2013 年 度 政 治 経 済 学 経 済 史 学 会 秋 季 学 術 大 会 共 通 論 題 報 告 2 札 幌 学 院 大 学 経 済 学 部 大 場 隆 広 養 成 工 と 高 校 卒 ブルーカラーの 代 替 と 補 完 戦 後 日 本 の 高 度 成 長 期 を 中 心 に 発 表 内 容 : 1. 問 題 関 心 2. 高 度 成 長 期 の 新 規 学 卒 の 労 働 市 場 (1) 高 校 進 学 率 の 推 移 (2) 学 歴 別 の 求 人 倍 率 (3) 中 学 卒 高 校 卒 の 就 職 者 数 ( 技 能 工 生 産 工 程 作 業 者 ) (4) 産 業 別 の 新 規 学 卒 の 就 職 者 数 の 推 移 ( 中 学 卒 高 校 卒 男 女 計 ) 3. 高 校 卒 ブルーカラーへの 転 換 事 例 ( 鉄 鋼 業 ) (1)ケース 1: 八 幡 製 鉄 (2)ケース 2: 神 戸 製 鋼 (3)ケース 3: 日 本 鋼 管 4. 養 成 工 の 活 用 事 例 ( 自 動 車 工 業 ) (1)ケース 4:トヨタ 自 動 車 (2)ケース 5:デンソー 5. 養 成 工 と 高 校 卒 ブルーカラーの 関 係 (1) 養 成 工 と 高 校 卒 ブルーカラーの 代 替 関 係 ( 鉄 鋼 業 ) (2) 養 成 工 と 高 校 卒 ブルーカラーとの 補 完 ( 分 業 ) 関 係 (トヨタ 自 動 車 デンソー) (3) 代 替 関 係 と 補 完 ( 分 業 ) 関 係 の 差 異 6. まとめ 1. 問 題 関 心 (1)1950 年 代 後 半 から 1960 年 代 前 半 戦 後 日 本 の 高 度 成 長 期 に 実 施 された 新 規 学 卒 の 中 学 卒 業 者 の 農 村 から 都 市 への 移 動 (= 集 団 就 職 ) なかでも 製 造 現 場 で 中 心 的 な 役 割 を 期 待 された 養 成 工 ( 中 学 卒 業 後 に 3 年 間 の 企 業 内 教 育 を 受 けた 者 ) (2)1960 年 代 後 半 以 降 高 校 卒 ブルーカラーの 増 加 : 労 働 供 給 の 中 心 が 中 学 卒 から 高 校 卒 へ 転 換 = 製 造 現 場 の 中 心 的 な 役 割 も 養 成 工 から 高 校 卒 ブルーカラーへ 転 換 戦 後 の 日 本 の 製 造 業 を 支 えた(ている)のは 養 成 工 と 高 校 卒 ブルーカラー 企 業 が 養 成 工 から 高 校 卒 ブルーカラーへ 転 換 した 要 因 もしくは 養 成 工 制 度 を 維 持 した 要 因 は 何 だったのか 問 題 関 心 : 養 成 工 と 高 校 卒 ブルーカラーの 関 係 性 について 企 業 内 教 育 の 効 果 という 観 点 から 考 察 してみたい 1
2. 高 度 成 長 期 の 新 規 学 卒 の 労 働 市 場 : 中 学 卒 ブルーカラーの 登 場 と 高 校 卒 ブルーカラーの 台 頭 (1) 高 校 進 学 率 の 推 移 表 1 図 1 (2) 学 歴 別 の 求 人 倍 率 表 2 :1960 年 頃 から 求 人 倍 率 が 上 昇 し 需 要 超 過 になっている (3) 中 学 卒 高 校 卒 の 就 職 者 数 ( 技 能 工 生 産 工 程 作 業 者 ) 図 2 (4) 産 業 別 の 新 規 学 卒 の 就 職 者 数 の 推 移 ( 中 学 卒 高 校 卒 男 女 計 ) 表 3 総 数 : 全 体 のトレンド=1965 年 頃 のベビーブーム 世 代 の 高 校 進 学 卒 業 で 高 校 卒 就 職 者 数 が 中 学 卒 就 職 者 数 を 上 回 るようになる 化 学 工 業 : 高 校 卒 業 者 採 用 に 最 も 積 極 的 な 産 業 鉄 鋼 業 : 高 校 卒 業 者 採 用 に 前 向 きで 平 均 よりも 早 期 に 高 校 卒 業 者 採 用 が 中 学 卒 業 者 採 用 を 上 回 った 輸 送 用 機 械 器 具 製 造 業 : 全 体 のトレンドと 近 似 しており 高 校 卒 業 者 採 用 の 点 では 平 均 的 繊 維 工 業 : 中 学 卒 業 者 採 用 に 最 も 積 極 的 な 産 業 = 高 校 卒 業 者 採 用 の 点 では 遅 れた 産 業 3. 高 校 卒 ブルーカラーへの 転 換 事 例 ( 鉄 鋼 業 ) (1)ケース 1: 八 幡 製 鉄 1940 年 に 旧 日 鉄 に 入 社 し 翌 年 に 日 鉄 大 冶 (だいや) 鉱 業 所 に 配 属 されて 以 来 1981 年 に 労 働 担 当 副 社 長 で 退 職 するまで 労 務 一 筋 であった 小 松 廣 によると( 下 線 は 引 用 者 ) その 血 のにじむような 思 いをして 入 れた 新 鋭 設 備 ( 引 用 者 : 昭 和 30 年 代 前 半 の 第 二 次 合 理 化 で 導 入 した 戸 畑 製 鉄 所 の 機 械 )を 使 いこなすためには 従 前 の 小 学 校 出 の 熟 練 工 ではとても 無 理 であった 例 えばドイツから 輸 入 した 新 鋭 機 械 の 横 文 字 が 読 めないとか 電 気 操 作 を 行 うにしても 電 気 の 基 礎 理 論 がわかっていないという ことでは 困 るし また 高 炉 にしても 火 かげんをみてリンが 多 いか 少 ないかを 判 断 するような 時 代 ではなく なっていた 古 い 熟 練 工 には たしかに 強 い 愛 社 心 があったし 会 社 への 帰 属 心 も 強 かった しかし それだけでは 日 本 の 鉄 鋼 業 を 世 界 の 鉄 鋼 業 界 の 中 で 発 展 させていくことはできなかった そうしたところに 高 校 卒 の 人 達 が し かもどの 学 校 からも 成 績 一 二 番 という 極 めて 優 秀 な 人 達 がたくさん 入 ってきた そうしたことが 高 卒 採 用 に 切 り 替 えていく 大 きな 背 景 になっていた ( 田 中 博 秀 日 本 的 雇 用 慣 行 を 築 いた 人 達 =その 一 小 松 廣 氏 に 聞 く(2) 日 本 労 働 協 会 雑 誌 No.276 号 1982 p.61) また 同 社 の 社 史 によると この 時 期 ( 引 用 者 :1950 年 代 )の 採 用 で 特 徴 的 なことは 第 一 次 合 理 化 の 進 展 に 伴 う 設 備 の 改 善 と 新 技 術 の 導 入 が 目 まぐるしいなかで 労 働 の 質 も 高 熱 重 筋 労 働 から 知 的 精 神 的 労 働 へと 変 貌 しつつあるところから 必 然 的 に 新 技 術 への 順 応 性 に 富 んだ 質 の 高 い 労 働 力 が 要 求 されてきたことである したがって 採 用 年 齢 を 二 十 五 歳 未 満 と 制 限 し 学 歴 構 成 においても 図 表 Ⅵ-6 に 示 すように 高 校 卒 業 者 が 圧 倒 的 比 重 を 占 めることと なったのである ( 八 幡 製 鉄 所 所 史 編 纂 実 行 委 員 会 編 八 幡 製 鉄 所 八 十 年 史 部 門 史 下 巻 1980 p.452) より 計 画 的 な 要 員 対 策 という 意 味 からの 定 期 採 用 方 式 が 昭 和 三 十 二 年 から 確 立 され さらに 昭 和 三 十 三 年 後 半 からは 労 働 力 の 質 についてのより 厳 しいニーズに 対 応 するために 高 校 卒 満 二 十 一 歳 までとの 制 限 を 採 用 方 針 に 織 り 込 むこととしたのである ( 同 上 p.454) 2
生 産 設 備 の 高 性 能 化 に 伴 い 優 秀 な 熟 練 整 備 工 の 養 成 は 昭 和 二 十 七 年 整 備 部 門 統 合 以 来 の 懸 案 であった 当 初 は 社 外 訓 練 団 体 による 養 成 も 検 討 されたが 高 度 化 する 設 備 機 械 の 予 防 保 全 に 万 全 を 期 するため 昭 和 三 十 五 年 度 より 工 業 高 校 卒 新 人 を 対 象 に 自 家 養 成 を 開 始 することになった ( 同 上 p.525) (2)ケース 2: 神 戸 製 鋼 人 事 部 次 長 だった 阿 部 薫 によると ( 下 線 は 引 用 者 ) 昭 和 三 二 年 でございました ( 中 略 ) 社 長 のほうから もう 中 卒 はやめたらどうか 当 時 は ご 承 知 のよう に 鉄 鋼 というのは 大 変 な 技 術 革 新 の 時 代 でございまして 新 しくできる 工 場 というのは 今 までと 全 然 変 わっ てきているというような 情 況 がありましたものですから 中 卒 を 三 年 かかって 教 育 するよりはむしろ もっと 基 礎 的 なあるいは 一 般 的 な 教 養 を 積 んでいる 高 卒 を 現 場 へ 使 おうということを 考 えたらどうか という 話 がで ました 中 卒 のほうは 主 として 今 おっしゃったような 大 変 腕 の 熟 練 を 必 要 とする 職 種 たとえば 機 械 工 とか ( 中 略 ) それから 仕 上 げ 木 型 こういったものは 中 卒 をあて その 他 の 職 種 は 高 卒 でいこうということで ずっとし ばらくやってきたわけです そして たえず 追 跡 調 査 もやり 両 方 の 比 較 を 現 場 のほうで いろいろしてもら ったりしました 私 どもの 機 械 工 場 の 場 合 に 限 るかもしれませんが もう 本 当 に 腕 のスキルを 必 要 とするような 機 械 自 体 もあ まり 使 わなくなったわけです ( 中 略 ) もう 全 く 高 卒 のほうがいいという 結 論 がでてまいりましたので 四 〇 年 から 中 卒 は 全 部 ストップということにしたわけです 養 成 工 と 普 通 高 校 卒 の 差 についての 問 いに 対 して 総 合 的 にみて たしかに 高 卒 のほうがはるかにいいような 気 がしますね これは 一 方 では 中 卒 の 質 の 低 下 という 問 題 もあるのかもしれませんが と 答 えている ( 労 働 法 令 協 会 高 卒 現 業 員 時 代 労 働 時 報 第 21 巻 第 7 号 1968.7 pp.7-9) (3)ケース 3: 日 本 鋼 管 1936 年 に 日 本 鋼 管 に 入 社 し それ 以 後 労 務 を 担 当 してきた 折 井 日 向 によると( 下 線 は 引 用 者 ) 技 術 革 新 の 進 展 に 応 じて より 高 度 化 複 雑 化 した 装 置 の 運 転 保 守 には 広 い 知 識 と 判 断 力 をもつ 作 業 員 を 必 要 とし そのため 高 校 卒 の 採 用 を 希 望 する 生 産 現 場 が 多 くなった すなわち 技 術 革 新 の 進 展 に 伴 い 従 来 のように 三 ヵ 年 も 費 やして 技 能 教 育 をしなければならない 熟 練 職 種 そのものが 少 なくなり たとえば 制 御 装 置 の 保 守 点 検 というようなむしろ 論 理 的 な 頭 脳 を 必 要 とする 職 種 が 次 第 に 増 加 してきたのである 当 社 の 場 合 三 四 年 の 水 江 製 鉄 所 の 操 業 の 開 始 に 備 え 高 校 卒 作 業 員 を 計 画 的 に 採 用 し 始 めたが それもこのような 技 術 の 変 化 に 対 応 した 処 置 だったわけである 一 連 の 検 討 の 結 果 中 卒 養 成 工 制 度 は 時 代 の 要 請 に 沿 いえなくなった との 考 えに 立 って 三 八 年 に 一 二 月 に 養 成 工 制 度 の 廃 止 を 決 定 し 保 全 要 員 の 養 成 の た め に の み 高 卒 者 を 一 ヵ 年 間 教 育 す る と い う 制 度 を 新 し く 発 足 させることとし 四 〇 年 から 整 備 保 全 修 習 生 教 育 を 開 始 して 今 日 にいたっている ( 折 井 日 向 労 務 管 理 二 十 年 東 洋 経 済 新 報 社 1973 pp.98-99) また 同 社 の 社 史 によると 戦 後 からはじめられた 新 制 中 卒 者 に 対 する 養 成 工 教 育 制 度 は 昭 和 38 年 に 廃 止 された その 背 景 には 進 学 率 の 向 上 に 伴 い 新 制 高 校 卒 の 採 用 が 容 易 になったこと 技 術 革 新 により 高 度 化 複 雑 化 したした 機 械 装 置 の 運 転 保 守 要 員 として 教 育 程 度 の 高 い 高 校 卒 を 希 望 する 生 産 現 場 が 多 くなったことがあった ( 日 本 鋼 管 六 十 年 史 編 纂 委 員 会 編 日 本 鋼 管 株 式 会 社 六 十 年 史 1972 p.591) <ケース 1 ケース 2 ケース 3 のポイント> 八 幡 製 鉄 神 戸 製 鋼 日 本 鋼 管 で 共 通 しているのは 1950 年 代 後 半 から 1960 年 代 前 半 かけて 新 製 鉄 所 新 設 機 械 への 適 応 人 材 として 高 校 卒 業 者 が 採 用 されたことである 八 幡 製 鉄 の 場 合 高 校 卒 業 者 の 中 でも 特 に 工 業 高 校 卒 業 者 が 保 全 部 門 の 育 成 人 員 として 期 待 されていた 3
中 学 卒 養 成 工 については 質 の 低 下 ( 神 戸 製 鋼 ) 時 代 の 要 請 に 沿 いえなくなった ( 日 本 鋼 管 )などの 要 因 で 廃 止 され 高 校 卒 業 者 に 全 面 的 に 切 り 替 えられていった 4. 養 成 工 の 活 用 事 例 ( 自 動 車 工 業 ) (1)ケース 4:トヨタ 自 動 車 1 企 業 内 学 校 の 歴 史 1937 年 :トヨタ 自 動 車 工 業 株 式 会 社 設 立 1938 年 : 豊 田 工 科 青 年 学 校 が 開 校 し トヨタでの 技 能 者 教 育 が 始 まる 1939 年 4 月 : 豊 田 工 科 青 年 学 校 の 中 に 技 能 者 養 成 所 が 開 校 され 養 成 工 教 育 開 始 生 徒 は 社 内 選 抜 で 募 集 され 養 成 工 1 期 生 が 誕 生 1951 年 : 技 能 者 養 成 所 の 再 開 1953 年 : 新 制 中 学 卒 業 者 を 試 験 で 選 別 して 8 期 生 (1953 年 入 学 )を 採 用 した 1967 年 : 通 信 制 の 科 学 技 術 学 園 高 等 学 校 と 連 携 し 高 校 卒 業 資 格 の 取 得 が 容 易 になった 1990 年 : 高 等 学 校 卒 業 者 を 対 象 とした 1 ヵ 年 教 育 の 専 門 部 が 新 たに 設 置 され 従 来 の 養 成 工 教 育 は 高 等 部 という 名 称 になった 2 教 育 目 的 志 願 倍 率 教 育 内 容 トヨタ 自 工 の 養 成 工 教 育 は 職 場 の 中 堅 作 業 員 として 精 励 する 職 種 別 に 多 能 工 の 素 地 をもった 有 能 な 熟 練 工 を 養 成 することを 目 的 としている 志 願 倍 率 : 発 足 当 初 の 27 倍 7 倍 の 高 倍 率 で その 後 は 2 倍 程 度 で 推 移 した 表 4 養 成 工 の 教 育 内 容 (1959 年 時 点 ):3 年 間 合 計 表 5-1 5-2 普 通 教 科 (1656 時 間 ): 国 語 社 会 科 数 学 物 理 化 学 体 育 英 語 工 業 教 科 (1032 時 間 ): 製 図 機 械 工 作 法 電 気 工 学 機 構 学 金 属 材 料 自 動 車 工 学 応 用 力 学 工 業 経 営 専 門 教 育 (3612 時 間 ): 専 門 学 科 基 本 実 習 応 用 実 習 数 学 化 学 物 理 の 時 間 数 (744 時 間 )は 全 日 制 工 業 高 校 (900 時 間 )には 及 ばないが 定 時 制 高 校 (756 時 間 )に 匹 敵 していた 専 門 教 育 特 に 実 習 では 工 業 高 校 (585 時 間 )の 5~6 倍 程 度 の 時 間 をかけて 教 育 されていた 3 配 属 配 属 と 技 能 の 活 用 : 工 機 部 ( 工 場 の 製 造 機 械 を 作 る 部 署 )で 技 能 を 活 用 させていた( 下 線 は 引 用 者 ) 僕 は 昭 和 21 年 に 入 社 し 機 械 の 制 作 や 修 理 をしていた 工 機 部 に 配 属 された この 職 場 は 7 割 以 上 が 養 成 工 上 がりで そのために 僕 は 今 でも 養 成 工 上 がりと 間 違 われる ( 清 水 耕 一 現 場 管 理 者 が 語 るトヨタの 現 場 管 理 岡 山 大 学 経 済 学 雑 誌 36(4) 2005 p.214) 試 作 部 門 で 養 成 工 ( 学 園 )が 活 用 されている 表 6 参 照 (1982 年 8 月 実 施 の 調 査 ) 試 作 部 門 の 内 訳 職 場 特 性 表 7 参 照 試 作 部 門 とはどのような 職 場 か? 本 社 技 術 部 に 属 するこの 職 場 は 一 品 的 に 試 作 工 場 で 整 えられた 部 品 を 1 台 の 車 輌 に 組 み 立 てること 4
を 業 務 としている 熟 練 崩 壊 が 著 しい 自 動 車 企 業 においては 相 対 的 に 伝 統 的 熟 練 が 温 存 されており 学 園 卒 業 生 の 配 属 希 望 の 集 中 する 職 場 である この 職 場 は 自 動 車 労 働 者 のいわばエリート 職 場 であり ここでの 実 地 訓 練 を 経 て 他 の 職 場 の 班 長 組 長 に 転 出 する 人 材 養 成 輩 出 母 体 ともなっていると 考 えられる ( 小 山 陽 一 巨 大 企 業 体 制 と 労 働 者 トヨタ 生 産 方 式 の 研 究 お 茶 の 水 書 房 1985 p.137) 養 成 工 の 卒 業 直 後 の 配 属 先 : 養 成 工 は 生 産 部 門 (A 部 門 ) 中 心 に 配 属 がなされ 現 場 の 基 幹 労 働 力 であり 続 け ていた 一 方 で 工 機 保 全 品 質 管 理 などの 部 門 (C 部 門 )へ 配 属 される 者 も 少 なからず 存 在 していた 表 8 養 成 工 の 勤 続 15 年 時 点 の 配 属 先 : 登 用 者 ( 臨 時 工 から 正 規 採 用 となった 者 )に 比 べて 養 成 工 が 本 社 スタッ フとして 活 用 されていることが 分 かる 養 成 工 の 中 でも 卒 業 時 点 の 成 績 優 秀 者 の 本 社 開 発 部 門 での 活 用 は 顕 著 である 表 9-1 9-2 9-3 本 社 スタッフ 工 場 勤 務 学 園 教 育 労 働 組 合 その 他 養 成 工 (1954-1960 年 採 用 計 ) 全 体 : 40% 55% 3% 2% 成 績 優 秀 者 (1954-1961 年 採 用 計 ): 56% 31% 10% 2% 登 用 者 (1960-1961 年 採 用 計 ): 22% 77% 0% 1% 本 社 スタッフ: 技 術 部 生 産 技 術 部 工 機 部 などの 開 発 部 門 および 総 務 部 人 事 部 経 理 などの 部 門 工 場 勤 務 : 各 工 場 における 鍛 造 部 鋳 造 部 機 械 部 車 体 部 総 組 立 部 工 務 部 検 査 部 などの 部 門 学 園 教 育 : 養 成 所 におけるスタッフ 労 働 組 合 その 他 : 労 働 組 合 役 員 出 張 所 支 社 勤 務 トヨタ 病 院 勤 務 など <ケース 4 のポイント> トヨタ 自 動 車 は 有 能 な 熟 練 工 を 育 成 するため 高 い 志 願 倍 率 を 維 持 し 試 験 によって 中 学 卒 の 優 秀 者 を 養 成 工 に 採 用 した 3 年 間 で 定 時 制 高 校 に 匹 敵 する 学 科 教 育 を 行 いつつ 実 習 では 工 業 高 校 の 5-6 倍 の 教 育 を 行 っていた 育 成 された 養 成 工 は 工 場 現 場 で 生 産 を 支 える 役 割 を 担 う 者 も 多 くいたが 工 機 部 や 技 術 部 といった 高 度 技 能 が 生 かされる 職 場 でも 活 用 されていた 登 用 者 が 工 場 生 産 を 主 としていたのに 対 して 養 成 工 は 本 社 スタッフとして 活 用 されており ゆるやかな 分 業 関 係 が 成 立 していた (2)ケース 5:デンソー 1 企 業 内 学 校 の 歴 史 1949 年 :トヨタ 自 動 車 の 電 装 工 場 が 分 離 独 立 し 日 本 電 装 株 式 会 社 が 設 立 された 1953 年 8 月 : 西 ドイツの 電 装 品 メーカー ロバート ボッシュを 社 長 の 林 が 訪 れ そこで 優 れた 技 能 訓 練 を 目 にし 感 銘 をうける 1954 年 : 中 学 卒 業 者 を 対 象 に 3 年 間 の 養 成 工 教 育 を 実 施 する 技 能 者 養 成 所 が 設 立 された 1 期 生 (1954 年 4 月 入 学 )30 人 の 募 集 に 400 人 以 上 が 志 願 し 合 格 者 の 平 均 評 定 は 5 段 階 評 価 で 4.5 1955 年 : 経 営 不 振 で 採 用 が 見 送 られる 1956 年 4 月 に 2 期 生 が 入 学 する 1966 年 : 中 卒 者 3 ヵ 年 教 育 にくわえて 高 校 卒 業 者 の 1 ヵ 年 教 育 ( 高 等 専 門 課 程 )が 開 始 5
1971 年 : 科 学 技 術 学 園 との 提 携 で 工 業 高 校 の 卒 業 資 格 取 得 が 容 易 となった 1987 年 : 電 子 情 報 系 の 実 践 的 技 術 者 を 育 成 する 高 卒 2 ヵ 年 教 育 ( 短 大 課 程 )が 新 たに 加 わり 名 称 も 日 本 電 装 工 業 技 術 短 期 大 学 校 になった 2000 年 : 女 子 も 養 成 工 として 入 学 するようになっている 2 教 育 目 的 志 願 倍 率 教 育 内 容 教 育 目 的 ( 開 設 時 の 林 社 長 の 訓 示 ): 当 社 の 作 業 に 完 全 に 適 合 する 技 術 技 能 を 身 につけ 将 来 作 業 者 の 指 導 的 立 場 に 立 つ 人 を 養 成 するために 技 能 者 養 成 工 を 採 用 したのであり 先 ず 手 と 目 から 生 きた 技 術 技 能 を 身 につけてほしい ( 日 本 電 装 学 園 30 年 史 p.4) 志 願 倍 率 : 発 足 した 1954 年 は 30 人 の 採 用 予 定 に 400 人 を 越 す 応 募 がり 34 人 が 採 用 決 定 その 時 採 用 された 養 成 工 の 中 学 校 内 申 書 の 成 績 は 平 均 4.5 養 成 工 の 教 育 内 容 (1959 年 時 点 ):3 年 間 合 計 表 5-3 普 通 教 科 (1233 時 間 ): 国 語 社 会 科 数 学 物 理 化 学 体 育 英 語 独 語 工 業 教 科 (1136 時 間 ): 原 動 機 製 図 材 料 力 学 電 磁 事 象 電 気 機 械 電 気 応 用 機 械 工 作 機 構 学 専 門 教 育 (4915 時 間 ): 基 本 実 習 応 用 実 習 数 学 化 学 物 理 の 時 間 数 (544 時 間 )は 全 日 制 工 業 高 校 (900 時 間 )にも 定 時 制 高 校 (756 時 間 )にも 及 ばない 専 門 教 育 特 に 実 習 では 工 業 高 校 (585 時 間 )の 8 倍 程 度 の 時 間 をかけて 教 育 されていた 3 配 属 企 業 内 学 校 卒 業 後 の 養 成 工 の 配 属 について 1 期 生 (1954 年 入 学 者 ) 10 期 生 (1964 年 入 学 ) 20 期 生 (1974 年 入 学 ) 30 期 生 (1984 年 入 学 )の 事 例 を 見 てみる( 表 10 ) 配 属 先 に 登 場 する 工 機 部 とは 新 しい 生 産 設 備 を 開 発 する 部 門 試 作 部 とは 量 産 化 する 前 の 新 製 品 を 試 作 する 部 門 保 全 とは 機 械 設 備 の 保 守 管 理 を 行 う 部 門 指 導 員 とは 企 業 内 学 校 の 技 能 教 員 のことである 五 輪 選 手 とは 技 能 五 輪 のために 選 抜 された 選 手 のことで 全 国 大 会 や 国 際 大 会 に 備 えて 技 能 訓 練 に 専 念 する 養 成 工 のことをさす 製 造 部 生 産 部 門 はラインでの 生 産 業 務 のことである 1 期 生 ~30 期 生 の 共 通 点 は 養 成 工 の 配 属 先 が 工 機 部 試 作 部 保 全 業 務 だった 点 20 期 の 生 産 部 門 配 属 は 一 時 的 な 例 外 で 生 産 部 門 の 労 働 者 確 保 のために 生 産 部 門 への 配 属 を 想 定 した 特 別 なクラスとカリキュラムを 編 成 して 育 成 された (1976 年 に 廃 止 ) 基 本 的 に オペレーターと 呼 ばれる 生 産 業 務 には 養 成 工 以 外 の 中 学 卒 高 校 卒 労 働 者 が 従 事 していた 五 輪 選 手 のその 後 10 期 生 から 30 期 生 までの 五 輪 選 手 の 配 属 先 ( 表 11 )から 基 本 的 には 通 常 の 養 成 工 と 同 じで 工 機 部 門 と 試 作 部 門 が 中 心 の 配 属 だった 違 いは 開 発 部 への 配 属 や 製 造 部 の 中 でも 加 工 仕 上 げといった 高 度 技 能 が 要 求 される 部 門 への 配 属 養 成 所 で の 技 能 指 導 員 などがある 点 だった 1983 年 8 月 時 点 の 企 業 全 体 での 在 籍 状 況 ( 表 12 )で 確 認 された 在 籍 人 員 は 1312 人 6
仕 上 加 工 試 作 保 全 といった 新 製 品 や 製 造 ラインの 開 発 保 全 業 務 が 69% 製 造 ライン 等 での 直 接 生 産 業 務 が 28% 養 成 所 での 教 育 業 務 が 3% <ケース 5 のポイント> デンソーは 将 来 作 業 者 の 指 導 的 立 場 に 立 つ 人 を 養 成 する ことを 目 的 に 工 業 高 校 の 8 倍 もの 時 間 の 実 習 教 育 で 技 能 者 を 育 成 した 育 成 されたデンソーの 養 成 工 は 設 立 以 来 工 機 試 作 保 全 部 門 への 配 属 が 基 本 形 であり 続 けた 養 成 工 以 外 の 労 働 者 が 生 産 業 務 を 担 う 一 方 で 養 成 工 が 工 機 試 作 保 全 部 門 を 担 当 し 明 確 な 分 業 関 係 が 成 立 していた 5. 養 成 工 と 高 校 卒 ブルーカラーの 関 係 (1) 養 成 工 と 高 校 卒 ブルーカラーの 代 替 関 係 ( 鉄 鋼 業 ) 1 高 校 進 学 率 上 昇 による 供 給 制 約 = 中 学 卒 労 働 者 の 減 少 2 高 校 進 学 率 上 昇 による 供 給 制 約 から 派 生 した 労 働 力 の 質 の 低 下 = 優 秀 な 中 学 卒 業 者 は 高 校 に 進 学 してしまい かつてのように 優 秀 な 中 学 卒 業 者 を 厳 選 採 用 できなくなる 中 卒 の 質 の 低 下 という 問 題 もあるのかもしれません 神 戸 製 鋼 の 阿 部 3 技 術 革 新 の 進 展 で 中 学 卒 養 成 工 制 度 は 時 代 の 要 請 に 沿 いえなくなった 三 ヵ 年 も 費 やして 技 能 教 育 をしなければならない 熟 練 職 種 そのものが 少 な くなった 日 本 鋼 管 の 折 井 中 学 卒 養 成 工 教 育 からの 撤 退 高 校 卒 ブルーカラー 向 け 教 育 の 新 設 = 企 業 内 学 校 の 廃 止 もしくは 改 革 (2) 養 成 工 と 高 校 卒 その 他 ブルーカラーとの 補 完 ( 分 業 ) 関 係 (トヨタ 自 動 車 デンソー) 1トヨタ 自 動 車 : 養 成 工 工 機 試 作 保 全 現 場 作 業 (オペレータ 業 務 ) 高 校 卒 その 他 ブルーカラー 工 機 試 作 保 全 現 場 作 業 (オペレータ 業 務 ) 2デンソー : 養 成 工 工 機 試 作 保 全 高 校 卒 その 他 ブルーカラー 現 場 作 業 (オペレータ 業 務 ) トヨタにはゆるやかな 分 業 関 係 デンソーには 明 確 な 分 業 関 係 があった (3) 代 替 関 係 と 補 完 ( 分 業 ) 関 係 の 差 異 差 異 を 生 み 出 す 要 因 : 教 育 の 効 果 ( 高 度 技 能 )の 評 価 必 要 性 = 技 術 革 新 によって 必 要 とされる 技 能 が 変 質 したかどうか トヨタ 自 動 車 とデンソーの 場 合 高 度 技 能 工 機 保 全 試 作 などの 部 門 で 能 力 を 発 揮 企 業 内 学 校 での 指 導 員 高 校 卒 ブルーカラーへの 代 替 : ( 高 度 技 能 の 評 価 必 要 性 ) < ( 育 成 コスト+ 質 の 低 下 ) 補 完 ( 分 業 ) 関 係 = 養 成 工 の 維 持 : ( 高 度 技 能 の 評 価 必 要 性 ) ( 育 成 コスト+ 質 の 低 下 ) 7
6. まとめ 高 度 成 長 期 以 降 高 校 進 学 率 上 昇 による 中 学 卒 労 働 者 の 供 給 制 約 とそこから 派 生 する 中 学 卒 労 働 者 の 質 の 低 下 への 懸 念 は 企 業 を 高 校 卒 ブルーカラー 採 用 に 向 かわせた 中 学 卒 労 働 力 の 供 給 制 約 と 技 術 革 新 を 背 景 に 中 学 卒 業 者 を 3 年 間 養 成 する 企 業 内 学 校 は 廃 止 され かわって 高 校 卒 業 者 向 け 訓 練 プログラムが 整 備 されていった 一 方 で 少 数 ながら 中 学 卒 業 者 を 3 年 間 養 成 する 企 業 内 学 校 を 維 持 し 他 の 労 働 者 との 分 業 関 係 を 形 成 した 企 業 (トヨタ 自 動 車 デンソー)もあった 養 成 工 から 高 校 卒 ブルーカラーへ 代 替 を 進 めるかどうかは 技 術 革 新 によって 必 要 とされる 技 能 が 変 質 したか どうか 高 度 技 能 を 必 要 とする 職 場 が 企 業 内 に 存 在 するかどうかなどに 依 存 していたと 考 えられる 8