平 成 22 年 4 月 1 日 現 在 の 法 令 等 に 準 拠 UP!Consulting Up Newsletter 海 外 出 向 者 ( 非 居 住 者 )に 対 する 税 務 海 外 資 産 と 相 続 税 贈 与 税 の 納 税 義 務 者 http://www.up-firm.com 1
海 外 出 向 者 ( 非 居 住 者 )に 対 する 税 務 1. 所 得 税 法 上 の 居 住 者 非 居 住 者 の 定 義 所 得 税 法 では 個 人 の 日 本 居 住 者 を 納 税 義 務 者 と 定 義 しています 居 住 者 とは 日 本 に 住 所 があるか あるいは 過 去 1 年 以 上 にわたり 日 本 に 居 所 のある 個 人 をいいます( 所 法 21 三 ) そして 日 本 居 住 者 は 海 外 と 国 内 所 得 につい て 所 得 税 の 納 税 義 務 があります ここでいう 居 住 者 の 住 所 の 判 断 基 準 は 住 民 登 録 や 住 民 票 の 有 無 によらず 実 態 で 判 断 されることになります( 所 基 通 2-1) 逆 に 日 本 の 所 得 税 法 では 居 住 者 以 外 の 人 のことを 非 居 住 者 と 定 義 しています 非 居 住 者 の 所 得 については 国 内 所 得 のみ 所 得 税 がかかります( 所 法 5) 海 外 に 住 民 登 録 を 移 すことは 比 較 的 簡 単 に 出 来 ますが 課 税 当 局 は 職 業 や 家 族 の 状 況 国 内 資 産 の 有 無 滞 在 日 数 等 で 住 所 の 所 在 を 総 合 的 に 判 断 します 区 分 国 内 源 泉 所 得 海 外 源 泉 所 得 居 住 者 課 税 課 税 非 居 住 者 課 税 非 課 税 居 住 者 は 全 世 界 所 得 に 課 税 されますが 非 居 住 者 ( 外 国 人 旅 行 者 や 駐 在 員 )の 海 外 所 得 は 日 本 では 非 課 税 です 上 記 は 海 外 の 税 制 ( 香 港 を 除 く)でも 基 本 的 に 同 じ 考 え 方 です なお 日 本 では 非 永 住 者 制 度 があり この 点 を 解 説 すれば 以 下 の 通 りです 2. 個 人 の 所 得 税 の 課 税 関 係 区 分 日 本 の 所 得 税 法 上 の 定 義 ( 所 法 2) 課 税 所 得 の 範 囲 1-1 居 住 者 1-2 非 永 住 者 日 本 に 住 所 のある 個 人 or 過 去 1 年 以 上 にわたり 日 本 に 居 所 のある 個 人 日 本 国 籍 を 持 っていない 個 人 and 過 去 10 年 以 内 に 日 本 で 住 所 のある 期 間 が 5 年 以 下 の 個 人 全 世 界 所 得 ( 国 内 + 海 外 所 得 所 法 71 一 ) 同 上 ( 海 外 所 得 は 国 内 送 金 分 のみ 課 税 所 令 17) 2 非 居 住 者 居 住 者 以 外 の 個 人 国 内 所 得 のみ( 海 外 所 得 は 含 まず) 平 成 18 年 4 月 1 日 より 適 用 されます 従 業 員 が 出 向 命 令 を 受 けて 海 外 赴 任 した 場 合 は 日 本 の 非 居 住 者 となります また 海 外 で 現 地 法 人 の 役 員 とし て 勤 務 中 に 受 ける 給 与 賞 与 等 の 報 酬 は 海 外 関 係 会 社 に 勤 務 することにより 支 払 われるので 海 外 源 泉 所 得 となりま す 海 外 法 人 が 支 払 う 給 与 も 日 本 法 人 が 支 払 う 賞 与 や 留 守 宅 手 当 も その 勤 務 が 海 外 で 行 われている 限 り 海 外 源 泉 所 得 となります このため 日 本 では 課 税 関 係 は 発 生 しません http://www.up-firm.com 2
3. 海 外 出 向 者 が 日 本 に 帰 国 出 張 する 際 の 課 税 関 係 ただし 海 外 出 向 社 員 が 日 本 に 出 張 で 帰 国 して 一 時 的 業 務 についた 場 合 は 俸 給 給 料 賃 金 歳 費 賞 与 又 はこれらの 性 質 を 有 する 給 与 その 他 人 的 役 務 の 提 供 に 対 する 報 酬 のうち 国 内 において 行 う 勤 務 その 他 の 人 的 役 務 の 提 供 に 基 因 するもの に 該 当 して 国 内 源 泉 所 得 とされます( 所 法 161 条 1 八 ) このため 海 外 から 日 本 へ 出 張 ベースで 帰 国 して 勤 務 している 間 の 海 外 子 会 社 から 支 給 される 給 与 は 日 本 で 確 定 申 告 する 必 要 があります また 日 本 法 人 が 支 給 する 賞 与 や 留 守 宅 手 当 ては 日 本 法 人 に 源 泉 徴 収 義 務 が 生 じます しかし 以 下 に 示 すように 租 税 条 約 の 短 期 滞 在 者 免 税 規 定 の 3 要 件 を 満 たす 場 合 は 例 外 的 に 免 税 とされます 確 定 申 告 の 必 要 はありません 日 本 法 人 が 支 給 する 賞 与 等 については 非 居 住 者 の 国 内 源 泉 所 得 に 該 当 し 租 税 条 約 の2を 満 たさないので 課 税 問 題 が 生 じます 日 本 法 人 に 源 泉 徴 収 義 務 があります 4. 租 税 条 約 海 外 で 働 いていても 183 日 を 越 えない 場 合 は 租 税 条 約 を 締 結 している 場 合 は 短 期 滞 在 者 の 免 税 規 定 により 相 手 国 で 所 得 税 を 課 税 されません 技 術 者 が 1 ヶ 月 程 度 の 出 張 をしても 現 地 法 人 から 報 酬 を 受 けない 場 合 に 限 り 日 本 法 人 での 源 泉 徴 収 で 課 税 関 係 は 完 結 します 租 税 条 約 は 日 本 政 府 が 50 以 上 の 国 地 域 と 締 結 しています この 内 容 に 給 与 等 の 短 期 滞 在 者 免 税 の 条 項 があります No. 租 税 条 約 の 183 日 規 定 で 短 期 滞 在 者 として 免 税 される 要 件 1 滞 在 日 数 が 暦 年 を 通 じて 183 日 以 内 であること 2 給 与 賞 与 等 の 報 酬 が 海 外 現 地 企 業 から 支 払 われないこと( 例 えば 日 本 親 会 社 から 支 払 うこと) 3 給 与 等 が 現 地 企 業 の PE( 恒 久 的 施 設 )から 負 担 されるものでないこと 人 件 費 の 付 替 がないこと ただし 香 港 は 中 国 の 特 別 行 政 区 とされており 日 本 と 中 国 中 国 と 香 港 間 では 租 税 条 約 を 締 結 していますが 日 本 と 香 港 は 租 税 条 約 を 締 結 していません このため 香 港 に 出 張 者 を 派 遣 する 場 合 は 租 税 条 約 がない 状 態 のため 日 本 法 人 から 支 払 われる 出 張 期 間 中 の 給 与 は 香 港 で 給 与 所 得 課 税 されます 5. 平 成 18 年 度 税 制 改 正 までの 非 永 住 者 の 定 義 外 資 系 金 融 機 関 の 日 本 支 店 に 勤 務 するものが 平 成 9 年 に 来 日 し 平 成 13 年 まで 5 年 間 は 非 永 住 者 として 所 得 税 の 申 告 をして その 後 平 成 14 年 の 途 中 に 一 度 米 国 に 帰 国 して 平 成 15 年 に 再 来 日 平 成 15 年 度 から 再 度 非 永 住 者 制 度 の 適 用 を 受 けていました このリピーターのような 悪 用 事 例 によって 法 律 が 改 正 されました( 所 法 21 四 ) 日 本 国 籍 を 持 つ 個 人 は 非 居 住 者 に 該 当 することはあっても 非 永 住 者 に 該 当 することはありません http://www.up-firm.com 3
区 分 平 成 18 年 度 税 制 改 正 前 改 正 後 国 内 に 永 住 する 意 思 がないこと 非 永 住 者 かつ 現 在 まで 5 年 以 上 日 本 に 滞 在 していないこと 日 本 国 籍 を 持 っていない 個 人 かつ 日 本 国 籍 を 持 たないものは 国 内 に 永 住 する 意 思 がない 過 去 10 年 以 内 に 日 本 で 住 所 のある 期 間 が5 年 以 下 の 個 人 と 推 定 する 6. 居 住 者 の 定 義 所 得 税 法 では 居 住 者 とは 国 内 に 住 所 又 は 1 年 以 上 居 所 を 有 している 者 と 定 義 されています ベストセラーの 冒 険 小 説 の 翻 訳 家 がスイスに 住 民 票 を 移 したため 日 本 での 同 族 法 人 S 社 からの 翻 訳 料 について 非 居 住 者 として 20% の 源 泉 徴 収 だけですましていました しかし 日 本 での 営 業 活 動 が 頻 繁 なため 日 本 の 居 住 者 と 認 定 されて 35 億 円 以 上 の 所 得 申 告 漏 れを 指 摘 されました 所 得 税 法 にも 相 続 税 法 にも 客 観 的 な 判 断 基 準 が 無 く 事 実 認 定 が 重 要 となる ケースが 多 く 見 られます http://www.up-firm.com 4
海 外 資 産 と 相 続 税 贈 与 税 の 納 税 義 務 者 1. 概 要 相 続 税 や 贈 与 税 の 納 税 義 務 は 具 体 的 にはどのように 規 定 されているのでしょうか 例 えば 海 外 に 在 住 する 子 供 に 米 国 債 を 贈 与 しても 子 供 に 日 本 の 贈 与 税 が 課 税 されるのでしょうか 海 外 資 産 を 贈 与 しても 贈 与 者 か 受 贈 者 が 日 本 に 住 所 があれば 贈 与 税 の 納 税 義 務 があります 贈 与 者 か 受 贈 者 の いずれかが 過 去 5 年 以 内 に 日 本 に 住 所 があれば 海 外 資 産 でも 相 続 税 や 贈 与 税 の 課 税 対 象 になります 換 言 すれば 贈 与 者 と 受 贈 者 が 共 に 過 去 5 年 以 内 に 日 本 に 住 んでいない 場 合 は 海 外 資 産 を 贈 与 しても 贈 与 税 がかかりません 国 内 資 産 か 海 外 資 産 のどちらに 該 当 するかという 財 産 の 所 在 は 相 続 税 法 で 定 義 しています 財 産 としての 株 式 の 所 在 は 法 人 の 本 店 所 在 地 で 判 定 します( 相 法 101 八 ) このため 外 国 企 業 の 株 式 は 相 続 税 法 上 海 外 資 産 になります したがって 外 国 法 人 の 株 式 は 非 居 住 者 に 贈 与 されても 日 本 の 贈 与 税 は 課 税 されません 海 外 資 産 と は 海 外 不 動 産 の 他 本 店 が 外 国 にある 会 社 の 株 式 ( 例 えば 香 港 シンガポール オランダ 米 国 法 人 株 式 ) 海 外 支 店 に 預 けられている 預 金 が 含 まれます 相 続 税 法 では 相 続 や 遺 贈 贈 与 死 因 贈 与 契 約 の 課 税 関 係 を 以 下 のよ うに 規 定 しています( 相 法 1 条 の 3 4) 相 続 人 日 本 国 籍 有 り 日 本 国 籍 無 し 日 本 に 住 所 有 り 日 本 に 住 所 無 し 被 相 続 人 日 本 に 住 所 有 り 海 外 居 住 5 年 以 下 海 外 居 住 5 年 超 定 義 居 住 無 制 限 納 税 義 務 者 非 居 住 無 制 限 納 税 義 務 者 制 限 納 税 義 務 者 日 本 に 住 所 有 り 日 本 に 住 所 無 し 海 外 居 住 5 年 以 下 日 本 に 住 所 無 し 海 外 居 住 5 年 超 国 内 資 産 : 課 税 海 外 資 産 : 課 税 同 左 同 右 国 内 資 産 : 課 税 海 外 資 産 : 非 課 税 贈 与 税 の 扱 いも 相 続 税 と 同 じです なお 相 続 等 の 開 始 前 5 年 以 内 に 相 続 人 等 が 日 本 国 籍 も 日 本 の 住 所 もない 場 合 で かつ 国 内 資 産 を 相 続 等 で 取 得 していない 場 合 でも 課 税 される 場 合 があります 相 続 時 精 算 課 税 制 度 を 利 用 して 生 前 贈 与 を 受 けていたケース です( 相 法 1 条 の 31 四 21 条 の 93 21 条 の 16) これは 特 定 納 税 義 務 者 と 言 います http://www.up-firm.com 5
税 務 での 住 所 とは 住 民 票 の 有 無 や 市 民 権 外 国 政 府 の 永 住 許 可 の 有 無 183 日 基 準 とは 無 関 係 に 日 本 の 国 税 庁 の 事 実 認 定 によります 海 外 出 張 等 で 一 時 的 に 日 本 を 離 れていてもいずれ 日 本 に 帰 る 場 合 は 住 所 を 日 本 と 推 定 さ れます 相 続 税 法 の 取 扱 通 達 でも 住 所 の 定 義 は 客 観 的 に 判 断 するとしています( 相 基 通 1 の 3 1 の 4 共 -5) こ れらは 事 実 認 定 の 問 題 となるため 納 税 者 には 予 測 可 能 性 がつかず 頻 繁 に 争 いになります 例 えば 米 国 で 生 まれ たばかりの 孫 を 日 本 国 籍 を 選 ばずに 米 国 籍 だけにして 制 限 納 税 義 務 者 にします 二 重 国 籍 は 課 税 されるので 避 ける 必 要 があります( 相 基 通 1 の 3 1 の 4 共 -7) そして 日 本 に 住 む 祖 父 や 父 親 から 米 国 へ 送 金 して 財 務 省 証 券 等 の 有 価 証 券 ( 海 外 資 産 )を 贈 与 すれば 課 税 されないでしょうか 大 手 出 版 社 の C 社 の 事 例 では 課 税 当 局 は 生 活 能 力 のない 孫 の 住 所 の 事 実 認 定 で 課 税 しました 2. 平 成 12 年 度 税 制 改 正 平 成 12 年 度 税 制 改 正 までは 相 続 や 贈 与 で 財 産 を 取 得 した 日 本 人 が 海 外 に 住 んでいた 場 合 国 内 資 産 だけに 課 税 していました このため 海 外 居 住 の 子 供 に 海 外 資 産 を 贈 与 するスキームが 横 行 しました 贈 与 者 が 海 外 に 財 産 を 移 し 受 贈 者 が 一 時 的 に 海 外 に 住 所 変 更 して 非 居 住 者 となった 後 に 海 外 で 贈 与 を 受 けるという 租 税 回 避 行 為 が 増 加 しました 特 に 東 京 高 裁 平 成 17 年 9 月 21 日 判 決 の 事 案 は 典 型 的 手 口 でシンガポール 法 人 株 式 が 贈 与 され 課 税 当 局 を 刺 激 しました( 判 例 集 未 搭 載 ) このため 平 成 12 年 に 租 税 特 別 措 置 法 69 条 が 改 正 されました( 現 状 で は 69 条 は 廃 止 されて 相 法 1 条 の 3 4 で 規 定 ) 平 成 12 年 4 月 1 日 改 正 後 は 当 事 者 のいずれかが 相 続 や 贈 与 前 の 5 年 以 内 に 国 内 に 居 住 していれば 海 外 資 産 も 課 税 対 象 となりました 相 続 や 贈 与 の 税 務 上 は 住 所 主 義 では なく 国 籍 主 義 が 導 入 されました Reference Purpose Only 本 レターに 掲 載 している 情 報 は 一 般 的 なガイダンスに 限 定 されています この 文 書 は 個 別 具 体 的 ケースに 対 する 会 計 税 務 のア ドバイスをするものではありません 会 計 上 の 判 断 や 税 法 の 適 用 結 果 は 事 実 認 定 や 個 別 事 情 によって 大 幅 に 異 なることがありえます また 解 説 の 前 提 となる 会 計 規 則 や 税 制 が 変 更 されている 可 能 性 もあります 実 際 に 企 画 実 行 される 場 合 は 当 事 務 所 の 担 当 者 にご 確 認 ください http://www.up-firm.com 6