REPORT 公 的 遺 族 給 付 の 現 状 と 死 亡 保 障 の 私 的 準 備 に ついての 視 点 横 田 直 喜 生 活 設 計 研 究 部 主 任 研 究 員 要 旨 1. 遺 族 年 金 給 付 の 現 状 2012 年 は 公 的 年 金 改 革 が 大 きく 前 進 し 残 る 課 題 も 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 等 で 検 討 されているが 遺 族 年 金 に 関 する 検 討 がどの 程 度 進 展 するかは 不 透 明 遺 族 年 金 には 自 営 業 世 帯 と 被 用 者 世 帯 共 働 き 片 働 き 単 身 世 帯 男 性 と 女 性 における 給 付 面 の 格 差 が 見 られ また 老 齢 年 金 も 受 給 できる 65 歳 以 上 層 が 遺 族 年 金 受 給 者 の 約 85%を 占 めている 現 状 被 保 険 者 種 別 ( 第 1 号 第 2 号 第 3 号 )による 保 険 料 負 担 額 の 相 違 という 前 提 があるものの 遺 族 年 金 の 福 祉 的 給 付 の 側 面 から 考 えれば 格 差 是 正 への 検 討 の 余 地 はあると 思 われる 特 に 遺 族 厚 生 年 金 が 支 給 されないケースにおける 給 付 の 拡 充 遺 族 基 礎 年 金 の 支 給 期 間 の 延 長 等 は 検 討 が 期 待 される 事 項 と 考 える 年 金 財 政 の 現 状 から 一 定 以 上 所 得 者 や 父 母 等 に 対 する 遺 族 給 付 のあり 方 遺 族 給 付 に 関 する 税 制 面 の 取 扱 い についても 今 後 議 論 される 可 能 性 は 否 定 できない 2. 死 亡 保 障 の 私 的 準 備 に 関 する 視 点 死 亡 保 障 の 私 的 準 備 に 際 しては 遺 族 の 必 要 資 金 公 的 給 付 企 業 保 障 等 を 勘 案 した 準 備 が 肝 要 であるが 特 にライフステージで 遺 族 給 付 が 手 薄 となる 時 期 をと らえた 準 備 を 考 えておく 必 要 がある 必 要 保 障 額 の 把 握 には 生 命 保 険 各 社 が 提 供 しているホームページ 上 での 試 算 サ ービスの 利 用 も 有 効 である はじめに 2012 年 度 は 公 的 年 金 制 度 改 革 が 大 きく 前 進 した 年 と 言 える 8 月 10 日 には 被 用 者 年 金 一 元 化 法 が 成 立 し 同 じく 年 金 機 能 強 化 に 向 けて 受 給 資 格 期 間 の 短 縮 (25 年 10 年 ) や 短 時 間 労 働 者 への 厚 生 年 金 適 用 拡 大 遺 族 基 礎 年 金 の 父 子 家 庭 への 拡 大 産 休 期 間 中 の 社 会 保 険 料 免 除 等 を 盛 り 込 んだ 年 金 機 能 強 化 法 も 同 日 成 立 11 月 16 日 には 年 金 額 の 特 例 水 準 の 解 消 低 所 得 高 齢 者 障 害 者 等 への 福 祉 的 給 付 等 についての 関 連 法 令 が 成 立 した これらは 2012 年 から 2016 年 にかけて 施 行 されることとなっており また これら 以 外 の 検 討 課 題 とされた 事 項 は 2012 年 11 月 30 日 にスタートした 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 において 年 金 財 政 の 現 況 および 見 通 し 等 をふまえ 議 論 されており 2013 年 8 月 を 目 途 に 一 定 のとりまとめがされる 予 定 となっている 1
社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 で 検 討 課 題 とされている 年 金 制 度 関 連 項 目 第 3 号 被 保 険 者 制 度 の 見 直 し マクロ 経 済 スライドの 検 討 在 職 老 齢 年 金 の 見 直 し 標 準 報 酬 上 限 の 見 直 し 支 給 開 始 年 齢 引 き 上 げの 検 討 高 所 得 者 の 年 金 額 の 調 整 第 1 号 被 保 険 者 の 出 産 前 後 の 保 険 料 免 除 上 記 が 検 討 される 予 定 の 主 な 課 題 であるが 全 体 としては 制 度 の 根 幹 をなす 老 齢 給 付 を 中 心 とした 年 金 財 政 や 不 均 衡 の 改 善 に 向 けての 項 目 が 目 立 つことはもっともであ る ただし 今 回 の 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 で 検 討 の 優 先 度 が 低 い 可 能 性 もある 遺 族 年 金 に 関 しても 課 題 は 少 なからずあると 考 えられる 本 稿 では 遺 族 年 金 制 度 の 現 状 と 課 題 その 現 状 をふまえた 死 亡 保 障 の 私 的 準 備 の 視 点 について 考 えてみたい Ⅰ 遺 族 年 金 給 付 の 現 状 1. 遺 族 年 金 の 主 な 給 付 遺 族 年 金 は 被 保 険 者 の 職 業 や 家 族 構 成 年 齢 等 により 支 給 される 年 金 種 類 支 給 対 象 者 支 給 期 間 支 給 額 は 図 表 1のとおり 様 々である 図 表 1 遺 族 年 金 の 主 な 支 給 パターン( 年 金 額 は 2013 年 4 月 現 在 ) 共 済 年 金 ( 公 務 員 )は 非 掲 載 被 保 険 者 職 業 家 族 構 成 ケース 遺 族 年 金 受 給 者 支 給 時 期 年 金 額 等 独 身 夫 妻 父 母 が 55 歳 以 上 の 場 合 60 歳 から 支 給 会 社 員 1 遺 族 厚 生 父 母 父 母 ( 保 険 料 納 付 期 間 と 標 準 報 酬 等 による) 自 営 業 2 なし - - 妻 30 歳 以 上 終 身 年 金 妻 のみ 3 遺 族 厚 生 妻 妻 30 歳 未 満 5 年 間 の 有 期 支 給 会 社 員 遺 族 厚 生 + 厚 生 : 保 険 料 納 付 期 間 と 標 準 報 酬 等 による 妻 と 子 4 妻 ( 子 ) 遺 族 基 礎 基 礎 :78.65 万 円 + 子 の 加 算 1 自 営 業 5 遺 族 基 礎 妻 ( 子 ) 78.65 万 円 + 子 の 加 算 会 社 員 自 営 業 専 業 主 婦 夫 のみ 6 遺 族 厚 生 夫 夫 と 子 1 7 遺 族 厚 生 + 遺 族 基 礎 2 夫 が 55 歳 以 上 の 場 合 60 歳 から 支 給 ( 保 険 料 納 付 期 間 と 標 準 報 酬 等 による) 厚 生 : 夫 が 55 歳 未 満 の 場 合 は 子 に 支 給 夫 ( 子 ) ( 保 険 料 納 付 期 間 と 標 準 報 酬 等 による) 基 礎 :78.65 万 円 + 子 の 加 算 8 遺 族 基 礎 2 夫 ( 子 ) 78.65 万 円 + 子 の 加 算 夫 のみ 9 なし - - 1 子 とは 18 歳 に 到 達 した 年 度 の 末 日 までの 子 (1 2 級 の 障 害 を 持 つ 子 は 20 歳 未 満 ) 2 父 子 家 庭 への 遺 族 基 礎 年 金 は 2014 年 4 月 から 適 用 ( 第 3 号 被 保 険 者 死 亡 の 場 合 は 非 対 象 ) 2
また 遺 族 基 礎 年 金 遺 族 厚 生 年 金 の 年 金 額 のほかにも 被 保 険 者 や 遺 族 の 状 況 により 次 のような 給 付 加 算 が 行 われる < 老 齢 基 礎 年 金 老 齢 厚 生 年 金 以 外 の 主 な 給 付 > 1 中 高 齢 寡 婦 加 算 ( 厚 生 年 金 保 険 ) 厚 生 年 金 に 加 入 していた 夫 の 死 亡 時 に 18 歳 に 到 達 した 年 度 の 末 日 までの 子 ( 以 下 18 歳 年 度 末 までの 子 ) がいない 場 合 には 遺 族 基 礎 年 金 が 支 給 されない そこで 夫 死 亡 時 に 40 歳 以 上 で 18 歳 年 度 末 までの 子 のない 妻 に 対 し 40 歳 から 65 歳 になるま での 間 年 額 589,900 円 (2013 年 4 月 現 在 )が 遺 族 厚 生 年 金 に 中 高 齢 寡 婦 加 算 とし て 加 算 される また 妻 が 40 歳 時 に 遺 族 基 礎 年 金 が 支 給 されている 場 合 には その 後 末 子 が 18 歳 の 年 度 末 を 迎 え 遺 族 基 礎 年 金 が 失 権 する 時 点 から 支 給 される( 図 表 2) 2 経 過 的 寡 婦 加 算 ( 厚 生 年 金 保 険 ) 遺 族 厚 生 年 金 に 加 算 して 中 高 齢 寡 婦 加 算 を 支 給 されていた 妻 が 65 歳 になると 妻 自 身 の 老 齢 基 礎 年 金 の 支 給 が 開 始 されるため 中 高 齢 寡 婦 加 算 は 支 給 されなくなる しかし 妻 の 老 齢 基 礎 年 金 は 中 高 齢 寡 婦 加 算 より 少 額 のケースも 多 く これを 補 うために 昭 和 31 年 4 月 1 日 以 前 に 生 まれた 妻 には 中 高 齢 寡 婦 加 算 と 老 齢 基 礎 年 金 との 差 額 分 として 経 過 的 寡 婦 加 算 が 支 給 される( 図 表 2) 図 表 2 厚 生 年 金 に 加 入 の 夫 が 死 亡 したケースの 受 給 モデル( 中 高 齢 寡 婦 加 算 経 過 的 寡 婦 加 算 ) 夫 死 亡 子 18 歳 年 度 末 妻 65 歳 遺 族 基 礎 年 金 中 高 齢 寡 婦 加 算 経 過 的 寡 婦 加 算 妻 の 老 齢 基 礎 年 金 遺 族 厚 生 年 金 3 寡 婦 年 金 ( 国 民 年 金 ) 老 齢 基 礎 年 金 を 受 給 するために 必 要 な 受 給 資 格 期 間 を 第 1 号 被 保 険 者 としての 期 間 だ けで 満 たした 夫 が 老 齢 基 礎 年 金 を 受 給 する 前 に 死 亡 した 場 合 に 保 険 料 の 掛 け 捨 て 防 止 を 目 的 として 遺 族 である 妻 に 夫 に 支 給 されるはずであった 老 齢 基 礎 年 金 の4 分 の3 を 60 歳 から 65 歳 になるまでの5 年 間 支 給 するもので 次 の 要 件 を 全 て 満 たす 必 要 がある( 図 表 3) 死 亡 した 夫 が 第 1 号 被 保 険 者 として 国 民 年 金 の 保 険 料 を 納 めた 期 間 ( 免 除 期 間 を 含 む) が 25 年 以 上 あること 妻 と 死 亡 した 夫 との 婚 姻 期 間 が 10 年 以 上 で 妻 が 夫 に 生 計 を 維 持 されていたこと 妻 が 65 歳 未 満 であること 死 亡 した 夫 が 老 齢 基 礎 年 金 や 障 害 基 礎 年 金 を 受 給 していないこと 妻 が 繰 り 上 げ 支 給 の 老 齢 基 礎 年 金 を 受 給 していないこと 3
図 表 3 18 歳 年 度 末 までの 子 がいない 国 民 年 金 加 入 の 夫 が 死 亡 したケースの 受 給 モデル( 寡 婦 年 金 死 亡 一 時 金 ) 妻 60 歳 妻 65 歳 夫 死 亡 時 に 18 歳 年 度 末 夫 の 国 民 年 金 の 加 入 期 間 が までの 子 がいない 場 合 25 年 以 上 など 所 定 の 要 件 寡 婦 年 金 を 満 たす 場 合 (P42 参 照 ) 遺 族 年 金 は 支 給 され ない 夫 の 国 民 年 金 の 加 入 期 間 が 36 月 以 上 寡 婦 年 金 を 受 給 できる 場 合 はいずれか 選 択 夫 死 亡 時 死 亡 一 時 金 2. 遺 族 年 金 の 受 給 者 数 平 均 年 金 額 (1) 遺 族 年 金 の 受 給 者 数 2011 年 度 末 時 点 での 国 民 年 金 厚 生 年 金 保 険 を 合 わせた 遺 族 給 付 の 受 給 者 は 497 万 人 うち 遺 族 基 礎 年 金 受 給 者 は 9.7 万 人 (うち 遺 族 厚 生 年 金 がない 遺 族 基 礎 年 金 のみの 受 給 者 2.9 万 人 ) 寡 婦 年 金 受 給 者 が 2.0 万 人 一 方 遺 族 厚 生 年 金 の 受 給 者 は 492.4 万 人 であり 公 的 遺 族 給 付 の 大 半 を 遺 族 厚 生 年 金 が 占 めている さらに その 受 給 者 は 妻 が 474.2 万 人 で 夫 の 6.2 万 人 子 の 2.3 万 人 を 大 きく 上 回 る( 図 表 4-1) また 農 林 共 済 が 厚 生 年 金 保 険 に 統 合 後 の 2002 年 度 からの9 年 間 では 受 給 者 数 が 370 万 人 から 497 万 人 へ 127 万 人 の 増 加 (1.34 倍 )となった これは 子 があることが 支 給 の 前 提 である 遺 族 基 礎 年 金 が 子 の 減 少 の 影 響 もあり 受 給 者 数 が2 万 人 減 少 した 一 方 終 身 支 払 いスキームの 遺 族 厚 生 年 金 の 受 給 者 が 約 130 万 人 も 増 加 したため 2011 年 度 末 時 点 での 遺 族 厚 生 年 金 の 年 金 総 額 は5 兆 円 を 超 える( 図 表 4-2) 厚 生 労 働 省 の 試 算 では 今 後 も 遺 族 厚 生 年 金 受 給 者 は 増 加 するとみられており 今 後 一 定 の 支 給 制 限 等 を 実 施 しない 場 合 には 遺 族 年 金 給 付 が 老 齢 年 金 給 付 とともに 年 金 財 政 に 大 き く 影 響 を 及 ぼす 可 能 性 がある 図 表 4-1 遺 族 年 金 の 受 給 者 数 の 推 移 2011 年 度 末 2002 年 度 末 受 給 者 数 割 合 受 給 者 数 遺 族 基 礎 年 金 9.7 万 人 1.9% 11.7 万 人 うち 妻 が 受 給 (8.7 万 人 ) 1.7% (10.8 万 人 ) うち 子 が 受 給 (1.0 万 人 ) 0.2% ( 1.0 万 人 ) (うち 基 礎 年 金 のみの 受 給 者 ) (2.9 万 人 ) 0.6% ( 3.7 万 人 ) 寡 婦 年 金 2.0 万 人 0.4% 2.5 万 人 遺 族 厚 生 年 金 492.4 万 人 98.8% 364.5 万 人 うち 妻 が 受 給 (474.2 万 人 ) 96.5% (354.6 万 人 ) うち 夫 が 受 給 (6.2 万 人 ) 1.2% ( 3.8 万 人 ) うち 子 が 受 給 (2.3 万 人 ) 0.5% ( 2.4 万 人 ) 合 計 ( 遺 族 基 礎 遺 族 厚 生 いずれかを 受 給 ) 497 万 人 100% 370 万 人 図 表 4-2 年 金 総 額 ( 兆 円 ) 2011 年 度 末 2002 年 度 末 出 所 : 厚 生 年 金 保 険 国 民 年 金 事 業 年 報 ( 平 成 23 年 度 平 成 14 年 度 ) ( 厚 生 労 働 省 )より 作 成 増 減 倍 率 遺 族 基 礎 0.10 0.13 0.80 寡 婦 年 金 0.01 0.01 - 遺 族 厚 生 5.07 3.91 1.30 老 齢 基 礎 17.45 11.63 1.50 老 齢 厚 生 20.92 18.53 1.13 障 害 基 礎 1.54 1.31 1.18 障 害 厚 生 0.30 0.30 0.99 合 計 45.41 35.83 1.26 遺 族 厚 生 老 齢 基 礎 老 齢 厚 生 には 旧 法 の 通 算 年 金 を 含 む 金 額 4
(2) 遺 族 年 金 受 給 者 の 年 齢 別 状 況 165 歳 以 上 の 受 給 者 が 85% 遺 族 年 金 ( 遺 族 基 礎 年 金 遺 族 厚 生 年 金 寡 婦 年 金 ) 受 給 者 の 年 齢 階 級 別 割 合 を 平 成 22 年 遺 族 年 金 受 給 者 実 態 調 査 ( 厚 生 労 働 省 ) から 分 析 すると 59 歳 以 下 の 受 給 者 は わずかに 7.4% 60~64 歳 も 7.4%である 一 方 本 人 の 老 齢 年 金 も 受 給 できる 65 歳 以 上 が 85.1%とかなり 高 い 割 合 である また 遺 族 年 金 の 受 給 開 始 年 齢 で 見 ても 59 歳 以 下 は 34.8% 60~64 歳 が 14.1%に 対 し 65 歳 以 上 が 51.2%と 過 半 数 を 占 めている( 図 表 5) 図 表 5 遺 族 年 金 ( 遺 族 基 礎 年 金 遺 族 厚 生 年 金 寡 婦 年 金 ) 受 給 者 の 年 齢 階 級 別 割 合 年 齢 階 級 受 給 者 の 年 齢 階 級 別 割 合 遺 族 年 金 の 受 給 開 始 年 齢 階 級 別 割 合 59 歳 以 下 7.4% 34.8% 60~64 歳 7.4% 14.1% 65~79 歳 43.1% 41.4% 85.1% 51.2% 80 歳 以 上 42.0% 9.8% 出 所 : 年 金 制 度 基 礎 調 査 ( 遺 族 年 金 受 給 者 実 態 調 査 平 成 22 年 ) ( 厚 生 労 働 省 )より 作 成 2 高 年 齢 層 への 支 給 のあり 方 遺 族 年 金 の 目 的 は 死 亡 した 被 保 険 者 に 生 計 を 維 持 されていた 遺 族 の 生 活 保 障 であ る 子 の 養 育 や 住 宅 ローン 等 を 含 めて 家 計 支 出 が 多 い 壮 年 世 代 の 遺 族 保 障 の 必 要 性 に 比 べ 退 職 所 得 老 齢 年 金 現 役 時 代 からの 金 融 資 産 の 蓄 えが 一 定 程 度 あるケースが 多 い 65 歳 以 上 層 における 遺 族 保 障 の 必 要 性 は 相 対 的 に 低 いとも 考 えられる 現 行 老 齢 厚 生 年 金 を 受 給 していた 被 保 険 者 が 死 亡 した 場 合 にも 遺 族 厚 生 年 金 に 形 を 変 えて 受 給 権 者 ( 遺 族 )が 原 則 死 亡 するまで 受 給 できる 方 式 であるが 今 後 支 給 年 金 額 の 引 き 下 げや 支 給 期 間 の 制 限 等 について 検 討 される 可 能 性 もあると 考 えられる < 支 給 年 金 額 の 引 き 下 げ> 遺 族 厚 生 年 金 額 は 死 亡 した 被 保 険 者 が 受 け 取 るはずであった 老 齢 厚 生 年 金 額 の4 分 の 3の 水 準 であるが 欧 州 各 国 では 被 保 険 者 の 老 齢 年 金 の 50% 程 度 の 水 準 に 設 定 している ケースも 多 い(イギリス 50% ドイツ 60% フランス 54%) 2011 年 度 末 時 点 の 遺 族 厚 生 年 金 の 年 金 総 額 は 約 5 兆 円 ( 図 表 6)であることから 仮 に 受 給 者 の 年 齢 に 関 わらず 一 律 で 支 給 額 を 死 亡 した 被 保 険 者 の 老 齢 厚 生 年 金 の2 分 の1(4 分 の2) に 減 額 した 場 合 には 年 間 の 遺 族 厚 生 年 金 給 付 は 1.6 兆 円 程 度 削 減 (5 兆 円 1/3)できる 計 算 とな る 全 員 一 律 ではなく 自 身 の 老 齢 基 礎 年 金 を 受 給 できる 65 歳 以 上 の 受 給 者 のみ2 分 の 1に 減 額 した 場 合 でも 1.3 兆 円 程 度 削 減 (5 兆 円 65 歳 以 上 の 受 給 者 割 合 85% 1/3 65 歳 以 上 の 平 均 年 金 額 の 全 体 平 均 に 対 する 割 合 0.98)できるものと 考 えられる < 支 給 期 間 の 制 限 > やや 大 胆 な 試 算 であるが 仮 に 遺 族 厚 生 年 金 の 支 給 を 79 歳 までに 制 限 した 場 合 (そ の 後 は 本 人 の 老 齢 年 金 やそれまでの 蓄 えで 生 計 維 持 する 前 提 )には 遺 族 年 金 の 受 給 者 は 現 在 より4 割 程 度 ( 約 200 万 人 ) 減 少 する 見 込 みである 単 純 に1 人 あたり 平 5
均 月 額 8 万 円 として 試 算 すると 年 間 2 兆 円 近 く(8 万 円 12 ヵ 月 200 万 人 )の 支 出 削 減 となる 84 歳 までの 支 給 に 制 限 した 場 合 でも 受 給 者 は2 割 以 上 減 少 し 年 間 1 兆 円 程 度 の 削 減 につながると 考 えられる 図 表 6 遺 族 年 金 の 年 金 総 額 と 平 均 年 金 月 額 (2011 年 度 末 ) 年 金 の 種 類 受 給 者 年 金 総 額 ( 年 間 ) 平 均 年 金 月 額 妻 972 億 円 93,054 円 遺 族 基 礎 年 金 1,038 億 円 子 66 億 円 54,048 円 寡 婦 年 金 妻 91 億 円 38,462 円 妻 5 兆 251 億 円 89,555 円 夫 133 億 円 17,772 円 遺 族 厚 生 年 金 5 兆 643 億 円 子 87 億 円 74,698 円 その 他 171 億 円 29,508 円 出 所 : 平 成 23 年 度 厚 生 年 金 保 険 国 民 年 金 事 業 年 報 ( 厚 生 労 働 省 )より 作 成 (3) 遺 族 年 金 の 年 金 額 水 準 2011 年 度 末 での 平 均 年 金 月 額 は 図 表 6のとおり 妻 が 受 給 する 遺 族 基 礎 年 金 で 約 9.3 万 円 遺 族 厚 生 年 金 で 約 8.9 万 円 加 入 していた 年 金 種 類 や 家 族 構 成 により 受 給 水 準 は 大 きく 変 わってくる ここで (ア) 厚 生 年 金 加 入 の 夫 が 死 亡 し 妻 と 子 1 人 が 遺 された ケースと(イ) 夫 婦 とも 国 民 年 金 加 入 で 夫 が 死 亡 し 妻 と 子 1 人 が 遺 されたケースにつ いて 受 給 額 ( 概 算 )を 見 てみると 図 表 7のようになる ここでは 加 入 する 年 金 種 類 で 遺 族 給 付 が 大 きく 異 なる 点 と 合 わせて ライフステー ジにより 遺 族 年 金 額 が 変 動 する 点 にも 注 目 していただきたい 加 入 者 属 性 による 給 付 格 差 および 遺 族 給 付 の 現 状 をふまえた 死 亡 保 障 の 私 的 準 備 について 次 頁 以 降 で 述 べたい 図 表 7 ライフステージ 別 の 年 金 受 給 額 の 概 算 ( 被 用 者 世 帯 自 営 業 世 帯 ) 時 期 (ア) 被 用 者 世 帯 (イ) 自 営 業 世 帯 子 が 18 歳 の 年 度 末 まで 子 が 18 歳 の 年 度 末 を 迎 え 妻 が 40 歳 未 満 の 場 合 子 が 18 歳 の 年 度 末 を 迎 え 妻 が 40 歳 以 上 の 場 合 妻 が 65 歳 になった 場 合 妻 が 65 歳 になり 老 齢 厚 生 年 金 の 受 給 権 も 有 する 場 合 約 18.2 万 円 遺 族 基 礎 9.3 万 円 + 遺 族 厚 生 8.9 万 円 約 8.9 万 円 遺 族 厚 生 8.9 万 円 約 13.8 万 円 中 高 齢 寡 婦 加 算 4.9 万 円 + 遺 族 厚 生 8.9 万 円 約 13.7 万 円 老 齢 基 礎 4.8 万 円 + 遺 族 厚 生 8.9 万 円 1 約 13.7 万 円 老 齢 基 礎 4.8 万 円 + 老 齢 厚 生 と 遺 族 厚 生 合 わせて 8.9 万 円 1 9.3 万 円 遺 族 基 礎 年 金 9.3 万 円 なし なし 4.8 万 円 老 齢 基 礎 4.8 万 円 - 1 妻 が 1956 年 4 月 1 日 以 前 生 まれの 場 合 には 経 過 的 寡 婦 加 算 がある 出 所 : 平 成 23 年 度 厚 生 年 金 保 険 国 民 年 金 事 業 年 報 ( 厚 生 労 働 省 )データより 作 成 6
3. 加 入 者 属 性 による 支 給 水 準 の 格 差 被 保 険 者 種 別 ( 第 1 号 第 2 号 第 3 号 )の 位 置 づけや 保 険 料 負 担 額 が 異 なるという 前 提 があるものの 福 祉 的 給 付 といった 側 面 から 考 えれば 遺 族 年 金 は 老 齢 年 金 よ り 加 入 者 属 性 による 給 付 格 差 は 極 力 抑 えられるべきと 考 える ここで 被 保 険 者 や 遺 族 の 属 性 による 給 付 水 準 等 の 状 況 について 確 認 したい (1) 自 営 業 世 帯 と 被 用 者 世 帯 1 自 営 業 世 帯 自 営 業 世 帯 と 被 用 者 世 帯 とでは 給 付 格 差 が 顕 著 である 自 営 業 では 遺 族 基 礎 年 金 のみ が 対 象 で さらに 18 歳 年 度 末 までの 子 がいない 場 合 にはそれも 支 給 されず 死 亡 一 時 金 (12~32 万 円 )のみのケースが 多 い 25 年 以 上 の 被 保 険 者 期 間 があり 一 定 の 要 件 を 満 た せば 寡 婦 年 金 の 支 給 対 象 にはなるが 死 亡 一 時 金 のケースが 圧 倒 的 に 多 い(2011 年 度 の 新 規 裁 定 は 死 亡 一 時 金 が 38,036 人 に 対 し 寡 婦 年 金 796 人 ) 仮 に 寡 婦 年 金 が 受 給 できたとしても 60 歳 から5 年 間 限 定 であり 支 給 額 は 必 ずしも 十 分 な 水 準 とは 言 え ない( 夫 が 30 年 加 入 していた 場 合 でも 年 金 額 は 月 4 万 円 弱 ) また 子 があり 遺 族 基 礎 年 金 が 支 給 される 場 合 でもその 水 準 は 子 1 人 の 場 合 で 月 約 8.4 万 円 子 が2 人 の 場 合 で 月 約 10.3 万 円 であるため 遺 族 給 付 だけでは 生 活 維 持 が 難 しいケースも 多 いであろう 遺 族 給 付 以 外 の 就 労 収 入 等 で 賄 うことが 必 要 となる 生 活 保 護 に 頼 らざる 得 ない 状 況 も 考 えられる 年 金 制 度 だけでセーフティネットを 確 立 する ことが 必 須 とまでは 言 えないが 特 に 国 民 年 金 のみ 世 帯 について 年 金 制 度 上 の 給 付 充 実 を 期 待 したい 2 被 用 者 世 帯 一 方 被 用 者 世 帯 では 被 用 者 である 夫 が 万 一 の 場 合 子 の 有 無 年 齢 に 関 わらず 遺 族 厚 生 年 金 が 支 給 され さらに 18 歳 年 度 末 までの 子 がいる 場 合 は 遺 族 基 礎 年 金 も 併 給 さ れる 妻 が 受 給 する 年 金 は 遺 族 厚 生 年 金 で 月 約 8.9 万 円 遺 族 基 礎 年 金 の 月 約 8.4~10.3 万 円 と 合 わせて 月 18 万 円 程 度 ( 子 1 人 の 場 合 : 約 17.4 万 円 子 2 人 の 場 合 : 約 19.2 万 円 ) さらに 子 が 18 歳 の 年 度 末 を 迎 え 遺 族 基 礎 年 金 の 支 給 がなくなるタイミングから も 中 高 齢 寡 婦 加 算 ( 月 約 4.9 万 円 )が 支 給 されるなど 自 営 業 世 帯 と 比 べ 優 遇 されてい る( 図 表 8) 7
図 表 8 自 営 業 世 帯 と 被 用 者 世 帯 の 遺 族 年 金 水 準 の 違 い 自 営 業 世 帯 被 用 者 世 帯 子 18 歳 年 度 末 夫 死 亡 子 18 歳 年 度 末 妻 65 歳 遺 族 基 礎 年 金 子 1 人 月 8.4 万 円 遺 族 基 礎 年 金 子 1 人 月 8.4 万 円 中 高 齢 寡 婦 加 算 月 4.9 万 円 経 過 的 寡 婦 加 算 妻 の 老 齢 基 礎 年 金 遺 族 厚 生 年 金 月 8.9 万 円 (2) 共 働 き 片 働 き 単 身 世 帯 1 単 身 世 帯 の 父 母 への 遺 族 年 金 給 付 について 独 身 の 被 用 者 が 死 亡 した 場 合 生 計 を 維 持 されていた 父 母 ( 祖 父 母 )が 55 歳 以 上 の 場 合 に 60 歳 から 遺 族 厚 生 年 金 が 終 身 にわたり 支 給 される 生 計 維 持 要 件 ( 生 計 同 一 であっ たこと 父 母 の 年 間 収 入 が 将 来 にわたり 850 万 円 以 下 )があるとはいえ 父 母 自 身 が 老 齢 年 金 を 受 給 できる 場 合 にも 支 給 要 件 を 満 たすケースがあると 考 えられる 資 産 の 蓄 え ( 退 職 所 得 等 を 含 む)があるケースも 多 いことを 勘 案 すると 今 後 父 母 ( 祖 父 母 )に 対 する 遺 族 厚 生 年 金 は 給 付 削 減 ( 支 給 対 象 外 化 年 間 収 入 基 準 850 万 円 の 引 き 下 げ 支 給 年 金 額 の 引 き 下 げ 支 給 期 間 の 制 限 等 )の 方 向 で 検 討 される 可 能 性 はあろう 2 厚 生 年 金 加 入 の 妻 と 専 業 主 婦 の 65 歳 以 降 の 給 付 について 妻 が 自 分 の 老 齢 年 金 を 受 給 する 前 の 段 階 では 厚 生 年 金 加 入 の 妻 も 専 業 主 婦 も 受 給 する 遺 族 厚 生 年 金 は 同 じ( 死 亡 した 夫 の 報 酬 比 例 部 分 の4 分 の3に 相 当 する 額 要 件 を 満 たせば 中 高 齢 寡 婦 加 算 も 支 給 ) しかし 妻 が 老 齢 厚 生 年 金 を 受 給 する 段 階 になると 受 給 方 法 に 違 いが 出 てくる 妻 が 遺 族 厚 生 年 金 と 老 齢 厚 生 年 金 の 両 方 の 受 給 資 格 がある 場 合 妻 自 身 の 厚 生 年 金 保 険 料 を 年 金 額 に 反 映 させる という 考 え 方 から まず 妻 自 身 の 老 齢 厚 生 年 金 額 を 算 出 し 遺 族 厚 生 年 金 を 受 けた 場 合 との 差 額 があれば 遺 族 厚 生 年 金 として 支 給 される( 図 表 9) 2007 年 3 月 までは 図 表 9のA( 老 齢 厚 生 年 金 ) B( 遺 族 厚 生 年 金 ) C( 遺 族 厚 生 年 金 の3 分 の2+ 老 齢 厚 生 年 金 の2 分 の1)のいずれかを 選 択 できたため Bが 選 択 されることが 多 く 結 果 として 妻 自 身 が 拠 出 した 厚 生 年 金 保 険 料 が 掛 け 捨 て のようになっていた その 是 正 のため 2007 年 4 月 に 改 正 されたとい う 経 緯 であるが 遺 族 厚 生 年 金 は 非 課 税 老 齢 厚 生 年 金 は 課 税 対 象 である 点 を 勘 案 する と 受 給 者 が 手 放 しで 喜 べる 改 正 ではなかったと 言 えよう 一 方 専 業 主 婦 は 自 身 の 老 齢 厚 生 年 金 がないため 自 動 的 に 遺 族 厚 生 年 金 となり 非 課 税 扱 いとなる 長 年 厚 生 年 金 保 険 料 を 拠 出 した 妻 のほうが 専 業 主 婦 よりも 税 制 面 で 不 利 な 状 況 にある 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 では 第 3 号 被 保 険 者 制 度 の 見 直 し につい て 検 討 される 予 定 だが 上 記 の 観 点 に 関 する 議 論 も 期 待 したい 8
図 表 9 老 齢 厚 生 年 金 と 遺 族 厚 生 年 金 の 支 給 方 法 (2007 年 4 月 以 降 ) まず 自 身 の 老 齢 厚 生 < 遺 族 厚 生 年 金 > 年 金 Aを 全 額 受 給 B C 差 額 を 支 給 遺 族 厚 生 年 金 遺 族 厚 生 年 金 の 3 分 の2 ( 死 亡 した 被 保 険 A 老 齢 厚 生 年 金 + 者 の 報 酬 比 例 部 老 齢 厚 生 年 金 相 当 額 は 支 給 老 齢 厚 生 年 金 の 分 の4 分 の3) 停 止 2 分 の1 老 齢 基 礎 年 金 いずれか 高 いほうの 額 が 遺 族 厚 生 年 金 の 額 (3) 男 性 被 保 険 者 と 女 性 被 保 険 者 1 父 子 家 庭 への 遺 族 基 礎 年 金 の 支 給 開 始 (2014 年 4 月 )について これまで 遺 族 基 礎 年 金 の 支 給 対 象 となっていなかった 父 子 家 庭 について 2014 年 4 月 から 対 象 化 されることは 大 きな 前 進 である しかし 18 歳 年 度 末 までの 子 を 持 つ 全 て の 父 子 家 庭 に 支 給 されるわけではなく 第 3 号 被 保 険 者 である 妻 が 死 亡 した 場 合 は 対 象 外 つまり 夫 が 会 社 員 の 専 業 主 婦 が 死 亡 した 場 合 には 18 歳 年 度 末 までの 子 がいる 父 子 家 庭 であっても 遺 族 年 金 給 付 はない 点 に 留 意 しておく 必 要 がある 2 厚 生 年 金 加 入 の 妻 が 死 亡 した 場 合 夫 婦 のみ 世 帯 で 厚 生 年 金 に 加 入 の 妻 が 死 亡 した 場 合 夫 が 55 歳 以 上 である 場 合 にのみ 遺 族 厚 生 年 金 が 支 給 される 夫 が 55 歳 未 満 の 場 合 には 仮 に 所 得 が 低 い 場 合 でも 支 給 さ れない 夫 が 生 計 を 維 持 していくための 一 定 の 所 得 がない 場 合 には やはり 年 金 以 外 の セーフティネットに 頼 らざるを 得 なくなるケースもあろう 4. 遺 族 給 付 に 関 するその 他 の 課 題 等 (1) 遺 族 基 礎 年 金 の 支 給 期 間 のあり 方 遺 族 基 礎 年 金 は 子 が 18 歳 の 年 度 末 を 迎 えると 失 権 するが この 18 歳 という 基 準 は 1961 年 ( 昭 和 36 年 )の 旧 法 母 子 年 金 の 時 代 からのもの 1960 年 当 時 4 年 制 大 学 への 進 学 率 は 男 女 計 で 8.2%であったが 2012 年 には 50.8%( 男 性 55.6% 女 性 45.8%) に 上 昇 しており 短 大 専 修 学 校 等 を 含 めると 76.4%が 高 校 卒 業 後 進 学 している 18 歳 以 降 も 数 年 間 は 教 育 費 を 中 心 に 相 当 な 家 計 負 担 が 続 くケースが 多 いと 言 える このような 状 況 を 鑑 みれば 遺 族 基 礎 年 金 の 支 給 期 間 を 子 が 満 20 歳 ( 成 人 )または 22 歳 の 年 度 末 ( 大 学 卒 業 )まで 延 長 することを 検 討 されても 良 いのではないか 遺 族 厚 生 年 金 では 遺 族 基 礎 年 金 打 ち 切 りのタイミングで 中 高 齢 寡 婦 加 算 があることから 期 間 延 長 は 遺 族 基 礎 年 金 しか 受 給 できないケースに 適 用 する 方 式 が 良 いと 考 える... 仮 に 改 正 した 場 合 にはどの 程 度 の 給 付 増 になるであろうか 図 表 10 は 遺 族 基 礎 9
... 年 金 のみの受 給 者 が 子 の 18 歳 年 度 末 到 来 等 により 受 給 できなくなった 年 間 の 受 給 者 数 および 支 給 期 間 を 延 長 することによる 新 規 裁 定 者 の 増 加 数 推 計 である 受 給 できなくなった 遺 族 基 礎 年 金 のみの 受 給 者 数 は 年 間 約 4,300 人 また 新 規 裁 定 者 の 増 加 数 推 計 は 子 が 満 20 歳 まで 期 間 延 長 するケースで 約 280 人 22 歳 年 度 末 まで 延 長 す るケースで 約 750 人 となった これをもとに 試 算 すると 子 が 満 20 歳 まで 期 間 延 長 した 場 合 の 給 付 増 は1 年 間 で 約 47.3 億 円 (8.6 万 円 12 ヵ 月 (4,300 人 +280 人 )) 18 歳 年 度 末 から 満 20 歳 までの 期 間 を 平 均 1.5 年 として 合 計 71.0 億 円 (47.3 億 円 1.5 年 )の 給 付 増 と 試 算 される これは 年 間 の 遺 族 基 礎 年 金 の 年 金 総 額 1,038 億 円 の 6.8% 相 当 程 度 である 同 様 に 子 が 22 歳 年 度 末 までの4 年 間 延 長 するケースでは 4 年 間 分 で 208.5 億 円 の 給 付 増 ( 年 間 の 遺 族 基 礎 年 金 総 額 の2 割 相 当 )と 試 算 される 図 表 10 遺 族 基 礎 年 金 のみの 受 給 者 の 状 況 年 度 末 受 給 者 数 新 規 裁 定 者 数 その 年 度 に 受 給 でき なくなった 人 数 平 均 年 金 月 額 2008 年 度 31,875 人 - - - 2009 年 度 30,799 人 3,167 人 4,243 人 86,792 円 2010 年 度 29,785 人 1 3,277 人 4,291 人 86,496 円 2011 年 度 28,914 人 2 3,201 人 3 4,072 人 (1+3-2) 85,810 円 試 算 の 前 提 および 試 算 結 果 遺 族 基 礎 年 金 のみの 受 給 者 で その 年 に 受 給 できなくなる 人 数 ( 上 表 より) 4,300 人 18 歳 年 度 末 までの 人 口 ( 推 計 )2,094.4 万 人 18 歳 年 度 末 から 満 20 歳 までの 人 口 ( 推 計 )183.5 万 人 18 歳 年 度 末 から 22 歳 年 度 末 までの 人 口 ( 推 計 )492.6 万 人 遺 族 基 礎 年 金 のみの 受 給 者 の 新 規 裁 定 者 の 増 加 数 推 計 満 20 歳 まで 延 長 :3,201 人 (2011 年 度 新 規 裁 定 者 ) 183.5 万 人 2,094.4 万 人 280 人 22 歳 年 度 末 まで 延 長 :3,201 人 (2011 年 度 新 規 裁 定 者 ) 492.6 万 人 2,094.4 万 人 750 人 満 20 歳 まで 延 長 した 場 合 の 負 担 増 8.6 万 円 12 ヵ 月 (4,300 人 +280 人 ) 1.5 年 = 71.0 億 円 22 歳 年 度 末 まで 延 長 した 場 合 の 負 担 増 8.6 万 円 12 ヵ 月 (4,300 人 +750 人 ) 4 年 =208.5 億 円 出 所 : 厚 生 年 金 保 険 国 民 年 金 事 業 年 報 ( 平 成 23 年 度 ほか) ( 厚 生 労 働 省 ) 人 口 統 計 資 料 集 ( 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 )データより 作 成 (2) 遺 族 年 金 と 税 金 社 会 保 険 料 遺 族 年 金 は 障 害 年 金 と 同 様 に 非 課 税 である 障 害 年 金 の 年 金 総 額 ( 年 間 )は 約 1.8 兆 円 であるのに 対 し 遺 族 年 金 はその3 倍 の 約 5.2 兆 円 さらに 遺 族 共 済 年 金 も 含 めた 総 額 は 約 6.5 兆 円 を 超 える 所 得 税 住 民 税 の 非 課 税 に 加 え 社 会 保 険 料 の 計 算 対 象 所 得 からも 除 外 されるため 税 収 社 会 保 険 料 収 入 という 財 源 面 では 影 響 は 小 さくはない 遺 族 の 生 活 保 障 の 観 点 から 全 て 課 税 化 することは 望 ましくないと 考 えるが 年 金 財 政 の 健 全 化 に 向 けては 遺 族 給 付 を 受 けかつ 一 定 以 上 の 所 得 がある 層 等 に 対 する 一 部 課 税 化 等 は 今 後 検 討 される 可 能 性 は 否 定 できない 10
Ⅱ 死 亡 保 障 の 私 的 準 備 に 関 する 視 点 第 Ⅰ 章 で 見 てきた 遺 族 年 金 の 現 状 をふまえ 本 章 では 個 人 で 死 亡 保 障 を 準 備 する 場 合 の 視 点 について 考 えたいと 思 うが まず 遺 族 年 金 以 外 に 受 け 取 れる 可 能 性 がある 労 災 保 険 給 付 や 企 業 保 障 について 確 認 しておきたい 1. 労 災 保 険 の 遺 族 ( 補 償 ) 年 金 について まず 労 災 保 険 の 遺 族 ( 補 償 ) 年 金 給 付 事 由 が 労 働 者 の 業 務 上 または 通 勤 を 原 因 と した 死 亡 に 限 定 されるが 原 則 として 終 身 にわたって 給 付 される 受 給 資 格 者 は 被 災 労 働 者 の 死 亡 当 時 その 収 入 により 生 計 を 維 持 していた 配 偶 者 子 父 母 等 だが 妻 以 外 の 遺 族 については 遺 族 年 金 と 同 様 に 一 定 の 高 齢 または 年 少 ( 夫 父 母 の 場 合 は 55 歳 以 上 子 の 場 合 は 18 歳 年 度 末 まで 等 )あるいは 一 定 の 障 害 状 態 にある 場 合 に 限 定 されるた め 妻 が 死 亡 した 場 合 には 支 給 されないケースもある ここで 夫 45 歳 妻 40 歳 子 10 歳 7 歳 の 世 帯 で 夫 が 労 災 で 死 亡 したケースの 給 付 事 例 を 見 てみたい (ア) 夫 死 亡 時 に 遺 族 特 別 支 給 金 ( 一 時 金 ) 300 万 円 が 支 給 さ... れ その 後 (イ) 月 例 賃 金 を 基 準 にした 給 付 基 礎 日 額 の 223 日 分 の 遺 族 ( 補 償 ) 年 金... および 特 別 給 与 ( 賞 与 等 )を 基 準 にした 算 定 基 礎 日 額 の 223 日 分 の 遺 族 特 別 年 金 が 支 給 される つまり 賞 与 を 含 めた 年 収 の 約 6 割 (223 日 /365 日 )が 毎 年 支 給 される (ウ) 第 1 子 が 18 歳 年 度 末 以 降 は 201 日 分 (エ) 第 2 子 が 18 歳 年 度 末 以 降 は 153 日 分 で 計 算 され 妻 が 55 歳 以 降 は 175 日 分 が 終 身 支 給 される( 図 表 11) 手 厚 い 給 付 内 容 で はあるが 労 災 認 定 が 必 要 なため 支 給 されないケースがある 点 に 留 意 が 必 要 なお 遺 族 年 金 と 労 災 の 遺 族 ( 補 償 ) 年 金 が 同 時 に 受 給 できる 場 合 には 図 表 12 のよ うに 遺 族 年 金 は 全 額 受 給 し 労 災 の 遺 族 ( 補 償 ) 年 金 が 一 定 額 減 額 される 図 表 11 労 災 保 険 の 主 な 遺 族 給 付 遺 族 数 1 人 遺 族 ( 補 償 ) 年 金 ( 月 例 賃 金 を 基 準 とした 給 付 ) 給 付 基 礎 日 額 の 153 日 分 (エ) (55 歳 以 上 の 妻 の 場 合 175 日 分 ) 遺 族 特 別 支 給 金 ( 一 時 金 ) 遺 族 特 別 年 金 ( 特 別 給 与 を 基 準 とした 給 付 ) 算 定 基 礎 日 額 の 153 日 分 (エ) (55 歳 以 上 の 妻 の 場 合 175 日 分 ) 2 人 201 日 分 (ウ) 300 万 円 (ア) 201 日 分 (ウ) 3 人 223 日 分 (イ) 223 日 分 (イ) 4 人 以 上 245 日 分 245 日 分 出 所 : 労 災 保 険 遺 族 ( 補 償 ) 給 付 葬 祭 料 ( 葬 祭 給 付 )の 請 求 手 続 ( 厚 生 労 働 省 ) 11
図 表 12 遺 族 年 金 と 労 災 の 遺 族 ( 補 償 ) 年 金 との 調 整 率 遺 族 年 金 社 会 保 険 の 種 類 併 給 される 年 金 遺 族 ( 補 償 ) 年 金 厚 生 年 金 保 険 国 民 年 金 遺 族 厚 生 年 金 および 遺 族 基 礎 年 金 0.80 厚 生 年 金 保 険 遺 族 厚 生 年 金 0.84 国 民 年 金 遺 族 基 礎 年 金 ( 寡 婦 年 金 の 場 合 も) 0.88 出 所 : 労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 別 表 第 1および 同 法 施 行 令 2. 企 業 による 保 障 企 業 による 主 な 保 障 として 死 亡 退 職 金 と 弔 慰 金 がある これらは 企 業 の 義 務 ではないが 勤 務 先 にこのような 制 度 がある 場 合 には 必 要 保 障 額 の 試 算 に 反 映 させる うえで 制 度 内 容 を 確 認 しておくことが 望 ましい 一 般 的 には 死 亡 退 職 金 は 数 百 万 円 から 1,000 万 円 程 度 弔 慰 金 は 数 十 万 円 から 100 万 円 程 度 である 税 金 の 取 り 扱 いに ついては 死 亡 退 職 金 は 相 続 税 の 課 税 対 象 であるが 500 万 円 法 定 相 続 人 数 の 非 課 税 枠 があり また 弔 慰 金 は 通 常 相 続 税 の 課 税 対 象 にならない 必 要 保 障 額 を 検 討 するうえでは 課 税 の 有 無 についても 確 認 しておきたい 3. 死 亡 保 障 の 私 的 準 備 に 際 して (1) 必 要 保 障 額 を 検 討 する 際 のポイント 万 一 の 場 合 に 備 える 必 要 保 障 額 は 支 出 見 込 額 ( 遺 族 の 生 活 資 金 教 育 資 金 子 ども の 結 婚 式 費 用 住 宅 費 用 葬 儀 費 用 相 続 費 用 等 ) から 公 的 保 障 ( 遺 族 年 金 ) 企 業 保 障 でカバーできる 分 を 差 し 引 いた 金 額 それぞれの 世 帯 の 家 族 構 成 や 今 後 の 支 出 予 定 等 をふまえつつ 夫 が 亡 くなった 場 合 妻 が 亡 くなった 場 合 のケースごとにシ ミュレーションをしておくことが 有 効 である 必 要 保 障 額 = 支 出 見 込 額 - 公 的 保 障 + 企 業 保 障 12
図 表 13 死 亡 保 障 準 備 にあたり 押 さえておきたいポイント 1 夫 妻 が 亡 くなった 場 合 それぞれのケースについて 試 算 しておく 夫 が 死 亡 した 場 合 の 準 備 が 確 保 できていても 妻 が 死 亡 した 場 合 の 保 障 の 準 備 が 不 十 分 なケースもある 2 企 業 保 障 の 有 無 やカバーされる 内 容 を 確 認 しておく 企 業 保 障 でカバーされる 部 分 を 勘 案 していないケースも 多 いと 思 われる 3 労 災 給 付 はプラスアルファと 考 える 労 災 の 遺 族 ( 補 償 ) 年 金 等 は 支 給 事 由 が 限 定 されるため 労 災 給 付 がない 前 提 で 試 算 する 遺 族 基 礎 年 金 が 支 給 されないケースでの 保 障 確 保 4 5 6 7 夫 婦 のみ 世 帯 や 単 身 世 帯 では 遺 族 基 礎 年 金 は 支 給 されない 特 に 自 営 業 の 場 合 に は 遺 族 厚 生 年 金 も 支 給 されない 子 が 18 歳 の 年 度 末 を 迎 えると 遺 族 基 礎 年 金 が 支 給 されなくなる(なお 被 用 者 世 帯 では その 後 中 高 齢 寡 婦 加 算 が 支 給 される) 妻 が 死 亡 した 場 合 遺 族 基 礎 年 金 遺 族 厚 生 年 金 が 支 給 されないケース 等 の 保 障 確 保 2013 年 度 内 は 遺 族 基 礎 年 金 は 母 子 家 庭 のみが 対 象 2014 年 4 月 から 父 子 家 庭 も 遺 族 基 礎 年 金 の 対 象 となるが 第 3 号 被 保 険 者 で ある 妻 が 死 亡 した 場 合 の 父 子 家 庭 には 遺 族 基 礎 年 金 は 支 給 されない 夫 婦 のみ 世 帯 で 厚 生 年 金 加 入 の 妻 が 死 亡 し 夫 55 歳 未 満 の 場 合 は 支 給 されない 遺 族 年 金 が 有 期 支 給 であるケースをふまえての 保 障 確 保 厚 生 年 金 加 入 の 夫 が 死 亡 した 際 に 妻 が 30 歳 未 満 の 場 合 遺 族 厚 生 年 金 は5 年 間 の 有 期 支 給 余 裕 を 持 った 準 備 を 心 掛 けることが 望 ましい 年 金 財 政 の 現 状 を 勘 案 すると 将 来 的 に 遺 族 年 金 の 給 付 削 減 の 可 能 性 も 否 定 でき ない (2) 生 命 保 険 会 社 での 必 要 保 障 額 シミュレーションサービス 生 命 保 険 各 社 では 顧 客 の 基 本 情 報 に 基 づく 必 要 保 障 額 診 断 サービスを 実 施 している 最 近 では ホームページ 上 でも 顧 客 自 身 が 情 報 を 入 力 することによって 必 要 保 障 額 を 簡 単 に 試 算 できるサービスを 実 施 しているケースも 多 いので ぜひ 一 度 利 用 されることを お 勧 めしたい 参 考 として 以 下 に 明 治 安 田 生 命 保 険 相 互 会 社 の 必 要 保 障 額 試 算 メニュ ーの 内 容 を 紹 介 する 13
図表14 明治安田生命保険の 必要保障額試算 メニュー 入力画面 明治安田生命ホームページのトップ画面左上 の 保険をご検討中のお客さま タブを押す 保険を検討する前に のメニューにある あなたの必要保障額を試算してみよう のバナーを押す 入力画面で以下の情報を入力 世帯主の性別 生年月日 職業 業種 年収 現在の生活費 住宅区分 配偶者 お子さまの有無 配偶者の生年月日 職業 業種 年収 お子さまの性別 生年月日 シミュレーション結果 夫 44 歳(サラリーマン) 妻 42 歳(専業主婦) 子 14 歳 10 歳で月間生活費 32 万円のケース 必要な生活資金 12,595 万円 (遺族の生活費 9,830 万円 教育費 1,615 万円など) 社 会 保 障 制 度 からの 支給額 7,705 万円 (遺族年金 老齢年金 死亡退職金など) 準備すべき必要な保障額 4,890 万円 出所 明治安田生命保険相互会社ホームページ 14 生活福祉研究 通巻 84 号 June 2013
おわりに 本 稿 で 遺 族 年 金 に 関 する 現 状 と 課 題 について 見 てきたが 遺 された 家 族 が 子 育 てや 老 後 を 含 め 安 心 して 生 活 していけるための 前 提 は 所 得 が 保 障 されている こと そして 加 入 する 制 度 や 世 帯 構 成 性 別 等 での 不 公 平 を 感 ずることなく 誰 もが 安 心 感 を 持 てる 制 度 がいっそう 求 められるであろう 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 で 様 々な 検 討 が 進 められているところであるが 年 金 制 度 の 財 政 健 全 化 と 公 平 でバランスの 取 れた 給 付 の 両 面 でさらに 前 進 が 図 られるよ う 遺 族 年 金 においても ある 部 分 は 給 付 を 抑 え ある 部 分 は 給 付 を 充 実 する といっ た 総 合 的 な 観 点 での 検 討 が 進 められることを 期 待 したい 中 でも 遺 族 厚 生 年 金 が 支 給 されないケースにおける 給 付 の 拡 充 遺 族 基 礎 年 金 の 支 給 期 間 の 延 長 等 は 検 討 されて 良 い 事 項 であると 考 える また 一 定 以 上 所 得 者 や 父 母 ( 祖 父 母 ) 等 への 遺 族 年 金 給 付 のあり 方 や 遺 族 年 金 の 税 制 面 のあり 方 等 今 後 給 付 抑 制 の 方 向 で 制 度 改 正 の 検 討 がなされる 可 能 性 も 否 定 できない そして こうした 遺 族 年 金 制 度 の 現 状 をふまえつつ それぞれの 世 帯 の 状 況 ライフ ステージをふまえ 自 助 による 適 切 な 死 亡 保 障 準 備 を 考 えておくことが 肝 要 である 参 考 文 献 厚 生 労 働 省 厚 生 年 金 保 険 国 民 年 金 事 業 年 報 ( 平 成 23 年 度 ほか) 厚 生 労 働 省 年 金 制 度 基 礎 調 査 ( 遺 族 年 金 受 給 者 実 態 調 査 ) 平 成 22 年 厚 生 労 働 省 ホームページ 平 成 25 年 度 年 金 制 度 のポイント 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 資 料 これまでの 取 組 状 況 と 今 後 の 課 題 ( 年 金 分 野 ) 文 部 科 学 省 学 校 基 本 調 査 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 人 口 統 計 資 料 集 明 治 安 田 生 命 保 険 相 互 会 社 ホームページ 15