55:490 2 1 2 1 1 2 1 * 慢 性 脳 内 血 腫, 基 底 核, 被 膜, 治 療, 発 生 頻 度 脳 出 血 は 発 症 から 数 時 間 以 降 に 増 大 することは 少 なく,と くに 発 症 24 時 間 以 降 の 血 腫 が 増 大 することはまれである. Yashon らは, 週 単 位 で 緩 徐 に 進 行 する 脳 内 血 腫 を 慢 性 脳 内 血 腫 chronic intracerebral hematoma(cih)と 提 唱 した 1).これ らの 多 くは 皮 質 下 出 血 であり, 基 底 核 の 出 血 は 5% 未 満 であ る 2). 当 院 で 経 験 した 2 例 の 基 底 核 の CIH 症 例 と,その 発 症 頻 度 について 報 告 する. 症 例 1:48 歳, 男 性 主 訴 : 頭 痛, 歩 行 困 難 既 往 歴 : 心 血 管 疾 患 既 往 なし. 併 存 症 : 高 血 圧 ( 無 治 療 ), 右 下 顎 腫 瘍 ( 良 性 ). 家 族 歴 : 同 胞, 母 親 に 脳 血 管 障 害. 生 活 歴 : 喫 煙 20 本 / 日. 飲 酒 ビール 700 ml と 焼 酎 1 合 / 日. 内 服 薬 :なし. 現 病 歴 :2013 年 12 月 中 旬, 急 性 発 症 の 頭 痛, 歩 行 困 難 を 主 訴 に 救 急 搬 送 され 入 院. 入 院 時 身 体 所 見 : 意 識 レベルはJCS1,GCS15, 血 圧 210/80 mmhg, 脈 拍 80/ 分 で 整, 呼 吸 数 20 回 /min,spo 2 は 100%( room air)であった. 胸 腹 部 に 特 記 すべき 所 見 なし. 入 院 時 NIHSS は 11 点 で, 神 経 学 的 には 左 顔 面 麻 痺 と 構 音 障 害 をみとめるが, 眼 球 運 動 障 害 はなく, 球 麻 痺 もみとめなかっ た. 左 半 身 の 運 動 不 全 麻 痺 をみとめるが, 感 覚 障 害 はなく, 小 脳 性 運 動 失 調 もみとめなかった. 左 の 腱 反 射 の 亢 進 とバビ ンスキー 反 射 は 陽 性 であった. 検 査 所 見 : 血 液 検 査 では 末 梢 血, 一 般 生 化 学, 凝 固 能 に 異 常 所 見 なし. 心 電 図 異 常 なし. 頭 部 CT および MRI で 右 被 殻 に 約 14 ml の 出 血 をみとめた(Fig. 1A). MRA では 血 管 奇 形 な どの 異 常 血 管 はみとめなかった. 入 院 経 過 : 入 院 時 の 血 腫 量, 症 候 などから 判 断 し, 降 圧 な どの 保 存 治 療 をおこなった. 徐 々に 症 状 は 改 善 し 経 過 良 好 で あったが, 入 院 14 日 目 にふたたび 意 識 の 低 下 (JCS1-2)と 左 運 動 麻 痺 の 進 行 をみとめた.CT で 再 出 血 はみとめないが, 血 腫 内 の 水 溶 成 分 の 増 加 による 血 腫 の 増 大 をみとめ, 周 囲 の 浮 腫 も 増 悪 していた(Fig. 1B).グリセロール 静 注 をおこなうが, 症 状 は 徐 々に 進 行 し,CT/MRI 上 も 改 善 せず(Fig. 1C,Fig. 2), 浮 腫 も 著 明 であり, 血 腫 の 周 囲 にはヘモジデリンの 沈 着 を 示 唆 する 所 見 もみとめた(Fig. 2B).ガドリニウムによる 造 影 MRI では 血 腫 の 周 囲 が 造 影 され, 血 管 増 生 をともなう 被 膜 と 思 わ れる 所 見 であったが, 腫 瘍 を 示 唆 する 所 見 はみとめなかった (Fig. 2C~E). 入 院 28 日 目 に 内 視 鏡 的 に 血 腫 摘 出 を 施 行 した. 比 較 的 硬 い 被 膜 を 破 り, 血 腫 を 除 去 したが, 血 腫 は 血 液 凝 固 *Corresponding author: 脳 神 経 センター 大 田 記 念 病 院 脳 神 経 内 科 720-0825 広 島 県 福 山 市 沖 野 上 町 3-6-28 1) 脳 神 経 センター 大 田 記 念 病 院 脳 神 経 内 科 2) 脳 神 経 センター 大 田 記 念 病 院 脳 神 経 外 科 (Received January 19, 2015; Accepted March 3, 2015; Published online in J-STAGE on June 4, 2015) doi: 10.5692/clinicalneurol.cn-000709
大 脳 基 底 核 の 慢 性 脳 内 血 腫 55:491 Brain CT of Case 1. Brain CT showed an intracerebral hemorrhage in the right putamen on admission (A). His hematoma had grown without re-bleeding on day 14 (B), and was then removed endoscopically on day 28 (C). The arrows indicate the edge of hematoma. Two months later, the hematoma could not be recognized (D). 塊 を 混 じた 液 性 成 分 からなるものであった. 被 膜 は 除 去 せず に 血 腫 内 を 洗 浄 し, 被 膜 の 一 部 を 生 検 し(3 3 mm), 病 理 へ 提 出 した. 病 理 組 織 所 見 : 被 膜 は 肉 芽 組 織 からなり, 脳 組 織 はふくま れず, 肉 芽 はリンパ 球, 組 織 球, 結 合 織, 増 生 し 拡 大 した 血 管 から 成 りたち,その 中 に 少 量 のヘモジデリンが 沈 着 してい た(Fig. 3). 術 後 症 状 は 改 善 し, 血 腫 の 再 発 もなく, 入 院 53 日 目 に 転 院 した. 症 例 2:54 歳, 男 性 主 訴 : 左 運 動 麻 痺 既 往 歴 :1991 年 12 月,52 歳 時, 右 顔 面 麻 痺, 構 音 障 害 出 現 し, 当 院 入 院. 左 側 頭 葉 皮 質 下 出 血 のため 血 腫 除 去 術 施 行 し,とくに 大 きな 神 経 脱 落 症 状 なく,25 日 で 退 院 した.この 時, 出 血 源 の 検 察 のため, 脳 血 管 撮 影 をおこなっているが, 脳 血 管 の 異 常 はみとめなかった. 併 存 症 : 高 血 圧, 脂 質 異 常 症. 家 族 歴 : 脳 血 管 障 害 なし. 現 病 歴 :2 年 前 の 脳 出 血 による 神 経 脱 落 症 状 はほとんどな く, 独 立 した 日 常 生 活 を 送 っていた.1993 年 11 月, 二 輪 車 走 行 中 に 転 倒 し, 近 医 受 診 し 頭 部 CT で 脳 出 血 をみとめ 当 院 へ 救 急 搬 送 となった. 入 院 時 身 体 所 見 : 意 識 障 害 なし. 左 上 下 肢 に 運 動 麻 痺 をみ とめた. 他 は 神 経 学 的 異 常 所 見 なし. 検 査 所 見 : 血 液 検 査 では 末 梢 血, 一 般 生 化 学, 膠 原 病 関 連, 凝 固 能 に 異 常 はみとめなかった. 頭 部 CT では 右 被 殻 および 左 視 床 に 出 血 をみとめた(Fig. 4A). 血 腫 の 量, 症 候 などから 判 断 して, 降 圧 などの 保 存 治 療 をおこなった. 出 血 源 の 検 索 のために 脳 血 管 撮 影 をおこなったが, 今 回 も 出 血 の 原 因 とな る 血 管 の 異 常 はみとめなかった. 入 院 経 過 : 発 症 11 日 目 の 頭 部 CT で 血 腫 の 増 大 をみとめた (Fig. 4B). 症 状 に 著 変 はみとめなかったため, 保 存 治 療 を 継 続 して 経 過 観 察 したところ, 血 腫 のさらなる 悪 化 はみとめず (Fig. 4C), 血 腫 もしだいに 減 少 し,リハビリにて 独 立 歩 行 も
55:492 55 巻 7 号 (2015:7) Brain MRI of Case 1. Brain MRI showed an intracerebral hematoma in the right putamen with strong edema on day 27. The low intensity signal (B, broad arrows) on the edge of hematoma was suspected the accumulation of hemosiderin. A; FLAIR image (1.5 T, axial, TR 9,000, TE 91), B; T 2 * weighted image (1.5 T, axial, TR 660, TE 24), The edge of hematoma (arrows) was enhanced by gadolinium (C, D, E). There was no findings of abnormal enhanced signals suggesting neoplasm. C; T 1 weighted image (1.5 T, axial, TR 450, TE 17), D; T 1 weighted image (1.5 T, coronal, TR 500, TE 17), E; T 2 weighted image (1.5 T, coronal, TR 4,300, TE 92). 可 能 となり, 入 院 45 日 目 に 退 院 となった. 退 院 後 経 過 : 退 院 後, 発 症 53 日 目 の CT では 血 腫 の 内 容 物 は 吸 収 され, 増 大 はみとめず, 左 運 動 麻 痺 もしだいに 改 善 し た(Fig. 4D).なお,その 後 55 歳 で 左 後 頭 葉 に 皮 質 下 小 出 血 が 発 症 した. 再 度 脳 血 管 撮 影 おこなうが,この 時 も 異 常 はみ とめなかった.56 歳 で 左 後 頭 葉 に 皮 質 下 の 再 出 血,61 歳 で 右 後 頭 葉 皮 質 下 出 血 を 再 発 しているが 比 較 的 短 時 間 で 改 善 し た. 現 在 76 歳 であるが, 独 歩 単 独 で 外 来 通 院 しており, 右 深 部 反 射 軽 度 亢 進, 病 的 反 射 陽 性, 右 上 1/4 半 盲 がみとめられ るが, 認 知 機 能 正 常 である.2013 年 5 月 (75 歳 )の MRI に て 右 被 殻, 左 視 床, 両 側 後 頭 葉, 左 側 頭 葉 にヘモジデリン 沈 着 を 示 唆 する 所 見 がみとめられるが microbleeds はみとめら れない(Fig. 5). 以 上 5 回 の 脳 出 血 を 発 症 しているが, 脳 血 管 撮 影 では 異 常 血 管 はみとめず, 血 液 所 見 でも 血 管 炎 などを 示 唆 する 所 見 もみられていない. 当 院 における 脳 内 出 血 は,2005 年 1 月 ~2014 年 11 月 まで の 約 12 年 間 で,2,406 例 である.そのうち 被 殻 出 血 767 例
大 脳 基 底 核 の 慢 性 脳 内 血 腫 55:493 A B The pathological findings of the capsule of hematoma. The specimen was endoscopically obtained from the hematoma capsule (A). The whole biopsied specimen was shown in the square (upper left). Some bone tissue were recognized in the specimen (H-E staining). Bar; 1 mm. The pathological findings showed granulomatous tissue with fibrosis and infiltration of lymphocytes and histiocytes, and also dilated vessels (B, H-E staining). There was no brain tissue, but some accumulation of hemosiderin. Bar; 100 μm. The small square in picture A correspond to the magnified picture B. Brain CT of Case 2. Brain CT showed intracerebral hemorrhages in the right putamen and left thalamus on the 4th day after onset (A). Both hematomas were found to be enlarged without change in his symptoms on the 11th day after onset (B) and 32th day (C), and were then resolved, but the capsules were still recognized on the 53 Day (D).
55:494 55 巻 7 号 (2015:7) Brain MRI of Case 2. At age 75, brain MRI showed the old infarct lesions in the right putamen and the left thalamus on T 1 weighted image (A, 1.5 T, axial, TR 450, TE 10), and the accumulation of hemosiderin in right putamen, the left thalamus, both occipital lobes and left temporal lobe on T 2 * weighted image (B, 1.5 T, axial, TR 572, TE 20). (31.9 %), 視 床 出 血 564 例 (24.7 %), 皮 質 下 出 血 536 例 (22.3%), 尾 状 核 出 血 29 例 ( 1.2%), 小 脳 出 血 203 例 ( 8.4% ), 脳 幹 出 血 197 例 (8.2%),その 他 69 例 (2.9%)である.こ の 期 間 内 に,CIH は 提 示 した 被 殻 出 血 の 症 例 1 のみであった ( 症 例 2 の CIH の 発 症 は 1993 年 ).よって, 当 院 での 脳 出 血 全 体 での CIH の 頻 度 は 0.04%,テント 上 脳 出 血 の 0.06%で あった.また 基 底 核 出 血 ( 被 殻 出 血, 視 床 出 血, 尾 状 核 出 血 の 合 計 )は,1,360 例 であり,0.08%が CIH であり,きわめ てまれな 病 態 であると 思 われる. 再 出 血 のない 脳 内 出 血 は 通 常 発 症 3 日 目 以 降 には 神 経 学 的 症 候 が 改 善 し 始 め,2 週 目 以 降 には 画 像 所 見 上 の 浮 腫 も 改 善 していくことが 多 い.しかし,まれに 徐 々に 血 腫 の 増 大 がみ られる 事 があり,CIH と 呼 ばれる 病 態 が 発 現 する 1). 大 多 数 の 症 例 では, 血 腫 の 増 大 とともに 症 状 が 悪 化 するが,まれに 症 状 の 変 化 なく 増 大 することもあるため, 本 症 の 存 在 を 認 識 して 慎 重 な 経 過 観 察 が 必 要 である. 症 例 1 は, 無 治 療 の 高 血 圧, 喫 煙, 多 量 の 飲 酒 を 基 礎 に 生 じた 高 血 圧 性 被 殻 出 血 で, 発 症 2 週 間 目 ころから 運 動 麻 痺 が 悪 化 し, 血 腫 の 増 大 がみと められたため, 内 視 鏡 的 血 腫 除 去 術 をおこなった 症 例 である. 被 膜 の 形 成 をみとめ, 病 理 組 織 では 肉 芽 組 織 がみとめられた. 症 例 2 は,52 歳 から 61 歳 まで 10 年 間 で 5 回 の 再 発 性 脳 内 出 血 を 発 症 しており, 脳 血 管 撮 影 や MRA では 異 常 血 管, 血 管 炎,アミロイドアンギオパチーなどを 示 唆 する 所 見 はみとめ られなかった.54 歳 2 度 目 の 基 底 核 出 血 の 時 に,CIH が 出 現 した 症 例 である. CIH の 発 症 頻 度 に 関 して,これまで 報 告 はされていないが, 非 常 にまれな 病 態 であるとされており, 報 告 の 多 くは 皮 質 下 出 血 であり, 基 底 核 の CIH はとくに 頻 度 が 低 く,CIH のうち の 約 5% 程 度 とされている 2). 当 院 のデータからは, 全 脳 出 血 の 0.04%, 基 底 核 出 血 の 0.08%の 発 症 頻 度 であった.CIH は, 被 膜 を 有 する chronic encapsulated hematoma type と, 被 膜 を 持 たない liquefied hematoma type の 2 種 類 があるとされ ている 3).しかし, 同 一 症 例 で 出 血 から 2 週 間 後 の 血 腫 には 被 膜 がなく,31 日 後 の 血 腫 には 被 膜 がみられたという 報 告 も あり 4), 被 膜 は 時 間 経 過 で 形 成 されると 推 察 される.したがっ て,これら 2 病 型 は 血 腫 形 成 の 病 態 生 理 がことなるのではな く, 出 血 からの 時 間 の 差 異 によるものと 考 えられる 5). 血 腫 の 増 大 機 序 に 関 しては, 血 腫 の 分 解 産 物 により 浸 透 圧 性 活 性 物 質 が 生 成 され, 血 液 脳 関 門 を 通 して 水 分 が 膠 質 浸 透 圧 の 高 い 血 腫 側 へ 流 入 する 6).そのため 再 出 血 をともなわずに 血 腫 は 増 大 するが, 出 血 から 1 ヵ 月 程 度 経 過 すると 血 腫 の 周 囲 に 被 膜 が 形 成 され,この 被 膜 が CIH の 増 大 にかかわっていると 推 測 されている 7). 血 腫 と 被 膜 の 形 成 の 機 序 に 関 しては 以 下 の ような 慢 性 硬 膜 下 血 腫 (chronic subdural hematoma; CSDH)と の 類 似 性 が 考 えられる 2)8)9).すなわち,CSDH では, 被 膜 には 新 生 血 管 が 多 く, 出 血 がくりかえされ, 血 腫 内 では 線 溶 系 が 過 剰 に 活 性 化 され 血 液 は 凝 固 せず, 血 腫 の 分 解 産 物 によって 浸 透 圧 が 上 昇, 水 分 が 血 腫 内 に 流 入 し, 血 腫 は 増 大 する 7)10)~ 13). CIH も, 被 膜 形 成 後 には 同 様 の 機 序 で 血 腫 が 増 大 すると 推 測 される. 被 膜 形 成 の 機 序 は,CSDH のばあい, 外 膜 形 成 に 炎 症 性 サイトカインの 関 与 が 指 摘 され 14)15), 実 験 モデルでも 炎 症 性 サイトカインの 蛋 白 合 成 の 上 昇 が 遺 伝 子 レベルで 確 認 さ れており 16), 被 膜 形 成 に 炎 症 反 応 がかかわっていると 推 察 さ れる. 被 膜 の 病 理 像 に 関 しては,Hirsh らの 報 告 17) によると, 被 膜 は 線 維 芽 細 胞,コラーゲンの 沈 着, 血 管 に 富 んだ 結 合 組 織 からなり, 混 在 した 脳 組 織 はグリオーシスを 示 し,ヘモジデ レリンをふくんだマクロファージ, 局 所 性 の 出 血,リンパ 球 と 組 織 球 からなる 単 核 細 胞 の 浸 潤 をみとめ, 急 性 炎 症 反 応 は なく 石 灰 化 像 も 示 さない, 異 物 反 応 や 腫 瘍 性 細 胞 はみとめな いと 報 告 され, 被 膜 壁 には 血 管 の 奇 形 を 思 わせる 血 管 異 常 も
大 脳 基 底 核 の 慢 性 脳 内 血 腫 55:495 みとめられている.われわれの 症 例 1 の 病 理 像 では, 少 量 の 生 検 組 織 のため, 脳 組 織 の 混 在 や 血 管 奇 形 はみとめなかった が, 類 似 した 結 合 組 織 の 肉 芽 組 織 の 病 理 像 を 示 していた. CIH の 基 礎 疾 患 に 関 しては, 原 因 不 明 も 多 いが, 脳 動 脈 奇 形, 血 管 腫, 静 脈 性 血 管 腫 などの 血 管 奇 形 が 出 血 源 とするば あいが 報 告 されている 9)17)~ 19). 現 在 までに 60 症 例 ほどが 報 告 されているが, 約 40%に 血 管 奇 形 がみとめられている 20). さらに 興 味 ある 点 は, 血 管 奇 形 が 出 血 源 のみならず, 被 膜 形 成 に 関 与 する 繊 維 芽 細 胞 などを 派 生 させている 可 能 性 も 指 摘 されている 19).この 点, 提 示 した 症 例 2 は 脳 内 出 血 をくりか えしており, 脳 血 管 撮 影 では 明 らかにすることができなかっ たが, 何 らかの 潜 在 性 の 血 管 異 常 が 推 測 された. CIH の 治 療 は, 被 膜 が 血 腫 形 成 に 寄 与 していると 推 測 されて いるので, 被 膜 を 除 去 することが 重 要 であるとされている 3). しかし 一 方 では, 被 膜 を 除 去 せず, 血 腫 の 除 去 のみで 良 好 な 経 過 を 示 したとの 報 告 もみられる 1). 今 回 われわれが 報 告 し た 2 症 例 とも, 被 膜 を 除 去 せず 良 好 な 経 過 であり, 被 膜 の 除 去 は 必 須 ではないのかもしれない 21).また, 本 報 告 の 症 例 2 では, 経 過 観 察 だけで 血 腫 の 増 大 はみられず, 注 意 深 く 経 過 観 察 すれば, 必 ずしも 外 科 的 介 入 を 必 要 としない 例 も 存 在 す ると 思 われる. 血 腫 形 成 の 機 序 を 考 えると, 発 症 からの 時 期 や, 被 膜 の 厚 さ,また 出 血 の 基 礎 疾 患 によっても 治 療 方 針 は ことなると 考 えられ, 今 後 の 検 討 が 必 要 である.いずれにし ても, 発 症 から 2 週 目 以 降 にも 症 状 が 増 悪 したり, 画 像 上 血 腫 の 軽 減 がみられない 症 例 では, 本 症 の 存 在 を 視 野 に 入 れ, 治 療 方 針 を 慎 重 に 検 討 する 事 が 重 要 であることを 指 摘 したい. 本 論 文 の 要 旨 は, 第 96 回 日 本 神 経 学 会 中 国 四 国 地 方 会 (2014 年 6 月 28 日 )において 発 表 した. 病 理 組 織 診 断 に 関 して, 福 山 市 医 師 会 診 断 病 理 学 センター 元 井 信 博 士 に 深 謝 する. 本 論 文 に 関 連 し, 開 示 すべき COI 状 態 にある 企 業, 組 織, 団 体 はいずれも 有 りません. 1)Yashon D, Kosnik E. Chronic intracerebral hematoma. Neurosurgery 1978;2:103-106. 2) 須 山 嘉 雄, 梶 川 博, 山 村 邦 夫 ら. 慢 性 被 膜 化 脳 内 血 腫 の 一 例. 脳 神 経 外 科 1996;24:487-491. 3)Pozzati E, Giuliani G, Gaist G, et al. Chronic expanding intracerebral hematoma. J Neurosurg 1986;65:611-614. 4) 加 藤 秀 明, 隈 部 俊 宏, 冨 永 悌 二 ら. 慢 性 被 膜 化 脳 内 血 腫 への 移 行 像 を 呈 した 多 発 性 脳 内 血 腫 の 1 例. 脳 外 誌 1997;6:555-559. 5) 富 士 井 睦, 高 田 義 章, 大 野 喜 久 郎 ら. 大 脳 基 底 核 部 slowly progressive expanding hematoma の 3 症 例 報 告 と 文 献 的 考 察. Brain and Nerve 2012;64:295-302. 6)Yang GY, Betz AL, Chenevert TL, et al. Experimental intracerebral hemorrhage: relationship between brain edema, blood flow, and blood-brain barrier permeability in rats. J Neurosurg 1994;81:93-102. 7) 冨 士 井 睦, 新 井 俊 成, 松 岡 義 之 ら. 無 痛 分 娩 後 に 発 症 した 慢 性 硬 膜 下 血 腫 の 一 例. 脳 神 経 外 科 2010;38:563-568. 8) 南 都 昌 孝, 須 川 典 亮, 天 神 博 志.ステロイドが 著 効 したと 考 えられる chronic intracerebral hematoma の 1 例. 脳 神 経 外 科 2003;31:49-54. 9) 隈 部 俊 宏, 嘉 山 孝 正, 桜 井 芳 明 ら. 被 膜 形 成 された 慢 性 脳 内 血 腫 の 像 を 呈 した 大 脳 基 底 核 部 静 脈 性 血 管 腫 の 全 摘 出 術 例. 脳 神 経 外 科 1990;18:735-739. 10)Fujisawa H, Ito H, Saito K, et al. Immunohistochemical localization of tissue-type plasminogen activator in the lining wall of chronic subdural hematoma. Surg Neurol 1991;35:441-445. 11)Ito H, Saito K, Yamamoto S, et al. Tissue-type plasminogen activator in the chronic subdural hematoma. Surg Neurol 1988; 30:175-179. 12)Kawakami Y, Chikama M, Tamiya T, et al. Coagulation and fibrinolysis in chronic subdural hematoma. Neurosurgery 1989;25:25-29. 13)Hirashima Y, Endo S, Hayashi N, et al. Platelet-activating factor (PAF) and the formation of chronic subdural haematoma. Measurement of plasma PAF levels and anti-paf immunoglobulin titers. Acta Neurochir (Wien) 1995;137:15-18. 14)Suzuki M, Endo S, Inada K, et al. Inflammatory cytokines locally elevated in chronic subdural hematoma. Acta Neurochir (Wien) 1998;140:51-55. 15)Hara M, Tamaki M, Aoyagi M, et al. Possible role of cyclooxygenase-2 in developing chronic subdural hematoma. J Med Dent Sci 2009;56:101-106. 16)Lu A, Tang Y, Ran R, et al. Brain genomics of intracerebral hemorrhage. J Cereb Blood Flow Metab 2006;26:230-252. 17)Hirsh LF, Spector HB, Bogdanoff BM. Chronic encapsulated intracerebral hematoma. Neurosurgery 1981;9:169-172. 18)Murakami S, Sotsu M, Morooka S, et al. Chronic encapsulated intracerebral hematoma associated with cavernous angioma: a case report. Neurosurgery 1990;26:700-702. 19)Monma S, Ohno K, Hata H, et al. Cavernous angioma with encapsulated intracerebral hematoma: report of two cases. Surg Neurol 1990;34:245-249. 20) 小 野 元. 慢 性 脳 内 血 腫. 新 領 域 別 症 候 群 26. 神 経 症 候 群. 第 2 版. 大 阪 : 日 本 臨 床 社 ;2013. p. 454-457. 21) 横 須 賀 公 彦, 平 野 一 宏, 関 原 嘉 信 ら. 内 視 鏡 下 血 腫 除 去 術 を 施 行 した, 慢 性 被 膜 下 脳 内 血 腫 の 一 例. 脳 卒 中 2008;30:600-603.
55:496 55 巻 7 号 (2015:7) Abstract Chronic intracerebral hemorrhage in the basal ganglia: Report of two cases and prevalence Ryuhei Kono, M.D. 1), Norihiro Ishii, M.D., Ph.D. 2), Kazuhiro Takamatsu, M.D. 1), Yutaka Shimoe, M.D., Ph.D. 1), Shinzo Ota, M.D. 2) and Masaru Kuriyama, M.D., Ph.D. 1) 1) Department of Neurology, Brain Attack Center Ota Memorial Hospital 2) Department of Neurosurgery, Brain Attack Center Ota Memorial Hospital Two patients presented with chronic intracerebral hemorrhage (CIH) in the basal ganglia. A 48-year-old man (Case 1) was admitted to our hospital because of hypertensive right putaminal hemorrhage. On day 14, his hematoma surrounding the edema had grown without re-bleeding as seen on head CT, which was then removed endoscopically on day 28. Biopsied specimen of the hematoma capsule showed granulomatous tissue with vascularity. A 54-year-old man (Case 2) was admitted to our hospital because of bilateral intracerebral hemorrhage in the basal ganglia of the right putamen and left thalamus. On head CT, both hematomas were found to be enlarged without change in his symptoms on the 11th day after onset. His symptoms and signs subsided with medical treatment for 4 weeks. Cerebral angiography showed no abnormality of cerebral vessels. The patient had intracerebral hemorrhage in the basal ganglia or cerebral lobes 5 times in the past 10 years. Although no arterial or venous abnormality was detected by cerebral angiography and MRI/MRA, the abnormality of vessels including capillaries was strongly suggested. CIH should be considered a possibility when the symptom or hematoma does not improve even 2 weeks after the onset. The prevalence of CIH in our hospital was 0.08% of total intracerebral hemorrhages and 0.15% of hemorrhages in the basal ganglia. (Rinsho Shinkeigaku (Clin Neurol) 2015;55:490-496) Key words: chronic intracerebral hemorrhage, basal ganglia, capsule, treatment, prevalence