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受 託 工 事 費 一 般 管 理 費 何 地 区 給 料 手 当 賞 与 引 当 金 繰 入 額 賃 金 報 酬 法 定 福 利 費 退 職 給 付 費 備 消 品 費 厚 生 福 利 費 報 償 費 旅 費 被 服 費 光 熱 水 費 燃 料 費 食 糧 費 印 刷 製 本 費 測 量 調 査

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目 次 第 1 章 総 則 第 1 節 計 画 の 目 的... 1 第 1 計 画 の 目 的 1 第 2 計 画 の 策 定 1 第 3 計 画 の 構 成 2 第 4 用 語 の 意 義 2 第 2 節 計 画 の 前 提 条 件... 3 第 1 自 然 条 件 3 第 2 社 会 条 件

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(3) その 他 市 長 が 必 要 と 認 める 書 類 ( 補 助 金 の 交 付 決 定 ) 第 6 条 市 長 は 前 条 の 申 請 書 を 受 理 したときは 速 やかにその 内 容 を 審 査 し 補 助 金 を 交 付 すべきものと 認 めたときは 規 則 第 7 条 に 規 定 す

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東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 における 文 化 財 レスキュー -ボランティアからみた 今 後 の 課 題 - 関 博 充 要 旨 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 被 災 文 化 財 等 救 援 委 員 会 による 文 化 財 レスキュー 事 業 にボランティア として 参 加 した 宮 城 県 沿 岸 部 を 中 心 に 個 人 宅 文 化 財 保 管 施 設 において 被 災 した 文 化 財 を 安 全 な 場 所 に 移 動 させ 修 復 作 業 を 行 い 今 後 の 活 用 に 復 した 現 地 でのレスキュー 作 業 はほ ぼ 終 了 したが 洗 浄 や 乾 燥 などの 修 復 作 業 と 資 料 登 録 作 業 が 現 在 も 進 められている 引 き 続 き 多 くの 方 々の 協 力 と 支 援 が 必 要 である 将 来 の 文 化 財 レスキューには 作 業 全 体 を 潤 滑 に 動 かし 資 料 の 救 出 から 保 管 返 却 までを 見 通 したシステムと 人 材 物 資 および 情 報 を 確 保 するネットワークの 構 築 が 不 可 欠 である キーワード: 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 宮 城 県 文 化 財 レスキュー ボランティア 1.はじめに 2011 年 3 月 11 日 14 : 46 に 発 生 した 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 その 後 の 大 津 波 は 岩 手 宮 城 福 島 3 県 を 中 心 に 東 日 本 太 平 洋 岸 に 未 曾 有 の 被 害 をもたらした 街 を 飲 み 込 み 多 くの 人 命 が 奪 われ そして 多 くの 文 化 財 も 犠 牲 になった 被 災 しながら 辛 うじて 残 るこ とができた 文 化 財 を 救 出 すべく 文 化 庁 が 中 心 となり 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 被 災 文 化 財 等 救 援 委 員 会 ( 以 下 救 援 委 員 会 とする)が 組 織 され 被 災 地 における 文 化 財 レスキュー 事 業 が 始 動 した (1) 筆 者 は 宮 城 県 内 で 実 施 されたレスキュー 事 業 の 一 部 に 4 月 からボランティアとして 参 加 している 活 動 の 実 情 と 活 動 を 通 して 見 えた 課 題 について 以 下 に 述 べる 2. 宮 城 県 内 でのレスキュー 活 動 宮 城 県 内 では 救 援 委 員 会 と 宮 城 県 教 育 委 員 会 が 主 体 となり 各 自 治 体 の 教 育 委 員 会 県 内 の 博 物 館 美 術 館 NPO 法 人 宮 城 歴 史 資 料 保 全 ネットワーク (2) ( 以 下 宮 城 資 料 ネッ ト とする)などの 関 係 機 関 が 連 携 しレスキュー 活 動 が 実 施 されている( 図 1) サイバー 大 学 授 業 サポートセンター ティーチングアシスタント 原 稿 受 付 日 :2011 年 10 月 30 日 原 稿 受 理 日 :2012 年 2 月 6 日 46

震 災 直 後 は 交 通 網 やライフラインの 断 絶 必 要 物 資 やガソリンの 不 足 と 入 手 困 難 のた め 現 地 での 作 業 開 始 は 4 月 を 待 たざるを 得 なかった 筆 者 が 参 加 した 宮 城 資 料 ネットの 活 動 は 古 文 書 を 所 有 する 個 人 宅 でのレスキューが 主 体 であった その 過 程 で 筆 者 は 文 化 財 を 保 管 する 4 つの 施 設 ( 宮 城 県 農 業 高 等 学 校 石 巻 文 化 センター 石 巻 市 立 門 脇 小 学 校 石 巻 市 牡 鹿 公 民 館 )でのレスキュー 作 業 および 救 出 した 資 料 のクリーニング 作 業 にも 携 わった それぞれの 場 所 で 実 施 した 作 業 について 以 下 にまとめる なお レスキュー 作 業 の 主 な 流 れは 図 2 の 通 りである (1) 個 人 宅 におけるレスキュー 仙 台 市 亘 理 町 および 涌 谷 町 の 個 人 宅 ( 旧 家 )でレスキューにあたった 宮 城 資 料 ネッ トの 資 料 保 全 調 査 活 動 を 通 じて 交 流 があった 個 人 宅 が 多 いが 震 災 後 マスコミを 通 じて 文 化 財 レスキューの 存 在 を 知 り 依 頼 したという 個 人 宅 もあった いずれの 依 頼 も 強 い 揺 れ 津 波 により 解 体 することが 決 まった 住 宅 や 土 蔵 倉 庫 から 文 書 絵 画 民 具 衣 類 および 建 具 の 搬 出 であった その 地 域 の 重 要 な 歴 史 的 建 造 物 である 土 蔵 や 歴 史 的 街 並 みの 多 くが 失 われてしまったが 地 域 史 を 支 える 資 料 をできるだけ 多 く 残 そうと レスキュー 作 業 が 実 施 された 土 蔵 は 揺 れによって 土 壁 に 亀 裂 が 入 り 建 物 全 体 が 歪 み 扉 が 開 閉 しにくくなっていた 中 には 壁 土 が 崩 れ 落 ち 心 材 だけでなく 蔵 内 までも 見 える 状 態 のものもあった 津 波 が 到 達 した 家 の 床 上 や 庭 には 土 砂 や 木 片 ガラス 瓦 礫 が 厚 く 堆 積 し 家 内 は 海 水 が 持 ち 上 げた 畳 や 家 財 類 が 散 乱 していた 押 し 寄 せた 海 水 が 3 か 月 後 真 黒 な 汚 水 として 引 き 出 し の 中 から 発 見 されることもあった 作 業 中 の 危 険 から 身 を 守 るため 長 袖 長 ズボン ヘル メット ゴーグル 防 塵 マスク 厚 手 のゴム 手 袋 安 全 靴 や 長 靴 を 身 に 着 けた 夏 に 向 か 図 1 文 化 財 レスキュー 事 業 の 組 織 構 成 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 被 災 文 化 財 等 救 援 事 業 ( 文 化 財 レスキュー 事 業 )について を 基 に 作 成 47

う 時 期 の 力 仕 事 には 向 かない 装 備 である また ボランティア 保 険 あるいは 天 災 対 応 可 能 な 災 害 保 険 への 加 入 も 義 務 付 けられた 瓦 礫 や 土 砂 を 除 去 しながら 収 蔵 資 料 をひとまず 屋 外 に 移 動 させた 旧 家 の 場 合 建 具 の 下 張 りに 古 文 書 が 使 用 されていることが 多 く 襖 や 天 袋 なども 搬 出 した 内 容 を 所 有 者 と 確 認 しながら 救 出 の 可 否 を 決 定 した ここで 救 出 した 資 料 は 個 人 蔵 の 未 登 録 資 料 がほ とんどであるため 価 値 は 未 知 である 下 張 りの 文 書 など 貴 重 な 歴 史 資 料 が 新 たに 発 見 される 可 能 性 を 鑑 み 公 共 財 である 文 化 財 としての 価 値 を 見 定 めた 上 で 救 出 する 必 要 があ る しかし 限 られた 時 間 内 で 作 業 を 終 了 させる 必 要 性 から 保 管 場 所 の 制 限 や 資 料 の 重 複 を 考 慮 しながら 現 地 で 大 別 搬 出 した 厳 密 な 仕 分 けは 搬 出 後 に 行 うものとした (2) 文 化 財 保 管 施 設 におけるレスキュー いずれの 施 設 も 建 物 自 体 は 地 震 にも 津 波 にも 耐 えた 津 波 は 大 量 の 瓦 礫 を 巻 き 込 みな がら 窓 からだけでなく 厚 さ 5 ~ 7 cm を 計 る 扉 をもへし 曲 げ 建 物 1 階 部 分 および 収 蔵 庫 内 にも 侵 入 していた 出 入 り 口 が 破 壊 された 施 設 はセキュリティ 上 無 防 備 であり 早 急 のレスキューが 求 められた 1 階 部 分 に 保 管 されていた 資 料 や 図 書 は 土 砂 汚 泥 油 などが 渾 然 となった 海 水 に 浸 かった 石 巻 市 では 製 紙 工 場 から 流 れ 出 たパルプを 大 量 に 含 んだ 海 水 が 押 し 寄 せた 水 が 引 いた 後 そうした 物 質 が 施 設 内 に 資 料 と 共 に 取 り 残 され レスキュー 時 には 生 乾 きの 状 態 で 厚 く 堆 積 していた 石 巻 文 化 センターでは 敷 地 面 積 は 広 いが 作 業 スペースとな る 通 路 や 出 入 り 口 が 狭 いため 少 人 数 での 作 業 が 強 いられた また 本 部 のある 仙 台 市 と 現 地 への 移 動 時 間 など さまざまな 制 約 によって 限 られた 作 業 時 間 となり 作 業 完 了 まで に 日 数 を 要 することとなった 作 業 は 津 波 由 来 の 堆 積 物 の 除 去 散 乱 した 机 や 本 棚 などの 什 器 の 撤 去 から 開 始 された 窓 から 差 し 込 む 光 と 発 電 機 による 照 明 を 頼 りに スコップや 鋤 簾 一 輪 車 を 使 って 堆 積 物 と 不 要 な 什 器 を 屋 外 へ 廃 棄 した ようやく 接 近 できるようになった 資 料 は 堆 積 物 に 埋 もれ 水 損 してはいたが そのほと Stage Stage Stage 図 2 文 化 財 レスキュー 事 業 における 作 業 フロー 48

んどが 施 設 内 に 留 まっていたのは 幸 いであった 引 き 波 により 施 設 外 に 流 れ 出 た 小 型 資 料 も 少 量 あったが それらも 無 事 回 収 することができた ほとんどの 資 料 に 水 分 と 塩 分 を 含 む 堆 積 物 がびっしりとこびりついていた 鉄 製 品 の 場 合 赤 錆 の 発 生 を 促 進 させる 要 因 となっている いち 早 く 付 着 物 の 除 去 と 脱 塩 処 理 を 実 施 しなければならないが 水 が 無 い ため それらの 処 理 は 移 動 後 行 うことにした これら 4 施 設 の 資 料 は 震 災 前 に 資 料 登 録 さ れているため 目 録 と 照 合 確 認 できる 救 出 した 資 料 は 2 階 に 保 管 され 津 波 から 逃 れた 資 料 と 共 に 周 辺 の 博 物 館 等 の 安 全 な 場 所 に 一 括 移 動 させた (3) 救 出 後 の 作 業 救 出 された 資 料 は 文 化 財 関 連 施 設 収 蔵 資 料 指 定 資 料 のように 文 化 財 として 登 録 され た 資 料 と 個 人 所 有 資 料 の 未 登 録 資 料 とに 大 別 できる 未 登 録 資 料 のうち 公 共 財 として 利 用 可 能 と 仕 分 けられた 資 料 は 文 化 財 に 登 録 した 後 活 用 できるようにする 必 要 がある 現 在 一 時 保 管 場 所 において 水 洗 やクリーニング 消 毒 および 登 録 作 業 が 実 施 され ている 資 料 の 表 面 あるいは 内 部 には 土 砂 や 草 木 が 残 存 し 場 合 によっては 土 砂 が 瘡 蓋 状 に 固 着 している それらを 刷 毛 や 篦 竹 串 などを 用 いて 徐 々にクリーニングしていく 重 ねて 保 管 されていた 史 料 や 製 本 史 料 は 表 紙 あるいはページ 同 士 が 乾 燥 する 過 程 で 固 着 してしまう 場 合 が 多 い できるだけ 早 い 段 階 で 表 紙 あるいはページ 同 士 を 破 損 しないよ うに 剥 がしておく カビが 生 えた 資 料 はエタノールで 拭 き 取 り 滅 菌 した 作 業 中 は 修 業 者 の 健 康 被 害 を 防 止 するためゴム 手 袋 防 塵 マスクを 着 用 し 表 面 付 着 物 やカビの 胞 子 など の 付 着 吸 引 を 防 止 した 水 損 資 料 は 自 然 乾 燥 吸 水 法 および 真 空 凍 結 乾 燥 いずれかの 方 法 により 乾 燥 させ た 後 再 度 クリーニングされる 救 出 時 に 著 しく 濡 れている 資 料 は 仙 台 市 内 の 企 業 の 協 力 によって 使 用 が 許 された 大 型 冷 蔵 設 備 内 で 予 備 凍 結 した 後 国 立 文 化 財 機 構 奈 良 文 化 財 研 究 所 で 真 空 凍 結 乾 燥 させた 建 具 は 骨 組 みを 解 体 し 下 張 りの 文 書 を 外 す 作 業 も 行 った 霧 吹 きでお 湯 を 吹 き 付 け 幾 重 にも 糊 付 けされた 文 書 を 1 枚 ずつ 剥 がし 乾 燥 させていく 江 戸 時 代 後 期 から 明 治 時 代 に 至 るさまざまな 性 格 の 文 書 が 発 見 されている 被 災 状 況 も 材 質 も 一 様 では 無 く クリーニング 乾 燥 方 法 も 資 料 毎 に 対 応 する 必 要 があ る 資 料 数 も 膨 大 であるため 活 用 できる 状 態 にまで 復 元 するには 多 くのボランティア を 投 入 しても 長 い 時 間 を 要 するであろう こうした 作 業 を 経 た 後 博 物 館 機 能 が 復 旧 した 収 蔵 施 設 に 最 終 的 には 返 却 される 文 化 財 保 管 施 設 の 資 料 は 元 の 施 設 あるいは 所 有 自 治 体 に 返 却 できる 一 方 借 用 という 形 で 搬 出 された 個 人 宅 の 資 料 は 返 却 先 が 未 確 定 である 返 却 の 際 所 有 者 が 現 地 を 離 れた 保 管 場 所 が 無 い などさまざまな 理 由 で 返 却 を 望 まない 可 能 性 がある その 場 合 の 受 け 皿 と しては 地 域 の 博 物 館 や 博 物 館 相 当 施 設 への 寄 贈 や 寄 託 が 考 えられる 来 るべき 時 期 まで に その 準 備 も 不 可 欠 である 49

3. 文 化 財 レスキューにおける 課 題 文 化 財 レスキュー 事 業 に 参 加 した 経 験 を 基 に 改 善 すべきと 考 える 課 題 について 以 下 にまとめる (1) 組 織 体 制 文 化 財 レスキューでは 被 災 文 化 財 を 安 全 な 場 所 に 早 急 に 移 動 させることが 最 重 要 課 題 であることは 既 に 述 べた その 遂 行 のために 作 業 計 画 を 立 てる 組 織 と 現 場 での 作 業 を 円 滑 に 遂 行 する 実 働 部 隊 という 運 営 システムの 構 築 が 不 可 欠 である 作 業 計 画 を 立 てる 組 織 は 現 地 の 情 報 をできるだけ 早 く 収 集 し 自 立 的 に 活 動 できなければならないが 作 業 当 初 は 現 地 の 指 揮 つまり 被 災 者 の 指 示 で 実 施 せざるを 得 ない 現 地 から 入 手 した 情 報 に 基 づき 作 業 内 容 を 検 討 し ネットワークを 通 じて 発 信 することを 繰 り 返 し 必 要 に 応 じた 機 材 設 備 人 材 を 自 在 に 調 達 できる 組 織 が 求 められよう 緊 急 時 さらに 遠 隔 地 での 情 報 の 収 集 と 発 信 には 多 くの 困 難 が 伴 う 被 災 地 側 と 救 出 する 側 とで 事 前 に 情 報 を 持 ち 寄 り 連 携 できる 組 織 体 制 を 準 備 しておかなければならない 作 業 分 担 も 効 率 的 に 行 う 必 要 がある 実 働 部 隊 となる 人 材 の 多 くはボランティアにより 集 められた 一 般 人 だけでなく 博 物 館 職 員 などの 文 化 財 専 門 家 も 含 まれていた 一 般 は 瓦 礫 撤 去 等 の 肉 体 労 働 専 門 家 は 作 業 段 取 りや 資 料 登 録 文 化 行 政 業 務 への 支 援 など 専 門 知 識 や 経 験 を 活 かした 作 業 というように 事 前 の 情 報 に 基 づき 需 要 と 供 給 をマッチン グさせた 人 員 の 配 置 や 作 業 内 容 の 分 担 を 図 ることが 重 要 である また ボランティア 参 加 者 は 文 化 財 関 連 の 情 報 網 を 通 じて 集 められているとはいえ 性 別 年 齢 層 専 門 分 野 など その 背 景 は 実 にさまざまである 作 業 内 容 作 業 環 境 を 判 る 範 囲 で 知 らせた 上 で 参 加 を 呼 びかけることと 作 業 中 知 り 得 た 情 報 や 撮 影 した 写 真 などの 情 報 管 理 についての 合 意 形 成 を 図 ることを 運 営 側 は 疎 かにしてはならない 個 人 宅 のレスキューでは 一 時 保 管 場 所 の 空 間 的 限 界 や 資 料 重 複 の 点 から 全 ての 資 料 を 救 出 していない 公 共 財 としての 価 値 は 無 くとも 歴 史 的 価 値 を 有 し 失 えば 二 度 と 入 手 できない 資 料 であることは 間 違 いない レスキュー 事 業 では 対 応 できなくても いち 早 く 現 場 に 入 り 情 報 を 得 ることのできる 立 場 上 他 の 組 織 と 連 携 するなど より 多 くの 資 料 を 後 世 に 残 す 方 法 を 用 意 しておく 必 要 があろう (2)レスキュー 作 業 できる 限 り 短 期 間 で 終 了 させることが 求 められる 被 災 地 での 作 業 は ほとんどが 人 力 で 行 われたため 本 来 一 連 の 流 れでできる 作 業 が 時 間 の 制 限 から 細 切 れとなり 余 計 に 日 数 が 嵩 むこともあった レスキューの 長 期 化 は 被 災 文 化 財 の 損 失 を 拡 大 させるだけで 無 く 被 災 者 でもある 担 当 職 員 への 負 担 も 重 くする 改 善 策 として 電 気 ( 発 電 機 ) 水 燃 料 移 動 手 段 を 独 自 に 調 達 し 作 業 の 自 由 度 を 向 上 させる 取 り 組 みが 必 要 と 考 える そ れは 災 害 発 生 後 に 被 災 地 へ 入 る 速 度 を 早 めることにも 繋 がる 被 災 地 のインフラ 環 境 に 50

左 右 されずに 被 災 現 場 で 最 大 限 の 救 出 作 業 が 実 施 できる 手 段 を 獲 得 しておくべきであ る (3) 救 出 資 料 の 保 管 と 修 復 作 業 被 災 資 料 特 に 津 波 による 水 損 資 料 は 何 が 付 着 吸 着 しているのか 判 らない また 救 出 までに 時 間 を 要 した 資 料 の 中 には 蟻 の 巣 やカビが 発 生 してしまった 古 文 書 も 見 つ かっている 一 時 保 管 とはいえ 化 学 的 あるいは 生 物 的 に 汚 染 された 資 料 を 博 物 館 のよう な 保 管 施 設 に 搬 入 すれば 他 の 健 全 な 資 料 へ 化 学 的 および 生 物 的 被 害 を 及 ぼす 危 険 性 が 高 まる しかしながら 海 水 に 浸 かった 資 料 は 燻 蒸 によって 人 体 に 有 害 な 化 学 物 質 が 発 生 する 危 険 性 のあることが 指 摘 されており (6) 救 出 直 後 の 滅 菌 消 毒 が 困 難 になった 今 回 のような 被 災 資 料 の 場 合 は まず 大 型 の 倉 庫 等 に 集 め そこでシーズニングや 救 出 後 のクリーニング 作 業 を 行 う 状 態 を 確 認 しながら 保 管 可 能 と 判 断 されたもののみを 保 管 施 設 へ 搬 入 できるように 環 境 整 備 しておく 必 要 がある また それらのクリーニングや 修 復 は 各 地 で 状 況 に 応 じて 試 行 錯 誤 しながら 実 施 され ている 各 所 での 処 理 方 法 を 集 約 し 処 理 結 果 を 今 後 確 認 しておかなければならない そ して 被 災 状 況 と 材 質 に 応 じた 応 急 処 理 方 法 の 確 立 と レスキュー 時 に 被 災 地 に 持 ち 込 め る 応 急 処 理 作 業 用 機 材 一 式 の 開 発 が 不 可 欠 である (4) 無 形 遺 産 の 救 出 文 化 財 レスキュー 事 業 の 範 囲 外 ではあるが 被 災 地 域 にも 指 定 制 度 や 文 献 映 像 記 録 等 により 保 護 されてきた 祭 りや 芸 能 風 習 といった 無 形 遺 産 が 存 在 する 例 えば リアス 式 海 岸 である 牡 鹿 半 島 には 湾 入 の 奥 にある 平 地 や 谷 間 に 周 囲 と 孤 立 した 10 を 超 える 集 落 域 が 存 在 する 磯 浜 が 多 い 半 島 北 東 側 と 砂 浜 が 多 い 南 西 側 では 従 事 する 漁 業 が 異 な り 各 浜 で 独 自 の 漁 業 文 化 年 中 行 事 習 俗 を 伝 えていたという (7) 残 念 ながら ほとんどの 浜 が 津 波 に 飲 まれた 2011 年 8 月 に 出 された 宮 城 県 震 災 復 興 計 画 (8) によると 県 内 の 漁 港 を 震 災 前 の 1 / 3 に 集 約 再 編 し 優 先 的 に 復 旧 させる さ らに 住 居 地 を 高 台 へ 移 動 させるという こうした 小 港 の 復 興 が 後 回 しにされ 漁 港 が 減 り 沿 岸 部 に 住 めなくなれば これまで 無 形 遺 産 を 保 護 維 持 してきた 担 い 手 が 属 するコミュ ニティーの 存 続 が 難 しくなる 被 災 地 の 生 活 が 安 定 した 後 に 未 記 録 の 無 形 遺 産 は 早 急 に 記 録 保 存 されなければならない そして 無 形 遺 産 の 担 い 手 を 維 持 する 取 り 組 みにも 注 視 しておく 必 要 があろう 51

4.おわりに 現 地 におけるレスキュー 作 業 は ほぼ 終 了 した しかし 既 述 のとおり 救 われた 資 料 が 文 化 財 として 登 録 され 展 示 活 用 に 至 るまでには さらなる 時 間 を 要 する 今 後 も 多 くの 方 々の 支 援 が 不 可 欠 である 今 回 の 経 験 を 通 して 文 化 財 レスキューで 最 も 必 要 な 事 は 現 地 での 作 業 やその 作 業 に 必 要 な 物 資 や 設 備 マンパワーの 確 保 はもちろんだが 作 業 全 体 を 潤 滑 に 動 かし 資 料 の 救 出 から 保 管 返 却 まで 見 通 したシステムとネットワークの 構 築 と 考 えた 救 出 する 側 される 側 両 者 において 災 害 前 にできるだけ 組 織 化 しておく 必 要 がある また 阪 神 大 震 災 新 潟 中 越 地 震 などで 実 施 された 文 化 財 レスキューの 経 験 が 随 所 に 活 かされていた ここまで 大 規 模 な 災 害 が 今 後 起 きないことを 切 に 願 うが 未 来 の 災 害 に 対 応 できるよう 今 回 の 経 験 も 共 有 体 系 化 されることを 期 待 する 末 筆 ながら 今 回 の 大 震 災 に 遭 われた 被 災 者 の 皆 様 に 衷 心 よりお 見 舞 い 申 し 上 げる 52

註 および 引 用 文 献 (1) 文 化 庁 が 行 う 文 化 財 レスキューについて 以 下 にまとめる この 活 動 の 目 的 は 被 災 した 文 化 財 等 を 緊 急 に 保 全 すると 共 に 今 後 に 予 想 される 損 壊 建 物 の 撤 去 等 に 伴 う 我 が 国 の 貴 重 な 文 化 財 等 の 廃 棄 散 逸 を 防 止 すること である (2) その 内 容 は 地 震 等 による 直 接 の 被 災 や 被 災 地 各 県 内 の 社 寺 個 人 及 び 博 物 館 美 術 館 資 料 館 等 の 保 存 展 示 施 設 の 倒 壊 又 は 倒 壊 等 の 恐 れ 等 によ り 緊 急 に 保 全 措 置 を 必 要 とする 文 化 財 等 について 救 出 し 応 急 措 置 をし 当 該 県 内 又 は 周 辺 都 県 ( 以 下 当 該 県 内 等 という )の 博 物 館 等 保 存 機 能 のある 施 設 での 一 時 保 管 を 行 う ことであ る その 対 象 は 国 地 方 の 指 定 等 の 有 無 を 問 わず 当 面 絵 画 彫 刻 工 芸 品 書 跡 典 籍 古 文 書 考 古 資 料 歴 史 資 料 有 形 民 俗 文 化 財 等 の 動 産 文 化 財 及 び 美 術 品 を 中 心 とする (2) 文 化 庁 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 被 災 文 化 財 等 救 援 事 業 ( 文 化 財 レスキュー 事 業 )について 2011 (アクセス:2011 年 10 月 30 日 ) http://www.bunka.go.jp/bunkazai/tohokujishin_kanren/pdf/bunkazai_rescue_jigyo_ver 04.pdf (3) 宮 城 資 料 ネットは 2003 年 の 宮 城 県 北 部 連 続 地 震 を 契 機 に 組 織 され 宮 城 県 内 の 歴 史 資 料 の 保 全 を 目 的 として 活 動 している (4) 創 設 以 降 災 害 時 および 平 常 時 における 資 料 保 全 活 動 や 資 料 所 蔵 者 のリスト 作 成 を 行 ってきており 今 回 のレスキュー 時 にそれらの 成 果 が 非 常 に 有 効 に 働 い た 活 動 内 容 の 詳 細 はホームページを 参 照 願 いたい (5) (4) 平 川 新 宮 城 県 北 部 連 続 地 震 と 歴 史 資 料 の 救 済 新 潟 中 越 地 震 文 化 遺 産 を 救 え 2005 pp. 6-25 (5) NPO 法 人 宮 城 歴 史 資 料 保 全 ネットワークホームページ(アクセス:2011 年 10 月 30 日 ) http://www.miyagi-shiryounet.org/ 00 /front.htm ( 6 ) 被 災 文 化 財 等 救 援 委 員 会 海 水 で 濡 れた 資 料 を 殺 菌 燻 蒸 することによる 発 がん 性 物 質 等 発 生 のリ スクの 調 査 結 果 について 2011(アクセス:2011 年 10 月 30 日 ) http://www.tobunken.go.jp/japanese/rescue/ 110829.pdf (7) 牡 鹿 町 誌 編 纂 委 員 会 牡 鹿 町 誌 1989 (8) 宮 城 県 震 災 復 興 政 策 課 宮 城 県 震 災 復 興 計 画 ~ 宮 城 東 北 日 本 の 絆 再 生 からさらなる 発 展 へ ~( 案 ) 2011(アクセス:2011 年 10 月 30 日 ) http://www.pref.miyagi.jp/seisaku/sinsaihukkou/keikaku/ 53