第 12 回 代 謝 統 合 の 破 綻 ( 糖 尿 病 と 肥 満 ) 日 紫 喜 光 良 基 礎 生 化 学 講 義 2014.7.15 1
糖 尿 病 とは インスリンの 相 対 的 もしくは 絶 対 的 な 不 足 に 起 因 する 空 腹 時 の 血 糖 値 上 昇 で さまざまな 疾 患 からなる 症 候 群 2
図 25.1より 1 型 糖 尿 病 と2 型 糖 尿 病 1 型 糖 尿 病 2 型 糖 尿 病 発 症 年 齢 通 常 小 児 期 や 思 春 期 症 状 の 急 性 的 進 行 通 常 35 歳 以 降 症 状 の 慢 性 的 進 行 発 症 時 の 栄 養 状 況 栄 養 不 足 が 多 い 肥 満 のことが 多 い 罹 患 率 90 万 人 ( 糖 尿 病 と 診 断 されたう ちの10%) 遺 伝 的 素 因 の 影 響 低 強 病 態 生 理 β 細 胞 の 破 壊 によるインスリン 産 生 の 消 失 ケトーシスの 頻 度 頻 発 まれ 1,000 万 人 ( 糖 尿 病 と 診 断 された うちの90%) β 細 胞 の 十 分 なインスリン 産 生 能 力 低 下 とインスリン 抵 抗 性 の 合 併 血 中 インスリン 低 ときとして 無 初 期 は 高 いが 長 期 になると 低 下 す る 急 性 合 併 症 ケトアシドーシス 高 浸 透 圧 症 血 糖 降 下 薬 治 療 無 効 有 効 治 療 インスリンが 必 須 減 量 運 動 療 法 経 口 血 糖 降 下 薬 3 インスリンは 症 例 によっては 必 要
1 型 糖 尿 病 図 25.2も 参 照 膵 臓 β 細 胞 での 自 己 免 疫 障 害 絶 対 的 なインスリン 欠 乏 機 能 するβ 細 胞 が 存 在 せず 血 糖 の 変 化 への 対 応 やイン スリンの 基 礎 分 泌 の 維 持 が 不 可 能 初 期 段 階 : 遺 伝 的 素 因 を 持 つ 人 がウイルスや 毒 素 にさらされることでβ 細 胞 の 崩 壊 が 始 まる ゆっくりとしたβ 細 胞 の 破 壊 段 階 : 臨 床 的 な 糖 尿 病 段 階 :インスリン 分 泌 能 力 が 閾 値 以 下 にまで 低 下 し I 型 糖 尿 病 の 症 状 が 突 然 出 現 する 4
1 型 糖 尿 病 : 診 断 小 児 期 や 思 春 期 に 発 病 症 状 が 急 速 に 進 行 多 尿 多 飲 多 食 疲 労 体 重 減 少 脱 力 感 空 腹 時 血 糖 値 (FBS)>125 mg/dl 血 中 抗 ランゲルハンス 島 抗 体 5
1 型 糖 尿 病 : 代 謝 変 化 高 血 糖 症 とケトアシドーシス: 血 中 のグルコースとケ トンの 高 値 インスリンの 低 下 肝 臓 での 糖 新 生 増 加 筋 脂 肪 での グルコース 取 込 低 下 高 血 糖 インスリンの 低 下 脂 肪 組 織 での 脂 肪 酸 の 動 員 が 増 加 肝 臓 での 脂 肪 酸 のβ 酸 化 ケトン 塩 (3-ヒドロキシ 酪 酸 塩 アセト 酢 酸 塩 )の 産 生 の 促 進 ケトーシス 25~40%に 糖 尿 病 性 ケトアシドーシスが 生 じる 治 療 : 水 分 と 電 解 質 の 補 充 低 濃 度 のインスリン 投 与 高 血 糖 を 徐 々に 正 常 に 戻 す 高 トリアシルグリセロール 血 症 インスリンの 低 下 脂 肪 組 織 でのリポタンパク 質 リパーゼ 活 性 の 低 下 キロミクロンやVLDLの 増 加 6
1 型 糖 尿 病 : 臓 器 間 の 関 係 GLUT4によるグルコース 取 り 込 みができなくなる ( 筋 と 脂 肪 組 織 ) 糖 新 生 亢 進 インスリンが 分 泌 されない 図 25.3 脂 肪 組 織 が 著 しく 分 解 され 脂 肪 酸 が 肝 臓 の 処 理 能 力 以 上 に 大 量 に 放 出 されるのでケトアシドーシスが 起 こる 7
1 型 糖 尿 病 の 治 療 : 標 準 療 法 と 強 化 療 法 赤 矢 印 : 強 化 インスリン 療 法 を 受 けた 患 者 の 平 均 グル コース 濃 度 コントロールの 目 安 :HbA1c ( 糖 鎖 付 加 ヘモグロビンの 一 種 )は 全 ヘモグロビンの 約 7% 青 矢 印 : 標 準 インスリン 療 法 を 受 けた 患 者 の 平 均 グル コース 濃 度 コントロールの 目 安 :HbA1c は 全 ヘモグロビンの8~9% 図 25.4 強 化 療 法 の 目 的 : 長 期 にわたる 合 併 症 ( 網 膜 症 腎 不 全 神 経 障 害 )の 減 少 8
強 化 療 法 に 伴 う 低 血 糖 症 頻 度 の 増 加 赤 : 強 化 療 法 青 : 標 準 療 法 低 血 糖 症 の 頻 度 が3 倍 にまで 増 加 強 化 療 法 に 伴 う 低 血 糖 症 の 危 険 増 大 は 糖 尿 病 性 網 膜 症 や 腎 障 害 といった 長 期 にわたる 合 併 症 の 発 症 を 減 少 させるため に 正 当 化 されると 考 えられている 図 25.5 厳 格 な 血 糖 コントロールと 低 血 糖 症 との 関 係 9
1 型 糖 尿 病 における 低 血 糖 症 原 因 で 最 も 多 いのは 過 剰 なインスリンによる 低 血 糖 症 状 ホルモンによる 低 血 糖 への 対 応 経 路 も 損 なわれる グルカゴンも 分 泌 されない アドレナリンのみ 病 状 の 進 行 につれてアドレナリン 分 泌 障 害 をひきお こす 糖 尿 病 性 自 律 神 経 障 害 低 血 糖 に 対 するアドレナリン 分 泌 障 害 無 自 覚 性 低 血 糖 症 :グルカゴンとアドレナリンの 分 泌 能 力 欠 損 10
強 化 療 法 の 禁 忌 小 児 低 血 糖 発 作 が 発 達 過 程 の 脳 に 障 害 をもたらす 危 険 性 が 高 い 高 齢 者 では 低 血 糖 から 脳 や 心 臓 の 血 管 障 害 を 招 きやすいので 強 化 療 法 は 一 般 的 で はない 強 化 療 法 は 少 なくとも 余 命 が10 年 以 上 あり 合 併 症 を 伴 っていない 場 合 に 特 に 有 益 11
2 型 糖 尿 病 米 国 の 糖 尿 病 患 者 の 約 90% はっきりとした 症 状 のないまま 徐 々に 進 行 一 般 健 康 診 断 で 見 つかることが 多 い 多 くの 患 者 は 数 週 間 の 間 多 尿 症 多 渇 症 を 呈 する 特 徴 : 高 血 糖 インスリン 抵 抗 性 インスリン 分 泌 の 相 対 的 不 全 生 命 の 維 持 のためにインスリンを 必 要 とすることは 少 ない インスリン 分 泌 によるケトン 体 生 成 が 抑 制 され 糖 尿 病 性 ケトアシドーシスの 進 行 が 遅 い 12
2 型 糖 尿 病 : 診 断 高 血 糖 症 ( 空 腹 時 血 糖 値 >125mg/dL) ケトアシドーシスは 少 ない 13
2 型 糖 尿 病 :インスリン 抵 抗 性 肝 臓 脂 肪 骨 格 筋 などで 通 常 にインスリン 濃 度 に 対 する 適 切 な 反 応 性 が 低 下 肝 臓 におけるグルコース 産 生 の 制 御 ができない 骨 格 筋 や 脂 肪 組 織 でグルコース 取 込 が 低 下 14
インスリン 抵 抗 性 と 肥 満 図 25.7 正 常 なヒトと 肥 満 のヒトの 血 中 インスリン 濃 度 と 血 糖 値 肥 満 の 人 は 血 糖 値 を 正 常 範 囲 におさめるために より 多 くのインスリンを 必 要 としている 15
2 型 糖 尿 病 の 発 症 の 条 件 インスリン 抵 抗 性 β 細 胞 の 障 害 インスリン 抵 抗 性 とそれに 続 く2 型 糖 尿 病 の 進 行 は 高 齢 者 や 肥 満 で 運 動 しない 人 や 3 ~5%の 妊 娠 糖 尿 病 の 女 性 でみられる 16
2 型 糖 尿 病 : 経 過 1. 糖 尿 病 発 症 より10 年 かそれ 以 上 先 行 して インスリン 抵 抗 性 が 肥 満 の 人 で 進 行 する 2.2 型 糖 尿 病 患 者 の 初 期 には 代 償 的 高 イン スリン 血 症 を 伴 うインスリン 抵 抗 性 がみられる 3. 続 いて インスリン 分 泌 の 減 少 と 高 血 糖 症 の 悪 化 という 特 徴 をもつβ 細 胞 の 機 能 不 全 が 起 こる 17
2 型 糖 尿 病 : 血 糖 値 とインスリン 濃 度 の 経 過 血 糖 インスリン 分 泌 糖 尿 病 の 年 数 図 25.8 18
インスリン 抵 抗 性 の 原 因 脂 肪 蓄 積 そのものがインスリン 抵 抗 性 に 重 要 脂 肪 細 胞 が 分 泌 する 調 節 性 物 質 レプチン レジスチン アディポネクチン 肥 満 で 起 きる 遊 離 脂 肪 酸 の 上 昇 19
β 細 胞 の 機 能 不 全 の 要 因 β 細 胞 の 機 能 不 全 :2 型 糖 尿 病 の 時 間 経 過 と ともに 高 血 糖 を 是 正 するのに 十 分 なインスリ ンを 分 泌 することができなくなること 遺 伝 的 背 景 グルコース 毒 性 遊 離 脂 肪 酸 毒 性 20
2 型 糖 尿 病 : 代 謝 変 化 肝 臓 骨 格 筋 脂 肪 組 織 でのインスリン 抵 抗 性 の 結 果 による 1. 高 血 糖 症 末 梢 におけるグルコース 使 用 量 の 減 少 肝 臓 におけるグルコース 産 生 量 の 増 加 ケトーシスはほどんどない 2. 高 トリアシルグリセロール 症 脂 肪 細 胞 における リポタンパク 質 リパーゼによ るキロミクロン VLDLの 分 解 が 不 十 分 21
2 型 糖 尿 病 : 臓 器 間 の 関 係 糖 新 生 の 亢 進 リポタンパク 質 リパー ゼの 活 性 低 下 インスリンは 分 泌 されている 図 25.10 インスリン 抵 抗 性 標 的 臓 器 ( 特 に 肝 臓 と 脂 肪 組 織 )におけるインスリン 効 果 の 減 少 22
2 型 糖 尿 病 : 治 療 目 標 : 血 糖 値 を 正 常 とされる 限 界 値 以 下 に 維 持 すること 長 期 にわたる 合 併 症 の 進 行 を 防 ぐ 微 小 血 管 合 併 症 ( 網 膜 症 腎 障 害 ) 大 血 管 合 併 症 ( 循 環 器 疾 患 ) 体 重 減 少 運 動 食 事 改 善 血 糖 降 下 薬 インスリン 療 法 23
2 型 糖 尿 病 : 慢 性 的 経 過 高 血 糖 を 是 正 するほど 合 併 症 の 頻 度 が 低 くなる 左 図 ( 図 25.11)は 高 血 糖 の 改 善 の 結 果 HbA1cが 低 下 すると 網 膜 症 の 発 症 が 低 下 することを 示 している 厳 密 に 血 糖 を 制 御 する 利 点 は 重 篤 な 低 血 糖 の 危 険 が 増 大 するとい う 不 利 益 を 上 回 ると 考 えられている 強 化 インスリン 療 法 24
2 型 糖 尿 病 : 予 防 肥 満 と 座 位 中 心 の 生 活 によ り2 型 糖 尿 病 の 発 症 のリスク が 高 まる 青 :ほとんど 運 動 しない(<500kcal/ 週 ) 茶 : 中 等 度 の 運 動 (500~1999kcal/ 週 ) 緑 : 多 くの 運 動 (>2000kcal/ 週 ) 縦 軸 :2 型 糖 尿 病 発 症 率 (1 万 人 年 あたり) 横 軸 :Body Mass Index (kg/m2) 図 :25.12 25
肥 満 度 の 評 価 Body Mass Index (BMI) = 体 重 (kg)/ 身 長 (m) 2 正 常 値 :19.5~25.0 25~29.9: 標 準 体 重 超 過 30 以 上 : 肥 満 26
脂 肪 蓄 積 部 位 による 分 類 リンゴ 型 腹 部 に 蓄 積 男 性 に 多 い 腹 部 ( 上 半 身 ) 肥 満 ともいう ウエスト/ヒップ 比 : 女 性 では0.8 以 上 男 性 では1.0 以 上 高 血 圧 症 インスリン 抵 抗 性 糖 尿 病 血 中 脂 質 異 常 冠 動 脈 性 心 疾 患 の 危 険 性 が 増 す 西 洋 ナシ 型 下 半 身 腰 部 や 臀 部 に 蓄 積 女 性 に 多 い 臀 部 ( 下 半 身 ) 肥 満 ウエスト/ヒップ 比 : 女 性 では0.8 以 下 男 性 では1.0 以 下 基 本 的 に 健 康 女 性 では 普 通 図 26.2も 参 照 27
脂 肪 細 胞 大 きさと 数 : 肥 満 の 発 生 に 関 係 サイズの 拡 大 増 殖 一 度 増 えた 脂 肪 細 胞 は 小 さくはなっても 数 は 減 少 しない 腹 部 脂 肪 細 胞 臀 部 脂 肪 細 胞 より 大 きく 代 謝 回 転 率 が 高 い ホルモン 感 受 性 が 高 い 動 員 が 容 易 減 量 しやすい 肝 臓 に 対 して 門 脈 を 介 して 直 接 的 に 影 響 する 臀 部 脂 肪 細 胞 遊 離 脂 肪 酸 はまず 体 循 環 に 入 るので 肝 臓 に 直 接 的 な 影 響 を 及 ぼしにくい 28
体 重 調 節 遺 伝 の 影 響 環 境 及 び 行 動 の 影 響 29
肥 満 の 分 子 メカニズム 脂 肪 組 織 ホルモン レプチン アディポネクチン レジスチン その 他 のホルモン グレリン コレシストキニン インスリン 30
代 謝 の 変 化 メタボリックシンドローム 耐 糖 能 低 下 インスリン 抵 抗 性 高 インスリン 血 症 血 中 脂 質 異 常 糖 尿 病 や 心 血 管 系 疾 患 の 発 症 率 が 有 意 に 上 昇 血 中 脂 質 異 常 インスリン 抵 抗 性 ホルモン 感 受 性 リパーゼ 活 性 上 昇 血 中 脂 肪 酸 濃 度 上 昇 VLDL 上 昇 HDL 低 下 31
肥 満 と 健 康 やせすぎでも 死 亡 率 増 加 74 歳 以 上 ではBMIと 関 連 疾 患 の 罹 患 率 とは 関 係 なくなる 肥 満 者 の 減 量 効 果 : 血 圧 血 清 TAG, 血 糖 値 の 低 下 をもたらす 座 位 を 中 心 とするライフスタイルのほうが 軽 度 の 肥 満 よりも 死 亡 率 に 関 係 があるという 見 解 もある 32
減 量 エネルギーバランスを 負 にすることがまず 重 要 食 事 療 法 栄 養 素 構 成 には 基 本 的 に 関 係 ない 運 動 エネルギーの 消 費 心 肺 系 を 整 え 心 血 管 疾 患 のリスクを 減 らす 薬 物 療 法 外 科 手 術 重 度 の 肥 満 のみが 対 象 33