小 川 富 之 ( 近 畿 大 学 法 学 部 教 授 ) アジアの 家 族 法 の 視 点 から 見 た 生 殖 補 助 医 療 の 問 題 について 生 殖 補 助 医 療 大 国 である 日 本 は 生 殖 補 助 医 療 法 制 ( 規 制 および 親 子 ) 後 進 国 である 生 殖 補 助 医 療 の 研 究 や 技 術 それを 提 供 する 医 療 機 関 の 数 などは 世 界 ナンバーワンであり その 医 療 を 求 める 人 の 数 も 世 界 の 国 々の 中 で 最 も 多 い 国 の 一 つであるが それにかかわる 法 制 度 が 整 備 されておらず 無 法 地 帯 に 近 い 状 態 であるといえる このような 日 本 の 現 状 を 踏 まえた 上 で アジアに 視 点 を 転 じて この 問 題 を 検 討 したい 特 に 日 本 からアジアの 国 々に 生 殖 補 助 医 療 の 実 施 を 求 めて 出 かける 人 々の 問 題 と それぞれの 国 でのこの 問 題 に 対 してどのような 法 的 対 応 がなされているかについて 考 えてみたい 伊 藤 弘 子 ( 愛 知 学 院 大 学 非 常 勤 講 師 ) 日 本 人 を 生 物 学 上 の 父 母 としてインドで 代 理 出 産 された 子 の 法 的 取 扱 い 2008 年 夏 に 日 本 人 を 父 としてインドで 代 理 出 生 した 女 児 マンジちゃんの 事 件 が 契 機 となり 日 本 でもイ ンドが 生 殖 ツーリズムの 最 前 線 であり 比 較 的 手 が 届 きやすい 現 実 の 問 題 として 海 外 での 代 理 出 産 が 認 識 されるようになった マンジちゃんの 事 件 は 日 本 国 際 私 法 上 もインド 家 族 法 上 も 母 子 関 係 を 特 定 する ことができず 双 方 の 国 において 代 理 出 産 子 に 係 わる 法 整 備 が 急 務 であることを 知 らしめた 特 に 生 殖 ツーリズムが 急 成 長 しているインドでは 大 きな 気 運 となり 初 めての 生 殖 補 助 医 療 規 制 法 案 が 成 立 しようとしている この 報 告 はインドにおける 代 理 出 産 に 係 わる 法 規 制 の 動 向 を 概 観 し 次 いで 日 本 人 を 依 頼 者 としてインドで 出 生 する 代 理 出 生 子 の 親 子 関 係 および 国 籍 について 日 本 の 国 際 私 法 及 び 改 正 後 の 国 籍 法 の 立 場 で 把 握 しようとするものである 梅 澤 彩 ( 摂 南 大 学 法 学 部 講 師 ) 日 本 における 代 理 懐 胎 の 現 状 と 課 題 - 法 的 親 子 関 係 を 中 心 に- 日 本 においては 代 理 懐 胎 をはじめとする 生 殖 補 助 医 療 に 関 する 法 政 策 の 構 築 整 備 は 遅 々として 進 んでおらず 医 療 の 場 における 事 実 が 先 行 し 社 会 はこれを 容 認 するという 現 状 がある そこで 本 報 告 では 代 理 懐 胎 における 法 的 親 子 関 係 をめぐる 判 例 日 本 学 術 会 議 生 殖 補 助 医 療 の 在 り 方 検 討 委 員 会 の 代 理 懐 胎 を 中 心 とする 生 殖 補 助 医 療 の 課 題 - 社 会 的 合 意 に 向 けて- (2008 年 4 月 )を 契 機 として 代 理 懐 胎 における 子 の 法 的 地 位 ( 法 的 親 子 関 係 の 確 立 子 の 出 自 を 知 る 権 利 )を 中 心 に その 現 状 と 課 題 を 整 理 検 討 したい
小 川 報 告 では 当 初 の 報 告 予 定 のタイトルが 変 更 され 今 回 のテーマである 生 殖 補 助 医 療 をめぐる 法 的 問 題 を 理 解 する 前 提 として 総 論 的 観 点 から 生 殖 補 助 医 療 全 般 と 日 本 の 家 族 親 子 関 係 の 法 の 問 題 点 について 論 じられた 報 告 では 生 殖 補 助 医 療 をめぐる 近 年 の 状 況 や 将 来 的 展 望 を 概 観 したあと 法 的 親 子 関 係 を 理 解 する 上 で 重 要 な 民 法 772 条 を 中 心 とし 母 子 関 係 父 子 関 係 の 成 立 について 民 法 が 前 提 としている 男 女 間 の 婚 姻 を 前 提 とした 親 子 関 係 は 現 在 の 世 相 と 必 ずしも 合 致 しているとは 言 えないことが さまざまな 事 例 を 挙 げて 説 明 がされた 772 条 の 規 定 では 婚 姻 届 を 出 してから 200 日 以 上 経 って 生 まれれば それは 法 的 に 夫 婦 の 子 ど もとなるが 婚 姻 届 を 出 して 200 日 経 たないうちに 生 まれてしまったら 生 まれてきた 子 どもの 身 分 や 親 子
関 係 はどうなるのか 婚 姻 に 対 する 考 え 方 や 婚 姻 の 在 り 方 が 多 様 化 する 中 で 知 らないうちに 法 的 問 題 の 渦 中 に 入 り 込 んでしまう 状 況 が 具 体 的 事 例 を 元 に 紹 介 された それは 生 殖 補 助 医 療 とのかかわりにおいても 同 様 であり 性 関 係 なくして 子 を 持 つことが 可 能 となるため 代 理 懐 胎 により 分 娩 者 を 母 とする 原 則 が 崩 れること 性 同 一 性 障 害 の 治 療 のため 性 別 適 合 手 術 を 受 けたカッ プルによる 技 術 利 用 の 問 題 AID のケースにおける 父 子 関 係 をめぐる 争 いなど 後 の 報 告 を 理 解 するのに 資 す る 形 で 重 要 な 法 的 論 点 が 提 示 された 続 いて 梅 澤 報 告 日 本 における 代 理 懐 胎 の 現 状 と 課 題 - 法 的 親 子 関 係 を 中 心 に- では 報 告 後 主 に 以 下 のような 質 疑 応 答 が 行 われた
まず 2008 年 4 月 の 日 本 学 術 会 議 の 報 告 書 で 分 娩 者 = 母 ルールが 確 認 されたが 依 頼 した 人 が 母 親 とい う議 論 は 出 なかったのか という 質 問 がされた これに 対 しては 報 告 者 から 代 理 懐 胎 が 問 題 となった 最 初 の 時 期 には 依 頼 者 がなぜ 母 となれないのか そもそも 依 頼 者 がいなければ 子 どもは 生 まれなかったのだから 依 頼 者 = 母 で 良 いではないかという 主 張 が 強 くあったが 学 術 会 議 では 従 来 有 力 であった 分 娩 者 = 母 ルール が 前 提 で 議 論 が 進 んでいた 事 情 が 語 られた その 話 を 受 け 小 川 報 告 者 から この 議 論 は 代 理 懐 胎 代 理 出 産 をどこまで 許 すかという 議 論 にもつながっていく という 指 摘 があり 現 に 日 本 人 依 頼 者 の 多 くが 法 律 上 の 父 母 となれる 国 地 域 で 代 理 懐 胎 を 実 施 し これにより 生 まれた 子 どもを 日 本 に 連 れ 帰 り その 子 が 嫡 出 子 と して 扱 われている 事 実 がある 一 方 国 内 での 代 理 懐 胎 については 分 娩 者 = 母 ルールで 養 子 縁 組 によって 親 子 関 係 を 作 ることになるのは ダブルスタンダードとなり 不 公 平 ではないかというコメントがされた さらにその 議 論 を 受 け 委 員 の 中 でも 専 攻 分 野 によって 考 え 方 に 違 いはあるのか という 質 問 がされ 報 告 者 からは 学 術 会 議 の 委 員 会 においても 委 員 によって 価 値 観 はバラバラで 代 理 懐 胎 を 認 めるか 認 めないか でも 見 解 が 分 かれており 提 言 も 大 雑 把 な 形 でまとめざるを 得 なかったのではないかという 背 景 が 説 明 された そのような 価 値 観 の 相 違 や 見 解 の 相 違 が 議 論 になって 政 治 的 な 判 断 に 反 映 されると 意 義 があるのではな いか という 意 見 については 報 告 者 もそれに 同 意 した 上 で 国 民 の 意 識 としてはアンケート 調 査 の 結 果 から 代 理 懐 胎 容 認 の 流 れがあるが 一 般 論 としての 意 見 と 自 身 がどう 振 る 舞 うかという 行 動 の 間 には 落 差 があるこ とや 代 理 懐 胎 によって 引 き 起 こされる 様 々な 問 題 について 必 ずしも 十 分 理 解 した 上 で 容 認 しているわけで はないという 現 状 が 指 摘 された 続 いて 代 理 懐 胎 の 場 合 配 偶 子 提 供 と 異 なり 子 どもに 遺 伝 物 質 を 提 供 しているわけではないので 代 理 懐 胎 において 提 供 者 を 知 ることは 本 当 に 子 どもの 利 益 になるのか という 質 問 がされた これに 対 して 報 告 者 は 子 どもが 実 際 に 自 分 がどうやってこの 家 庭 に 来 たのかを 知 りたいという 欲 求 を 抱 くことはあり 子 ども が 大 きくなり それを 知 りたくなったときに この 家 庭 には 何 か 秘 密 がある と 子 どもが 怪 しんでしまうと すれば それは 必 ずしも 子 どもの 利 益 にならない 場 合 があるため 出 自 を 知 るための 道 を 残 しておくことは 必 要 であるということを 指 摘 した
最 後 に 伊 藤 報 告 日 本 人 を 生 物 学 上 の 父 母 としてインドで 代 理 出 産 された 子 の 法 的 取 扱 い では 報 告 後 に 以 下 のような 質 疑 応 答 が 行 われた 最 初 に インドで 成 立 するであろう ART 法 の 中 で 明 確 に 本 国 で 代 理 出 産 が 認 められている 国 の 人 間 であ るというのが インドで 代 理 出 産 を 行 う 条 件 だが 世 界 に 200 近 くある 国 の 中 で 代 理 出 産 を 認 めている 国 は 実 際 にどのくらいあるのか という 質 問 がされ 報 告 者 から 実 際 はアメリカのネバダ 州 や ボランティアと いう 条 件 で 認 められているイギリスなど ごく 一 部 に 限 られているという 現 状 が 述 べられた その 現 状 を 受 け 続 けて 同 じ 質 問 者 から インドとしては そのような 限 られた 国 や 地 域 だけが 対 象 で 良 いと 考 えているのか という 質 問 がされ この 質 問 に 対 し 報 告 者 から 医 療 ツーリズムでインドに 向 かう 実 情 が 報 じられる 際 外 国 人 の 事 例 が 目 立 つが 実 際 にインド 国 内 で 代 理 出 産 を 行 うのは アメリカやカナダの 市 民 権 を 持 っている 在 外
インド 人 が 多 く このような 国 で 代 理 出 産 を 依 頼 すると 費 用 が 高 額 (アメリカでは 25,000~30,000 ドル)とな るため 本 国 のインドでそれを 行 う 例 が 多 いということ さらに 昨 今 所 得 の 高 いインド 人 や 在 外 インド 人 が 増 加 しているため 特 に 外 国 人 を 受 け 入 れなければ 制 度 が 回 らないのではなく 日 本 のように 代 理 懐 胎 の 規 制 が 厳 しい 国 から 来 てもらわなければ 困 るという 性 質 のものではないと 現 代 のインド 社 会 の 階 層 分 化 に 端 を 発 する 興 味 深 い 背 景 が 説 明 された 続 けて 外 国 で 生 まれた 日 本 人 の 嫡 出 子 は 200~300 と 言 われているが 本 当 に 日 本 人 カップルが 生 んだの かどうかという 確 認 は 無 理 ではないか 全 部 見 極 められるということを 前 提 とした 法 制 度 を 作 ることには 無 理 があり 全 部 を 規 制 するより 実 際 に 生 まれた 子 どもの 利 益 をどう 考 えるのかを 考 えたほうが 生 産 的 ではない か という 質 問 に 対 し 小 川 報 告 者 の 方 から さまざまなケースに 場 合 分 けした 場 合 そこに 虚 偽 の 嫡 出 子 認 定 がどのくらい 紛 れ 込 むのかという 説 明 がされ その 議 論 を 引 き 取 って 報 告 者 も 交 え 法 規 制 の 方 向 性 や 胎 児 認 知 をめぐる 問 題 について 議 論 が 交 わされた