 症 例 で は 全 身 電 子 線 照 射 )が 有 用 である.さらに 皮 膚 外 病 変 を 認 めるようにな ると 多 剤 併 用 化 学 療 法 も 施 行 されるが, 効 果 はしばしば 限 定 的 である. ( 濱 田 利 久 ) 102
21 Column B2 基 準 を 満 たす 毛 包 向 性 菌 状 息 肉 症 C A B D E F 1 B2 基 準 (Sézary 細 胞 が 末 梢 血 中 に 1,000/μL 以 上,クローン 性 増 殖 あり)を 満 たす 毛 包 向 性 菌 状 息 肉 症 の 症 例 A: 全 身 の 毛 包 一 致 性 丘 疹.B: 右 腋 窩 リンパ 節 腫 大.PET で FDG の 集 積 を 認 めた(SUV=3.24).C: 末 梢 血 中 の Sézary 細 胞.D, E: 初 診 から 17 か 月 の 経 過 で 丘 疹 は 融 合 し, 斑 ないしは 局 面 を 形 成 して 紅 皮 症 化.F:フローサイトメ トリーでは,CD4/8 比 6.0,CD4 + /CD7 - 分 画 76.0 %,CD4 + /CD26 - 分 画 76.9 %で CD4/8 比 以 外 は B2 基 準 の 参 考 値 を 満 たした. 63 歳, 女 性.62 歳 時 に 顔 面 の 紅 斑 で 発 症 した. 数 か 月 で 全 身 に 毛 包 性 丘 疹 が 出 現 して 頭 髪 や 体 毛 が 脱 落 し,ほぼ 全 身 に 毛 包 一 致 性 丘 疹 がみられ, 病 理 組 織 学 的 にも 毛 包 向 性 菌 状 息 肉 症 の 像 を 呈 した(1 A). 表 在 リンパ 節 は 腫 脹 し,FDG-PET で 集 積 を 認 めた(1 B). 摘 出 したリンパ 節 は 皮 膚 病 性 リンパ 節 腫 脹 の 病 理 組 織 像 であった. 採 血 で,WBC 7,690/μL, 異 型 リンパ 球 1,615/μL,LDH 265 IU/L (120~240), 可 溶 性 IL-2 レ セプター 1,253 U/mL(145~519)であった(1 C). また, 末 梢 血 単 核 球 から 採 取 した DNA を 用 いて T 細 胞 受 容 体 についてサザンブロット 法 で 検 索 し,クロー ナルな 増 殖 を 証 明 した.その 後,17 か 月 の 経 過 で 体 幹 四 肢 の 丘 疹 も 融 合 して 紅 皮 症 となり,Sézary 症 候 群 へ 移 行 した(1 D~F). ( 濱 田 利 久 ) 103