四 天 王 寺 大 学 紀 要 第 60 号 (2015 年 9 月 ) 幼 児 教 育 保 育 分 野 における 発 達 障 害 関 連 科 目 の 授 業 効 果 に 関 する 研 究 Effect of a subject associated with developmental disorder in the fields of preschool education and childcare 小 川 圭 子 森 口 由 佳 子 Keiko OGAWA Yukako MORIGUCHI 要 旨 文 部 科 学 省 の 特 別 支 援 教 育 体 制 整 備 等 状 況 調 査 結 果 より 幼 児 教 育 における 発 達 障 害 の ある 子 どもの 保 育 は 急 務 であることが 報 告 され 支 援 体 制 の 整 備 や 養 成 課 程 の 見 直 しが 課 題 で ある 本 研 究 では 保 育 者 養 成 校 の 必 修 科 目 である 障 害 児 保 育 ( 演 習 )の 授 業 でどのような 授 業 内 容 が スキルアップにつながるのかを 把 握 するために 質 問 紙 を 使 用 して 発 達 障 害 児 の 知 識 子 どもの 保 育 上 の 対 応 就 学 先 の 決 定 園 内 の 協 力 体 制 に 関 する28 項 目 につい て 5 件 法 で 習 熟 度 を 測 った 初 回 授 業 時 における 学 生 の 習 熟 度 と 最 終 授 業 を 終 えた 際 の 習 熟 度 の 比 較 および 学 生 の 受 講 過 程 の 変 容 から 特 別 支 援 教 育 の 一 環 である 発 達 障 害 児 保 育 の 理 解 促 進 をめざした 授 業 内 容 の 有 効 性 を 検 討 した その 結 果 学 生 が 講 義 を 聴 くことや 演 習 を することで 習 熟 度 は 高 くなっていた 特 に 言 葉 かけ 絵 カード 行 事 参 加 法 他 の 子 をたたいた 時 遊 びの 種 類 指 導 の 計 画 居 場 所 作 り などの 実 践 項 目 に 関 する 習 熟 度 が 高 くなっていた キーワード: 障 害 児 保 育 質 問 紙 調 査 授 業 効 果 学 生 習 熟 度 Ⅰ.はじめに 文 部 科 学 省 の 平 成 19 年 度 特 別 支 援 教 育 体 制 整 備 等 状 況 調 査 結 果 について (2008)では 小 中 学 校 に 比 して 幼 稚 園 高 等 学 校 における 体 制 整 備 に 遅 れが 見 られる と 指 摘 されている また 2010 年 4 月 発 表 の 文 部 科 学 省 平 成 21 年 度 特 別 支 援 教 育 体 制 整 備 等 状 況 調 査 結 果 につい て においても 同 様 の 指 摘 がなされている 幼 児 期 における 障 害 のある 子 どもの 保 育 は 将 来 の 自 立 と 社 会 参 加 のために 必 要 となるさま ざまな 力 を 育 む 上 での 基 盤 を 形 成 する そのため 一 貫 した 教 育 や 支 援 の 出 発 点 となる 幼 児 期 における 指 導 支 援 を 充 実 させることは 極 めて 重 要 であり( 柳 澤,2009) 障 害 のある 子 ども の 社 会 性 認 知 運 動 コミュニケーションの 発 達 を 促 し(Baikey&Wolery,1992) 二 次 的 に 生 じる 障 害 の 予 防 につながる 学 校 教 育 法 に 基 づき 文 部 科 学 省 が 示 している 幼 稚 園 教 育 要 領 には 教 育 課 程 の 編 成 や 指 導 計 画 の 作 成 にあたっては 各 幼 稚 園 が 従 わなくてはならない 保 育 内 容 が 示 されている 191
小 川 圭 子 森 口 由 佳 子 具 体 的 には 新 幼 稚 園 教 育 要 領 は 旧 幼 稚 園 教 育 要 領 ( 以 下 旧 要 領 )の 連 携 の 相 手 が 家 庭 及 び 専 門 機 関 から 新 要 領 では 特 別 支 援 学 校 医 療 福 祉 などの 業 務 を 行 う 関 係 機 関 に 変 更 されており 関 連 分 野 との 連 携 が 強 調 されている 次 に 旧 要 領 では 障 害 の 種 類 程 度 に 応 じる 指 導 は 特 殊 教 育 が 対 象 とした 障 害 の 範 疇 であったが 新 要 領 では 幼 児 の 障 害 の 状 態 とし 子 ども 一 人 一 人 の 教 育 的 ニーズに 応 えることを 示 している さらに 旧 要 領 では 交 流 の 機 会 とし 幼 稚 園 に 在 籍 する 障 害 児 を 含 めたすべての 子 どもと 盲 聾 養 護 学 校 に 在 籍 する 障 害 児 との 交 流 教 育 の 必 要 性 を 示 していたが 新 要 領 では 活 動 を 共 にする 機 会 と して 協 同 学 習 の 必 要 性 に 転 換 している また 指 導 内 容 や 指 導 方 法 の 工 夫 を 計 画 的 組 織 的 に 行 うこと とし 担 任 教 諭 (もしくは 加 配 教 諭 ) 一 人 で 障 害 児 の 指 導 を 抱 え 込 むのではな く 園 内 全 体 を 挙 げて 指 導 に 取 り 組 むことを 求 めていることを 示 唆 している( 國 本,2008) 次 に 厚 生 労 働 省 が 保 育 所 保 育 の 理 念 や 保 育 内 容 保 育 方 法 などを 示 めした 保 育 所 保 育 指 針 では 保 育 所 は 制 度 変 遷 に 伴 い 従 来 の 就 労 家 庭 の 乳 幼 児 に 対 する 保 育 を 中 心 とした 実 践 から 広 く 一 般 の 子 育 て 家 庭 へ 向 けた 支 援 を 担 うことになり その 機 能 が 拡 大 し 障 害 児 保 育 の 充 実 が 求 められるようになった 具 体 的 には 新 保 育 所 保 育 指 針 ( 以 下 新 指 針 )は 旧 保 育 所 保 育 指 針 ( 以 下 旧 指 針 )に 比 べて 章 構 成 が 大 きく 変 わった 旧 指 針 の 第 13 章 保 育 所 における 子 育 て 支 援 及 び 職 員 の 研 修 など が 新 指 針 の 第 6 章 保 護 者 に 対 する 支 援 となり 障 害 のあ る 子 どもの 保 護 者 に 対 する 支 援 の 必 要 性 を 強 調 している さらに 新 指 針 では 第 7 章 で 具 体 的 に 保 育 者 の 研 修 についてを 採 り 上 げ その 重 要 性 がより 一 層 強 調 されている このように 幼 稚 園 教 育 要 領 保 育 所 保 育 指 針 ともに 専 門 的 な 知 識 や 技 術 をもって 障 害 のある 子 どもを 指 導 援 助 するように 教 育 内 容 が 位 置 づけられている しかし 現 状 は 保 育 者 養 成 校 を 卒 業 して 保 育 者 になった 際 に 大 学 で 学 んだことが 実 際 に 活 かされていないため 多 くの 悩 みを 抱 えている 新 任 保 育 者 がいる 水 野 徳 田 (2008)によると 3 割 以 上 の 新 任 保 育 者 が 集 中 力 に 欠 ける 子 ども 落 ち 着 きのない 子 ども すぐに 保 育 室 をとび 出 してしまう 子 ども 排 泄 を 自 分 でできない 子 ども 等 保 育 者 の 指 示 を 理 解 できない 子 どもへの 対 応 がわからないた めに どのように 指 導 すればよいのかに 悩 み 自 信 を 無 くして 退 職 してしまう 者 がいる 実 態 が あることを 報 告 している つまり 概 論 で 学 んだ 知 識 をもとに 具 体 的 にどのように 子 どもの 特 性 を 把 握 し 保 育 すべきであるのかを 学 生 が 身 につけた 後 に 保 育 者 として 就 任 することが 重 要 である さらに 幼 稚 園 に 勤 務 して 1 年 以 内 の 保 育 者 を 対 象 にした 保 育 者 養 成 校 ( 以 下 養 成 校 )で 発 達 障 害 についてどの 程 度 学 び 調 査 時 に 発 達 障 害 をどう 認 識 しているかに 関 する 調 査 の 結 果 ( 小 川 水 野,2009) 養 成 校 では 発 達 障 害 についてさまざまな 科 目 で 学 習 していたが 聞 い たことがある 程 度 にとどまり 養 成 校 での 教 育 が 保 育 の 場 で 有 効 に 活 用 できるような 知 識 と して 残 っていないことが 明 らかにされている Ⅱ. 研 究 の 目 的 幼 児 教 育 における 発 達 障 害 のある 子 どもの 保 育 は 急 務 であることから 保 育 者 養 成 校 の 必 修 科 目 である 障 害 児 保 育 の 授 業 内 容 が 習 熟 度 の 向 上 につながるかを 初 回 授 業 時 における 192
幼 児 教 育 保 育 分 野 における 発 達 障 害 関 連 科 目 の 授 業 効 果 に 関 する 研 究 学 生 の 発 達 障 害 児 保 育 についての 習 熟 度 と 最 終 授 業 を 終 えた 際 の 学 生 の 発 達 障 害 児 保 育 につ いての 習 熟 度 の 比 較 検 討 により 把 握 することを 目 的 とする Ⅲ. 研 究 の 方 法 (1) 調 査 対 象 者 大 阪 府 内 の 私 立 B 大 学 私 立 S 大 学 の 2 施 設 の 保 育 者 養 成 課 程 をもつ 大 学 において 障 害 児 保 育 ( 2 年 次 開 講 科 目 )の 授 業 を 受 講 している 大 学 2 年 生 計 76 名 ( B 私 立 大 学 は 女 子 40 名 S 私 立 大 学 は 女 子 31 名 男 子 5 名 の 計 36 名 )を 対 象 に 質 問 紙 調 査 を 実 施 した 協 力 校 は 統 計 解 析 に 必 要 な 対 象 者 数 を 考 慮 し 選 定 した その 際 初 回 授 業 時 と 最 終 授 業 時 ともに 質 問 紙 調 査 に 回 答 した66 名 ( 回 収 率 87%)を 母 数 と して 表 示 した 教 員 が 授 業 終 了 後 にアンケート 調 査 について 説 明 をした 後 質 問 紙 を 配 布 し 個 別 回 収 した (2) 手 続 き 障 害 児 保 育 の 初 回 授 業 時 および 最 終 授 業 時 に 同 一 内 容 の 質 問 項 目 について 障 害 児 保 育 の 知 識 に 関 する 習 熟 度 調 査 を 行 った 授 業 内 容 は 項 目 に 含 まれた 事 項 について 基 本 的 知 識 の 提 供 および 映 像 視 聴 や 発 達 障 害 のある 子 どもの 遊 びのワークショップを 実 施 した 習 熟 度 の 判 定 は 授 業 前 と 授 業 後 に 同 一 の 質 問 項 目 をもちいた 得 点 の 比 較 から 行 った (3) 調 査 期 間 2013 年 4 月 ( 初 回 授 業 時 )と2013 年 7 月 ( 最 終 授 業 時 ) (4) 倫 理 的 配 慮 調 査 にあたり 研 究 目 的 方 法 倫 理 的 配 慮 公 表 の 方 法 について 文 書 を 用 いて 説 明 し 無 記 名 で 実 施 した なお 授 業 前 後 の 2 回 の 調 査 に 関 する 対 象 者 の 連 結 を 図 るため 中 学 3 年 生 の 担 任 の 名 前 と 高 校 3 年 生 の 担 任 の 名 前 の 両 方 の 記 入 を 求 めた (5) 調 査 項 目 質 問 紙 は 小 川 (2013)が 保 育 者 を 対 象 に 実 施 した 質 問 紙 調 査 と 同 様 の28 項 目 で 行 った 質 問 項 目 は 脳 機 能 養 育 環 境 早 期 発 見 障 害 の 種 類 と 代 表 的 な 障 害 である PDD アスペルガー 障 害 LD ADHD の 4 つ 相 談 機 関 言 葉 かけ 部 屋 の 飛 び 出 し 絵 カード 視 聴 覚 的 情 報 行 事 参 加 法 パニック 対 処 他 の 子 をたたいた 時 理 解 の 促 し 遊 びの 種 類 指 導 の 計 画 居 場 所 作 り 障 害 受 容 心 理 的 支 援 情 報 交 換 法 就 学 先 就 学 指 導 小 学 校 への 連 絡 同 僚 の 協 力 園 内 研 修 法 についてであった 評 定 ( 習 熟 度 得 点 )は 1. 非 常 によく 知 っている 2.やや 知 っている 3.どちら とも 言 えない 4.あまり 知 らない 5. 全 く 知 らない の 5 件 法 でおこなった 尚 統 計 解 析 は IBM SPSS Statistics 19.0Jによりおこなった 分 析 は 授 業 前 後 の 習 熟 度 得 点 に 関 し それぞれの 平 均 得 点 の 算 出 と その 統 計 値 の 散 らばり 具 合 をみる 為 の 標 準 偏 差 を 算 出 した また 授 業 前 後 の 統 計 値 の 差 をみる 為 に 対 応 のある t 検 定 をおこなった 193
小 川 圭 子 森 口 由 佳 子 Ⅳ. 結 果 および 考 察 初 回 授 業 時 における 習 熟 度 について 評 定 した( 表 1 参 照 ) その 結 果 学 生 が 発 達 障 害 児 保 育 についてどの 程 度 知 っているかを 数 値 化 した 平 均 値 4.0 以 上 で あまり 習 熟 されていない 度 合 いが 高 い 項 目 として [Ⅲ-⑵ 就 学 指 導 委 員 会 での 話 し 合 い] [Ⅱ-⑽ 指 導 計 画 の 立 案 方 法 ] [Ⅱ-⒀ 心 理 的 支 援 方 法 ] [Ⅳ-⑵ 園 内 研 修 のあり 方 や 進 め 方 ] [Ⅱ-⑹パニックの 際 の 対 処 ] [Ⅱ-⑿ 障 害 受 容 の 心 理 的 過 程 ]の 6 項 目 が 挙 げられた 特 に 子 どもへの 保 育 上 の 対 応 についての 習 熟 度 は 低 く 発 達 障 害 児 全 般 の 知 識 については 習 熟 度 は 高 かった このことは これまでに 保 育 者 養 成 校 で 科 目 名 称 は 異 なっても 重 複 した 内 容 がさまざまな 科 目 において 指 導 され( 上 野 松 川 小 柳,2005;OGAWA,2012) 保 育 実 践 に 活 かした 内 容 ではなかった つまり 保 育 者 養 成 校 でのカリキュラムは 障 害 の 種 類 や それらの 状 態 像 を 学 ぶといった 概 論 にとどまることが 多 く 学 生 が 卒 業 後 新 任 保 育 者 として 保 育 の 場 で 発 達 障 害 児 を 前 にした 時 にどのように 対 応 すればよいかといった 現 場 で 活 用 できる 具 体 的 な 方 法 が 十 分 に 教 えられていない( 小 林 小 沼 徳 田,2001)ことも 指 摘 されて 同 じ 傾 向 にあることは 本 研 究 でも 見 られた 表 1. 授 業 初 回 時 の 習 熟 度 (n=66) 平 均 値 標 準 偏 差 Ⅰ 障 害 児 ( 発 達 障 害 )の 知 識 ⑴ 脳 機 能 の 障 害 であってその 症 状 が 生 まれつきのものであること 2.79.90 ⑵ 養 育 環 境 に 問 題 があったために 起 きるものでないこと 2.79.89 ⑶ 早 期 に 障 害 を 発 見 し 適 切 な 療 育 教 育 を 行 うことの 効 果 2.97.80 ⑷ 発 達 障 害 に 含 まれる 障 害 の 種 類 3.24.93 ⑸ 発 達 障 害 のそれぞれの 特 性 1PDD( 広 汎 性 発 達 障 害 ) 3.94.80 2アスペルガー 3.12 1.07 3LD( 学 習 障 害 ) 3.02.98 4ADHD( 注 意 欠 陥 多 動 性 障 害 ) 2.88 1.05 ⑹ 保 育 者 が 相 談 できる 機 関 3.53.92 Ⅱ 子 どもの 保 育 上 の 対 応 について ⑴ 保 育 者 の 話 を 聞 けない 子 どもに 言 葉 をかけるときの 配 慮 の 方 法 3.82.78 ⑵ 活 動 の 途 中 で 部 屋 を 飛 び 出 してしまう 子 どもへの 対 応 3.86.74 ⑶ 絵 カードをどのような 時 に 活 用 すればよいのか 3.76.86 ⑷ 今 は 何 をする 時 なのか いつ 終 わるのかなど 視 覚 的 な 情 報 を 交 えて 指 示 を 出 す 方 法 3.77 1.01 ⑸ 行 事 ( 運 動 会 やお 遊 戯 会 など)にどのように 参 加 させたらよいのか 3.73.92 ⑹ パニックを 起 こした 際 の 対 処 法 4.06.86 ⑺ 周 りの 子 どもをたたいてしまったときの 注 意 の 方 法 3.33.92 ⑻ 他 の 子 どもたちに 発 達 障 害 児 について 理 解 をうながす 方 法 3.79.83 ⑼ 発 達 障 害 児 が 他 の 子 どもと 一 緒 に 遊 ぶことができるような 遊 びの 種 類 や 方 法 3.74.90 ⑽ 個 別 の 指 導 計 画 の 立 案 の 方 法 4.23.86 ⑾ 発 達 障 害 の 子 どものための 居 場 所 作 り の 方 法 3.94.94 ⑿ 発 達 障 害 児 を 持 つ 保 護 者 の 障 害 受 容 の 心 理 的 な 過 程 4.02.97 ⒀ 発 達 障 害 児 の 保 護 者 を 心 理 的 に 支 援 する 方 法 4.20.71 ⒁ 発 達 障 害 児 の 保 護 者 との 情 報 交 換 の 仕 方 3.80.95 Ⅲ 就 学 先 の 決 定 について ⑴ 就 学 先 をどうするかについて 保 護 者 と 何 をどのように 話 し 合 うか 3.94 1.12 ⑵ 就 学 指 導 委 員 会 でどのようなことが 話 し 合 われるのか 4.39.76 ⑶ 就 学 するにあたり 小 学 校 に 何 を 伝 えたらよいのか 3.88.99 Ⅳ 園 内 の 協 力 体 制 ⑴ 同 僚 の 保 育 者 とどのように 協 力 して 発 達 障 害 児 を 保 育 すべきか 3.97.82 ⑵ 保 育 の 資 質 を 向 上 させるための 園 内 研 修 のあり 方 や 進 め 方 4.14.78 194
幼 児 教 育 保 育 分 野 における 発 達 障 害 関 連 科 目 の 授 業 効 果 に 関 する 研 究 また 最 近 テレビ 等 のメディアで 発 達 障 害 について 取 り 上 げられる 機 会 が 多 くなってきた ため 聞 いたことはある 程 度 で 大 まかな 内 容 は 知 っていると 考 えられる しかし 幼 稚 園 保 育 所 認 定 こども 園 などの 保 育 の 場 で 具 体 的 にどのように 子 どもとかかわればよいのかに ついての 技 術 に 関 する 知 識 については 身 についていない 最 終 授 業 時 における 習 熟 度 について 評 定 した( 表 2 参 照 ) その 結 果 発 達 障 害 児 保 育 に 関 するすべての 項 目 について 習 熟 度 が 高 くなっていた 表 2. 授 業 最 終 回 時 の 習 熟 度 (n=66) 平 均 値 標 準 偏 差 Ⅰ 障 害 児 ( 発 達 障 害 )の 知 識 ⑴ 脳 機 能 の 障 害 であってその 症 状 が 生 まれつきのものであること 2.02.51 ⑵ 養 育 環 境 に 問 題 があったために 起 きるものでないこと 2.26.71 ⑶ 早 期 に 障 害 を 発 見 し 適 切 な 療 育 教 育 を 行 うことの 効 果 2.20.79 ⑷ 発 達 障 害 に 含 まれる 障 害 の 種 類 2.23.72 ⑸ 発 達 障 害 のそれぞれの 特 性 1PDD( 広 汎 性 発 達 障 害 ) 2.77.76 2アスペルガー 2.41.74 3LD( 学 習 障 害 ) 2.15.71 4ADHD( 注 意 欠 陥 多 動 性 障 害 ) 2.12.71 ⑹ 保 育 者 が 相 談 できる 機 関 2.76.81 Ⅱ 子 どもの 保 育 上 の 対 応 について ⑴ 保 育 者 の 話 を 聞 けない 子 どもに 言 葉 をかけるときの 配 慮 の 方 法 2.47.66 ⑵ 活 動 の 途 中 で 部 屋 を 飛 び 出 してしまう 子 どもへの 対 応 2.44.75 ⑶ 絵 カードをどのような 時 に 活 用 すればよいのか 2.05.59 ⑷ 今 は 何 をする 時 なのか いつ 終 わるのかなど 視 覚 的 な 情 報 を 交 えて 指 示 を 出 す 方 法 2.12.73 ⑸ 行 事 ( 運 動 会 やお 遊 戯 会 など)にどのように 参 加 させたらよいのか 2.53.79 ⑹ パニックを 起 こした 際 の 対 処 法 2.58.86 ⑺ 周 りの 子 どもをたたいてしまったときの 注 意 の 方 法 2.55.68 ⑻ 他 の 子 どもたちに 発 達 障 害 児 について 理 解 をうながす 方 法 2.55.66 ⑼ 発 達 障 害 児 が 他 の 子 どもと 一 緒 に 遊 ぶことができるような 遊 びの 種 類 や 方 法 2.26.66 ⑽ 個 別 の 指 導 計 画 の 立 案 の 方 法 2.58.79 ⑾ 発 達 障 害 の 子 どものための 居 場 所 作 り の 方 法 2.15.83 ⑿ 発 達 障 害 児 を 持 つ 保 護 者 の 障 害 受 容 の 心 理 的 な 過 程 2.32.73 ⒀ 発 達 障 害 児 の 保 護 者 を 心 理 的 に 支 援 する 方 法 2.50.69 ⒁ 発 達 障 害 児 の 保 護 者 との 情 報 交 換 の 仕 方 2.30.70 Ⅲ 就 学 先 の 決 定 について ⑴ 就 学 先 をどうするかについて 保 護 者 と 何 をどのように 話 し 合 うか 2.32.64 ⑵ 就 学 指 導 委 員 会 でどのようなことが 話 し 合 われるのか 2.85.75 ⑶ 就 学 するにあたり 小 学 校 に 何 を 伝 えたらよいのか 2.30.61 Ⅳ 園 内 の 協 力 体 制 ⑴ 同 僚 の 保 育 者 とどのように 協 力 して 発 達 障 害 児 を 保 育 すべきか 2.35.71 ⑵ 保 育 の 資 質 を 向 上 させるための 園 内 研 修 のあり 方 や 進 め 方 2.64.80 特 に 平 均 値 2.5 以 上 で 習 熟 度 の 平 均 値 が 高 かった 上 位 5 項 目 は [Ⅲ-⑵ 就 学 指 導 委 員 会 での 話 し 合 い] [Ⅰ-⑸-1PDD] [Ⅰ-⑹ 相 談 機 関 ] [Ⅳ-⑵ 園 内 研 修 のあり 方 や 進 め 方 ] [Ⅱ -⑹パニックの 際 の 対 処 ] [Ⅱ-⑽ 指 導 計 画 の 立 案 方 法 ] [Ⅱ-⑸ 行 事 参 加 法 ] [Ⅱ-⑺ 注 意 の 方 法 ] [Ⅱ-⑻ 理 解 を 促 す 方 法 ]であった 続 いて これら28 項 目 関 して 初 回 授 業 時 と 最 終 授 業 時 の 習 熟 度 得 点 の 比 較 ( 対 応 のあるt-test)を 行 った( 表 3 参 照 ) その 結 果 すべ ての 項 目 の 習 熟 度 得 点 に 有 意 差 が 認 められた(p<.001) 195
小 川 圭 子 森 口 由 佳 子 表 3. 授 業 初 回 時 と 最 終 時 の 習 熟 度 得 点 差 (n=66) [キーワード 表 示 ] 平 均 値 標 準 偏 差 t 値 自 由 度 p 値 Ⅰ 障 害 児 の 知 識 ⑴ 脳 機 能 0.77 0.97 6.45 65 <.001 ⑵ 養 育 環 境 0.53 1.08 3.97 65 <.001 ⑶ 早 期 発 見 0.77 0.93 6.79 65 <.001 ⑷ 障 害 の 種 類 1.02 1.14 7.21 65 <.001 ⑸ 特 性 : 1PDD 1.17 1.05 9.06 65 <.001 2アスペルガー 0.71 1.03 5.59 65 <.001 3LD 0.86 1.07 6.59 65 <.001 4ADHD 0.76 0.98 6.30 65 <.001 ⑹ 相 談 機 関 0.77 1.06 5.90 65 <.001 Ⅱ 子 どもの 保 育 上 の 対 応 ⑴ 言 葉 かけの 方 法 1.35 0.94 11.70 65 <.001 ⑵ 部 屋 飛 び 出 しへの 対 応 1.42 1.07 10.84 65 <.001 ⑶ 絵 カードの 活 用 1.71 1.08 12.90 65 <.001 ⑷ 視 覚 情 報 による 指 示 1.65 1.25 10.76 65 <.001 ⑸ 行 事 参 加 法 1.20 1.26 7.75 65 <.001 ⑹ パニックの 際 の 対 処 1.49 1.13 10.71 65 <.001 ⑺ たたいたときの 注 意 方 法 0.79 1.06 6.04 65 <.001 ⑻ 理 解 をうながす 方 法 1.24 1.04 9.72 65 <.001 ⑼ 遊 びの 種 類 や 方 法 1.49 1.10 10.98 65 <.001 ⑽ 指 導 計 画 の 立 案 方 法 1.65 1.09 12.33 65 <.001 ⑾ 居 場 所 作 り の 方 法 1.79 1.32 11.02 65 <.001 ⑿ 障 害 受 容 の 心 理 的 過 程 1.70 1.19 11.59 65 <.001 ⒀ 心 理 的 支 援 方 法 1.70 1.04 13.29 65 <.001 ⒁ 保 護 者 との 情 報 交 換 1.50 1.19 10.22 65 <.001 Ⅲ 就 学 先 の 決 定 ⑴ 就 学 先 についての 話 し 合 い 1.62 1.27 10.34 65 <.001 ⑵ 就 学 指 導 委 員 会 での 話 し 合 い 1.55 1.08 11.58 65 <.001 ⑶ 小 学 校 に 何 を 伝 えたらよいのか 1.58 1.14 11.25 65 <.001 Ⅳ 園 内 の 協 力 体 制 ⑴ 同 僚 の 保 育 者 との 協 力 1.62 1.13 11.62 65 <.001 ⑵ 園 内 研 修 のあり 方 や 進 め 方 1.50 1.10 11.09 65 <.001 代 表 的 な 4 疾 患 に 関 する 知 識 の 理 解 得 点 の 差 [ 表 3.Ⅰ-⑸ 特 性 ] よりも [Ⅱ-⑶ 絵 カー ドの 活 用 ] [Ⅳ-⑴ 同 僚 の 保 育 者 との 協 力 ] [Ⅲ-⑶ 小 学 校 に 何 を 伝 えたらよいのか] [Ⅳ- ⑵ 園 内 研 修 のあり 方 や 進 め 方 ] [Ⅱ-⑷ 視 覚 情 報 による 指 示 ]などの 実 践 的 な 項 目 得 点 が 上 昇 していた 特 に[Ⅲ-⑶ 小 学 校 に 何 を 伝 えたらよいのか]については 特 別 支 援 学 校 の 教 諭 を ゲスト 講 師 に 招 き 特 別 支 援 学 校 の 現 状 や 幼 稚 園 や 保 育 園 の 現 場 との 連 携 について 講 義 をして いただいたことで 得 点 が 上 昇 したと 考 えられる 表 3 より 初 回 授 業 時 と 最 終 授 業 時 の 比 較 では 最 終 授 業 時 に 初 回 授 業 時 よりも 全 項 目 で 習 熟 度 得 点 が 有 意 に 上 昇 していた [Ⅰ-⑹ 相 談 機 関 ]の 項 目 は 家 庭 との 連 携 が 求 められる 項 目 である 保 育 者 がどのような 相 談 機 関 があるかについて 知 らないで 発 達 障 害 児 保 育 教 育 をすることは 家 庭 との 連 携 上 におい ても 問 題 である また 発 達 障 害 児 の 自 立 のためには, 医 療 と 幼 稚 園 や 保 育 所 などの 保 育 現 場 が 専 門 性 を 発 揮 し 一 体 となって 子 どもの 生 活 を 支 援 することが 求 められる 項 目 である より 一 層 の 充 実 が 求 められる 項 目 であり 子 どもにとってもなくてはならない 不 可 欠 項 目 であ ると 考 える 学 修 の 効 果 について 学 生 が 講 義 を 受 けることや 演 習 を 行 うことで 習 熟 度 が 高 まっていた さらに そのことが 本 当 に 授 業 内 容 を 理 解 しているかどうかという 理 解 の 程 度 については 最 196
幼 児 教 育 保 育 分 野 における 発 達 障 害 関 連 科 目 の 授 業 効 果 に 関 する 研 究 後 の 筆 記 試 験 の 結 果 全 受 講 生 は 合 格 点 に 達 していたことから 確 認 できた これらのことから 発 達 障 害 児 保 育 について 学 生 として 習 得 すべき 障 害 時 保 育 を 実 施 する 技 術 に 必 要 なことについて 身 に 付 けることができたものと 思 われる Ⅴ. 今 後 の 課 題 15 回 の 授 業 の 結 果 を 分 析 したところ 学 生 の 習 熟 度 は 高 まっていたが 果 たしてこの 結 果 が 新 任 保 育 者 になった 際 に 実 務 を 行 う 上 で 十 分 なレベルに 達 しているのかどうか 定 かではない が 教 職 あるいは 保 育 職 を 目 指 す 学 生 にとって 必 要 なことは 発 達 障 害 に 関 する 十 分 な 知 識 で あり 特 別 支 援 教 育 に 対 する 高 い 意 識 である 今 後 学 生 が 授 業 や 実 習 を 経 験 するとどのような 変 化 が 見 られるのか さらに 新 任 保 育 者 になった 際 に 養 成 校 で 学 んだ 知 識 や 技 術 が 保 育 現 場 で 活 かせているかどうかについて 継 続 して 調 査 をしていきたい その 際 の 調 査 内 容 として 必 要 なことは 学 んだ 知 識 や 技 術 が 保 育 現 場 で 活 かすことができなかったのはなぜか どのような 場 面 で 活 かすことができたのか 等 であ る さらに 発 達 障 害 児 保 育 の 実 践 に 対 応 できるワークシートの 作 成 についても 検 討 していき たいと 考 えている 引 用 参 考 文 献 Bailey, D. &Wolery, M. (1992)Teaching infants and preschoolers with disabilities(2 nd edition). New York: Macmillan,34-62. 小 林 朋 子 小 沼 芳 明 徳 田 克 己 (2001) 保 育 者 養 成 校 における 障 害 児 への 対 応 に 関 する 授 業 内 容 の 検 討 Ⅰ - 授 業 方 法 とその 内 容 について-, 日 本 保 育 学 会 第 54 回 大 会 研 究 論 文 集,160-161. 國 本 真 吾 (2008) 幼 稚 園 教 育 要 領 保 育 所 保 育 指 針 の 改 訂 にみる 今 後 の 特 別 支 援 教 育 障 害 児 保 育 の 在 り 方, 鳥 取 短 期 大 学 研 究 紀 要,58,7-19. 厚 生 労 働 省 (2008) 保 育 所 保 育 指 針 解 説 書,フレーベル 館. 水 野 智 美 徳 田 克 己 (2008) 就 職 後 3 ヵ 月 の 時 点 における 新 任 保 育 者 の 職 場 適 応, 近 畿 大 学 臨 床 心 理 センター 紀 要,1,75-84. 文 部 科 学 省 (2008) 平 成 19 年 度 特 別 支 援 教 育 体 制 整 備 等 状 況 調 査 結 果 について, http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1294016.htm, 最 終 閲 覧 日 2015 年 2 月. 文 部 科 学 省 (2010) 平 成 21 年 度 特 別 支 援 教 育 体 制 整 備 等 状 況 調 査 結 果 について, http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1294016.htm, 最 終 閲 覧 日 2015 年 2 月. 文 部 科 学 省 (2008) 幼 稚 園 教 育 要 領 解 説 書,フレーベル 館. 小 川 圭 子 水 野 智 美 (2009) 保 育 者 養 成 校 で 扱 われている 発 達 障 害 に 関 する 内 容 - 発 達 障 害 に 関 する 新 任 保 育 者 の 知 識 と 困 り 感 との 関 係 から-. 障 害 理 解 研 究,11, 11-28. 小 川 圭 子 水 野 智 美 徳 田 克 己 (2010) 新 任 保 育 者 が 養 成 校 で 学 びたかった 発 達 障 害 に 関 する 教 育 内 容, 日 本 教 育 心 理 学 会 52 回 総 会 発 表 論 文 集,755. OGAWA Keiko(2012)Educational content relating to developmental disabilities in Childcare of disabled children taught in early childhood care and education training schools From analyzing syllabuses,the 197
小 川 圭 子 森 口 由 佳 子 Asian Journal of Child Care,3,41-51. 小 川 圭 子 (2013) 発 達 障 害 児 保 育 に 関 する 保 育 者 の 知 識 の 程 度 (2) 役 職 別 による 比 較 を 中 心 に. 兵 庫 教 育 大 学 幼 年 教 育 コース 幼 年 児 童 教 育 研 究,25, 号,13-22. 小 川 圭 子 (2014) 就 学 前 教 育 における 発 達 障 害 児 保 育 の 現 状 と 課 題. 梅 花 女 子 大 学 心 理 子 ども 学 部 研 究 紀 要, 第 4 号,1-11. 小 川 圭 子 矢 野 正 (2014) 保 育 実 践 にいかす 障 がい 児 の 理 解 と 支 援 嵯 峨 野 書 院. 小 川 圭 子 森 口 由 佳 子 (2014) 障 害 児 保 育 の 授 業 の 効 果 に 関 する 検 討 - 発 達 障 害 児 保 育 についての 授 業 前 後 の 習 熟 度 比 較 -, 日 本 学 校 心 理 士 会 2014 年 度 大 会 研 究 論 文 集,58-59. 上 野 ひろ 美 松 川 利 弘 小 柳 和 喜 雄 (2005) 教 員 養 成 におけるカリキュラム フレームに 関 する 予 備 的 研 究 - 米 国 英 国 独 逸 の 研 究 を 参 考 に-, 奈 良 教 育 大 学 教 育 実 践 総 合 センター 研 究 紀 要,14,147-155. 付 記 本 研 究 は 日 本 学 校 心 理 士 会 2014 年 度 研 究 大 会 (2014 年 8 月 8 日 文 教 大 学 )において 発 表 した 報 告 を もとに 加 筆 修 正 を 加 えたものである あとがき 本 研 究 は 2 名 の 執 筆 者 が 共 同 して 研 究 した 成 果 であり, 担 当 部 分 の 抽 出 はできない 198
幼 児 教 育 保 育 分 野 における 発 達 障 害 関 連 科 目 の 授 業 効 果 に 関 する 研 究 Effect of a subject associated with developmental disorder in the fields of preschool education and childcare Keiko OGAWA Yukako MORIGUCHI Abstract Special education system maintenance circumstantial research results from the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology reported that childcare for children with developmental disabilities in early childhood education is urgent, and maintenance of the support system and review of training course are some issues. In this research, in order to grasp what kind of lesson content in the Special needs nursing (practice), which is a mandatory course for childcare provider training school, lead to the skill improvement for the teachers, we measure the learning level of 28 items in knowledge of children with developmental disabilities, how to correspond in childcare for children, determining the school, and cooperation system in the kindergarten in a 5 point scale in a questionnaire survey. We examined the effectiveness of the lesson content that aims to promote the understanding of childcare for children with developmental disabilities, which is part of the special education by comparing the learning level at the first class and after the last class in the course and the change in the student through taking the course. As a result, the learning level of the student was higher after listening to the lectures and practicing. Especially, approaching, picture card, how to participate in events, when they hit other children, types of play, instruction plan, and giving them a place to be had a higher learning level for the practiced items. Based on these, certain knowledge and techniques on childcare of children with developmental disabilities that should be learned as a student are being acquired. Keyword: special needs nursing, questionnaire survey, students, lessons effect, learning level 199
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