マイナス 金 利 ~ヨーロッパの 先 行 事 例 1.はじめに 日 本 銀 行 は 2016 年 1 月 28 29 日 の 政 策 委 員 会 金 融 政 策 決 定 会 合 において マイナ ス 金 利 付 き 量 的 質 的 金 融 緩 和 の 導 入 を 決 定 した 具 体 的 には 日



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海 外 レポート 第 10 号 マイナス 金 利 ~ヨーロッパの 先 行 事 例 住 宅 金 融 支 援 機 構 調 査 部 海 外 調 査 担 当 部 長 ( 併 任 ) 経 営 企 画 部 国 際 対 応 担 当 部 長 小 林 正 宏 1988 年 東 京 大 学 法 学 部 卒 業 住 宅 金 融 公 庫 入 庫 海 外 経 済 協 力 基 金 (OECF)マニラ 事 務 所 駐 在 員 国 際 協 力 銀 行 (JBIC) 副 参 事 役 ファニーメイ 特 別 研 修 派 遣 住 宅 金 融 支 援 機 構 調 査 部 主 席 研 究 員 等 を 経 て 2014 年 4 月 より 現 職 1 著 書 に 通 貨 の 品 格 円 高 円 安 を 超 えて ( 中 央 公 論 新 社 2012 年 ) 通 貨 で 読 み 解 く 世 界 経 済 ドル ユーロ 人 民 元 そして 円 ( 中 央 公 論 新 社 2010 年 共 著 ) 不 動 産 マーケットの 明 日 を 読 む ( 日 経 BP 社 2015 年 共 著 ) 等 がある 要 旨 1. 日 本 銀 行 は 2016 年 1 月 28 29 日 の 政 策 委 員 会 金 融 政 策 決 定 会 合 におい て マイナス 金 利 付 き 量 的 質 的 金 融 緩 和 の 導 入 を 決 定 した 2. これを 受 けて 日 本 の 金 利 は 低 下 し 2 月 9 日 には 長 期 金 利 (10 年 国 債 の 流 通 利 回 り)が 史 上 初 めてマイナスとなった 3. 一 方 ヨーロッパでは スウェーデンが 2009 年 にマイナス 金 利 を 導 入 し ECB( 欧 州 中 央 銀 行 )も 2014 年 6 月 に 導 入 するなど いくつかの 先 行 事 例 が 散 見 される 4. 本 稿 では 主 にヨーロッパのマイナス 金 利 の 影 響 を 分 析 し 日 本 への 示 唆 に ついて 考 察 する 1 2011 年 4 月 より 中 央 大 学 経 済 研 究 所 客 員 研 究 員 2014 年 4 月 より 早 稲 田 大 学 大 学 院 ファ イナンス 研 究 科 非 常 勤 講 師 2012 年 2 月 より アジア 太 平 洋 住 宅 金 融 連 合 (APUHF) Advisory Board Member 2012 年 度 日 本 不 動 産 学 会 賞 ( 論 説 賞 ) 受 賞 1

マイナス 金 利 ~ヨーロッパの 先 行 事 例 1.はじめに 日 本 銀 行 は 2016 年 1 月 28 29 日 の 政 策 委 員 会 金 融 政 策 決 定 会 合 において マイナ ス 金 利 付 き 量 的 質 的 金 融 緩 和 の 導 入 を 決 定 した 具 体 的 には 日 銀 当 座 預 金 の 一 部 への 付 利 を 0.1%とするマイナス 金 利 を 2016 年 2 月 16 日 から 適 用 することとしたが 同 様 の 措 置 はヨーロッパではいくつか 散 見 される 一 方 アメリカは 2015 年 12 月 に 付 利 水 準 を 0.25%から 0.50%に 引 上 げており 2 アメリカと 日 欧 の 金 融 政 策 の 方 向 性 の 違 いが 際 立 ってきていた 図 表 1 図 表 1 日 米 欧 主 要 国 の 中 央 銀 行 の 付 利 水 準 3 ( 資 料 ) 各 国 中 央 銀 行 ホームページより 2 アメリカでは 2015 年 12 月 16 日 の 連 邦 公 開 市 場 委 員 会 (Federal Open Market Committee :FOMC)の 声 明 により 政 策 金 利 である FF(Federal Fund) 金 利 の 誘 導 目 標 水 準 を 従 来 の 0~0.25%から 0.25~0.50%に 引 き 上 げた これに 伴 い 超 過 準 備 への 付 利 水 準 (Rate on Excess Reserves :IOER rate)も 0.25%から 0.50%に 引 上 げ FF 金 利 の 誘 導 目 標 の 上 限 値 を 形 成 することとしている なお 法 定 準 備 への 付 利 水 準 (Rate on Required Reserves :IORR rate)も 同 じ 0.50%となっている 3 複 数 の 預 金 ファシリティーがある 場 合 最 も 低 い 金 利 が 適 用 となるものの 水 準 を 掲 載 2

2016 年 は 年 初 から 原 油 安 中 国 不 安 北 朝 鮮 や 中 東 情 勢 等 の 地 政 学 リスクの 高 まり 等 の 海 外 要 因 により 日 本 の 株 式 市 場 が 大 きく 下 落 していたが 日 銀 がマイナス 金 利 導 入 を 発 表 した1 月 29 日 以 降 も 市 場 の 混 乱 は 収 拾 せず むしろ 外 国 為 替 市 場 では 円 高 が 進 行 し 2 月 12 日 には 日 経 平 均 株 価 が1 万 5 千 円 の 大 台 を 終 値 で 割 って 引 けた 本 稿 では マイナス 金 利 を 導 入 した 先 行 事 例 としてヨーロッパの 情 勢 について 概 観 し 日 本 への 示 唆 について 考 察 する 2. 非 ユーロ 圏 ヨーロッパでは ドイツ フランスなど 19 ヶ 国 が 共 通 通 貨 ユーロを 導 入 しており ユー ロ 圏 の 金 融 政 策 はフランクフルトに 本 部 がある 欧 州 中 央 銀 行 (European Central Bank: ECB)に 一 元 化 されている 一 方 ヨーロッパでも 北 欧 の 一 部 やスイス イギリスなど ユーロ 圏 に 加 盟 していない 国 では 独 自 の 通 貨 と 中 央 銀 行 が 存 在 する ECB も 2014 年 6 月 にマイナス 金 利 を 導 入 したが 時 系 列 的 には 非 ユーロ 圏 のスウェー デン デンマークがマイナス 金 利 の 導 入 に 先 行 したので その 順 に 見 ていくこととする (1)スウェーデン 世 界 で 最 初 にマイナス 金 利 を 導 入 したのは スウェーデンの 中 央 銀 行 である Sveriges Riksbank である 同 行 は 1668 年 に 設 立 された 世 界 最 古 の 中 央 銀 行 4であり マイナス 金 利 の 導 入 も 2009 年 と 最 も 早 かった 図 表 2 図 表 2 スウェーデンの 預 金 金 利 ( 資 料 )Sveriges Riksbank より 4 イングランド 銀 行 は 1694 年 日 本 銀 行 は 1882 年 FRB は 1913 年 などとなっている 3

2016 年 2 月 24 日 時 点 の 預 金 金 利 も 1.25%と 最 も 低 い 水 準 となっている スウェーデンクローナとドルの 為 替 相 場 は 2014 年 に 預 金 金 利 がマイナスになる 頃 から 急 激 にクローナ 安 方 向 に 振 れた 両 中 央 銀 行 のバランスシートの 規 模 の 比 率 と スウェー デン 中 央 銀 行 の 預 金 金 利 で 為 替 レートを 回 帰 分 析 すると 両 変 数 とも 為 替 に 対 して 有 意 で あることが 観 測 される 一 方 対 ユーロでの 為 替 相 場 については ECB も 2014 年 6 月 に マイナス 金 利 を 導 入 したこともあり 明 瞭 な 相 関 は 観 測 されない 図 表 3 図 表 3 スウェーデンクローネの 為 替 相 場 ( 資 料 )FRB より 図 表 4 スウェーデンの 民 間 銀 行 の 金 利 ( 資 料 )Sveriges Riksbank より 4

スウェーデンの 中 央 銀 行 に 対 する 預 金 利 率 はマイナスだが 民 間 預 金 の 預 金 金 利 はマイ ナスになっていない 貸 出 金 利 もプラス 圏 で 推 移 している ただし 家 計 向 け 企 業 向 け ともに 貸 出 金 利 が 低 下 する 中 預 金 金 利 がプラスのままのため 利 鞘 が 徐 々に 圧 縮 され てきている 図 表 4 (2)デンマーク デンマークの 中 央 銀 行 である Denmarks Nationalbank の 金 融 政 策 においては デンマー ククローネの 対 ユーロ 相 場 のペッグが 政 策 目 標 の 一 つとなっている 具 体 的 には 7.46038 を 中 心 として ±2.25%(7.62824 ~7.29252)のレンジにクローネの 対 ユーロレートを 誘 導 するペッグを 行 っている このため 2012 年 6 月 に ECB が 利 下 げした 際 デンマークも 利 下 げを 実 施 し 連 動 す る 形 で 預 金 金 利 の 一 部 である CD(Certificates of Deposit) 金 利 がマイナスとなった 2009 年 にスウェーデンがマイナス 金 利 を 導 入 した 際 には マイナス 金 利 が 適 用 とならない 口 座 への 振 替 が 認 められていたが デンマークではマイナス 金 利 が 適 用 とならない 口 座 (Current Account)の 限 度 額 に 銀 行 別 に 上 限 値 を 設 け 実 際 に CD のマイナス 金 利 が 適 用 となる 金 融 機 関 が 出 現 することとなった マイナス 金 利 導 入 によりクローネは 対 ユーロで 切 り 下 がっているが ペッグのバンドの 中 心 値 に 近 い 範 囲 での 動 きであり 変 動 の 幅 は 極 めて 限 定 的 である 図 表 5 なお Denmarks Nationalbank が 管 理 する 外 貨 準 備 の 残 高 は 2012 年 当 時 は 大 きな 変 動 はなか ったものの 2014 年 後 半 に 大 きく 跳 ね 上 がった 図 表 5 デンマークの 中 銀 預 金 金 利 とクローネの 対 ユーロ 相 場 ( 資 料 )Denmarks Nationalbank より 5

デンマークにおけるマイナス 金 利 の 影 響 として 2015 年 に 入 り 住 宅 ローン 金 利 がマイ ナス というニュースが 流 れるようになった 5 デンマークの 住 宅 ローンの 大 半 はモーゲージバンクが 提 供 している モーゲージバンク には 均 衡 原 則 が 適 用 され 調 達 コストと 貸 出 金 利 は 連 動 する 仕 組 みとなっている 住 宅 ローンを 担 保 としたカバードボンド 6 の 利 回 りは 短 期 ゾーンでマイナスとなっており 短 期 の 住 宅 ローン 金 利 も 低 下 しているが 手 数 料 (Administration Fee)を 加 えると 平 均 では なおプラス 圏 にある 図 表 6 住 宅 ローン 金 利 そのものがマイナスとなっているのは 限 定 的 な 事 例 の 模 様 である 図 表 6 デンマークの 住 宅 ローン 担 保 債 券 利 回 りと 手 数 料 ( 資 料 )Denmarks Nationalbank Realkreditrådet より (3)スイス 失 われた 20 年 の 間 に 超 低 金 利 は 日 本 の 代 名 詞 になった 感 もあったが 現 在 世 界 で 最 も 長 期 金 利 の 利 率 が 低 いのは 日 本 ではなく スイスである スイスでは 2014 年 12 月 に 政 策 金 利 がマイナスに 引 き 下 げられ 2015 年 1 月 22 日 から 中 央 銀 行 である Swiss National Bank の 預 金 金 利 にも 閾 値 を 超 える 部 分 について 0.75% のマイナス 金 利 が 適 用 されることとなった 10 年 国 債 の 利 回 りも 2015 年 1 月 にマイナス 圏 に 突 入 し 2016 年 2 月 24 日 時 点 では 0.42%となっている 図 表 7 5 Richard Milne Denmark highlights naked truth about negative lending April 8, 2015, Financial Times など 6 Covered Bond 住 宅 ローンや 地 方 公 共 団 体 向 け 貸 付 等 特 定 の 資 産 を 担 保 に 金 融 機 関 が 発 行 する 債 券 デンマークでは 1797 年 から 発 行 されている 6

図 表 7 スイスの 金 利 動 向 ( 資 料 )Swiss National Bank より スイスにおけるマイナス 金 利 のイールドカーブへの 影 響 は 1 最 初 に 全 体 水 準 を 押 し 下 げ 2 次 に 短 期 ゾーンが 中 銀 預 金 を 下 回 る 水 準 にまで 低 下 し 3 最 後 に 中 長 期 ゾーンも 更 に 押 し 下 げられる という 流 れで 推 移 していった 図 表 8 図 表 8 スイスのイールドカーブの 変 化 ( 資 料 )Swiss National Bank より ( 年 ) 7

スイスの 事 例 で スウェーデンやデンマークと 大 きく 異 なるのは 為 替 市 場 の 動 向 である スイスが 一 覧 払 い 預 金 金 利 (sight deposits)にマイナス 金 利 を 導 入 した 2015 年 1 月 ス イスフランは 対 ユーロで 急 騰 した これには マイナス 金 利 以 外 の 要 素 が 影 響 している スイスは 2011 年 9 月 にスイスフランを 対 ユーロで 1.20 を 防 衛 線 とする 無 制 限 の 為 替 介 入 を 導 入 し 長 らく 1.20 近 傍 で 推 移 していた しかし 2015 年 1 月 に 持 続 不 可 能 と してこの 上 限 を 撤 廃 し スイスフランが 急 騰 した タイミング 的 にマイナス 金 利 の 導 入 と 為 替 介 入 断 念 が 重 なったため 一 見 するとマイナス 金 利 の 導 入 がフラン 高 を 誘 発 したよう にも 見 えるが マイナス 金 利 よりも 為 替 介 入 断 念 のアナウンスメント 効 果 が 大 きかったと 解 釈 するのが 自 然 であろう 図 表 9 なお スイスではフラン 高 による 輸 入 デフレ 圧 力 が 強 く 2015 年 以 降 他 のヨーロッパ 諸 国 よりもデフレ 基 調 が 強 まっている( 後 述 ) 図 表 9 スイスフランの 対 ユーロ 相 場 ( 資 料 )FRB より 3.ユーロ 圏 ECB は 2014 年 6 月 11 日 に 預 金 金 利 を 0.1%とし 同 年 9 月 10 日 に 0.2% 2015 年 12 月 9 日 に 0.3%へと 引 き 下 げた 一 方 FRB は 長 らく FF 金 利 の 誘 導 目 標 水 準 の 上 限 値 と 同 じ 0.25%とした 後 2015 年 12 月 17 日 から 0.50%へと 引 上 げた 図 表 10 また FRB は 2014 年 10 月 に 量 的 緩 和 を 終 了 し その 後 は 満 期 で 償 還 される 国 債 や MBS (Mortgage Backed Securities: 住 宅 ローン 担 保 証 券 )を 再 投 資 して 約 4.5 兆 ドルのバラ ンスシートの 規 模 を 維 持 しているが ECB は 毎 月 600 億 ユーロのユーロ 圏 国 債 カバード 8

ボンド 等 を 購 入 する 量 的 緩 和 7を 実 施 中 で アメリカとユーロ 圏 では 金 融 政 策 の 方 向 が 質 と 量 の 両 面 で 正 反 対 となっている 図 表 11 図 表 10 ECB と FRB の 預 金 金 利 ( 資 料 )ECB FRB より 図 表 11 ECB と FRB 日 本 銀 行 の 総 資 産 ( 資 料 )ECB FRB 日 本 銀 行 より 7 ECB は Expanded asset purchase programme と 称 している 9

ドル/ユーロ 相 場 については ギリシャ 問 題 をはじめとする 欧 州 特 有 のイベントにより 左 右 される 局 面 もあり 一 貫 した 相 関 はなかったが ECB がマイナス 金 利 を 導 入 した 2014 年 以 降 は 金 利 差 により 為 替 が 動 いているようにも 見 える 図 表 12 図 表 12 ドル/ユーロ 相 場 と FRB と ECB の 預 金 金 利 差 ( 資 料 )ECB FRB より 物 価 への 影 響 については 欧 州 統 計 局 (Eurostat)の HCPI(Harmonised Indices of Consumer Prices)のエネルギーと 季 節 性 食 品 を 除 いた 指 数 の 前 年 比 を 見 ると マイナス 金 利 の 導 入 による 顕 著 な 影 響 は 見 られず スイスではむしろデフレ 基 調 が 強 まっている 図 表 13 ヨーロッパの 消 費 者 物 価 指 数 対 前 年 比 ( 資 料 )Eurostat より 10

また マイナス 金 利 導 入 により 中 央 銀 行 に 預 金 として 預 ける 代 わりに 貸 出 を 促 進 する というポートフォリオ リバランス 効 果 を 期 待 する 向 きもあるが ユーロ 圏 の 銀 行 貸 出 を 見 ると マイナス 金 利 導 入 後 も 企 業 向 けの 貸 出 は 回 復 していない 住 宅 ローンの 残 高 は 伸 びているが トレンド 的 な 部 分 と 政 策 効 果 を 峻 別 するのは 難 しい 図 表 14 図 表 14 ユーロ 圏 の 銀 行 貸 出 等 (2000 年 1 月 =100 とする 指 数 ) ( 資 料 )ECB より ( 年 ) 4.ヨーロッパの 先 行 事 例 のまとめ 以 上 見 てきたように ヨーロッパでマイナス 金 利 を 導 入 した 先 行 事 例 においては 以 下 のことが 見 て 取 れる 1 金 利 については イールドカーブ 全 体 に 対 し 低 下 圧 力 がある 2 貸 出 については 住 宅 ローンは 多 少 増 えているが 企 業 向 け 貸 出 は 増 えていない 3 物 価 に 対 しては ほとんど 効 果 がない 4 為 替 に 対 しては 通 貨 安 に 誘 導 する 効 果 がある 5 金 融 機 関 への 影 響 については 利 鞘 圧 縮 のマイナスの 効 果 がある 一 方 マイナス 金 利 の 適 用 範 囲 を 限 定 することで 経 営 への 影 響 を 一 定 に 緩 和 している 場 合 もある このうち 4の 為 替 については スイスが 逆 行 しているが 為 替 介 入 断 念 の 影 響 という 特 殊 要 因 がある また 為 替 については デンマークのようにユーロへのペッグを 政 策 目 標 としている 国 は 除 き 基 本 的 には 物 価 の 安 定 という 国 内 目 的 の 副 次 的 効 果 として 1の 金 利 低 下 の 反 射 で 為 替 が 動 いているものであり マイナス 金 利 導 入 が 為 替 切 下 げ 競 争 とい う 近 隣 窮 乏 化 政 策 ではない という 点 は 各 国 とも 了 解 している 11

マイナス 金 利 導 入 により 名 目 金 利 が 下 がり 実 質 金 利 も 下 がることで 需 要 を 喚 起 してイ ンフレ 率 を 引 き 上 げるという1から2や3への 波 及 については 現 時 点 ではヨーロッパで は 実 証 されていない また 5の 金 融 機 関 への 影 響 については スウェーデンで 2009 年 にマイナス 金 利 が 導 入 された 当 初 は マイナス 金 利 が 適 用 されない 口 座 への 振 替 が 認 められていた ユーロ 圏 で もマイナス 金 利 が 適 用 される 対 象 となる 預 金 から 必 要 準 備 相 当 額 は 控 除 されている スイ スやデンマークでは 一 定 の 金 額 を 控 除 する 方 式 を 採 用 している ただし ECB の 場 合 は 超 過 準 備 に 対 してマイナス 金 利 が 適 用 されていることから(これは FRB が 超 過 準 備 と 必 要 準 備 に 同 じ 0.5%の 金 利 を 適 用 しているのとは 異 なる) 金 融 機 関 の 経 営 に 対 しては 一 定 に 負 の 影 響 も 出 ていると 見 る 向 きもある なお マイナス 金 利 の 政 策 効 果 を 阻 害 する 要 因 として 金 融 機 関 が 現 金 保 有 を 増 やせば 中 央 銀 行 預 金 へのマイナス 金 利 を 回 避 できる 点 が 指 摘 されるが ユーロ 圏 とデンマークで は 現 金 流 通 残 高 に 顕 著 な 変 化 は 観 察 されていない 図 表 15 図 表 15 ユーロ 圏 とデンマークの 通 貨 流 通 残 高 5. 日 本 銀 行 の マイナス 金 利 付 き 量 的 質 的 金 融 緩 和 日 本 銀 行 は 2016 年 1 月 28 29 日 の 政 策 委 員 会 金 融 政 策 決 定 会 合 において マイナ ス 金 利 付 き 量 的 質 的 金 融 緩 和 の 導 入 を 決 定 し 今 後 は 量 質 金 利 の3つの 次 元 で 緩 和 手 段 を 駆 使 して 金 融 緩 和 を 進 めていくこととする としている マイナス 金 利 の 導 入 については 金 融 機 関 が 保 有 する 日 本 銀 行 当 座 預 金 に 0.1%のマイ ナス 金 利 を 適 用 し 具 体 的 には 日 本 銀 行 当 座 預 金 を3 段 階 の 階 層 構 造 に 分 割 し それぞ れの 階 層 に 応 じてプラス 金 利 ゼロ 金 利 マイナス 金 利 を 適 用 する としている この3 段 階 の 階 層 構 造 のうち 当 初 最 も 大 きいのは 従 来 どおりプラス 0.1%の 金 利 が 適 用 12

される 基 礎 残 高 ( 所 要 準 備 を 除 く)の 約 210 兆 円 で ゼロ 金 利 が 適 用 される 残 高 (マクロ 加 算 残 高 )は 当 初 は 約 40 兆 円 ( 所 要 準 備 額 9 兆 円 + 貸 出 支 援 基 金 および 被 災 地 支 援 オペ 30 兆 円 )で マイナス 金 利 の 適 用 対 象 は 当 初 は 10 兆 円 程 度 となる(2016 年 1 月 末 時 点 の バランスシートを 前 提 とした 場 合 ) と 説 明 されていた 8 図 表 16 この 階 層 構 造 は マイナス 金 利 が 金 融 機 関 収 益 への 過 度 の 圧 迫 により 金 融 仲 介 機 能 がか えって 低 下 するようなことがないよう 欧 州 の 事 例 を 参 考 にしたとされ また 従 来 の 量 的 緩 和 との 整 合 性 については 欧 州 中 央 銀 行 ではマイナス 金 利 と 長 期 国 債 の 買 入 れを 両 立 している としている 9 図 表 16 日 本 銀 行 のバランスシートのイメージ 10 ( 資 料 ) 日 本 銀 行 より 実 際 にマイナス 金 利 が 適 用 となる 2016 年 2 月 16 日 に 日 本 銀 行 が 発 表 した 業 態 別 の 日 銀 当 座 預 金 残 高 (1 月 ) では プラス 金 利 の 適 用 対 象 は 約 206 兆 円 ゼロ 金 利 は 約 24 兆 円 マイナス 金 利 は 約 23 兆 円 と マイナス 金 利 の 適 用 対 象 が 若 干 多 くなっていた また 業 態 別 に 見 ると その 他 の 準 備 預 金 制 度 適 用 先 11 が 半 分 を 占 める 結 果 となり プラス ゼロ マイナスの 残 高 の 構 成 比 から 最 も 影 響 を 受 けることとなる 図 表 17 8 http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160129b.pdf 9 脚 注 8に 同 じ 10 日 本 銀 行 営 業 毎 旬 報 告 (2 月 20 日 現 在 ) によれば 2016 年 2 月 20 日 現 在 の 日 本 銀 行 の 総 資 産 は 約 401 兆 円 と 400 兆 円 の 大 台 を 超 えている 11 ゆうちょ 銀 行 や 大 手 信 用 金 庫 が 含 まれるとされる 13

図 表 17 付 利 の 対 象 となる 当 座 預 金 残 高 ( 当 月 16 日 ~ 翌 月 15 日 の 平 均 残 高 適 用 金 利 別 ) ( 資 料 ) 日 本 銀 行 より なお マイナス 金 利 について 利 回 りがマイナスの 国 債 を 民 間 金 融 機 関 が 満 期 まで 保 有 すれば 損 失 を 被 るのに 何 故 買 うのか という 質 問 をよく 耳 にする 安 全 資 産 だからという 説 明 を 時 に 聞 くが そのような 説 明 はプラス 圏 での 低 利 の 説 明 には 正 しいかもしれないが マイナス 金 利 の 説 明 にはならないように 思 われる ユーロ 圏 ではまだ 起 こっていないが 現 金 で 保 有 すればゼロにはなってもマイナスにはならないことを 説 明 し 切 れないからであ る この 点 について 日 本 銀 行 は マイナス 金 利 分 だけ 買 入 れ 価 格 が 上 昇 ( 金 利 が 低 下 )す ることで 釣 り 合 うので 買 入 れは 可 能 と 考 えられる と 明 言 している ストレートに 言 え ば 今 マイナス 金 利 であっても 日 銀 が 金 融 緩 和 を 推 進 して 更 に 金 利 が 低 下 すれば 高 値 で 売 却 できると 考 える 投 資 家 が 存 在 するから マイナス 金 利 が 成 立 するとも 言 える 例 えば 中 期 国 債 124 回 債 (5 年 債 )は 表 面 利 率 0.1%で 1 月 28 日 の 平 均 価 格 は 100.46 円 だった これを 満 期 (2020 年 6 月 20 日 )まで 保 有 すれば 利 回 りは-0.004%とマイナス となり 100.46 円 で 購 入 した 投 資 家 は 損 を 被 る しかし 2 月 9 日 には 価 格 は 101.25 円 に 上 昇 ( 利 回 りは-0.185%に 低 下 )しており 1 月 28 日 に 券 面 100 億 円 相 当 を 100.46 億 円 で 購 入 した 投 資 家 が 2 月 9 日 に 売 却 すれば 101.25 億 円 が 入 り 差 し 引 き 7,900 万 円 の 利 益 となる 図 表 18 14

図 表 18 マイナス 金 利 発 表 後 の 国 債 価 格 の 変 化 ( 資 料 ) 日 本 証 券 業 協 会 より このような 価 格 変 動 は 利 回 りがプラスでもマイナスでも 存 在 する 今 は 日 銀 が 量 的 緩 和 を 推 進 しているので 民 間 銀 行 としては 出 口 があることから 安 心 して 国 債 に 投 資 で きる 将 来 日 銀 が 量 的 緩 和 をやめて 国 債 の 買 い 入 れをしなくなれば 利 回 りは 上 昇 し 価 格 は 下 落 するかもしれない それはマイナス 金 利 を 導 入 してもしなくても 起 こりうるこ とである 勿 論 満 期 保 有 を 前 提 に 購 入 する 投 資 家 にとってはキャリーの 収 益 を 圧 迫 する ので 財 務 的 にマイナスの 影 響 が 出 るところもあるだろうが 価 格 変 動 のリスクについては 当 面 は 日 本 銀 行 がその 多 くを 引 き 受 けることになる 量 的 緩 和 の 問 題 点 として 中 央 銀 行 の 出 口 戦 略 の 難 しさが 指 摘 されてきた 出 口 戦 略 に ついては FRB が 既 に 着 手 しており 量 的 緩 和 により 膨 らんだバランスシートを 抱 えた 状 態 で 政 策 金 利 を 引 き 上 げるために 準 備 金 への 付 利 水 準 を 引 き 上 げた 点 は 既 に 述 べた 12 FRB は2016 年 2 月 3 日 時 点 で4 兆 4,835 億 ドルのバランスシートの 規 模 となっているが 保 有 する 米 国 債 2 兆 4,613 億 ドルからは 3.26% MBS1 兆 7,442 億 ドルからは 3.49%の 利 息 収 入 があり 準 備 金 2 兆 7,744 億 ドルの 付 利 水 準 を 0.25%から 0.50%に 引 き 上 げても 財 務 に 致 命 的 な 影 響 はない( 勿 論 付 利 水 準 を 引 き 上 げる 分 だけ 純 収 益 は 減 少 する) 他 の 費 目 を 無 視 すれば 付 利 水 準 は 5.08%まで FRB は 逆 ざやに 陥 ることなく 金 利 を 引 き 上 げ ることができる 日 銀 が 保 有 する 固 定 利 付 き 国 債 について1%パラレルシフトした 場 合 の 影 響 を 分 析 する と 2015 年 末 時 点 で 約 19.1 兆 円 となっていた ただし 日 銀 は 保 有 する 国 債 について 時 価 評 価 する 必 要 はなく 保 有 する 約 270 兆 円 の 国 債 から 満 期 保 有 すれば 22.9 兆 円 の 利 息 収 入 が 入 り また 当 時 の 時 点 で 時 価 評 価 すれば 12.1 兆 円 の 含 み 益 があった 図 表 19 これらの 数 字 は 2016 年 2 月 19 日 時 点 では 図 表 19 のとおり 変 動 しているが マイナス 12 正 確 には リバースレポでフロアを 形 成 し 準 備 金 への 付 利 水 準 との 間 でコリドーを 形 成 するアプローチ 15

金 利 の 導 入 でイールドカーブが 全 体 に 下 方 に 推 移 したため 保 有 する 国 債 の 増 加 と 比 較 し て 含 み 益 が 突 出 して(+4.8 兆 円 : 他 は+1.1 兆 円 ) 増 加 している ただし 保 有 する 国 債 の 利 回 りの 絶 対 水 準 がアメリカよりもかなり 低 いため バランス シートの 規 模 を 維 持 したまま 付 利 水 準 を 引 き 上 げられる 余 地 は 限 られている とは 言 え 出 口 戦 略 の 難 しさは 量 的 緩 和 そのものに 起 因 するものであり マイナス 金 利 導 入 は 直 接 的 には 関 係 ない 図 表 19 日 銀 が 保 有 する 国 債 の 価 値 ( 固 定 利 付 き 長 期 国 債 のみ) ( 資 料 ) 日 本 銀 行 日 本 証 券 業 協 会 より 筆 者 試 算 なお FRB は 保 有 する 有 価 証 券 からの 金 利 収 入 等 により 2015 年 は 1,002 億 ドルの 純 利 益 を 計 上 うち 977 億 ドルを 国 庫 納 付 する 予 定 である 更 に 2015 年 12 月 4 日 に 成 立 し た Fixing America s Surface Transportation Act に 基 づき 193 億 ドルを 追 加 で 納 付 するこ とになり 2015 年 の 国 庫 納 付 額 は FRB 史 上 初 めて1 千 億 ドルの 大 台 を 超 える 見 通 しであ るが FRB は 資 本 の 部 のうち 剰 余 金 については 100 億 ドルを 上 限 とする 改 正 が 行 われ 12 月 28 日 に 193 億 ドルを 国 庫 納 付 した このため 資 本 の 部 は 2016 年 始 には 400 億 ド ルを 割 り 込 み 総 資 産 4 兆 4866 億 ドルに 対 する 比 率 は 0.88%と1%を 割 り 込 んだ 既 に 出 口 戦 略 に 着 手 した FRB が 自 己 資 本 を 減 資 した 一 方 日 本 銀 行 は 2015 年 11 月 13 日 量 的 質 的 金 融 緩 和 の 実 施 に 伴 って 生 じ 得 る 本 行 の 収 益 の 振 幅 を 平 準 化 し 財 務 の 健 全 性 を 確 保 する 観 点 から 引 当 金 制 度 に 関 し 財 務 大 臣 に 検 討 を 要 請 している 大 胆 な 金 融 緩 和 を 推 進 しつつも 出 口 戦 略 については 慎 重 に 検 証 を 進 めているということであろう 16

6. 市 場 の 反 応 と 海 外 要 因 の 逆 風 ヨーロッパの 先 行 事 例 からは マイナス 金 利 は 為 替 に 最 も 影 響 があることが 観 察 された 本 来 であれば 日 銀 のマイナス 金 利 導 入 により 円 安 ドル 高 方 向 に 為 替 が 動 いてよさそ うなものであるが 1 月 下 旬 から 本 稿 執 筆 時 点 (2 月 中 旬 )までの 為 替 動 向 はこれに 反 し 急 激 な 円 高 ドル 安 が 進 行 株 式 市 場 にも 大 きな 影 響 を 及 ぼした 足 下 の 日 本 の 株 価 は ほぼ 円 ドルレートに 沿 う 形 で 動 いてきた 円 高 の 進 行 に 伴 い 日 経 平 均 株 価 は2 月 12 日 に 1 万 5 千 円 の 大 台 を 割 って 引 け その 後 も 一 進 一 退 が 続 いている 図 表 20 図 表 20 円 ドル 相 場 と 日 経 平 均 株 価 の 推 移 ( 資 料 )FRB 日 本 経 済 新 聞 社 より 為 替 と 株 価 については 円 高 になると 輸 出 企 業 の 業 績 悪 化 懸 念 が 広 がり 株 安 になる と いうのが 通 説 となっている 一 方 で 東 京 証 券 取 引 所 での 売 買 高 の 約 7 割 は 海 外 投 資 家 が 占 める 状 況 で 2015 年 は 海 外 投 資 家 がリーマン ショックの 2008 年 以 来 の 売 り 越 しに 転 じた 海 外 投 資 家 は 日 本 株 を 購 入 する 際 に 為 替 ヘッジ( 円 売 り)を 行 い 日 本 株 を 売 る 際 はその 巻 き 戻 しで 円 買 いが 発 生 するため 株 価 の 下 落 局 面 では 円 高 が 加 速 するとの 指 摘 も あり 株 安 と 円 高 の 因 果 関 係 については 微 妙 なところがある また 円 ドルの 為 替 レートは 日 米 の2 年 物 の 金 利 差 と 相 関 が 高 いことが 市 場 関 係 者 の 17

間 ではよく 知 られている 図 表 21 円 高 の 局 面 と 円 安 の 局 面 では 金 利 感 応 度 が 異 なった 動 きとなっているが 足 下 ではアメリカの 利 上 げ 観 測 の 後 退 から 日 銀 のマイナス 金 利 導 入 にもかかわらず アメリカ 側 の 要 因 で 円 高 が 進 行 している ここでも FRB の 利 上 げを 見 越 してドル 買 い 円 売 りのポジションを 増 やした 投 資 家 が 利 上 げ 観 測 の 後 退 でポジシ ョンを 解 消 する 動 きが 円 高 を 後 押 ししている 可 能 性 がある いずれにしても スイスは 例 外 として ヨーロッパの 幾 つかの 圏 域 のようにマイナス 金 利 が 通 貨 安 につながっていないのは アメリカをはじめとする 海 外 要 因 の 影 響 が 濃 い 可 能 性 があり 通 貨 への 影 響 について 以 下 もう 少 し 詳 しく 見 てみる 図 表 21 日 米 2 年 金 利 差 と 円 ドル 相 場 ( 資 料 )FRB 財 務 省 より (1) 中 国 経 済 の 失 速 懸 念 中 国 の 国 家 統 計 局 が 2016 年 1 月 19 日 に 発 表 した 2015 年 の 実 質 GDP 成 長 率 は 6.9%で 25 年 ぶりの 低 い 伸 び 率 となった また 実 額 では 67 兆 6708 億 元 で FRB の 統 計 による 2015 年 の 為 替 レート 19.26705 円 / 元 を 適 用 すると 約 1,304 兆 円 となり 2015 年 の 日 本 の 名 目 GDP 約 499 兆 円 ( 一 次 速 報 )の 約 2.6 倍 となっている 中 国 の GDP はアメリカの 約 60%に 達 しており その 動 向 の 世 界 経 済 に 与 える 影 響 も 一 層 増 している 原 油 価 格 の 下 落 の 要 因 として 中 東 情 勢 もさることながら 中 国 をはじめとする 新 興 国 の 経 済 成 長 の 減 速 が 実 需 を 低 迷 させていることも 大 きい 更 に 日 本 の 輸 出 先 の 最 大 の 相 手 でもあるので 中 国 経 済 の 減 速 の 影 響 は 日 本 には 強 い 逆 風 となる 18

中 国 経 済 の 失 速 を 象 徴 する 一 つの 統 計 が 外 貨 準 備 高 である 中 国 の 外 貨 準 備 は 2014 年 6 月 に 3 兆 9,932 億 ドルのピークに 達 した 後 減 少 に 転 じ 2016 年 1 月 には 3 兆 2,309 億 ド ルまで 減 少 している 中 国 経 済 の 減 速 を 背 景 に 中 国 からの 資 本 流 出 が 続 き 為 替 を 安 定 化 させるために 元 買 いドル 売 り 介 入 を 行 っているためという 観 測 もある 実 際 外 貨 準 備 が 減 少 に 転 じたタイミングは 人 民 元 が 対 ドルで 下 落 し 始 めた 時 期 と 符 号 する 図 表 22 図 表 22 中 国 の 外 貨 準 備 高 と 人 民 元 /ドル 相 場 の 推 移 ( 資 料 )FRB 中 国 State Administration of Foreign Exchange より 中 国 の 逆 従 属 年 齢 人 口 指 数 (15~64 歳 の 生 産 年 齢 人 口 をそれ 以 外 の 人 口 で 除 した 指 数 ) はまもなくピークアウトし 一 人 っ 子 政 策 の 負 の 影 響 が 出 始 める 図 表 23 一 方 で 中 国 に 特 徴 的 なのは 男 女 比 率 の 不 均 衡 で 一 人 っ 子 政 策 の 時 代 に 相 対 的 に 男 子 が 多 く 生 まれた ため 今 後 は 適 齢 期 の 男 性 の 過 剰 が 顕 著 となってくることから 一 人 っ 子 政 策 を 見 直 して も 急 激 にはその 効 果 は 発 現 しないと 見 られている ただ この 20 年 ほど 日 本 の 名 目 GDP は 500 兆 円 前 後 で 横 ばいだが 中 国 は 円 換 算 す ると 69 兆 円 から 1,304 兆 円 へと 19 倍 近 く 増 加 している 日 中 の 格 差 を 要 因 分 解 すると 生 産 年 齢 人 口 当 たり 実 質 GDP の 伸 びに 大 きな 格 差 があり デフレーターも 基 調 的 に 大 きく 異 なり 足 下 では 円 安 元 高 が 格 差 を 拡 大 している 構 図 となっているが 生 産 年 齢 人 口 には 大 差 がなく アメリカとは 違 い 生 産 性 の 向 上 でキャッチアップしている 構 造 となってい る 図 表 24 人 口 要 因 は 今 後 中 国 にとってマイナスに 寄 与 する 一 方 中 進 国 の 罠 に 陥 ることなく 全 要 素 生 産 性 (TFP)が 向 上 していけば 中 国 の 経 済 成 長 は 持 続 可 能 となる 可 能 性 もあり 中 国 の 構 造 改 革 の 進 展 が 注 視 される 19

図 表 23 日 米 中 の 逆 従 属 年 齢 人 口 指 数 ( 資 料 )United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2015). World Population Prospects: The 2015 Revision, DVD Edition.より 図 表 24 日 中 の GDP 格 差 の 要 因 分 解 (Log 表 示 ) ( 資 料 )IMF FRB 米 商 務 省 内 閣 府 四 半 期 別 GDP 速 報 国 連 より (2)アメリカの 利 上 げ 観 測 の 後 退 日 銀 のマイナス 金 利 導 入 後 アメリカでもイールドカーブが 下 方 にシフトしており 日 米 金 利 差 はさほど 拡 大 しておらず 円 安 を 抑 制 している 2 月 11 日 の 10 年 物 米 国 債 の 利 20

回 りは 1.63%で 日 銀 がマイナス 金 利 導 入 を 発 表 した 前 日 の1 月 28 日 の 2.00%から 37bp 低 下 している 図 表 25 図 表 25 米 国 債 のイールドカーブの 変 化 ( 資 料 ) 米 財 務 省 より アメリカの 金 利 低 下 は 景 気 回 復 の 足 取 りが 重 く 3 月 の 利 上 げ 観 測 が 後 退 しつつあると いうアメリカ 独 自 の 要 因 による 部 分 もある 2 月 10 日 のイエレン FRB 議 長 の 議 会 証 言 で その 方 向 性 が 再 確 認 され 円 高 が 加 速 した FRB は 二 重 の 責 務 (Dual Mandate) すなわち 物 価 の 安 定 と 雇 用 の 極 大 化 が 政 策 目 標 として 連 邦 準 備 法 に 明 記 されている 物 価 については FRB が 目 標 とする 個 人 消 費 支 出 デフレーター(PCE)の 前 年 比 で 2%には 届 いていないが 労 働 市 場 の 緩 み(Slack)が 解 消 してきており 雇 用 の 拡 大 が 賃 上 げにつながり やがて 物 価 にも 波 及 すると 判 断 し 現 時 点 で 利 上 げに 踏 み 切 らなければ 将 来 急 激 な 引 き 締 めが 必 要 となりかえって 市 場 が 混 乱 す る という 判 断 から 2015 年 12 月 の 利 上 げに 踏 み 切 った アメリカの 実 体 経 済 については 2015 年 第 4 四 半 期 の 実 質 GDP の 伸 びが 季 節 調 整 済 み 年 率 換 算 値 で 0.7%と 鈍 化 し 1 月 の 非 農 業 部 門 雇 用 者 数 が 前 月 比 で 15.1 万 人 の 増 加 にとど まるなど 弱 い 指 標 も 散 見 されるようになってきた 住 宅 着 工 についても 1 月 は 季 節 調 整 済 み 年 率 換 算 値 で 109.9 万 戸 ( 一 次 速 報 )と 若 干 陰 りが 見 えてきた 失 業 率 は 4.9%と 5%を 割 り 込 む 水 準 にまで 低 下 してきたが 雇 用 は 景 気 の 遅 行 指 標 であり 図 表 26 鉱 工 業 生 産 指 数 や 設 備 稼 働 率 といった 景 気 動 向 に 一 致 先 行 する 系 列 にも 陰 りが 見 える 中 や がて 雇 用 の 拡 大 にも 波 及 するおそれがないとは 言 えない 21

図 表 26 アメリカの 住 宅 着 工 と 住 宅 建 設 労 働 者 数 ( 資 料 ) 米 労 働 省 米 商 務 省 より アメリカの 物 価 連 動 国 債 から 推 計 される 期 待 インフレ 率 (ブレークイーブンインフレ 率 :BEI)は 低 下 基 調 にあり 5 年 物 で 推 計 すると 足 下 は1%を 割 ってきており 物 価 に ついて 弱 気 の 見 通 しが 強 まっていることが 示 唆 される 図 表 27 図 表 27 アメリカの 期 待 インフレ 率 ( 資 料 )FRB より 22

(3) 原 油 価 格 の 下 落 日 本 の 長 期 金 利 (10 年 国 債 流 通 利 回 り)と 原 油 価 格 はほぼパラレルに 動 いてきたが 2016 年 1 月 29 日 の 日 銀 の マイナス 金 利 導 入 により 日 本 の 長 期 金 利 は 大 きく 下 方 に 乖 離 し た 図 表 28 図 表 28 原 油 価 格 13と 日 本 の 長 期 金 利 ( 資 料 ) 財 務 省 U.S. Energy Information Administration より 原 油 価 格 が 急 落 した 2014 年 後 半 以 降 アメリカの 原 油 在 庫 は 積 み 上 がっており アメリ カ 国 内 だけを 見 ても 原 油 の 需 給 関 係 は 逼 迫 しておらず 価 格 の 反 転 上 昇 を 抑 圧 する 要 因 となっている 可 能 性 もある 勿 論 原 油 価 格 の 下 落 にはイランの 核 合 意 を 受 けての 輸 出 解 禁 に 加 え サウジアラビアとイランの 宗 教 対 立 を 巡 り OPEC 内 で 減 産 が 合 意 できないこと による 需 給 関 係 の 悪 化 という 地 政 学 的 情 勢 による 部 分 も 大 きいが これにアメリカのシ ェール 革 命 による 原 油 生 産 能 力 向 上 中 国 等 新 興 国 経 済 の 減 速 による 需 要 減 少 と 原 油 価 格 の 下 落 を 説 明 する 要 因 には 事 欠 かない 原 油 価 格 の 下 落 は 中 東 産 油 国 の 財 政 を 悪 化 させ それらの 国 (あるいはソブリン ウェ ルス ファンド)が 保 有 する 米 国 債 を 売 却 すれば 米 ドルの 価 値 が 下 落 (= 対 円 では 円 高 ) に 作 用 する また 原 油 に 投 資 したヘッジファンドが 資 金 繰 り 悪 化 のために 保 有 する 有 価 証 券 を 売 却 すれば それも 同 じように 作 用 すると 見 られている 13 Cushing, OK WTI Spot Price FOB (Dollars per Barrel) 23

もとより 原 油 価 格 の 下 落 はドルの 実 効 実 質 為 替 レートを 押 し 上 げる 図 表 29 ドルの 実 効 実 質 為 替 レートの 上 昇 はアメリカの 輸 出 にはマイナスに 作 用 する 今 年 は 大 統 領 選 挙 の 年 でもあり ドルの 増 価 を 喜 ばない 産 業 界 からの 圧 力 も 強 まるだろう 図 表 29 原 油 価 格 とドルの 実 効 実 質 為 替 レート ( 資 料 )U.S. Energy Information Administration BIS より 原 油 価 格 の 下 落 は 物 価 には 直 接 的 にデフレ 圧 力 を 強 め 日 本 銀 行 もマイナス 金 利 導 入 に 際 し 注 視 すべき 海 外 情 勢 の 一 つとして 原 油 価 格 の 下 落 を 挙 げている 更 に 原 油 価 格 の 下 落 は 米 ドルの 増 価 を 招 き アメリカで 追 加 利 上 げに 対 する 批 判 を 招 き 易 くなることから 利 上 げ 観 測 の 後 退 を 招 き 円 高 を 誘 発 し 輸 入 デフレの 圧 力 も 強 めることになる このよ うな 海 外 要 因 は 日 本 銀 行 の 金 融 政 策 で 回 避 できる 性 質 のものではなく マイナス 金 利 導 入 の 効 果 を 判 断 するには そのようなノイズも 考 慮 する 必 要 がある 7.むすびに 代 えて 日 本 銀 行 が 導 入 を 決 定 した マイナス 金 利 付 き 量 的 質 的 金 融 緩 和 については 直 前 の 国 会 での 答 弁 で マイナス 金 利 の 導 入 については 具 体 的 に 考 えていない と 黒 田 総 裁 が 答 弁 していたことから サプライズとして 受 け 止 められる 一 方 で 当 日 の 東 京 証 券 取 引 所 では 株 価 が 乱 高 下 するなど 市 場 の 評 価 は 揺 れ 動 いた それは 政 策 委 員 会 金 融 政 策 決 定 会 合 において4 人 の 審 議 委 員 が 反 対 し 5 対 4の 薄 氷 の 決 定 となったことにも 端 的 に 表 れている 本 稿 では 先 行 事 例 としてのヨーロッパの 状 況 を 見 てきたが 為 替 に 対 しては 有 意 な 影 24

響 を 与 える 一 方 銀 行 の 貸 出 行 動 や 物 価 には 必 ずしも 実 証 的 な 成 果 は 出 ていないことが 見 て 取 れる それを 参 考 にしつつも 為 替 は 財 務 省 の 所 管 であり また 為 替 誘 導 はしない ことが 国 際 公 約 になっている 中 日 本 銀 行 としてはマイナス 金 利 の 効 果 について 率 直 に 言 えないという 苦 しい 立 場 にあることが 市 場 とのコミュニケーションを 難 しくしている また 本 来 であれば 円 安 に 振 れてもよいはずの 為 替 が 円 高 に 振 れたことで マイナス 金 利 政 策 の 効 果 そのものに 対 して 疑 念 が 広 がった 可 能 性 もある しかし それは 同 時 期 に 発 生 した 海 外 の 要 因 による 部 分 もあり マイナス 金 利 が 効 果 がないと 判 断 するのは 時 期 尚 早 かもしれない いずれにしろ ヨーロッパでは マイナス 金 利 の 導 入 により 金 融 市 場 が 崩 壊 したという 事 実 はない 日 本 銀 行 も 金 融 機 関 の 経 営 を 過 度 に 圧 迫 することがないよう 制 度 設 計 を 熟 慮 するとしている システム 対 応 など 実 務 的 な 課 題 も 指 摘 されているが 2 月 16 日 から 適 用 が 開 始 されたマイナス 金 利 が 日 本 の 金 融 市 場 においてどのような 波 及 経 路 を 辿 るのか 注 視 していきたい 本 稿 において 意 見 に 係 る 部 分 は 執 筆 者 個 人 の 見 解 であり 住 宅 金 融 支 援 機 構 の 見 解 では ありません < 参 考 文 献 > 小 林 正 宏 中 林 伸 一 通 貨 で 読 み 解 く 世 界 経 済 ドル ユーロ 人 民 元 そして 円 ( 中 央 公 論 新 社 2010 年 ) 小 林 正 宏 通 貨 の 品 格 円 高 円 安 を 超 えて ( 中 央 公 論 新 社 2012 年 ) 小 林 正 宏 海 外 レポート 第 9 号 14 ギリシャ 危 機 ~ELA と TARGET2 からの 視 点 小 林 正 宏 海 外 レポート 第 8 号 2015 年 6 月 の FOMC 声 明 と 市 場 への 影 響 小 林 正 宏 海 外 レポート 第 5 号 FRB の QE3 テーパリング 等 について 14 海 外 レポートは 下 記 URL からダウンロード 可 能 http://www.jhf.go.jp/about/research/researcher-kobayashi.html 25