テレビコマーシャルにおける 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 の 描 写 ~ 広 告 描 写 の 内 容 分 析 研 究 のための 新 手 法 の 確 立 にむけて~ 代 表 研 究 者 坂 元 章 お 茶 の 水 女 子 大 学 文 教 育 学 部 教 授 共 同 研 究 者 鈴 木 佳 苗 筑 波 大 学 大 学 院 図 書 館 情 報 メディア 研 究 科 講 師 田 島 祥 お 茶 の 水 女 子 大 学 大 学 院 人 間 文 化 研 究 科 博 士 前 期 課 程 佐 渡 真 紀 子 武 蔵 工 業 大 学 環 境 情 報 学 科 非 常 勤 講 師 長 谷 川 真 里 お 茶 の 水 女 子 大 学 文 教 育 学 部 研 究 員 堀 内 由 樹 子 お 茶 の 水 女 子 大 学 大 学 院 人 間 文 化 研 究 科 博 士 前 期 課 程 1. 本 研 究 の 目 的 近 年 テレビの 暴 力 描 写 が 犯 罪 や 非 行 などの 子 どもを 取 り 巻 く 状 況 を 深 刻 化 させる 原 因 のひとつに 挙 げられ その 悪 影 響 に 関 する 社 会 的 関 心 が 高 まり 国 内 外 で 放 送 規 制 の 問 題 が 盛 んに 議 論 されている 一 方 で 多 様 なメディアが 普 及 する 今 日 でも テレビは 子 どもの 生 活 や 娯 楽 において 重 要 な 位 置 を 占 めて いることから 欧 米 を 中 心 に 悪 影 響 を 問 題 視 するよりもむしろ その 肯 定 的 影 響 に 着 目 し 教 育 的 に 活 用 しようとする 試 みもなされている( 山 下, 1996) これらの 議 論 や 試 みを 進 めていく 上 では 最 近 の 日 本 のテレビ 番 組 の 中 に 日 常 的 にどのような 暴 力 行 為 や 向 社 会 的 行 為 ( 援 助 行 動 など 他 者 のためになる 行 為 )がどのくらい 描 写 されているかを 明 らかにすることが 必 要 である そこで -11-
研 究 代 表 者 ら(Japanese Television Violence Study; JTVS)は 日 本 のテレ ビ 番 組 内 で 描 写 される 暴 力 行 為 や 向 社 会 的 行 為 の 特 徴 を 明 らかにするために 内 容 分 析 研 究 を 行 ってきた( 佐 渡 ら, 2004 など) しかし テレビ 番 組 を 視 聴 する 際 には 番 組 内 容 のみならず そこに 付 随 する CM を 視 聴 する 機 会 も 多 い また CM 表 現 が 本 来 視 聴 者 に 強 いインパクトを 与 えることを 意 図 して 制 作 さ れていることを 考 えると その 影 響 を 軽 視 することはできないといえる CM に ついても 客 観 的 な 基 準 に 基 づいて 描 写 内 容 を 分 析 し 検 討 を 行 うことは 重 要 な 課 題 であると 考 えられることから 本 研 究 では 日 本 の CM における 暴 力 およ び 向 社 会 的 行 為 の 描 写 に 焦 点 を 当 てた 内 容 分 析 を 行 うこととした 本 研 究 における 分 析 の 枠 組 みや 分 析 項 目 は テレビ 番 組 の 暴 力 描 写 に 関 する 内 容 分 析 研 究 として 世 界 的 に 評 価 の 高 い カリフォルニア 大 学 サンタバーバラ 校 の 研 究 グループが 行 った 米 国 テレビ 暴 力 研 究 (National Television Violence Study; NTVS, 1996)を 翻 訳 し 援 用 した JTVS( 佐 渡 ら, 2004; 鈴 木 ら, 2004 など)の 分 析 枠 組 みや 項 目 に 準 拠 した NTVS や JTVS では 暴 力 行 為 を 量 的 側 面 から 捉 えるだけでなく 行 為 の 理 由 や 行 為 後 に 与 えられる 報 酬 や 罰 などの 行 為 に 関 する 文 脈 を 捉 えることができるよう 行 為 セグメント 番 組 の 3 つのレベルを 分 析 枠 組 みに 採 用 している また 暴 力 描 写 を 視 聴 することに よる 影 響 に 関 する 3 つの 理 論 に 基 づいて 分 析 項 目 を 作 成 している 1つ 目 は 暴 力 を 含 むメディアに 接 することによって 視 聴 者 がそれを 学 んでしまう 社 会 的 学 習 理 論 (Bandura, 1965)であり 暴 力 行 為 の 理 由 の 正 当 性 や 行 為 に 対 する 報 酬 や 罰 苦 痛 や 被 害 の 手 がかりなどが 取 り 上 げられている 2 つ 目 は 暴 力 を 含 むメディアに 接 触 した 結 果 現 実 世 界 との 混 同 が 生 じ 必 要 以 上 に 恐 怖 心 を 持 つようになる カルティベーション 理 論 であり 暴 力 対 象 者 の 魅 力 や 正 当 化 されない 暴 力 現 実 的 な 暴 力 などが 取 り 上 げられている 3 つ 目 は メディア 暴 力 接 触 の 結 果 として 暴 力 に 慣 れてしまう 脱 感 作 理 論 (Wilson, 1995)であり 多 量 な 暴 力 やユーモアが 取 り 上 げられている JTVS では さら に これらの 分 析 枠 組 みや 項 目 を 援 用 し 向 社 会 的 行 為 の 描 写 を 分 析 するため の 手 法 を 開 発 している( 佐 渡 ら, 2004; 長 谷 川 ら, 2004 など) 本 研 究 では これらの 分 析 枠 組 みや 分 析 項 目 を 援 用 することで CM 内 に 描 写 される 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 について 量 的 側 面 のみならず 行 為 の 文 脈 に ついても 分 析 を 行 っていく 本 研 究 の 目 的 は 以 下 の 3 点 である 1 点 目 は CM -12-
における 表 現 の 内 容 を 文 脈 的 要 素 も 含 めて 分 析 しうる 新 しい 手 法 を 開 発 するこ とである 上 述 したように NTVS の 暴 力 行 為 の 分 析 枠 組 みをもとに 開 発 された JTVS の 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 描 写 の 分 析 枠 組 みをさらに 援 用 していく 2 点 目 は どのような CM に 暴 力 行 為 や 向 社 会 的 行 為 の 描 写 があるのかを CM の 放 送 日 や 時 間 帯 商 品 の 種 類 などの 変 数 に 着 目 し その 特 徴 を 明 らかにすること である 3 点 目 は CM 内 で 描 写 される 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 に 着 目 し その 特 徴 を 明 らかにすることである 2. 方 法 分 析 対 象 CM 特 別 な 番 組 編 成 ではない 1 週 間 (2005 年 1 月 13 日 から 19 日 ) に 在 京 の 5 放 送 局 ( 日 本 テレビ TBS フジテレビ テレビ 朝 日 テレビ 東 京 ) で 放 送 された 番 組 を 終 日 録 画 し 放 送 局 と 時 間 帯 によるサンプリングを 行 った 抽 出 された 216 時 間 分 (1 日 約 31 時 間 分 )に 含 まれた 301 番 組 に 含 まれる 7422 本 の CM が 分 析 対 象 となった 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 の 定 義 暴 力 行 為 は NTVS によって 定 義 された 暴 力 行 為 と JTVS によって 追 加 された 言 語 的 攻 撃 間 接 的 攻 撃 の 3 種 か ら 構 成 された 暴 力 行 為 は NTVS を 翻 訳 し 相 手 に 身 体 的 な 被 害 をもたら すことを 意 図 して 切 迫 した 脅 威 を 与 えたり 実 際 に 暴 力 をふるったりする 行 為 と 定 義 した 言 語 的 攻 撃 は 身 体 的 な 暴 力 は 伴 わないが 言 葉 そのもの によって 相 手 を 傷 つけることを 意 図 して 行 使 される 行 為 間 接 的 攻 撃 は 対 象 者 に 直 接 働 きかけをするのではなく 悪 い 評 判 を 立 てる ものを 隠 す 無 視 する ( 相 手 を 苦 しめるために) 必 要 な 世 話 をしないなど 相 手 を 傷 つけること を 意 図 して 遠 回 しに 行 使 される 行 為 とそれぞれ 定 義 した また 向 社 会 的 行 為 は 他 人 あるいは 他 の 人 々の 集 団 を 助 けようとしたり こうした 人 々のため になることをしようとする 自 発 的 行 動 と 定 義 した 分 析 の 枠 組 み JTVS では NTVS に 基 づき 行 為 セグメント 番 組 の 3 つのレベルを 採 用 しているが 本 研 究 では 1 本 の CM の 長 さを 考 慮 し CM 全 体 を 1 セグメントと 考 えることにした したがって 分 析 は 行 為 CM 全 体 の 2 つのレベルで 行 った 分 析 項 目 CM や CM が 含 まれる 番 組 の 属 性 に 関 する 項 目 として CM 名 CM を 含 む 番 組 名 放 送 日 放 送 時 間 放 送 局 番 組 のジャンル CM 内 の 商 品 のタイ -13-
プについてコード 化 した 商 品 のタイプは 電 通 によるマスコミ 四 媒 体 広 告 費 の 業 種 別 分 類 基 準 (21 分 類 )をもとに 作 成 した( 電 通, 2004) 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 描 写 に 関 する 分 析 項 目 は NTVS の 分 析 項 目 を 翻 訳 し た JTVS の 分 析 項 目 をもとに 作 成 した( 佐 渡 ら, 2004 など) 分 析 項 目 を 表 1 に 示 す なお 先 述 のとおり 本 研 究 における 分 析 の 枠 組 みは 行 為 と CM 全 体 の 2 つのレベルであるが 便 宜 上 NTVS や JTVS の 枠 組 みである 行 為 セ グメント 番 組 (CM 全 体 ) レベルごとに 項 目 を 記 している 手 続 き 事 前 に20 時 間 以 上 の 研 修 を 受 けた 大 学 生 9 名 が 分 担 してコード 化 を 行 った 無 作 為 に 選 出 した 4 本 の DVD(24 時 間 分 )に 含 まれる CM645 本 の 一 致 率 を 算 出 したところ CM 内 に 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 が 描 写 されているか 否 かに ついての 一 致 率 は 暴 力 行 為 向 社 会 的 行 為 ともに.90 であった 表 1 分 析 レベルごとの 分 析 項 目 分 析 レベル 暴 力 行 為 行 為 セグメント CM 全 体 向 社 会 的 行 為 行 為 セグメント CM 全 体 項 目 内 容 実 行 者 と 対 象 者 の 形 態 集 団 の 大 きさ 関 係 性 暴 力 行 為 の 種 類 理 由 手 段 程 度 性 的 暴 力 / 攻 撃 の 有 無 描 写 された 被 害 / 身 体 的 苦 痛 / 心 理 的 苦 痛 現 実 的 な 被 害 / 身 体 的 苦 痛 / 心 理 的 苦 痛 キャラクターの 肉 体 的 強 さ 暴 力 攻 撃 への 関 与 報 酬 ( 自 己 賞 賛 / 他 者 からの 賞 賛 / 物 理 的 賞 賛 )や 罰 ( 自 己 非 難 他 者 からの 非 難 非 暴 力 行 為 暴 力 行 為 ) 行 為 や 手 段 対 象 への 焦 点 づ け 血 の 描 写 ユーモア 問 題 解 決 実 行 者 と 対 象 者 の 種 類 性 別 人 種 ヒーロー 性 年 齢 善 人 / 悪 人 有 能 性 身 体 的 魅 力 反 暴 力 ( 攻 撃 ) 主 題 現 実 性 スタイル キャラクターへの 罰 行 為 描 写 実 行 者 と 対 象 者 の 形 態 集 団 の 大 きさ 関 係 性 向 社 会 的 行 為 の 種 類 手 段 理 由 視 覚 的 描 写 成 果 の 描 写 ユーモア 報 酬 ( 自 己 賞 賛 / 他 者 からの 賞 賛 / 物 理 的 報 酬 )や 罰 ( 自 己 非 難 / 他 者 からの 非 難 / 非 暴 力 行 為 / 暴 力 行 為 ) 実 行 者 と 対 象 者 の 種 類 性 別 人 種 ヒーロー 性 年 齢 善 人 / 悪 人 身 体 的 魅 力 有 能 性 養 育 性 勢 力 性 主 題 現 実 性 スタイル キャラクターへの 報 酬 3. 結 果 と 考 察 - 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 の 描 写 のあるCMの 特 徴 - 分 析 対 象 となった 7422 本 の CM のうち 暴 力 行 為 描 写 を 含 む CM は 223 本 (3.00%)であり 1 時 間 あたり 1.03 本 の 暴 力 行 為 描 写 のある CM が 放 送 され ていた 向 社 会 的 行 為 描 写 を 含 む CM は 150 本 (2.02%)であり 1 時 間 あたり 0.69 本 の 向 社 会 的 行 為 描 写 のある CM が 放 送 されていた 暴 力 行 為 描 写 のある CM の 方 が 向 社 会 的 行 為 描 写 のある CM よりも 多 くみられた 放 送 時 間 に 着 目 した 分 析 結 果 を 表 2 に 示 す 暴 力 行 為 描 写 のある CM の 割 合 は -14-
深 夜 (24-4 時 )に 多 く 向 社 会 的 行 為 描 写 のある CM は 夜 (18-24 時 )に 多 かっ た また 民 放 連 が 児 童 および 青 少 年 とりわけ 児 童 の 視 聴 に 十 分 配 慮 する と 定 める 17-21 時 ( 以 下 配 慮 時 間 )に 含 まれる 暴 力 行 為 描 写 のある CM は 全 体 時 間 における 割 合 よりはやや 少 ないものの 他 の 時 間 区 分 との 違 いは 顕 著 では なかった 一 方 向 社 会 的 行 為 描 写 のある CM は 全 体 時 間 における 割 合 よりも やや 多 く 他 の 時 間 区 分 と 比 較 しても 多 めであることが 明 らかになった さら に CM が 宣 伝 する 商 品 のタイプに 着 目 すると 暴 力 行 為 描 写 のある CM は ゲ ーム ゲームソフト 交 通 レジャー( 映 画 舞 台 ) 番 組 宣 伝 に 多 くみら れ 向 社 会 的 行 為 描 写 のある CM は 金 融 保 険 食 品 に 多 くみられた これらの 結 果 を 概 観 すると 全 体 的 に 暴 力 行 為 描 写 のある CM と 向 社 会 的 行 為 描 写 のある CM とでは 異 なる 特 徴 を 持 っていることが 明 らかになった CM 制 作 に 関 する 自 主 規 制 として 広 告 は 幼 少 年 の 健 全 な 育 成 の 妨 げにならないよ うに 配 慮 する といったことが 掲 げられているが( 社 団 法 人 日 本 広 告 業 協 会, 2004 など) 実 際 には 暴 力 行 為 描 写 のある CM が 含 まれており 特 に ゲーム ゲームソフト 交 通 レジャー( 映 画 舞 台 ) 番 組 宣 伝 といった 商 品 タイ プの CM に 多 いことが 明 らかになった このような 商 品 のタイプに 暴 力 描 写 が 多 い 理 由 としては 商 品 自 体 がストーリーや 世 界 観 を 有 しており そこに 暴 力 行 為 が 含 まれていることが 多 いためであると 考 えられる また それらの 暴 力 行 為 は 商 品 の 制 作 側 の 意 図 によって 挿 入 されたものであるため 暴 力 行 為 の 描 写 に 対 する 責 任 の 所 在 は 商 品 の 制 作 側 にあり CM 制 作 の 自 主 規 制 は 及 ばない 範 囲 であると 捉 えられている 可 能 性 があるのではないだろうか 今 後 自 主 規 制 の 観 点 から この 問 題 について 再 確 認 する 意 味 は 小 さくないと 考 えられる 表 2 各 時 間 帯 の CM 全 体 に 占 める 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 の 描 写 のある CM 割 合 時 間 区 分 全 体 CM 数 暴 力 行 為 向 社 会 的 行 為 CM 数 % CM 数 % 午 前 (4-12 時 ) 2264 51 2.25 37 1.63 午 後 (12-18 時 ) 2790 51 1.83 66 2.37 夜 (18-24 時 ) 1077 37 3.44 34 3.16 深 夜 (24-4 時 ) 1291 84 6.51 13 1.01 配 慮 時 間 (17-21 時 ) 880 24 2.73 26 2.95 全 体 7422 223 3.00 150 2.02-15-
また 放 送 時 間 に 関 しては 民 放 連 の 配 慮 時 間 における 暴 力 行 為 描 写 のある CM の 割 合 は 少 ないことが 期 待 されたが そのような 結 果 はみられなかった し かし 商 品 の 宣 伝 に 大 きな 効 果 が 期 待 される プライムタイム ゴールデン タイム と 呼 ばれる 時 間 帯 と 一 部 重 なっているものの 同 じく 時 間 が 重 なる 夜 (18-24 時 ) よりも 暴 力 行 為 描 写 のある CM の 割 合 は 少 なかったことから 民 放 連 による 取 り 組 みはなんらかの 効 果 をもたらしている 可 能 性 が 示 唆 された 今 後 さらに 青 少 年 への 配 慮 がなされていくことが 期 待 される 一 方 この 時 間 帯 における 向 社 会 的 行 為 のある CM については 全 体 的 な 割 合 や 他 の 時 間 帯 よりも 比 較 的 多 く 放 送 されており 望 ましい 傾 向 がみられた 4. 結 果 と 考 察 -CM 内 に 描 写 される 暴 力 行 為 の 特 徴 - CM 内 に 描 写 される 暴 力 行 為 の 特 徴 を NTVS や JTVS による 文 脈 的 側 面 を 捉 え ることのできる 項 目 を 援 用 し 分 析 を 行 った 分 析 項 目 作 成 の 背 景 となった 3 つの 理 論 の 観 点 から 結 果 を 概 観 する 社 会 的 学 習 理 論 社 会 的 学 習 理 論 に 関 しては 暴 力 行 為 の 理 由 や 手 段 とその 程 度 暴 力 行 為 に よる 被 害 や 苦 痛 の 描 写 行 為 に 対 する 報 酬 や 罰 実 行 者 や 対 象 者 の 魅 力 などの 項 目 が 用 意 されていた 分 析 の 結 果 正 当 化 されやすい 理 由 よりも 正 当 化 されにくい 理 由 による 暴 力 行 為 の 方 が 多 く 暴 力 行 為 の 学 習 を 促 進 する 要 因 とはなりにくいことが 示 唆 さ れた また 暴 力 の 手 段 については 過 去 に 記 憶 した 暴 力 的 行 為 を 呼 び 起 こす 手 掛 かりとなりうる 通 常 凶 器 が 半 数 以 上 を 占 め 次 いで 容 易 に 真 似 する ことができる 手 段 である 自 然 手 段 が 多 くみられた これらは 暴 力 や 攻 撃 性 の 学 習 を 促 進 する 要 因 であるといえる 行 為 の 程 度 については 繰 り 返 しの 暴 力 よりも 1 回 のみの 暴 力 の 方 が 多 かったことから 攻 撃 性 を 促 進 する 要 因 と はなりにくいと 考 えられる 暴 力 行 為 による 被 害 や 苦 痛 の 描 写 については 暴 力 行 為 とともに 被 害 者 の 被 害 や 苦 痛 が 描 写 されることにより 暴 力 の 深 刻 な 結 果 が 伝 わるため 攻 撃 行 動 が 抑 制 すると 推 測 されているが( 佐 渡 ら, 2004) 本 研 究 結 果 では 描 写 なし がもっとも 多 く このような 抑 制 効 果 は 期 待 できな いことが 明 らかになった さらに 表 3 に 示 すように 描 写 された 被 害 や 苦 痛 と 現 実 に 想 定 される 被 害 や 苦 痛 には 大 きなギャップがあることが 明 らかになった -16-
表 3 描 写 された 被 害 と 現 実 的 な 被 害 のクロス 集 計 結 果 現 実 的 な 被 害 描 写 された 被 害 被 害 なし 軽 度 中 程 度 重 度 未 遂 不 明 該 当 せず 合 計 被 害 なし 55 4 11 6 0 0 0 76 軽 度 0 35 4 10 0 0 0 49 中 程 度 0 0 28 5 0 1 0 34 重 度 1 0 0 73 0 0 0 74 未 遂 0 0 5 6 80 0 0 91 描 写 なし 13 7 72 60 0 38 0 190 該 当 せず 0 0 0 0 0 0 91 91 合 計 69 46 120 160 80 39 91 605 特 に 現 実 的 には 中 程 度 重 度 と 考 えられる 被 害 や 苦 痛 が CM 内 では 描 写 されていなかったり 被 害 や 苦 痛 はないものとして 描 かれていた このよ うな 結 果 は 攻 撃 行 動 の 抑 制 や 暴 力 行 為 の 学 習 の 抑 制 を 妨 げているといえる また 行 為 に 対 する 報 酬 や 罰 の 描 写 は 攻 撃 性 の 学 習 において 重 要 な 要 素 である が 本 研 究 では 報 酬 はまったくみられず 攻 撃 性 の 学 習 を 促 進 する 要 因 とはな らないことが 明 らかになった 対 象 者 の 魅 力 については 実 行 者 対 象 者 ともに 日 本 人 の 成 人 男 性 が 多 く 善 人 でも 悪 人 でもなく ヒーロー 性 もなく 有 能 ではないキャラクターが 多 数 登 場 していた これらの 結 果 からは 暴 力 実 行 者 の 魅 力 によって 学 習 が 促 進 さ れることは 考 えにくい しかし 同 一 視 しやすいキャラクターであることも 学 習 を 促 進 する 要 因 となりえるため 普 通 の 日 本 人 成 人 男 性 という 身 近 なキャ ラクターによって 行 われる 暴 力 行 為 は 学 習 を 促 進 する 可 能 性 を 有 しているこ とが 示 唆 された カルティベーション 理 論 ( 恐 怖 ) この 理 論 に 関 しては 対 象 者 の 魅 力 や 暴 力 行 為 の 程 度 現 実 性 といった 項 目 が 用 意 されていた しかし 魅 力 的 な 対 象 者 は 多 くなかったことから 恐 怖 を 喚 起 する 要 因 とはなりにくいと 示 唆 された また 行 為 の 程 度 についても 同 様 に 1 回 のみの 行 為 が 多 かったことから 恐 怖 を 喚 起 する 要 因 にはなりにくい と 考 えられる しかし 現 実 性 については 約 8 割 の 暴 力 行 為 を 含 む CM において 現 実 性 が 高 かったことから 恐 怖 を 喚 起 する 要 因 となりうることが 示 唆 された 脱 感 作 脱 感 作 については 暴 力 行 為 の 程 度 とユーモアについて 分 析 された しかし -17-
繰 り 返 しの 暴 力 は 少 なく 大 多 数 の CM においてユーモアはみられなかったため 脱 感 作 を 引 き 起 こす 要 因 にはなりにくいことが 示 唆 された 5. 結 果 と 考 察 -CM 内 に 描 写 される 向 社 会 的 行 為 の 特 徴 - CM 内 に 描 写 される 向 社 会 的 行 為 の 特 徴 を 文 脈 的 側 面 を 捉 えることのできる 項 目 を 用 いて 分 析 を 行 った 分 析 項 目 作 成 の 背 景 となった 社 会 的 学 習 理 論 を 踏 まえ 結 果 を 概 観 する 社 会 的 学 習 理 論 によると キャラクターが 魅 力 的 であることは 学 習 を 促 進 す る 要 因 となると 考 えられる 分 析 の 結 果 キャラクターのヒーロー 性 について は 低 かったものの 向 社 会 的 行 為 の 実 行 者 の 善 人 性 や キャラクターの 身 体 的 魅 力 キャラクターの 養 育 性 が 高 かったことから 向 社 会 的 行 為 の 学 習 を 促 進 する 要 因 となりうるとことが 示 唆 された また 行 為 が 成 功 したり 報 酬 が 与 えられたりすることも 学 習 の 促 進 要 因 と なりうる 分 析 の 結 果 より 80.7%の 向 社 会 行 為 に 成 果 の 描 写 があり 中 でも 79.53%が 成 功 していたことから これらの 描 写 は 学 習 の 促 進 要 因 であるとい える しかし 行 為 に 対 する 報 酬 はほとんど 与 えられてなかった 以 上 のことから 考 えると CM 内 で 描 写 される 向 社 会 的 行 為 は キャラクター の 面 からみれば 学 習 の 促 進 要 因 となりうることが 示 唆 された これは JTVS に よる 番 組 評 定 結 果 ( 長 谷 川 ら, 2004)とは 異 なった CM 独 自 の 特 徴 であるとい える しかし 一 方 で 行 為 の 結 果 の 描 写 に 関 しては 行 為 が 成 功 する 描 写 は 多 いものの その 行 為 に 対 する 反 応 ( 報 酬 )はごくまれであり 学 習 の 促 進 要 因 とは 考 えにくいことも 明 らかになった この 点 は 長 谷 川 ら(2004)と 同 様 の 結 果 であった 6.おわりに 本 研 究 では 日 本 の CM で 描 かれる 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 描 写 の 特 徴 を 明 ら かにすることを 目 的 とし NTVS および JTVS による 分 析 項 目 を 援 用 した 分 析 枠 組 みを 開 発 し 内 容 分 析 研 究 を 行 った 7422 本 の 分 析 対 象 CM に 対 し どのよ うな CM に 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 の 描 写 があるのか という 量 的 側 面 と ど のような 描 写 がなされているのか という 文 脈 的 側 面 の 両 者 から 分 析 を 行 った その 結 果 日 本 の CM における 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 の 描 写 に 関 する 基 礎 的 資 -18-
料 を 提 示 することができた 今 後 の 展 望 としては 以 下 の 3 点 が 挙 げられる まず 1 点 目 は 放 送 時 期 を 増 やして 検 討 することである 本 研 究 では 2005 年 1 月 の 1 週 間 をサンプルウ ィークとしたが CM の 内 容 は 放 送 時 期 によって 変 化 するものであるため 異 な る 時 期 の CM を 対 象 とした 分 析 を 併 せて 行 うことで より 日 本 の CM における 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 描 写 の 特 徴 を 明 らかにしていく 必 要 があると 考 えられる 2 点 目 は 商 品 タイプや 購 買 層 ( 大 人 向 け 子 ども 向 け) 放 送 時 間 帯 などの CM のもつ 変 数 ごとに 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 描 写 の 特 徴 を 明 らかにしていく ことである 本 研 究 では これらの 側 面 について 量 的 な 分 析 を 行 い その 特 徴 を 明 らかにした 今 後 は 変 数 ごとに 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 描 写 を 文 脈 的 側 面 から 分 析 していくことにより その 特 徴 を 明 らかにしていくことが 必 要 であ ると 考 えられる 3 点 目 は CM における 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 描 写 が 実 際 にどのように 人 々 に 影 響 を 与 えているのかを 検 討 することである 本 研 究 から 各 描 写 内 容 が 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 の 学 習 の 促 進 要 因 や 抑 制 要 因 となりうるか 否 かが 明 ら かにされた 今 後 は それらの 要 因 が 実 際 に 及 ぼす 影 響 について 検 討 していく 方 向 に 研 究 を 発 展 させていく 必 要 があると 考 えられる 引 用 文 献 Bandura, A (1965). Influence of models reinforcement contingencies on the acquisition of imitative responses. Journal of Personality and Social Psychology, 1, 589-595. 電 通 (2004) 電 通 推 定 日 本 の 広 告 費 について [http://www.dentsu.co.jp/marketing/adex/adex2004/_about.html] ( 検 索 日 2006 年 3 月 9 日 ) 長 谷 川 真 里 佐 渡 真 紀 子 鈴 木 佳 苗 堀 内 由 樹 子 坂 元 章 (2004). テレビ 番 組 における 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 の 描 写 (4) - 向 社 会 的 行 為 描 写 の 分 析 - 日 本 社 会 心 理 学 会 第 45 回 大 会 発 表 論 文 集, 588-589. National Television Violence Study (vol. 1) 1996. CA: Sage. 佐 渡 真 紀 子 鈴 木 佳 苗 坂 元 章 (2004). テレビ 番 組 における 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 描 写 の 分 析 日 本 教 育 工 学 会 論 文 誌, 28(suppl), 77-80. -19-
佐 渡 真 紀 子 長 谷 川 真 里 堀 内 由 樹 子 鈴 木 佳 苗 坂 元 章 (2005). テレビ 番 組 における 暴 力 および 向 社 会 的 行 為 の 描 写 -2004 年 の 番 組 における 向 社 会 的 行 為 描 写 のジャンル 別 分 析 - 日 本 教 育 工 学 会 第 21 回 全 国 大 会 講 演 論 文 集, 847-848. 社 団 法 人 日 本 広 告 業 協 会 (2004). 社 団 法 人 日 本 広 告 業 協 会 広 告 倫 理 綱 領 [http://www.jaaa.ne.jp/introduction/5.html] ( 検 索 日 2006 年 3 月 9 日 ) 鈴 木 佳 苗 佐 渡 真 紀 子 坂 元 章 (2004). テレビ 番 組 における 暴 力 描 写 および 向 社 会 的 行 為 の 描 写 (1) - 研 究 の 概 要 と 描 写 の 程 度 - 日 本 社 会 心 理 学 会 第 45 回 大 会 発 表 論 文 集, 738-739. 山 下 玲 子 (1996). テレビが 子 どもの 向 社 会 的 行 動 に 及 ぼす 影 響 に 関 する 研 究 についての 一 考 察, 研 究 の 外 観 として マス コミュニケーション 研 究, 49, 161-179. Wilson, B. J. (1995). Effects of media violence: Aggression, desensitization, and fear. Les Cahairs de la sécurité Intérieure, 20, 21-37. -20-