年 報 タイ 研 究 No.15,2015 1-20. 研 究 ノート 1 タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 と 価 値 観 バンコクの 高 等 教 育 機 関 における 面 接 調 査 結 果 をもとに Anger Coping Strategies and Values of the Thais: Interview at the Higher Education Institutions in Bangkok 堀 本 美 都 子 * HORIMOTO Mitsuko In order to build hypotheses on display rules and a coping strategy model of Thais anger, this study investigated socio-cultural factors related to anger by interviewing twenty Thais (12 men and 8 women aged 26 61 years). Using the semi-structured approach, the interviewees were asked to talk about their anger experiences in the daily life. The transcribed speech data were analyzed on the basis of the grounded theory approach. It was found that Not expressed and Discussed calmly were often used in coping with anger, suggesting that Thais have a belief that angry feeling should be suppressed to maintain interpersonal relationships. Furthermore, it is suggested that while Thais expect to change the behavior of the others by expressing their anger feelings, they also think that it is impossible to force a change in behavior of the others. It is discussed that the anger coping strategies of the Thais are based on Cai-yen and Kreng-jai values in the Thais value system. 1. 研 究 の 背 景 と 目 的 日 タイ 関 係 が 政 治 経 済 文 化 等 のあらゆる 面 で 重 視 されるなかで 日 本 人 がタイ 人 と 接 触 する 機 会 が 増 えている 日 本 人 がタイ 人 と 友 好 な 関 係 を 維 持 し よりよいコミュニケーションを 行 うため にも タイ 人 の 文 化 と 価 値 観 に 関 する 研 究 は 不 可 欠 である 異 文 化 理 解 のアプローチとして 言 語 をはじめ 非 言 語 や 価 値 観 等 さまざまな 側 面 から のアプローチが 可 能 であるが 本 研 究 は 社 会 構 築 説 の 立 場 からタイ 人 の 怒 りの 対 処 方 略 を 心 理 学 的 に 検 討 する 対 人 コミュニケーションにおいて 怒 りはおそら く 最 も 危 険 な 感 情 である[Ekman and Friesen 2003: 78] その 表 出 は 社 会 化 を 通 じて 学 習 され 社 会 環 境 によって 大 きく 変 化 すると 言 う[Potegal and Stemmler 2010: 4] 社 会 構 築 説 に 立 って 怒 りを 研 究 するということは 怒 りを 生 得 的 な 感 情 とみな さずに それを 文 化 的 な 価 値 観 に 根 ざした 社 会 的 規 範 によって 変 容 する 感 情 として 扱 うことを 意 味 する 感 情 心 理 学 においては これまで 感 情 が 生 得 的 で 普 遍 的 なものであるという 立 場 から 研 究 がな れている 一 方 感 情 を 社 会 文 化 的 に 構 築 されたも のであるとみなす 感 情 の 社 会 構 築 論 の 立 場 からも 研 究 がなされている[コーネリアス 1998] 後 者 * 神 戸 大 学 国 際 文 化 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程 - 1 -
タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 と 価 値 観 を 代 表 する 研 究 者 であるAveril [1980]は 感 情 は 個 人 とその 文 化 の 両 方 の 構 築 物 であると 定 義 づけ ている[cf.コーネリアス 1998: 199] つまり 人 間 は 文 化 が 異 なっても 同 じような 場 面 で 喜 びや 怒 りや 悲 しみを 感 じ その 感 情 を 表 す 表 情 も 文 化 普 遍 性 があるが 社 会 構 築 論 では ある 特 定 の 感 情 をいつ どこで どのように 誰 に 対 して 表 出 するか あるいは 表 出 すべきでないと 判 断 するか は その 文 化 の 社 会 的 規 範 によって 決 定 されてい る[Porter and Samovar 1998: 454]とされる 感 情 が 社 会 構 築 されるのであれば 感 情 の 表 出 方 法 に は 文 化 的 規 範 や 価 値 観 が 反 映 されると 考 えられ る これまで 感 情 の 社 会 構 築 論 の 立 場 からアメ リカ 人 の 怒 り[Averil 1982]や 日 本 人 の 怒 りにつ いての 研 究 [ 大 渕 小 倉 1984 木 野 2000]が 行 われているが タイ 人 の 怒 りについて 検 討 したも のはまだない 本 研 究 は タイ 人 の 行 動 規 範 や 価 値 観 に 関 する 先 行 研 究 [Suntaree 1990 ホームズ スチャーダー 2000]を 参 照 しながら タイ 人 の 怒 りの 対 処 方 略 と 価 値 観 に 関 する 仮 説 構 築 の 足 掛 かりとして バ ンコクの 高 等 教 育 機 関 に 在 籍 する 社 会 人 学 生 及 び 職 員 の 怒 りの 対 処 方 法 すなわち 怒 りを 感 じた 場 合 に どのように 怒 りを 表 出 するか あるいは どのように 怒 りを 制 御 するか それはなぜかにつ いて 調 べ タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 と 価 値 観 との 関 係 を 検 討 しモデル 化 しようとするものである 具 体 的 には 次 の 3 つを 問 題 にする タイ 人 は 怒 りを 感 じたとき どのような 対 処 方 法 をとるか タイ 人 の 怒 りの 対 処 方 法 は 状 況 によってどの ように 変 化 するか タイ 人 の 怒 りの 対 処 方 法 は タイ 人 の 価 値 観 と どのように 結 びついているか 2. 先 行 研 究 (1) 怒 りの 対 処 方 法 先 述 した 感 情 の 社 会 構 築 論 の 立 場 から 怒 りの 社 会 的 機 能 に 関 する 研 究 がなされている Averil [1982]は 怒 りが 特 定 の 社 会 的 個 人 的 目 標 を 達 成 するために 起 こす 意 味 ある 行 為 であると 主 張 し 怒 り 経 験 を 構 成 する 各 水 準 での 反 応 を 測 定 す る エピソード 法 と 呼 ばれる 調 査 法 を 考 案 し 米 国 の 社 会 人 や 学 生 を 対 象 に 日 常 生 活 における 怒 りの 誘 因 表 出 方 法 他 者 の 怒 り 表 出 に 対 する 反 応 等 を 調 査 した その 結 果 怒 りの 表 出 には 直 接 的 攻 撃 間 接 的 攻 撃 非 攻 撃 的 反 応 など 様 々 な 種 類 があることを 見 出 した また 怒 りには 相 手 の 間 違 いを 正 したり 人 間 関 係 を 調 節 したりする 社 会 的 機 能 があると 論 じている 大 渕 小 倉 [1984]はAveril [1982]が 考 案 した 質 問 紙 を 邦 訳 し 日 本 の 社 会 人 や 学 生 を 対 象 に 日 常 生 活 における 怒 りの 誘 因 表 出 方 法 等 について 同 様 の 方 法 で 調 べた その 結 果 日 本 人 の 怒 りの 表 出 方 法 として 非 攻 撃 的 反 応 が 最 も 実 行 率 が 高 かった 非 攻 撃 的 反 応 には 心 を 鎮 める 第 三 者 と 相 談 する 相 手 との 話 し 合 い 怒 りと 反 対 の 表 現 があるが 実 行 率 が 最 も 高 いのは 心 を 鎮 める 次 が 第 三 者 と 相 談 であった 相 手 との 話 し 合 い は 6 割 の 被 験 者 が 実 行 を 願 望 し ているにも 関 わらず 実 際 には 3 割 しか 実 行 して いなかった このことについて 大 渕 らは 相 手 との 話 し 合 い は 状 況 の 変 化 を 直 接 的 に 目 指 すか なり 積 極 的 な 行 動 だが 被 験 者 にはしばしば 実 行 が 困 難 に 感 じられたようだと 考 察 している - 2 -
タイ 研 究 No.15 2015 木 野 [2000]は 日 本 人 大 学 生 を 対 象 に 怒 りの 表 出 方 法 とその 対 人 的 影 響 について 研 究 を 行 った 怒 りの 誘 因 となる 場 面 を 提 示 し その 場 面 におい て どのように 怒 りを 表 出 表 現 するか 回 答 させ た その 結 果 日 本 人 の 怒 り 表 出 方 法 としてもっ ともよく 使 用 されるのは いつも 通 り 遠 回 し 表 情 口 調 という 抑 制 的 で 言 葉 では 怒 りを 明 示 しない 表 出 表 現 方 法 であることを 確 認 し その 理 由 について 木 野 は 日 本 の 社 会 では 和 が 強 調 され あえて 自 己 主 張 しなくても 相 手 は 真 意 を 理 解 してくれるであろうという 期 待 を 前 提 とする 察 しのよい 関 係 が 要 求 されているからではないか と 論 じている (2)タイ 人 の 価 値 観 と 怒 りの 表 出 タイ 人 の 怒 りの 表 出 に 関 する 実 証 的 な 研 究 はま だ 行 われていない そこで 本 研 究 ではタイ 人 の 価 値 観 や 行 動 規 範 に 関 する 先 行 研 究 を 踏 まえて 既 存 の 理 論 的 枠 組 みを 参 照 しながら タイ 人 の 怒 り の 対 処 方 略 のモデル 化 を 行 うことにした タイ 人 の 社 会 的 行 動 についての 研 究 は 西 洋 の 文 化 人 類 学 者 によって 始 められた Embree [1950] は タイ 人 の 社 会 構 造 は 日 本 中 国 ベトナム とは 対 照 的 に 社 会 における 個 人 行 動 の 多 様 性 が 容 認 された ゆるい 構 造 をもつ 社 会 であると 論 じた その 後 コーネル 大 学 のSharpら [1953]に よりバーンチャン 村 の 研 究 プロジェクトが 本 格 的 に 行 われ Embreeの 提 唱 したタイ 社 会 の ゆるい 構 造 説 が 裏 付 けられた それ 以 降 それがタイ 人 の 社 会 行 動 を 説 明 する 上 での 主 流 の 解 釈 となっ た その 後 Phillips[1965]は ゆるい 構 造 説 を 発 展 させ 利 己 的 で 自 由 を 求 める 個 人 主 義 的 な 人 格 が タ イ 人 の 特 徴 で あ る と し た[cf. Suntaree 1990: 2-7] 以 上 の 西 洋 人 研 究 者 によるタイ 人 研 究 は 個 人 的 観 察 に 基 づくものであり 実 証 的 であるとは 言 え ないと 考 えたタイ 人 社 会 心 理 学 者 Suntaree [1990] は タイ 人 の 価 値 観 に 関 する 大 規 模 な 調 査 研 究 を 行 っている その 調 査 では Rokeach [1973]の 価 値 概 説 に 基 づいて 最 終 価 値 20 項 目 と 手 段 価 値 23 項 目 からなるタイ 人 の 価 値 尺 度 を 作 成 し 2469 名 (15~70 歳 )を 対 象 に 質 問 紙 調 査 を 行 った 調 査 対 象 者 はタイ 全 国 の 農 業 従 事 者 商 業 従 事 者 学 生 公 務 員 など 様 々な 職 業 及 び 階 層 のタイ 人 を 含 んでいた 調 査 では 最 終 価 値 20 項 目 と 手 段 価 値 23 項 目 を 提 示 し 重 要 度 が 高 いと 思 われる 順 に 並 べ 替 えさせた その 結 果 タイ 人 の 国 民 性 を 表 すと 考 えられる9つの 価 値 群 が 抽 出 さ れ その 中 で 特 に 重 要 な 上 位 3つの 価 値 観 はエゴ 志 向 報 恩 的 関 係 志 向 円 滑 な 人 間 関 係 志 向 で あった Suntaree [1990: 159]はその 結 果 を 踏 まえ タイ 人 の 特 徴 について 次 のように 述 べている タイ 人 は 何 よりもエゴ 志 向 であり エゴ 1 ) の 最 高 の 価 値 である 独 立 した 自 己 (Independent-being oneself: Pen tua khong tua eng) や 非 常 に 高 い 自 尊 心 (Self Esteem) 等 がタイ 人 の 特 徴 である つまり タイ 人 のエゴは 独 立 自 尊 心 尊 厳 を 意 味 し Hofstede [1984]のいうような 西 洋 的 個 人 主 義 と は 別 物 である また タイ 人 はエゴが 非 常 に 強 い ため 不 必 要 な 衝 突 を 避 けてお 互 いのエゴを 守 る ための 回 避 メカニズム が 必 然 的 に 生 まれ そ の 回 避 メカニズム を 担 保 するのが 円 滑 な 人 間 関 係 志 向 に 他 ならない タイ 人 は 社 会 的 場 面 においてネガティブな 感 情 の 表 出 を 抑 制 し 円 滑 で 楽 しく 礼 儀 正 しい 相 互 作 用 によって 他 人 のエゴ - 3 -
タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 と 価 値 観 を 傷 つけないよう 配 慮 している ホームズとスチャーダー[2000: 79-104]は 西 洋 人 と 異 なるタイ 人 の 文 化 的 行 動 様 式 につい て 相 互 依 存 にもとづく 強 固 なヨコの 人 間 関 係 の 維 持 と 社 会 的 身 分 格 差 を 受 け 入 れ 忠 誠 と 見 返 りを 望 むタテの 関 係 がタイの 社 会 の 土 台 をなすと 論 じ ている また タイの 社 会 を 家 族 の 世 界 気 配 り の 世 界 自 分 本 位 の 世 界 の 3 つに 区 分 し 特 に 気 配 りの 世 界 では 様 々なタイ 的 価 値 観 が 重 視 される と 説 明 している 彼 らはこのタイ 的 価 値 観 の 一 つ として 自 己 抑 制 (サムルワム)を 挙 げている 自 己 抑 制 とは タイ 人 が 仏 教 文 化 に 大 きく 影 響 され た 家 庭 環 境 の 中 で 自 分 を 抑 えて 平 静 さを 保 ち 怒 りを 始 めとする 様 々な 感 情 を 露 骨 に 外 に 表 すこ とを 避 けるように 教 えられることによって 身 につ ける 価 値 観 であるという 3. 研 究 方 法 タイ 人 の 怒 りの 対 処 方 略 のモデル 化 にあたって は 質 的 研 究 を 行 った 質 的 研 究 法 は 特 定 の 観 察 によって 得 られたデータに 存 在 するパターンを 発 見 し 理 論 化 する 帰 納 的 推 論 に 適 した 研 究 方 法 であ る[Baxter and Babbie 2004] 面 接 調 査 によって 得 られた 発 話 データを 録 音 し その 発 話 データをタ イ 語 テキストにしたものを 質 的 分 析 方 法 によって 分 析 した (1) 対 象 者 バンコク 在 住 のタイ 人 20 名 ( 男 性 12 名 女 性 8 名 )が 対 象 者 となった バンコクにある2つの 大 学 において 勤 務 経 験 が2 年 以 上 あるタイ 人 を 条 件 とし 社 会 人 学 生 や 職 員 を 対 象 に 研 究 協 力 者 を 募 集 した 対 象 とした 大 学 の 一 つは 社 会 人 を 対 象 とした 修 士 課 程 がある 在 籍 する 学 生 は 年 齢 職 業 に 多 様 性 があり より 多 様 な 怒 りの 経 験 に 関 するデータが 収 集 できるため 本 大 学 での 実 施 を 決 めた また 一 カ 所 だけでは 目 標 とする 協 力 者 の 数 が 集 まらなかったため 面 接 者 が 在 籍 するも う 一 つの 大 学 の 職 員 にも 協 力 を 依 頼 した 対 象 者 の 年 齢 は26 歳 から61 歳 で 平 均 年 齢 は36.3 歳 (SD = 6.0)であった 但 し タイは 階 層 社 会 であり バンコクと 地 方 学 歴 や 職 業 などによって 人 々の 価 値 観 に 多 様 性 が あると 考 えられるが 本 研 究 の 対 象 者 はバンコク の 大 学 関 係 者 のみであり タイ 人 全 体 を 指 すもの ではない (2) 面 接 方 法 面 接 は2013 年 6 月 から 7 月 にかけて 実 施 した 面 接 場 所 は 対 象 者 が 所 属 する 大 学 の 構 内 であっ た 面 接 はタイ 人 の 面 接 者 によってタイ 語 で 実 施 した 面 接 は 1 対 1 の 対 面 式 で 行 い 所 要 時 間 は 1 人 約 30 分 とした 面 接 を 始 める 前 に 対 象 者 に 研 究 目 的 を 記 載 し た 同 意 書 を 提 示 し 研 究 の 目 的 意 義 面 接 方 法 記 録 内 容 の 取 扱 いについて 説 明 を 行 い 同 意 を 得 た 上 で 面 接 を 行 った 面 接 は 半 構 造 化 手 法 によって 行 った 半 構 造 化 面 接 とは あらかじめ 面 接 でふれる 必 要 のある 質 問 についての 指 針 が 用 意 されている 場 合 など 面 接 者 にある 程 度 の 質 問 内 容 決 定 の 裁 量 が 認 められ ている 手 法 である[ 渡 辺 山 内 2002] 面 接 者 には あらかじめ 研 究 の 目 的 面 接 の 方 法 面 接 の 手 順 質 問 例 と 質 問 の 要 点 について 説 明 を 行 い 1 怒 りに 対 する 本 人 の 意 識 を 自 由 に 話 - 4 -
タイ 研 究 No.15 2015 してほしい 2 面 接 の 対 象 者 がリラックスして 話 せるような 雰 囲 気 で 質 問 する 3 質 問 の 内 容 や 言 い 回 しは 面 接 者 の 判 断 で 変 更 してもよいと 説 明 し た 質 問 例 は あなたは 怒 りやすいタイプです か どういう 原 因 で 怒 ることがありますか どういう 場 面 で 怒 ることがありますか 最 近 どういう 場 面 で 怒 りましたか ( 状 況 原 因 対 人 関 係 怒 り 方 など 詳 しく) なぜそういう 対 応 をしたのですか 相 手 や 原 因 が 変 わったら 同 じ ように 怒 りますか 怒 ってないのに 怒 った 顔 を したり 怒 っているのに 表 出 しなかったりすること がありますか あるとすればどのような 場 合 です か などである 質 問 の 要 点 は 怒 りを 感 じた 相 手 との 関 係 によ る 怒 りの 対 処 方 法 の 違 い ( 両 親 上 司 親 友 同 僚 店 の 従 業 員 知 らない 人 外 国 人 など) 怒 りの 誘 因 による 怒 りの 違 い ( 行 動 の 妨 害 侮 辱 期 待 や 希 望 の 侵 害 非 道 徳 的 行 為 所 有 物 の 侵 害 相 手 による 暴 力 など) 怒 り 対 処 方 法 の 種 類 ( 表 情 口 調 遠 回 し 嫌 味 皮 肉 冷 静 に 注 意 する 感 情 的 に 非 難 する 無 視 無 表 出 な ど) とした 怒 りの 定 義 については マイポー チャイ( 不 満 ) チュン(むっとする) など 強 度 の 低 い 怒 りから 激 しい 怒 りまですべて 怒 りに 含 めてよいと 説 明 した 面 接 に 先 立 ち 2 名 のタイ 人 女 性 を 対 象 に 実 際 の 面 接 と 同 様 の 手 順 で 予 備 面 接 を 行 い 面 接 手 順 や 質 問 内 容 が 適 切 かどうかの 確 認 を 行 った その 結 果 1 面 接 対 象 者 が 日 常 生 活 で 怒 りを 経 験 した ことがなく 面 接 が 予 定 通 り 進 まない 場 合 には 対 象 者 が 怒 りを 感 じるような 状 況 の 例 を 与 えて 質 問 する 2 相 手 から 怒 りを 表 出 された 場 合 につい て 質 問 するなど 質 問 内 容 を 改 善 した 実 際 の 面 接 では 公 共 の 場 で 怒 りを 感 じやすい 状 況 として 買 い 物 に 行 って 会 計 の 列 に 並 んでいるとき 誰 か に 割 り 込 まれた 運 転 中 に 急 に 割 り 込 まれた 外 国 人 あるいはタイ 人 がお 寺 で 仏 像 と 肩 を 組 んで 写 真 をとっていた というような 状 況 を 面 接 者 が 口 頭 で 例 示 して どう 感 じるか どのような 行 動 をとるかを 回 答 させた 場 合 もある (3)データの 分 析 方 法 面 接 はすべてタイ 語 で 行 われ 面 接 中 の 発 話 を ICレコーダーで 録 音 した 面 接 終 了 後 タイ 人 の 協 力 者 に 依 頼 し 録 音 した 発 話 内 容 をタイ 語 でテ キスト 化 した その 後 筆 者 自 身 がすべてのタイ 語 テキストを 日 本 語 に 訳 し 発 話 内 容 を 十 分 に 理 解 した 上 で 筆 者 がタイ 語 のテキストを 直 接 分 析 した データの 分 析 は 冴 木 [2008]とシャーマズ [2008]を 参 照 しながら グラウンデッド セオ リー アプローチに 準 じた 質 的 分 析 手 法 により 分 析 した 分 析 手 順 については 面 接 では 一 人 の 対 象 者 に 様 々な 状 況 における 複 数 の 怒 りの 場 面 を 質 問 した ため シャーマズ[2008: 62]の 出 来 事 ごとのコー ド 化 を 参 照 しながら テキストデータの 中 から 怒 りを 経 験 した 場 面 を 抽 出 しコーディングした 次 に 冴 木 [2008: 35-100]を 参 照 しながらオー プン コーディングを 行 った オープン コー ディングでは 各 場 面 の 発 話 内 容 を 切 片 化 し 切 片 化 したデータにラベルを 付 した この 時 点 ではラ ベルは 抽 象 化 せず データの 意 味 や 内 容 に 則 した ものとした 冴 木 [2008]によればグラウンデッ ド セオリー アプローチは 各 切 片 データのプロ パティとディメンションを 抽 出 するプロセスを 伴 - 5 -
タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 と 価 値 観 うが 本 研 究 ではこのプロセスを 省 略 した 次 に その 場 面 の 類 似 した 複 数 のラベルをまとめてカテ ゴリー 化 し 筆 者 が 日 本 語 でカテゴリー 名 をつけ た その 後 怒 りを 感 じた 状 況 のプロセスを 示 す ために 各 カテゴリーを 状 況 行 為 / 相 互 行 為 帰 結 の3つに 分 類 した 上 記 の 分 析 手 順 を 1 名 の 対 象 者 のすべての 場 面 について 行 った 後 各 場 面 のカテゴリーを 比 較 し て 類 似 するものを 統 合 し 上 位 カテゴリーとして 名 前 をつけた この 作 業 によりカテゴリーとサブ カテゴリーを 作 りあげた 次 に 別 の 対 象 者 1 名 を 選 び そのデータを 同 様 の 手 続 きで 分 析 し また 別 の 1 名 について 分 析 するという 形 式 で 最 終 的 に20 名 分 のデータを 分 析 した 最 後 に すべての 対 象 者 のカテゴリーを 統 合 した その 結 果 怒 りの 対 処 方 法 怒 りを 感 じた 相 手 の 立 場 対 処 方 法 選 択 の 理 由 怒 りを 感 じた 相 手 との 人 間 関 係 対 処 後 の 帰 結 対 処 方 法 に 対 する 評 価 の 6 つのカテゴリーに 統 合 された 怒 りの 対 処 方 法 は 怒 りの 表 出 強 度 を 目 安 に 分 類 したところ 無 表 出 表 情 口 調 嫌 味 冷 静 に 話 す 2 ) 文 句 を 言 う 注 意 す る 叱 る 感 情 的 に 話 す 暴 力 の 9 つの サブカテゴリーに 分 類 された さらに それらを 表 出 強 度 により 無 弱 中 強 の 4 段 階 に 分 類 した 怒 りを 感 じた 相 手 の 立 場 のサブカテゴリー は 目 上 同 等 目 下 知 らない 人 の 4 つになった 最 後 に 怒 りを 感 じた 相 手 の 立 場 と 怒 りの 対 処 方 法 のサブカテゴリーを 整 理 し 相 手 の 立 場 によってどのような 対 処 方 法 を とることが 多 いかを 分 析 した 4. 結 果 と 考 察 (1) 怒 りの 対 処 方 法 データの 分 析 では 対 象 者 の 発 話 データの 中 か ら 怒 りを 経 験 した 場 面 を 抽 出 し 怒 りを 感 じた 場 合 の 対 処 方 法 を 数 量 的 にまとめ 全 体 的 な 傾 向 を 分 析 した 20 名 の 対 象 者 の 発 話 データを 整 理 し たところ 115の 怒 り 経 験 場 面 があった 怒 りの 対 処 方 法 は 表 出 強 度 の 弱 い 順 に 無 表 出 表 情 口 調 嫌 味 冷 静 に 話 す 文 句 を 言 う 注 意 する 叱 る 感 情 的 に 話 す 暴 力 の 9 つのサブカテゴリーに 分 類 された 9 つ の 対 処 方 法 を 以 下 に 説 明 する 無 表 出 怒 りを 感 じていても 人 間 関 係 の 悪 化 相 手 と の 対 立 やもめごと 期 待 する 利 益 が 得 られなくな ることを 恐 れ 黙 って 何 も 言 わない 表 情 は 無 表 情 になる 場 合 が 多 いが 場 合 によっては 笑 顔 すら 浮 かべ 相 手 に 自 分 の 怒 りを 悟 られないようにす る しかし 普 段 からよく 話 をし 笑 顔 を 絶 やさ ない 人 柄 であれば 無 表 情 でいることで 何 かいつ もと 様 子 が 違 うと 気 づくだろう 相 手 の 前 で 怒 り を 表 すことがなくても しばらく 相 手 との 距 離 を おいて 話 をしない 無 視 する 第 三 者 に 話 して うっぷん 晴 らしをするなどの 二 次 的 な 行 動 が 伴 う 相 手 に 対 して 怒 りを 表 出 しないことで 怒 りの 誘 因 が 解 決 することはないので 自 分 一 人 で 状 況 に 対 応 する あるいは 不 満 を 感 じながら 相 手 の 言 う 通 りにする 怒 りの 感 情 そのものを 抑 制 するた めに 物 事 をプラスに 考 えるといった 回 答 は 少 な かった - 6 -
タイ 研 究 No.15 2015 非 言 語 嫌 味 相 手 に 怒 っていることを 伝 えたいが 問 題 を 起 こしたくないといった 場 合 に まなざしで 相 手 を 非 難 する わざと 本 人 に 聞 こえるように 第 三 者 に 話 す ぶっきらぼうな 口 調 で 話 す 嫌 味 やあてこ すりを 言 うなどの 回 答 があった たり 独 り 言 を 言 ったり 第 三 者 に 文 句 を 言 って きかせるが 問 題 を 解 決 したり 相 手 の 行 動 をや めさせることができない あるいは 行 動 をやめさ せるという 意 思 はない 場 合 が 多 い 口 調 は 少 し 感 情 的 であるが 相 手 を 怒 鳴 ったり 罵 ったりする ほどではない 冷 静 に 話 す 怒 りの 誘 因 となった 出 来 事 について 相 手 から の 説 明 を 求 めたり 理 論 的 に 自 分 の 考 えを 説 明 し たりする 感 情 は 抑 制 しているが 相 手 になぜそ うしたのか 理 由 を 聞 くことによって 自 分 が 相 手 の 言 動 に 不 満 を 感 じていることが 伝 わると 考 えて いる 冷 静 に 話 し 合 うことで 怒 りの 感 情 を 適 切 なレベルで 相 手 に 表 出 し お 互 いの 正 当 性 を 確 認 し 怒 りの 誘 因 となった 状 況 が 改 善 されると 考 え ている 注 意 する 相 手 がしている 行 動 を 制 し 正 しいと 思 われる 行 動 をとるように 促 す 買 い 物 の 際 に 会 計 の 列 に 横 入 りされた 時 は 列 があることを 示 し やや 間 接 的 に 列 に 並 ぶように 促 す 運 転 中 であれば ク ラクションを 鳴 らす お 寺 での 不 適 切 な 行 為 を 見 た 場 合 外 国 人 の 場 合 であれば 仏 教 の 文 化 につ いて 説 明 をし 不 適 切 だということを 理 解 しても らうが タイ 人 の 場 合 であれば ただやめるよう に 言 う 文 句 を 言 う 冷 静 に 話 す や 注 意 する とは 違 い 自 分 が 不 満 であることのみを 相 手 に 伝 達 する 場 合 であ る ただ 怒 っているということを 直 接 相 手 に 伝 え 叱 る 相 手 の 行 動 が 期 待 通 りでない 場 合 に 大 きな 声 を 出 したり 相 手 の 顔 を 指 さしたりしながら その 行 動 を 止 めるように 言 う 大 きな 声 を 出 すことで 自 分 の 言 うことを 聞 くようにする 相 手 が 子 供 や 学 生 などで 自 分 が 指 導 的 な 立 場 にある 場 合 に 叱 るという 方 法 をとる 場 合 が 多 い 感 情 的 に 話 す 大 きな 声 を 出 して 感 情 的 に 相 手 を 怒 鳴 ったり 罵 ったりする 相 手 も 感 情 的 になって 言 い 返 し 激 しい 口 論 となる また サッカーの 競 技 中 には 普 段 よりもきつい 口 調 で 相 手 に 警 告 をする 場 合 が ある いずれの 場 合 でも 本 来 は 感 情 的 な 表 出 は すべきでないと 考 えているが 怒 りの 感 情 の 高 ま りが 抑 制 できない 場 合 や 外 資 系 企 業 の 職 場 など タイの 社 会 文 化 が 適 用 されない 状 況 や 当 事 者 の 性 格 などによってこうした 対 処 方 法 をとる 場 合 も ある 暴 力 暴 れて 物 を 投 げつける 殴 る 小 さな 子 どもが 何 か 悪 いことをした 場 合 に まだ 話 して 聞 かせて も 理 解 できないので 体 罰 として 殴 る また 買 い 物 先 で 金 銭 トラブルがあった 場 合 に 自 分 が 店 の 主 人 に 騙 されたことを 周 囲 の 買 い 物 客 にアピール - 7 -
タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 と 価 値 観 するために 暴 れて 物 を 投 げつける あった 相 手 の 国 籍 は タイ 人 以 外 に 日 本 人 ド イツ 人 アメリカ 人 などもあった 最 も 多 いのは 無 表 出 と 冷 静 に 話 す であ りそれぞれ27 場 面 である 次 に 多 いのは 注 意 す る で24 場 面 である これら3つの 対 処 方 法 は 全 場 面 の 約 3 分 の2を 占 めており タイ 人 の 怒 りの 対 処 方 法 の 代 表 的 なものであると 考 えられる 各 対 処 方 法 は 研 究 者 が 怒 りの 表 出 強 度 別 に 無 ~ 強 の 4 段 階 に 分 類 した 怒 りの 表 出 強 度 相 手 の 立 場 別 対 処 方 法 と 場 面 数 は 表 の 通 りで ある 表 に 示 すように 115 場 面 の 中 では 無 ~ 中 の 強 度 のものが 多 い これは タイ 人 が 怒 りの 場 面 で 怒 りをあまり 強 く 表 出 しないことを 示 唆 していると 考 えられる 上 記 の 考 察 結 果 を 図 式 化 したものを 図 の 怒 りの 対 処 方 法 に 示 す 各 場 面 で 怒 りを 感 じた 相 手 の 立 場 を 目 上 ( 両 親 上 司 兄 姉 先 輩 ) 対 等 ( 配 偶 者 同 僚 同 級 生 ) 目 下 ( 弟 妹 部 下 後 輩 ) 知 らない 人 ( 顧 客 サービス 提 供 者 見 知 らぬ 人 )の4つに 分 類 し 相 手 の 立 場 別 に 使 用 された 対 処 方 法 をまと めた( 表 参 照 ) 相 手 が 目 上 の 場 合 冷 静 に 話 す が29 場 面 中 12 場 面 と 最 も 多 く 次 に 多 かったの が 無 表 出 で 9 場 面 であった 相 手 が 対 等 の 場 合 は 21 場 面 中 無 表 出 が 9 場 面 であり 最 も 多 かった 目 下 については 総 場 面 数 が16 場 面 と 比 較 的 少 なかったが 冷 静 に 話 す と 叱 る がそれぞれ 4 場 面 ずつであり 最 も 多 かった 相 手 が 知 らない 人 の 場 合 は 49 場 面 中 注 意 す る が22 場 面 であり 最 も 多 かった (2) 怒 りを 感 じた 相 手 との 人 間 関 係 怒 りを 感 じた 相 手 の 立 場 は 両 親 兄 弟 親 戚 配 偶 者 恋 人 職 場 の 上 司 先 輩 同 僚 後 輩 部 下 大 学 の 同 級 生 顧 客 タクシー 運 転 手 や 店 の 店 員 などのサービス 提 供 者 見 知 らぬ 人 などが 最 も 多 用 されていた 上 位 3 つの 対 処 方 法 につい て 検 討 したところ 無 表 出 は 目 下 が 対 象 の 場 合 は 1 場 面 しかなく 目 下 以 外 のすべての 立 場 で 多 用 されていた 冷 静 に 話 す はすべての 立 場 の 人 間 関 係 で 使 用 されていた 注 意 する は 特 表 怒 りの 表 出 強 度 相 手 の 立 場 別 対 処 方 法 と 場 面 数 対 処 方 法 怒 りの 表 出 強 度 相 手 の 立 場 目 上 対 等 目 下 知 らない 人 場 面 数 (%) 無 表 出 無 9 9 1 8 27 23.5% 非 言 語 嫌 味 弱 3 0 1 4 8 7.0% 冷 静 に 話 す 中 12 3 4 8 27 23.5% 注 意 する 中 0 1 1 22 24 20.9% 文 句 を 言 う 中 3 2 2 3 10 8.7% 叱 る 強 0 1 4 0 5 4.3% 感 情 的 に 話 す 強 2 5 2 3 12 10.4% 暴 力 強 0 0 1 1 2 1.7% 計 29 21 16 49 115 100.0% 出 典 ) 調 査 結 果 により 筆 者 作 成 - 8 -
タイ 研 究 No.15 2015 に 相 手 が 見 知 らぬ 人 の 場 合 に 多 く 用 いられてい た 相 手 の 立 場 がどのような 場 合 でも 冷 静 に 話 す という 対 処 方 法 が 最 も 使 用 されやすいことが 示 唆 される 目 下 の 場 合 無 表 出 が 1 場 面 し かなく 叱 る が 多 用 されていることから 相 手 が 目 下 の 場 合 には 目 上 の 場 合 より 怒 りの 表 出 強 度 が 強 くなると 考 えられる 本 研 究 で 行 った 面 接 では 勤 務 経 験 が 2 年 以 上 あ る 社 会 人 を 対 象 者 としたため 上 下 関 係 について は 両 親 兄 弟 などの 家 庭 内 での 状 況 と 上 司 同 僚 部 下 などの 職 場 での 状 況 での 怒 りの 経 験 を 話 す 者 が 多 かったと 考 えられる 発 話 内 容 から タ イの 家 庭 内 では 子 どもの 頃 は 両 親 に 対 して 自 分 の 意 見 を 述 べたり 逆 らったりすることは 許 されてい ないが 大 人 になるにつれて 両 親 に 対 して 自 分 の 考 えを 冷 静 に 述 べることが 許 されるようになるこ とが 示 唆 された 職 場 においては 特 に 業 務 に 関 することについ ては 上 司 と 意 見 が 対 立 して 怒 りを 感 じた 場 合 で も 冷 静 に 話 して 問 題 を 解 決 しようとする 傾 向 がみ られた 本 研 究 の 結 果 から タイ 人 は 職 場 におけ る 上 下 格 差 を 容 認 する 意 識 が 強 いものの 目 上 の 場 合 であっても 無 表 出 より 冷 静 に 話 す と いう 対 処 方 法 をとる 場 面 が 多 かったのは 目 上 の 人 に 対 して 自 分 の 考 え 方 や 権 利 を 相 手 に 伝 えよ うとする 態 度 の 現 れからではないかと 推 察 され る 3 ) しかし 家 庭 内 の 上 下 関 係 は 職 場 の 上 下 関 係 と は 異 なり 前 者 は 血 縁 に 裏 付 けられたものであり その 人 間 関 係 はゆるぎない 家 庭 内 の 人 間 関 係 は 破 壊 されることはないという 前 提 があるのに 対 し 職 場 での 上 下 関 係 は 絶 対 ではないとタイ 人 が 考 えている 点 は 注 意 すべきであろう バンコクの タイ 人 は 転 職 率 の 高 さにも 見 られるように 家 族 以 外 の 集 団 への 帰 属 意 識 が 低 いのではないかと 考 えられる 職 場 での 上 下 関 係 は むしろ 利 害 関 係 を 基 本 としており 上 司 との 人 間 関 係 の 悪 化 は 個 人 的 な 利 益 の 喪 失 につながる 可 能 性 があるた め ことさらに 人 間 関 係 の 維 持 が 重 視 されるとと もに 利 益 の 喪 失 を 防 ぐために 自 己 の 権 利 の 主 張 がなされるのではないかと 考 察 される タイ 人 の 人 間 関 係 を 論 ずる 際 には 同 じ 上 下 関 係 であって も 家 庭 内 の 人 間 関 係 か 職 場 など 家 庭 外 の 人 間 関 係 かによって 区 別 をして 検 討 する 必 要 があるだ ろう 注 意 する という 対 処 方 法 は 知 らない 人 に 対 して 怒 りを 感 じた 場 合 に 最 も 多 く 使 用 されて いたが 相 手 が 知 人 である 場 合 には ほとんど 使 用 されていない 冷 静 に 話 す は 自 分 の 意 思 を 伝 えつつも 相 手 の 意 思 を 聞 こうとする 対 処 方 法 であるのに 対 し 注 意 する は 相 手 の 意 思 を 聞 かずに 自 分 の 意 思 を 一 方 的 に 伝 える 対 処 方 法 である 知 らない 人 との 関 係 は 公 共 の 場 で 出 会 ったその 場 限 りの 関 係 であり 人 間 関 係 の 維 持 について 配 慮 する 必 要 がないため 無 意 識 に 相 手 の 意 思 を 尊 重 する 必 要 はないと 判 断 しているのか もしれない ホームズ スチャーダー[2000: 83-84]は タ イ 人 には 家 族 の 世 界 気 配 りの 世 界 自 分 本 位 の 世 界 の 3 つ 社 会 的 世 界 があるとし 職 場 などオフィシャルに 付 き 合 う 人 々からなる 気 配 りの 世 界 では 相 互 に 適 切 なマナーに 基 づく 行 動 様 式 が 期 待 されるが 公 共 の 場 である 自 分 本 位 の 世 界 では お 互 いに 見 知 らぬ 者 通 しであり 気 配 りをもった 対 応 は 期 待 できないと 述 べてい る 本 研 究 の 結 果 から 外 集 団 である 知 らない - 9 -
タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 と 価 値 観 人 に 対 して 注 意 する という 対 処 方 法 が 最 も 多 用 されていたのに 対 し 内 集 団 である 既 知 の 人 に 対 しては 注 意 する がほとんど 使 用 されず 無 表 出 や 冷 静 に 話 す といった 対 処 方 法 が 多 用 されることが 示 唆 されたが ここからタイ 人 が 自 分 本 位 の 世 界 で 怒 りを 表 出 する 際 相 手 に 対 する 気 配 りをしていないことがうかがえる (3) 怒 り 表 出 における 前 提 と 目 的 怒 りを 表 出 した 場 面 を 分 析 した 結 果 相 手 がど のような 立 場 であれ タイ 人 は 無 表 出 や 冷 静 に 話 す など 表 出 強 度 の 低 い 対 処 方 法 を 多 用 する 傾 向 があることが 示 唆 された なぜ 表 出 強 度 の 低 い 対 処 方 法 が 多 用 されるのかについて 検 討 す るため 対 処 方 法 に 対 する 評 価 のカテゴリー を 中 心 に 分 析 した その 結 果 黙 っているのが 一 番 よい タイ 社 会 では 感 情 表 出 を 弱 くしなければならない 怒 りを 出 しすぎることは 相 手 に 失 礼 にあたる など 怒 りの 表 出 を 抑 制 することがタイの 社 会 的 規 範 と 考 えられていることが 見 出 された 以 下 は 30 代 女 性 の 発 話 の 一 部 である 自 分 はストレート な 性 格 であるといいながら そのことを 肯 定 的 に はとらえていない 怒 りを 表 出 しすぎることは 礼 儀 に 背 くことであり 怒 りの 表 出 には 適 切 なレ ベルがあるという 怒 り 表 出 に 対 する 暗 黙 の 前 提 が 示 されている ค อเป นคนท ตรงไปตรงมามาก ม นอาจจะเป นส วนหน งท ทำให เราก แสดงความโกรธโดยท ไม ร ส กว าม นผ ด เราร ส กว าทางน น เค าต องร ว า ส งท เค าทำม นไม ถ กต องค อแต ม นต องอย ในระด บท ม นโอเคนะคะ ถ าม นโกรธมากเก นไป เราจะด กร าวร าว ด ไม ส ภาพ ค อเราร ส กว าการ แสดงความโกรธม นทำได แต ต องทำอย ในระด บท เค าเร ยกว าอะไรอ ะค ะ... ท ท ม นยอมร บได อ ะค ะ ( 訳 ) 私 はとてもストレートな 性 格 なんです だから 怒 りを 表 出 することが 間 違 っていると は 思 わないで 表 出 してしまうかもしれませ ん だってそう 感 じるんだもの 相 手 に 自 分 が 間 違 ったことをしたということを 知 らせる べきです でも 適 切 なレベルというものがあ ります もし 怒 り 過 ぎたら 攻 撃 的 に 見 えて しまいます 礼 儀 正 しく 見 えません 怒 りは 表 出 してもいいけど その 程 度 はいわゆる 何 というか 受 け 入 れられるレベルのもので なければならないのです 西 洋 人 がいる 職 場 で 働 いた 経 験 がある30 代 女 性 は 西 洋 人 とタイ 人 の 怒 り 表 出 の 異 文 化 について 西 洋 人 はダイレクトに 意 見 を 主 張 したり 怒 りを 表 出 することができるが タイ 人 には 西 洋 的 な 態 度 は 受 け 入 れられないと 話 している คนไทยย งไม เป ดใจกว างนะ ถ าพ ดตรงๆ ไอคนท บอกว า พ ดมาได เลย เป ดใจยอมร บ แต เอา เข าจร งๆอ ะ ไม ร บเลย ร บได แต ว นร งข นอ ะ ทำเหม อนคนไม ร จ กก น แค ถ าเป นต างประเทศเน ย ม นร อย แล วอ ะว าม น พ ดตรงได ( 訳 )タイ 人 ははっきり 言 ってまだそんなに オープンじゃないんですよ なんでも 言 って いいよ 聞 くからって 言 う 人 たちだって 本 当 は 受 け 入 れてはくれない 翌 日 になると まるで 知 らない 人 みたいな 態 度 になるんで す でも 外 国 人 は ダイレクトに 言 っても 大 丈 夫 だって 分 かってるから なぜ 怒 りを 抑 制 しなければならないかについ て 対 処 方 法 の 選 択 理 由 と 対 処 方 法 に 対 する 評 価 - 10 -
タイ 研 究 No.15 2015 をさらに 分 析 すると 無 表 出 を 選 択 した 回 答 者 は 相 手 との 衝 突 を 避 けたい 目 上 の 人 に 対 し ては 何 もできない 問 題 を 起 こしたくない 怒 り を 出 してはいけない 相 手 から 悪 い 印 象 をもたれ たくないなどの 理 由 により 相 手 に 対 して 怒 りを 出 さないという 選 択 をしていたことがわかる 冷 静 に 話 す を 選 択 した 回 答 者 は 相 手 に 自 分 の 権 利 を 主 張 しなければならない 自 分 が 不 満 である ことを 知 らせたい 黙 っていても 気 分 がよくない 問 題 の 理 由 を 知 り 解 決 したいという 理 由 から 感 情 を 抑 制 しながらも 自 分 の 不 満 を 相 手 に 伝 え 理 論 的 に 話 しあうことを 選 択 していた 無 表 出 冷 静 に 話 す のどちらを 選 択 した 場 合 も その 理 由 について 親 しい 人 や 家 族 とは 人 間 関 係 を 維 持 しなければならない 今 後 も 一 緒 に 働 かなければならない 感 情 的 に 怒 りを 表 示 する と 人 間 関 係 が 悪 化 するなど 多 くの 対 象 者 が 人 間 関 係 を 維 持 したいから と 回 答 している 無 表 出 を 選 択 した40 代 男 性 はその 理 由 を 次 のよう に 説 明 している ทำเป นว าไม โกรธ ค อหน งให ม นจบ ก ค อไม อยากเซ าซ และสองก ร กษาส มพ นธภาพ ค อถ าเราไปต อเถ ยงก บเค า เค าก จะไม พอใจเรามากข น ทำให เค ามองเราในแง ลบมากข น แล วก จะทำให เค าค ดว า ย งไงอ ะ...ค อเค าเห นเราก จะมองในแง ลบตลอด แต ถ าเราน งซะ แล วก เราไม ยอมร บ แต ก ค อเราเฉยๆ ก จะทำให เร องจบไป ด กว าเราจะไปกระต นเค าแล วทำให เค าเก ดความ จำอ ะ ( 訳 ) 怒 ってないふりをしたのは 一 つは 問 題 を 終 わらせたかった うるさく 言 いたくな かったんです 二 つ 目 は 人 間 関 係 の 維 持 で す もし 相 手 と 言 い 争 ったら ますます 相 手 は 私 に 対 して 不 満 に 思 うでしょう そして ずっと 相 手 からネガティブに 見 られるでしょ う でももし 黙 っていたら つまり こっ ちも 相 手 の 言 うことを 聞 き 入 れてはいないけ ど 黙 って 知 らん 顔 してたら 問 題 も 終 わる でしょう 相 手 を 刺 激 するようなことをして 相 手 の 記 憶 に 残 るよりもいいです この 男 性 は 問 題 を 解 決 するために 一 時 的 に 相 手 と 対 立 することが その 後 の 人 間 関 係 に 長 期 的 な 悪 影 響 を 与 えていると 考 えている また 良 好 な 人 間 関 係 の 維 持 は 対 立 の 原 因 となった 問 題 を 解 決 するよりも 優 先 順 位 が 高 いと 考 えているこ とがうかがえる 次 にあげる60 代 男 性 は 目 的 を 達 成 するために は 感 情 を 出 しすぎないことが 必 要 だと 話 してい る 人 間 関 係 を 維 持 するために 怒 っていても 何 食 わぬ 顔 をしているのである ค ดว าผมก เป นคนน งท ต องการร กษาส มพ นธภาพก บ คนอ น ผมไม ใช ประเภทแบบว าไม แคร ฉ นจะทำไรก ได ผมมองเป าหมายเป นสำค ญ เพราะฉะน นเวลาจะแสดงออกอะไร ผมก จะไม แสดงออกจนเก นไป ถ งแม บางคร งจะโกรธ แต เราก เฉยๆ ค อยๆให เวลาม นค อยๆทำให เราเย นลง ก ใช ว ธ การน มาตลอด จนร บราชการก ทำอย างน สำหร บต วเองก ค ดว าม นน าจะได ผลเพราะว า เราใช ก นมาตลอด ( 訳 ) 私 も 他 人 との 人 間 関 係 を 良 くしようと 思 うタイプです そういうのを 気 にしない で 何 でも 自 分 がしたいようにするようなタ イプではありません 私 は 目 的 が 重 要 だと 思 います ですから 何 かを 表 出 するとき やり すぎることがないようにします 怒 っていて も 何 食 わぬ 顔 をしているときもあります 時 間 がたつと 自 分 も 落 ち 着 いてきます そう - 11 -
タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 と 価 値 観 いう 方 法 をずっととってきました 公 務 につ いていたときもそうです 自 分 では 効 果 が あるだろうと 思 っています ずっとその 方 法 を 使 っていますから いくら 怒 りの 表 出 は 抑 制 すべきであると 考 えて いても 実 際 に 怒 りを 感 じた 場 合 にどのような 対 処 方 法 を 選 択 するかについては 怒 りの 程 度 本 人 の 性 格 状 況 などに 加 え 上 下 関 係 や 親 密 度 な ど 怒 りを 感 じた 相 手 との 人 間 関 係 によって 様 々に 変 化 する 怒 りが 抑 制 できず 叱 る 感 情 的 に 話 す 暴 力 など 怒 りの 表 出 強 度 の 高 い 対 処 方 法 を 選 択 する 場 合 もある 怒 りの 表 出 強 度 の 高 い 対 処 方 法 をとった 場 合 の 発 話 を 分 析 する と 部 下 や 子 供 など 相 手 が 自 分 より 目 下 の 場 合 には 相 手 が 言 うことをききやすい 問 題 解 決 に つながったというポジティブな 帰 結 になる 場 合 も あるが 多 くの 場 合 ケンカによってお 互 いに 傷 つき その 後 人 間 関 係 が 疎 遠 になった 生 徒 を 叱 ったことによって 生 徒 から 受 け 入 れられなく なったなど 人 間 関 係 の 悪 化 というネガティブな 帰 結 になる もう 一 つの 対 処 方 法 として 強 い 怒 りを 感 じ 抑 制 できないと 感 じた 場 合 に 一 旦 その 場 をはなれ 気 持 ちを 落 ち 着 けるために 一 時 放 棄 する 場 合 も 多 くみられた 次 は40 代 男 性 の 発 話 例 である ถาม เราแสดงออกก บภรรยาย งไง เวลาม เร องโกรธเล กๆ น อยๆ ตอบ เด นหน ไปเลย ไม เถ ยง พอฟ งแล วม นข ดก นแล วก ไปด กว า พอเย นท งค ค อยมาค ย เพราะ ถ าร อนก นอย แล วมาค ยม นจะย งบาน เขาไม หย ดไม เป นไรเราไปเอง ( 訳 ) Q: 奥 さんに 対 して 何 か 少 し 怒 ったりしたと き どのように 表 現 しますか? A: 逃 げ 出 してしまいます 何 も 言 い 合 ったり しません 相 手 のいうことが 自 分 の 考 えと 食 い 違 うと 一 旦 その 場 を 去 った 方 がいい と 思 います 二 人 とも 気 持 ちが 落 ち 着 いた ら 話 し 合 います お 互 いカッカしてい るときに 話 してもますます 悪 くなるだけで す 相 手 が 話 すのをやめないなら 自 分 か ら 放 棄 すればいいんです 一 時 放 棄 した 場 合 には 気 持 ちが 落 ちつい た 後 怒 りを 感 じた 相 手 と 冷 静 に 話 す ことが 多 い 一 時 放 棄 した 方 がよいと 考 える 理 由 は 感 情 を 抑 制 できず 感 情 をそのまま 表 出 した 場 合 に は 不 用 意 な 発 言 をするなど 相 手 を 傷 つけてし まうだけで 問 題 を 解 決 することができないと 考 えているからである 一 時 放 棄 する 場 面 がよくあるということは タ イ 人 が 表 面 的 な 冷 静 さとは 裏 腹 に 抑 制 できない と 感 じるほどの 強 い 怒 りを 感 じる 機 会 も 多 いとい うことを 意 味 するのかもしれない しかし タイ の 社 会 文 化 では その 強 い 怒 りを 表 出 することは 許 されない 抑 制 できずに 表 出 した 場 合 には 人 間 関 係 の 悪 化 という 社 会 的 制 裁 が 待 ち 受 けている からである タイの 社 会 においては 人 間 関 係 の 維 持 という 最 優 先 の 目 的 を 達 成 するために 怒 りの 表 出 は 可 能 な 限 り 抑 制 されるべきとされ 表 出 強 度 の 低 い 怒 りの 対 処 方 法 が 多 用 されるのではないか こうし たタイ 人 の 信 念 や 態 度 は Suntaree[1990]の 提 唱 す るタイ 人 の 9 つの 価 値 群 のうち 円 滑 な 人 間 関 係 志 向 (Smooth Interpersonal Relationship Orientation)の 価 値 群 を 反 映 していると 考 えられる 彼 女 は 円 滑 - 12 -
タイ 研 究 No.15 2015 な 社 会 相 互 作 用 に 高 い 価 値 観 をおく 社 会 にとっ て ネガティブ 感 情 の 表 出 抑 制 は きわめて 重 大 な 課 題 であると 述 べている[Suntaree 1990: 176] また 相 互 作 用 を 円 滑 に 進 め 公 然 とした 対 立 を 避 けるため 物 静 かで 慎 重 = チャイイェン つまり 自 分 自 身 の 気 持 ちを 静 めるのと 同 時 に ゆっくりと 静 かで 慎 重 なステップをとることに よって 静 かに 状 況 をコントロールする 能 力 は 非 常 に 重 要 である[Suntaree 1990: 175] こうした 価 値 観 がタイ 人 の 怒 りの 対 処 方 略 においても 重 視 されていることを 物 語 る 上 記 の 考 察 結 果 を 図 式 化 して 図 1 の 怒 り 表 出 の 前 提 及 び 怒 り 表 出 の 目 的 に 示 す (4) 怒 りの 対 処 方 法 と 自 己 の 意 思 の 伝 達 人 間 関 係 を 維 持 するために 怒 りを 抑 制 すべき であると 考 えるのなら 無 表 出 や 非 言 語 嫌 味 が 最 も 多 用 される 対 処 方 法 であってもよい はずだが 本 研 究 の 面 接 調 査 の 結 果 から 冷 静 に 話 す が 無 表 出 と 同 じくらい 多 用 されるこ とがわかった 冷 静 に 話 す がなぜ 多 用 される のかについて その 理 由 を 検 討 した 両 者 は 怒 りを 感 じた 当 人 の 意 思 伝 達 の 可 否 とい う 点 で 異 なる 属 性 をもつため 怒 りを 抑 制 でき た 場 合 の 自 己 の 意 思 伝 達 の 有 無 によって 怒 りの 対 処 方 法 を2つに 分 類 した 怒 りを 抑 制 し かつ 意 志 の 伝 達 がない 対 処 方 法 は 表 出 しない 嫌 味 非 言 語 のみ とした 怒 りを 抑 制 し かつ 意 志 の 伝 達 がある 対 処 方 法 は 冷 静 に 話 す 文 句 を 言 う 注 意 する とした 冷 静 に 話 す という 対 処 方 法 をとった 場 合 に は 自 己 の 意 思 の 伝 達 が 可 能 となる 以 下 の40 代 男 性 の 発 話 から 怒 りを 抑 制 するべきであるとし ながらも 自 分 の 意 見 は 主 張 すべきであるという 考 え 方 がうかがえる ก โอเคนะ ด กว าเราเง ยบแล วทำตามท เขาบอกแล วม นไม ใช ต วเราเองก ไม สบายใจ ไม ม ความส ข บางท ม มมองความค ดม นอาจจะ ต างก นอย เราพ ดด กว าเง ยบ เราพ ดในส งท เราสงส ยให เขาอธ บายกล บ มา หร อถ าอธ บายแล วไม ใช เราก แย งเหต ผลไป ( 訳 ) 大 丈 夫 ですよ 黙 って 相 手 の 言 う 通 り にするよりいいです そういうのは 間 違 いで すね そういうんだと 自 分 の 気 分 もよくな いし ハッピーじゃないですよね 考 え 方 が 違 うことだってあるでしょう 黙 っているよ りも 話 し 合 った 方 がいいです 自 分 が 疑 問 に 思 うことを 聞 いて 相 手 に 説 明 してもらう のです 説 明 してくれても 自 分 の 考 えと 違 うときには 理 論 的 に 反 論 します また 怒 りが 抑 制 できなかった 場 合 には 感 情 を そのまま 表 出 することになる その 場 合 に 自 分 の 不 満 を 相 手 に 伝 えることはできるが 建 設 的 な 問 題 解 決 にはならず その 後 の 人 間 関 係 も 悪 化 する こうした 対 処 方 法 は タイの 社 会 では 適 切 な 態 度 とはみなされていない ただし 怒 りを 抑 制 でき なかった 場 合 でも 一 時 放 棄 という 方 法 をとるこ とにより 感 情 をそのまま 出 すことにより 受 ける ダメージを 軽 減 することができる 怒 りが 収 まる までその 場 を 放 棄 することで 人 間 関 係 維 持 への 悪 影 響 を 軽 減 すると 同 時 に 気 持 ちが 収 まってか ら 再 度 話 し 合 うことで 自 己 の 主 張 と 建 設 的 な 問 題 解 決 が 可 能 となる 激 しい 怒 りを 抑 えるために その 場 から 一 時 逃 げ 出 すという 態 度 は タイ 人 の 特 徴 的 な 怒 りへの 対 処 方 法 ではないかと 思 われ る そのような 対 処 方 法 をとってでも 人 間 関 係 - 13 -
タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 と 価 値 観 の 維 持 と 自 己 の 主 張 の 二 つの 目 的 を 達 成 できる 方 略 をとろうとするタイ 人 の 巧 妙 さ したたかさが うかがえるからである それでは 自 分 の 意 思 を 伝 達 しなかった 場 合 は どのようになるだろうか 人 間 関 係 の 維 持 という 最 優 先 の 目 標 は 達 成 できるが 本 人 はうっぷんが たまり 第 三 者 に 愚 痴 を 言 ったりすることになる 本 人 が 怒 っていることが 相 手 に 伝 わらないことか ら 相 手 の 態 度 を 変 化 させることも 状 況 を 改 善 す ることも 期 待 できない そのため この 対 処 方 法 をとる 場 合 が 多 いものの 最 も 良 いとは 考 えられ ていないようである 次 は30 代 女 性 の 発 話 例 であ る ใช เง ยบไว ด ท ส ด ถ า ณ ป จจ บ น อาย 33 ป 11 ป ก บท ทำงาน ความเง ยบค อส งท ด ท ส ด ม นอาจจะอ ด อ น ไม พอใจ ขนาดล งใน Facebook ท ม นม เพ อนทำงาน เพ อนร วมงาน เพ อนท เร ยนเง ยะ ระบายได แต จะไม ม การเอ ยถ งบ คคลท สาม แต จะไม ระบายเต มท อ ะ ( 訳 )そうです 黙 っているのが 一 番 いい 今 33 歳 で 今 の 職 場 には11 年 いますけど 沈 黙 が 一 番 いいことです 気 詰 まりだし 不 満 に 感 じるかもしれませんが フェイスブック では 同 僚 や 大 学 の 友 達 と 話 ができて 気 晴 らし ができます でも 第 三 者 については 言 及 しま せん でも 完 全 に 気 が 晴 れるわけではないで すけど 表 出 しない という 対 処 方 法 を 選 択 した 場 合 怒 りを 感 じさせた 相 手 に 対 する 不 満 や 怒 りを 伝 達 できないことから 本 人 が 第 三 者 に 愚 痴 を 言 って うっぷんをはらす 場 面 が 多 くみられた 一 方 で 自 分 のいないところで 第 三 者 が 自 分 の 陰 口 や 悪 口 を 言 うことに 対 する 不 満 の 声 も 聞 かれた 直 接 相 手 に 怒 りを 表 出 せず 陰 口 をいうことにより 怒 りが 長 期 的 にくすぶり お 互 いにすっきりしな いまま 相 手 の 顔 色 を 窺 いながら 今 後 の 人 間 関 係 を 表 面 的 にかろうじて 維 持 しているようであ る 無 表 出 は 人 間 関 係 の 維 持 という 目 的 は 達 成 することができても お 互 いの 理 解 や 主 張 の 機 会 はなく 精 神 的 にも 悪 影 響 があることから 多 用 される 対 処 方 法 ではありながら 望 ましい 対 処 方 法 であるとは 考 えられていない 上 記 の 考 察 結 果 は 図 1の 考 察 項 目 自 己 の 意 思 の 伝 達 及 び 怒 りの 社 会 的 機 能 に 図 示 した (5) 怒 りの 社 会 的 機 能 タイ 人 が 怒 りを 表 出 するのは 自 分 が 不 満 であ ることを 相 手 に 知 らせたい 自 己 の 主 張 をしたい からだけでなく 相 手 に 行 動 の 変 化 を 期 待 してい るからである 自 分 たちの 文 化 や 社 会 のルールを 守 ってほしい 相 手 がその 行 動 をやめることで 罰 則 を 受 けないようにしたい 自 分 が 間 違 ってい ることを 自 覚 させたいなど 相 手 の 言 動 に 対 する 不 満 を 伝 えることで その 言 動 をやめることを 期 待 している 変 化 させなければならない 行 動 とは 自 分 が 不 満 であると 感 じる 行 動 だけでなく 特 に タイの 社 会 で 正 しいと 容 認 されている 社 会 文 化 的 規 範 や 職 場 などの 組 織 内 でのルールがある また 面 接 協 力 者 の 中 には 子 供 や 学 生 や 部 下 など 自 分 より 目 下 で 指 導 的 立 場 にある 場 合 は 大 きな 声 を 出 さないということをきかない 大 人 は 子 供 を 教 育 しなければならないと 考 え 実 際 に 感 じて いる 以 上 に 怒 りを 強 く 表 現 し 相 手 に 自 分 の 望 む ような 行 動 を 強 制 すると 話 す 者 もいた しかし 相 手 が 目 下 でない 場 合 は 自 己 の 権 利 の 主 張 や 相 手 の 行 動 の 変 化 という 目 的 が 最 も 効 果 - 14 -
タイ 研 究 No.15 2015 的 に 果 たされるのは 怒 りを 抑 制 しつつ 自 分 の 意 思 を 理 論 的 に 伝 えることができた 場 合 に 限 定 さ れると 考 えられる なぜなら 強 い 感 情 表 出 をし た 場 合 には 自 己 の 感 情 や 不 満 を 主 張 することは できても その 後 人 間 関 係 が 悪 化 する 恐 れがある 逆 に 無 表 出 の 場 合 には 人 間 関 係 を 維 持 する ことはできても 相 手 は 自 分 が 怒 っていることに 気 付 かず 相 手 の 行 動 の 変 化 が 期 待 できない 従 って 冷 静 に 話 す 注 意 する といった 方 法 が 最 も 多 用 されるのは 自 己 の 権 利 の 主 張 と 人 間 関 係 の 維 持 の 二 つの 目 的 を 同 時 に 達 成 できる 可 能 性 が 最 も 高 いからだと 考 えられる このような 考 え 方 に 基 づき 冷 静 に 話 す という 対 処 方 法 を とった40 代 女 性 の 発 話 データを 次 に 示 す ถาม ทำไมเราเล อกใช ว ธ การแบบน ก บคนในท ทำงาน ค ออธ บาย ตอบ ม ความร ส กว าม นเป นอะไรท แก ไขได ง ายกว า ม นเป นว ธ การท ง าย ท จะบอกว าชอบอะไร ไม ชอบอะไร และหาจ ดร วมก นท จะแก ป ญหาน น เพ อหาจ ดร วมก น ( 訳 ) 質 問 :なぜ 職 場 の 人 に 対 して ( 怒 りを 感 じ た 時 に) 説 明 するという 方 法 をとるの ですか? 回 答 :その 方 が 問 題 を 解 決 しやすいと 感 じる からです 何 が 好 きか 何 が 好 きじゃ ないかを 言 って 妥 協 点 を 探 すのは 簡 単 な 方 法 です ก พอใจม งคะ เพราะเราก บอกแล ว ม นไม น าจะเก ดเหต การณ แบบน อ ก คร งในอนาคต เพราะ เราก แสดงให เห นแล วว าต วน ท จร งๆ ในความเห นของเราม นควรจะเป นย งไง แล วเขาก ยอมร บว าเขาต องระม ดระว งใน การทำแบบน คร งต อไป ( 訳 )まあ 満 足 じゃないでしょうか 自 分 も いうべきことをいったし これからはこんな ことは 二 度 と 起 こらないと 思 います 自 分 は 本 当 はどうすべきだと 思 っているかをきちん と 言 いましたから 次 回 は 注 意 しなければな らないということを 相 手 は 受 け 入 れたと 思 い ます もっとも 自 己 の 主 張 をし 相 手 の 行 動 の 変 化 を 期 待 することはあっても 相 手 に 行 動 の 変 化 を 強 制 しているわけではない 食 事 制 限 をしている 父 親 が 医 師 に 禁 止 されている 食 品 を 食 べようとす るのをやめさせようとした 場 面 では いずれ 人 間 は 死 ぬ 運 命 ですから 食 べるか 食 べないかを 決 めるのは 父 です という 目 上 の 人 に 意 見 を 言 っ ても 考 えを 変 えない 自 分 が 言 った 通 りに 相 手 が するかどうかは 相 手 の 問 題 相 手 のやり 方 を 変 え ることはできない お 互 いを 尊 重 しなければなら ないなど 自 分 の 主 張 をしつつも 相 手 の 意 思 を 尊 重 しようとする 気 持 ちが 非 常 に 明 白 である 特 に 相 手 が 目 上 の 場 合 や 親 密 度 の 低 い 人 の 場 合 は 相 手 の 行 動 の 変 化 への 期 待 のレベルが 低 下 するよう である 40 代 女 性 は 自 分 の 主 張 を 強 制 できない ことについて 次 のように 話 している ไม ชอบทะเลาะ ม นไร สาระ ค อโอเคถ าทำไม ได แล วอ กอย าง เราต องเคารพในความเป นเค า ด วย เค าเป นคนน ส ยแบบน เราไปเปล ยนเค าไม ได ค อเราแค บอกเง อนไขของเรา แต ทำหร อไม ทำ ข นอย ท เค า พอเราจะไปบอกเค าว าแกต องทำอย างง นะ เราก จะไปบ งค บเค ามากไป ค อม นเป นส ทธ ของเค า ( 訳 ) 喧 嘩 するのが 嫌 なんです そんなの 意 味 がないし できないならできないでいい それに 相 手 のことも 尊 重 しなければなりませ ん その 人 がそういう 性 格 なら 相 手 を 変 え - 15 -
タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 と 価 値 観 ることはできません つまり 私 はただ 自 分 の 条 件 を 示 すだけです やるかやらないかは 相 手 次 第 です もしあなたはこうしなくちゃだ めだと 言 ったら 相 手 に 強 制 しすぎです そ れは 相 手 の 権 利 なんです このように 相 手 に 自 分 の 主 張 をし 過 ぎてはい けないと 考 えるタイ 人 の 態 度 は Suntaree [1990] の エゴ 志 向 を 反 映 していると 考 える 彼 女 が 述 べるように タイ 人 のエゴは 独 立 誇 り 尊 厳 に 対 する 深 い 意 識 を 意 味 する タイ 人 は 自 分 のエ ゴを 守 るため 相 手 が 間 違 っていると 感 じた 場 合 には 感 情 を 抑 制 しつつも 敢 えて 自 己 の 主 張 を することを 選 択 しようとする 傾 向 が 強 いのかもし れない それでも お 互 いのエゴを 傷 つけないた めに 遠 慮 する 気 持 ち(クレンチャイ )を 持 ち 相 手 の 権 利 に 必 要 以 上 に 踏 み 込 まないようにしてい るのではないか タイ 人 は 自 己 主 張 はしても 自 分 の 主 張 が 聞 き 入 れられなくてもかまわないと 考 える 相 互 の 寛 容 や 割 り 切 りによって お 互 いの エゴを 守 り 合 い 注 意 深 く 相 手 との 良 好 で 平 穏 な 人 間 関 係 を 維 持 しようとしているのだろう 上 記 の 考 察 結 果 を 図 式 化 して 図 1 の 怒 りの 社 会 的 機 能 に 示 す (6)タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 のモデル 化 以 上 面 接 調 査 の 結 果 タイ 人 の 怒 りの 対 処 方 法 が 状 況 や 人 間 関 係 によって 様 々に 変 化 すること が 見 出 された それぞれの 怒 りの 対 処 方 法 をとっ た 場 合 の 社 会 的 機 能 と 帰 結 の 展 開 を 上 述 の 結 果 と 考 察 に 基 づきながら 整 理 し タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 モデルを 図 にしてみたので 説 明 する( 図 参 照 ) 図 に 示 すように モデル 化 にあたっては 怒 り 感 情 が 発 生 した 状 況 において タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 における 前 提 である 表 出 を 抑 制 すべきであ る を 出 発 点 とした 次 に 怒 りを 感 じた 場 合 に 抑 制 できる 場 合 と 抑 制 できない 場 合 とに 分 けた また 怒 りを 抑 制 できた 場 合 の 対 処 方 法 は 自 分 の 意 思 を 相 手 に 伝 達 するかしないかによって 分 類 した 怒 りを 抑 制 するが 自 分 の 意 思 を 伝 達 しな い 対 処 方 法 は 無 表 出 表 情 口 調 嫌 味 である 怒 りを 抑 制 するが 自 分 の 意 思 の 伝 達 を する 対 処 方 法 は 冷 静 に 話 す 文 句 を 言 う 注 意 する である 怒 りを 抑 制 できない 場 合 は 叱 る 感 情 的 に 話 す 暴 力 といった 対 処 方 法 がとられる 叱 る は 相 手 の 行 動 を 指 導 的 に 変 えたいという 意 思 がある 場 合 の 対 処 方 法 であり 単 に 怒 りを 抑 制 できずに 表 出 する 感 情 的 に 話 す や 暴 力 とは 区 別 される また 感 情 の 抑 制 ができなかっ た 場 合 に 一 旦 放 棄 して 気 持 ちを 落 ち 着 け 気 持 ちが 落 ち 着 いてから 話 し 合 う という 対 処 方 法 もとられる これは その 後 の 展 開 として 感 情 が 抑 制 できたため 冷 静 に 話 し 合 う に 移 行 するこ とがある 怒 り 感 情 の 社 会 的 機 能 については それぞれの 対 処 方 法 によって 達 成 される 社 会 的 機 能 を 自 分 の 権 利 が 主 張 できるかどうか 相 手 の 行 動 の 変 化 を 期 待 できるかに 着 目 しながら 分 類 した さらに それぞれの 対 処 方 法 は 結 果 として 相 手 との 人 間 関 係 の 維 持 という 目 的 にとって 役 立 った かどうかという 帰 結 を 示 した また 円 滑 な 人 間 関 係 志 向 ( 人 間 関 係 の 維 持 チャイイェン( 冷 静 さ)) エゴ 志 向 ( 自 己 の 権 利 の 主 張 相 手 のエゴの 尊 重 クレンチャイ ( 遠 - 16 -
タイ 研 究 No.15 2015 出 典 ) 分 析 結 果 と 考 察 により 筆 者 作 成 図 タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 モデル - 17 -
タイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 と 価 値 観 慮 ))といったSuntaree[1990]が 提 唱 したタイ 人 の 価 値 観 を タイ 人 の 怒 り 方 略 モデルにおける 怒 り 表 出 の 前 提 と 目 的 自 己 の 意 思 の 伝 達 怒 り の 対 処 方 法 怒 りの 社 会 的 機 能 に 結 びつけた 形 で 示 している 5.まとめ 本 研 究 では バンコクの 高 等 教 育 機 関 に 在 籍 す る 社 会 人 学 生 及 び 職 員 への 怒 りの 経 験 に 関 する 面 接 調 査 をもとに タイ 人 の 怒 りの 対 処 方 法 対 処 方 法 選 択 の 理 由 対 処 方 法 に 対 する 評 価 などを 分 析 し 分 析 結 果 をSuntaree [1990]のタイ 人 の 価 値 観 を 踏 まえて 考 察 し タイ 人 の 怒 りに 対 する 対 処 方 略 がタイ 人 の 価 値 観 を 反 映 したものであること を 再 認 識 し タイ 人 の 怒 りへの 対 処 方 略 モデルへ と 発 展 させた 研 究 の 結 果 タイ 人 が 怒 りを 感 じた 相 手 との 人 間 関 係 を 維 持 するために 怒 りを 抑 制 すべきだと 考 えていること また 怒 りを 感 じたことを 相 手 に 伝 え 相 手 の 行 動 を 変 化 させるために 自 己 を 主 張 し ようと 努 力 するが 自 己 の 主 張 を 必 ずしも 強 制 し ているわけではないということが 示 唆 された こうした 対 処 方 略 は Suntaree [1990]が 明 らか にしたタイ 人 の 価 値 観 が 反 映 されていると 考 え る 人 間 関 係 の 維 持 のために 怒 りの 表 出 を 抑 制 す べきだとする 態 度 には 彼 女 のいう 円 滑 な 人 間 関 係 志 向 が 反 映 されており その 手 段 として 彼 女 のいうチャイイェン( 冷 静 さ)をタイ 人 が 重 視 していることが 面 接 結 果 を 基 にタイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 モデルを 作 り 上 げてみる 作 業 により 再 確 認 された また タイ 人 が 怒 りを 感 じた 場 合 に 自 己 主 張 をしようとする 一 方 で 相 手 の 権 利 も 尊 重 し 相 手 の 行 動 変 化 をかならずしも 強 制 できない 相 手 の 権 利 に 踏 み 込 みすぎてはいけないと 考 えている 点 は エゴ 志 向 を 反 映 しているものと 考 える 相 互 の エ ゴ を 尊 重 す る た め の 手 段 と し て Suntaree [1990]のいうクレンチャイ ( 遠 慮 )が 重 視 され エゴの 衝 突 を 回 避 するためのメカニズム を 作 り 出 しているのだろう タイ 人 の 怒 りの 表 出 方 法 は チャイイェン クレンチャイ といったタ イの 社 会 文 化 に 根 差 した 価 値 観 に 少 なからず 規 定 されていることが 本 研 究 の 結 果 からもうかがえ る すなわち 冷 静 に 話 す という 対 処 方 法 が 多 用 されていたのは この 対 処 方 法 が 円 滑 な 人 間 関 係 志 向 とエゴ 志 向 というタイ 人 の2つの 重 要 な 価 値 観 を 反 映 する 対 処 方 法 であるからではないだ ろうか このことは 今 後 タイ 人 の 怒 りの 表 示 規 則 を 検 討 する 上 で 特 に 重 視 するべきであると 考 え る 本 研 究 から タイ 人 が 家 族 や 職 場 などの 所 属 集 団 である 内 集 団 と 見 知 らぬ 人 などの 外 集 団 のメン バーに 対 し 異 なる 怒 りの 対 処 方 法 をとる 傾 向 が あるという 知 見 が 示 唆 された これは 集 団 主 義 文 化 の 行 動 の 特 徴 とも 考 えられるが 家 族 や 職 場 といった 内 集 団 の 属 性 によっても 怒 りの 対 処 方 法 に 差 異 がある 可 能 性 があるという 点 については 注 意 深 く 検 討 する 必 要 があると 考 える それはタ イ 人 にとって 家 族 以 外 の 内 集 団 における 人 間 関 係 に 不 確 実 性 が 伴 うため 良 好 な 人 間 関 係 を 維 持 す るためには より 多 くの 努 力 を 払 う 必 要 があると 考 えているからではないかと 推 察 される ホーム ズ スチャーダー [2000:87-88]は タイの 社 会 は 家 族 の 世 界 気 配 りの 世 界 ( 家 族 以 外 の 内 集 - 18 -
タイ 研 究 No.15 2015 団 ) 自 分 本 位 の 世 界 ( 外 集 団 )の 3 つに 構 成 さ れ 特 に 気 配 りの 世 界 で 様 々なタイ 的 価 値 観 が 重 視 されると 述 べている これは 本 研 究 によっ て 得 られた 推 論 と 一 致 する 今 後 タイ 人 の 家 族 と 家 族 以 外 の 所 属 集 団 における 怒 りの 対 処 方 法 の 違 いを 検 討 することが 必 要 なのではないかと 考 え る なお 本 研 究 の 対 象 者 は バンコクの 大 学 関 係 者 であったため 本 研 究 でいうタイ 人 が 階 層 社 会 であり 職 業 出 身 地 年 齢 学 歴 などによって 多 様 性 のあるタイ 人 全 体 を 反 映 する 結 果 は 得 られ ていない 可 能 性 がある 今 後 さらに 多 様 な 社 会 階 層 のタイ 人 を 対 象 として 研 究 することによりタイ 人 の 怒 り 対 処 方 略 の 一 般 化 を 行 う 必 要 がある 本 研 究 によって 得 られた 結 果 はまだ 仮 説 の 段 階 であり 量 的 研 究 などの 実 証 的 な 研 究 を 行 って 仮 説 を 検 証 するとともに 日 本 人 と 比 較 することに よりタイ 人 の 感 情 世 界 の 文 化 的 特 徴 をさらに 検 討 していきたい 注 1 ) Oxford Dictionary of English [2005] によれば ego (noun) とは 1. A person s sense of self-esteem or self-importance 2. <Psychoanalysis> the part of the mind that mediates between the conscious and the unconscious and is responsible for reality testing and a sense of personal identity 3. <Philosophy> (in metaphysics) a conscious thinking subjectとあるが スンタリーの 研 究 のおける エゴは A person s sense of self-esteem( 自 尊 心 ) あ るいは self-importance( 自 己 過 大 視 ) を 意 味 すると 考 える 2 ) 冷 静 に 話 す とは 理 論 的 に 話 し 合 う 感 情 を 抑 え て 話 し 合 うなどの 怒 りの 対 処 方 法 を 総 称 して 筆 者 が 作 成 したカテゴリー 名 であり Suntaree [1990]のい うチャイイェン ( 冷 静 さ)とは 関 連 していない 3 )Suntaree[1990]によれば タイ 人 の 9 つの 価 値 群 の 中 で エゴ 志 向 に 次 いで 重 視 されるのが 報 恩 的 関 係 志 向 (Grateful Relationship Orientation)とされている 報 恩 的 関 係 志 向 とは 親 や 教 師 など 深 く 意 義 のある 支 援 を 与 える 者 と 受 けた 支 援 に 報 いようとする 者 と の 報 恩 的 関 係 に 基 づく 誠 実 で 温 かな 人 間 関 係 に 対 す る 価 値 観 を 指 す 従 って 恩 義 のある 目 上 の 人 に 対 して 感 情 を 抑 制 し 従 順 な 態 度 をとることが 予 想 さ れる しかし この 価 値 観 は 特 に 地 方 の 住 民 によっ て 最 も 重 視 されているものの バンコクの 住 民 にとっ ては 4 番 目 に 重 視 されていることが 明 らかになって いる[Suntaree 1990] 本 研 究 で 目 上 の 人 に 対 して も 冷 静 に 話 す という 対 処 方 法 が 最 も 多 くとられ ているという 結 果 になったのは 対 象 者 がバンコク の 住 民 であり 彼 らは 報 恩 的 関 係 志 向 よりも 実 利 志 向 性 が 高 いためなのかもしれない 引 用 文 献 Averil, James R. 1980 A Constructivist View of Emotion in R. Plutchik & H. Kellerman (ed.) Emotion: Theory, Research and Experience, vol. 1, New York: Academic Press, pp.305-339. 1982 Anger and Aggression: An Essay on Emotion, New York: Springer-Verlag. Baxter, Leslie A. and Babbie, Earl 2004 The Basics of Communication Reseach, Belmont, CA: Wadsworth. シャーマズ キャシー 著 ( 抱 井 尚 子 末 田 清 子 監 訳 )2008 グラウンデッド セオリーの 構 築 ナカニシヤ 出 版 コーネリアス ランドルフ R. 著 ( 齊 藤 勇 監 訳 )1999 感 情 の 科 学 誠 信 書 房 Ekman, Paul and Friesen, Wallace V. 2003 Unmasking the Face, Cambridge, MA: Malor Books. Embree, John F. 1950 ThailandA Loosely Structured Social System, American Anthropologist, 52(2): 181-193. - 19 -
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