株 主 の 立 場 から 理 解 する 抱 合 株 式 に 係 る 資 本 金 等 の 額 の 計 算 Profession Journal No.7(2013 年 2 月 21 日 )に 掲 載 税 理 士 内 藤 忠 大 だきあわせかぶしき 合 併 法 人 が 有 する 被 合 併 法 人 の 株 式 のことを 抱 合 株 式 といいます 法 人 税 法 施 行 令 8 条 1 項 5 号 ( 資 本 金 等 の 額 )に 合 併 の 場 合 の 合 併 法 人 における 資 本 金 等 の 額 の 増 減 額 の 計 算 が 規 定 されていますが 適 格 合 併 と 非 適 格 合 併 抱 合 株 式 の 処 理 など すべての 合 併 のパターンを 一 括 して 規 定 しているため 非 常 に 読 みにくくなっています 本 稿 では 難 読 の 原 因 の 一 つである 抱 合 株 式 の 処 理 に 焦 点 を 当 て 非 適 格 合 併 における 資 本 金 等 の 額 の 増 減 額 の 計 算 を 理 解 するために 必 要 な 事 項 を 確 認 します なお 以 下 本 稿 においては 抱 合 株 式 という 場 合 には 合 併 法 人 が 有 する 被 合 併 法 人 の 株 式 を 指 すものとします (1) 抱 合 株 式 がない 場 合 の 資 本 金 等 の 額 の 計 算 資 本 金 等 の 額 の 増 加 額 は 法 人 への 払 込 額 とするのが 基 本 とされています( 法 令 81 一 ) 法 人 税 法 においては 合 併 における 被 合 併 法 人 からの 資 産 負 債 の 移 転 を 払 込 み と 捉 えているわけではありませんが 合 併 法 人 において 資 産 負 債 が 増 加 して 資 本 金 等 の 額 が 増 加 するという 点 では 合 併 も 金 銭 等 の 払 込 みと 同 様 の 状 態 にあると 見 ることができます しかし 合 併 の 場 合 には 金 銭 等 の 払 込 みの 場 合 とは 異 なり 営 業 の 全 部 の 包 括 的 な 譲 渡 と 同 様 に 被 合 併 法 人 において 資 産 として 計 上 されているものが 移 転 するだけでなく 負 債 として 計 上 されているものも 移 転 し また いわゆるのれんや 営 業 権 などのオフバ ランスの 資 産 や 負 債 も 移 転 するという 状 態 となります このため 合 併 の 場 合 には 営 業 譲 渡 の 場 合 と 同 様 に 被 合 併 法 人 から 移 転 する 資 産 及 び 負 債 のその 移 転 の 対 価 の 額 は 基 本 的 には 交 付 される 合 併 法 人 の 株 式 等 の 価 額 によって 捉 えることとされています 法 人 税 法 施 行 令 8 条 1 項 5 号 の 規 定 も そのような 前 提 に 立 って 設 けられています 合 併 の 対 価 として 合 併 法 人 の 株 式 のみが 交 付 される 場 合 には 合 併 法 人 においては 資 本 金 等 の 額 のみが 増 加 するということになりますが 金 銭 等 が 交 付 される 場 合 には その 金 銭 等 の 額 に 相 当 する 金 額 に 関 しては 資 本 金 等 の 額 は 増 加 せず 金 銭 等 の 額 を 減 少 させる 処 理 を 行 うこととなります 抱 合 株 式 がない 場 合 の 非 適 格 合 併 を 例 に 取 り 増 加 する 資 本 金 等 の 額 がどのように 計 算 さ れるのかということを 図 示 すれば 次 の 図 1 のようになります 1
図 1 抱 合 株 式 がない 場 合 の 非 適 格 合 併 により 増 加 する 資 本 金 等 の 額 の 計 算 合 併 法 人 株 式 の 価 額 - 移 転 純 資 産 価 額 (2) 合 併 法 人 株 式 等 のみなし 株 式 割 当 等 会 社 法 上 抱 合 株 式 には 合 併 法 人 株 式 などの 合 併 対 価 は 交 付 されないものとされています ( 会 社 法 7491 三 ) しかし 法 人 税 法 においては 抱 合 株 式 に 対 して 他 の 株 主 が 有 する 被 合 併 法 人 の 株 式 と 同 じ 基 準 で 合 併 法 人 株 式 の 割 当 て 合 併 対 価 の 交 付 があったものとみなすこと(みな し 株 式 割 当 等 )としている 規 定 が 二 つ 存 在 しています 一 つは 上 記 (1)でみた 非 適 格 合 併 の 資 本 金 等 の 額 の 計 算 の 規 定 ( 法 令 81 五 )です 上 記 (1)で 確 認 したとおり 非 適 格 合 併 による 資 本 金 等 の 額 の 増 減 額 の 計 算 をするため には 合 併 対 価 から 移 転 純 資 産 価 額 を 計 算 します 合 併 によって 資 産 及 び 負 債 を 移 転 する 場 合 には 合 併 対 価 を 交 付 しないからといって 譲 渡 利 益 額 又 は 譲 渡 損 失 額 を 計 算 するときに 譲 渡 対 価 の 額 となる 移 転 純 資 産 価 額 を0とするわけにはいきません そこで 一 旦 株 式 の 割 当 合 併 対 価 の 交 付 をしたものとみなすこととして 適 正 な 譲 渡 利 益 額 又 は 譲 渡 損 失 額 が 算 出 できるようにされているわけです( 注 1) ( 注 1) 被 合 併 法 人 においては 資 産 及 び 負 債 を 時 価 により 譲 渡 し その 対 価 として 抱 合 株 式 についても 株 式 割 当 等 をその 時 の 時 価 で 受 けたものとされています( 法 法 621) もう 一 つは 合 併 法 人 におけるみなし 配 当 の 計 算 の 規 定 ( 法 法 242)です 非 適 格 合 併 の 場 合 には 被 合 併 法 人 の 純 資 産 価 額 相 当 額 ( 資 本 金 等 の 額 と 利 益 積 立 金 額 の 合 計 額 )が 合 併 法 人 の 資 本 金 等 の 額 の 増 減 額 となります このように 被 合 併 法 人 の 利 益 積 立 金 額 に 相 当 する 金 額 が 合 併 法 人 の 資 本 金 等 の 増 減 額 と なるということは 合 併 法 人 が 被 合 併 法 人 の 株 主 であった 場 合 には 合 併 法 人 は 一 旦 他 の 被 合 併 法 人 の 株 主 と 同 様 に 被 合 併 法 人 の 利 益 積 立 金 額 に 相 当 する 金 額 の 金 銭 等 の 交 付 を 受 け その 後 その 金 銭 等 を 自 らに 追 加 投 資 した と 解 することができます このため 被 合 併 法 人 の 株 主 である 合 併 法 人 においても 他 の 被 合 併 法 人 の 株 主 と 同 様 に 株 式 割 当 等 を 受 けたものとみなすこととされているわけです( 注 2) ( 注 2) 被 合 併 法 人 は 株 式 割 当 等 を 受 けたものとみなされた 対 価 を 直 ちにその 株 主 に 交 付 したものとされます( 法 法 621) 2
(3) 合 併 法 人 株 式 の 取 得 価 額 ( 一 般 株 式 ) 被 合 併 法 人 の 株 主 が 取 得 した 合 併 法 人 株 式 の 取 得 価 額 は 合 併 法 人 株 式 以 外 の 合 併 対 価 の 有 無 によって 異 なります 合 併 対 価 が 合 併 法 人 株 式 のみの 場 合 は 被 合 併 法 人 の 株 主 が 取 得 した 合 併 法 人 株 式 の 取 得 価 額 は 被 合 併 法 人 株 式 の 帳 簿 価 額 に 合 併 によるみなし 配 当 額 を 加 算 した 金 額 です 合 併 対 価 に 合 併 法 人 株 式 以 外 の 資 産 がある 場 合 は 被 合 併 法 人 の 株 主 が 取 得 した 合 併 法 人 株 式 の 取 得 価 額 は 合 併 法 人 株 式 の 時 価 となります 合 併 法 人 株 式 以 外 の 合 併 対 価 の 有 無 によって 取 扱 いが 異 なるのは 株 主 の 投 資 の 継 続 性 が あると 考 えるのか 否 かによるものです 合 併 対 価 が 合 併 法 人 株 式 のみである 場 合 には 株 主 の 投 資 先 が 名 目 的 に 被 合 併 法 人 から 合 併 法 人 へ 変 わっただけで 投 資 の 継 続 性 がある と 考 えているわけです みなし 配 当 額 は 合 併 法 人 株 式 として 株 主 に 帰 属 する 被 合 併 法 人 の 利 益 積 立 金 額 に 相 当 する 金 額 ですが これ を 合 併 法 人 への 追 加 出 資 と 考 えており 合 併 法 人 株 式 の 取 得 価 額 の 計 算 上 加 算 します( 法 令 1191 五 ) 合 併 法 人 株 式 以 外 の 合 併 対 価 の 交 付 がある 場 合 には 一 旦 被 合 併 法 人 に 対 する 投 資 が 清 算 され その 後 新 たに 合 併 法 人 へ 投 資 したと 捉 えることとなります この 投 資 の 清 算 にお いては みなし 配 当 の 額 以 外 の を 被 合 併 法 人 の 株 式 の 譲 渡 対 価 の 額 として 株 式 の 譲 渡 利 益 額 又 は 譲 渡 損 失 額 が 計 算 されることになります( 法 法 61 の21) そして 新 たな 投 資 を 行 ったものとして 合 併 法 人 株 式 を 時 価 相 当 額 ( )で 取 得 したも のとされます( 法 令 1191 二 十 六 ) (4) 合 併 法 人 株 式 の 取 得 価 額 ( 合 併 法 人 ) 会 社 法 において 抱 合 株 式 に 合 併 法 人 株 式 が 交 付 されないこととされていることに 関 して は 上 記 (2)で 述 べたとおりですが 仮 に 合 併 法 人 株 式 が 交 付 されたとしたならば その 場 合 には その 取 得 価 額 はどのように 計 算 されるのでしょうか 合 併 法 人 にとっては 合 併 法 人 株 式 は 自 己 株 式 であるため 法 人 税 法 上 の 有 価 証 券 ではあ りませんが この 場 合 には 有 価 証 券 とみなして 上 記 (3)に 準 じて 計 算 されることとなり ます つまり 合 併 対 価 が 合 併 法 人 株 式 のみであれば 被 合 併 法 人 株 式 の 帳 簿 価 額 に 合 併 による みなし 配 当 額 を 加 算 した 金 額 になります ところで 合 併 対 価 に 合 併 法 人 株 式 以 外 の 資 産 がある 場 合 には 本 来 は 株 式 の 譲 渡 利 益 額 又 は 譲 渡 損 失 額 を 計 上 した 上 で 合 併 法 人 株 式 の 時 価 が 取 得 価 額 とされることとすべきも のと 考 えます しかし 現 在 は 平 成 22 年 度 改 正 により 株 式 の 譲 渡 利 益 額 又 は 譲 渡 損 失 額 の 計 上 は 行 われないこととされており( 注 3) 合 併 によるみなし 配 当 課 税 だけ 行 われることとなって います 3
( 注 3) 平 成 22 年 度 改 正 前 は 株 式 の 譲 渡 利 益 額 又 は 譲 渡 損 失 額 を 計 上 することとされてお り 抱 合 株 式 に 対 するみなし 株 式 割 当 の 規 定 が 設 けられていました( 旧 法 法 61 の23) が 同 改 正 後 は 被 合 併 法 人 株 式 の 帳 簿 価 額 相 当 額 を 譲 渡 収 入 とすることにより 譲 渡 利 益 額 又 は 譲 渡 損 失 額 は 計 上 しないこととされました( 法 法 61 の23) このため 株 主 において 投 資 の 清 算 が 行 われない 状 態 となり 被 合 併 法 人 株 式 の 帳 簿 価 額 にみなし 配 当 額 を 加 算 した 金 額 が 合 併 法 人 株 式 の 取 得 価 額 とされることとなるものと 考 えられます (5) 自 己 株 式 を 取 得 した 場 合 の 資 本 金 等 の 額 と 抱 合 株 式 の 関 係 自 己 株 式 を 取 得 すると 譲 渡 をした 旧 株 主 においてみなし 配 当 課 税 が 行 われる 場 合 ( 法 法 241 四 )とその 取 得 が 一 定 の 取 得 請 求 権 付 株 式 に 係 る 請 求 権 の 行 使 によるものである 場 合 等 ( 法 法 61 の213 一 ~ 三 )を 除 き 自 己 株 式 の 取 得 対 価 等 の 額 を 資 本 金 等 の 額 から 減 算 する こととされています しかし 上 記 (2)でみたように 合 併 による 資 本 金 等 の 額 の 増 減 額 の 計 算 上 は 抱 合 株 式 にも 合 併 法 人 株 式 を 交 付 したものとみなされるため 本 来 は これに 対 応 して 合 併 法 人 は 自 己 株 式 を 取 得 したものとするべきであると 考 えます この 自 己 株 式 の 取 得 については みな し 配 当 課 税 はされず( 注 4) また 法 人 税 法 61 条 の2 第 13 項 1 号 から3 号 までの 取 得 で はないため 上 記 (4)で 計 算 した 取 得 価 額 相 当 額 が 資 本 金 等 の 額 から 減 額 されるはずです ( 注 4) 上 記 (2)の 合 併 法 人 株 式 が 交 付 されたとみなされることによるみなし 配 当 は 法 人 税 法 24 条 1 項 1 号 によるものであり 4 号 によるみなし 配 当 課 税 は 行 われません 抱 合 株 式 がある 場 合 の 非 適 格 合 併 により 増 加 する 資 本 金 等 の 額 の 増 減 額 の 計 算 式 図 2 をみれば 抱 合 株 式 の 帳 簿 価 額 とみなし 配 当 の 額 の 合 計 額 ( 自 己 株 式 の 取 得 価 額 相 当 額 )が 減 額 されていることが 確 認 できます つまり 抱 合 株 式 は 合 併 による 資 本 金 等 の 額 の 計 算 上 自 己 株 式 として 減 額 要 素 となっ ているのです 4
図 2 抱 合 株 式 がある 場 合 の 非 適 格 合 併 により 増 加 する 資 本 金 等 の 額 の 計 算 合 併 法 人 株 式 の 価 額 抱 合 株 式 につき 交 付 されるべき 抱 合 株 式 の みなし 合 併 対 価 の 金 額 帳 簿 価 額 配 当 額 移 転 純 資 産 価 額 自 己 株 式 相 当 額 この 計 算 式 は 上 記 図 1 に 抱 合 株 式 対 応 部 分 ( 黄 色 の 部 分 )を 加 えたものです (6) 最 後 に 以 上 のとおり 合 併 の 場 合 の 資 本 金 等 の 額 の 増 減 額 の 計 算 は 抱 合 株 式 の 株 主 ( 合 併 法 人 ) への 合 併 対 価 の 交 付 を 前 提 とした 計 算 構 造 となっています 法 人 税 法 施 行 令 8 条 1 項 5 号 を 正 確 に 理 解 するためには 同 号 の 定 めに 次 の 金 額 が 含 まれ ていることを 念 頭 に 置 き 読 解 を 進 める 必 要 があります 1 合 併 法 人 は 抱 合 株 式 にも 合 併 対 価 を 交 付 すること( 移 転 純 資 産 価 額 の 計 算 ) 2 抱 合 株 式 の 株 主 として 合 併 対 価 を 取 得 すること(みなし 配 当 の 計 算 ) 3 取 得 した 合 併 法 人 株 式 について 自 己 株 式 の 取 得 の 処 理 をすること( 取 得 価 額 相 当 額 の 減 額 ) 5