経 営 学 論 集 第 85 集 自 由 論 題 (40) 自 治 体 の 公 共 経 営 改 善 住 民 とのコミュニケーションの 視 点 から 前 玉 川 大 学 高 千 穂 安 長 キーワード 公 共 経 営 (Public Management),コミュニケーション(Communication), 自 己 組 織 化 (Self-organization), 住 民 エンパワーメント(Resident empowerment),it(information-technology) 要 約 現 在, 自 治 体 は 行 革 などによる 経 営 資 源 の 減 少 の 中, 住 民 からの 要 求 の 広 範 囲 化 深 化 に 効 果 的 効 率 的 に 対 応 する 必 要 がある 仮 説 として, 自 治 体 住 民 のコミュニケーションは, 住 民 の 意 見 は 直 接 関 心 のある 事 項 に 集 中 し, 市 の 対 応 も 行 革 推 進 による 経 費 人 員 削 減 等 を 背 景 に, 住 民 意 見 への 対 応 には 一 定 のパターンでの 対 応 にとどまるため, 自 己 組 織 性 を 示 す 対 応 変 化 が 見 られず,したがって コミュニケーションの 成 立 は 見 られない をたて, 川 崎 市 を 事 例 として 総 合 開 発 計 画 に 対 する 市 民 意 見 とそれに 対 する 市 の 対 応 の 提 出 媒 体, 対 応 状 況 について 年 形 態 別 変 化 の 差 の 検 証 を 行 った その 結 果, 仮 説 は 否 定 され, 一 定 のコミュニケーションが 行 われているが,さらなる 向 上 のためには, かわさき 市 民 アンケートの 効 果 的 利 用, 市 民 の 行 政 への 参 加 促 進 ( 団 塊 の 世 代 の 呼 び 込 み,サイレント マジョリティの 意 見 の 顕 在 化 など)が 求 められることを 明 らかにした 1.はじめに 企 業 経 営 と 公 共 経 営 の 違 いは, 企 業 経 営 が 利 益 という 分 かりやすい 指 標 の 下, 利 益 の 最 大 化 を 図 れば 良 いのに 対 して, 公 共 経 営 ではすべての 住 民 満 足 を 得 る 必 要 があり,そのため 弱 者 保 護 や 災 害 対 策 などの 先 行 的 な 実 施 を 求 められ, 採 算 重 視 だけでは 済 まないことにある 現 在, 自 治 体 は IT 化 の 進 展 などを 背 景 とした 住 民 の 意 識 の 高 まりと 住 民 間 の 情 報 共 有 に 基 づく 自 治 体 に 求 める 要 求 の 広 範 囲 化 深 化 に 対 応 する 必 要 に 迫 られているが, 行 革 等 による 人 員 削 減, 予 算 削 減, 情 報 機 器 のバージョンアップの 見 送 り 等 経 営 資 源 の 減 少 が 続 いている そのような 中, 民 間 企 業 と 同 様 に 効 率 的, 効 果 的 な 行 政 経 営 が 求 められている このため, 自 治 体 は, 効 率 的, 効 果 的 な 公 共 経 営 実 施 のために, 計 画 (Plan:P)- 実 行 (Do:D) - 評 価 (Check:C)- 修 正 (Action:A)のサイクル( 以 下,P-D-C-A サイクル)を 元 に 政 策 施 策 事 業 を 実 施 し, 行 政 成 果 を 上 げるようにしている このサイクルが 機 能 するには, 評 価 C の 部 分 が 重 要 で,この 部 分 について 評 価 理 論, 評 価 技 法 等 の 改 善 に 向 けた 多 くの 研 究 がなされている しかし, 評 価 結 果 が 示 されても 十 分 なフィードバックが 行 われていない 事 などから, 評 価 疲 れ ( 田 中 2009)などの 課 題 が 起 こっている これらの 解 決 のためには, 自 治 体, 住 民 双 方 で 環 境 変 化 に 対 して 能 動 的 主 体 的 に 対 応 していく 必 要 があり,そのため, 組 織 のマネジメントにおいては, 多 様 な 個 人 の 相 互 作 用 によって, 新 しい 秩 序 を 形 成 し 新 しい 価 値 を 作 り 出 す 仕 組 み,すなわち, 自 己 組 織 化 のコンセプトが 重 要 になっている ( 牧 野 2000)ことを 認 識 する 必 要 がある 認 識 するこ とは, 具 体 的 には 公 共 経 営 の 実 施 者 である 自 治 体 の 理 解 される 活 動 内 容 ( 含 む 評 価 結 果 )の 提 供 と (40)-1
(40) 自 治 体 の 公 共 経 営 改 善 それに 対 する 受 益 者 である 住 民 からの 意 見 提 供 が 十 分 に 行 われ,C A として 双 方 向 のコミュ ニケーションが 効 率 的 効 果 的 に 行 われ, 相 互 理 解 が 進 み, 相 応 に 変 化 が 起 きる 事 につながる 2. 先 行 研 究 自 治 体 と 住 民 間 のコミュニケーションを 円 滑 にするため, 自 治 体 は 公 共 経 営 活 動 結 果 を 評 価 し, その 結 果 を 住 民 に 還 元 するため 窓 口 での 情 報 提 供, 各 種 報 告 書 提 供, 紹 介, 図 書 館 での 集 合 的 公 開 など 多 くの 手 段 を 提 供 ( 財 団 法 人 地 方 自 治 協 会 1983)し, 住 民 に 伝 えている 一 方, 住 民 は, 自 治 体 から 提 供 されたコミュニケーション 手 段 である 自 治 体 の 委 員 会 に 委 員 参 加,パブリックコメント, 住 民 投 票 (1) などを 利 用 するとともに, 電 話 ファックス 手 紙 などの 手 段 を 使 ったコミュニケーシ ョンも 使 っている このような 状 況 下,その 利 用 の 進 展 に 必 要 な 事 項 について 先 行 研 究 は 次 の 通 り 明 らかにしている 2-1.IT 自 治 体 と 住 民 の 双 方 向 のコミュニケーションに 影 響 を 与 えるのは 情 報 伝 達 手 段 である 昨 今 の 情 報 受 発 信 の 場 機 会 は いつでもどこでも 受 発 信 というユビキタス 状 態 となっており, 利 便 性 は 極 めて 高 いが, 情 報 提 供 手 段 として 良 い 面 ばかりではない( 桑 田 他 1998) 特 に 高 年 齢 者 は,IT 機 器 に 対 する 不 慣 れ,IT を 取 り 巻 く 環 境 に 信 頼 感 を 持 てない, 視 力 の 問 題 などから 従 来 の 町 内 会 等 の 回 覧 板 で 回 付 される 行 政 だより 等 を 重 宝 する 人 々も 無 視 できない 規 模 で 存 在 することを 認 識 しておく 必 要 がある これらは IT デバイスとして 知 られる 情 報 格 差 の 問 題 とともに, 顔 を 突 き 合 わせる 形 で 行 われる ご 近 所 つきあい などの 連 帯 の 輪 が 消 失 していくという 協 働 を 阻 む 側 面 を 持 っている (2) ネットでの 情 報 交 流 だけでは 面 識 がない 場 合, 相 互 の 信 頼 関 係 が 構 築 されず, 親 しさ も 増 さないため 更 なる 情 報 交 流 の 深 化 が 進 まないという 事 態 が 起 こりうる 2-2. 住 民 のエンパワーメント 住 民 が 自 治 体 と 十 分 なコミュニケーションを 行 うには, 住 民 側 に 提 供 された 評 価 結 果 を 解 釈 し 問 題 点 を 把 握 できるなどの 能 力 を 持 つ 事 が 求 められる このための 基 礎 は 図 1の SECI モデルで 説 明 できる SECI モデルは, 自 治 体 からの 情 報 が 住 民 に 伝 え 納 得 させるプロセスを 示 している それぞれの 参 加 者 が 全 く 異 なったレベルの 知 識, 認 識, 図 1 SECI モデル ( 出 所 ) 野 中 他,1996 (40)-2
経 営 学 論 集 第 85 集 自 由 論 題 理 解 力 の 場 合, 情 報 伝 達 が 所 期 の 成 果 をあげるのは 困 難 であることを 示 している このことから, 例 えば 自 治 体 の 第 三 者 委 員 会 に 公 募 委 員 として 参 加 を 奨 励 することが 多 くの 自 治 体 で 行 われているが,そのことが 成 果 をあげるには,その 前 に 市 民 活 動 等 に 加 わり, 知 識 経 験 を 積 み 重 ねたのちに 公 募 委 員 として 委 員 会 参 加 をする 事 が 望 ましい( 川 崎 市 自 治 推 進 委 員 会 2009) 2-3. 自 己 組 織 性 自 治 体 住 民 双 方 が 以 上 の 手 段 を 活 用 しコミュニケーションを 行 う 仕 組 みが 機 能 するには,それ を 具 備 し, 認 識 するだけでは 十 分 ではなく, 組 織 が 絶 えず 自 己 変 革 し, 高 い 組 織 力 を 身 に 着 ける 事 が 必 要 で,そのためには,まず( 組 織 を 構 成 する) 個 人 ありきが 大 前 提 である この 条 件 が 満 た されて 初 めて, 固 定 観 念 としての 型 を 破 るゆらぎの 試 みが 発 生 する ( 今 田 2005)し,やり 取 りを 通 して 自 分 のなかに 変 化 の 兆 しを 読 み 取 り,これを 契 機 に 新 しい 構 造 や 秩 序 を 立 ち 上 げて 自 己 組 織 的 となる ( 今 田 2005)ための 行 動 が 求 められる つまり, 環 境 変 化 に 対 応 した 柔 軟 な 対 応 を 自 らが 行 えるようにすることである これによりコミ ュニケーションが 円 滑 に 進 むことが 期 待 できる 以 上 の 先 行 研 究 からは, 自 治 体, 住 民 それぞれのコミュニケーションの 円 滑 化 のための 方 策 につ いて 明 らかにされている その 中 で 自 己 組 織 性 の 確 保 は 特 に 重 要 である 双 方 が 聞 く 耳 を 持 つ ためには, 聞 けるように 変 化 することが 必 要 となるからである しかし,この 観 点 から 実 際 に 行 わ れている 自 治 体 住 民 のコミュニケーションの 結 果 を 検 証 した 研 究 は 少 ない 3. 研 究 目 的 と 研 究 方 法 3-1. 研 究 目 的 本 稿 では 仮 説 として, 自 治 体 住 民 のコミュニケーションは, 住 民 の 意 見 は 直 接 関 心 のある 事 項 に 集 中 し, 市 の 対 応 も 行 革 推 進 による 経 費 人 員 削 減 等 を 背 景 に, 住 民 意 見 への 対 応 には 一 定 の パターンでの 対 応 にとどまるため, 自 己 組 織 性 を 示 す 対 応 変 化 が 見 られず,したがってコミュニケ ーションの 成 立 は 見 られない をたて, 検 証 を 行 う 3-2. 研 究 方 法 自 治 体 の 中 の 政 令 指 定 都 市 である 川 崎 市 を 対 象 とし, 川 崎 市 の 総 合 開 発 計 画 である 川 崎 再 生 フ ロンティアプラン に 対 して 市 と 市 民 がコミュニケーションとして 採 用 できる 手 段 と 利 用 状 況 を 明 らかにした 後,2007 年 ~2011 年 に 寄 せられた 市 民 意 見 およびそれに 対 する 市 の 対 応 を 分 析 する 具 体 的 には 市 民 参 加 意 向, 参 加 方 法, 参 加 実 績 を 明 らかにした 後, 市 の 市 民 意 見 への 対 応 および 市 民 の 意 見 提 出 媒 体, 市 民 意 見 の 年 別 形 態 変 化, 市 民 意 見 の 内 容 別 に 差 の 検 定 を 行 う 4. 事 例 川 崎 市 川 崎 市 選 定 の 理 由 は, 都 道 府 県 から 市 町 村 に 至 る 自 治 体 の 中 で 政 令 指 定 都 市 は 中 位 に 位 置 づけら れ,その 政 令 指 定 都 市 の 中 でも 人 口, 産 業 活 動 などの 規 模 で 中 位 に 位 置 し, 平 均 的 な 自 治 体 と 見 な しうることによる (40)-3
(40) 自 治 体 の 公 共 経 営 改 善 4-1. 川 崎 市 と 市 民 のコミュニケーションに 対 する 現 状 市 と 市 民 双 方 が 環 境 変 化 に 対 応 した 変 化 を 行 っているかを 検 証 する 前 に, 川 崎 市 で 行 われている 市 と 市 民 のコミュニケーションの 現 状 を 明 らかにする 4-1-1. 市 の 市 民 参 加 の 考 え 方 と 仕 組 み 川 崎 市 は 図 2の 通 り 政 策 立 案 の PDCA に 相 応 した 活 動 を 行 っている 川 崎 市 は, 自 治 基 本 条 例 (3) に 基 づき1 歩 進 めた 市 民 との 情 報 共 有, 参 加 を 行 っている( 川 崎 市 2004) 具 体 的 市 民 参 加 に 向 けた 取 り 組 みとして, 主 に 学 識 経 験 者 で 構 成 される 総 合 計 画 策 定 検 討 委 員 会 と, 市 民 代 表 で 構 成 する 総 合 計 画 市 民 会 議 の2つの 組 織 を 設 置 し, 市 民 参 加 の 仕 組 みにつ いて 議 論 している また,タウンミーティング, 市 民 説 明 会 など 市 は 多 くの 手 段 を 採 用 し, 市 民 か らの 意 見 集 約 を 行 っている 4-1-2. 総 合 開 発 計 画 に 対 する 市 民 参 加 の 状 況 と 市 民 意 識 表 1は 川 崎 再 生 フロンティアプラン に 対 する 市 民 の 参 加 協 働 を 示 している 表 1で 採 られたコミュニケーション 手 段 に 対 して, 市 民 は 表 2のように 有 効 な 市 政 参 加 手 段 を 考 えている 図 2 PDCA サイクルの 中 の 参 加 と 共 同 表 1 市 民 参 加 の 事 例 ( 出 所 ) 川 崎 市 自 治 推 進 委 員 会 ( 平 成 21 年 3 月 16 日 資 料 ) (40)-4
経 営 学 論 集 第 85 集 自 由 論 題 表 2 市 政 への 有 効 と 考 える 参 加 方 法 4-1-3. 市 が 提 供 している 総 合 開 発 計 画 に 対 する 参 加 以 外 の 市 民 参 加 方 法 1アンケート 調 査 かわさき 市 民 アンケート を 1975 年 より 実 施 しており,2006 年 からは 年 2 回 実 施 に 増 やし, 第 一 回 はテーマ 別, 第 二 回 は 定 型 質 問 4つとトピックスの 質 問 を 行 っている その 調 査 の, 対 象 は 川 崎 市 在 住 の 満 20 歳 以 上 の 男 女 ( 外 国 人 を 含 む)3,000 人, 抽 出 方 法 は 住 民 基 本 台 帳 に 基 づく 層 化 二 段 無 作 為 抽 出, 調 査 方 法 は 郵 送 法 となっている なお, 川 崎 再 生 フロン ティアプラン についてのアンケートは 本 稿 の 対 象 期 間 である 2007 年 ~2011 年 には 設 問 されてい ない 2タウンミーティング 11 回 開 催 され,2,851 名 が 参 加 している 3パブリックコメント 76 名 から 172 のコメントが 寄 せられた 平 成 19 年 度 では,パブリックコメント 手 続 きが 実 施 さ れた 74 案 件 のうち,30 件 は 何 らかの 反 映 ( 修 正 や 変 更 )がなされ, 市 民 にパブリックコメントの 有 効 性 を 示 した 4 電 話,ファックスなど IT 意 見 市 民 が 市 に 直 接 電 話 をし, 意 見 を 提 供 するのは, 市 民 にとって 関 心 が 高 い 事 項 について 具 体 的 に 意 見 が 言 えるからと 考 えられる この 方 法 での 意 見 表 明 は, 表 3の 通 り, 制 度 が 始 まった 2005 年 以 降 急 激 に 増 加 したが,2010 年 以 降 はほぼ 横 ばいの4 万 件 弱 / 年 となっている 川 崎 再 生 フロン ティアプラン に 対 しては, 累 計 で 40,919 件 の 意 見 が 寄 せられている 5 抽 選 により 選 ばれた 市 民 の 話 し 合 い データなし 6 委 員 としての 参 加 平 成 20 年 における 公 募 市 民 委 員 を 委 員 としている 川 崎 市 の 審 議 会 の 数 は, 全 審 議 会 の1/3 程 度 である 市 民 委 員 がいない 審 議 会 が 存 在 する 理 由 は, 法 律 等 で 高 度 な 専 門 性 を 求 めているもの, 審 議 内 容 の 専 門 性 が 高 いもの, 委 員 を 公 募 しても 応 募 者 がいなかったなどが 理 由 となっている( 川 表 3 総 合 コンタクトセンターの 運 用 推 移 ( 注 )2005 年 は 試 行 5カ 月 のみ (40)-5
(40) 自 治 体 の 公 共 経 営 改 善 表 4 市 政 への 参 加 希 望 有 無 表 5 市 政 に 参 加 したくない 理 由 崎 市 自 治 推 進 委 員 会 2009) これらの 市 民 委 員 がいない 審 議 会 については, 公 募 の 可 能 性 の 検 討, 周 知 方 法 の 検 討 など 市 民 委 員 が 参 加 できるよう 改 善 を 図 っている 4-2. 市 民 の 意 識 川 崎 市 民 の 市 政 への 参 加 の 意 向 について, 川 崎 市 市 政 資 料 かわさき 市 民 アンケート 平 成 21 年 第 2 回 アンケート: 有 効 な 市 政 への 参 加 手 法 は 表 4の 通 りとしている 年 代 別 では 最 も 参 加 したい は 30 歳 代 (53.4%)が 最 も 高 く, 最 も 参 加 したくない は 50 歳 代 (53.1%)が 最 も 高 くなっている ここではライフサイクルに 基 づいた 年 代 別 変 化 が 見 られる 表 5では, 市 政 に 参 加 したくない(49.8%) 市 民 が 半 数 程 度 いることが 示 されているが,その 理 由 は 表 7の 通 りであり, 市 政 の 仕 組 みについてより 詳 しく, 分 かりやすく 説 明 することにより, 現 在 市 政 参 加 に 否 定 的 な 市 民 の 約 40%の 市 民 の 参 加 が 見 込 める 状 況 である 5. 分 析 ここでは, 既 述 の 通 り, 市 民 から 市 に 寄 せられた 総 合 開 発 計 画 への 意 見 とその 意 見 を 市 がどのよ うに 対 処 したかを 年 別 に 示 し,その 構 成 状 況 の 変 化 を 明 らかにしている 5-1. 分 析 前 作 業 5-1-1. 市 の 対 応 市 の 対 応 について, 無 条 件 対 応, 条 件 付 き 対 応, 反 論, 説 得 にカテゴリー 分 けを 行 った それぞれの 内 容 例 は 次 の 通 りである 無 条 件 対 応 : 猛 暑 に 強 い 樹 木 を 選 定 し, 必 要 に 応 じて 散 水 しています 条 件 付 き 対 応 : 対 策 工 事 を 行 うまで 待 っていただきたい 反 論 :サンプル 的 に 問 題 なかった (40)-6
経 営 学 論 集 第 85 集 自 由 論 題 説 得 :お 客 様 の 利 便 性 の 視 点 から 進 めていく 上 記 4カテゴリーについてグループによる 差 の 検 定 を 行 い, 変 化 を 検 証 した また,4 区 分 ではサンプル 数 が 少 なくなることから, 無 条 件 対 応 と 条 件 付 き 対 応 を 従 順 対 応, 反 論 と 説 得 を 反 対 対 応 と 大 きく2つに 分 類 した 差 の 検 定 を 行 い, 変 化 を 検 証 した 5-1-2. 市 民 の 意 見 市 民 より 川 崎 再 生 フロンティアプラン の 評 価 結 果 に 対 する 意 見 が 提 出 されているが,その 内 容 は 行 政 の 多 岐 分 野 にわたっている このため, 個 々の 市 民 から 提 出 された 意 見 を 次 の4つのカテ ゴリーに 分 けた それぞれの 例 は 次 の 通 りである 要 望 : 冊 子 の 概 要 版 を 作 って 欲 しい ~を 即 刻 撤 去 してほしい 疑 問 : 重 点 プランと 施 策 事 務 事 業 の 計 画 を 分 けるのはおかしい 指 摘 : 福 祉 教 育 に 力 を 入 れるべき 賛 意 : 評 価 検 証 公 表 意 見 募 集 見 直 し のシステムは 良 い いろいろやっていると 感 心 した 上 記 4カテゴリーについてグループによる 差 の 検 定 を 行 い,それぞれの 変 化 を 検 証 した また, 市 と 同 様,4 区 分 ではサンプル 数 が 少 なくなることから, 要 望, 疑 問 は 身 近 な 対 象 に 対 しての 意 見, 指 摘 や 賛 意 については 一 般 的 な 意 見 と 大 きく 分 類 して 差 の 検 定 を 行 い, 変 化 を 検 証 した 5-2. 市 市 の 対 応 については, 表 6の 通 り,2009 年 は 無 条 件 対 応 だったのが,それ 以 外 の 年 では 他 の 対 応 があり,2010 年 ではほぼ 説 得 となっている 年 別 の 市 民 意 見 に 対 する 対 応 構 成 に 有 意 な 差 は 無 かった 従 順 対 応 と 反 対 対 応 の2 分 した 差 の 検 定 では 有 意 (χ 2 =16.576, df(4), p<.05)な 差 が 見 られた 5-3. 市 民 5-3-1. 市 民 が 意 見 を 提 出 する 際 に 参 照 した 市 の 広 報 媒 体 別 分 析 情 報 源 ( 市 政 だより, 掲 示 板,チラシ, 市 庁 舎 等 訪 問 等 )については, 表 7の 通 り 市 民 はホームペ ージから 最 も 多 く 情 報 を 得 ており, 次 いでチラシからの 情 報 入 手 となっている この 情 報 媒 体 の 年 毎 の 構 成 変 化 に 有 意 な 差 は 見 られなかった また, 担 当 部 署 による 有 意 な 意 見 の 差 も 見 られなかっ た 表 6 市 の 住 民 意 見 に 対 する 対 応 ( 注 )χ 2 = 46.181, df(12), ns ( 出 所 ) 筆 者 作 成 (40)-7
(40) 自 治 体 の 公 共 経 営 改 善 表 7 市 民 が 意 見 を 出 した 市 の 広 報 媒 体 表 8 市 民 意 見 の 年 度 別 形 態 変 化 ( 注 )χ 2 = 46.181, df(12), ns ( 出 所 ) 筆 者 作 成 5-3-2. 市 民 意 見 のカテゴリー 変 化 分 析 市 民 意 見 については, 表 8の 通 り,2007 年 には 指 摘 賛 意 が 多 かったのが,2009 年,2011 年 と 要 望 疑 問 が 増 加 している 年 別 のカテゴリー 構 成 に 有 意 な 差 は 無 かった 身 近 な 対 象 に 対 しての 意 見 と 一 般 的 な 意 見 の 差 の 検 定 では 有 意 な(χ 2 =4.945, df(1), p<.05) 差 が 見 られた 6. 考 察 6-1. 仮 説 検 証 仮 説 自 治 体 住 民 のコミュニケーションは, 住 民 の 意 見 は 直 接 関 心 のある 事 項 に 集 中 し, 市 の 対 応 も 行 革 推 進 による 経 費 人 員 削 減 等 から 住 民 意 見 への 対 応 には 一 定 のパターンでの 対 応 にとど まり,コミュニケーションの 成 立 は 見 られない は, 市 民 意 見 が 身 近 な 意 見 と 一 般 的 意 見 で 年 毎 に 有 意 に 変 化 しているなか, 市 の 対 応 も 従 順 対 応 と 反 論 対 応 が 年 毎 に 有 意 に 変 化 していることから, 市 民 は 直 接 関 心 がある 事 項 にとどまらず 意 見 を 提 出 し, 市 は, 職 員 減 少, 公 共 経 営 としてカバーす べき 範 囲 の 拡 大 質 的 難 度 の 上 昇 の 中 でも 市 民 の 要 望 に 対 応 していると 考 えられ, 一 定 のコミュニ ケーションの 存 在 があると 考 えられるため 否 定 される 市 民 意 見 は,その 内 容 は 身 近 な 対 象 に 対 しての 意 見 ( 指 摘, 賛 意 )よりも 一 般 的 な 意 見 ( 要 望, 疑 問 )が 多 くなっている これは,コミュニケーションが 進 んでいない 場 合 は, 相 手 の 事 情 がよ く 理 解 されていないために, 満 足 の 場 合 は 賛 意, 不 満 の 場 合 は 指 摘 という 形 で 意 見 を 表 明 し, コミュニケーションが 進 んでくると 相 手 の 立 場 に 対 する 理 解 も 増 えるために, 要 望, 疑 問 と いう 相 手 の 立 場 を 踏 まえた 対 応 になってくると 考 えられる 同 様 に 市 の 対 応 も 従 順 対 応 ( 無 条 件 対 応, 条 件 付 対 応 )が 優 勢 な 状 況 から 反 対 対 応 ( 反 論, 説 (40)-8
経 営 学 論 集 第 85 集 自 由 論 題 得 ) の 増 加 による 均 衡 化 など 変 化 している これは, 市 職 員 の 人 数 抑 制, 施 策 課 題 の 増 大 という 昨 今 の 事 情 を 考 えれば, 無 条 件 に 対 応 するだけや 反 対 だけでは 早 晩 行 き 詰 まり, 市 の 状 況 を 市 民 に 本 当 に 理 解 してもらうためのコミュニケーションに 注 力 した 結 果 と 考 えられる 6-2. 更 なる 効 率 的 効 果 的 なコミュニケーションへの 対 応 今 後,さらにコミュニケーションの 効 率 効 果 を 向 上 させ, 住 民 に 十 分 な 理 解 を 与 えるには, 次 の 方 法 が 考 えられる 6-2-1.かわさき 市 民 アンケートの 活 用 市 民 が 最 も 市 政 参 加 に 有 効 な 方 法 と 考 えている かわさき 市 民 アンケート のアンケート 結 果 を 市 民 意 見 として 活 用 することが 望 ましい 具 体 的 には,アンケートの 質 問 項 目 を 顕 在 化 している 課 題 に 合 わせるとともに, 自 系 列 変 化 を 認 識 できるようにする 6-2-2. 市 民 の 行 政 への 参 加 促 進 市 民 の 行 政 への 参 加 を 促 すことにより 説 明 責 任 をより 容 易 に 果 たせるようになると 考 えられるこ とから, 市 政 参 加 に 否 定 的 な 市 民 のうち, 仕 組 みが 良 くわからない ことの 解 消 を 図 るべきである 審 議 会 などの 委 員 経 験 者 の 声 をホームページに 掲 載 するなど 市 政 の 具 体 的 仕 組 みを 伝 え, 市 政 を 身 近 にする 対 応 を 行 うことにより, 現 在 市 政 への 参 加 を 望 まない 市 民 ( 約 40%)が 市 政 を 体 感 し 市 政 に 参 加 すれば, 市 と 市 民 とのコミュニケーションは 格 段 に 活 発 化 する また, 新 規 呼 び 込 み 層 として, 今 後, 団 塊 の 世 代 のリタイアに 伴 い,ビジネスノウハウを 持 ちか つ 時 間 に 余 裕 がある 市 民 がいる 地 域 組 織 はこれらの 市 民 を 取 り 込 んでいくことが 求 められる こ れにより, 市 とのコミュニケーションも 円 滑 化 すると 考 えられる さらにサイレント マジョリティの 意 見 の 顕 在 化 が 考 えられる サイレント マジョリティは 自 らに 強 いインパクトが 無 いと 行 動 しないと 考 えられるが,SNS など 新 しい 情 報 システムが 一 般 化 している 状 況 では 従 来 型 の 知 るべき 情 報 の 提 供 だけではなく, 理 解 させる 情 報 提 供 を 心 が けるべきである そのため,マーケティング 理 論 である AIDMA 理 論 の 注 意 関 心 欲 望 記 憶 行 動 という 住 民 がたどる 各 段 階 に 適 応 した 情 報 提 供 をするなどの 工 夫 が 求 められる 7.おわりに 本 稿 では, 川 崎 市 の 総 合 開 発 計 画 に 寄 せられた 市 民 意 見 およびそれらに 対 する 市 の 対 応 について 分 析 したが, 今 回 の 分 析 はコミュニケーション 手 段, 市 の 対 応 および 市 民 の 意 見 の 形 態 の 変 化 に 留 まっている 今 後 は, 市 の 公 共 経 営 全 体 に 対 する 意 見 の 収 集 分 析 が 求 められる また, 市 民 が 意 見 として 窓 口 で 発 言 しても 窓 口 で 処 理 されるだけで 特 に 記 録 に 残 らない,あるいは 窓 口 に 留 まり 市 が 対 応 する に 至 らない(すなわち 問 題 として 認 識 されない)もある それらの 必 ずしも 意 見 の 形 をとらないが 多 数 の 潜 在 的 な 意 見 (サイレント マジョリティ)にどのように 対 応 するかも 重 要 である これらにつ いては 次 回 の 研 究 テーマとしたい 本 稿 で 述 べた 意 見 は 筆 者 の 意 見 であり, 川 崎 市 の 意 向 は 全 く 含 んでいないことを 申 し 添 える (1) 川 崎 市 の 場 合 は, 投 票 資 格 者 は 18 歳 以 上 の 者 で, 外 国 人 にも 一 定 の 要 件 のもとで 投 票 資 格 を 与 えている 対 象 事 項 や 投 票 資 格 者 など 投 票 に 関 するルールを 定 めた 条 例 をあらかじめ 設 けておき,それに 基 づいて 実 施 する 常 (40)-9
(40) 自 治 体 の 公 共 経 営 改 善 設 型 を 創 設 している (2) 家 族 や 友 人 知 人 から 聞 いたことがある という 口 コミが 自 治 体 の 政 策 に 対 する 意 見 に 大 きな 影 響 を 与 える ( 川 崎 における 音 楽 のまちづくり の 評 価 に 係 る 調 査 研 究 pp.121-122) ( 垣 内 他 2010)という 研 究 成 果 があ る (3) 川 崎 市 は, 情 報 共 有 について 情 報 提 供, 情 報 公 開, 個 人 情 報 保 護, 会 議 公 開 および 情 報 共 有 の 手 法 等 の 整 備 に 取 り 組 んでいる( 川 崎 市 自 治 基 本 条 例 : 市 民 との 情 報 共 有, 参 加 ) 参 考 文 献 今 田 高 俊 (2005) 自 己 組 織 性 と 社 会 東 京 大 学 出 版 会 川 崎 市 (2004) 川 崎 市 自 治 基 本 条 例 川 崎 市 川 崎 市 各 年 版 市 政 資 料 川 崎 市 http://www.city.kawasaki.jp/shisei/category/62-11-0-0-0-0-0-0-0-0.html 川 崎 市 自 治 推 進 委 員 会 (2009) 川 崎 市 自 治 推 進 委 員 会 の 取 組 市 民 自 治 の 推 進 に 向 けた 10 の 提 言 ( 第 1 期 ) 川 崎 市 垣 内 恵 美 子, 川 口 夏 織, 角 美 弥 子, 小 川 由 美 子 (2010) 川 崎 市 における 音 楽 のまちづくり 市 民 調 査 の 分 析 から 政 策 研 究 大 学 院 大 学 桑 田 耕 太 郎, 田 尾 雅 夫 (1998) 組 織 論 有 斐 閣 財 団 法 人 地 方 自 治 協 会 (1983) 地 方 自 治 における 情 報 公 開 に 関 する 研 究 財 団 法 人 地 方 自 治 協 会 田 中 啓 (2009) 日 本 の 自 治 体 の 行 政 評 価 財 団 法 人 自 治 体 国 際 化 協 会, 政 策 大 学 院 大 学 比 較 地 方 自 治 研 究 センター 野 中 郁 次 郎, 竹 内 弘 高, 梅 本 勝 博 (1996) 知 識 創 造 企 業 東 洋 経 済 新 報 社 牧 野 真 也 (2000) 場 の 情 報 システム 組 織 における 自 己 組 織 化 経 済 理 論 293, pp.67-87 (40)-10