2010 年 1 月 7 日 放 送 第 108 回 日 本 皮 膚 科 学 会 総 会 15 教 育 講 演 25 より 学 校 保 健 を 考 える 学 校 における 紫 外 線 対 策 東 京 慈 恵 会 医 科 大 学 附 属 第 三 病 院 皮 膚 科 教 授 上 出 良 一 はじめに 紫 外 線 の 持 つ 皮 膚 や 眼 に 対 する 傷 害 性 が 明 らかになり 紫 外 線 防 御 の 必 要 性 の 一 般 へ の 啓 発 もかなり 行 き 届 いてきた 現 在 小 児 の 紫 外 線 防 御 対 策 はどうあるべきかを 考 え どう 行 動 するかが 問 われています 紫 外 線 対 策 は 小 児 期 から 必 要 です 小 児 期 の 紫 外 線 暴 露 が 将 来 の 発 癌 に 重 大 な 影 響 を 与 える 例 として 10 歳 以 降 にオーストラリアに 移 住 してきた 人 と 比 べ はじめからオ ーストラリアで 生 まれ 育 った 人 は 発 癌 リスクが 明 らかに 高 いとの 報 告 があります さら に 小 児 期 のみならず 生 涯 にわたって 無 用 な 紫 外 線 暴 露 を 避 ける 生 活 態 度 は 当 然 必 要 で す 小 児 期 は 紫 外 線 に 曝 露 される 機 会 が 多 いにもかかわらず 自 分 の 意 志 で 紫 外 線 防 御 をすることは 困 難 です 就 学 までは 保 護 者 が 管 理 可 能 ですが 学 校 では 個 別 の 対 応 が 困 難 です 急 性 のサンバーンの 予 防 は 当 然 必 要 ですが 昨 今 では 平 均 寿 命 の 延 長 により 長 年 の 潜 伏 期 間 を 経 て 発 生 する 光 老 化 や 光 発 癌 の 予 防 が 重 要 となっています 学 校 現 場 での 対 策 の 現 状 それでは 学 校 現 場 での 紫 外 線 対 策 の 現 状 はどうでしょうか? 大 方 の 教 育 現 場 で は 紫 外 線 防 御 を 実 際 にどの 程 度 どのよう に 行 ったらよいか 戸 惑 っているのが 現 状 です 佐 々 木 らが 太 陽 紫 外 線 防 御 研 究 委 員 会 と 日 本 臨 床 皮 膚 科 医 会 と 協 力 して 行 った 小 学 校 を 対 象 としたアンケート 調 査 では
学 校 で 実 施 されている 紫 外 線 対 策 として 帽 子 着 用 指 導 プールに 日 よけを 設 置 紫 外 線 の 障 害 作 用 および 予 防 法 についての 指 導 サンスクリーン 剤 の 使 用 許 可 プール 授 業 時 のサンスクリーン 剤 使 用 が 回 答 されています 紫 外 線 暴 露 が 強 いプール 授 業 における 対 策 の 中 で サンスクリーン 剤 の 使 用 は 重 要 ですが 半 数 の 学 校 では 使 用 の 可 否 を 明 確 にしておらず 3 割 は 保 護 者 の 判 断 に 任 せています そして 14%は 原 則 禁 止 あるい はすべての 児 童 が 使 用 を 禁 止 されています 禁 止 の 理 由 として プールの 水 が 汚 れるか らというのが 圧 倒 的 に 多 く その 他 サンス クリーン 剤 は 化 粧 品 と 見 なされるため 好 ましくない 学 校 でサンスクリーン 剤 を 塗 る 時 間 がないなどと 回 答 されています 小 学 校 における 紫 外 線 防 御 対 策 の 状 況 をま とめると 紫 外 線 防 御 対 策 実 施 の 有 無 に 関 わらず 学 校 の 意 識 は 高 く 学 校 は 紫 外 線 の 傷 害 作 用 や 予 防 法 の 指 導 を 希 望 していま すが サンスクリーン 剤 の 使 用 について 判 断 しかねているなどがあげられています では 懸 念 されているサンスクリーン 剤 によるプール 水 の 汚 染 の 可 能 性 は 本 当 にある のでしょうか? 単 にイメージとしてそのように 思 い 込 んでいるだけではないかという ことも 考 えられます これまでのところ 少 なくとも3つの 水 質 検 査 の 報 告 があります 市 橋 らは 平 成 16 年 に 金 沢 市 の 小 学 校 のプールで 52 名 の 児 童 にサンスクリーン 剤 をお 互 いに 塗 ってもらい プール 授 業 の 前 後 でプール 水 の 水 質 検 査 を 行 ないましたが サン スクリーン 剤 で 懸 念 される 濁 度 に 全 く 変 化 はみられませんでした 大 阪 皮 膚 科 医 会 の 調 査 では 14 校 のうちサンスクリーン 剤 使 用 を 自 由 にしている 学 校 は4 校 条 件 つきで 使 用 自 由 の 学 校 は3 校 使 用 禁 止 の 学 校 は7 校 ありましたが 学 校 環 境 衛 生 基 準 の 水 泳 プールの 管 理 に 基 づいた 項 目 については サンスクリーン 剤 使 用 による 水 質 基 準 に 変 化 はなかったと 報 告 しています 佐 々 木 らの 一 夏 を 通 じた 調 査 でも 小 学 4-6 年 生 60 名 (うちサンスクリーン 剤 使 用 者 30 名 プール 授 業 の 参 加 平 均 3.5 日 )の 全 身 に 小 児 用 サンスクリーン 剤 (SPF34, PA+++)を 塗 布 してもらい プール 授 業 開 始 前 開 始 後 2 週 間 毎 にプール 水 を 採 取 し 学 校 環 境 衛 生 基 準 の 水 泳 プールの 管 理 に 基 づいた6 項 目 とサンスクリーン 剤 成 分 のひ とつである 亜 鉛 とその 化 合 物 を 測 定 した 結 果 文 部 科 学 省 環 境 省 が 定 める 基 準 以 内 で あったと 報 告 しています これらの 結 果 はサンスクリーン 剤 でプール 水 が 汚 染 されると いう 懸 念 はないことを 示 しており 学 校 関 係 者 や 行 政 にこの 事 実 を 広 く 理 解 してもらう 必 要 があります
学 校 における 紫 外 線 防 御 の 具 体 策 これらのことを 踏 まえて 学 校 における 紫 外 線 防 御 の 具 体 策 として まずサンスクリ ーン 剤 の 使 用 制 限 をなくすことが 第 一 です サンスクリーン 剤 によるプール 水 の 汚 染 の 懸 念 は 実 際 の 調 査 で 否 定 され 問 題 はないと 考 えます サンスクリーン 剤 は 化 粧 品 に 分 類 されているため 学 校 になじまないという 考 えも 情 緒 的 な 反 応 と 思 われます 小 児 が 使 用 するサンスクリーン 剤 については 安 全 性 への 関 心 が 高 いのですが 基 本 的 には 一 般 用 をそのまま 使 用 しても 何 ら 問 題 はありません 接 触 皮 膚 炎 などの 皮 膚 障 害 を 懸 念 す る 向 きもありますが サンスクリーン 剤 の 成 分 のうち 吸 収 剤 による 接 触 皮 膚 炎 光 接 触 皮 膚 炎 の 頻 度 はきわめて 少 ないことがわかっています 我 が 国 では 化 粧 品 はしばしば かぶれを 起 こすというイメージが 強 く 小 児 用 となると 肌 に 優 しい 安 全 なものをとい う 保 護 者 からの 潜 在 的 要 求 があります メーカー 側 はそれに 対 応 して 小 児 用 は 一 切 紫 外 線 吸 収 剤 を 使 わず 散 乱 剤 のみの 製 品 にしています しかし 紫 外 線 防 御 に 関 心 の 高 いオーストラリアやアメリカでは きちんと 紫 外 線 遮 断 ができることを 第 一 の 目 的 にし ており 学 校 でも 特 に 小 児 用 サンスクリーン 剤 を 推 奨 する 必 要 はなく その 紫 外 線 遮 断 能 力 と 耐 水 性 (これは 残 念 ながら 我 が 国 では 表 示 されていませんが)の 二 つで 判 断 すべ きです サンスクリーン 剤 以 外 の 防 御 として 最 近 ラッシュガードと 呼 ばれるサーファーなど が 着 用 しているスタイリッシュな 長 袖 長 ズボンタイプの 水 着 あるいは 水 着 の 上 に 着 る 防 御 服 が 人 気 を 集 めています 顔 面 手 背 以 外 にはサンスクリーン 剤 を 塗 布 しないです み プール 授 業 でも 実 用 性 があると 考 えられます また プールサイドに 日 よけを 設 置 することも 推 奨 されるべきでしょう 学 校 保 健 における 紫 外 線 対 策 推 進 に 関 して 当 面 行 うべきことは 学 校 からの 要 望 が 強 い 紫 外 線 防 御 に 関 する 講 演 セミナーを 通 じて 学 校 関 係 者 や 保 護 者 の 啓 発 を 行 うとと もに 教 育 関 係 者 一 般 特 に 教 育 委 員 会 学 校 保 健 関 係 者 特 に 養 護 教 員 学 校 薬 剤 師 さらには 行 政 特 に 文 部 科 学 省 環 境 省 に 働 きかけ 一 層 の 理 解 を 得 ることが 大 切 です 最 近 刊 行 された 環 境 省 編 の 紫 外 線 環 境 保 健 マニュアル 2008 は 一 般 向 けの 紫 外 線 対 策 マニュアルとして 臨 床 皮 膚 科 医 会 でも 実 費 配 布 しており 学 校 保 健 領 域 でも 是 非 活 用 してもらいたい 資 料 です ビタミン D 不 足 と 紫 外 線 最 後 に 最 近 過 剰 な 紫 外 線 防 御 が 活 性 型 ビタミン D3 不 足 を 招 き 様 々な 健 康 障 害 を 惹 起 するという 懸 念 から 短 絡 的 に 紫 外 線 を 浴 びようという 論 調 が 出 てきており 無 用 な 混 乱 を 起 こす 可 能 性 があるため この 点 について 考 察 します 結 論 を 先 に 言 えば ビタミン D 不 足 を 是 正 するために 紫 外 線 を 浴 びようという 合 理 的 根 拠 はないというこ とです
ビタミン D3 の 生 合 成 特 に 7-デヒド ロコレステロールからプレビタミン D3 が 生 成 される 過 程 に 関 わる 波 長 は UVB であ り この 変 換 は 紅 斑 量 以 下 の UV 照 射 でも っとも 進 み それ 以 上 曝 露 されてもプレビ タミン D3 の 生 成 は 増 加 せず むしろ 生 物 学 的 に 不 活 性 な 物 質 への 転 換 を 促 進 して しまいます また プレビタミン D3 から 熱 異 性 体 化 で 生 成 されるビタミン D3 は 紫 外 線 曝 露 で 容 易 に 破 壊 されてしまいます 一 方 紫 外 線 障 害 である DNA 損 傷 やサ ンバーンは 紫 外 線 に 曝 露 されればされる ほど 増 加 するため ビタミン D 不 足 を 懸 念 して 敢 えて 紫 外 線 曝 露 を 行 う 合 理 的 理 由 はありません ビタミン D 補 給 は 食 事 からも 可 能 であり 通 常 行 われている 程 度 のサンスクリーン 剤 の 使 用 では 血 中 の 活 性 型 ビタミン D3 は 十 分 保 たれています このことは 厳 重 な 紫 外 線 防 御 を 必 要 とす る 色 素 性 乾 皮 症 患 者 でも 血 中 ビタミン D レベルは 正 常 に 保 たれているという 報 告 でも 裏 付 けられます 前 述 の 環 境 省 編 紫 外 線 環 境 保 健 指 導 マニュアル 2008 においても 日 焼 けをするほどの 日 光 浴 が 必 要 な のではなく 両 手 の 甲 くらいの 面 積 が 15 分 間 日 光 にあたる 程 度 または 日 陰 で 30 分 間 くらい 過 ごす 程 度 で 食 品 から 平 均 的 に 摂 取 されるビタミン D とあわせて 十 分 なビ タミン D が 供 給 されるものと 思 われます とされています ただし 寝 たきり 高 齢 者 などで 全 く 戸 外 へ 出 ず 食 事 摂 取 不 足 の 場 合 肝 臓 腎 臓 の 機 能 低 下 がある 場 合 や 妊 婦 授 乳 中 の 女 性 は 注 意 を 要 します これらのことからビタミン D 不 足 が 生 じている なら あえて 紫 外 線 を 浴 びるのではなく 規 則 正 しい 生 活 態 度 を 身 につけ 乱 れている 食 生 活 を 是 正 することが 合 理 的 対 応 であるといえます おわりに 紫 外 線 対 策 は 色 白 美 肌 を 目 指 すものではなく 小 児 期 から 生 涯 を 通 じた 過 剰 な ある いは 無 用 な 紫 外 線 暴 露 を 避 ける 生 活 態 度 を 推 奨 し 紫 外 線 暴 露 の 得 失 を 十 分 に 理 解 した 上 で 個 人 個 人 の 紫 外 線 に 対 する 反 応 性 に 応 じた 合 理 的 紫 外 線 防 御 を 継 続 的 に 行 うこと で 急 性 慢 性 の 紫 外 線 傷 害 を 最 小 限 にして 健 常 な 皮 膚 を 維 持 することにあります 特 に 学 校 保 健 領 域 では 学 校 関 係 者 や 行 政 の 適 切 な 理 解 が 必 要 で 学 校 保 健 における 皮 膚 科
医 の 参 画 が 推 進 されつつある 中 皮 膚 科 医 はさらに 活 発 に 各 方 面 に 働 きかけて 行 かねば ならないと 考 えます