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4 群 ( モバイル 無線 )- 1 編 ( 無線通信基礎 ) 2 章無線伝搬路 概要 無線通信では送受信間の伝送には電波を用いるが, 電波の伝送路は特に用意されているわけではない. これに対して, 有線の場合では同軸ケーブルや光ファイバケーブルといった最適に設計された伝送路が用いられる. 無線通信では伝送路を自前で用意するわけではないので, 自然界に形成される伝搬路の特性をよく理解してそれを最大限に活用する技術が要求される. この章では, 無線通信の品質を劣化させる主な要因である干渉や減衰, フェージングについて述べる. 表 2 1 に無線通信の劣化要因を示す. 電波干渉として, 同一チャネル干渉や隣接チャネル干渉はほかの通信で使われる電波による干渉であり, フェージングは自分自身の電波が起こす干渉である. また, 電波が減衰する要因には送受信間距離, 地物による遮へい, 降雨などがある. また, 表 2 1 以外の劣化要因として大気の屈折率の変化や大地 海面反射によるフェージング, 都市内の雑音, ほかシステムからの干渉などもある. 表 2 1 無線通信品質を劣化させる要因 本章の構成 本章では無線伝搬路において通信品質を劣化させる要因としてのチャネル干渉 (2-1 節 ), 電波の減衰 (2-2 節 ), フェージング (2-3 節 ) に関して, 発生のメカニズムと通信品質への影響を説明する. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 1/(5)

2-1 チャネル干渉 2-1-1 同一チャネル干渉同一チャネル干渉は主に自システムで同一の周波数を割り当てられた無線局からの干渉である. 携帯電話などの移動通信では, 周波数の有効利用を図るために同じ周波数は複数の基地局で繰り返し利用される. 同じ周波数はお互いに干渉しないように離れたセルで使用されるが, 地理的な条件や移動局の位置などにより同一周波数の干渉を受ける. この干渉を軽減するために, セル構成ではセルを複数のエリアに分けるセクタ化や, 基地局アンテナの主ビームを下向きにするビームチルト化が行われている. 同一チャネル干渉は同一周波数の他通信からの干渉であるが, 自分自身の電波でも干渉は起きる. この例として符号間干渉と MIMO(multi input multi output) におけるストリーム間干渉を説明する. 符号間干渉は電波の多重波伝搬によって送信された符号自身が干渉するものである. 移動通信で基地局から送信された電波は一般的に街中のビルなどによって反射, 散乱されて移動局に到達する. この現象は多重波伝搬と呼ばれ, 受信点には時間的に遅れた複数の電波が到達することになる. 受信信号は到達時間の異なる複数の電波の合成であるため, 送信された符号の時間間隔に対して伝搬遅延がある程度大きくなると隣接する符号どうしが干渉し合う. 符号間干渉への対策としては, 適応等化や誤り検出訂正が用いられる. MIMO は送信側と受信側に複数のアンテナを用意してそこにできる伝搬路を空間的に多重して通信する技術である. このため, 送信データを複数の情報信号 ( ストリーム ) に分割して, それらを複数のアンテナから同じ周波数帯域で同時伝送することが可能となる. ストリーム間干渉は, 送受信のアンテナの配置や伝搬路の状況によって各ストリームの伝搬路 ( この伝搬路は実際にできる物理的な伝搬路でなく MIMO の信号処理によって形成された仮想的な伝搬路 ) が直交しなくなったときに起こる干渉である. 2-1-2 隣接チャネル干渉隣接チャネル干渉は, 隣接するチャネルの側帯波スペクトルが自分のチャネルの受信帯域に入り込むことで起こる干渉である. 干渉の大きさは, 隣接チャネルとの周波数間隔や希望波と干渉波との DU 比, 隣接チャネルの周波数をカットするフィルタ特性などで決まる. 移動通信では一つの基地局のセル内に通信を行っている希望ユーザとその隣接チャネルを使う干渉ユーザとがいる. 希望ユーザが基地局から遠いセルの周辺にいて干渉ユーザが基地局近傍にいるときに,2 ユーザとも同じ送信出力で基地局に送信すると, 基地局側での受信で隣接チャネル干渉が発生しやすくなる. これを回避するために必要最低限度の送信電力に抑える送信電力制御が用いられる. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 2/(5)

2-2 電波の減衰 2-2-1 降雨減衰大気中を伝搬する電波は, 雨, 雪, 霧, みぞれなどによって吸収 散乱されて減衰する. 大きな雨滴は直径が数 mm にもなるためマイクロ波やミリ波帯といった高い周波数ではその影響が無視できず減衰が大きくなる. このため固定通信や衛星通信の無線回線設計では降雨減衰がマージンとして見込まれている. 降雨減衰量は雨滴の散乱によって求めることができ, 降雨強度や電波の周波数をパラメータとした計算値が求められている 1). 2-2-2 距離減衰移動通信での伝搬特性は, 図 2 1 に示すように距離に対する減衰 ( 長区間変動 ) に場所的な変動であるシャドーイング ( 短区間変動 ) やレイリーフェージング ( 瞬時変動 ) が重畳している 2) 図 2 1 移動通信における伝搬特性 移動通信の伝搬損失を推定するために従来から用いられてきた奥村 - 秦式 3) では, 送受信間距離の 3~4 乗で電波は減衰する. 最近の携帯電話システムでは, セル半径が 1km 以下で基地局高が低いマイクロセルが用いられている. また, 次世代のシステムでは現在の周波数 4) より高い周波数が用いられる. これらに対応して近年ではマイクロセルでの推定式の提案 5) や周波数特性の解明が行われている. 2-2-3 シャドーイング移動通信において移動局が屋外にいるときは, 移動局周辺の建物などによる遮へいで受信レベルが場所的に変動する. この場所的変動は短区間変動 ( またはシャドーイング ) と呼ばれる. 短区間変動を起こす要因は, 周辺の建物の有無, 基地局方向に対する道路方向, 道路の幅, 交差点上であるか, などである. 短区間変動は移動局周辺の環境に依存するため変動の周期は数十 mであり, 変動の分布は db 値で正規分布, 変動の標準偏差は 6dB 程度である. 一方, 移動局が建物内にいるときは, 窓の有無, 窓からの距離, 地上高などで受信レベルが変わる. 近年では携帯電話ユーザが建物内にいる場合も多いので無線回線設計では建物内での短区間変動も考慮されている. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 3/(5)

2-3 フェージング 2-3-1 レイリーフェージング複数の電波が受信されるときの受信電圧は各電波の複素電圧を位相合成して求められるので, 各電波の位相が変化すると受信電圧の変動が起こる. これがフェージングである. 移動通信の移動局には一般的に水平方向から一様に同程度の強さの電波が到来する. このときに移動局が移動することによってフェージングが起こるが, この受信電圧の変動分布がレイリー分布となるためこのフェージングはレイリーフェージングと呼ばれる. レイリー分布の確率密度関数 f (x) は次式で表される. f ( x) 2 x x exp σ 2σ = 2 2 (2 1) ここで,x は受信電圧,2σ 2 は x の 2 乗平均である. 図 2 2 に空間的にみたレイリーフェージングを示す. これは周波数 2 GHz での計算結果であり, 受信電圧が-20 db 以上も落ち込むことが分かる. フェージングはこのような空間を移動することによって起こる. 図 2 2 空間的にみたレイリーフェージング 2-3-2 周波数選択性フェージング広帯域伝送で受信波のスペクトルに受信レベルの落ち込みが生ずることを周波数選択性フェージング 6) という. これは, 多重波伝搬路で各伝搬路長の差が波長に比べて十分に長いときに発生する. 伝搬路長の差が長いと受信点では時間的に遅れた電波が到達することになるので, 周波数選択性フェージングは伝搬遅延が大きい環境で発生することになる. このため, 符号間干渉は周波数選択性フェージングによって起きるともいえる. レイリーフェージングは移動局周辺の環境によって発生し, 周波数選択性フェージングは送受信間を含む広い範囲の環境によって発生する. 周波数選択性フェージングが発生するメカニズムは次のとおりである. 簡単のために, 送受信間にある伝搬路は二つだけとする. 二つの伝搬路長の差 d は波長 λより十分に長く波長 λ の n 倍あるとする. 波長 λよりごくわずかに長い波長 λ+δλを考えると, 伝搬路長差 d による 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 4/(5)

2 波の位相差は2nπΔλ /λとなる. 波長 λに比べてδλはわずかであっても n によって大きな位相差となる. これにより波長 λと波長 λ+δλの受信レベルは異なる. 波長 λの周波数を f とすれば, 周波数軸上で受信レベルが落ち込む間隔 Δ f は f / n となる. 例えば,1 GHz の周波数 (λ=0.3 m) で伝搬路長差が d=300 m であれば,n=1000 なので受信レベルが落ち込む間隔 Δ f は 1MHzとなる. 伝搬路長差が長くなるに従って間隔 Δ f は小さくなる. 参考文献 1) 古濱洋治, 第 4 章大気ガスおよび降水の性質, 無線通信の電波伝搬, 進士昌明, 電子情報通信学会,pp. 55-74,Feb. 1992. 2) 平出賢吉, 安達文幸, 第 3 章レイリーフェージングの理論, 移動通信の基礎, 奥村善久, 進士昌明, 電子情報通信学会,pp.61-77,June. 1987. 3) M. Hata, Empirical formula for propagation loss in land mobile radio services, IEEE Trans. Veh. Technol., vol.vt-29, no.3, pp.317-325, Aug. 1980. 4) H.H. Xia, A simplified analytical model for predicting path loss in urban and suburban environments, IEEE Trans. Veh. Technol., vol.vt-46, no.4, pp.1040-1046, Nov. 1997. 5) Y. Oda, R. Tsuchihashi, K. Tsunekawa, and M. Hata, Measured path loss and multipath propagation characteristics in UHF and microwave frequency bands for urban mobile communications, VTC 2001 Spring, pp.337-341, May. 2001. 6) 唐沢好男, 第 12 章多重波伝搬理論, 電波伝搬ハンドブック, 細矢良雄, リアライズ社,pp.128-135, Jan. 1999. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 5/(5)