人間情報学研究, 第 17 巻 2012 年,29~40 頁 29 藤本展子 * ** 松本秀明 Re-examination of the Formative Periods and Classification on Beach Ridge Ranges in the Southern Part of Sendai Coastal Lowland, Northeast Japan Nobuko FUJIMOTO,Hide aki MATSUMOTO Abstract Sendai Coastal Lowland, facing the Pacific Ocean, is 50 km long from south to north and 10 20 km wide from west to east. Several beach ridge ranges are recognized along the coastline. In this study, the authors, focusing on the southern part of lowland, re examined the formative age of beach ridge ranges, depending on the geomorphic survey and dating of radio carbon methods. Keywords:Alluvial Plain,Beach ridge range, Coastline,Sendai Coastal Lowland * ** 東北学院大学大学院人間情報学研究科博士前期課程 Graduate School of Human Informatics, Tohoku Gakuin University 東北学院大学教養学部 Faculty of Liberal Arts, Tohoku Gakuin University Journal of Human Informatics Vol.17 March,2012
30 藤本展子 松本秀明 仙台平野は阿武隈川 名取川および七北田川下流に広がる南北 50km 東西 10~20kmの臨海沖積平野である 海抜高度は大部分が5m 以下であり 各河川に沿う地域には多くの自然堤防地形が発達し 海岸線沿いの幅 5kmの地帯には海岸線に平行に3~4 列の浜堤列が特徴的に発達している ( 松本 1981) 浜堤列の成因について 松本 (1984) は仙台平野中部において 沖積層の露頭観察 堆積物の粒度分析 放射性炭素年代測定結果から 過去 6,000 年間の海水準微変動を復元し 過去 4 回存在した海水準の極大期に堆積した海浜砂が現在の地表において浜堤列として認識されることを示した すなわち過去 6,000 年間に生じた約 5kmの海岸線の前進の過程において 現在を含め4 回の海水準の極大期があり それぞれの極大期に浜堤列が形成されたことを明らかにした 浜堤列はそれぞれの時期の海岸線の位置を示すことから 基本的に海岸線方向に連続的する地形であることが知られている 浜堤列の形成年代については松本 (1984) が仙台平野を含む東北地方の5つの浜堤列型平野に認められる浜堤列を陸側から第 Ⅰ 浜堤列 第 Ⅰ 浜堤列 第 Ⅱ 浜堤列 第 Ⅲ 浜堤列に大別し 浜堤列間に広がる堤間湿地堆積物下底の年代測定結果をもとに その形成時期を次のように求めた 第 Ⅰ 浜堤列は5,000 年前から4500 年前にかけて 第 Ⅰ 浜堤列は3,100~3,000 年前 前後に 第 Ⅱ 浜堤列は2,600~1,700 年前にかけて そして第 Ⅲ 浜堤列は800~700 年前頃から現在にかけて形成されたとした その後 伊藤 (2006) は松本 (1984) の第 Ⅲ 浜堤列を 形態と堤間湿地堆積物の層厚をもとに3 筋に細分し 内陸側から第 Ⅲa 第 Ⅲb 第 Ⅲc 浜堤列とし 堤間湿 地堆積物の年代測定により 第 Ⅲa 浜堤列は 1,300~1,100cal BPに 第 Ⅲb 浜堤列は約 1,100cal BP 以降に そして第 Ⅲc 浜堤列は約 350cal BP 頃にはその大部分が形成されていたことを明らかにした 本研究は阿武隈川河口を挟む南北 25km 東西 9kmの仙台平野南部 ( 図 1) において 浜堤列の形成時期や分類に関する新たな知見を得たので報告するものである 図 1 仙台平野の位置 阿武隈川河口付近には南北 25km 東西 9km の臨海沖積平野が広がる この平野は 仙台平野 ( 松本 1981) 南部に相当し 平野の南ほど東西幅は狭くなり 山元町磯付近で消滅する ( 図 2) 阿武隈川沿いの地域には 岩沼市中条 人間情報学研究第 17 巻 2012 年 3 月
阿武隈川河口付近における浜堤列の分類とその形成時期に関する再検討 31 亘理町逢隈十文字 亘理町榎袋などに特徴的な 自然堤防 旧河道 地形が分布している 一方 仙台平野北部と同様に海岸線に平行に数列の浜堤列がみられ 松本 (1984) は形成年代と地形的な連続性をもとに それらを陸側から第 Ⅰ 浜堤列 第 Ⅰ 浜堤列 第 Ⅱ 浜堤列 第 Ⅲ 浜堤列に分類するとともに 伊藤 (2006) は第 Ⅲ 浜堤列をさらに3 筋に細分した 松本 (1984) および伊藤 (2006) で示された浜堤列の分類結果は以下の通りである 第 Ⅰ 浜堤列は 阿武隈川左岸では岩沼市本郷 阿武隈川右岸では亘理町吹田から亘理町南町にかけて幅 0.2~1.0kmで連続的に確認され 南町以南では横山など丘陵麓部に沿って断片的に分布する 第 Ⅰ 浜堤列は地表では亘理町下茨田に認められ それ以外では地表でのその分布は確認できない 第 Ⅱ 浜堤列は第 Ⅰ 浜堤列からおよそ 2km 海側の岩沼市矢野目 三軒茶屋 そして亘理町高須賀を経て亘理町曽根付近 さらに亘理町浜吉田付近を通り 花釜付近で第 Ⅲ 浜堤列に収斂する 最も海側の第 Ⅲ 浜堤列は 阿武隈川以北では1km 程度の幅であるのに対し 阿武隈川以南では1.5~2.0kmの幅を持つ 伊藤 (2006) は第 Ⅲ 浜堤列を3 筋に細分し 陸側から 第 Ⅲa 浜堤列 第 Ⅲb 浜堤列 第 Ⅲc 浜堤列と命名した 第 Ⅲa 浜堤列は 亘理町大橋から亘理町花釜へと連続する ( 図 2) が それ以南では 他の列に収斂する 第 Ⅲb 浜堤列は 道下付近から南に追跡され 牛橋河口付近で第 Ⅲc 浜堤列に収斂する 第 Ⅲc 浜堤列は 阿武隈川以北の第 Ⅲ 浜堤列と同様に 現在の海岸線に沿って発達する 浜堤列の形成年代については 松本 (1984) は阿武隈川以北で得られた放射性炭素年代測定値を主たる根拠として仙台平野に分布する浜堤 図 2 地形分類図浜堤列の分類は松本 (1984) 伊藤(2006) による列の分類と形成時期の特定をしたが 阿武隈川以南については第 Ⅰ~ 第 Ⅱ 浜堤列間湿地の1 点について年代測定を行ったのみであった 伊藤 (2006) は仙台平野南部の第 Ⅱ~ 第 Ⅲa 浜堤列間の湿地から1 点 第 Ⅲa~ 第 Ⅲb 浜堤列間の湿地から2 点 第 Ⅲb~ 第 Ⅲc 浜堤列間から1 点の年代試料を得て それらをもとに前出の第 Ⅲ 浜堤列群の形成年代を求めた しかし 阿武隈川以南の第 Ⅱ 浜堤列および第 Ⅲa 第 Ⅲb 浜堤列の地形的な連続性については不明瞭な点も残されていた 本研究では これら従来の研究成果に加え 浜堤列断面形の調査ならびに堆積物の放射性炭素年代測定 堆積物の粒度分析を行い 仙台平 Journal of Human Informatics Vol.17 March,2012
32 藤本展子 松本秀明 野南部における各浜堤列の形成年代および分類について再検討した 従来の研究において第 Ⅱ 浜堤列の一部と考えられてきた阿武隈川右岸高須賀付近の微高地は 浜堤列の地形的な連続性を追跡する場面で極めて重要な位置にある 高須賀付近の微高地は松本 (1984) および伊藤 (2006) のいずれにおいても 浜堤列の一部を構成する砂堆として図示されているものの 堆積物の粒度組成の検討など その微高地が浜堤列であることの根拠については不明であった ここでは高須賀付近の微高地において簡易ボーリング調査を行い 断面図を作成するとともに 堆積物の粒度分析を行い微高地の成因を検討した 微高地の西斜面から西方に広がる後背湿地を図 3 調査地点 含む8 地点で簡易土質サンプラーを用いたボーリング調査を行い ( 図 3A A ) 9 点の粒度分析試料を採取した ( 図 4) 粒度分析は 3.00φ~4.00φまで0.25φ 間隔でふるいを揃え 電磁式ふるい振とう機を使用して行った 地点 T 1(2.1m a.s.l.) 地表から25cmまでは耕作土であり その下位は25~30cmに円礫混じり中粒砂 30~44cm に淘汰良好な中粒砂 44~60cmに淘汰不良な細砂 ~ 中粒砂が堆積している この地点から45 ~55cmに堆積している砂層について粒度分析を行った結果 平均粒径 1.22 淘汰度 0.91 歪度 0.78の結果を得た 地点 T 2(2.3m a.s.l.) 地表から15cmまでは耕作土であり その下位は15~45cmに腐植物および少量の雲母片を混入する暗灰色の粘土質シルト 45~60cmに腐植物と少量の雲母片を混入する細砂混じり暗灰色粘土 60~70cmに有機物が混入する細砂 ~ 中粒砂 70~80cmに円礫および少量の粘土を混入する中粒砂である 80~90cmは堆積物の採取が出来なかったが 90~95cmは円礫を混入する中粒砂 ~ 粗粒砂 95~106cmに粗粒砂および円礫を少量混入する中粒砂 106~ 130cmに円礫および腐植物を混入する中粒砂 ~ 粗粒砂の堆積が確認された この地点では 70 ~80cmおよび105~130cmの砂質堆積物について粒度分析を行い 平均粒径 1.74 淘汰度 0.64 歪度 0.55および平均粒径 0.90 淘汰度 1.06 歪度 0.80の結果を得た 地点 T 3 地点 (2.3m a.s.l.) 地表から25cmまでは耕作土であり その下位は25~60cmに雲母片を混入するコンパクトな粘土 60~70cmに腐植物を混入する細砂 70~90cmに少量の腐植物を混入する中粒砂が 人間情報学研究第 17 巻 2012 年 3 月
阿武隈川河口付近における浜堤列の分類とその形成時期に関する再検討 33 図 4 高須賀付近に位置する微高地の粒度分析結果 堆積している この地点では60~70cmおよび 70~90cmの堆積物について粒度分析を行い 平均粒径 1.65 淘汰度 0.71 歪度 0.89および平均粒径 1.48 淘汰度 0.70 歪度 0.47の結果を得た 地点 T 4(2.3m a.s.l.) 地表から57cmが耕作土であり その下位は 47~72cmに腐植物および雲母片を混入するコンパクト粘土 72~90cmに雲母片を混入する細砂 ~ 中粒砂 90~110cmに多量の雲母片を混入する粗粒砂 110~118cmに腐植物および雲母片を混入する灰色粘土 118~150cmに腐植物および雲母片を混入する粗粒砂の堆積が確認された この地点では 75cm~90cm 100~ 110cm 130~140cmの3つの深度から堆積物を採取し それぞれ平均粒径 1.64 淘汰度 0.70 歪度 0.22 平均粒径 1.22 淘汰度 0.81 歪度 0.16そして平均粒径 0.64 淘汰度 0.84 歪度 0.73の結果を得た 地点 T 5(2.3m a.s.l.) 地表から50cmまでは耕作土であり 50~ 65cmについても人為的な影響を受けたと思われる砂層であった その下位は65~68cmにやや淘汰が悪い細砂 ~ 中粒砂 68~73cmにコンパクト粘土 73~76cmに細砂 76~85cmに雲母片を混入する暗灰色粘土 85~87cmに少量の粘土を混入するシルト 87~96cmに雲母片を混入する暗灰色粘土 96~98cmに細砂 98 ~99cmに暗灰色粘土 99~100cmに泥炭が堆積していた この地点では粒度分析は行わなかったが 砂層の下位に後背湿地堆積物と思われる泥炭層の連続が確認された 地点 T 6(2.3m a.s.l.) Journal of Human Informatics Vol.17 March,2012
34 藤本展子 松本秀明 地表から30cmまでは耕作土であり その下位は30~50cmに人為的な影響を受けたと思われる砂層 50~65cmに腐植物および雲母片を混入する褐色粘土 65~68cmに細砂 68~ 88cmに腐植物および雲母片を混入する灰色粘土 86~87cmにわずかに雲母片を混入するシルト 87~90cmに腐植物および雲母片を混入する灰色粘土 90~93cmに雲母片を混入するシルト 93~100cmに泥炭が堆積していた この地点では 65~68cmの堆積物について分析を行い 平均粒径 1.46 淘汰度 0.85 歪度 0.17 の結果を得た これに加え シルト層の下位に後背湿地堆積物と思われる泥炭層確認された 地点 T 7(2.3m a.s.l.) 地表から55cmまでは耕作土であり その下位は55~78cm 腐植物をわずかに混入するコンパクト暗褐粘土 78~81cmに雲母片を混入する暗灰色粘土 81~82cmにシルト 82~88cm に雲母片を混入する暗灰色粘土 88~90cmにシルト 90~100cmに母片を混入する暗灰色粘土が堆積している 地点 T 8(2.3m a.s.l.) 地表から30cmまでは耕作土であり その下位は30~85cmに有機物および雲母片を混入するシルト 85~86.5cmに多量の雲母片を混入するシルト 86.5~95cmに多量の雲母片を混入する暗灰色粘土 95~98cmに微粒砂を混入するシルト 98~100cmに暗灰色粘土が堆積している 以上の堆積断面の観察および粒度分析結果から高須賀付近の微高地を構成する堆積物は平均粒径が概して大きく淘汰が不良であることから 河床砂起源であると考えられる また微高地を構成する砂層 シルト層の下位から泥炭層が確認された点からも高須賀付近の微高地は 浜堤列ではなく自然堤防であると判断される これまで阿武隈川以南の第 Ⅱ 浜堤列の分類は 主として阿武隈川左岸の岩沼市三軒茶屋 阿武隈川右岸の亘理町高須賀 そして亘理町曽根へと海側に凸な緩やかなカーブを描く地形的な連続性を根拠としてきた しかしながら 亘理町高須賀の微高地が自然堤防であることが明らかとなり 阿武隈川以南の浜堤列の分類については再検討が必要である 本研究では以下に各堤間湿地堆積物下底の堆積年代からその海側の浜堤列の形成時期を求め その結果をもとに浜堤列の形成年代と分類を再構成する 調査対象地域内の浜堤列の形成開始時期を明らかにするために 松本 (1984) の方法に従って浜堤列および堤間湿地において地質断面図を作成し 堤間湿地下底に堆積する堆積物の放射性炭素年代測定を行った 図 5(a) は宮城県亘理町に分布する第 Ⅰ~ 第 Ⅱ 浜堤列間の堤間湿地断面図 (B B') である 両端部は堤間湿地下底の深度が浅く100cmに達しないが 断面東側の一部や西側では深く 200cm 以上ある 部分的に細砂を挟むが 堤間湿地堆積物直下にある浜堤列の一部を構成する風成砂層に到達するまで 腐植物混じり粘土が堆積している 堤間湿地の地下においても浜堤列を構成する砂層は不規則な波状の形態をしていることがわかる この断面図では次の2 地点において放射性炭素年代測定を行った B B' 断面西側に位置するNo.1 地点 (2.8m a.s.l.) で堆積物の採取を行った ( 図 5a) 地表から24cmまでは耕作土であり その下位は24 ~92cmは泥炭 92~98cmは腐植物混じり粘土 98~132cmは泥炭 132~139cmは分解がやや 人間情報学研究第 17 巻 2012 年 3 月
阿武隈川河口付近における浜堤列の分類とその形成時期に関する再検討 35 図 5 堤間湿地における地質断面図 Journal of Human Informatics Vol.17 March,2012
36 藤本展子 松本秀明 進んだ泥炭 139~144cmは泥炭 144~152cm 未分解の泥炭 152~162cmは分解がやや進んだ泥炭 162~167cmは未分解の泥炭 167~ 169cmは分解がやや進んだ泥炭 169~190cm は未分解の泥炭 190~200cmは腐植物混じり黒色粘土 200~219cmは泥炭 219~200cmは細砂 220~255cmは分解がやや進んだ粘土 255~270cmは細砂 ~ 中粒砂 270~282cmは暗灰色粘土 282~290cmは暗灰色粘土混じり細砂であった この地点において 地表から279 ~281cmに堆積していた腐植物を用いて放射性炭素年代測定を行い5,020±30yrBP(IAAA 111430) の結果を得た またB B' 断面中央やや東に位置するNo.2 地点 (1.8m a.s.l.) からも堆積物の採取を行った 地表から30cmまでは耕作土であり その下位は30~36cmに暗褐色のシルトおよび微細砂が堆積しており 36~38cmは人為的に混入したと思われる細砂 ~ 中粒砂 38~56cmは微細砂を混入する黒色の有機質粘土 56~92cmは未分解の泥炭 92~103cmは泥炭 103~105cm は細砂 105~113cmは泥炭 113~136cmは未分解泥炭 136~167cmは有機物を多量に含む黒色粘土 167~197cmに有機物を含む黒色粘土 197~200cmは黒色の粘土混じり細砂 200 ~210cmは黒色混じり中粒砂 210~223cmは粗粒砂が堆積していた この地点において 地表から194~196cmに堆積していた腐植物を用いて放射性炭素年代測定を行い2,190±20yrBP (IAAA 111428) の結果を得た 図 5(b) は宮城県山元町に分布する第 Ⅰ~ 第 Ⅱ 浜堤列間の堤間湿地断面図 (C C') である 断面東側から中央付近にかけての範囲は深度が浅く100cmに達していないが 中央より西方では100cmを超える箇所が多く確認できる 堤間 湿地下に埋没した浜堤列構成層より上位にも部分的に砂層を混入するが 泥炭層およびシルト層が大半を占めている B B' の地質断面同様 堤間湿地下の浜堤列構成層上面は不規則な波状の形態をなしている No.3 地点 (2.5m a.s.l.) において堆積物を採取した 地表から21cmまでは耕作土であり その下位は21~41cmに未分解の泥炭 48~ 56cmに泥炭 56~59cmに細砂 59~71cmに泥炭 71~74cmに細砂 74~96cmは泥炭が堆積しており この泥炭に挟まれるように96~ 99cmに細砂が混入し 96~100cmに腐植物を混入する細砂 100~110cmに泥炭 110~ 129cmに腐植物混じり細砂 129~159cmに泥炭 159~167cmに腐食混じり細砂 167~ 178cmに粘土および腐植物を混入する細砂 178~180cmに腐植物混じり細砂が堆積している この地点において 地表から156~158cm に堆積していた腐植物を用いて放射性炭素年代測定を行い3,150±20yr BP(IAAA 111429) の結果を得た 第 Ⅱ 浜堤列 ~ 第 Ⅲ 浜堤列間の堤間湿地においても同様の堆積物調査を行った ( 図 5(c) 断面位は図 3D D') No.4 地点 (0.7m a.s.l) では 地表から34cmまでは耕作土であり その下位は 34~39cmに中粒砂混じりの粘土層 39~ 73cmに腐植物混じりの黒褐色粘土層 73~ 88cmに腐植物混じりの赤黒色粘土層 88~ 89cmに淘汰良好な中粒砂層 89~90cmに腐植物混じりの赤黒色粘土層 90~90.5cmに淘汰良好な中粒砂層 90.5~97cmに有機物を多量に含む中粒砂混じりの暗赤灰色砂質粘土層 97~ 110cmに青灰色の腐植物を混入する粘土混じり中粒砂層 110~115cmに暗赤灰色の腐植物混じり砂質粘土層 115~118cmに細 ~ 中粒砂層 人間情報学研究第 17 巻 2012 年 3 月
阿武隈川河口付近における浜堤列の分類とその形成時期に関する再検討 37 118~122cmに暗赤灰色の中粒砂混じり粘土層 122~124cmに暗赤灰色の中粒砂層 腐植物粘土層 124~140cmに暗赤灰色の腐植物混じり粘土層 140~150cmに黒褐色の腐植物混じり粘土層 150~177cmに黒褐色の腐植物混じり粘土層 177~200cmに黒褐色に腐植物を少量混入する有機物混じり粘土層が堆積する そして200cm 付近に微少の雲母片 200~267cmに黒褐色の有機物を多く含む粘土層 267~ 300cmに暗赤灰色の粘性がある有機物を多く含む粘土層 300~323cmに黒褐色の粘性がある有機物混じり粘土層 323~335cmに黒色の有機物混じり粘土層と黒褐色の粘土層の互層 335~340cmに暗赤灰色の有機物混じり粘土層 340~342cmに青灰色の粘土混じり微細砂層 342~350cmには雲母片が比較的多く 青灰色の粘土分をわずかに含む微細砂 ~ 細礫の砂層が堆積している 342~350cmに阿武隈川の旧河床堆積物である砂層を確認したため その上位の333~335cmに堆積している粘土層の中の堆積物で放射性炭素年代測定を行い 2,490± 30yrBP(IAAA 91447) の年代値を得た 図 5(d) は第 Ⅱ 浜堤列 ~ 第 Ⅲ 浜堤列間の堤間湿地におけるE E' 断面図である No.5 地点 (0.3m a.s.l.) において地表から145cmまでの堆積物を採取した 地表から41cmまでは耕作土がみられ その下位は 41~60cmに黒褐色の粘土層 60~64cmに黒褐色の細砂混じり粘土層 64~90cmに褐色の有機物を多量に混入する粘土層 90~100cmに灰色の細砂混じり粘土層 100~117cmに褐色の所々に中粒砂を混入する泥炭層 117~118cmに淘汰不良の中粒砂層 118~120cmに褐色の泥炭質粘土層 120~ 123cmに植物根を混入する中粒砂層 132~ 137cm 雲母片をわずかに混入する粗粒砂層 137~145cmに雲母片をわずかに混入する細 ~ 中粒砂層が堆積している 地表から126~ 132cmの部分に 浜堤列を構成する風成砂が確認できたため その上位層である120~123cm に堆積している泥炭質粘土層で放射性炭素年代測定を行い 2,270±30yr BP(IAAA 91441) の年代値を得た 図 5(e) は第 Ⅲa~ 第 Ⅲb 浜堤列間の断面図 (F F') である これまでの第 Ⅰ~ 第 Ⅱ 浜堤列間の地質断面および第 Ⅱ~ 第 Ⅲ 浜堤列間の地質断面とは異なり 堤間湿地堆積物の深度が浅く 地表から50~80cmの深度を示す地点が大部分であり 最も深い所でも地表から90cmであった また 第 Ⅰ~ 第 Ⅱ 浜堤列間の地質断面および第 Ⅱ~ 第 Ⅲ 浜堤列間の地質断面では 地表から浜堤列を構成する砂層までの間には 粘土 シルト層および泥炭層が堆積していたが 本調図 6 No.6 地点柱状図 Journal of Human Informatics Vol.17 March,2012
38 藤本展子 松本秀明 査地点では 粘土層はほとんど堆積しておらず 細砂 ~ 中粒砂を主としている 図 5(f) も第 Ⅲa~ 第 Ⅲb 浜堤列間の断面図 (G G') である この地点においても堤間湿地堆積物下底の深度は浅く 10 地点全てが地表から50cm 以下であった しかし F F 断面図とは異なり 地表から浜堤列砂層間には砂層も確認できるもののシルト層の堆積が目立つ また耕作土の直上に堆積している砂層は2011 年 3 月 11 日に発生した巨大津波によって堆積した砂層である 第 Ⅲa~ 第 Ⅲb 浜堤列の堤間湿地に位置する No.6 地点 (1.4 m a.s.l.) において堆積物を採取した ( 図 6) 地表から49cmまでは微細砂混じり暗灰色粘土 49~50cmに細砂 50~60cmに微細砂混じり暗灰色粘土 60~80cmに細砂 ~ 中粒砂 80~100cmに泥炭が堆積しており 99 ~100cmに細砂を混入しており 100~120cm は腐植物を混入する粘土混じり細砂 ~ 中粒砂が堆積している この地点では 地表から96~ 98cmに堆積している泥炭層を用いて放射性炭図 7 本研究の結果から考えられる浜堤列の分類 素年代測定を行い 1,070±20yr BP(IAAA 111427) の結果を得た 本研究で得た結果を踏まえ 仙台平野南部に分布する浜堤列の形成年代を再検討する 第 Ⅰ 浜堤列東側で行った浜堤列構成砂層直上堆積物の放射性炭素年代測定の結果が5,020±30yr BP であることから 丘陵地の麓部に沿うように位置している浜堤列は 第 Ⅰ 浜堤列であり 約 5,000 年前にはすでに形成されていたと考えられる また 従来の研究では 亘理町曽根 浜吉田から山元町山寺に連なって分布する浜堤列は 第 Ⅱ 浜堤列に分類され 2,600~1,700 年前にかけて形成されたと考えられてきた しかし本研究では その内陸側の堤間湿地下底において 3,150±20yr BPの年代値を得ていること そして海側の堤間湿地下底において 2,490± 30yr BPの年代値が得られていることから 亘理町曽根付近の浜堤列は約 3,000 年前には形成され 2,500 年前には既に海岸線はさらに海側の浜堤列の位置まで前進していたものと考えられる したがって 阿武隈川以南でこれまで第 Ⅱ 浜堤列とされてきた砂堆は 形成年代から阿武隈川以北の第 Ⅰ 浜堤列に相当すると可能性が高い 松本 (1984) においても 曽根付近の浜堤列の内陸側湿地から2,820±130yr BPの年代が得られており 曽根付近の浜堤列を第 Ⅱ 浜堤列と分類するには形成時期が古いと考えられる そのほか 亘理町大橋付近において 従来の第 Ⅲa 浜堤列の内陸側の堤間湿地下底において 2,270±30yr BPおよび2,490±30yr BPの年代値を得ていることから 大橋付近の浜堤列は約 2,500 年前には形成されはじめており 形成年 人間情報学研究第 17 巻 2012 年 3 月
阿武隈川河口付近における浜堤列の分類とその形成時期に関する再検討 39 代から阿武隈川以北の第 Ⅱ 浜堤列に相当すると考えられる また 浜吉田東方のNo.6( 図 3 6) 地点の堤間湿地下底から1,070±20yr BPの年代値が得られたことから 本研究ではNo.6 地点海側の砂堆は約 1,000 年前には形成されていたものと考えている ( 図 7) 阿武隈川以南の浜堤列の分布は阿武隈川以北と比較して複雑であり 本研究においてもなお形成年代や分類について明瞭に整理できなかったが 今後 さらに試料を追加しながら考察を進めて行きたい 本研究で得た年代資料をもとに 阿武隈川下流沖積低地の過去 5000 年間の地形形成過程は次の様にまとめられる ( 図 7 8) 約 5,000 年前には 丘陵地に沿うように位置する第 Ⅰ 浜堤列が形成されており 現在より 5kmほど内陸に海岸線は位置していた その後 2000 年が経過した約 3000 年前には 海岸線は 2kmほど前進し 第 Ⅰ 浜堤列 ( 従来の研究では第 Ⅱ 浜堤列として分類されていた ) が形成されたと考えられる 第 Ⅰ 浜堤列の形成期間は短く 2,500 年前頃になると さらに海岸線は前進し 岩沼市矢野目や亘理町大橋で確認できる第 Ⅱ 浜堤列 ( 従来の研究では第 Ⅲa 浜堤列 ) が成長を開始した そして1,000 年前には 亘理町道下付近を通過する第 Ⅲa 浜堤列が形成され始めた 謝辞本研究を遂行するにあたり宮城県亘理町生涯学習課の皆様 そして亘理町の皆様には多くのご協力を頂きました また 東北学院大学地域構想学科松本ゼミの学生諸氏には野外調査に際 図 8 仙台平野南部における過去 5,000 年間の海岸線の前進過程 Journal of Human Informatics Vol.17 March,2012
40 藤本展子 松本秀明 し協力頂きました 以上の方々に深く感謝いたします また 本研究では科学研究費補助金基盤研究 (A)( 研究代表者今村文彦氏 ) の一部を使用した < 参考文献 > 松本秀明 (1977): 仙台付近の海岸平野における微地形の分類と地形発達 粒度分析法を用いて 東北地理 29 229~237. 松本秀明 (1981): 仙台平野の沖積層と後氷期における海岸線の変化. 地理学評論 52 72~85. 松本秀明 (1984): 海岸平野にみられる浜堤列と完新世後期の海水準変動. 地理学評論 57 720~738. 伊藤晶文 (2006): 仙台平野における歴史時代の海岸線変化. 鹿児島大学教育学部紀要自然科学編 57 1~8. 人間情報学研究第 17 巻 2012 年 3 月