岩 手 宮 城 福 島 県 内 のダムの 被 害 株 式 会 社 エイト 日 本 技 術 開 発 関 西 支 社 保 全 耐 震 防 災 部 尾 儀 一 郎 黒 田 修 一 藤 田 亮 一 藤 本 哲 生 東 京 支 社 保 全 耐 震 防 災 部 福 島 康 宏 神 戸 支 店 河 川 港 湾 部 見 掛 礼 一 郎 1.はじめに 2011 年 3 月 11 日 14 時 46 分 に 発 生 した 東 北 地 方 太 平 洋 沿 岸 地 震 は 三 陸 沖 から 宮 城 県 沖 福 県 沖 茨 城 県 沖 にかけて 生 じたプレート 境 界 型 低 角 逆 断 層 の 破 壊 によるもので マグニチュード 9.0 という 我 が 国 周 辺 に 発 生 した 地 震 としては 最 大 級 の 規 模 の 地 震 となった 断 層 の 大 きさは 約 500km 200km に 達 すると 言 われている 気 象 庁 1) は 当 初 マグニチュードを 7.9 と 速 報 したが その 後 9.0 と 修 正 した この 地 震 により 三 陸 沖 から 宮 城 県 沖 福 島 県 沖 茨 城 県 沖 の 広 範 囲 な 地 域 で 地 震 動 による 被 害 だけでなく 津 波 による 甚 大 な 被 害 が 生 じた 日 本 政 府 はこの 地 震 による 震 災 を 東 日 本 大 震 災 と 命 名 された 今 回 の 地 震 では 海 岸 部 での 津 波 による 被 害 が 大 きくクローズアップされているが 内 陸 部 特 に 福 島 県 内 では 日 本 のダム 史 上 最 悪 の 被 害 となった 藤 沼 ダム 決 壊 の 被 害 6),8) も 発 生 した 本 報 では 岩 手 宮 城 福 島 県 内 のダム 被 害 に 着 目 し ダム 本 体 および 付 属 施 設 の 目 視 による 被 災 状 況 や 地 震 動 とダム 堤 体 被 害 との 関 係 について 整 理 した 結 果 を 報 告 する 2.ダムの 調 査 結 果 2.1 調 査 概 要 表 1 に 現 地 調 査 を 実 施 したダムの 一 覧 を 示 す また 広 域 地 質 図 3) に 今 回 調 査 したダムの 位 置 をプロットした 結 果 を 図 1 に 示 す 今 回 調 査 した ダムのうち ダム 本 体 に 被 害 を 受 けたダムは 福 島 内 陸 部 のいわゆるグリーンタフ 地 帯 に 位 置 し ダム 本 体 に 大 きな 被 害 を 受 けていないダムの 多 く は 海 側 の 花 崗 岩 地 帯 に 位 置 している グリーンタ フ 地 帯 は 新 第 三 紀 や 第 四 紀 の 固 結 度 の 弱 い 層 を 主 体 としている 調 査 は 弊 社 の 自 主 調 査 であり 表 1 ダム 調 査 箇 所 と 被 害 概 要 調 査 日 名 称 形 式 部 位 変 状 の 種 類 田 瀬 ダム 重 力 式 堤 体 天 端 付 近 のコンクリート 片 の 剥 落 本 体 変 状 なし 貯 水 池 周 回 道 路 舗 装 面 の 亀 裂 段 差 (すべり 崩 壊 による) 2011/4/23 日 向 ダム 重 力 式 堤 体 天 端 道 路 舗 装 面 の 亀 裂 堤 体 本 体 に 変 状 なし 綾 里 川 ダム 重 力 式 進 入 道 路 舗 装 面 の 亀 裂 段 差 堤 体 本 体 に 変 状 なし 鷹 生 ダム 重 力 式 取 水 塔 建 屋 壁 面 クラック 堤 体 本 体 に 変 状 なし 堤 体 天 端 道 路 舗 装 面 の 亀 裂 金 越 沢 ダム ロックフィル 2011/4/24 洪 水 吐 橋 梁 背 面 の 沈 下 相 川 ダム ロックフィル 変 状 なし 樽 水 ダム ロックフィル 変 状 なし 2011/4/25 大 倉 ダム アーチ(2 連 ) 堤 体 天 端 道 路 舗 装 面 の 亀 裂 (アバット) 釜 房 ダム 重 力 式 変 状 なし 山 の 入 ダム アース 取 水 設 備 進 入 路 取 水 設 備 の 張 コン 陥 没 湖 内 進 入 路 の 変 状 岳 ダム 重 力 式 堤 体 周 辺 法 面 打 ち 継 目 クラック 吹 付 けコンクリート 剥 離 2011/5/13 堤 体 天 端 クラック 上 流 のり 面 変 状 三 ツ 森 ダム アース 洪 水 吐 モルタル 剥 離 高 柴 ダム アース 変 状 なし 三 春 ダム 重 力 式 取 水 塔 建 屋 高 欄 クラック 堤 体 本 体 に 変 状 なし 重 力 式 変 状 なし 金 沢 ダム 2011/5/14 アース 堤 体 天 端 クラック リップラック 乱 れ 深 田 ダム アース 変 状 なし 藤 沼 ダム アース 堤 体 堤 体 の 破 堤 下 流 域 下 流 域 3km 集 落 まで 被 災 龍 生 ダム 重 力 式 変 状 なし 2011/5/15 羽 鳥 ダム アース 堤 体 下 流 側 のり 面 表 層 崩 壊 西 郷 ダム アース 堤 体 天 端 縦 断 クラック 上 流 側 のり 面 変 状 堀 川 ダム ロックフィル 堤 体 天 端 路 肩 ずれ リップラック 乱 れ 2011/5/16 赤 坂 ダム アース 堤 体 天 端 クラック 上 下 流 のり 面 変 状 千 五 沢 ダム アース 大 きな 変 状 なし - 50 -
岩 手 宮 城 県 内 ダム 現 地 調 査 箇 所 と NIED 強 震 観 測 点 福 島 県 内 ダム 被 災 調 査 箇 所 と 周 辺 の NIED 強 震 観 測 点 被 災 を 受 けたダム 無 被 害 のダム 強 震 観 測 点 (kik-net) 強 震 観 測 点 (k-net) 県 ) 三 ツ 森 タ ム アース H=28.8m 県 ) 岳 タ ム 重 力 H=60.0m 県 ) 山 の 入 タ ム アース H=29.5m 県 ) 鉄 山 タ ム アース H=25.2m 県 ) 高 柴 タ ム アース H=24.3m 県 ) 深 田 タ ム アース H=55.5m 直 ) 三 春 タ ム 重 力 H=65m 県 ) 龍 生 タ ム 重 力 H=32.5m 県 ) 藤 沼 タ ム アース H=17.5m 直 ) 金 沢 タ ム アース H=22m 県 ) 羽 鳥 タ ム アース H=37.1m 県 ) 西 郷 タ ム アース H=32.5m 県 ) 堀 川 タ ム ロック H=57m 県 ) 赤 坂 タ ム アース H=32.5m 県 ) 千 五 沢 タ ム アース H=43m グリーンタフ 地 帯 新 生 代 固 結 度 小 ~ 中 花 崗 岩 地 帯 中 生 代 固 結 度 大 図 1 ダム 現 地 調 査 位 置 と 広 域 地 質 図 - 51 -
漏 水 量 や 変 形 等 の 堤 体 観 測 結 果 の 情 報 は 得 られな いことから 調 査 は 堤 体 の 変 状 等 に 着 目 した 目 視 調 査 を 基 本 とした また 現 地 計 測 が 可 能 な 箇 所 では 常 時 微 動 観 測 を 行 い ダム 堤 体 の 固 有 周 期 を 確 認 し 近 傍 の 強 震 観 測 点 (NIED 観 測 点 ) 2) から 推 定 した 地 震 動 とダム 堤 体 被 害 との 関 係 について 整 理 した 2.2 重 力 式 ダム 調 査 結 果 重 力 式 ダムの 調 査 は 岩 手 ~ 福 島 県 内 の 9 箇 所 について 実 施 した 調 査 ダムは 堤 高 H=32.5~ 81.5m 気 象 庁 震 度 階 で 5 強 ~6 弱 1) に 位 置 す るものであった (1) 目 視 調 査 結 果 ダム 堤 体 本 体 は ダムの 機 能 に 影 響 を 及 ぼす ような 被 害 はなく 図 2 に 示 すように 堤 体 軸 線 折 れ 点 堤 体 目 地 打 継 目 でのひび 割 れ 目 開 きなど 構 造 変 化 点 での 損 傷 が 見 られた (2) 重 力 式 ダムのクラック 損 傷 判 定 調 査 対 象 とした 重 力 式 コンクリートダムでは 堤 体 本 体 への 損 傷 はなく 図 4 に 示 す 損 傷 判 定 図 からもクラックを 生 じていないことが 確 認 される この 損 傷 判 定 図 は 100 ケース 超 のパラメータス タディに 基 づき 堤 高 と 基 盤 加 速 度 から 重 力 式 ダ ムの 損 傷 程 度 を 概 略 推 定 することが 可 能 であり 今 後 ダムのレベル2 地 震 動 耐 震 性 能 を 評 価 する 際 の 一 次 スクリーニングや 動 的 応 答 解 析 を 用 い た 計 算 結 果 の 照 査 に 活 用 できるものである 上 流 側 着 目 点 下 流 側 着 目 点 : 龍 生 ダム : 金 沢 ダム : 三 春 ダム : 田 瀬 ダム : 日 向 ダム 図 4 重 力 式 ダムのクラック 損 傷 判 定 図 図 2 岳 ダムでの 構 造 変 化 点 での 損 傷 一 方 付 属 構 造 物 の 被 害 は 一 体 型 取 水 塔 建 屋 図 3 に 示 す 管 理 橋 高 欄 の 損 傷 であった 一 般 に 重 力 式 ダムでは 堤 体 天 端 の 加 速 度 は 基 部 の3~5 倍 になるため 大 きな 加 速 度 により 付 属 物 が 損 傷 を 受 けたものである 2.3 フィルダム 調 査 結 果 フィルダムの 調 査 は 岩 手 ~ 福 島 県 内 の 4 箇 所 のロックフィルダム 10 箇 所 のアースダムについ て 実 施 した ロックフィルダムは 堤 高 H=40.3 ~57m アースダムは 堤 高 H=17.5~55.5m 気 象 庁 震 度 階 で 5 強 ~6 弱 に 位 置 するものであった ロックフィルダムでは 堀 川 ダムにおいて 天 端 路 肩 のずれや 上 下 流 面 におけるリップラップ 材 の 乱 れ 等 は 見 られたが ダムの 機 能 に 影 響 を 及 ぼすような 被 害 は 発 生 していない 一 方 アース ダムについては 藤 沼 ダムの 決 壊 等 ダム 機 能 に 影 響 する 大 きな 被 害 が 発 生 した 以 下 被 害 の 大 きかったアースダムについての 被 害 概 要 を 述 べる 図 3 三 春 ダムにおける 高 欄 部 ひび 割 れ (1) 三 ッ 森 ダム 1) ダムの 概 要 三 ツ 森 ダムは H=28.8mのアースダムである 2) 震 度 と 地 震 外 力 当 該 ダム 近 傍 の 気 象 庁 震 度 は 震 度 5 強 ( 大 玉 村 ) 1) であった ダム 近 傍 には 強 震 観 測 点 はな いが 最 も 近 い k-net 二 本 松 の 観 測 点 で 地 表 面 最 大 加 速 度 は 391gal 2) であった - 52 -
東日本大震災被害調査報告 平成23年6月 エイト日本技術開発 余水吐きや取水設備 およびこれら構造物と堤 体盛土との接合部等については 特に変状は認め られなかった 天端のクラックは ダム軸方向でほぼ堤長全体 に入っており 幅 80cm 深さ 70cm 上下流 の段差は最大 50cm程度以上の規模である クラックの規模は 堤体中央部ほど大きいよう であった この状況から地震によって 上流側に すべり破壊が生じたようである この影響は上流 面にも現れていた 上流面の変状は このすべり を裏付けるべく 表層のリップラップ材が浮上り 被災時水位 その配列が乱れており 大きく損傷していること が伺える ちなみに リップラップ材の浮き上が 調査時水位 りは 8cm 10cmであった パラペットの竪壁 図5 三ツ森ダム概要図 5) そのものが上流側に傾いていた 上流面の低標高 部では 堤体そのものがはらみだしており これ 3) 貯水位 地震発生時の貯水位の状況は不明であるが 被 災の状況から判断すると常時満水位程度はあった がすべり面の下端となっているようである 5) 原因の推定 地震直後 どの程度貯水位があったかは定かで かと思われる 調査時点でも水位低下放流がなさ れており 2割程度の貯水位であった はないが 地震に伴う上流側への円弧すべりによ 4) 目視調査結果 るものと考えられる 当ダムは 今回の調査で見たアースダムのうち 6) 今後の対応 今回の地震動の調査結果と併せて 原因究明を 最も被災状況が大きなダムのひとつである 調査の結果 天端と上流面において 大きな変 行う必要がある ダム天端で見られる段差から想 状が確認できた その他 右岸余水吐き掘削法面 定すると コア部もそれなりに損傷しているもの のモルタルの剥離が挙げられる と考えられる 今後は 先ずコアの損傷度合いを 図6 三ツ森ダム堤体被害状況 - 53 -
把 握 することが 大 切 である このためには クラ ックの 進 展 範 囲 を 確 実 に 把 握 することが 重 要 であ り クラックに 石 灰 水 を 流 し 込 み 固 結 を 待 ってト レンチ 掘 削 を 行 う 目 視 調 査 や 塩 水 を 用 いた 電 気 探 査 等 を 行 う 必 要 がある この 結 果 を 踏 まえ 上 流 側 の 円 弧 すべりの 検 討 を 行 い 被 災 時 の 現 象 を 同 定 する 必 要 があり 堤 体 材 料 の 試 験 を 行 い 物 性 値 を 確 認 しておくことが 必 要 である (2) 藤 沼 ダム 1) ダムの 概 要 藤 沼 ダムの 概 要 を 図 7 に 示 す 堤 高 H=18.5m の 均 一 型 アースダムである 図 7 藤 沼 ダム 概 要 図 あり 地 表 面 最 大 加 速 度 は 309gal 2) であった 2) 貯 水 位 地 震 発 生 時 の 貯 水 位 は 田 植 えに 備 えほぼ 満 水 位 に 近 い 状 態 であった 3) 目 視 調 査 結 果 藤 沼 ダム 周 辺 の 被 災 状 況 を 図 9 に ダム 堤 体 の 破 堤 状 況 を 図 10 に 示 す 当 ダムは 堤 高 18.5m の 均 一 アースダムである アースダムのポイント は いかに 浸 潤 線 を 下 げられるかという 点 にあり このためドレーン 等 を 配 置 することが 必 要 不 可 欠 である しかし 湖 岸 の 銘 板 によるとそのような ドレーンは 無 く アースダムでありながらグラウ トがなされている アースダムにおいて グラウ トすることを 前 提 とすることは 考 え 難 い いつの 時 点 で このグラウトがなされたかは 定 かではな いが おそらく 漏 水 が 激 しくなり やむを 得 ず グラウトにより 対 処 せざるを 得 なかったものと 考 えられる このように 漏 水 が 多 いということは 施 工 当 事 十 分 な 締 め 固 め 施 工 がなされていなか ったことが 想 定 される 一 方 現 地 の 方 の 証 言 によると 地 震 後 土 煙 を 上 げながら 黒 い 波 が 来 たとあることや 地 震 後 20 分 の 時 点 で 堤 体 の 越 流 が 始 まっていたとの 証 言 から 地 震 発 生 直 後 に 壊 れたようである 地 震 被 災 直 後 にすべり 破 壊 越 流 破 壊 につながったもの 2) 震 度 と 地 震 外 力 当 該 ダム 近 傍 の 気 象 庁 震 度 は 震 度 6 弱 ( 須 賀 川 市 長 沼 支 所 ) 1) であった 図 8 に 示 すようにダ ムから 2km の 位 置 に kik-net 長 沼 の 強 震 観 測 点 が 図 8 藤 沼 ダム 近 傍 での 観 測 波 形 図 9 藤 沼 ダム 下 流 側 等 の 被 害 状 況 - 54 -
東日本大震災被害調査報告 平成23年6月 エイト日本技術開発 図 10 藤沼ダム堤体の被害状況 と推測される また右岸側の奥には破堤を免れた 副堤があるが 貯水池側に大きくすべり破壊を生 じていた この現象は 本堤の破堤が一気に起こ り 急激な水位低下に伴う残留間隙水圧によるも のと推測される 4) 破堤のメカニズム 今回の被災のメカニズムとしては 継続時間の 長い地震力によって 先ず上流側ブロック張り上 端を始点とした下流側へのすべり面が発生し す べりに伴う残留変形が堤高不足を生じさせ 貯水 が集まりやすい右岸側に越流が発生し 浸食とと もに堤体が耐えられなくなり 堤体を押し流した ものと想定される 図 11 は 下記に示す堤体の 状況 目撃者の証言に基づき 破堤メカニズムを 試算した結果である ①地震時の水位はほぼ満水位であった 4) ②右岸側の破堤箇所は完全に流出しており す べり破壊により崩れた 同材料と想定される 副堤は円弧すべりで破壊している ③地震 20 分後に堤体の越流が始まっていた 4) 図 11 堤体材料は現地状況から砂質粘土と想定され 破堤メカニズムの推定 満水状態での浸潤面 想定されるすべり面とその る これに対し左岸側では 堤体がほぼ水平面を すべり面に生じる残留変位を算定したものである 呈し残っているが これは 施工時の転圧層沿い 粘着力を持った土質の場合 安全率が最小とな に 堤体がなくなったもので この点からも施工 る円弧は 深い大きなすべりが一般的であるので 時の転圧不足が想定される 今後 この藤沼ダム 本堤右岸よりの最大断面で破堤したものと思われ をどのように復旧するのかは 現時点では不明で - 55 -
東日本大震災被害調査報告 平成23年6月 エイト日本技術開発 あるが 従来どおりの利水容量が必要ならば 同 じ規模のダムを建設することになると想定される ダムサイト地質から想像すると アースダムの可 能性は高いが 遮水性の確保には十分留意する必 要があり 5.今後の課題 留意点に示す上流側に コアゾーンを設けた型式が良いと考えられる 5) 今後の対応 ① 逆解析 現地材料特性を反映した 被災状況の再現 ② ダムサイト周辺の地質構造の把握 ③ 堤体材料の賦存量の検討とダムの型式検討 (3) 羽鳥ダム 1) ダムの概要 羽鳥ダムの概要を図 12 に示す 堤高 H=36.8m のゾーン型アースダムである 2) 震度 当該ダム近傍の気象庁震度は 震度5強 天栄 村 1)であった 3) 貯水位 地震発生時の貯水位は不明であるが 他の速報 等の写真からみると 3/30 時点での水位は 満水 位から 5 6m程度低い水位であったと思われる 調査時点ではそれほど水位は下げられておらず 満水位から 7 8m程度低い水位かと想定された 図 13 羽鳥ダム堤体の被害状況 - 56 - 図 12 羽鳥ダム概要図 7)
3) 目 視 調 査 結 果 図 13 に 被 害 状 況 を 示 す 調 査 の 結 果 天 端 の クラックと それに 伴 う 下 流 面 天 端 高 欄 管 理 橋 アバット 部 において 変 状 が 認 められた 余 水 吐 きや 取 水 設 備 には 変 状 は 認 められなかった 天 端 のアスファルト 舗 装 に 生 じたクラックは ダム 軸 方 向 のもので 堤 体 の 中 央 部 から 右 岸 側 にかけて 見 られた ブルーシートが 掛 けられ 確 認 できて いないが クラックの 位 置 は 天 端 の 中 央 に 2~ 5cm の 幅 で 入 り 天 端 幅 が 9mと 広 いため ダム 軸 を 境 としたアスファルトの 施 工 継 目 に 沿 って 発 生 したものと 想 定 される 他 ダムと 異 なり 上 流 面 の 変 状 は 無 く 下 流 面 に 変 状 が 見 られることが 特 徴 である 下 流 面 の 変 状 は 天 端 (EL.690.3m) から 一 段 目 の 小 段 (EL.680.0m) 間 の 法 面 に 見 ら れた 天 端 の 肩 からわずかに 下 流 面 の 法 面 が 凹 型 にへこみ 法 高 の 1/3 程 度 の 高 さあたりでわずか にはらみだしている 状 況 であった この 一 段 目 の 小 段 を 越 えて さらに 下 位 標 高 には 影 響 がなかっ た 天 端 高 欄 の 天 端 や 基 礎 部 分 においてコンクリ ートの 剥 離 が 見 られた 4) 原 因 の 推 定 地 震 に 伴 う 下 流 側 への 表 層 すべりによるものと 考 えられる 最 上 段 法 面 に 発 生 したすべりは 最 上 段 ののり 面 勾 配 が 1:2.0 と 他 の 法 面 勾 配 (1:3.5) に 比 べ 急 なため 慣 性 力 によるすべり 破 壊 と 推 測 される (4) 西 郷 ダム 1) ダムの 概 要 西 郷 ダムの 概 要 を 図 14 に 示 す 堤 高 H=32.5m のゾーン 型 アースダムである 2) 震 度 と 地 震 外 力 当 該 ダム 近 傍 の 気 象 庁 震 度 は 震 度 6 弱 ( 西 郷 村 熊 倉 ) 1) であった ダムから 2.5km の 位 置 に kik-net 西 郷 の 強 震 観 測 点 があり 地 表 面 最 大 加 速 度 は 1062gal 2) であった 3) 貯 水 位 地 震 発 生 時 の 貯 水 位 は 他 の 速 報 等 の 写 真 をみ ると ほぼ 満 水 位 に 近 い 水 位 であったものと 思 わ れる 調 査 時 点 では 満 水 位 から 10m 程 度 下 がりの 水 位 と 思 われ 水 位 低 下 放 流 がなされていた 4) 目 視 調 査 結 果 西 郷 ダムも 三 ッ 森 ダムと 同 様 被 害 の 大 きいダ ムである 被 害 は 天 端 のクラック それに 伴 う 天 端 パラペットの 傾 斜 と 上 流 面 の 変 状 が 挙 げられ る 特 に 上 流 面 は 今 回 調 査 したダムの 中 で 最 も 広 範 囲 に 傷 んでいる その 他 右 岸 直 上 流 の 取 水 施 設 近 傍 の 法 面 崩 壊 や 余 水 吐 きのコンクリート 7) 図 14 西 郷 ダム 概 要 図 片 の 欠 けや ブロック 積 み 擁 壁 へのひび 割 れ 等 が 確 認 できた 天 端 のクラックは ダム 軸 方 向 に 堤 頂 全 体 に 及 び クラックの 規 模 は 大 きなもので 幅 30~50cm 深 さ 50~100cm であった このクラックは 数 条 入 っており 一 番 大 きな ものは 天 端 の 中 心 付 近 に 位 置 するクラックであ った このクラックは コア 部 まで 影 響 している ものと 思 われる 農 工 研 の 調 査 では 亀 裂 深 度 は 3m 以 上 の 可 能 性 があることが 報 告 されている 10) 上 流 側 へのすべりの 影 響 により 天 端 のパラペッ トが 上 流 側 に 押 し 出 されるように 傾 斜 している 最 も 顕 著 にこの 現 象 が 把 握 できるのは 左 岸 アバ ット 部 の 継 目 である 上 流 面 の 変 状 は 局 部 的 なも のではなく ほぼ 全 体 におよぶものである この うち 最 も 大 きい 変 状 は ダム 高 が 高 くなる 堤 体 中 央 部 で 生 じており 調 査 時 点 の 貯 水 位 よりも 低 い 標 高 にまですべりが 及 んでいると 推 測 される これは 上 流 面 の 波 打 ち 際 について 堤 体 を 真 横 か ら 望 んだ 場 合 一 直 線 になっていないことからも 伺 えた また 石 張 材 を 押 さえている 基 礎 コンク リートは 堤 体 の 中 央 部 において 法 尻 方 向 に 大 き く 凸 型 に 変 形 している この 変 形 は 円 弧 すべの 影 響 によるものであり 基 礎 コンクリートの 継 目 - 57 -
東日本大震災被害調査報告 平成23年6月 エイト日本技術開発 4) より 図 15 西郷ダム堤体の被害状況 部でのズレはもちろん 石張材の配列が大きく乱 され 30cmもの段差が生じている箇所もあった 0.6 常時微動に基づく固有周期 (秒) 4) 原因の推定 地震直後 ほぼ満水位に近かったことから 地 震に伴う上流側へのすべりによるものと考えられ る 3 ダム本体の固有周期と想定地震動 3.1 ダム本体の固有周期 ダム本体の固有周期を把握することを目的とし て 常時微動観測を行った 観測方法は ダム敷 地内の天端及び法尻等に計測機器を置き 100Hz アースフィルダム ロックフィルダム 0.5 羽鳥 0.4 山の入 0.3 高柴 0.2 金沢 (副ダム) 0.1 千五沢 西郷 赤坂 深田 堀川 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 堤高から換算される固有周期 (秒) サンプリングで 6 分間計測を行った データ数 36,000 計測機器は 株 システムアンドデー タリサーチ製の New PIC を用いた 図 16 常時微動観測によるダムの固有周期 図 16 に観測されたダムの固有周期とダム種別 想定し 被害を受けたダムと無被害のダムについ による固有周期の経験式の比較を示す アースダ て 大規模地震に対するダム耐震性能照査指針(改 ム ロックフィルダムの経験式と概ね一致する傾 訂素案) 同解説 9)の照査用下限スペクトルとの 向にある 簡易で短時間な微動観測によりダムの 比較を行った 固有周期を把握でき ダムの動的特性を把握する 上で有効なツールとして用いることが可能である ダム基礎位置での地震動は以下の手順で想定 した Kik-Net 強震観測点では同一観測点で地表 面と基盤岩の2深度で地震波が観測されている 3.2 ダム基礎での想定地震外力 ダム近傍 数 km 以内 に NIED 強震観測点 また地震計設置位置での地層情報が公表されて 2) いる そこで地質図から強震観測点とダム基礎岩 を持つダムについて ダム基礎位置での地震動を 盤が同一地質構成であることを確認し 観測され - 58 -
た 地 表 面 波 形 をダム 基 盤 相 当 の 岩 盤 ( 重 力 式 ダム では Vs=2000m/s(CM 級 岩 盤 相 当 ) フィルダムで は Vs=700m/s(D ~CL 級 岩 盤 相 当 ))に 重 複 反 射 波 理 論 により 引 き 戻 し ダム 上 下 流 方 向 に 角 度 補 正 を 行 い ダム 基 礎 位 置 での 想 定 地 震 動 とした 図 17 に 被 害 を 受 けたダムと 被 害 を 受 けていな いダムの 加 速 度 応 答 スペクトルを 示 す 被 害 を 受 けたダムは 照 査 用 下 限 スペクトルを 上 回 るものが 多 いが 無 被 害 のダムは 総 じて 照 査 用 下 限 スペクトルより 下 回 っているものが 多 い 傾 向 にあることが 判 る 加 速 度 応 答 スペクトル(gal) 10 4 10 3 10 2 被 害 ダム ダム 下 限 スペクトル 藤 沼 ダム(アース) 西 郷 ダム(アース) 赤 坂 ダム(アース) 羽 鳥 ダム(アース) 体 に 損 傷 を 受 けたダムは ダムのレベル2 地 震 動 照 査 に 用 いる 照 査 用 下 限 加 速 度 応 答 スペクトル 程 度 の 地 震 動 を 受 けていたと 推 測 される ただし 大 規 模 な 被 災 を 生 じ 壊 した 藤 沼 ダムの 地 震 動 が 特 に 大 きかった 訳 ではなく 堤 体 材 料 や 継 続 時 間 の 長 い 地 震 動 の 繰 返 し 特 性 などの 要 因 からの 分 析 が 必 要 である 4.2 ダム 竣 工 と 堤 高 の 関 係 ダム 竣 工 と 堤 高 の 関 係 を 図 18 に 示 す 図 には 日 本 のダムにおける 設 計 基 準 が 制 定 された 1957 年 ダム 設 計 基 準 河 川 法 に 基 づき 制 定 された 1976 年 河 川 管 理 施 設 等 構 造 令 のラインを 併 記 した 図 より 堤 体 に 何 らかの 損 傷 を 受 けたダムは 河 川 管 理 施 設 等 構 造 令 以 前 に 竣 工 されたダムである また 損 傷 を 受 けたダムの 内 破 堤 や 明 瞭 なすべり 破 壊 を 生 じているダムは 均 一 型 の 形 式 が 多 い 傾 向 にある 一 方 堤 高 と 被 災 に 明 瞭 な 関 係 はないこ 加 速 度 応 答 スペクトル(gal) 10 10-2 10-1 1 10 周 期 (s) 10 4 10 3 10 2 無 被 害 ダム (フィルタ ム) ダム 下 限 スペクトル 深 田 ダム(アース) 高 柴 ダム(アース) 千 五 沢 ダム(アース) 金 越 沢 ダム(ロック) 加 速 度 応 答 スペクトル(gal) 10 10-2 10-1 1 10 周 期 (s) 10 4 10 3 10 2 無 被 害 ダム ( 重 力 式 タ ム) ダム 下 限 スペクトル 龍 生 ダム( 重 力 ) 金 沢 ダム( 重 力 ) 三 春 ダム( 重 力 ) 田 瀬 ダム( 重 力 ) 日 向 ダム( 重 力 ) 図 18 ダム 竣 工 と 堤 高 の 関 係 10 10-2 10-1 1 10 周 期 (s) 図 17 各 ダム 基 礎 で 推 定 した 加 速 度 応 答 スペクトル 4.アースダムの 被 害 傾 向 4.1 地 震 外 力 前 述 したように 図 17 に 示 す 堤 体 に 被 害 を 受 けたアースダムの 加 速 度 応 答 スペクトルより 堤 図 19 都 道 府 県 別 アースダムの 個 数 - 59 -
とが 判 る ダム 便 覧 (( 財 )ダム 協 会 )の 集 計 表 に よると 全 国 に 分 布 するアースダム( 高 さ 15m 以 上 )は 約 1300 箇 所 余 りある 図 19 に 都 道 府 県 別 のアースダムの 個 数 を 全 国 上 位 20 位 までを 集 計 した 結 果 である アースダムは その 大 半 が 河 川 管 理 施 設 等 構 造 令 (1976 年 ) 以 前 に 竣 工 されたダ ムである 5. 今 後 の 課 題 留 意 点 1 被 害 を 受 けたアースダムは 河 川 管 理 施 設 等 構 造 令 (1976 年 ) 以 前 に 竣 工 された 古 いダムであ る 今 後 築 造 年 代 の 古 いダム( 特 にダム 設 計 基 準 が 制 定 された 1957 年 以 前 )や 均 一 型 形 式 のダムについては 破 堤 した 時 の 下 流 域 への 影 響 を 踏 まえて 現 状 の 安 定 性 を 調 査 し 安 定 性 が 不 足 するものは 補 強 対 策 を 行 うことが 急 務 である 2 補 強 対 策 で 留 意 すべきことは 既 設 堤 体 に 期 待 できる 遮 水 性 の 程 度 が 重 要 であり 遮 水 性 が 不 足 する 場 合 は 堤 体 補 強 に 加 えて 漏 水 対 策 を 併 せて 行 うことが 必 要 である 地 震 の 災 害 調 査 報 告 : 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 に より 被 災 したフィルダム 調 査 6) 東 北 大 学 東 日 本 大 震 災 緊 急 報 告 会 : 川 越 風 間 横 尾 小 野 : 福 島 県 須 賀 川 市 藤 沼 湖 結 果 について 7) 農 業 土 木 学 会 : 農 業 土 木 工 事 図 譜 第 二 集 フィル ダム 編 (1973) 8) 日 経 コンストラクション: 追 跡 東 日 本 大 震 災 アースダム が 決 壊 して 犠 牲 者 2011.4.11 9) 国 土 交 通 省 : 大 規 模 地 震 に 対 するダム 耐 震 性 能 照 査 指 針 ( 改 訂 素 案 ) 同 解 説 2009 10) 農 研 機 構 農 村 工 学 研 究 所 : 東 日 本 大 震 災 報 告 会 2011.5.31 図 20 アースダムの 補 強 概 念 図 3 藤 沼 ダム 決 壊 の 発 生 機 構 については 堤 体 の 状 況 目 撃 者 の 証 言 想 定 地 震 外 力 の 限 られた 情 報 による 推 論 であり 原 因 を 特 定 するもので はない 参 考 文 献 1) 気 象 庁 : 気 象 庁 発 表 情 報 http://www.jma.go.jp/jma/menu/jishin-porta l.html#b 2) 防 災 科 学 技 術 研 究 所 強 震 観 測 網 web サイト: http://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/ 3) 産 業 技 術 総 合 研 究 所 20 万 分 の1 日 本 シームレ ス 地 質 図 4) 社 団 法 人 ダム 工 学 会 第 一 次 調 査 団 松 本 佐 々 木 雨 宮 :ダムの 被 害 調 査 ( 福 島 県 南 部 ) 5) 地 盤 工 学 会 福 島 北 島 谷 東 北 地 方 太 平 洋 沖 - 60 -