心 房 細 動 について 1.はじめに 心 臓 は 全 身 に 酸 素 や 栄 養 素 を 含 んだ 血 液 を 供 給 するポンプであり 生 命 を 維 持 する 上 でもっとも 重 要 な 働 きをしています 心 臓 には 刺 激 伝 導 系 と 言 われる 電 気 回 路 があり 心 臓 の 協 調 した 動 きを 制 御 しています 心 臓 の 電 気 興 奮 は 洞 結 節 といわれる 右 心 房 の 上 部 に ついている 部 分 から 発 し それが 中 継 地 点 である 房 室 結 節 を 通 り 心 室 を 興 奮 させます 心 房 細 動 はこういった 心 臓 の 統 制 をみだし 動 悸 や 息 切 れ 呼 吸 困 難 など の 様 々な 症 状 を 引 き 起 こします また 心 臓 内 の 血 液 もよどんでしまうため 脳 梗 塞 の 原 因 ともなります 治 療 法 には 薬 物 療 法 とカテーテルアブレーショ ンがあります カテーテルアブレーションはまだ 脳 梗 塞 の 予 防 効 果 に 対 して ははっきりとした 実 績 はありませんが 動 悸 などの 症 状 の 改 善 には 強 力 な 効 果 を 発 揮 します 2. 心 房 細 動 の 発 生 のメカニズム 心 房 細 動 を 発 生 させる 土 台 として 肺 静 脈 が 重 要 であるということが 1990 年 代 後 半 に 分 かるようになりました [ 参 考 文 献 1] 肺 静 脈 とは 左 心 房 に 通 常 4 本 付 着 している 血 管 です 肺 静 脈 から 電 気 的 興 奮 が 激 烈 に 起 こり そ れが 心 房 細 動 を 引 き 起 こすことが 様 々な 研 究 から 明 らかになりました その ため 近 年 肺 静 脈 をターゲットとしたカテーテルアブレーションが 盛 んに 行 わ れるようになっています 3. 心 房 細 動 に 対 するカテーテル 治 療 ( 肺 静 脈 隔 離 術 ) カテーテルをつかって 二 本 ずつ 肺 静 脈 を 取 り 囲 むよう 焼 灼 することで 肺 静 脈 から 発 生 した 電 気 的 興 奮 が 心 臓 に 入 ってこないように 通 せんぼするように 心 筋 を 焼 灼 (しょうしゃく)します [ 参 考 文 献 2] これを 肺 静 脈 隔 離 術 といい ます 肺 静 脈 隔 離 術 は 施 行 にあたっては 解 剖 の 情 報 が 非 常 に 重 要 ですか
ら 最 新 の 3D mapping system(carto システムや EnSite システム)をしば しば 使 います 心 房 細 動 のなかには 肺 静 脈 とは 関 連 が 少 ないタイプも 存 在 するため ケー スによって 異 なりますが この 治 療 法 により 80% 前 後 の 成 功 率 が 見 込 まれま す ただし 一 回 だけの 治 療 では 不 十 分 な 症 例 も 10-20% 前 後 あり 複 数 回 のカテーテル 治 療 を 必 要 とする 症 例 もあります 参 考 文 献 1. Haïssaguerre M, Jaïs P, Shah DC, Takahashi A, Hocini M, Quiniou G, Garrigue S, Le Mouroux A, Le Métayer P, Clémenty J. Spontaneous initiation of atrial fibrillation by ectopic beats originating in the pulmonary veins. N Engl J Med. 1998 Sep 3;339(10):659-66. 2. Ouyang F, Bänsch D, Ernst S, Schaumann A, Hachiya H, Chen M, Chun J, Falk P, Khanedani A, Antz M, Kuck KH. Complete isolation of left atrium surrounding the pulmonary veins: new insights from the double-lasso technique in paroxysmal atrial fibrillation. Circulation. 2004 Oct 12;110(15):2090-6.
発 作 性 上 室 性 頻 拍 症 通 常 型 心 房 粗 動 などのカテーテ ル 治 療 (カテーテルアブレーション) アブレーション 治 療 とは 心 臓 の 拍 動 リズムに 異 常 を 来 して 脈 拍 数 が 多 くな る 頻 脈 性 不 整 脈 という 病 気 に 対 して 行 われる 治 療 法 です 足 の 付 け 根 な どの 太 い 血 管 から 治 療 用 のカテーテルを 挿 入 して 心 臓 の 内 側 から 不 整 脈 の 原 因 となっている 部 分 を 高 周 波 電 流 で 焼 き 切 ります アブレーションカテ ーテルの 先 端 には 金 属 のチップが 付 いており 高 周 波 電 流 を 流 して 通 電 し ます 通 電 に 伴 いカテーテルの 先 端 は 50-60 に 上 昇 します 一 回 の 通 電 では 通 常 半 径 5mm 程 度 の 小 さい 範 囲 しか 焼 灼 できないため 症 例 によっ ては 多 く 通 電 する 必 要 があります 手 術 の 所 要 時 間 成 功 率 手 術 にとも なう 危 険 はケースによって 様 々です 手 術 後 には 5-6 時 間 程 度 の 安 静 が 必 要 ですが 手 術 翌 日 には 通 常 通 り 歩 行 も 可 能 です 図 :アブレーションカテーテルと 高 周 波 通 電 発 作 性 上 室 性 頻 拍 症 や 通 常 型 心 房 粗 動 などの 疾 患 はカテーテルアブレー ションのよい 適 応 症 であり 90% 以 上 の 高 い 成 功 率 があり 合 併 症 も 比 較 的 少 なく 治 療 できます
不 整 脈 用 カテーテル 不 整 脈 治 療 用 カテーテル
当 院 では 頻 脈 性 不 整 脈 に 対 して 2008 年 12 月 より 不 整 脈 専 用 のコンピュー タ( 電 気 生 理 検 査 記 録 解 析 装 置, 3D mapping system)を 用 いて 治 療 を 行 って います 一 度 外 来 を 受 診 していただき 自 分 の 持 つ 不 整 脈 に 応 じた 検 査 治 療 をご 相 談 下 さい
心 房 細 動 に 対 するカテーテルアブレーション 1.カテーテルアブレーションとは 足 の 付 け 根 や 肩 首 などの 血 管 から 数 本 のカテーテルを 挿 入 し 心 臓 の 電 気 の 流 れを 調 べたり 不 整 脈 を 誘 発 したりします 心 房 細 動 のアブレーション では 心 房 中 隔 穿 刺 法 という 方 法 を 用 い 右 心 房 と 左 心 房 の 間 の 壁 に 小 さな 穴 をあけて 左 心 房 にカテーテルをいれ 肺 静 脈 の 周 囲 などを 焼 灼 (しょう しゃく) します アブレーションカテーテルの 先 端 には 金 属 のチップが 付 いており 高 周 波 電 流 を 流 して 通 電 します 通 電 に 伴 いカテーテルの 先 端 は 50-60 に 上 昇 し ます 一 回 の 通 電 では 通 常 半 径 5mm 程 度 の 小 さい 範 囲 の 心 筋 しか 焼 灼 で きないため 症 例 によっては 多 く 通 電 する 必 要 があります 心 房 細 動 の 治 療 で 使 用 するアブレーションカテーテルは 先 端 からスプリンクラーのように 水 がでるようになっており カテーテルの 先 端 が 熱 くなりすぎて 血 栓 がついたり するのを 予 防 します 図 :アブレーションカテーテルと 高 周 波 通 電 手 術 時 間 は 比 較 的 長 く 痛 みも 伴 うため 術 中 は 軽 い 麻 酔 薬 を 使 います ま た 左 心 房 の 後 ろ 側 には 食 道 があり 通 電 に 伴 い 食 道 や 食 道 と 並 走 する 神 経 などを 痛 めてしまうことがあるため 手 術 中 は 鼻 を 通 して 食 道 の 温 度 を 測 るカテーテルを 入 れます 手 術 の 所 要 時 間 の 目 安 は 発 作 性 心 房 細 動 なら 3-4 時 間 です 持 続 性 心 房 細 動 の 場 合 は 追 加 治 療 をすることが 多 く 5-6 時 間 を 必 要 とします 手 術 後 には 5-6 時 間 程 度 の 安 静 が 必 要 ですが 手 術 翌 日 には 歩 行 も 可 能 です
2. 合 併 症 手 術 に 伴 う 危 険 性 のことを 合 併 症 といいます カテーテル 治 療 は 開 胸 手 術 ではありません 合 併 症 を 起 こす 可 能 性 は 一 般 的 にも 低 いですが ゼロに できないのが 現 状 です [ 参 考 文 献 1] 主 なものは 以 下 のとおりです 1. 心 タンポナーデ カテーテルの 操 作 や 通 電 に 伴 い 心 臓 の 壁 に 傷 がつき 心 臓 の 外 側 に 出 血 を 起 こすことがあります 血 液 が 心 臓 の 外 にたまってくると 心 臓 の 動 きが 制 限 され 血 圧 が 低 下 したり 心 不 全 を 起 こす 原 因 となりま す このような 合 併 症 を 心 タンポナーデといいます 発 生 率 はおよそ 百 分 の 一 です 処 置 としては 心 臓 の 外 側 にドレーンという 管 をいれ て 溜 まった 血 液 をぬいてあげれば 通 常 は 十 分 ですが 稀 なケースで は 開 胸 手 術 が 必 要 なこともあります 2. 血 栓 症 塞 栓 症 カテーテルの 先 端 の 温 度 が 上 昇 し 血 栓 を 作 り それが 脳 などのほ かの 臓 器 に 飛 んでしまうことがあります 発 生 率 は 低 く 一 般 的 には 0.2%です 3. 食 道 合 併 症 左 心 房 の 後 ろ 側 には 食 道 があり 通 電 に 伴 い 食 道 や 食 道 と 並 走 す る 神 経 などを 痛 めてしまうことがあります ケースによっては 胃 が 拡 張 して 膨 満 感 を 自 覚 することがあります 手 術 中 は 鼻 を 通 して 食 道 の 温 度 を 測 るカテーテルを 入 れ 食 道 温 が 上 昇 した 場 合 は 通 電 をいった んやめたりして 合 併 症 を 防 ぎます 4. 不 整 脈 の 再 発 心 房 細 動 のカテーテルアブレーションは 他 の 治 療 に 比 べて 比 較 的 広 範 囲 の 焼 灼 を 必 要 とします そのため 治 療 後 は 心 臓 に 炎 症 を 起 こし 様 々な 不 整 脈 をひきおこしてしまうことがあります その 確 率 は およそ 30% 前 後 にもなります [ 参 考 文 献 2] こういった 比 較 的 早 期 に 発 生 する 不 整 脈 にかんしては 炎 症 がおさまるまで 薬 物 や 電 気 ショッ ク 治 療 などで 対 応 することにしています ただし どうしても 不 整 脈 が 収 まらない 場 合 や 3ヶ 月 以 上 経 過 し 炎 症 が 収 まった 状 態 でも 不 整 脈 が 出 る 場 合 はもう 一 度 カテーテルアブレーションをおすすめすること があります
5. 肺 静 脈 狭 窄 以 前 は 肺 静 脈 の 中 を 焼 灼 していたため 焼 灼 にともなって 血 管 が 狭 窄 してしまう 現 象 が 見 られることがありました しかし 最 近 は 静 脈 の 中 よりむしろ 左 心 房 側 を 大 きく 隔 離 する 方 法 が 成 績 もよく 主 流 になり ました [ 参 考 文 献 3] 現 在 は 治 療 が 必 要 になるほどの 重 篤 な 肺 静 脈 狭 窄 はほとんど 起 こらないと 考 えます 参 考 文 献 1. Cappato R, Calkins H, Chen SA, Davies W, Iesaka Y, Kalman J, Kim YH, Klein G, Natale A, Packer D, Skanes A, Ambrogi F, Biganzoli E. Updated worldwide survey on the methods, efficacy, and safety of catheter ablation for human atrial fibrillation. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2010 Feb 1;3(1):32-8. 2. Lellouche N, Jaïs P, Nault I, Wright M, Bevilacqua M, Knecht S, Matsuo S, Lim KT, Sacher F, Deplagne A, Bordachar P, Hocini M, Haïssaguerre M. Early recurrences after atrial fibrillation ablation: prognostic value and effect of early reablation. J Cardiovasc Electrophysiol. 2008 Jun;19(6):599-605. 3. Arentz T, Weber R, Bürkle G, Herrera C, Blum T, Stockinger J, Minners J, Neumann FJ, Kalusche D. Small or large isolation areas around the pulmonary veins for the treatment of atrial fibrillation? Results from a prospective randomized study. Circulation. 2007 Jun 19;115(24):3057-63. 文 責 吉 谷 和 泰 Copyright(C) by Department of the circulatory organs, Hyogo Prefectural Amagasaki Hospital. All Rights Reserved.