月 刊 国 際 税 務 Vol.29 No.11 平 成 21 年 11 月 5 日 発 行 実 務 家 のための 国 際 相 続 実 践 講 座 2 ビジネス タックス アドバイザリー 部 パーソナル タックス サービス グループ 税 理 士 清 水 智 恵 子 Contents 3. 国 籍 と 戸 籍 (1) 血 統 主 義 と 生 地 主 義 (2) 重 国 籍 者 と 国 籍 選 択 制 度 ⅰ) 重 国 籍 となるケース ⅱ) 国 籍 選 択 制 度 第 1 回 では 国 際 相 続 の 概 要 ならびに 国 際 私 法 および 相 続 法 において 対 峙 する 考 え 方 について 記 しました この 根 底 にあるのは いうまでもなく 大 陸 法 と 英 米 法 です 今 回 は 平 成 12 年 度 税 制 改 正 において 相 続 税 の 無 制 限 納 税 義 務 者 に 国 籍 の 概 念 が 導 入 されたことから おもに 国 籍 について 考 えてみます また 第 1 回 1. 国 際 相 続 の 概 要 でもふれた 夫 婦 財 産 制 と 死 亡 時 のみなし 譲 渡 課 税 についても 考 察 します ⅲ) 自 己 の 志 望 による 外 国 籍 の 取 得 ⅳ) 市 民 権 と 国 籍 4. 夫 婦 財 産 制 (1) 夫 婦 共 有 不 動 産 と 贈 与 税 (2) 夫 婦 共 有 不 動 産 と 相 続 税 (3) ジョイントアカウント( 共 同 口 座 )と 贈 与 税 5. 相 続 税 と 死 亡 時 みなし 譲 渡 課 税
3. 国 籍 と 戸 籍 武 富 士 事 件 1 をきっかけに 現 行 相 続 税 法 は 相 続 または 贈 与 により 財 産 を 取 得 する 者 が 日 本 国 籍 を 有 している 場 合 には 日 本 国 外 に 居 住 して 5 年 以 上 経 過 し かつ 贈 与 者 も 日 本 国 外 に 居 住 して 5 年 以 上 たたないと 制 限 納 税 義 務 者 には 該 当 しないこととしました ところで この 日 本 国 籍 を 有 している ということですが なにゆえに 私 たちは 日 本 人 なのでしょうか 逆 にどのような 場 合 に 日 本 国 籍 を 有 しないこととなるのでしょう か 世 の 中 には 複 数 の 国 籍 を 有 する 重 国 籍 者 が 存 在 しますが 重 国 籍 者 が 生 じる 理 由 および 重 国 籍 者 に 対 する 我 が 国 の 施 策 を 理 解 しておくことは クロスボーダーのタックス プランニン グを 考 える 上 では 基 礎 的 な 知 識 として 必 須 と 考 えます (1) 血 統 主 義 と 生 地 主 義 私 たち 日 本 人 は 出 生 すると 親 が 出 生 届 を 役 所 に 提 出 すること により 戸 籍 に 登 録 され 以 来 日 本 人 であることすらも 意 識 せず 日 々 暮 らしているといっても 過 言 ではありませんが 何 ゆえに 日 本 人 なのでしょうか 出 生 による 国 籍 の 取 得 については 親 の 血 統 と 同 じ 国 籍 を 子 に 与 える 立 法 すなわち 自 国 民 を 親 として 生 まれた 子 に 自 国 の 国 籍 の 取 得 を 認 める 血 統 主 義 と 出 生 地 の 国 籍 を 与 える 立 法 すなわち 自 国 で 生 まれた 子 に 自 国 の 国 籍 の 取 得 を 認 める 生 地 主 義 とがあります 日 本 の 憲 法 第 10 条 は 日 本 国 民 たる 要 件 は 法 律 でこれを 定 める と 規 定 し 国 籍 法 に 委 任 しています 国 籍 法 第 2 条 ( 出 生 による 国 籍 の 取 得 )は 出 生 の 時 に 父 又 は 母 が 日 本 国 民 で あるとき に 子 は 日 本 国 民 であるとする と 規 定 しています わが 国 の 国 籍 法 は 戦 前 の 旧 国 籍 法 以 来 父 系 血 統 主 義 を 採 用 してきました すなわち 父 親 が 日 本 人 の 場 合 にのみ その 子 に 日 本 の 国 籍 が 与 えられていましたが 1984 年 に 国 籍 法 が 改 正 (1985 年 1 月 1 日 施 行 )され 父 親 または 母 親 のいずれかが 日 本 人 であれば その 子 は 日 本 国 籍 を 取 得 するという 父 母 両 血 統 主 義 が 採 用 されました 日 本 同 様 に 血 統 主 義 を 採 用 する 国 は おおまかな 分 類 でいうと 韓 国 中 国 などの 東 アジア 諸 国 とドイツ オーストリア イタリ アなどのヨーロッパ 大 陸 諸 国 です 一 方 生 地 主 義 を 採 用 する 国 は アメリカ イギリス オーストラリアなどの 英 米 法 系 の 諸 国 とブラジル チリ アルゼンチンなど 南 米 の 移 民 受 入 国 です (2) 重 国 籍 者 と 国 籍 選 択 制 度 ⅰ) 重 国 籍 となるケース アメリカ 人 夫 日 本 人 妻 との 間 の 子 どもが 1984 年 以 後 に アメリカで 出 生 している 場 合 この 子 どもは 日 本 国 籍 とアメリ カ 国 籍 とを 有 する 重 国 籍 者 になります また 韓 国 人 夫 と 日 本 人 妻 との 間 に 生 まれた 子 どもも 韓 国 日 本 ともに 父 母 両 血 統 主 義 を 採 用 しているので 父 親 の 韓 国 国 籍 と 母 親 の 日 本 国 籍 とを 取 得 して 重 国 籍 者 になります 日 本 人 夫 婦 から 生 まれた 子 どもでも 生 まれた 国 がアメリカ ブラジルなど 生 地 主 義 を 採 用 する 国 である 場 合 は その 子 ど もは 重 国 籍 者 になります 上 記 は 出 生 により 重 国 籍 者 となる 場 合 ですが 出 生 以 外 にも 婚 姻 養 子 縁 組 などの 身 分 行 為 により 重 国 籍 者 となる 場 合 が あります たとえば 一 昔 前 のスイス( 現 行 制 度 は 改 正 され ています)では スイス 人 と 結 婚 した 配 偶 者 にスイスの 国 籍 が 与 えられていました スイス 人 夫 と 結 婚 した 日 本 人 妻 は 日 本 国 籍 とスイス 国 籍 とを 有 する 重 国 籍 者 です ⅱ) 国 籍 選 択 制 度 1984 年 の 国 籍 法 改 正 では 重 国 籍 を 防 止 するため 国 籍 選 択 制 度 が 設 けられました 国 籍 法 第 14 条 1 項 は 外 国 の 国 籍 を 有 する 日 本 国 民 は 外 国 及 び 日 本 の 国 籍 を 有 する こととなった 時 が 20 歳 に 達 する 以 前 であるときは 22 歳 に 達 するまでに その 時 が 20 歳 に 達 した 後 であるときはその 時 から2 年 以 内 に いずれかの 国 籍 を 選 択 しなければならない と 規 定 しています なお この 国 籍 法 改 正 の 前 に 重 国 籍 となった 者 は 日 本 国 籍 を 選 択 したものとみなされ 国 籍 選 択 義 務 と 外 国 国 籍 放 棄 の 義 務 を 免 除 されています 巷 間 で 日 本 は 重 国 籍 を 認 めていない ということを 耳 に することがありますが 重 国 籍 を 認 めていないということは 重 国 籍 者 がいないことを 意 味 しません 重 国 籍 者 は 現 実 に 存 在 します 1 武 富 士 の 故 会 長 と 妻 が 所 有 していたオランダ 籍 の 子 会 社 株 式 を 香 港 居 住 の 長 男 に 贈 与 したことに 対 し 原 処 分 庁 が 長 男 の 主 たる 生 活 の 本 拠 は 日 本 と 認 定 し 贈 与 税 及 び 無 申 告 加 算 税 を 課 する 決 定 処 分 をした 事 件 一 審 ( 東 京 地 裁 平 成 19 年 5 月 23 日 判 決 ( 平 成 17 年 ( 行 ウ) 第 396 号 ) 納 税 者 勝 訴 二 審 ( 東 京 高 裁 平 成 20 年 1 月 23 日 判 決 ( 平 成 19 年 ( 行 コ)215 号 )) 国 側 勝 訴 現 在 最 高 裁 上 告 中 2
国 籍 法 第 15 条 では 上 記 国 籍 選 択 の 期 限 内 に 日 本 の 国 籍 を 選 択 しない 者 に 対 し 法 務 大 臣 は 書 面 により 国 籍 を 選 択 する よう 催 告 できることとし その 催 告 を 受 けた 日 から 1 月 以 内 に 日 本 の 国 籍 を 選 択 しなければ 日 本 の 国 籍 を 失 う と 規 定 し ています しかし 法 務 大 臣 の 催 告 は 国 籍 法 改 正 以 来 1 度 も 行 われたことがないようです 国 籍 選 択 制 度 が 設 けられて 25 年 近 くたちますが 重 国 籍 者 は 存 在 するというのが 現 状 です A) 日 本 国 籍 を 選 択 する 重 国 籍 者 が 日 本 国 籍 を 選 択 する 場 合 は 日 本 の 国 籍 を 選 択 し 外 国 の 国 籍 を 放 棄 します ( 国 籍 法 上 選 択 の 宣 言 と いいます)と 書 かれた 国 籍 選 択 届 を 戸 籍 の 窓 口 に 提 出 すれば 足 ります( 国 籍 法 第 14 条 2 項 戸 籍 法 104 条 の 2) 選 択 の 宣 言 をした 日 本 国 民 は 外 国 国 籍 の 離 脱 義 務 を 負 います( 国 籍 法 第 16 条 1 項 ) 外 国 の 国 籍 を 離 脱 する 方 法 によっても 日 本 国 籍 を 選 択 した ことになりますが その 場 合 は その 外 国 籍 の 離 脱 を 証 明 する 書 類 を 添 付 した 外 国 国 籍 喪 失 届 を 役 場 等 に 届 け 出 ます B) 外 国 の 国 籍 を 選 択 する( 日 本 国 籍 の 喪 失 ) 重 国 籍 者 が 外 国 の 国 籍 を 選 択 する 方 法 としては 次 の 二 つの 方 法 があります 1 法 務 大 臣 に 国 籍 離 脱 届 出 を 提 出 する 方 法 2その 外 国 に 法 令 によりその 外 国 の 国 籍 を 選 択 する 方 法 いずれも 国 籍 離 脱 の 時 または 外 国 籍 選 択 の 時 から 日 本 の 国 籍 を 失 うこととなります( 国 籍 法 第 11 条 2 項 第 13 条 ) 税 務 の 観 点 からすると 重 国 籍 者 は 日 本 の 国 籍 を 有 している ので 相 続 により 財 産 を 取 得 した 時 に 親 子 ともども 海 外 に 居 住 していたとしても 海 外 に 居 住 して 5 年 超 経 過 していな ければ 日 本 の 相 続 税 法 上 の 制 限 納 税 義 務 者 には 該 当 しない ( 非 居 住 無 制 限 納 税 義 務 者 に 該 当 する)こととなります この 場 合 相 続 財 産 が 海 外 に 所 在 する 財 産 のみであっても 原 則 として 日 本 の 相 続 税 が 課 税 されることとなり 日 本 の 相 続 税 の 申 告 義 務 が 生 じます アメリカ 人 夫 日 本 人 妻 その 子 ども 甲 がアメリカと 日 本 との 重 国 籍 者 である 場 合 に 一 家 が 日 本 からアメリカに 移 り 住 ん で 5 年 経 過 しないうちに アメリカ 人 夫 に 相 続 が 発 生 したとき は 日 本 人 妻 子 ども 甲 ともに 日 本 の 相 続 税 法 上 無 制 限 納 税 義 務 者 に 該 当 します 夫 の 財 産 のうちに 日 本 の 財 産 が なくても 海 外 財 産 の 合 計 額 が 遺 産 に 係 る 基 礎 控 除 額 (この ケースでは 7 千 万 円 )を 超 えていれば 日 本 の 相 続 税 の 申 告 義 務 が 生 じます ⅲ) 自 己 の 志 望 による 外 国 籍 の 取 得 シンガポールに 長 年 居 住 し 最 近 になってシンガポールの 市 民 権 を 得 たという 方 から シンガポール 市 民 権 を 得 たので 日 本 以 外 の 財 産 の 贈 与 をすぐに 受 けても 日 本 の 贈 与 税 は 課 税 されませんよね という 質 問 を 受 けました 確 かに 贈 与 を 受 けた 時 に 日 本 の 国 籍 を 有 しておらず かつ 日 本 に 居 住 もしていなければ 制 限 納 税 義 務 者 に 該 当 し 国 外 財 産 の 贈 与 について 日 本 の 贈 与 税 は 課 税 されません( 相 続 税 法 第 1 条 の 4 2 条 の 2) ところで シンガポール 市 民 権 の 取 得 は 日 本 国 籍 を 有 していないことと 同 義 でしょうか 国 籍 法 第 11 条 1 項 は 日 本 国 民 は 自 己 の 志 望 によって 外 国 の 国 籍 を 取 得 したときは 日 本 の 国 籍 を 失 う と 規 定 して います シンガポール 市 民 権 を 取 得 するということは 出 生 や 婚 姻 のように 相 手 国 から 国 籍 が 自 動 的 に 与 えられるのとは 異 なり 自 ら 進 んで 国 籍 を 取 得 したことになります したがって 自 己 の 志 望 によって 外 国 の 国 籍 を 取 得 したとき に 該 当 し その 時 に 日 本 の 国 籍 を 失 います 市 区 町 村 の 戸 籍 係 へ 国 籍 喪 失 の 届 出 をすることと 国 籍 の 喪 失 は 別 問 題 です 戸 籍 に 国 籍 喪 失 が 記 載 されたから 国 籍 を 喪 失 するのではなく 国 籍 を 喪 失 したから 戸 籍 に 記 載 される のです 国 籍 の 喪 失 は あくまでも 国 籍 法 によって 決 まって いるので 市 区 町 村 へ 国 籍 喪 失 の 届 出 がなされていないから といって 日 本 国 籍 を 有 することにはなりません シンガポー ル 市 民 権 を 得 た 人 は その 時 から 日 本 人 ではなくなっている ので シンガポールにおいて 国 外 財 産 の 贈 与 を 受 ける 限 り 日 本 の 贈 与 税 は 課 税 されないこととなります 3
ⅳ) 市 民 権 と 国 籍 市 民 権 (Citizenship)ということばがあります 市 民 権 と 国 籍 が 同 義 であるか 否 かは 国 によって 異 なるようですが 全 く 同 義 である 国 として カナダ オーストリアがあります また アメリカは 市 民 権 と 国 籍 とを 区 別 しており 両 者 の 間 に 若 干 のずれがあるようです 2 が 税 務 上 国 籍 を 問 題 とする 場 合 には ほぼ 同 義 と 解 して 差 し 支 えないと 思 われます 4. 夫 婦 財 産 制 日 本 の 税 務 における 夫 婦 間 の 財 産 所 有 に 対 する 考 え 方 は いたってシンプルです 稼 ぎのないところに 財 産 なし 自 己 の 金 銭 出 資 ないところに 権 利 なし です 無 収 入 の 専 業 主 婦 は 婚 姻 後 相 続 または 贈 与 で 誰 かから 財 産 を 取 得 する 以 外 には 自 身 の 財 産 を 取 得 保 有 することはありえません もし 夫 の 相 続 開 始 時 点 において 妻 名 義 の 預 貯 金 があり それが 結 婚 前 から 有 していたもの あるいは 妻 の 親 等 から 相 続 贈 与 により 取 得 し たものでなければ その 口 座 の 名 義 が 妻 であっても 夫 の 財 産 と 認 定 される 惧 れがあります また 不 動 産 を 取 得 した 際 に 夫 と 妻 がそれぞれの 名 義 で 持 ち 分 登 記 した 場 合 妻 が 妻 固 有 の 金 銭 を 払 い 込 んでいなければ 妻 の 不 動 産 に 対 する 持 ち 分 は 夫 からの 贈 与 ということになります 日 本 の 課 税 制 度 において 夫 婦 の 財 産 について 妻 の 貢 献 が 認 められているのが 相 続 税 の 配 偶 者 の 税 額 軽 減 および 贈 与 税 の 配 偶 者 控 除 制 度 です 前 者 は 配 偶 者 が 相 続 した 財 産 に ついては 原 則 として 配 偶 者 の 法 定 相 続 分 までの 取 得 は 相 続 税 を 課 さず その 生 存 配 偶 者 の 死 亡 の 時 まで 課 税 を 繰 り 延 べると いうものです また 後 者 は 20 年 以 上 連 れ 添 った 夫 婦 間 に おける 居 住 用 不 動 産 の 贈 与 については 課 税 価 格 から 2 千 万 円 の 控 除 をするという 制 度 です 一 方 日 本 以 外 には 呼 び 名 は 異 なっても 婚 姻 してから 取 得 した 財 産 は 夫 婦 の 共 有 財 産 とするという 制 度 を 有 する 国 があり ます フランス ドイツ イタリアやアメリカの 特 定 の 州 (アリゾ ナ カリフォルニア アイダホ ルイジアナ ネバダ ニュー メキシコ テキサス ワシントン)です 夫 婦 共 有 財 産 の 承 継 に ついては 各 国 の 相 続 法 においてそれぞれ 規 定 しています 国 際 2 アメリカは 国 籍 と 市 民 権 とを 区 別 しているが そこでは 国 民 であ る 者 の 範 囲 よりも 市 民 である 者 の 範 囲 の 方 が 狭 い すなわち アメリカ 国 籍 法 (The Immigration and Nationality Act) 正 確 に 言 えば 移 民 帰 化 法 308 条 は アメリカ 国 民 (nationals)ではあるが アメリカ 市 民 (citizens)でない 者 として アメリカの 属 領 (an outline possession)で 生 まれた 者 などをあげている(ここでいう 属 領 とは 現 在 は 米 領 サモアとスウェインズ 島 だけである) ( 市 民 のための 国 籍 法 戸 籍 法 入 門 奥 田 安 弘 著 明 石 書 店 ) 相 続 においては 被 相 続 人 の 本 国 法 ( 州 法 )がどのような 夫 婦 財 産 制 および 相 続 法 を 採 用 しているのか また 本 人 がそれを 選 択 しているか 否 かを 調 査 する 必 要 があります (1) 夫 婦 共 有 不 動 産 と 贈 与 税 夫 婦 共 有 制 を 採 用 しているカリフォルニア 州 に 日 本 人 夫 婦 が 土 地 を 購 入 した 場 合 カリフォルニア 州 法 によればその 土 地 は 夫 婦 共 有 となり 妻 が 1ドルの 対 価 も 負 担 していなくても 妻 に 所 有 権 が 認 められることとなります これは 日 本 の 相 続 税 法 上 夫 から 妻 への 贈 与 に 該 当 しないのでしょうか 通 則 法 3 13 条 第 1 項 は 動 産 または 不 動 産 に 関 する 物 件 及 びその 他 の 登 記 をすべき 権 利 は その 目 的 物 の 所 在 地 法 による と 規 定 しています さらに 第 2 項 では 前 項 の 規 定 にかかわらず 同 項 に 規 定 する 権 利 の 得 喪 は その 原 因 となる 事 実 が 完 成 した 当 時 におけるその 目 的 物 の 所 在 地 法 による とあります これらの 規 定 から カリフォルニア 州 にある 土 地 を 購 入 した 時 点 において 妻 にその 土 地 に 対 する 所 有 権 が 生 じていると 考 えられます この 問 題 は 東 京 高 等 裁 判 所 において 争 われ ており 相 続 税 法 第 9 条 (みなし 贈 与 )の 規 定 により 不 動 産 の 購 入 代 金 の 2 分 の 1 の 金 員 を 妻 が 夫 から 贈 与 により 取 得 したものとみなす という 判 決 4 が 出 ています 一 方 相 続 税 基 本 通 達 9 9( 財 産 の 名 義 変 更 があった 場 合 )は 不 動 産 株 式 等 の 名 義 の 変 更 があった 場 合 において 対 価 の 授 受 が 行 われていないとき 又 は 他 の 者 の 名 義 で 新 たに 不 動 産 株 式 等 を 取 得 した 場 合 においては これらの 行 為 は 原 則 と して 贈 与 として 取 り 扱 うものとする と 規 定 しています 贈 与 は 当 事 者 の 一 方 が 自 己 の 財 産 を 無 償 で あげましょう という 意 思 を 表 示 し 相 手 方 が いただきます という 受 諾 を することによって 効 力 を 生 じる 契 約 であり 口 頭 でも 成 立 しま す 贈 与 は 親 族 等 の 特 別 関 係 がある 者 間 で 行 われるのが 通 常 ですから 当 事 者 間 で あげましょう いただきます と いう 贈 与 の 意 思 の 合 致 があったかどうかの 事 実 認 定 は 困 難 を 伴 うことが 多 くなります 対 価 を 支 払 わないで 財 産 の 名 義 変 更 が 行 われた 場 合 において そこに あげましょう いただきます の 意 思 の 合 致 があったかいなかの 認 定 が 困 難 なときに この 行 為 を 本 来 の 贈 与 と 見 るのか みなし 贈 与 とするのかという 問 題 が 生 じます そこで 対 価 を 支 払 わないで 財 産 の 名 義 3 ここでいう 物 件 とは 国 際 私 法 上 の 概 念 であり 具 体 的 には 物 を 直 接 支 配 する 権 利 を 意 味 する( 基 本 法 コンメンタール57 頁 高 桑 昭 ) 4 東 京 高 等 裁 判 所 平 成 年 ( 行 コ) 第 号 贈 与 税 決 定 処 分 等 取 消 請 求 訴 訟 事 件 ( 棄 却 ) 情 報 公 開 法 第 9 条 第 1 項 による 開 示 情 報 判 決 年 月 日 平 成 19 年 10 月 10 日 4
変 更 が 行 われた 場 合 には 相 続 税 法 第 9 条 のみなし 贈 与 では なく 本 来 の 贈 与 として 取 り 扱 うことするのが この 通 達 の 趣 旨 です 夫 婦 がカリフォルニアに 土 地 を 取 得 し 夫 婦 共 有 となった 場 合 に 妻 が 資 金 を 負 担 していないときは その 不 動 産 の 購 入 代 金 の 2 分 の 1 について 裁 判 ではみなし 贈 与 上 記 通 達 によれば 本 来 の 贈 与 となります みなし 贈 与 と 本 来 の 贈 与 という 違 いは ありますが いずれにしても 日 本 の 贈 与 税 課 税 の 対 象 になり ます (2) 夫 婦 共 有 不 動 産 と 相 続 税 カリフォルニアに 土 地 を 有 している 夫 婦 の 夫 に 相 続 が 起 こった 場 合 において この 土 地 を 取 得 した 時 (10 年 前 )に 妻 が 資 金 負 担 していなく かつ 贈 与 税 の 申 告 および 納 税 もしてい ないとしましょう この 場 合 この 夫 に 係 る 相 続 税 の 申 告 に ついて この 土 地 のすべてを 夫 の 財 産 として 申 告 するのか その 2 分 の 1 を 相 続 財 産 として 申 告 するのか 担 当 税 理 士 は 頭 を 悩 ませることになるでしょう この 土 地 のすべてを 被 相 続 人 の 財 産 として 申 告 する 理 由 は 資 金 負 担 をしたのは 夫 であるから 不 動 産 の 名 義 にかかわらず その 不 動 産 のすべてが 夫 の 財 産 であるという 考 え 方 です 一 方 その 2 分 の 1 を 相 続 財 産 として 申 告 すれば 足 りると する 理 由 は 上 記 (1) で 述 べたとおり 税 務 上 この 土 地 は 取 得 の 時 において 夫 から 妻 への 贈 与 が 成 立 しているのですか ら 所 有 権 の 2 分 の 1 は 当 然 に 妻 に 移 転 しています 10 年 前 に 贈 与 税 の 申 告 が 適 正 になされているか 否 かは 別 問 題 で あり その 贈 与 が 相 続 開 始 前 3 年 以 内 の 贈 与 でない 限 り 夫 の 相 続 財 産 は その 土 地 に 対 する 夫 の 所 有 権 部 分 のみで あるという 考 え 方 です (3)ジョイントアカウント( 共 同 口 座 )と 贈 与 税 日 本 にはなじみがありませんが 海 外 の 銀 行 にはジョイント アカウントという 共 同 名 義 で 開 設 できる 口 座 があります 一 般 には 夫 婦 等 共 同 生 活 者 がジョイントアカウントを 開 設 し 生 活 費 をその 口 座 から 引 き 出 して 使 用 するのに 便 利 なよう です 夫 婦 でジョイントアカウントを 開 設 し 夫 の 預 金 からこのジョイ ントアカウントに 資 金 を 移 動 した 際 に 即 座 に 夫 から 妻 への 贈 与 となるか という 疑 問 が 生 じます 預 金 については ジョ イントアカウントに 限 らず 日 本 においても 家 族 の 名 義 で 口 座 を 開 設 し せっせとそこに 資 金 を 移 動 するというのはよくある 話 です 相 続 税 の 申 告 の 際 問 題 となるのは これら 家 族 名 義 の 預 貯 金 です いくら 名 義 が 家 族 であっても 通 帳 印 鑑 キャッシュカードを 被 相 続 人 が 管 理 している 場 合 には その 名 義 にかかわらず その 預 貯 金 は 被 相 続 人 の 相 続 財 産 となり ます ジョイントアカウントについて 話 を 戻 せば 夫 がジョイントアカ ウントに 資 金 を 移 動 しただけでは 夫 から 妻 への 贈 与 には 該 当 しないと 考 えられます なぜなら その 資 金 は 名 義 こそ 夫 婦 共 有 となりましたが 未 だ 費 消 されておらず 夫 から 妻 へその 管 理 支 配 が 移 転 したとは 言 えないからです また その 後 夫 婦 が 通 常 の 生 活 費 をその 口 座 から 出 し 入 れして いる 限 りにおいても 贈 与 の 問 題 は 生 じないと 考 えられます 日 本 でも 夫 名 義 の 預 金 口 座 のキャッシュカードを 妻 が 保 有 し その 口 座 から 生 活 費 を 引 き 出 すというのは 珍 しくありません しかし 夫 の 預 金 から 多 額 の 資 金 をジョイントアカウントに 移 し しかも 妻 が 妻 の 裁 量 によってその 口 座 の 預 金 で 他 の 資 産 を 購 入 したり 運 用 した 場 合 には 夫 から 妻 への 贈 与 が 成 立 する 可 能 性 があります ジョイントアカウントについては 夫 婦 共 有 不 動 産 と 異 なって 口 座 を 開 設 した 途 端 に 贈 与 となる わけではなく 事 実 認 定 の 領 域 に 属 すると 考 えられます 5
5. 相 続 税 と 死 亡 時 みなし 譲 渡 課 税 相 続 税 のない 国 は 富 裕 層 にとっては 非 常 に 魅 力 的 ですが 海 外 移 住 の 候 補 地 を 選 択 する 際 に 相 続 税 の 有 無 のみで 判 断 すると 候 補 地 を 誤 る 可 能 性 があります オーストラリア ニュー ジーランド カナダは 相 続 税 がない( 州 税 を 除 く)という 点 に おいては 同 一 ですが カナダには 死 亡 時 みなし 譲 渡 課 税 があり ます すなわち 配 偶 者 を 除 く 相 続 人 が 相 続 する 財 産 については 被 相 続 人 が 死 亡 時 に 譲 渡 をしたものとして 死 亡 時 までに 生 じ たキャピタルゲインについて 所 得 税 課 税 がなされます この 結 果 相 続 人 の 取 得 価 額 は 死 亡 時 の 公 正 市 場 価 格 となります これによく 似 た 制 度 が 日 本 の 所 得 税 にもあります 個 人 が 法 人 に 対 して 贈 与 や 遺 贈 を 行 った 場 合 または 相 続 で 限 定 承 認 を 行 った 場 合 に 譲 渡 があったものとみなして 時 価 課 税 するという ものです( 所 得 税 法 第 59 条 ) 昭 和 25 年 から 昭 和 36 年 頃 までは 相 続 や 個 人 に 対 する 贈 与 遺 贈 による 資 産 の 移 転 が あったときにも その 移 転 時 の 時 価 と 取 得 価 額 との 差 額 につい て 譲 渡 所 得 課 税 がなされていました しかし 世 の 中 の 常 識 に 合 わないということで 段 階 的 に 廃 止 され 現 行 制 度 となって います カナダのみなし 譲 渡 課 税 に 関 する 論 点 としては 日 本 の 相 続 税 の 計 算 において この 死 亡 時 みなし 譲 渡 課 税 を 相 続 税 の 外 国 税 額 控 除 の 対 象 としてよいのか という 点 です たとえば 被 相 続 人 が 日 本 とカナダに 財 産 を 保 有 しており 相 続 人 は 日 本 に 居 住 する 日 本 人 だとします 相 続 人 は 無 制 限 納 税 義 務 者 に 該 当 し 日 本 およびカナダにある 財 産 全 てについて 相 続 税 が 課 税 されます 一 方 カナダにある 財 産 については カナダで 死 亡 時 みなし 譲 渡 課 税 の 適 用 対 象 となり キャピタル ゲインが 生 じている 場 合 には そのキャピタルゲインについて 所 得 税 課 税 されます 日 本 の 相 続 税 法 は 国 際 的 二 重 課 税 については 外 国 税 額 控 除 の 方 法 により 解 消 することしています 相 続 税 法 第 20 条 の 2 は 相 続 または 遺 贈 によりこの 法 律 の 施 行 地 外 にある 財 産 を 取 得 した 場 合 において 当 該 財 産 についてその 地 の 法 令 により 相 続 税 に 相 当 する 税 が 課 せられたときは 当 該 財 産 を 取 得 した 者 については その 課 せられた 税 額 に 相 当 する 金 額 を 控 除 した 金 額 をもって その 納 付 すべき 相 続 税 額 とする と 規 定 して います 結 論 としては カナダの 死 亡 時 みなし 譲 渡 課 税 は 相 続 税 に 相 当 する 税 には 当 たらないので 外 国 税 額 控 除 の 対 象 とは ならないと 考 えられます 6
Ernst & Young アーンスト アンド ヤングについて Contact ビジネス タックス アドバイザリー 部 清 水 智 恵 子 ディレクター 03 3506 2633 chieko.shimizu@jp.ey.com 太 田 光 範 シニアマネージャー 03 3506 2448 mitsunori.ota@jp.ey.com アーンスト アンド ヤングは アシュアランス 税 務 トランザクション アドバイザリーサービスなどの 分 野 における 世 界 的 なリーダーです 全 世 界 の14 万 4 千 人 の 構 成 員 は 共 通 のバリュー( 価 値 観 )に 基 づいて 品 質 において 徹 底 した 責 任 を 果 たし ます 私 どもは クライアント 構 成 員 そして 社 会 の 可 能 性 の 実 現 に 向 けて プラスの 変 化 をもたらす よう 支 援 します 詳 しくは www.ey.comにて 紹 介 しています アーンスト アンド ヤング とは アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドのメンバーファームで 構 成 されるグローバル ネットワークを 指 し 各 メンバ ーファームは 法 的 に 独 立 した 組 織 です アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドは 英 国 の 保 証 有 限 責 任 会 社 であり 顧 客 サービスは 提 供 してい ません に ついて は 長 年 にわたり 培 ってきた 経 験 と 国 際 ネットワークを 駆 使 し 常 にクライアントと 協 力 して 質 の 高 いグローバル なサービスを 提 供 しております 企 業 のニーズに 即 応 すべく 国 際 税 務 M&A 組 織 再 編 や 移 転 価 格 など をはじめ 税 務 アドバイザリー 税 務 コンプライアン スの 専 門 家 集 団 として 質 の 高 いサービスを 提 供 し ております 詳 しくは www.eytax.jpにて 紹 介 しています 2009 Ernst & Young Shinnihon Tax All Rights Reserved. 本 記 事 全 般 に 関 するご 質 問 ご 意 見 等 がございましたら 下 記 まで お 問 い 合 わせ 下 さい コーポレート コミュニケーション 部 Tax.Marketing@jp.ey.com 本 書 又 は 本 書 に 含 まれる 資 料 は 一 定 の 編 集 を 経 た 要 約 形 式 の 情 報 を 掲 載 するものです したがって 本 書 又 は 本 書 に 含 まれる 資 料 のご 利 用 は 一 般 的 な 参 考 目 的 の 利 用 に 限 られ るものとし 特 定 の 目 的 を 前 提 とした 利 用 詳 細 な 調 査 への 代 用 専 門 的 な 判 断 の 材 料 としてのご 利 用 等 はしないでくだ さい 本 書 又 は 本 書 に 含 まれる 資 料 について 新 日 本 アーン スト アンド ヤング 税 理 士 法 人 を 含 むアーンスト アンド ヤン グの 他 のいかなるグローバル ネットワークのメンバーも そ の 内 容 の 正 確 性 完 全 性 目 的 適 合 性 その 他 いかなる 点 につ いてもこれを 保 証 するものではなく 本 書 又 は 本 書 に 含 まれ る 資 料 に 基 づいた 行 動 又 は 行 動 をしないことにより 発 生 した いかなる 損 害 についても 一 切 の 責 任 を 負 いません