E-20 phを 調 整 した 低 エキス 分 のビールテイスト 飲 料 特 許 権 侵 害 差 止 請 求 事 件 : 東 京 地 裁 平 成 27(ワ)1025 平 成 27 年 10 月 29 日 ( 民 40 部 ) 判 決 < 請 求 棄 却 > キーワード 特 許 発 明 の 進 歩 性 ( 特 29 条 2 項 ), 特 許 の 無 効 事 由 と 特 許 権 の 行 使 ( 特 104 条 の 3 第 1 項 ), 公 然 実 施 発 明 ( 特 29 条 1 項 2 号 ), 特 許 無 効 審 判 の 請 求 事 案 の 概 要 本 件 は, 発 明 の 名 称 を phを 調 整 した 低 エキス 分 のビールテイスト 飲 料 と する 特 許 権 を 有 する 原 告 が, 被 告 に 対 し, 被 告 による 被 告 製 品 の 製 造 等 が 特 許 権 侵 害 に 当 たると 主 張 して, 特 許 法 100 条 1 項 及 び2 項 に 基 づき, 被 告 製 品 の 製 造 等 の 差 止 め 及 び 廃 棄 を 求 める 事 案 である 1 前 提 事 実 ( 当 事 者 間 に 争 いのない 事 実 並 びに 後 掲 の 証 拠 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 により 容 易 に 認 められる 事 実 ) (1) 当 事 者 ア 原 告 (サントリーホールディングス 株 式 会 社 )は, 清 涼 飲 料 その 他 の 飲 料, 酒 類 の 製 造 及 び 販 売 等 の 事 業 を 営 む 会 社 等 の 株 式 又 は 持 分 を 所 有 するこ とにより, 当 該 会 社 等 の 事 業 活 動 を 支 配, 管 理 することを 目 的 とする 株 式 会 社 である イ 被 告 (アサヒビール 株 式 会 社 )は,ビールその 他 の 酒 類, 清 涼 飲 料 その 他 の 飲 料 の 製 造, 販 売 等 を 目 的 とする 株 式 会 社 である (2) 原 告 の 特 許 権 ア 原 告 は, 次 の 特 許 権 ( 以 下 本 件 特 許 権 といい,その 特 許 請 求 の 範 囲 請 求 項 1に 係 る 特 許 を 本 件 特 許 という )の 特 許 権 者 である 特 許 番 号 第 5382754 号 原 出 願 日 平 成 24 年 11 月 19 日 出 願 日 平 成 25 年 5 月 27 日 ( 特 願 2013-110731) 優 先 日 平 成 23 年 11 月 22 日 登 録 日 平 成 25 年 10 月 11 日 発 明 の 名 称 phを 調 整 した 低 エキス 分 のビールテイスト 飲 料 イ 本 件 特 許 の 特 許 請 求 の 範 囲 の 請 求 項 1(ただし, 平 成 26 年 8 月 7 日 に 確 定 した 審 決 による 訂 正 後 のもの)の 記 載 は, 次 のとおりである( 以 下,この 発 明 を 本 件 発 明 といい, 同 訂 正 後 の 明 細 書 及 び 図 面 を 本 件 明 細 書 と いう ) エキス 分 の 総 量 が0.5 重 量 % 以 上 2.0 重 量 % 以 下 であるノンアルコー ルのビールテイスト 飲 料 であって,pHが3.0 以 上 4.5 以 下 であり, 糖 質 の 含 量 が0.5g/100ml 以 下 である, 前 記 飲 料 ウ 本 件 発 明 は, 以 下 の 構 成 要 件 に 分 説 される 1
A-1 エキス 分 の 総 量 が0.5 重 量 % 以 上 2.0 重 量 % 以 下 であるノン アルコールのビールテイスト 飲 料 であって, A-2 phが3.0 以 上 4.5 以 下 であり, A-3 糖 質 の 含 量 が0.5g/100ml 以 下 である, B 前 記 飲 料 (3) 本 件 特 許 の 出 願 経 過 等 ア 原 告 は, 平 成 23 年 11 月 22 日 に 優 先 権 の 基 礎 となる 出 願 を 行 い( 特 願 2011-255388), 平 成 24 年 11 月 19 日 に 優 先 権 を 主 張 して 国 際 出 願 をした(PCT/JP2012/079973) この 国 際 出 願 は 日 本 国 に 国 内 移 行 され( 特 願 2013-516897), 原 告 は,この 国 内 移 行 された 出 願 につき 平 成 25 年 5 月 27 日 に 本 件 発 明 に 係 る 分 割 出 願 を 行 っ た ( 乙 39,40) イ 本 件 特 許 の 特 許 出 願 時 の 特 許 請 求 の 範 囲 の 請 求 項 1は, 次 のとおりであっ た エキス 分 の 総 量 が2.0 重 量 % 以 下 であるビールテイスト 飲 料 であって, phが2.7 以 上 4.5 以 下 である, 前 記 飲 料 ウ 原 告 は, 平 成 25 年 8 月 5 日 付 けで 手 続 補 正 書 ( 乙 3)を 提 出 し, 特 許 請 求 の 範 囲 の 請 求 項 1を 次 のとおり 補 正 し( 下 線 部 は 補 正 箇 所 以 下,この 補 正 を 本 件 補 正 という ), 同 年 10 月 11 日 に 特 許 登 録 を 受 けた エキス 分 の 総 量 が0.5 重 量 % 以 上 2.0 重 量 % 以 下 であるビールテイス ト 飲 料 であって,pHが3.0 以 上 4.5 以 下 であり, 糖 質 の 含 量 が0.5 g/100ml 以 下 である, 前 記 飲 料 エ 原 告 は, 本 件 特 許 の 登 録 後, 前 後 (2)イの 訂 正 に 係 る 訂 正 審 判 を 請 求 し, 訂 正 を 認 める 旨 の 審 決 がされた (4) 被 告 の 行 為 被 告 は, 平 成 25 年 9 月 上 旬 からノンアルコールのビールテイスト 飲 料 であ る 被 告 製 品 (ドライゼロ)の 製 造, 販 売 を 行 っている (5) ノンアルコールのビールテイスト 飲 料 の 発 売 ノンアルコールのビールテイスト 飲 料 である 原 告 の サントリー オールフ リー ( 以 下 オールフリー という ) 及 び 被 告 の アサヒ ダブルゼロ ( 以 下 ダブルゼロ という )は, 平 成 22 年 8 月 3 日 にそれぞれ 発 売 が 開 始 された( 乙 4,9) オールフリー 及 びダブルゼロは,いずれも 本 件 補 正 前 ( 特 許 出 願 時 )の 特 許 請 求 の 範 囲 の 請 求 項 1 記 載 の 発 明 の 技 術 的 範 囲 に 属 する ものであったが, 本 件 補 正 後 はその 技 術 的 範 囲 に 属 しないものとなった( 乙 1, 弁 論 の 全 趣 旨 ) 2 争 点 被 告 は, 被 告 製 品 が 本 件 発 明 の 技 術 的 範 囲 に 属 することを 争 っていない 本 件 の 争 点 は, 本 件 特 許 が 特 許 無 効 審 判 により 無 効 にされるべきものとして 原 告 が 本 件 特 許 権 を 行 使 することができないか 否 かであり( 特 許 法 104 条 の 2
3 第 1 項 ), 被 告 は 本 件 特 許 には 以 下 の 無 効 理 由 があると 主 張 している (1) サポート 要 件 ( 特 許 法 36 条 6 項 1 号 ) 違 反 (2) 実 施 可 能 要 件 ( 同 条 4 項 1 号 ) 違 反 (3) 補 正 要 件 ( 同 法 17 条 の2 第 3 項 ) 違 反 (4) オールフリーに 係 る 発 明 ( 以 下 公 然 実 施 発 明 1 という )に 基 づく 進 歩 性 欠 如 (5) ダブルゼロに 係 る 発 明 ( 以 下 公 然 実 施 発 明 2 という )に 基 づく 進 歩 性 欠 如 (6) 米 国 特 許 第 3717471 号 公 報 ( 以 下 乙 13 公 報 という )に 記 載 された 発 明 ( 以 下 乙 13 発 明 という )に 基 づく 進 歩 性 欠 如 (7) 特 開 2013-21944 号 公 報 ( 以 下 乙 17 公 報 という )に 記 載 された 発 明 ( 以 下 乙 17 発 明 という )に 基 づくいわゆる 拡 大 先 願 要 件 ( 同 法 29 条 の2) 違 反 (8) 優 先 権 の 主 張 が 認 められないことを 前 提 とする 進 歩 性 欠 如 判 断 1 争 点 (4)( 公 然 実 施 発 明 1(オールフリー)に 基 づく 進 歩 性 欠 如 )につい て まず, 争 点 (4)について 判 断 する 前 記 前 提 事 実 (5)のとおり,オールフリーは 本 件 特 許 の 優 先 日 前 である 平 成 22 年 8 月 3 日 に 原 告 が 販 売 を 開 始 したものであり,その 成 分 等 を 分 析 するこ とが 格 別 困 難 であるとはうかがわれないから,オールフリーに 係 る 発 明 ( 公 然 実 施 発 明 1)は 日 本 国 内 において 公 然 実 施 をされた 発 明 ( 特 許 法 29 条 1 項 2 号 )に 当 たる 被 告 は, 本 件 発 明 は 公 然 実 施 発 明 1に 基 づいて 容 易 に 発 明 をす ることができたので 特 許 を 受 けることができない 旨 ( 同 条 2 項 ) 主 張 するもの である (1) 本 件 発 明 と 公 然 実 施 発 明 1の 対 比 ア 本 件 発 明 は, 前 記 前 提 事 実 (2)イの 特 許 請 求 の 範 囲 の 請 求 項 1 記 載 のとお り, エキス 分 の 総 量 が0.5 重 量 % 以 上 2.0 重 量 % 以 下 であるノンアル コールのビールテイスト 飲 料 であって,pHが3.0 以 上 4.5 以 下 であ り, 糖 質 の 含 量 が0.5g/100ml 以 下 である, 前 記 飲 料 というも のである 一 方, 公 然 実 施 発 明 1は, 証 拠 ( 乙 1,4,41の1) 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば, 別 紙 1-1~3に 示 された 各 分 析 項 目 の 成 分 量 ないし 特 性 を 備 え たノンアルコールのビールテイスト 飲 料 であり,エキス 分 の 総 量 は0.39 重 量 %,phの 値 は3.78, 糖 質 はゼロ( 栄 養 表 示 基 準 に 基 づき100m l 当 たり0.5g 未 満 )であると 認 められる そうすると, 本 件 発 明 と 公 然 実 施 発 明 1は,エキス 分 の 総 量 につき, 本 件 発 明 が0.5 重 量 % 以 上 2.0 重 量 % 以 下 であるのに 対 し, 公 然 実 施 発 明 1 3
が0.39 重 量 %である 点 で 相 違 し,その 余 の 点 で 一 致 する イ これに 対 し, 原 告 は, 本 件 発 明 はエキス 分 の 総 量,pH 及 び 糖 質 の 含 量 の 各 数 値 範 囲 と 飲 み 応 え 感 及 び 適 度 な 酸 味 付 与 という 効 果 の 関 連 性 を 見 いだし たことを 技 術 思 想 とするものであり, 公 然 実 施 発 明 1はこのような 技 術 思 想 を 開 示 するものではないから,オールフリーの 多 数 の 分 析 項 目 の 中 からエキ ス 分 の 総 量,pH 及 び 糖 質 の 含 量 のみを 抜 き 出 して 公 然 実 施 発 明 1を 特 定 す ることは 許 されず,エキス 分 の 総 量,pH 及 び 糖 質 の 含 量 をひとまとまりの 構 成 として 相 違 点 を 認 定 すべきである 旨 主 張 する そこで 判 断 するに, 後 掲 の 証 拠 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば, 以 下 のとおり 解 することができる (ア) 本 件 発 明 は, 特 許 請 求 の 範 囲 の 記 載 上,エキス 分 の 総 量,pH 及 び 糖 質 の 含 量 につき 数 値 範 囲 を 限 定 しているが, 各 数 値 がそれぞれ 当 該 範 囲 内 に あれば 足 りるのであり,これらが 相 互 に 特 定 の 相 関 関 係 を 有 することは 規 定 されていない また, 本 件 明 細 書 の 発 明 の 詳 細 な 説 明 の 欄 をみても, 例 え ば,エキス 分 の 総 量 が0.5 重 量 %であるときはpHをどの 範 囲 とし,これ が2.0 重 量 %であるときはpHをどの 範 囲 とするのが 望 ましいなどといっ た 記 載 は 見 当 たらず, 要 は,エキス 分 の 総 量,pH 及 び 糖 質 の 含 量 がそれぞ れ 数 値 範 囲 内 にあれば 足 りるとされている (イ) 証 拠 ( 乙 4,21,28の1) 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば,1リキュ ールの 品 質 及 び 成 分 の 評 価 においてエキス 分 の 総 量,pH 及 び 糖 質 の 含 量 が 一 般 的 な 分 析 項 目 とされていること,2 本 件 特 許 の 優 先 日 前 に 頒 布 された Biere der Welt( 世 界 のビール) と 題 する 文 献 ( 乙 28 の1)に, 各 種 のノンアルコールビールテイスト 飲 料 についてエキス 分 及 び phを 測 定 項 目 に 含 めた 一 覧 表 が 掲 載 されていること,3 原 告 が 公 然 実 施 発 明 1の 発 売 に 当 たり 糖 質 の 含 量 を 測 定 し, 糖 質 がゼロであることを 宣 伝 文 句 としていることが 認 められる これら 事 実 関 係 に 照 らせば,エキス 分 の 総 量,pH 及 び 糖 質 はノンアルコールのビールテイスト 飲 料 の 性 状 を 特 定 する 上 でごくありふれた 項 目 であり, 当 業 者 であれば 当 然 に 着 目 する 事 項 とみる ことができる (ウ) さらに, 本 件 発 明 は, 特 許 請 求 の 範 囲 の 記 載 上,エキス 分 又 は 糖 質 と して 具 体 的 にどのような 物 質 をいかなる 量 含 有 するか,pHの 数 値 をどのよ うに 規 制 するかを 特 定 するものでなく,また, 他 の 成 分 の 存 否 や 測 定 値 につ き 触 れるところもない 本 件 明 細 書 ( 甲 2)の 発 明 の 詳 細 な 説 明 の 記 載 をみ ても,エキス 分 の 具 体 的 成 分 及 び 総 量 を 規 制 する 手 段,pH 調 整 剤 の 種 類 及 び 使 用 方 法, 糖 質 の 種 類,その 他 の 添 加 物 の 有 無 等 に 格 別 の 限 定 はされてい ない( 段 落 0020, 0021, 0024 ~ 0027, 0030, 0033 ) そうすると, 別 紙 1-1~3に 示 された 公 然 実 施 発 明 1の 多 数 の 分 析 項 目 のうちエキス 分 の 総 量,pH 及 び 糖 質 以 外 の 成 分 等 の 分 析 結 果 は, 本 件 発 明 の 進 歩 性 を 検 討 するに 当 たり 考 慮 する 必 要 は 4
ないと 考 えられる (エ) 以 上 によれば, 本 件 発 明 の 進 歩 性 を 判 断 する 前 提 として 公 然 実 施 発 明 1との 相 違 点 を 認 定 するに 当 たっては,エキス 分 の 総 量,pH 及 び 糖 質 の 各 数 値 をみれば 足 りると 解 すべきであるから, 原 告 の 上 記 主 張 を 採 用 すること はできない (2) 相 違 点 の 容 易 想 到 性 ア 後 掲 の 証 拠 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば, 次 の 事 実 が 認 められる (ア) 公 然 実 施 発 明 1は, 本 件 特 許 の 優 先 日 当 時, 我 が 国 におけるノンアル コールのビールテイスト 飲 料 の 中 で 販 売 金 額 が 最 も 大 きかったが,その 一 方 で, 消 費 者 から,コク( 飲 み 応 え)がない, 物 足 りない, 味 が 薄 いといった 評 価 を 受 けていた ( 乙 10,34~36) (イ) ノンアルコールのビールテイスト 飲 料 については, 本 件 特 許 の 優 先 日 以 前 から, 濃 厚 感, 旨 味 感,モルト 感,ボリューム 感 やコク 感 を 欠 くという 問 題 点 が 指 摘 されており,これらを 解 消 して 飲 み 応 えを 向 上 させるため, 穀 物 の 摩 砕 物 にプロテアーゼ 処 理 を 施 して 得 られる 風 味 付 与 剤, 麦 芽 溶 液 を 抽 出 して 得 られる 香 味 改 善 剤 又 は 香 料 組 成 物, 植 物 性 タンパク 分 解 物 や 麦 芽 抽 出 物, 麦 芽 エキス, 清 酒 由 来 のエキスを 用 いる 風 味 向 上 剤, 茶 葉 の 水 又 はエ タノール 抽 出 物 といった 添 加 物 を 用 いる 技 術 が 周 知 となっていた ( 乙 14 ~16,25~27) (ウ) 本 件 明 細 書 におけるエキス 分 の 総 量 とは,アルコール 度 数 が0.00 5% 未 満 の 飲 料 の 場 合, 脱 ガスしたサンプルをビール 酒 造 組 合 国 際 技 術 委 員 会 (BOCJ)が 定 めるビール 分 析 法 に 従 って 測 定 したエキス 値 ( 重 量 %) をいう( 段 落 0022 ) 上 記 (イ)の 風 味 付 与 剤 等 は,いずれもこの 方 法 の 測 定 対 象 となるエキス 分 に 当 たる ( 甲 2, 乙 2) イ 上 記 事 実 関 係 によれば, 公 然 実 施 発 明 1に 接 した 当 業 者 において 飲 み 応 え が 乏 しいとの 問 題 があると 認 識 することが 明 らかであり,これを 改 善 するた めの 手 段 として,エキス 分 の 添 加 という 方 法 を 採 用 することは 容 易 であった と 認 められる そして,その 添 加 によりエキス 分 の 総 量 は 当 然 に 増 加 すると ころ, 公 然 実 施 発 明 1の0.39 重 量 %を0.5 重 量 % 以 上 とすることが 困 難 であるとはうかがわれない そうすると, 相 違 点 に 係 る 本 件 発 明 の 構 成 は 当 業 者 であれば 容 易 に 想 到 し 得 る 事 項 であると 解 すべきである なお, 飲 料 中 のエキス 分 の 総 量 を 増 加 させた 場 合 にはpH 及 び 糖 質 の 含 量 が 変 化 すると 考 えられるが,エキス 分 には 糖 質 由 来 のものとそれ 以 外 のもの があり( 本 件 明 細 書 の 段 落 0020, 0033 参 照 ),phにも 多 様 のものがあると 解 されることに 照 らすと, 公 然 実 施 発 明 1にエキス 分 を 適 宜 ( 例 えば, 非 糖 質 由 来 で 酸 性 又 は 中 性 のものを) 加 えてその 総 量 を0.5 重 量 以 上 としつつ,pH 及 び 糖 質 の 含 量 を 公 然 実 施 発 明 1と 同 程 度 のもの ( 本 件 発 明 の 特 許 請 求 の 範 囲 に 記 載 の 各 数 値 範 囲 を 超 えないもの)とするこ とに 困 難 性 はないと 解 される 5
ウ これに 対 し, 原 告 は,1 公 然 実 施 発 明 1については, 消 費 者 の 満 足 度 が 高 く, 飲 み 応 えに 関 する 課 題 はなかったこと,2 飲 み 応 え 感 を 付 与 する 方 法 と してエキス 分 の 総 量 に 着 目 する 動 機 付 けがないこと,3 公 然 実 施 発 明 1は, トリプルゼロ(アルコール,カロリー 及 び 糖 質 のゼロ)を 商 品 コンセプトと し,エキス 分 が 薄 いことを 特 徴 としていたから,エキス 分 を 増 加 させること は 考 え 難 いこと,4 本 件 発 明 には 公 然 実 施 発 明 1から 予 測 できない 顕 著 な 効 果 があることを 理 由 に, 本 件 発 明 に 進 歩 性 がある 旨 主 張 するが, 以 下 のとお り,いずれも 採 用 することができない 1について, 公 然 実 施 発 明 1に 対 する 消 費 者 の 評 価 は 前 記 ア(ア)のとおり であり, 飲 み 応 えに 乏 しいとの 意 見 もあったから, 当 業 者 ( 原 告 に 限 らな い )において 公 然 実 施 発 明 1より 飲 み 応 えが 高 いノンアルコールのビール テイスト 飲 料 を 開 発 することの 動 機 付 けはあったと 考 えられる 2について,ノンアルコールのビールテイスト 飲 料 につき 飲 み 応 え 感 を 付 与 するために 各 種 のエキス 分 を 添 加 する 技 術 が 周 知 であったことは 前 記 ア (イ) 及 び(ウ)のとおりであり,これに 伴 いエキス 分 の 総 量 が 増 加 することは 当 然 に 想 定 されるということができる 3について, 公 然 実 施 発 明 1の 商 品 コンセプトは,アルコール,カロリー 及 び 糖 質 がゼロであることであり( 乙 4),エキス 分 には 糖 質 に 由 来 しない ものがあるから( 上 記 イ),エキス 分 の 総 量 を 増 加 させることが 上 記 コンセ プトの 破 壊 につながるとは 認 められない 4について,エキス 分 の 増 加 により 飲 み 応 えが 向 上 することが 周 知 であっ たことは 前 記 ア(イ) 及 び(ウ)のとおりであるから, 本 件 発 明 が 公 然 実 施 発 明 1から 予 測 し 得 る 範 囲 を 超 えた 顕 著 な 効 果 を 奏 するということはできない (3) 小 括 以 上 によれば, 本 件 発 明 は 公 然 実 施 発 明 1に 基 づいて 容 易 に 想 到 することが できたから, 本 件 特 許 は 特 許 無 効 審 判 により 無 効 にされるべきものと 認 められ る( 特 許 法 123 条 1 項 2 号 ) 2 争 点 (5)( 公 然 実 施 発 明 2(ダブルゼロ)に 基 づく 進 歩 性 欠 如 )について 事 案 に 鑑 み, 争 点 (5)についても 判 断 する 前 記 前 提 事 実 (5)のとおり,ダブルゼロは 本 件 特 許 の 優 先 日 前 に 被 告 が 販 売 を 開 始 したものであり,その 成 分 等 を 分 析 することが 格 別 困 難 であるとはうか がわれないから,ダブルゼロに 係 る 発 明 ( 公 然 実 施 発 明 2)は 日 本 国 内 におい て 公 然 実 施 をされた 発 明 に 当 たる 被 告 は,これに 基 づく 本 件 発 明 の 進 歩 性 欠 如 を 主 張 するものである (1) 本 件 発 明 と 公 然 実 施 発 明 2の 対 比 ア 本 件 発 明 は, 前 記 前 提 事 実 (2)イの 特 許 請 求 の 範 囲 の 請 求 項 1 記 載 のとお りのものである 一 方, 公 然 実 施 発 明 2は, 証 拠 ( 乙 1,9,41の3) 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば, 別 紙 2-1~5に 示 された 各 分 析 項 目 の 成 分 量 ないし 特 性 を 備 え 6
たノンアルコールのビールテイスト 飲 料 であり,エキス 分 の 総 量 は1.07 重 量 %,phの 値 は3.05, 糖 質 は0.9g/100mlであると 認 めら れる そうすると, 本 件 発 明 と 公 然 実 施 発 明 2は, 糖 質 の 含 量 につき, 本 件 発 明 が0.5g/100ml 以 下 であるのに 対 し, 公 然 実 施 発 明 2が0.9g/ 100mlである 点 で 相 違 し,その 余 の 点 で 一 致 する イ これに 対 し, 原 告 は,ダブルゼロの 多 数 の 分 析 項 目 の 中 からエキス 分 の 総 量,pH 及 び 糖 質 の 含 量 のみを 抜 き 出 して 公 然 実 施 発 明 2を 特 定 し, 相 違 点 を 認 定 することは 許 されない 旨 主 張 するが, 争 点 (4)につき 判 示 したのと 同 様 の 理 由 により,これを 採 用 することはできない (2) 相 違 点 の 容 易 想 到 性 ア 証 拠 ( 乙 10~12) 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば, 本 件 特 許 の 優 先 日 当 時, 健 康 志 向 の 高 まりを 受 けて,ノンアルコールのビールテイスト 飲 料 の 分 野 では 糖 質 ゼロ との 表 示 のある 商 品 が 消 費 者 から 支 持 されていたこと, 栄 養 表 示 基 準 ( 平 成 15 年 4 月 24 日 厚 生 労 働 省 告 示 第 176 号 )において は, 糖 質 を100ml 当 たり0.5g 未 満 とすれば 糖 質 を 含 まない 旨 の 表 示 をすることができることが 認 められる イ 上 記 事 実 関 係 によれば, 公 然 実 施 発 明 2に 接 した 当 業 者 においては, 糖 質 の 含 量 を100ml 当 たり0.5g 未 満 に 減 少 させることに 強 い 動 機 付 けが あったことが 明 らかであり,また, 糖 質 の 含 量 を 減 少 させることは 容 易 であ るということができる そうすると, 相 違 点 に 係 る 本 件 発 明 の 構 成 は 当 業 者 であれば 容 易 に 想 到 し 得 る 事 項 であると 解 すべきである なお, 飲 料 中 の 糖 質 の 含 量 を 減 少 させた 場 合 にはエキス 分 の 総 量 が 減 り, phが 変 化 すると 考 えられるが,エキス 分 には 糖 質 由 来 のものとそれ 以 外 の ものがあり( 本 件 明 細 書 の 段 落 0020, 0033 参 照 ),そのp Hにも 多 様 のものがあると 解 されることに 照 らすと, 公 然 実 施 発 明 2の 糖 質 の 含 量 を 減 少 させてこれを0.5g/100ml 以 下 としつつ, 糖 質 に 由 来 しないエキス 分 であって, 酸 性 又 は 中 性 のものを 増 加 させるなどして(な お,エキス 分 の 増 加 が 容 易 であることは 前 記 1(2)イ 参 照 ),エキス 分 の 総 量 及 びpHを 公 然 実 施 発 明 2と 同 程 度 のもの( 本 件 発 明 の 特 許 請 求 の 範 囲 記 載 の 各 数 値 範 囲 を 超 えないもの)とすることに 困 難 性 はないと 解 される ウ これに 対 し, 原 告 は,1 公 然 実 施 発 明 2は 主 成 分 を 糖 質 とする 麦 芽 エキス を 使 用 することを 特 徴 としているから, 糖 質 の 含 量 を 低 下 させることに 阻 害 要 因 があること,2 本 件 発 明 には 公 然 実 施 発 明 2から 予 測 のできない 顕 著 な 効 果 があることを 理 由 に, 本 件 発 明 に 進 歩 性 がある 旨 主 張 するが, 以 下 のと おり,いずれも 採 用 することができない 1について, 前 記 アのとおり 糖 質 ゼロ のノンアルコールのビールテイ スト 飲 料 が 消 費 者 の 支 持 を 受 けていたことに 照 らせば, 当 業 者 ( 被 告 に 限 ら ない )において 麦 芽 エキスの 使 用 量 を 減 少 させてでも 糖 質 の 含 量 を 低 下 さ 7
せようとする 動 機 があったものと 解 される 2について, 公 然 実 施 発 明 2のエキス 分 の 総 量,pH 及 び 糖 質 の 含 量 は 本 件 明 細 書 中 の 発 明 品 4とほぼ 同 じであるところ( 表 1 ), 発 明 品 4と 本 件 発 明 の 実 施 例 である 発 明 品 3( 同 )を 比 べると, 飲 み 応 えの 平 均 値 をみて も( 発 明 品 3は3.3, 発 明 品 4は4.0),pHの 調 整 による 飲 み 応 えの 変 化 をみても( 発 明 品 3は 対 照 品 3に 対 し1.0の 改 善, 発 明 品 4は 対 照 品 4に 対 し1.0の 改 善 ), 発 明 品 3の 効 果 が 顕 著 に 優 れているとは 認 められ ない (3) 小 括 以 上 によれば, 本 件 発 明 は 公 然 実 施 発 明 2に 基 づいて 容 易 に 想 到 することが できたから, 本 件 特 許 は 特 許 無 効 審 判 により 無 効 にされるべきものと 認 められ る 3 結 論 以 上 の 次 第 で, 原 告 は 被 告 に 対 して 本 件 特 許 権 を 行 使 することができないか ら( 特 許 法 104 条 の3 第 1 項 ),その 余 の 点 を 判 断 するまでもなく, 原 告 の 請 求 はいずれも 理 由 がない よって, 原 告 の 請 求 をいずれも 棄 却 することとし て, 主 文 のとおり 判 決 する 論 説 1. 本 件 特 許 権 侵 害 差 止 請 求 事 件 は 不 思 議 なことに 被 告 に 対 する 原 告 の 差 止 め 請 求 に 対 し 被 告 は 被 告 製 品 が 本 件 発 明 の 技 術 的 範 囲 に 属 することを 争 って いないのである ということは 被 告 は 自 らの 侵 害 行 為 に 対 する 原 告 の 差 止 請 求 を 認 めていることになる これに 対 し 被 告 は 原 告 の 本 件 特 許 発 明 が 特 許 無 効 審 判 により 無 効 にされる べきものであるから 原 告 による 本 件 特 許 権 の 行 使 はできない( 特 許 法 104 条 の3 第 1 項 )と 主 張 し これが 争 点 の 一 つとなっていた しかし 被 告 は 本 件 特 許 発 明 に 対 する 特 許 無 効 審 判 の 請 求 はしていず 裁 判 所 における 被 告 の 抗 弁 と してのみ 主 張 するだけである 特 許 法 104 条 の3 第 1 項 には 当 該 特 許 権 が 特 許 無 効 審 判 により 無 効 にさ れるべきものと 認 められるときは と 明 文 をもって 規 定 しているし 特 許 無 効 の 判 断 をした 旨 を 特 許 登 録 原 簿 に 登 録 する 行 為 は 特 許 庁 という 行 政 庁 が 行 う 行 為 である 以 上 侵 害 裁 判 所 が 特 許 無 効 を 判 決 中 に 宣 言 することは 違 法 性 があ るのではないかと 思 う 特 許 における 特 許 無 効 審 判 を 請 求 した 時 は その 審 決 が 出 るはでは 訴 訟 を 中 止 することができるとの 原 則 がある 以 上 司 法 裁 判 所 は 一 方 的 に 特 許 無 効 の 宣 言 を 判 決 ですべきではないのである 本 件 において 被 告 は 本 件 特 許 発 明 に 対 する 無 効 理 由 を 主 張 したとしても 特 許 庁 に 特 許 無 効 の 審 判 請 求 はしていないのに それを 想 定 するのみならず 無 効 審 決 まで 想 定 した 判 決 をしていることはおかしいと 思 う 8
このような 場 合 裁 判 所 は 被 告 に 対 し なぜ 特 許 無 効 審 判 の 請 求 を 勧 告 しない のだろうか 2. 本 件 において 裁 判 所 は 争 点 (4)(5)について 本 件 特 許 発 明 の 公 然 実 施 発 明 1に 基 づく 進 歩 性 の 欠 如 と 公 然 実 施 発 明 2に 基 づく 進 歩 性 の 欠 如 について 審 理 した 結 果 それぞれ 容 易 に 想 到 することができた 発 明 として 特 許 無 効 があると 認 定 したから 特 許 法 104 条 の3 第 1 項 によって 特 許 権 の 行 使 を 不 可 能 であ ると 判 断 したのである 3. 争 点 (4)(5)において 引 用 されている 公 知 発 明 とは 刊 行 物 公 知 の 発 明 ではな く 事 実 上 公 知 の 発 明 であるから 被 告 から 具 体 的 にどのような 証 拠 が 提 出 され たのか 筆 者 は 目 撃 していないから 全 く 不 明 であるけれども 裁 判 所 としては 提 出 された 証 拠 書 類 についてそれぞれ 目 撃 し 検 討 しているのだから 第 三 者 は 間 違 いないと 信 ずるしかないだろう 牛 木 理 一 ( 別 紙 ) 被 告 製 品 目 録 製 品 名 : Asahi DRY ZERO -ドライゼロ- 9