The Impact of Japan's Child Benefit on Consumption and Savings 宇 南 山 卓 ( 財 務 総 合 政 策 研 究 所 )
児 童 手 当 の 目 的 と 評 価 児 童 手 当 の 目 的 家 庭 における 生 活 の 安 定 に 寄 与 するとともに 次 代 の 社 会 をになう 児 童 の 健 全 な 育 成 及 び 資 質 の 向 上 に 資 す ること( 児 童 手 当 法 第 1 条 ) この 法 律 は 次 代 の 社 会 を 担 う 子 どもの 健 やかな 育 ちを 支 援 するため( 子 ども 手 当 法 第 1 条 ) 児 童 手 当 はどのように 支 出 されたのか? 消 費 されたのか 貯 蓄 されたのか? 消 費 されたとしたら 何 に 消 費 されたのか? 子 供 の 健 全 な 育 成 に 資 するような 支 出 であったか?
児 童 手 当 の 影 響 の 実 証 方 法 児 童 手 当 を 受 け 取 っている 状 況 と 受 け 取 ってい ない 状 況 での 消 費 を 比 較 C = α + Zγ + β X C : 消 費 Z : 世 帯 属 性 X : 児 童 手 当 に 関 する 変 数 児 童 手 当 以 外 の 要 素 はコントロールする 必 要 Zが 類 似 しているが Xが 異 なるサンプルが 必 要
児 童 手 当 の 影 響 と 属 性 の 違 いの 識 別 児 童 手 当 あり 児 童 手 当 なし 世 帯 属 性 A 世 帯 属 性 B 子 供 のいる 世 帯 といない 世 帯 の 比 較 消 費 は 子 供 の 有 無 に 大 きな 影 響 を 受 ける 1971-85 年 の3 人 以 上 の 子 供 のいる 世 帯 と2 人 以 下 の 子 供 しかいない 世 帯 の 比 較 消 費 は 子 供 の 数 は 大 きな 影 響 を 受 ける 1971 年 以 前 と 以 後 の 世 帯 の 比 較 時 代 が 大 きく 異 る 所 得 制 限 を 受 けた 世 帯 と 受 けていない 世 帯 消 費 は 所 得 水 準 に 大 きな 影 響 を 受 ける 児 童 手 当 の 影 響 と 世 帯 属 性 の 違 いの 識 別 は 困 難
支 給 月 と 非 支 給 月 の 比 較 支 給 月 と 非 支 給 月 の 比 較 の 消 費 を 比 較 児 童 手 当 は 年 3 回 (2 月 6 月 10 月 ) 支 給 パネルデータがあれば 同 一 家 計 の 消 費 の 変 化 を 比 較 世 帯 固 有 の 属 性 はコントロール 可 能 Stephens and Unayama (2013; mimeo)のアプローチ = 過 剰 反 応 テスト ライフサイクル 仮 説 の 検 証 の 代 表 的 な 方 法 予 期 された 所 得 の 変 動 が 消 費 を 変 化 させるか のテスト 代 表 的 なサーベイ:Browning and Lusardi (1996), Japelli and Pistaferri (2010), Attanasio and Weber (2010) 家 計 調 査 を 用 いた 検 証 :Stephens and Unayama (2011), Hori and Shimizutani (2012)
過 剰 反 応 テストの 解 釈 理 論 的 には β はゼロになる 児 童 手 当 の 支 給 は 予 期 されている 家 計 が 流 動 性 制 約 に 直 面 していれば 消 費 が 反 応 生 活 の 安 定 に 寄 与 しているかが 検 証 できる どのような 世 帯 が 反 応 したのか どの 程 度 反 応 したのか 児 童 手 当 の 効 果 の 全 てではない 長 期 的 なインパクトは 計 測 できない 受 給 時 点 で 消 費 は 増 やさない 児 童 手 当 は 消 費 を 変 化 させない 児 童 手 当 の 支 給 というイベントではなく 児 童 手 当 の 存 在 自 体 が 消 費 を 変 化 させる 可 能 性 異 なる 児 童 手 当 制 度 における 支 給 金 額 が 消 費 の 流 列 に 与 える 影 響 を 見 る 必 要
児 童 手 当 の 支 給 と 消 費 の 変 動 児 童 手 当 の 支 給 児 童 手 当 の 支 給 所 得 児 童 手 当 がない 場 合 の 消 費 水 準
自 然 実 験 としての 児 童 手 当 の 制 度 変 更 理 想 的 な 児 童 手 当 の 影 響 の 検 証 方 法 世 帯 をランダムにグループ 分 けする 各 グループに 異 なる 水 準 の 児 童 手 当 を 支 給 する 各 グループの 消 費 行 動 が 異 なるかを 検 証 制 度 変 更 を 利 用 した 自 然 実 験 子 供 の 生 まれ 年 ごとに 世 帯 をグループ 分 け 生 まれてきた 年 は 基 本 的 にランダム 子 供 の 生 まれ 年 にとって 児 童 手 当 の 水 準 が 異 なる 子 供 の 生 まれ 年 の 違 いによる 消 費 の 違 いを 検 証 すれ ばよい
日 本 の 児 童 手 当 制 度 の 沿 革 1971 年 児 童 手 当 法 制 定 (1972 年 施 行 ) 第 3 子 から 支 給 所 得 制 限 あり 中 学 卒 業 まで 3~5 千 円 1985 年 第 1 次 改 正 第 2 子 から 支 給 所 得 制 限 (サラリーマンに 特 例 給 付 ) 未 就 学 児 2500 円 or5000 円 1991 年 第 2 次 改 正 第 1 子 から 支 給 所 得 制 限 3 歳 未 満 5 千 円 ( 第 3 子 から1 万 円 ) 2000 年 第 4 次 改 正 第 1 子 から 支 給 所 得 制 限 未 就 学 児 (3 歳 以 降 特 例 給 付 ) 5 千 円 ( 第 3 子 から1 万 円 ) 2001 年 から 政 令 で 所 得 制 限 の 緩 和 2004 年 第 5 次 改 正 第 1 子 から 支 給 所 得 制 限 小 学 校 3 年 生 まで 5 千 円 ( 第 3 子 から1 万 円 ) 2006 年 第 6 次 改 正 第 1 子 から 支 給 所 得 制 限 小 学 校 6 年 生 まで 5 千 円 (3 歳 まで 第 3 子 から1 万 円 ) 2010 年 子 ども 手 当 の 導 入 第 1 子 から 支 給 所 得 制 限 なし 中 学 卒 業 まで 13000 円 2012 年 児 童 手 当 の 復 活 第 1 子 から 支 給 所 得 制 限 中 学 卒 業 5 千 円 ( 第 3 子 から1 万 円 ) 所 得 制 限 にサラリーマン 特 例 なし
自 然 実 験 としての 児 童 手 当
長 期 のインパクトの 計 測 消 費 は 予 期 された 児 童 手 当 の 総 額 に 影 響 を 受 ける 頻 繁 な 制 度 変 更 が 予 測 できたのか? 世 帯 にいる 子 供 の 数 で 家 計 の 期 待 が 分 かるのか? まだ 生 まれていない 子 供 も 家 計 の 消 費 計 画 に 影 響 期 待 される 消 費 の 変 化 は 小 さい 最 大 数 百 万 円 の 生 涯 所 得 の 変 化 の 影 響 は 検 知 でき るのか?
児 童 手 当 の 資 産 へのインパクト 消 費 されていない ことの 検 証 児 童 手 当 が 消 費 されずに 貯 蓄 されれば 資 産 は 増 加 増 加 していないなら 支 給 期 間 のうちに 消 費 されている それなりに 大 きな 資 産 の 変 化 が 観 察 されるはず 推 計 式 A: 金 融 資 産 残 高 Z: 世 帯 属 性 年 ダミー: 景 気 の 資 産 への 影 響 月 ダミー: 資 産 の 季 節 性 (ボーナス 直 後 など) 世 帯 主 年 齢 ダミー 子 供 の 年 齢 ダミー 子 供 の 数 ダミー 持 ち 家 ダミー X: 累 積 受 給 額
家 計 資 産 に 関 するデータ 使 用 した 統 計 貯 蓄 動 向 調 査 家 計 調 査 の 付 帯 調 査 年 1 回 年 末 時 点 を 調 査 家 計 調 査 の 調 査 対 象 世 帯 の 一 部 (8,9,10 月 調 査 開 始 世 帯 )を 対 象 各 年 約 3,000 世 帯 を 対 象 同 一 世 帯 を 翌 年 にもう 一 度 調 査 各 年 合 計 で 約 6,000サンプル 今 回 の 推 計 では 再 調 査 世 帯 は 使 用 せず 家 計 調 査 貯 蓄 負 債 編 2000 年 に 貯 蓄 動 向 調 査 が 廃 止 され 貯 蓄 負 債 編 として 家 計 調 査 に 編 入 家 計 調 査 の 全 調 査 世 帯 が 対 象 毎 年 約 1 万 5 千 世 帯 が 調 査 対 象 貯 蓄 動 向 調 査 の 再 調 査 制 度 は 廃 止 調 査 開 始 後 3ヶ 月 目 の1 日 時 点 を 調 査 使 用 した 変 数 各 世 帯 の 金 融 資 産 残 高 内 訳 項 目 : 通 貨 性 預 金 定 期 性 預 金 生 命 保 険 等 株 式 株 式 投 信 貸 付 信 託 金 銭 信 託 債 券 公 社 債 投 信 金 融 機 関 外 実 物 資 産 に 関 する 情 報 はなし 負 債 に 関 する 情 報 は 使 用 せず
児 童 手 当 の 受 給 額 家 計 調 査 の 調 査 時 点 までの 累 積 受 給 額 を 推 定 家 計 調 査 では 世 帯 員 全 員 について 年 齢 等 を 調 査 世 帯 主 の 子 供 の 数 年 齢 に 時 点 ごとの 法 律 を 適 用 して 累 積 受 給 額 を 推 定 推 計 額 の 問 題 点 記 録 された 子 供 の 数 は 世 帯 主 の 子 供 の 数 か? 子 供 が 成 長 すると 独 立 する 可 能 性 がある 2010 年 国 勢 調 査 によれば17 歳 人 口 のうち 親 と 同 居 は96% であるが 20 歳 人 口 になると70%に 低 下 所 得 制 限 の 影 響 はコントロールできない 調 査 時 点 の 世 帯 主 の 所 得 が 分 からない 世 帯 がある 月 々の 所 得 が 分 かるのは 勤 労 世 帯 (と 無 職 世 帯 )だけ 調 査 時 点 よりも 以 前 の 所 得 は 分 からない 過 去 の 受 給 資 格 は 検 証 不 能
長 子 の 年 齢 と 兄 弟 姉 妹
兄 弟 姉 妹 の 年 齢 差
サンプルセレクション 長 子 の 年 齢 が13 歳 以 下 の 世 帯 18 歳 以 上 の 兄 弟 姉 妹 がいる 可 能 性 は 極 めて 低 い 推 定 される 受 給 額 の 精 度 が 高 いと 考 えられる 12 歳 以 下 14 歳 以 下 などで 頑 健 性 をチェック 調 査 時 点 で 所 得 制 限 に 該 当 しない 世 帯 年 間 収 入 を 用 いて 各 時 点 の 所 得 制 限 に 該 当 するかを 判 定 勤 労 者 世 帯 については 世 帯 主 の 所 得 は 年 間 収 入 の83.75%とみなす 2000 年 家 計 調 査 によれば 2 人 以 上 の 世 帯 勤 労 者 世 帯 では 世 帯 主 の 勤 め 先 からの 収 入 は 世 帯 収 入 ( 実 収 入 )の83.75% 調 査 時 点 で 該 当 しなければ 過 去 も 該 当 していなかったとみなす 所 得 制 限 のない 子 ども 手 当 に 移 行 した2009 年 時 点 で 所 得 制 限 に 該 当 す る 人 の 割 合 は13% 程 度 その 他 世 帯 主 が60 歳 以 下 ( 退 職 金 が 金 融 資 産 の 増 加 をもたらす) 夫 婦 と 未 婚 の 子 供 だけの 世 帯 (3 世 代 同 居 の 資 産 への 影 響 を 回 避 ) 男 性 世 帯 主 ( 母 子 家 庭 などでは 夫 の 遺 産 の 可 能 性 あり)
記 述 統 計 量 第 1 子 の 生 年 が 1987-1991 年 ( 第 2 子 以 降 対 象 ) 第 1 子 の 生 年 が 1992-1994 年 ( 第 1 子 から 対 象 ) 第 1 子 の 生 年 が 1995-1999 年 ( 支 給 年 齢 引 上 ) 世 帯 主 の 年 齢 34.3 35.0 36.5 世 帯 員 の 数 4.14 3.87 3.93 年 間 収 入 3,972 千 円 4,581 千 円 4,850 千 円 児 童 手 当 累 積 受 給 額 227 千 円 494 千 円 827 千 円 金 融 資 産 総 額 4,155 千 円 4,581 千 円 5,380 千 円
推 計 結 果
子 供 の 数 別 の 推 計
児 童 手 当 の 使 途 児 童 手 当 の 大 部 分 は 貯 蓄 された 支 給 された 児 童 手 当 の7 割 程 度 は 貯 蓄 されている 流 動 性 制 約 のある 世 帯 は 支 給 された 児 童 手 当 のほとん どを 支 給 された 月 に 支 出 所 得 水 準 資 産 水 準 ともに 下 位 25% 以 下 ( 全 世 帯 の15% 程 度 ) Stepens and Unayama (2013)の 結 果 流 動 性 制 約 のない 世 帯 はほぼすべてを 貯 蓄 児 童 手 当 の 使 途 13 歳 まではほとんど 支 出 していない 13 歳 以 降 にどのように 支 出 されるのか? 直 接 消 費 への 影 響 をみることはできない どのような 使 途 にするかを 資 産 の 運 用 方 法 で 推 測
ポートフォリオへの 影 響
児 童 手 当 の 運 用 方 法 児 童 手 当 の 大 部 分 は 流 動 性 の 低 い 形 態 で 運 用 されている 生 命 保 険 など 生 命 保 険 会 社 の 積 立 型 生 命 保 険, 損 害 保 険 会 社 の 損 害 保 険 ( 火 災 傷 害 保 険 のうち, 満 期 時 に 満 期 返 戻 金 か 支 払 われる 積 立 型 のもの), 農 業 協 同 組 合 の 養 老 生 命 共 済 及 び 郵 便 貯 金 簡 易 生 命 保 険 管 理 機 構 で 取 り 扱 っている 簡 易 生 命 保 険 ( 保 険 商 品, 年 金 商 品 )をいう 株 式 株 式 投 資 信 託 長 期 の 運 用 であると 考 えられる 教 育 費 への 支 出 だと 予 想 できる
教 育 費 と 貯 蓄 こども 未 来 財 団 の 2004 年 の 調 査 子 育 てコスト は1 人 あたり 約 2400 万 円 うち1300 万 円 以 上 は 高 校 生 以 降 にかかる
児 童 手 当 の 評 価 児 童 手 当 の2つの 効 果 流 動 性 制 約 のある 世 帯 の 消 費 を 増 加 させる 家 庭 における 生 活 の 安 定 に 寄 与 している 将 来 の 教 育 費 への 支 援 となっている 児 童 の 健 全 な 育 成 及 び 資 質 の 向 上 に 寄 与 している 児 童 手 当 でなければいけないか? 児 童 手 当 の 機 能 は 流 動 性 制 約 を 解 消 必 ずしも 給 付 である 必 要 はなく 貸 付 でよいはず 流 動 性 制 約 に 直 面 貧 困 世 帯 児 童 手 当 の 最 終 的 な 使 途 が 教 育 費 教 育 機 関 ( 特 に 大 学 )への 補 助 で 代 替 可 能