タイ 人 と 日 本 人 の 誘 い と 依 頼 への 断 り 行 為 の 意 識 について Triktima LEADKITLAX 1. 本 稿 の 背 景 と 目 的 2008 年 以 降 のタイから 日 本 への 留 学 生 数 の 急 増 を 背 景 に タイ 人 日 本 語 学 習 者 ( 以 後 NNS と 省 略 ) と 日 本 語 母 語 話 者 ( 以 後 NS と 省 略 )が 直 接 接 してコミュニケーションをする 機 会 が 増 加 した こう いった 接 触 場 面 の 急 増 の 中 で 言 語 行 動 に 会 話 上 では 見 えない 問 題 が 生 じたり 相 手 方 の 意 図 と 異 な る 受 け 止 め 方 をしたりする という 状 況 も 生 じているのが 現 状 である このようなタイと 日 本 の 言 語 行 動 上 の 違 いは それぞれの 国 の 文 化 や 習 慣 の 違 いに 起 因 するところが 多 いと 思 われる 従 って NNS と NS がより 滑 らかにコミュニケーションを 行 うためには 両 者 の 社 会 文 化 相 手 への 配 慮 の 仕 方 や 接 触 場 面 の 意 識 を 理 解 しなければならない 多 くの 研 究 では 接 触 場 面 の 依 頼 や 断 り における NNS の 日 本 語 使 用 表 現 を 扱 っているが 本 稿 ではその 前 段 階 の 断 り 行 為 の 意 識 について 注 目 をした NNS が 接 触 場 面 で 日 本 語 の 使 用 を 行 う 背 景 には NNS の 個 人 規 範 や 文 化 規 範 特 に 母 語 場 面 と 同 じ 規 範 が 多 く 使 われる それらの 規 範 の 基 には それぞれの 場 面 に 適 用 される 意 識 が 働 いていると 思 われる つまり NNS の 日 本 語 表 現 の 選 択 が 規 範 および 意 識 に 大 いに 関 係 していると 思 われる そこで タイと 日 本 との 間 で 社 会 文 化 的 相 違 があると 思 われる 断 り 行 為 特 に 断 り 行 為 の 意 識 について タイ 人 と 日 本 人 にはど のような 相 違 点 があるかを 把 握 するために 調 査 を 行 った 2. 先 行 研 究 2.1 誘 い 川 口 他 (2002)は 待 遇 表 現 としての 誘 い は 1 相 手 と 一 緒 に 行 うことで 自 分 にもま た 相 手 にも 利 益 がある 行 為 を 2 自 分 と 相 手 が 一 緒 に 行 うよう 持 ちかけ 3それによっ て 自 分 と 相 手 との 人 間 関 係 を 設 定 / 維 持 / 強 化 する 行 動 展 開 表 現 であると 述 べている 誘 い には その 表 現 を 特 徴 付 ける 行 動 決 定 権 利 益 の 三 つの 要 素 に 次 のような 特 定 のあり 方 が 認 められる 1 行 動 は 相 手 と 自 分 と 一 緒 に 行 う 2 行 為 の 決 定 権 は 相 手 に 所 属 する 3 利 益 は 相 手 にも 自 分 にもある と 述 べている 本 研 究 の 調 査 では 映 画 への 誘 い の 設 定 をしており(4.3 アンケート 調 査 内 容 参 照 ) この 三 つ の 要 素 で 説 明 すると 行 動 すなわち 映 画 を 見 に 行 くのは 誘 った 自 分 と 誘 われた 相 手 の 二 人 である 相 手 はこの 誘 い を 受 けるかどうかを 自 身 の 都 合 や 気 持 ちによって 決 めることができ るので 行 動 の 決 定 権 は 相 手 にある そして 相 手 が 応 じれば 自 分 も 相 手 も 楽 し いはずであるから 行 動 の 結 果 受 ける 利 益 は 両 者 にあると 言 えるだろう 97
2.2 依 頼 に 関 する 研 究 頼 (2005)の 研 究 では 依 頼 という 行 為 は 依 頼 主 体 が ある 相 手 に 実 行 してもらいたいと いう 意 志 があり その 行 動 を 相 手 に 実 行 させようとする 行 為 であると 定 義 されている 行 動 するかどうかを 決 める 決 定 権 を 相 手 が 持 ち 行 動 する また 相 手 の 行 動 によって 自 分 が 利 益 を 受 けると 述 べている 本 研 究 の 調 査 では スーツ 借 用 の 依 頼 を 設 定 している(4.3 アンケート 調 査 内 容 参 照 ) この 三 つの 要 素 で 説 明 すると 相 手 に 実 行 してもらいたい 行 動 すなわち 依 頼 主 体 にはスーツを 貸 し てもらいたいという 意 志 がある 貸 すか 貸 を 決 める 決 定 権 は 相 手 にあり 相 手 が 貸 してくれると 自 分 が 利 益 を 受 けるのである 2.3 断 り に 関 する 研 究 蔡 (2005)の 研 究 では 断 り とは 承 諾 を 期 待 する 相 手 の 要 求 を 受 け 入 れず 相 手 の 意 向 に 反 す ることを 実 行 しようとする 行 為 であると 規 定 している また 権 (2008)は 断 り とは 相 手 ( 依 頼 者 要 求 者 など)の 意 図 に 応 じず 断 る 側 の 領 域 ( 自 由 にいたい のような 気 持 ちを 守 る 発 話 行 為 ) であるとしている 断 り という 発 話 は 相 手 ( 依 頼 者 要 求 者 など)との 人 間 関 係 に 影 響 を 強 く 及 ぼし やすいために 人 間 は 普 段 断 り 表 現 を 表 しづらい 断 る 場 面 に 接 したくない と 思 うかもしれな い そのために 断 る 側 は 断 った 後 のリスクを 減 らし 断 り を 成 功 させるために 依 頼 者 との 諸 関 係 を 慎 重 に 考 慮 した 上 で 断 り を 遂 行 しなければならない 断 り を 行 う 際 には 話 し 手 と 相 手 との 諸 関 係 には 親 疎 関 係 年 齢 層 の 差 発 話 内 容 ( 依 頼 要 求 などの 内 容 )などが 関 わるであろうと 指 摘 している 2.4 異 文 化 間 の 意 識 規 範 に 関 する 研 究 尾 崎 (2005)が 対 人 的 距 離 意 識 に 関 する 日 韓 の 違 いを 両 国 の 市 民 にアンケート 調 査 したところ 多 少 差 が 認 められた しかし 依 頼 と 感 謝 の 関 係 に 関 する 調 査 では ソウルに 特 徴 的 な 傾 向 がみら れたが 日 本 ではその 傾 向 は 認 められなかったと 述 べている タイ 日 の 間 でも 同 様 に 意 識 の 違 いがあ るのではないかと 推 察 されるが どのようなものか 調 査 をしてみる 必 要 があるだろう 加 藤 (2011)は 接 触 場 面 には 1 母 語 場 面 と 同 じ 規 範 が 使 用 される 場 合 2 母 語 場 面 の 規 範 が 緩 和 されて 使 用 される 場 合 3 母 語 場 面 の 規 範 が 強 化 されて 使 われる 場 合 などがあるとしており 接 触 場 面 においても 母 語 場 面 同 様 の 規 範 に 基 づいて 会 話 が 管 理 される 場 合 があることを 指 摘 している 伊 藤 (2008)は 依 頼 行 為 を 断 る 時 の 相 手 に 対 する 心 理 的 負 担 を 日 本 語 母 語 話 者 より 大 きく 見 積 もる マレー 語 母 語 話 者 は 日 本 語 を 運 用 する 際 も 日 本 母 語 話 者 より 断 り を 具 現 化 することに 慎 重 にな ると 推 測 される としている さらに 学 習 者 の 母 語 と 日 本 語 の 社 会 文 化 的 規 範 が 異 なっている 場 合 ポライトネス (1) の 習 得 は 学 習 環 境 および 母 語 と 日 本 語 の 社 会 文 化 的 規 範 に 左 右 される としている 本 稿 はタイ 人 と 日 本 人 の 社 会 文 化 的 規 範 の 元 である タイ 人 と 日 本 人 の 誘 い 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 の 意 識 の 相 違 について 調 査 を 行 う 98
3. 研 究 の 枠 組 み ポライトネス 理 論 本 稿 では Brown and Levinson (1987)( 以 降 B&L と 略 )のポライトネス 理 論 (politeness theory) の 枠 組 みに 基 づいて 分 析 を 行 った ポライトネス 理 論 とは 社 会 的 な 人 間 関 係 の 中 で 円 滑 なコミュニケーションや 人 間 関 係 を 維 持 す るために 人 々がどのような 言 語 的 なストラテジーを 用 いるのかに 関 わる 理 論 である ポライトネス はタイ 語 や 日 本 語 などが 有 している 丁 寧 さの 言 語 体 系 いわゆる 敬 語 より 広 い 概 念 である 言 語 行 動 的 な 視 点 で 言 うと ポライトネスとは 会 話 の 場 において 表 現 伝 達 される 自 分 や 相 手 のフェイス を 侵 害 することに 対 する 軽 減 的 補 償 的 な 言 語 的 配 慮 のことである ポライトネス 理 論 で 中 核 を 成 す 概 念 は フェイス 侵 害 FTA(Face Threatening Act)である 人 間 には 他 人 に 理 解 や 称 賛 をされたいというポジティブ フェイスと 他 人 に 邪 魔 されたくないとい うネガティブ フェイスの 2 つのフェイスを 保 ちたいという 欲 求 があるとしている B&L は この 2 つのフェイスを 脅 かさないように 配 慮 することがポライトネスであると 操 作 的 に 定 義 した そして それぞれに 相 手 のポジティブ フェイスを 配 慮 ( 働 きかけ)するストラテジーとし ネガティブ フ ェイスを 配 慮 ( 尊 重 )するストラテジーがある このフェイスのどちらか 一 方 あるいは 両 方 を 脅 かすような 行 為 を FTA と 呼 ぶ FTA は 話 し 手 と 聞 き 手 の 社 会 的 距 離 と 話 し 手 と 聞 き 手 の 力 関 係 と 相 手 にかける 負 担 の 度 合 の 和 で 表 され 負 担 の 度 合 は 文 化 によって 異 なるとされている(B&L 1987) さらに B&L はすべての 言 語 行 動 は 潜 在 的 なフェイス リスク(フェイス 侵 害 の 可 能 性 )を 持 つ という 考 え 方 を 採 用 し フェイス リスクの 大 きさを 3 要 因 によって 決 定 されるものとしている こ の フェイス リスク 見 積 もりの 公 式 は 下 記 のように 記 号 で 表 されている Wx=D(S,H)+P(H,S)+Rx Wx(weightiness) : ある 行 為 x の 相 手 に 対 するフェイス リスク D (distance) : 話 し 手 (speaker)と 聞 き 手 (hearer)の 社 会 的 な 距 離 P (power) : 聞 き 手 (hearer)の 話 し 手 (speaker)に 対 する 力 Rx(ranking of imposition) : 特 定 の 文 化 内 における 行 為 x の 負 荷 度 つまり ある 行 為 (x)が 相 手 フェイスを 脅 かす 度 合 い(Wx)は x という 行 為 が ある 特 定 の 文 化 の 中 でどのくらい 相 手 に 負 担 をかけるとみなされているか そして ある 行 為 (x)の 負 荷 度 (R) と 話 し 手 と 聞 き 手 の 社 会 的 な 距 離 (D) ( 対 称 的 関 係 ) 聞 き 手 の 話 し 手 に 対 する 相 対 的 な 力 (P) ( 非 対 称 的 関 係 )3 要 素 の 見 積 もりが 加 算 されて 決 まるとしている この 公 式 の 最 後 の 要 因 (Rx)については 同 じ 行 為 であっても その 相 手 への 負 荷 度 は 文 化 や 状 況 によって 異 なるとされており また 社 会 的 な 距 離 (D) や 力 関 係 (P) の 見 積 もりの 重 み づけが 各 々の 文 化 によって 異 なることも 考 慮 に 入 られている 99
4. 調 査 方 法 -アンケート 調 査 アンケート 調 査 は 日 本 の T 大 学 で 2011 年 5 月 19 日 ~31 日 タイの R 大 学 で 2011 年 6 月 4 日 ~ 17 日 にかけて 行 った 4.1 アンケート 調 査 目 的 本 稿 のアンケートは 日 本 人 とタイ 人 の 断 りに 対 する 意 識 について( 負 担 の 度 合 いを) 調 べ タイ 人 と 日 本 人 の 依 頼 や 誘 い に 対 する 断 りの 傾 向 を 比 較 するためのものである 4.2 アンケート 調 査 協 力 者 収 集 データの 対 象 は 日 本 人 タイ 人 合 わせて 計 213 名 である 日 本 の T 大 学 の 学 部 生 大 学 院 生 10 代 後 半 ~20 代 前 半 ( 男 51 名 女 52 名 )103 名 と タイの R 大 学 の 日 本 留 学 経 験 がない 学 部 生 大 学 院 生 10 代 後 半 ~20 代 後 半 ( 男 21 名 女 89 名 )の 110 名 に 調 査 を 行 った 4.3 アンケート 調 査 内 容 アンケートの 項 目 は 先 行 研 究 の 依 頼 誘 い の 場 面 の 断 りの 項 目 をもとにして 選 定 した また フェイス リスク 見 積 もりの 公 式 (3 章 参 照 )を 一 定 の 社 会 的 な 距 離 (D) と 力 関 係 (P) にす るため 話 し 手 と 聞 き 手 の 関 係 を 友 人 と 設 定 し 行 為 (x) だけ 取 り 替 えた アンケートの 第 1 5 項 目 は 誘 いに 対 する 断 り の 行 為 第 6 10 項 目 は 物 の 借 用 の 依 頼 に 対 する 断 り の 行 為 そして 第 11 15 項 目 は 手 伝 いの 依 頼 に 対 する 断 り の 行 為 である これらの 項 目 は 負 担 度 の 違 い が 分 かりやすいように 無 料 で 行 えること から 高 いお 金 がかかること 両 国 の 生 活 から 想 定 さ れる 身 近 なこと から あまり 馴 染 みのないこと まで 設 定 した 表 1に 掲 げた 15 項 目 から どの 程 度 悪 いと 感 じるかを 被 調 査 者 に 答 えてもらう 悪 いと 思 われるほ ど その 行 為 の 負 担 の 度 合 いが 高 いとする 本 稿 の 調 査 回 答 は 0= 悪 いと 思 わない 1= 少 し 悪 いと 思 う 2= 悪 いと 思 う 3=とても 悪 いと 思 う という 値 で 統 計 する これらの 平 均 値 を 出 し タイと 日 本 の 断 りに 対 する 意 識 を 調 べる アンケートには このアンケートは 日 常 生 活 の 人 間 関 係 におい てどのような 行 為 があなたに 負 担 をかけるのかを 調 査 するものです あなたは 特 に 用 もなく 相 手 の 誘 いや 依 頼 に 応 えられる 状 況 であるという 事 を 想 像 しながら 答 えてください という 設 定 をし 被 調 査 者 にアンケートに 答 えてもらった 表 1 アンケート 項 目 (2) 意 識 行 為 ( 友 達 が あなたを あなたに) 行 為 設 定 の 意 図 誘 いに 対 する 断 り 物 の 借 用 の 依 頼 に 1) 散 歩 に 誘 って あなたが 断 ったとき ( 伊 藤 2005 (3) ) 無 料 で 行 える 2) 図 書 館 に 誘 って あなたが 断 ったとき 無 料 で 行 える 日 本 では 馴 染 みがある 3) 映 画 に 誘 って あなたが 断 ったとき 多 少 お 金 がかかる 両 国 に 馴 染 みがある 4) 遊 園 地 に 誘 って あなたが 断 ったとき お 金 時 間 がかかる 5) 海 外 旅 行 に 誘 って あなたが 断 ったとき 高 いお 金 時 間 がかかる 6) 本 を 貸 してもらいたいのに あなたが 断 ったとき ( 頼 2005) 無 料 で 行 える 7)スーツを 貸 してもらいたいのに あなたが 断 ったとき 無 料 で 行 え 両 国 にあま り 馴 染 みがない 100
対 する 断 り 手 伝 い の 依 頼 に 対 す る 断 り 8)1 万 円 のお 金 を 貸 してもらいたいのに あなたが 断 ったとき お 金 がかかる 9)コンピュータを 貸 してもらいたいのに あなたが 断 ったとき 無 料 で 行 えるが 不 便 になる 10) 車 を 貸 してもらいたいのに あなたが 断 ったとき 無 料 で 行 えるが 不 便 になる タイでは 身 近 な 事 だが 日 本 ではあまり 馴 染 みがない 11) 修 士 論 文 卒 業 論 文 の 調 査 協 力 を 依 頼 したのに あなたが 断 ったとき ( 祭 2005) 無 料 で 行 える 12) 引 越 しの 手 伝 いを 依 頼 したのに あなたが 断 ったとき 無 料 で 行 える タイでは 身 近 な 事 だが 日 本 ではあまり 馴 染 みがない 13) 結 婚 式 の 手 伝 いを 依 頼 したのに あなたが 断 ったとき 無 料 で 行 える タイでは 身 近 な 事 だが 日 本 ではあまり 馴 染 みがない 14) 親 戚 のお 葬 式 の 手 伝 いを 依 頼 したのに あなたが 断 ったとき 無 料 で 行 える タ イでは 身 近 な 事 だが 日 本 ではあまり 馴 染 みがない 15) 空 港 までの 送 り 迎 えを 依 頼 したのに あなたが 断 ったとき 無 料 で 行 える タイ では 身 近 な 事 だが 日 本 ではあまり 馴 染 みがない 5. アンケート 調 査 の 結 果 と 分 析 5.1 アンケート 調 査 結 果 アンケートの 結 果 を 集 計 し 表 にまとめた 項 目 負 担 の 度 合 い 0( 悪 いと 思 わ ない) 表 2 タイ 人 と 日 本 人 のアンケート 集 計 結 果 タイ 人 ( 計 110 名 ) 日 本 人 ( 計 103 名 ) 1( 少 し 悪 いと 思 う) 2( 悪 いと 思 う) 3(とても 悪 いと 思 う) タイ 人 日 本 人 平 均 値 タイ 日 本 タイ 日 本 タイ 日 本 タイ 日 本 タイ 日 本 1 37 19 63 66 10 15 0 3 0.755 1.019 2 20 32 33 54 37 16 20 1 1.518 0.864 3 57 11 44 41 9 39 0 12 0.564 1.505 4 47 15 51 34 11 36 1 18 0.691 1.553 5 67 34 32 28 9 20 2 21 0.509 1.272 6 5 10 23 50 49 30 33 13 2.000 1.447 7 21 49 38 36 38 15 13 3 1.391 0.728 8 32 67 50 26 21 6 7 4 1.027 0.485 9 20 50 56 40 25 9 9 4 1.209 0.680 10 35 69 48 25 21 8 6 1 0.982 0.427 11 13 17 39 30 42 39 16 17 1.555 1.544 12 7 8 20 47 42 38 41 10 2.064 1.485 13 6 7 21 19 38 46 45 31 2.109 1.981 14 6 12 17 18 35 35 52 38 2.209 1.961 15 11 34 40 37 42 26 17 6 1.591 1.039 101
平 均 値 の 差 異 がタイ 人 と 日 本 人 の 断 り 対 する 意 識 の 違 いを 表 していると 考 えられる さらに 図 1 に 両 国 の 平 均 値 の 際 を 図 示 した 3 平 均 値 の 差 2 1 0 タイ 人 平 均 値 日 本 人 平 均 値 図 1 タイ 人 と 日 本 人 のアンケート 調 査 の 平 均 集 計 結 果 5.2 アンケート 調 査 の 分 析 結 果 アンケート 調 査 により 断 り 話 行 為 にどのような 負 担 の 度 合 いがあるかを 調 べた 結 果 タイ 人 と 日 本 人 の 被 調 査 者 は 次 のような 順 で 負 担 を 大 きく 感 じていると 考 えられる 表 3 タイ 人 と 日 本 人 の 負 担 の 度 合 いを 大 きく 感 じる 順 の 断 り 負 担 の 度 合 い タイ 人 全 体 との% 平 均 値 日 本 人 全 体 との% 平 均 値 最 も 負 担 度 の 大 きい 行 為 二 番 目 に 負 担 度 の 大 きい 行 為 親 戚 の 葬 式 の 手 伝 いの 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 調 査 結 果 2 の 回 答 31.81% 3 の 回 答 42.27% 平 均 値 2.209 引 越 しの 手 伝 いの 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 調 査 結 果 2 の 回 答 34.55% 3 の 回 答 40.90% 平 均 値 2.109 結 婚 式 の 手 伝 いの 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 調 査 結 果 2 の 回 答 44.66% 3 の 回 答 30.10% 平 均 値 1.981 親 戚 の 葬 式 の 手 伝 いに 対 する 依 頼 の 断 り 行 為 調 査 結 果 2 の 回 答 33.98% 3 の 回 答 36.89% 平 均 値 1.961 三 番 目 に 負 担 度 の 大 きい 行 為 結 婚 式 の 手 伝 いの 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 調 査 結 果 2 の 回 答 38.18% 3 の 回 答 37.27% 平 均 値 2.064 遊 園 地 の 誘 いに 対 する 断 り 行 為 調 査 結 果 1 の 回 答 33.00% 2 の 回 答 34.95% 3 の 回 答 17.48% 平 均 値 1.553 また タイ 人 と 日 本 人 の 被 調 査 者 は 次 のような 順 で 負 担 をあまり 感 じていない( 平 均 値 が 1 未 満 のもの)と 考 えられる 表 4 タイ 人 と 日 本 人 の 負 担 の 度 合 いを 小 さく 感 じる 順 の 断 り 負 担 の 度 合 い タイ 人 全 体 との% 平 均 値 日 本 人 全 体 との% 平 均 値 最 も 負 担 度 の 小 さい 行 為 海 外 旅 行 の 誘 いに 対 する 断 り 行 為 調 査 結 果 0 の 回 答 60.90% 1 の 回 答 % 29.09 平 均 値 0.509 車 の 借 用 の 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 調 査 結 果 0 の 回 答 66.99% 1 の 回 答 24.27% 平 均 値 0.427 102
二 番 目 に 負 担 度 の 小 さい 行 為 映 画 の 誘 いに 対 する 断 り 行 為 調 査 結 果 0 の 回 答 51.81% 1 の 回 答 40% 平 均 値 0.564 1 万 円 借 用 の 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 調 査 結 果 0 の 回 答 65.05% 1 の 回 答 25.24% 平 均 値 0.485 三 番 目 に 遊 園 地 の 誘 いに 対 する 断 り 行 為 調 査 コンピュータの 借 用 の 依 頼 に 対 する 断 負 担 度 の 結 果 0 の 回 答 42.73% 1 の 回 答 り 行 為 調 査 結 果 0 の 回 答 48.54% 小 さい 行 為 46.36% 平 均 値 0.691 1 の 回 答 38.83% 平 均 値 0.680 上 記 の 二 つの 表 を 見 ると タイ 人 と 日 本 人 両 者 ともが 負 担 の 度 合 いを 大 きく 感 じている 行 為 は 手 伝 いの 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 だと 分 かる しかし 負 担 度 をあまり 感 じていない 断 り 行 為 は タイ 人 は 誘 いに 対 する 断 り 行 為 日 本 人 は 物 の 借 用 の 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 だと 今 回 の 調 査 で 明 らかになった つまり タイ 人 と 日 本 人 の 依 頼 と 誘 い に 対 する 質 的 な 断 りの 意 識 が 異 な っていると 考 えられる これによって NNS が NS と 断 りの 接 触 場 面 を 行 う 場 合 には 言 語 問 題 のほか に 社 会 文 化 的 違 いによる 問 題 が 起 きると 予 想 される 5.3 アンケート 調 査 によるタイ 日 の 断 りの 意 識 について 上 記 で 述 べたが このアンケート 調 査 は 全 15 項 目 中 第 1~5 項 目 は 誘 いに 対 する 断 りの 発 話 行 為 第 6~10 項 目 は 物 の 借 用 の 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 そして 第 11~15 項 目 は 手 伝 いの 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 である これらの 分 類 で タイ 人 と 日 本 人 の 意 識 は 以 下 のようにまとめるこ とができる 2 1.5 1 0.5 0 平 均 値 の 差 散 歩 への 誘 い 図 書 館 への 誘 い 映 画 への 誘 い 遊 園 地 への 誘 い 海 外 旅 行 への 誘 い タイ 人 の 平 均 値 日 本 人 の 平 均 値 図 2 タイ 人 と 日 本 人 の 誘 いに 対 する 断 りの 負 担 の 度 合 い タイ 人 と 日 本 人 の 誘 い に 対 する 断 り 行 為 の 負 担 の 度 合 いをみると 両 者 の 値 が 大 きく 異 なって いると 分 かる まず タイ 人 は 図 書 館 への 誘 い に 対 して 断 りを 行 う 際 に 負 担 の 度 合 いを 一 番 に 大 きく 感 じると 考 えられる それと 比 べると 他 の 四 項 目 は 平 均 値 が 1 未 満 で あまり 負 担 を 感 じて いないという 結 果 になっている しかし 日 本 人 は 映 画 への 誘 い と 遊 園 地 への 誘 い に 対 して 断 りを 行 う 際 に 負 担 を 大 きく 感 じており 図 書 館 への 誘 い 散 歩 への 誘 い に 対 してはあまり 負 担 を 感 じていないと 考 えられる 両 者 を 比 較 すると 散 歩 への 誘 い に 対 する 断 りの 負 担 の 度 合 いの 差 があまり 見 られないものの 図 書 館 への 誘 い 映 画 への 誘 い 遊 園 地 への 誘 い そして 海 外 旅 行 への 誘 い に 対 する 断 りの 負 担 の 度 合 いの 差 が 大 きく 異 なっている 103
タイでは 映 画 への 誘 い 遊 園 地 への 誘 い そして 海 外 旅 行 への 誘 い に 対 して 断 ってもあま り 罪 悪 感 を 感 じないと 思 われる したがって お 金 がかかる 誘 い を 断 る 際 にはあまり 負 担 を 感 じら れないようである お 金 がかかる 誘 い に 対 する 断 りの 負 担 の 度 合 いが 低 いため 相 手 フェイスを 脅 かす 度 合 いが 低 くなる 原 因 ではないかと 考 えられる しかし 図 書 館 への 誘 い は 今 回 調 査 を 行 った 大 学 では 図 書 館 を 利 用 する 際 には 学 生 証 の 他 に 図 書 カードを 持 っていなければならないという 規 則 があって そして 一 週 間 で 一 人 3 冊 までしか 借 りることができない そのため 友 達 に 図 書 館 への 誘 い をされたら それは 自 分 の 図 書 カード を 借 用 したい または 図 書 館 から 3 冊 以 上 の 本 を 借 りたいため 自 分 を 誘 っていると 感 じる とタイ 人 被 調 査 者 の 話 によって 分 かった よって 図 書 館 への 誘 い に 対 する 断 りは 誘 い と 同 時 に 図 書 カードの 借 用 の 依 頼 という 二 重 断 りになってしまう 傾 向 があるのである 日 本 の 大 学 では 学 生 証 があれば 借 りられることが 多 いため このような 二 重 断 りだとは 考 えられないだろう 次 に 日 本 人 が 映 画 への 誘 い 遊 園 地 への 誘 い そして 海 外 旅 行 への 誘 い に 対 してタイ 人 より 断 りの 負 担 の 度 合 いが 高 くなっているのは 日 本 人 は お 金 がかかる 誘 いかつ 遊 び 感 覚 の 誘 い は 仲 のいい 友 達 しか 誘 わないため 断 ってしまうと それは 相 手 のポジティブ フェイスを 侵 害 す ることになると 強 く 感 じているからだと 考 えられる 3 2 1 0 平 均 値 の 差 本 借 用 の 依 頼 スーツ 借 用 の 依 頼 1 万 円 借 用 の 依 頼 CP 借 用 の 依 頼 車 借 用 の 依 頼 タイ 人 の 平 均 値 日 本 人 の 平 均 値 図 3 タイ 人 と 日 本 人 の 物 の 借 用 の 依 頼 に 対 する 断 りの 負 担 の 度 合 い タイ 人 と 日 本 人 の 物 の 借 用 の 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 の 負 担 の 度 合 いは 値 が 異 なっているもの の 傾 向 は 同 じように 見 られる しかし タイ 人 は 日 本 人 よりも 全 ての 項 目 の 断 りの 負 担 の 度 合 いが 高 い つまり タイ 人 は 日 本 人 よりも 物 の 借 用 の 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 の 負 担 を 強 く 感 じてい ると 考 えられる 3 2 1 0 平 均 値 の 差 論 文 の 手 伝 い 引 越 しの 手 伝 い 結 婚 式 の 手 親 戚 のお 葬 式 空 港 までの 送 り の 依 頼 の 依 頼 伝 いの 依 頼 の 手 伝 いの 依 頼 迎 えの 依 頼 タイ 人 の 平 均 値 日 本 人 の 平 均 値 図 4 タイ 人 と 日 本 人 の 手 伝 いの 依 頼 に 対 する 断 り 負 担 の 度 合 い 手 伝 いの 依 頼 に 対 する 断 り 行 為 の 負 担 の 度 合 いでは タイ 人 と 日 本 人 の 傾 向 が 似 ていると 分 か 104
る しかしながら タイ 人 の 方 が 手 伝 いの 依 頼 を 断 る 際 に 負 担 を 感 じているようである 誘 い や 物 の 借 用 の 依 頼 よりも 負 担 度 が 高 くなっているのは お 金 と 関 係 していないからだと 思 われる 手 伝 う という 行 為 は お 金 がなくても 体 力 と 時 間 があればできる 行 為 であるため タイ 人 にとっ ては 断 るのは 負 担 度 が 高 いと 考 えられる 引 越 し に 関 しては 日 本 では 引 越 し 業 者 を 依 頼 することが 多 いので 手 伝 わなくてもいい 場 合 が 多 い タイでは 業 者 に 引 越 しを 依 頼 するのはまだ 主 流 ではなく 親 戚 や 友 達 が 手 伝 って 引 越 しを 行 うことのほうが 多 い よって タイ 人 と 日 本 人 の 引 越 し に 関 する 意 識 は 他 の 手 伝 いの 依 頼 を 断 る 行 為 の 負 担 度 よりも 差 があると 考 えられる そして 空 港 までの 送 り 迎 え の 依 頼 に 関 しては 日 本 人 の 場 合 単 独 に 行 う( 例 えば 自 分 で バスや 電 車 で 空 港 まで 行 く)ことが 多 く 断 る 負 担 度 が 低 くなっていると 考 えられる タイでは バンコク 以 外 空 港 までには 車 やタクシー バスでしか 行 けないため 車 を 持 っている 友 達 に 依 頼 することが 考 えられる 従 って 日 本 人 より 断 る 負 担 度 が 少 し 高 いという 結 果 になったと 考 えられる 6. 結 論 今 回 のアンケート 調 査 の 結 果 によると タイ 人 と 日 本 人 が 負 担 をあまり 感 じていない 断 り 行 為 は タイ 人 は 誘 いに 対 する 断 り 日 本 人 は 物 の 借 用 の 依 頼 に 対 する 断 り であった つまり タイ 人 と 日 本 人 の 誘 い と 依 頼 に 対 する 断 りの 意 識 が 異 なっていると 考 えられる 従 って 接 触 場 面 で 断 りを 行 う 際 には 断 る 側 が 自 文 化 の 意 識 のままで 断 りをすると 異 文 化 の 話 し 相 手 のフェイスを 傷 付 けることになりかねない また 誘 い 依 頼 側 も 異 文 化 の 話 し 相 手 の 意 識 を 理 解 していないで 誘 い や 依 頼 を 行 うと コミュニケーション 上 社 会 文 化 的 な 意 識 の 問 題 が 生 じる 可 能 性 が 高 い よって 断 りの 意 識 に 関 して タイ 日 の 誘 い と 依 頼 の 接 触 場 面 ではより 深 く 注 意 をはらう 必 要 がある 今 後 の 課 題 として 日 本 語 教 育 の 場 で 誘 い 依 頼 と 断 り の 項 目 などに 今 回 の 調 査 結 果 をどのように 取 り 入 れるかを 検 討 したい 注 (1) 丁 寧 さ と 訳 される 場 合 もあるが 体 系 としての 敬 語 と 混 同 を 防 ぐために 最 近 は 片 仮 名 で 表 記 されているので 本 稿 も 片 仮 名 表 記 とする (2) タイでは 同 じ 内 容 のタイ 語 版 のアンケートで 調 査 を 行 った (3) 項 目 1,6,11 は 伊 藤 (2005) 頼 (2005) 祭 (2005)の 研 究 を 基 に 設 定 した 質 問 項 目 である そ れ 以 外 は 筆 者 が 両 国 の 生 活 で 想 定 される 場 面 をまとめた 質 問 項 目 である 105
参 考 文 献 伊 藤 恵 美 子 (2005) マレー 文 化 圏 における 断 り 表 現 の 比 較 ジャワ 語 インドネシア 語 マレーシア 語 の 発 話 の 順 序 に 関 して 国 際 開 発 研 究 フォーラム 29 号 pp15-27 伊 藤 恵 美 子 (2008) マレー 語 母 語 話 者 の 依 頼 に 対 する 返 答 日 本 語 の 習 得 過 程 を 探 る 試 み 異 文 化 コミュニケーション 研 究 20 号 pp1-19 尾 崎 喜 光 (2005) 依 頼 行 動 と 感 謝 行 動 の< 関 係 >に 関 する 日 韓 対 照 社 会 言 語 科 学 第 8 巻 第 1 号 pp106-119 加 藤 好 崇 (2002) インタビュー 接 触 場 面 における 規 範 の 研 究 東 海 大 学 紀 要 留 学 生 教 育 セ ンター 22 号 pp21-40 加 藤 好 崇 (2011) 異 文 化 接 触 場 面 のインターアクション 日 本 語 母 語 話 者 と 日 本 語 非 母 語 話 者 のインターアクション 規 範 東 海 大 学 出 版 会 川 口 義 一 / 蒲 谷 宏 / 坂 本 惠 (2002) 待 遇 表 現 としての 誘 い 早 稲 田 大 学 日 本 語 教 育 研 究 創 刊 号 早 稲 田 大 学 大 学 院 日 本 語 教 育 研 究 科 pp21-30 権 英 秀 (2008) 断 り 表 現 の 分 析 方 法 : フェイス 複 合 現 象 紹 介 現 代 社 会 文 化 研 究 43 号 pp225-242 蔡 胤 柱 (2005) 日 本 語 母 語 話 者 のEメールにおける 断 り 待 遇 コミュニケーション の 観 点 か ら 早 稲 田 大 学 日 本 語 教 育 研 究 7 号 pp95-108 滝 浦 真 人 (2008) ポライトネス 入 門 Politeness 研 究 社 滝 浦 真 人 (2008) ポライトネスから 見 た 敬 語, 敬 語 から 見 たポライトネス その 語 用 論 的 相 対 性 を めぐって 社 会 言 語 科 学 第 11 巻 第 1 号 pp23-38 都 恩 珍 崔 善 美 (2010) 断 り に 対 する 応 答 の 意 味 公 式 - 日 本 語 母 語 話 者 と 中 国 人 韓 国 人 日 本 語 学 習 者 の 事 例 比 較 - 桜 花 学 園 大 学 人 文 学 部 研 究 紀 要 第 12 号 ネウストプニー, J.V. 宮 崎 里 司 (2002) 言 語 研 究 の 方 法 言 語 学 日 本 語 学 日 本 語 教 育 学 に 携 わ る 人 のために くろしお 出 版 頼 美 麗 (2005) 依 頼 における お 詫 び 謝 罪 型 表 現 に 関 する 考 察 : 日 本 語 母 語 話 者 と 台 湾 人 日 本 語 学 習 者 を 対 象 に 早 稲 田 大 学 日 本 語 教 育 研 究 6 号 pp63-77 Brown,P. and Levinson,S.C.(1987)Politeness : Some Universals in Language Usage(Studies in Interactional Sociolinguistics)Cambridge University Press. 106