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日本の富裕層は 122 万世帯、純金融資産総額は272 兆円

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法及び国民年金法の規定によって 少なくとも 5 年ごとに国民年金及び厚生年金の財政検証を行っている 直近で行われたのは平成 26 年で 様々な経済や人口の前提に基づいて将来的な給付水準 ( 所得代替率 ) をシミュレーションしており 2050 年 60 年時点での所得代替率はいずれも約 50% にと

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目次 P. 1 調査の概要 P 年を振り返って P 年の展望 P 備えが必要 ( 経済的に不安 ) と感じること P 今 一番買いたいもの P お金の支払いをする際の決済方法 P 資産運用について

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設問 2 ご自身で既に公的年金の他に何か準備をしていますか 空欄, 28 件, 1% 2. いいえ, 1216 件, 37% 1. はい, 2013 件, 62% ご自身で既に公的年金の他に何か準備をしている ( 1. はい ) との回答は 62% と多く 準備していない ( 2. いいえ ) は

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下の図は 平成 25 年 8 月 28 日の社会保障審議会介護保険部会資料であるが 平成 27 年度以降 在宅医療連携拠点事業は 介護保険法の中での恒久的な制度として位置づけられる計画である 在宅医療 介護の連携推進についてのイメージでは 介護の中心的機関である地域包括支援センターと医療サイドから医

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( 高齢層では単身世帯が増加 ) 高齢化が進む中で高齢者の単身世帯が急増している 65 歳以上の単身世帯は 2000 年の 407 万世帯から 2016 年には 821 万世帯へと倍増している そして単身無職世帯では消費支出が可処分所得を月 4 万円程度上回り 貯蓄の取り崩しにより 生計を立てている

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Transcription:

NFI リサーチ レビュー 2007 年特別号 vol.Ⅱ *** 特集リタイアメント プランニング *** 解題 : リタイアメント プランニングの課題 常務取締役 宮井博 -------------------------------------------- 要約 -------------------------------------------- 日興フィナンシャル インテリジェンスは 団塊世代の退職が 2007 年度から始まるのを受けて 退職後のライフスタイルと金融商品 について提言書をまとめ 2006 年秋にビジネス教育出版社から出版した 本特別号は この提言書を具体化するために必要と考えられる基礎的な課題整理を行った リタイアメント プランニングは退職後のライフスタイルによって影響されるので 個別具体的なプランニングを進めるには ライフスタイルに沿ったキャッシュフローが想定できるような仕組みを考えることが必要である また 金融商品としては リタイアメント プランニングの考えを組み込むことが必要であり 退職後のキャッシュフローを確実にするインカム プラン あるいは保有資産を毎年現金化して目標資産まで減らすような考え方が重要になろう また 本特別号では リタイアメント プランニングが現状ではどのように行われているのか 退職者と退職待機者のニーズはどのようなものか 金融機関としてリタイアメント プランニングをどのように提供すればよいのか リタイアメント プランニングを具体化する上で考えておくべきことはないのか などについて 4 篇の論文を取り上げ 課題やニーズの整理 提言を行っている ここでは それぞれの論文で議論されている概要を紹介するが 詳しい内容については各論文を直接ご覧いただきたい 日興フィナンシャル インテリジェンス

NFI RESEARCH REVIEW SPECIAL EDITION vol.Ⅱ 2007 目次 1. はじめに 2. リタイアメント プランニングの課題 2.1 退職後のライフスタイル 2.2 求められる金融商品 3. 各章での議論 3.1 リタイアメント プランニングの現状について ( 千保教授 ) 3.2 退職後の収支計画に関する意識調査 結果 ( 有森 ) 3.3 リタイアメント プランニングにおける投資の力 ( 中田 ) 3.4 リタイアメント プランニングと健康 ( 立石 ) 4. おわりに 1. はじめに日興フィナンシャル インテリジェンスは 2005 年度に外部の委員を招聘して委員会形式の 団塊世代プロジェクト を実施した このプロジェクトでは 団塊世代の退職が 2007 年度から始まるのを受けて 退職後のライフスタイルと金融商品 について提言書をまとめ ビジネス教育出版社から出版した この提言書の要点は 以下の3 点である 1 団塊世代を定年後の所得 資産の経済面と就労意志の面から7つのタイプに分類し 60 歳 ~79 歳までのキャッシュフローを想定して老後の生活を検討する上で必要な基礎的データを提供した 2 豊かな老後生活を実現するため ストックの資産をフローにする仕組みと 年金などを退職者が自分のために使い切る仕組みが必要であること 3 新たな金融商品として SMA( セパレートリー マネージド アカウント ) の活用や 個人年金特約のカフェテリア化 スライド付年金商品 超長期国債およびインフレ連動債 長寿リスクヘッジ商品などを提案した このような提言から一歩進めて退職者向けに具体化するためには 退職者個々人のリ タイアメント プランニングが欠かせない なぜなら 7 つのタイプはあくまでサンプ Nikko Financial Intelligence,Inc.

NFI リサーチ レビュー 2007 年特別号 vol.Ⅱ ルであり 現実には個別対応が必要だからである このような背景から 本特別号は リタイアメント プランニングを具体化する上で検討すべき課題を明らかにすることを 目的にしている 2. リタイアメント プランニングの課題 2.1 退職後のライフスタイル退職後に豊かな生活を送るためには 健康 生きがい 生活資金の3つが重要である これら3つの要素は どれか1つが欠けても退職後の豊かな生活を脅かすことになるので 切り離して考えることは難しい これらが ある程度保障されることを前提にして初めて 退職後のライフスタイルを選ぶことが可能になる 選択したライフスタイルによっては新たな資金が必要になるので 退職後のキャッシュフローが変化する あるいは 生活資金が制約となって希望するライフスタイルを選べない可能性もある 健康 生きがい 生活資金 先に紹介した提案書では 以下の5つのライフスタイルの例を取り上げ ライフスタイルの違いによるキャッシュフロー変化の具体化を試みている 1 海外と日本を行き来し 海外で貿易の仕事をする 2 趣味に生きる 趣味にお金を使う 3 年に1 回海外旅行に行く ( 収入はほとんどなく 年金と運用収入のみ ) 4 生涯学習 ( 大学院通学など ) をする ( 収入はほとんどなく 年金と運用収入のみ ) 5 NPO 法人で働く ( 収入はほとんどなく 年金と運用収入のみ ) 日興フィナンシャル インテリジェンス

NFI RESEARCH REVIEW SPECIAL EDITION vol.Ⅱ 2007 これらの例をみても明らかなように 退職後のキャッシュフローは ライフスタイル によって大きく異なる 従って 個別具体的なライフスタイルに相当するキャッシュフ ローが想定できるようにしておくことが必要である 2.2 求められる金融商品わが国では 団塊世代の退職が 2007 年から始まることから 退職金の導入を狙った金融商品の開発が盛んになっている その中の一つに ターゲット イヤー型のライフサイクル ファンドがある これは 目標とする年限に向けてポートフォリオの資産配分を変更して 投資期間にあわせてリスク許容度を下げる商品である ただし これも退職後のリタイアメント プランがあって初めて機能するものであるので リタイアメント プランニングとセットで考えることが必要である さらに このターゲット イヤー型は 資産の全体について適用させるべき商品であり 基本的には他の投資信託などと一緒に投資するべき商品ではない また 新型の SMA では 定期分配型のものが開発されている これは 顧客から資産全体を SMA として預かり 必要なキャッシュフローを分配金 もしくは解約によって現金化して提供するものである リタイアメント プランとセットで販売できれば 団塊世代などの退職者のニーズに沿った商品になると思われる ただし 上記の両商品ともアセット アロケーションによる資産形成にウエイトがあり 退職後のキャッシュフローを確実にするというインカム プラン あるいは保有資産を徐々に現金化して目標額まで減らしていくような考え方が求められている 3. 各章での議論以上のような内容が 今後リタイアメント プランニングを進める上での中心課題になると思われるが リタイアメント プランニングのための現状を把握しておくことも必要である すなわち リタイアメント プランニングが現状ではどのように行われているのか 退職者と退職待機者のニーズはどのようなものか 金融機関としてリタイアメント プランニングをどのように提供すればよいのか リタイアメント プランニングを具体化する上で考えておくべきことはないのか などである そこで 本特別号で Nikko Financial Intelligence,Inc.

NFI リサーチ レビュー 2007 年特別号 vol.Ⅱ は 以下のテーマを取り上げ 議論することにした 3.1 リタイアメント プランニングの現状について ( 千保教授 ) 団塊世代は わが国の高度経済成長期の恩恵を受けながら 年功序列 終身雇用といった日本的な雇用システムの中で働いてきた 一般にリタイアメント プランニングは 退職直前にならないと現実的な検討が難しいといわれている 特に団塊世代では 将来的に給付削減が見込まれる年金制度については 後の世代に比べて恵まれていることもあり 退職前のニーズはあまりなかったといわれている しかし 退職が始まった 2007 年から リタイアメント プランニングのニーズも高まっている 千保教授には 最近ニーズが高まっているリタイアメント プランニングの現状についてまとめていただいた リタイアメント プランニングは 主として公的な団体 年金基金等の団体 個別企業ベースにおいて 年金生活設計セミナーの形で定期的に開催されている 年金シニアプラン総合研究機構が年金基金向けに行ったアンケート調査結果や 同研究機構が実施しているセミナー内容 およびセミナー参加者へのアンケート調査結果から わが国で行われているリタイアメント プランニングの現状が明らかにされた そして リタイアメント プランニングの普及度を上げていくこと プログラムの中に資産運用を付加させるべきこと 対象年齢層を 50 歳台前半にするべきことという提言がなされている 3.2 退職後の収支計画に関する意識調査 結果 ( 有森 ) 退職者 もしくは退職待機者が具体的にどのようなリタイアメント プランニングを行っているのかに関する調査は十分に行われていない そこで 日興フィナンシャル インテリジェンスでは 退職者と退職待機者で かつ金融資産を 1000 万円以上保有している人を対象に 退職後の収支計画に関するアンケート調査を インターネットを通して実施した 有森論文は このアンケート調査結果をまとめたものである いくつか貴重な情報が得られており 今後のリタイアメント プランニングを具体化していく上で大変参考になるものと思われる 例えば 退職世代の 6 割以上が収支計画を立てているが 金融機関のアドバイスはほとんど受けていないことや インターネットの活用が有効と思われる結果が得られている また 千保論文では 年金ライフ 日興フィナンシャル インテリジェンス

NFI RESEARCH REVIEW SPECIAL EDITION vol.Ⅱ 2007 プラン (PLP) セミナー参加者に対するアンケートによると あればよいと思うテーマとして 貯蓄 財産運用 と回答する者が多くなっていることが紹介されているが 本調査においても 退職世代が資産運用 特に株式運用に関心を持っていることが明らかにされている 有森論文では 博報堂が 2005 年に行った 富裕層ライフスタイル調査 も引用しながら 今回のアンケート結果について考察を行っている 3.3 リタイアメント プランニングにおける投資の力 ( 中田 ) 退職後のライフスタイルと金融商品 では 団塊世代に焦点を当てているので この世代を7つのタイプに分け 退職後の 60 歳 ~79 歳について キャッシュフローを想定して 退職後の資産運用に関するシミュレーションを行っている すなわち 60 歳時点までに積み上がった生活資金を所与として その後は総務省の 平成 16 年度全国消費実態調査 のデータを中心に タイプ毎の平均的な収支をシミュレーションしている いわば 60 歳以降のタイプ別の平均的な退職者を想定したシミュレーション分析といえよう これに対して中田論文は 人の一生について所得 消費 貯蓄の生涯モデル ( 中田 有森 平成 18 年 ) を用いて 退職後の生活資金を形成するための投資の効果を分析した すなわち 22 歳以降の平均的な生涯モデルを用いた 60 歳までの生活資金形成の過程と それ以降のシミュレーション結果である 一般に リタイアメント プランニングの対象としては富裕層に焦点が当てられる しかし 若い時から 貯蓄 ではなく 投資 の力を利用することによるライフプランによって 退職生活のランク アップが可能なことを示している 3.4 リタイアメント プランニングと健康 ( 立石 ) 千保論文で指摘されているように 健やかで安心した暮らしを送っていくには 所得 健康 生きがいの3つが重要である そして リタイアメント プランニングを具体化する上で 退職後の健康問題は 大きなリスクになっている 健康に大きな不安がある場合は 生活資金を健康回復に使う必要があり 退職後のライフスタイルを規定することになるとともに リタイアメント プランニングにおける収支計画に影響を及ぼすことになる Nikko Financial Intelligence,Inc.

NFI リサーチ レビュー 2007 年特別号 vol.Ⅱ 立石論文は 日興フィナンシャル インテリジェンスが産業医科大学との共同研究で行った個人の健康志向度に関する調査研究結果を都道府県別に比較分析し 高齢者の医療費が生活習慣病と関連して高くなる傾向があることを示した そして この生活習慣病による死亡者数は スポーツ行動者比率が高い都道府県において 統計的に有意に低いという結果を得た また 生活習慣病に関わる外来患者数は 個人の主観的健康感が高い都道府県では低いという結果も得た 個人の主観的健康感は 自分時間の充足感に影響されることから 退職後の生きがいやライフスタイルが影響している可能性も高い つまり リタイアメント プランニングに退職後の生きがいにつながるライフスタイルを組み込むことが 個人の主観的健康感を高め 保健医療支出への負担を軽減して 生活資金の有効利用につながる可能性を示唆している 4. おわりに団塊世代の退職が始まり リタイアメント プランニングが今後さらに注目されるであろう 本特別号では リタイアメント プランニングを進めるにあたり 現状ではどのようなものが行われているのか リタイアメント プランニングとして考えるべきことは何か どのような普及方法が考えられるかなど基本的な検討課題について整理した 今後は各論文で指摘された課題などを踏まえて さらに具体化を進めて行きたいと考えている 参考文献日興フィナンシャル インテリジェンス (2006) 退職後のライフスタイルと金融商品 ~ 団塊世代から始まる退職改革 ビジネス教育出版社 pp93. 日興フィナンシャル インテリジェンス

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