酸化剤を用いた余剰汚泥削減技術 ( 標準活性汚泥法 ) に関する共同研究 1. 研究目的 下水道の普及や高度処理化に伴い, 下水汚泥として回収される固形物量は増加傾向を示している 下水処理場の維持管理費の中で汚泥処理に要する費用は大きな割合を占めており, 更に最終処分場の逼迫から, 今後汚泥処分費が高騰していくものと考えられる このような現状に対して, 平成 2 年度に 酸化剤を用いた余剰汚泥削減技術マニュアル を作成したが, 当マニュアルは小規模下水処理場 ( オキシデーションディッチ法 ( 以下,OD 法という ) または長時間エアレーション法 ) の余剰汚泥を対象としている 一方, 標準活性汚泥法を採用している下水処理場においても汚泥の削減は喫緊の課題となっており, 省エネルギーかつ省コストな汚泥削減技術が求められている 本研究は, 中 大規模に多く採用されている標準活性汚泥法から発生する余剰汚泥を対象とし, 汚泥減量設備を実施設に導入し, その効果を検証した 後の運転データより汚泥処理設備や水処理設備に与える影響を評価し, 技術の有効性を検証した また, 導入効果を定量化し, 設備の計画 設計 施工 維持管理に関する事項を整理し, 技術マニュアルとしてとりまとめることを目的とし, 実施した 2. 研究体制 本研究は, 大分市, 日鉄住金環境, 扶桑建設工業 および ( 公財 ) 日本下水道新技術機構の4 者による管理者参加型共同研究として実施した 3. 研究内容 本研究は, 標準活性汚泥法を採用している大分市松岡水資源再生センターに汚泥減量設備を導入し, 後の冬季 春季 夏季の実証試験データから固形物発生量を比較し, 汚泥減量効果を評価した また, 機械濃縮機や脱水機の運転状況から汚泥処理設備に与える影響を評価し, 放流水質や反応タンク送風量の変化から水処理設備に与える影響を評価した さらに, 全国の複数箇所の下水処理場の余剰汚泥を対象として, ビーカー試験を実施し, 可溶化効果を確認することで, 適用性を評価した ビーカー試験の結果について,OD 法の余剰汚泥と比較することで, 低い薬剤添加濃度で高い可溶化効果が得られることを明らかにしている これらの結果より, 技術の有効性を検証するとともに, 導入効果を定量化し, 設備の計画 設計 施工 維持管理に関する技術的事項をとりまとめ, 技術マニュアルを作成した
図 -1 汚泥減量設備外観 4. 技術の概要 4.1 原理本技術は, 酸化力を持つ薬剤 ( 酸化剤 ) を用いて, 余剰汚泥中の微生物の細胞を破壊し, 微生物の可溶化処理を行う この時の可溶化率 ( 可溶化による汚泥の固形物 (SS) の減少率 (%)) は, 処理前汚泥の固形物に対して 25% を目標とする 可溶化処理した余剰汚泥は最初沈殿池へ返流され, その内の一部は初沈汚泥として重力濃縮槽へ, 残りは越流水として反応タンクに流入され, 反応タンクでは好気性処理を行い, 酸化分解により汚泥の削減を図る 概略フローを図 -2に示す 流入水最初沈殿池 初沈汚泥 可溶化汚泥 反応タンク 返送汚泥 汚泥減量設備 B 薬剤余剰汚泥 最終沈殿池 濃縮機余剰汚泥 濃縮槽 図 -2 概略フロー 消毒槽 処理水 脱水機 4.2 汚泥減量設備の構造本技術で用いる汚泥減量設備は, 薬剤反応槽と薬剤貯留槽その他設備で構成される 汚泥減量設備の処理フローを図 -3に示す 余剰汚泥は, 原汚泥ポンプにより薬剤反応槽に供給する また, 汚泥供給とあわせて薬剤を注入する 薬剤反応槽では, 汚泥と薬剤を撹拌して汚泥を可溶化した後, 最初沈殿池へ戻す 薬剤反応槽において, 汚泥処理倍率 ( 汚泥減量設備を導入しない場合の余剰汚泥発生量に対する汚泥減量設備に供給する量 ) は.5~.7 倍量を標準とする 薬剤添加濃度は,2,mg/L とする 図 -3 汚泥減量設備の処理フロー 4.3 薬剤薬剤は, 無機の酸素系薬剤と水酸化ナトリウムおよび微量の補助剤で構成される市販の製剤である 外観は, 透明淡黄赤色の粘性のある液体である 薬剤の原液は, 水酸化ナトリウムを含むため, 毒物および劇物取締法の 劇物 に該当する 4.4 技術の特徴余剰汚泥を可溶化し, 可溶化した汚泥を反応タンクで好気処理することにより汚泥を削減する技術は, 処理方法の異なるものがいくつか存在する 本技術はこれらの処理方式と比較し, 次の特徴を有している (1) 特殊な機器がなく, 構造がシンプル原汚泥ポンプ, 撹拌機, 薬剤注入ポンプ等の汎用品で構成され, 構造がシンプルである (2) 汚泥中の夾雑物による機器の閉塞, 摩耗等が生じにくい液体に接触する部分 ( 以下, 接液部という ) の機器は, 撹拌機, 処理汚泥移送ポンプのみであり, 汚泥中の夾雑物による閉塞, 摩耗等が生じにくい (3) 消費電力が小さい主な電動機は, 撹拌機のみであり, 消費電力量が小さい (4) 無人運転が可能複雑な構造の機器がないため, 運転管理, メンテナンスが容易で, 無人運転が可能である (5) 放流水中に薬剤が残留しない使用する薬剤は無機の酸素系酸化剤であり, 薬剤反応槽で未反応のまま反応タンクへ流入した場合も, 反応タンクで微生物または有機物との反応により分解され, 放流水中に残留しない 5. 各種試験結果 技術の有効性および導入効果を定量化することを目的として,1 汚泥減量設備を供用中の処理施設に
適用する実証試験,2 全国 7 箇所の下水処理施設を対象に異種汚泥への適用性を確認するビーカー試験の2 種類を実施した また, 得られた結果について, OD 法等の結果と比較することで, 可溶化効果の違いについて検証した 5.1 実証試験結果 (1) 汚泥減量設備運転条件実証試験における汚泥減量設備の運転条件を表 - 1に示す 汚泥減量設備供給汚泥量は, 冬季では m 3 / 日とし, 水温の上昇に伴い供給量を高くし, 春季および夏季では m 3 / 日とした また, 汚泥処理倍率は, 冬季で.5 倍, 春季で.69 倍, 夏季で.7 倍とした 条件 冬季 春季 夏季 表 -1 汚泥減量設備運転条件 期間 H24.12.25 ~H25.4.14 H25.4.21 ~H25.5.31 H25.6.1 ~H25.8.9 供給汚泥量 (m 3 / 日 ) (6 日 / 週 ) (6 日 / 週 ) (6 日 / 週 ) 汚泥減量設備運転条件 汚泥処理倍率 薬剤添加濃度 平均水温 ( ) 可溶化率 (%).5 2, 18 25.69 2, 22 27.7 2, 27 28 (2) 流入水 SS 負荷汚泥減量設備後の流入 SS 量を図 -4に示す の流入 SS 量は, と比較して高い値であり, 後で流入条件が異なった 導入効果を評価する上で, 評価する項目に対して, 流入 SS 量で割り戻し, 単位流入 SS 量あたりとして評価した 流入 SS 量 (t/ 日 ) 1.4 1.3 1.2 1.1 1..9.8.7.6 1.18 1.9 1.28 1.29 図 -4 流入 SS 量 1.1 1.18 冬季春季夏季 (3) 汚泥削減効果流入 SS 量あたりの汚泥発生量を図 -5に示す 冬季から夏季において,12~14% の削減効果が得られた 流入 SS 量あたりの汚泥発生量 (t-ds/t- 流入 SS) 1.5 1.3 1.1.9.7.5 1.16 1.3 1.1 1.11.95.98 冬季春季夏季 図 -5 流入 SS 量あたりの汚泥発生量 (4) 汚泥処理設備実証試験での濃縮機はベルト型ろ過濃縮機, 脱水機は圧入式スクリュープレス脱水機である 流入 SS 量あたりの濃縮機運転時間を図 -6に示す 余剰汚泥引抜量の削減により, 機械濃縮機運転時間の大幅な削減が得られた また, 脱水機のろ過速度と脱水ケーキ含水率の関係を図 -7に示す 脱水ケーキ含水率は重力濃縮槽の運転状況の影響によりほぼ同等であるが, ろ過速度は向上しており, 脱水性の向上が認められた 流入 SS 量あたりの濃縮機運転時間 (Hr/t- 流入 SS) 脱水ケーキ含水率 (%) 5. 4. 3. 2. 1. 4.59 4.7 1.55 1.37 4.38 2.11 冬季春季夏季 図 -6 流入 SS 量あたりの濃縮機運転時間 78 76 74 72 冬季 ( ) 冬季 ( ) 春季 ( ) 春季 ( ) 夏季 ( ) 夏季 ( ) 7 25 27 29 31 3 35 ろ過速度 (kgds/h) 対象期間の平均値を示す 図 -7 ろ過速度と脱水ケーキ含水率の関係
(5) 放流水質汚泥減量設備後の放流水質を表 -2に示す 放流水 SS,BOD,COD Mn,T-N は後で同等な値であり, 良好な水質であった ただし,T-P について, 削減された余剰汚泥に含有されていたリンの一部が放流水として流出したことが原因で約.5mg/L 上昇した 本技術の導入に際して, 放流先のリン規制が厳しい場合は放流水質を考慮する必要があることが示唆された SS BOD COD Mn T-N T-P 表 -2 放流水質分析結果 放流水 冬季 春季 夏季 3.4 3.8 3.8 2.4 2.5 4.2 1.7 1.7 2. 2.6 2.8 4.2 11.7 11.5 1.1 11.5 1.8 9.2 22 19 19 23 23 17.97.98.95.46.55.5 5.2 異種汚泥への適用性確認試験 ( ビーカー試験 ) 水温 2, 薬剤添加率 2%/SS の条件における各処理場の可溶化率の結果を図 -8に示す 可溶化率について処理場毎に若干の差が見られたが, 概ね実証試験時の冬季の可溶化率 25% に近い値であったため, 可溶化率 25% を一つの指標とした 1 箇所のみ可溶化率が低い結果であったが, 可溶化しにくい汚泥に対しては薬剤添加率を高くすることで対処できる 5.3 OD 法等の余剰汚泥との比較処理方式による薬剤添加濃度と可溶化率の関係を図 -9に示す 標準活性汚泥法から発生する余剰汚泥は OD 法等から発生する余剰汚泥より可溶化効果が高く, より少ない薬剤添加濃度で高い可溶化率が得られる結果であった 処理方式毎の運転条件および効果のまとめを表 - 3に示す 標準活性汚泥法は OD 法等と比較して, 汚泥削減率が低くなっている これは, 余剰汚泥のみを可溶化していることや,OD 法と比較して反応タンクのHRTが短いため, 放流水質に影響があまりでないように汚泥処理倍率を低く設定しているからである 可溶化率 (%) 6 5 2 1 図 -9 処理方式による可溶化効果の比較 表 -3 処理方式毎の運転条件 効果のまとめ 処理方式 標準活性汚泥法 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 薬剤添加濃度 標準活性汚泥法 OD 法, 長時間エアレーション法 OD 法長時間エアレーション法 可溶化率 (%) 5 2 冬季 (H24.2 月 ) 春季 (H24.5 月 ) 夏季 (H24.8 月 ) 秋季 (H24.11 月 ) 冬季 (H25.2 月 ) 春季 (H25.5 月 ) 冬季実証試験値 他の汚泥と比較して可溶化率が低い 処理倍率.5~.7 倍 1.5 倍 薬剤添加率薬剤添加濃度 2% 2,mg/L % 3,7mg/L 薬剤反応時間 2 時間 5 時間 可溶化率 25% 程度 25% 程度 1 汚泥削減率 12~14% 6% 程度 汚泥処理設備への影響 放流水質 脱水性の向上 - T-P:.5mg/L 上昇 T-P:1~1.7mg/L 上昇 COD:1mg/L 上昇 図 -8 各処理場の可溶化率の比較 送風機設備曝気動力増加率 2% 増加 2% 増加
5.4 導入効果実証試験で得られた結果をもとに脱水ケーキ処分単価を 16, 円 /t, 減量設備薬剤単価を 1 円 /kg と設定した場合のコストを比較した 流入汚水量 5, m 3 / 日規模,5,m 3 / 日規模について, コスト試算結果をそれぞれ図 -1 および図 -11 に示す 流入汚水量 5, m 3 / 日規模の場合 5.9%(3.7 百万円 ),5, m 3 / 日規模の場合 7.6%(34.7 百万円 ) のコスト削減が見込まれる コスト ( 百万円 / 年 ) コスト ( 百万円 / 年 ) 7 6 5 2 1 図 -1 コスト試算結果 (5,m 3 / 日規模 ) 図 -11 コスト試算結果 (5,m 3 / 日規模 ) 6. 技術マニュアル構成 要旨第 1 章 総 則 第 1 節 目的 1 目的 第 2 節 適用範囲 2 適用範囲 第 3 節 用語の定義 3 用語の定義 63.5 59.8-5.9% (-3.7 百万円 ) 汚泥減量設備コスト 曝気動力費 濃縮機運転経費 脱水機運転経費 汚泥処分費 5 456.1 421.4 2 1-7.6% (-34.7 百万円 ) 汚泥減量設備コスト 曝気動力費濃縮機運転経費脱水機運転経費汚泥処分費 第 2 章 処理技術の概要 第 1 節 余剰汚泥削減技術の概要と特徴 4 原理 5 汚泥減量効果と放流水質への影響 6 減量設備供給汚泥量と可溶化率の考え方 7 システムの構成 8 薬剤 9 特徴 1 標準活性汚泥法への適用と OD 法 長時間 エアレーション法への適用との比較 第 2 節 導入効果 11 導入効果 第 3 章 設備の計画 第 1 節 設備の適用条件 12 設備の適用条件 第 2 節 設備計画の基本的な考え方 13 設備の計画手順 第 3 節 計画上の留意点 14 設備の留意点 第 4 章 設備の設計 第 1 節 設備の設計手順と構成 15 設備の設計手順 16 設備の構成 17 設備の設置条件 第 2 節 設備の操作因子 18 設備の操作因子 第 3 節 容量計算 19 設計諸元 2 原汚泥供給設備 21 薬剤反応槽 22 薬剤注入設備 23 処理汚泥移送設備 第 4 節 運転操作 24 運転制御 25 運転ブロック図 26 計装機器 27 電気設備との取り合い 第 5 章 施工計画 第 1 節 施工計画の立案 28 施工計画の立案 第 2 節 施工手順 29 施工手順 第 3 節試運転
試運転計画 31 試運転前準備 32 試運転第 6 章設備の維持管理第 1 節設備の維持管理 33 運転調整 34 水質管理第 2 節設備の保守 点検 35 保守点検 36 オーバーホール 37 点検およびオーバーホールの記録資料編 1. 各種実験結果 2. モデル設計 3. ケーススタディ 4. 設備参考図 5. 各種寸法 重量表 6. 積算資料 ( 案 ) 7. 製品安全データシート (MSDS) 8. 薬剤の安定性 9. 薬剤の残留性 1. 汚泥削減技術の比較 11. 納入実績 12. 特許等 13. 問い合わせ先 7. まとめ 本研究では, 標準活性汚泥法が採用されている処理施設に, 汚泥減量設備を設置して, 汚泥削減効果を明らかにした また, 全国 7 箇所より採取した汚泥を対象として, ビーカー試験を実施し, 可溶化効果を確認することで, 適用性の検証を行った 本研究の成果として, 酸化剤を用いた余剰汚泥削減技術の概要, 設備の計画, 設計, 施工, 維持管理に係わる技術的事項を技術マニュアルとして取りまとめた 今後, 下水道管理者が汚泥処分費や維持管理費の削減を図る際の一助になれば幸いである この研究を行ったのは この研究に関するお問い合わせは 資源循環研究部長 石田 貴 資源循環研究部長 石田 貴 資源循環研究部副部長 落 修一 資源循環研究部副部長 落 修一 資源循環研究部総括主任研究員 岩見博之 資源循環研究部研究員 大野貴之 資源循環研究部研究員 大野貴之 3-5228-6541