名 古 屋 学 院 大 学 論 集 いても,その 支 援 体 制 は 十 分 ではないことが 伺 え, 小 児 期 の 治 療 にくらべ 成 人 期 の 対 応 は 不 十 分 とい える 今 回, 近 年 まで 一 般 企 業 で 就 労 していたものの, 激 しい 疼 痛 により 退 職 を 余



Similar documents
17 外 国 人 看 護 師 候 補 者 就 労 研 修 支 援 18 看 護 職 員 の 就 労 環 境 改 善 運 動 推 進 特 別 20 歯 科 医 療 安 全 管 理 体 制 推 進 特 別 21 在 宅 歯 科 医 療 連 携 室 整 備 22 地 域 災 害 拠 点 病

診療行為コード

Microsoft Word - 目次.doc

頸 がん 予 防 措 置 の 実 施 の 推 進 のために 講 ずる 具 体 的 な 施 策 等 について 定 めることにより 子 宮 頸 がんの 確 実 な 予 防 を 図 ることを 目 的 とする ( 定 義 ) 第 二 条 この 法 律 において 子 宮 頸 がん 予 防 措 置 とは 子 宮

11 切 断 又 は 離 断 変 形 麻 痺 11 切 離 断 部 位 手 関 節 前 腕 肘 関 節 上 腕 肩 関 節 左 リスフラン 関 節 部 位 左 ショパール 関 節 足 関 節 下 腿 膝 関 節 大 腿 股 関 節 左 左 手 ( 足 ) 関 節 手 ( 足 ) 指 の 切 離 断

2 積 極 的 な 接 種 勧 奨 の 差 し 控 え 国 は 平 成 25 年 4 月 から 定 期 接 種 化 したが ワクチン 接 種 との 関 連 を 否 定 できない 持 続 的 な 痛 みなどの 症 状 が 接 種 後 に 見 られたことから 平 成 25 年 6 月 定 期 接 種 と

平成25年度 独立行政法人日本学生支援機構の役職員の報酬・給与等について

柔 道 整 復 師 の 施 術 料 金 の 算 定 方 法 ( 平 成 22 年 6 月 1 日 改 正 ) 柔 道 整 復 師 の 施 術 に 係 る 費 用 の 額 は 次 に 定 める 額 により 算 定 するものとする 1 初 検 往 療 及 び 再 検 初 検 料 初 検 時 相 談 支

スライド 1

Microsoft Word - 佐野市生活排水処理構想(案).doc

Microsoft PowerPoint _GP向けGL_final

有 料 老 ホーム ( ) ( 主 として 要 介 護 状 態 にある を 入 居 させるも のに 限 る ) 第 29 条 ( 届 出 等 ) 第 二 十 九 条 有 料 老 ホーム( 老 を 入 居 させ 入 浴 排 せつ 若 しくは 食 事 の 介 護 食 事 の 提 供 又 はその 他 の

<6D313588EF8FE991E58A778D9191E5834B C8EAE DC58F4992F18F6F816A F990B32E786C73>

●幼児教育振興法案

<4D F736F F D E598BC68A8897CD82CC8DC490B68B7982D18E598BC68A8893AE82CC8A C98AD682B782E993C195CA915B C98AEE82C382AD936F985E96C68B9690C582CC93C197E1915B927582CC898492B75F8E96914F955D89BF8F915F2E646F6

Microsoft PowerPoint - 報告書(概要).ppt

Microsoft Word - nagekomi栃木県特定医療費(指定難病)支給認定申請手続きのご案内 - コピー


母 子 医 療 対 策 費 462 (313,289) 国 4,479 1 不 妊 治 療 助 成 事 業 8,600 不 妊 治 療 費 用 の 一 部 を 助 成 し 経 済 的 負 担 の 軽 減 を 図 る 230, ,608 不 妊 治 療 費 の 増 加 による 増 額 分

2-1膠原病.doc

< DB8CAF97BF97A6955C2E786C73>

は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし

公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

< F2D F97CC8EFB8F BE8DD78F9192CA926D>

セルフメディケーション推進のための一般用医薬品等に関する所得控除制度の創設(個別要望事項:HP掲載用)

私立大学等研究設備整備費等補助金(私立大学等

<4D F736F F D F8D828D5A939982CC8EF68BC697BF96B38F9E89BB82CC8A6791E52E646F63>

毎 月 の 給 与 等 ( )を 一 定 の 等 級 区 分 にあてはめた 標 準 月 額 の 上 限 が 現 行 の47 等 級 から50 等 級 に 改 正 されます ( 別 紙 健 康 保 険 料 額 表 参 照 ) なお 法 改 正 に 伴 い 標 準 月 額 が 改 定 される 方 につい

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

Taro-08国立大学法人宮崎大学授業

<4D F736F F D2090BC8BBB959491BA8F5A91EE8A C52E646F63>

( 新 ) 医 療 提 供 の 機 能 分 化 に 向 けたICT 医 療 連 携 導 入 支 援 事 業 費 事 業 の 目 的 医 療 政 策 課 予 算 額 58,011 千 円 医 療 分 野 において あじさいネットを 活 用 したICT したICT 導 入 により により 医 療 機 能

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

Microsoft Word - 【溶け込み】【修正】第2章~第4章

003-00個人の健康増進・疾病予防の推進のための所得控除制度の創設(個別要望事項:HP掲載用)

<947A957A8E9197BF C E786C73>

公表表紙

<4D F736F F F696E74202D2095C493639B A815B B >

39_1

02【発出】280328福島県警察職員男女共同参画推進行動計画(公表版)

Microsoft Word - 公表用答申422号.doc

預 金 を 確 保 しつつ 資 金 調 達 手 段 も 確 保 する 収 益 性 を 示 す 指 標 として 営 業 利 益 率 を 採 用 し 営 業 利 益 率 の 目 安 となる 数 値 を 公 表 する 株 主 の 皆 様 への 還 元 については 持 続 的 な 成 長 による 配 当 可

<819A955D89BF92B28F BC690ED97AA8EBA81418FA48BC682CC8A8890AB89BB816A32322E786C7378>

m07 北見工業大学 様式①

<8BB388F58F5A91EE82A082E895FB8AEE967B95FB906A>

共 通 認 識 1 官 民 較 差 調 整 後 は 退 職 給 付 全 体 でみて 民 間 企 業 の 事 業 主 負 担 と 均 衡 する 水 準 で あれば 最 終 的 な 税 負 担 は 変 わらず 公 務 員 を 優 遇 するものとはならないものであ ること 2 民 間 の 実 態 を 考

社会保険加入促進計画に盛込むべき内容

(2) 特 別 障 害 給 付 金 国 民 年 金 に 任 意 加 入 していなかったことにより 障 害 基 礎 年 金 等 を 受 給 していない 障 がい 者 の 方 に 対 し 福 祉 的 措 置 として 給 付 金 の 支 給 を 行 う 制 度 です 支 給 対 象 者 平 成 3 年 3

16 日本学生支援機構

●電力自由化推進法案

厚 生 年 金 は 退 職 後 の 所 得 保 障 を 行 う 制 度 であり 制 度 発 足 時 は 在 職 中 は 年 金 を 支 給 しないこととされていた しかしながら 高 齢 者 は 低 賃 金 の 場 合 が 多 いと いう 実 態 に 鑑 み 在 職 者 にも 支 給 される 特 別

<4D F736F F F696E74202D208CE38AFA8D8297EE8ED288E397C390A CC8A AE98EBA8DEC90AC816A2E707074>

答申第585号

第 7 条 職 員 の 給 与 に 関 する 規 程 ( 以 下 給 与 規 程 という ) 第 21 条 第 1 項 に 規 定 す るそれぞれの 基 準 日 に 育 児 休 業 している 職 員 のうち 基 準 日 以 前 6 月 以 内 の 期 間 にお いて 在 職 した 期 間 がある 職

<4D F736F F D C482C682EA817A89BA90BF8E7793B1834B A4F8D91906C8DDE8A A>

新 行 財 政 改 革 推 進 大 綱 実 施 計 画 個 票 取 組 施 策 国 や 研 究 機 関 への 派 遣 研 修 による 資 質 向 上 の 推 進 鳥 インフルエンザ 等 新 たな 感 染 症 等 に 対 する 検 査 技 術 の 習 得 など 職 員 の 専 門

 

国立大学法人 東京医科歯科大学教職員就業規則

学校安全の推進に関する計画の取組事例

δ

別記

技 能 労 務 職 公 務 員 民 間 参 考 区 分 平 均 年 齢 職 員 数 平 均 給 与 月 額 平 均 給 与 月 額 平 均 給 料 月 額 (A) ( 国 ベース) 平 均 年 齢 平 均 給 与 月 額 対 応 する 民 間 の 類 似 職 種 東 庄 町 51.3 歳 18 77

<4D F736F F D C93FA967B91E5906B8DD082D682CC91CE899E2E646F6378>

伊勢崎市職員職場復帰支援制度

定款

<4D F736F F D208E52979C8CA78E598BC68F5790CF91A390698F9590AC8BE08CF D6A2E646F6378>

1 総 合 設 計 一 定 規 模 以 上 の 敷 地 面 積 及 び 一 定 割 合 以 上 の 空 地 を 有 する 建 築 計 画 について 特 定 行 政 庁 の 許 可 により 容 積 率 斜 線 制 限 などの 制 限 を 緩 和 する 制 度 である 建 築 敷 地 の 共 同 化 や

1. 本 市 の 保 育 所 運 営 費 と 保 育 料 の 現 状 2 (1) 前 回 (5/29 5/29) 児 童 福 祉 専 門 分 科 会 資 料 国 基 準 に 対 する 本 市 の 保 育 料 階 層 区 分 別 軽 減 率 国 基 準 に 対 する 本 市 の 保 育 料 階 層 区

(5 ) 当 該 指 定 居 宅 介 護 事 業 所 の 新 規 に 採 用 し た 全 て の 居 宅 介 護 従 業 者 に 対 し 熟 練 し た 居 宅 介 護 従 業 者 の 同 行 に よ る 研 修 を 実 施 し て い る こ と (6 ) 当 該 指 定 居 宅 介 護 事 業

<4D F736F F D D3188C091538AC7979D8B4B92F F292B98CF092CA81698A94816A2E646F63>

Ⅰ 年 金 制 度 昭 和 37 年 12 月 1 日 に 地 方 公 務 員 等 共 済 組 合 法 が 施 行 され 恩 給 から 年 金 へ 昭 和 61 年 4 月 から 20 歳 以 上 60 歳 未 満 のすべての 国 民 が 国 民 年 金 に 加 入 厚 生 年 金 基 金 職 域

全設健発第     号

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

別紙3

第 3 節 結 果 1. 調 査 票 の 回 収 324 か 所 から 回 答 を 得 た ( 回 収 率 29.5%) 一 般 診 療 所 総 数 回 答 数 回 収 率 (%) 大 津 湖 南 甲 賀 東 近 江

2) 効 果 の 高 い 治 療 薬 が 限 定 されているので 病 診 間 で 意 思 統 一 した 薬 物 治 療 を 行 いやすい 3) 薬 物 治 療 などの 効 果 が 緩 徐 であるので 長 期 の 通 院 が 必 要 である 4) 手 術 が 必 要 になる 場 合 でも 徐 々に 増

(6) 事 務 局 職 場 積 立 NISAの 運 営 に 係 る 以 下 の 事 務 等 を 担 当 する 事 業 主 等 の 組 織 ( 当 該 事 務 を 代 行 する 組 織 を 含 む )をいう イ 利 用 者 からの 諸 届 出 受 付 事 務 ロ 利 用 者 への 諸 連 絡 事 務

小山市保育所整備計画

検 討 検 討 の 進 め 方 検 討 状 況 簡 易 収 支 の 世 帯 からサンプリング 世 帯 名 作 成 事 務 の 廃 止 4 5 必 要 な 世 帯 数 の 確 保 が 可 能 か 簡 易 収 支 を 実 施 している 民 間 事 業 者 との 連 絡 等 に 伴 う 事 務 の 複 雑

Microsoft Word - H22.4.1市費産休・育休臨任要綱.doc

(2)大学・学部・研究科等の理念・目的が、大学構成員(教職員および学生)に周知され、社会に公表されているか

<4D F736F F D20836E E819592E88C5E B F944E82548C8E89FC90B3816A5F6A D28F57>

(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 概 要 国 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている 総 合 的

4 教 科 に 関 する 調 査 結 果 の 概 況 校 種 学 年 小 学 校 2 年 生 3 年 生 4 年 生 5 年 生 6 年 生 教 科 平 均 到 達 度 目 標 値 差 達 成 率 国 語 77.8% 68.9% 8.9% 79.3% 算 数 92.0% 76.7% 15.3% 94

Microsoft Word 印刷ver 本編最終no1(黒字化) .doc

Microsoft Word - 通知 _2_.doc

小 売 電 気 の 登 録 数 の 推 移 昨 年 8 月 の 前 登 録 申 請 の 受 付 開 始 以 降 小 売 電 気 の 登 録 申 請 は 着 実 に 増 加 しており これまでに310 件 を 登 録 (6 月 30 日 時 点 ) 本 年 4 月 の 全 面 自 由 化 以 降 申

目  次

別 表 1 土 地 建 物 提 案 型 の 供 給 計 画 に 関 する 評 価 項 目 と 評 価 点 数 表 項 目 区 分 評 価 内 容 と 点 数 一 般 評 価 項 目 立 地 条 件 (1) 交 通 利 便 性 ( 徒 歩 =80m/1 分 ) 25 (2) 生 活 利 便

その 他 事 業 推 進 体 制 平 成 20 年 3 月 26 日 に 石 垣 島 国 営 土 地 改 良 事 業 推 進 協 議 会 を 設 立 し 事 業 を 推 進 ( 構 成 : 石 垣 市 石 垣 市 議 会 石 垣 島 土 地 改 良 区 石 垣 市 農 業 委 員 会 沖 縄 県 農

2 条 例 の 概 要 (1) 趣 旨 この 条 例 は 番 号 利 用 法 第 9 条 第 2 項 に 基 づく 個 人 番 号 の 利 用 に 関 し 必 要 な 事 項 を 定 めます (2) 定 義 この 条 例 で 規 定 しようとする 用 語 の 意 義 は 次 のとおりです 1 個 人

Taro-条文.jtd

tokutei2-7.xls

Ⅰ 調 査 の 概 要 1 目 的 義 務 教 育 の 機 会 均 等 その 水 準 の 維 持 向 上 の 観 点 から 的 な 児 童 生 徒 の 学 力 や 学 習 状 況 を 把 握 分 析 し 教 育 施 策 の 成 果 課 題 を 検 証 し その 改 善 を 図 るもに 学 校 におけ

深く靭帯の伸長と短縮を考えたい

東 京 電 力 ホールディングス 株 式 会 社 労 働 環 境 改 善 2016/9/29 在 分 野 名 括 り 5 内 容 これまで1ヶ 月 の 動 きと 今 後 1ヶ 月 の 予 定 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 備 考 員 の 確 保 状 況 と 地 元 雇 用 率 の 実

1.H26年エイズ発生動向年報ー概要

川崎市木造住宅耐震診断助成金交付要綱

第 9 条 の 前 の 見 出 しを 削 り 同 条 に 見 出 しとして ( 部 分 休 業 の 承 認 ) を 付 し 同 条 中 1 日 を 通 じて2 時 間 ( 規 則 で 定 める 育 児 休 暇 を 承 認 されている 職 員 については 2 時 間 から 当 該 育 児 休 暇 の

国 家 公 務 員 の 年 金 払 い 退 職 給 付 の 創 設 について 検 討 を 進 めるものとする 平 成 19 年 法 案 をベースに 一 元 化 の 具 体 的 内 容 について 検 討 する 関 係 省 庁 間 で 調 整 の 上 平 成 24 年 通 常 国 会 への 法 案 提

Transcription:

名 古 屋 学 院 大 学 論 集 医 学 健 康 科 学 スポーツ 科 学 篇 第 4 巻 第 1 号 pp. 31-38 症 例 報 告 成 人 脳 性 麻 痺 患 者 の 二 次 障 害 に 対 する 理 学 療 法 原 田 拓 1, 渡 邊 晶 規 2, 田 村 将 良 1 1, 可 知 悟 要 旨 二 次 障 害 として 腰 痛 を 呈 した 成 人 脳 性 麻 痺 患 者 の 理 学 療 法 をする 機 会 を 得 た 筋 力 増 強 運 動 を 中 心 とした 機 能 障 害 に 対 するアプローチにより, 腹 筋 群 を 中 心 に 筋 収 縮 を 高 めることができた この 結 果, 腰 痛 を 軽 減 させるだけでなく,これまでに 身 につけていた 背 筋 群 に 依 存 した 独 自 の 運 動 パターン を 変 化 させることができた 成 人 脳 性 麻 痺 患 者 においても, 正 常 な 筋 収 縮 を 伴 う 運 動 パターンへの 変 化 が 望 める 可 能 性 が 示 唆 された キーワード: 脳 性 麻 痺, 二 次 障 害, 成 人, 理 学 療 法, 機 能 障 害 はじめに 脳 性 麻 痺 ( 以 下 CP)とは, 受 胎 から 新 生 児 ( 生 後 4 週 以 内 )までの 間 に 生 じた 脳 の 非 進 行 性 病 変 に 基 づく, 永 続 的 なしかし 変 化 しうる 運 動 及 び 姿 勢 の 異 常 で, 進 行 性 疾 患 や 一 過 性 の 運 動 障 害,また は 将 来 正 常 化 するであろうと 思 われる 運 動 発 達 遅 滞 は 除 外 する と 定 義 されている(1968 年 厚 生 省 特 別 研 究 報 告 ) 従 って, 脳 性 麻 痺 は 停 止 性 の 脳 病 変 であるが,その 臨 床 症 状 は 年 齢 発 達 とともに 変 化 し, 四 肢 の 発 達 限 界 は15~20 歳 とされている[6] 二 次 障 害 とは, 疾 病 や 病 態 に 直 接 起 因 する 一 次 障 害 の 発 生 時 には 存 在 せず, 経 過 に 引 き 続 いて 発 現 してくる 障 害 とされ[8], 脳 性 麻 痺 においては 成 長 加 齢 とともに 一 次 障 害 が 進 行 悪 化 した 状 態, または 生 活 環 境 労 働 環 境 の 影 響,つまり 生 活 習 慣 に 基 づいた 拘 縮 変 形 の 進 行, 急 激 な 機 能 低 下, 新 たな 疾 患 症 状 障 害 を 総 称 して 呼 ぶことが 多 い[3] 二 次 障 害 の 代 表 的 なものとして 脊 椎 側 彎 症 や 頸 髄 症, 股 関 節 脱 臼 などがあり[5], 軽 中 等 度 者 には, 頭 痛, 肩 こり, 腰 痛, 股 関 節 痛, 外 反 母 趾, 心 の 問 題 などが 日 常 生 活 に 支 障 を 来 たす 症 状 として 出 現 してくる[5] こうした 脳 性 麻 痺 児 の 高 齢 化 に 対 する 問 題 の 指 摘 は20 年 以 上 前 からされているものの[8], 比 較 的 近 年 の 小 規 模 な 調 査 [10]にお 1 可 知 整 形 外 科 リハビリテーション 科 2 名 古 屋 学 院 大 学 リハビリテーション 学 部 Correspondence to: Masanori Watanabe E-mail: m.wtnb@ngu.ac.jp Received 11 June, 2015 Revised 23 August, 2015 Accepted 24 August, 2015 31

名 古 屋 学 院 大 学 論 集 いても,その 支 援 体 制 は 十 分 ではないことが 伺 え, 小 児 期 の 治 療 にくらべ 成 人 期 の 対 応 は 不 十 分 とい える 今 回, 近 年 まで 一 般 企 業 で 就 労 していたものの, 激 しい 疼 痛 により 退 職 を 余 儀 なくされ,さらにそ の 後 継 続 する 疼 痛 により 生 活 レベルを 低 下 させていた 脳 性 麻 痺 患 者 の 理 学 療 法 に 携 わることができ た そこで, 脳 性 麻 痺 の 二 次 障 害 に 対 する 理 学 療 法 に 関 し, 若 干 の 知 見 を 得 たため 報 告 する なお, 本 症 例 には 趣 旨 を 説 明 し, 投 稿 への 同 意 を 得 た 症 例 紹 介 一 般 情 報 :40 歳 代 後 半, 女 性, 中 肉 中 背 主 訴 : 腰 が 痛 くて 動 けない 診 断 名 : 筋 筋 膜 性 腰 痛 症 現 病 歴 : 約 5 年 前 まで 一 般 企 業 で 勤 めていたが, 腰 痛 が 出 現 し 仕 事 の 継 続 が 困 難 となり 退 職 した 腰 痛 を 我 慢 する 生 活 を 続 けるものの, 徐 々に 移 動 動 作 を 中 心 とした 日 常 生 活 動 作 が 制 限 され, 当 院 を 受 診 した 筋 筋 膜 性 腰 痛 症 の 診 断 を 受 け 入 院 となった 既 往 歴 :CP( 痙 直 型 )にて 幼 児 期 まで 通 院 にてハビリテーション 実 施 児 童 期 に 両 アキレス 腱 延 長 術, 両 足 底 筋 膜 切 離 術 を 実 施 30 歳 代 前 半 に 腰 椎 椎 間 板 ヘルニアにて 手 術 (いずれも 詳 細 不 明 ) 画 像 所 見 : 腰 部 のヘルニアや 脊 柱 管 狭 窄 等 の 所 見 なし( 図 1 左 ) 両 股 関 節 裂 隙 の 狭 小 化, 右 大 腿 骨 頚 部 短 縮 を 認 めた( 図 1 右 ) 入 院 時 の 理 学 療 法 評 価 ( 表 1 左 ) 疼 痛 は 安 静 時 においても 強 く, 腰 部 ならびに 右 股 関 節 のVisual Analog Scale( 以 下 VAS)はそれ 図 1 画 像 所 見 腰 部 のヘルニアや 脊 柱 管 狭 窄 等 の 所 見 なし( 左 ) 両 股 関 節 裂 隙 の 狭 小 化, 右 大 腿 骨 頚 部 短 縮 を 認 める( 右 ) 32

成 人 脳 性 麻 痺 患 者 の 二 次 障 害 に 対 する 理 学 療 法 疼 痛 (VAS) 表 1 理 学 療 法 評 価 初 期 評 価 ( 入 院 時 ) 最 終 評 価 ( 退 院 時 ) 腰 :8 /10( 安 静 時 ) 股 関 節 :7/10( 安 静 時 ) 麻 痺 (BRS) Ⅵ Ⅴ Ⅳ Ⅵ Ⅴ Ⅳ 筋 緊 張 ( 触 診 ) (MAS 右 / 左 ) 背 筋 群 : 亢 進 腹 筋 群 : 低 下 足 関 節 底 屈 筋 (4/3) 筋 力 体 幹 :1レベル (MMT 右 / 左 ) 下 肢 :3 /4レベル 柔 軟 性 股 関 節 伸 展 :-10 / -5 (ROM-t 右 / 左 ) 足 関 節 背 屈 :-10 / -8 ( 座 位 での FFD) 体 幹 屈 曲 :40cm( 下 腿 までリーチ) FIM (126 点 満 点 ) 生 活 状 況 合 計 104 点 ( 運 動 69 点 認 知 35 点 ) 減 点 : 清 拭 1 点, 更 衣, 歩 行, 階 段 2 点 端 座 位 や 背 臥 位 の 保 持 においても 疼 痛 を 有 し,1 日 の 大 半 をベッド 上 側 臥 位 で 過 ごす 多 くの 人 が 無 意 識 に 行 う 肩 を 回 す 動 作 や, のび と いった 動 作 はほとんどない 腰 :0 /10( 安 静 時 ),5 /10( 運 動 時 ) 股 関 節 :0/10( 安 静 時 ),5/10( 運 動 時 ) 背 筋 群 : 軽 度 亢 進 腹 筋 群 : 軽 度 低 下 足 関 節 底 屈 筋 (2 /2) 体 幹 :2レベル 下 肢 :3 /4レベル 股 関 節 伸 展 :-5 / 0 足 関 節 背 屈 : 8 / 13 体 幹 屈 曲 :0cm( 床 までのリーチ) 合 計 124 点 ( 運 動 89 点 認 知 35 点 ) 減 点 : 歩 行, 階 段 6 点 談 話 室 にて 他 患 者 と 交 流 する 無 意 識 的 な 肩 を 回 す 動 作 や, のび と いった 動 作 は 観 察 されなかったが, 定 期 的 に 腰 部 と 足 部 のセルフスト レッチを 実 施 できる ぞれ8,7であった 腰 部 においては 傍 脊 柱 起 立 筋 の 圧 痛 を 認 め, 右 股 関 節 においては 大 腿 筋 膜 張 筋 の 圧 痛 を 認 めるとともに,Ober testは 陽 性 であった また,Patrick testは 陰 性 であり, 臼 蓋 に 対 す る 大 腿 骨 頭 の 関 節 面 への 圧 迫 による 疼 痛 は 認 められなかった Brunnstrom Recovery Stageは 両 側 と もに 上 肢 Ⅵ, 手 指 Ⅴ, 下 肢 Ⅳであり, 四 肢 の 筋 緊 張 は 足 関 節 底 屈 でModified Ashworth Scale( 以 下 MAS) 右 4/ 左 3と 亢 進 を 認 め, 体 幹 においては 視 診 触 診 により 背 筋 群 で 亢 進 を, 腹 筋 群 で 低 下 を 認 めた 筋 力 はDanielsらの 徒 手 筋 力 検 査 ( 以 下 MMT)にて, 腹 筋 群 1, 股 関 節 外 旋 筋 群 右 1/ 左 2, 足 関 節 背 屈 筋 群 右 1/ 左 2,その 他 下 肢 筋 群 右 3/ 左 4レベルであった 他 動 的 ROM-tでは, 股 関 節 伸 展 右 -10 / 左 -5, 足 関 節 背 屈 ( 膝 屈 曲 位 ) 右 -10 / 左 -8 と 制 限 を 認 め, 胸 腰 部 柔 軟 性 の 指 標 として 行 った 端 座 位 でのFinger Floor Distance( 以 下 FFD)は40cm 程 度 であり, 下 腿 上 端 ま でのリーチであった 日 常 生 活 の 自 立 度 は, 機 能 的 自 立 度 評 価 ( 以 下 FIM)にて, 運 動 項 目 69/91 点, 認 知 項 目 35/35 点 であり, 減 点 項 目 は 清 拭 1, 更 衣 下 肢 2, 歩 行 2, 階 段 1( 未 実 施 )であった 生 活 状 況 として, 端 座 位 や 背 臥 位 の 保 持 においても 疼 痛 が 生 じていることから,1 日 の 大 半 をベッド 上 側 臥 位 で 過 ごし, 移 動 は 病 室 からトイレまでの 約 10mをT-cane 利 用 にて 行 う 程 度 であった また, 多 くの 人 が 日 常 で 無 意 識 に 行 っている 肩 を 回 す 動 作 や, のび といった, 筋 緊 張 を 緩 和 させるため の 動 作 はほとんど 見 られなかった 33

名 古 屋 学 院 大 学 論 集 治 療 介 入 および 経 過 主 訴 で 挙 げられた 腰 痛 は 立 位 や 座 位 の 抗 重 力 位 に 限 らず 背 臥 位 においても 出 現 しており, 医 師 によ るMRI 画 像 の 診 断 ならびに 疼 痛 評 価 より 傍 脊 柱 起 立 筋 に 圧 痛 所 見 が 認 められたことから, 背 筋 群 の 筋 筋 膜 性 疼 痛 であることが 考 えられた また, 触 診 より 持 続 的 に 背 筋 群 の 筋 緊 張 亢 進 が 認 められたた め, 腰 痛 は 筋 緊 張 に 起 因 されていることが 考 えられた さらに 背 筋 群 の 筋 緊 張 は 腹 筋 群 の 低 緊 張 と 筋 力 低 下, 胸 腰 部 柔 軟 性 低 下 にも 影 響 を 及 ぼしていることが 考 えられた そこで,はじめに 安 静 肢 位 で の 筋 緊 張 の 軽 減 を 目 指 した その 方 法 として,ポジショニングや 同 体 位 での 重 心 移 動, 体 位 変 換 を 通 じて 身 体 ならびに 周 囲 への 探 索 行 動 を 促 し, 環 境 への 適 応 を 図 ることで 異 常 筋 緊 張 の 軽 減 を 図 った 具 体 的 にはポジショニングと 同 体 位 での 重 心 移 動 に 関 しては, 側 臥 位 ~ 半 腹 臥 位 にて 股 関 節 屈 曲 位 にすることで 骨 盤 中 間 位 にしたり, 上 肢 ~ 腹 部 にクッションを 入 れ 支 持 基 底 面 を 増 やすことによって ポジショニングを 整 え, 背 筋 群 のリラクゼーションを 図 り, 支 持 面 や 設 置 したクッションを 触 れなが ら,はじめは 徒 手 誘 導 にて 他 動 的 に, 実 施 可 能 であればできる 限 り 能 動 的 に 上 肢 または 下 肢 を 動 か し, 徐 々に 動 かす 範 囲 を 広 げ, 追 随 して 体 幹 屈 曲 や 回 旋 が 出 現 するように 四 肢 や 体 幹 の 重 心 移 動 を 促 した 座 位 においても 同 様 に, 座 面 の 高 さを 下 腿 長 程 度 に 調 節 し, 靴 を 履 いて 足 底 接 地 することや 殿 部 にタオルを 設 置 して 支 持 基 底 面 を 増 やすことでポジショニングを 整 え, 背 筋 群 のリラクゼーション を 図 り, 体 幹 の 前 後 左 右 の 動 作 や 骨 盤 挙 上 により 重 心 移 動 を 促 した なお, 環 境 に 応 じて 筋 緊 張 を 変 化 させることを 目 的 とするため, 徐 々にポジショニング 方 法 を 変 えていくことや 治 療 ベッドを 変 えて 支 持 面 の 硬 度 を 変 えることなど, 支 持 基 底 面 と 床 反 力 を 変 化 させた 動 作 練 習 には 病 棟 での 生 活 にお いても 実 施 している 寝 返 り, 起 き 上 がり, 起 立 動 作 を 選 択 した いずれの 姿 勢 動 作 においても, 異 常 な 筋 緊 張 を 知 覚 循 環 [9]により 緩 和 させるため, 身 体 感 覚 の 変 化 に 意 識 を 集 中 させることで 定 位 で きる 肢 位 の 探 索 を 促 した しかし, 疼 痛 に 対 する 恐 怖 感 やこれまでとは 異 なる 身 体 活 動 を 実 施 するこ とへの 不 安 感 が 強 く, 十 分 な 筋 緊 張 の 緩 和 は 得 られなかった 動 作 方 法 の 変 化 も 見 られず, 背 筋 群 の 筋 緊 張 を 高 め, 体 を 固 めたまま, 両 上 肢 にてベッド 柵 を 引 っ 張 ることで 寝 返 りや 起 き 上 がり 動 作 の 遂 行 を 図 るため, 結 果 として 背 筋 群 の 筋 緊 張 はさらに 増 強 し, 疼 痛 を 発 生 させていた そこで 次 に 横 断 マッサージ, 機 能 的 マッサージを 脊 柱 起 立 筋 に 対 して 施 行 することで, 直 接 的 な 背 筋 群 の 筋 緊 張 の 緩 和 を 図 り, 拮 抗 筋 にあたる 腹 筋 群 の 活 性 化 による 背 筋 群 の 筋 緊 張 の 抑 制 を 目 的 とし て,draw in 運 動 とpelvic tilt 運 動 の 獲 得 を 促 した さらに 過 剰 努 力 の 軽 減 を 目 的 として 機 能 障 害 に 着 目 し, 足 関 節 周 囲 の 可 動 域 運 動, 腹 筋 群 と 股 関 節 外 旋 筋 群 の 筋 力 増 強 運 動 を 行 った その 後, 床 上 動 作 を 通 して 支 持 基 底 面 と 身 体 重 心 の 理 解 を 促 すことで 努 力 性 動 作 の 軽 減 を 図 った なお 床 上 動 作 では 腹 筋 群 の 優 位 な 半 腹 臥 位 や 四 つ 這 位,パピー 肢 位 での 動 作 を 選 択 した 具 体 的 には,それぞれの 動 作 で 筋 力 増 強 運 動 を 行 った 腹 筋 群 に 注 意 を 向 けるよう 口 頭 指 示 し, 必 要 に 応 じて 徒 手 的 に 補 助 した ま た 主 観 的 に 快 楽 か 不 快 か 確 認 しながら, 随 意 性 の 高 い 上 肢 の 設 置 位 置 を 変 更 することで 快 楽 肢 位 を 探 索 した その 結 果, 約 1 週 間 で 端 座 位, 背 臥 位 保 持 が 疼 痛 なく 実 施 可 能 となり,3 週 間 でT-caneでの 屋 外 歩 行 が 可 能 となり, 退 院 時 にはVAS, 筋 緊 張,MMT,ROM, 胸 腰 部 柔 軟 性 において 機 能 向 上 を 認 めた( 表 34

成 人 脳 性 麻 痺 患 者 の 二 次 障 害 に 対 する 理 学 療 法 1) また 治 療 時 には 自 分 の 身 体 について 説 明 を 受 けるのは 初 めて こんなこと( 動 作 )ができるん だ といった 発 言 が 多 く 聴 取 された 退 院 時 の 理 学 療 法 評 価 ( 表 1 右 ) 安 静 時 の 疼 痛 は 腰 部, 右 股 関 節 ともに 消 失 し, 運 動 時 の 疼 痛 は 腰 部 でVAS5, 右 股 関 節 でVAS3 で あった 傍 脊 柱 起 立 筋 の 圧 痛 は 減 少 を 認 め, 大 腿 筋 膜 張 筋 の 圧 痛 は 消 失 したものの,Ober testは 陽 性 であった Patrick testは 陰 性 で 変 化 なし, 股 関 節 関 節 面 の 圧 迫 所 見 も 変 わらず 疼 痛 は 認 めなかっ た Brunnstrom Recovery Stageに 変 化 は 見 られなかったが, 筋 緊 張 は 改 善 を 認 め, 足 関 節 底 屈 の MASは 右 2/ 左 2となり,また 背 筋 群 では 亢 進 の, 腹 筋 群 では 低 下 の 程 度 が 軽 減 した MMTは 腹 筋 群 2, 股 関 節 外 旋 筋 群 右 3/ 左 4, 足 関 節 背 屈 筋 群 右 3/ 左 3となり 改 善 を 認 めた 他 動 的 ROM-t は, 股 関 節 伸 展 で 左 右 ともに5, 足 関 節 背 屈 で 左 右 とも15 以 上 の 改 善 が 得 られ,また 端 座 位 におけ るFFDは0cmと 改 善 しており, 四 肢 体 幹 ともに 柔 軟 性 の 向 上 が 得 られた FIMは 運 動 項 目 が89 点 まで 上 昇 し, 減 点 項 目 は 歩 行 6, 階 段 6のみであった 生 活 状 況 は, 当 初 より 大 きく 変 化 し, 院 内 歩 行 自 立 となり 談 話 室 にて 他 患 者 とも 交 流 する 時 間 が 増 えた 無 意 識 的 な 肩 を 回 す 動 作 や, のび と いった 動 作 は 観 察 されなかったが, 定 期 的 に 腰 部 と 足 部 のセルフストレッチを 実 施 できた また, 疼 痛 出 現 時 であっても,いざりや 体 位 変 換 を 行 えた 考 察 小 児 CP 患 者 の 治 療 は1950 年 代 より 手 術 療 法 を 中 心 に 展 開 され, 社 会 認 知 が 拡 大 したが,その 後, 手 術 療 法 と 従 来 のハビリテーションに 限 界 を 感 じたとの 報 告 が 多 くなり,1970 年 代 より 神 経 発 達 学 的 アプローチが 注 目 された[4] 当 時 のハビリテーションは 原 始 反 射 に 由 来 する 特 徴 的 な 動 作 パター ンを 行 わせないように 行 動 抑 制 を 加 えることや,その 子 供 にとって 実 用 的 でないとしても, 画 一 的 な 動 作 パターンを 行 わせることに 価 値 があるとされていた[4] しかし 実 生 活 との 関 連 が 乏 しく 実 用 性 に 欠 けており, 患 者 がハビリテーションの 本 意 を 見 出 せずに 上 記 アプローチは 衰 退 したと 報 告 されて いる そして 近 年 では 治 療 概 念 のひとつとして,ダイナミックシステム 理 論 が 提 唱 された[1] 意 欲 や 脳, 体 重, 関 節 可 動 域, 筋 力 などの 内 部 条 件 と 重 力 や 課 題 の 特 異 性 といった 外 部 条 件 などの サブ システム の 相 互 作 用 によって, 課 題 や 状 況 に 応 じた 行 動 が 形 成 されるといった 理 論 である[1] 各 々 のサブシステムを 変 更 することで, 最 も 効 率 的 な 運 動 行 動 を 達 成 する 可 能 性 があると 考 えられており, 本 人 に 関 わる 条 件 や 外 部 条 件 を 変 容 させることや 現 実 の 行 動 の 文 脈 での 繰 り 返 しの 実 践 が 重 要 視 され る[3] 歴 史 的 背 景 を 鑑 みると, 本 症 例 が 小 児 期 に 受 けたハビリテーションにおいても, 神 経 発 達 学 的 アプ ローチ 中 心 であったことが 伺 われる 児 童 期 に 入 り 足 部 の 手 術 を 受 けているものの,その 後 継 続 的 な ハビリテーションが 実 施 されなくなった 背 景 は 推 測 の 域 を 出 ないが, 結 果 として 本 症 例 においても 正 常 なパターンによる 動 作 は 定 着 せず, 日 常 生 活 における 諸 課 題 に 独 自 に 適 応 していく 中 で, 背 筋 群 優 35

名 古 屋 学 院 大 学 論 集 位 の 動 作 が 徐 々に 定 着 していったものと 考 えられる その 結 果, 拮 抗 筋 である 腹 筋 群 の 活 動 性 低 下 を 招 き, 二 次 障 害 としての 筋 筋 膜 性 腰 痛 症 を 認 めたものと 考 えられる こうした 筋 緊 張 のアンバランス を 抱 えたまま, 疼 痛 に 対 して 快 楽 肢 位 を 探 索 した 結 果 が, 入 院 初 期 で 認 められたベッド 上 側 臥 位 で 身 体 を 固 めることであったと 考 えられる 痙 性 を 呈 して 何 十 年 も 生 活 してきたことで 形 成 された 運 動 のパターンと,それに 伴 う 筋 緊 張 のアン バランスを 是 正 し, 正 常 な 筋 収 縮 や 運 動 の 獲 得 を 求 めることは 適 切 ではないと 考 え,ダイナミックシ ステム 理 論 に 基 づき,はじめに 環 境 設 定 を 調 整 し, 能 動 的 に 動 くことで 筋 緊 張 を 変 化 させるべく 知 覚 循 環 を 促 し, 外 部 条 件 へ 適 応 することと,それによる 筋 緊 張 の 緩 和 を 目 的 とした しかし, 背 筋 群 優 位 とする 動 作 に 変 化 は 見 られなかった そこで 同 理 論 の 内 部 条 件 に 着 目 し, 背 筋 群 への 徒 手 療 法 によ り 一 時 的 に 筋 緊 張 の 緩 和 を 図 り, 低 下 している 腹 筋 群 を 中 心 に 筋 収 縮 を 高 めることを 試 みた その 結 果, 予 想 に 反 して 改 善 がみられ, 疼 痛 を 軽 減 することができた また,それに 続 く 床 上 動 作 の 中 で 聴 取 された こんなことできるんだ といった 発 言 や, 病 棟 内 での 活 動 量 が 増 加 したことからは,わず かながら 運 動 パターンを 改 善 したものと 考 えられた 長 年 の 単 一 化 された 独 自 の 運 動 パターンは 関 節 の 自 由 度 を 制 限 させることで 支 持 性 を 保 ち, 定 型 化 された 神 経 メカニズムや 筋 活 動 が 運 動 の 起 源 となっていたと 考 えられる 今 回 の 介 入 を 通 じてわずか であるが 新 たな 自 由 度 と 筋 活 動 が 加 わったことで, 動 作 の 中 での 気 づきを 促 すことができ, 運 動 パター ンに 変 化 がもたらされたと 考 える 結 果 から 判 断 すれば, 単 に 入 院 前 の 低 活 動 による 機 能 低 下 が 改 善 されただけかもしれない しかし 成 人 CP 患 者 においては, 脳 の 非 進 行 性 病 変 であり,また 加 齢 によ る 機 能 低 下 も 考 慮 すれば, 筋 力 増 強 など 機 能 向 上 を 目 的 とするアプローチが 優 先 されることは 一 般 的 ではないと 判 断 される[2]ため, 本 症 例 のような 結 果 が 得 られたことは, 成 人 CP 患 者 の 理 学 療 法 に おいて 意 義 のあることではないかと 考 える またダイナミックシステム 理 論 における 内 部 条 件 に 対 し て 介 入 することに 価 値 が 見 出 され, 内 部 条 件 の 変 化 が 外 部 条 件 への 適 応 に 働 きかけることが 示 唆 され た ただ, 長 年 をかけて 形 成 された 運 動 パターンを 逸 脱 させることのみを 目 的 として 機 能 障 害 の 改 善 を 図 ることは, 患 者 にとって 逆 に 過 大 な 負 担 となって, 実 生 活 を 不 便 にする 可 能 性 もあるので, 注 意 が 必 要 であると 考 える また, 今 回 観 察 することができた 運 動 パターンの 変 化 の 持 続 性 について 検 証 ができていない 点 も 今 後 の 課 題 である 本 症 例 にはストレッチなどのセルフケアの 指 導 を 行 っており, 今 後 経 過 を 観 察 し 知 見 を 広 げたい 文 献 [1] Thelen E, Smith LB. (1995) A Dynamic Systems Approach to the Development of Cognition and Action. J Cogn Neurosci. 7: 512 514 [2] 尾 崎 文 彦.(2007) 脳 性 麻 痺 の 加 齢 に 対 する 理 学 療 法. 理 学 療 法.24:459 463 [3] 大 畑 光 司.(2011) 最 近 の 脳 性 麻 痺 の 理 学 療 法. 理 学 療 法.28:1218 1225 [4] 熊 谷 普 一 郎.(2009)リハビリの 夜. 医 学 書 院, 東 京,pp83 91,234 236 [5] 佐 久 間 和 子.(2000) 成 人 脳 性 麻 痺 の 障 害 像.Clinical Rehabilitation.9:443 448 36

成 人 脳 性 麻 痺 患 者 の 二 次 障 害 に 対 する 理 学 療 法 [6] 佐 久 間 和 子.(2003) 脳 性 麻 痺 の 二 次 障 害 としての 機 能 予 後.リハビリテーション 医 学.40:98 102 [7] 佐 藤 一 望.(2001) 脳 性 麻 痺 の 二 次 障 害.リハビリテーション 医 学.38:775 783 [8] 手 塚 主 夫, 佐 藤 一 望, 高 橋 孝 文.(1998) 成 人 脳 性 麻 痺 の 加 齢 現 象 全 身 的 状 況. 総 合 リハ.16:679 685 [9] 冨 田 昌 夫.(2000)クラインフォーゲルバッハの 運 動 学.J Clin Phys Ther.3:1 9 [10] 松 本 美 穂 子, 宮 本 昌 寛, 山 田 孝.(2010) 地 域 生 活 を 送 っている 成 人 脳 性 まひ 者 の 現 状 と 二 次 障 害 予 防 への 関 わりに 関 する 研 究 OPHI-IIを 用 いての 聞 き 取 り 調 査. 作 業 行 動 研 究.14:127 37

名 古 屋 学 院 大 学 論 集 Case Report Physical Therapy for Secondary Disabilities of Adult with Cerebral Palsy Taku Harada 1, Masanori Watanabe 2, Masayoshi Tamura 1, Satoru Kachi 1 Abstract Cerebral palsy in adults is used to describe a variety of chronic movement disorders affecting body and muscle coordination. Even though it is considered a non-progressive condition, secondary conditions usually found with cerebral palsy in adults. Back Pain is the most common problem for older adults with cerebral palsy. This case study reports on the muscle strength exercise-based physical therapy program to an adult female with severe low back pain attributable to cerebral palsy. Furthermore, we had not only taken away hers low back pain, but we had been also able to change her original motor pattern depending on back muscles formed by primary impairments and environment to normal motor pattern. In conclusion, the physical therapy programs for adults with cerebral palsy may be beneficial in enhancing their motor pattern. Keywords: cerebral palsy, secondary disabilities, adult, physical therapy, impairment 1 Department of Rehabilitation, Kachi Orthopedics 2 Department of Physical Therapy, Faculty of Rehabilitation Sciences, Nagoya Gakuin University 38