金融資本市場 216 年 4 月 1 日全 6 頁 中国資金流出入の現状と当局による対応 国際収支統計確報の内訳及び足元の資金流出圧力と資本規制の動向 金融調査部研究員中田理惠 [ 要約 ] 3 月 31 日に発表された中国の国際収支統計の確報によると 215 年の金融収支 ( 外貨 準備を除く ) は年間で 4,856 億ドルの流出超 金融収支と誤差脱漏の合計値は年間 6,739 億ドルとなった 足元では資金流出圧力は和らいできている 人民元の対ドルレートも安定してきており 外貨準備高の 2 月における減少幅は 286 億ドルに留まった 銀行の外貨為替業務においても 人民元を外貨に交換する動きは弱まってきている 資金流出圧力の低下の背景には 米国の利上げ観測の変化や オフショア市場への介入 及び資本規制における対応等があるであろう 中国は現行の資本規制で十分との見解を示しているが 同時に従来の規制の実施徹底や細則の追加等細やかな対応をとっている 債務構造に関しては米ドル建て債務の返済が進んでいる 資金流出の規模の大きさが注 目されがちだが 外貨建て債務の返済が進んでいる点はポジティブに受け止めることもできるであろう はじめに 3 月 31 日に国際収支統計確報及び対外債務に関する統計が発表された 本レポートでは 215 年における資金流出の内容 対外債務構造の変化を把握するとともに 足元における資金流出 圧力及び資本規制における対応の動向を整理する 1. 資金流出入の動向 (1) 大幅な資金流出超となった 215 年 現預金 貸出における海外資本の流出が進行 3 月 31 日に発表された中国の国際収支統計の確報に基づくと 215 年の金融収支 ( 外貨準備 を除く ) は年間で 4,856 億ドルの流出超となった また 投機的資金の動向の目安とされる誤 差脱漏との合計値は年間 6,739 億ドルとなっている 特に海外資本の流出に関しては貸出と現 株式会社大和総研丸の内オフィス 1-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号グラントウキョウノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが その正確性 完全性を保証するものではありません また 記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります 大和総研の親会社である 大和総研ホールディングスと大和証券 は 大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です 内容に関する一切の権利は 大和総研にあります 無断での複製 転載 転送等はご遠慮ください
2 / 6 預金における流出が顕著であった 貸出については ドル高 及び国内金利の低下を受けて 中国本土内の主体が海外からの借入れの返済を行ったものとみられる また 現預金における資金流出の背景には 人民元の対ドルでの下落に加えて 中国本土内と本土外の金利差の変化が指摘できる 図表 4は中国本土内で発行された中国の5 年国債と香港で発行された中国の5 年国債の利回りの推移を示している これまで中国本土内の金利は本土外を上回っていたが 足元では金利差が逆転していることが分かる また 現預金の流出入も概ね金利差の推移に沿っているようである 海外から流れ込んでいた預金には中国本土内の高い利回りを目当てとしたものもあったと考えれば 215 年における大幅な預金流出は縮小した内外の金利差の影響が大きいと見受けられる なお 国内資本に関しては流出額が前年より減少する中 対外直接投資は拡大している 図表 1 金融収支 ( 外貨準備を除く ) 年次別推移 8, 6, 4, 2, -2, -4, -6, -8, 海外資本国内資本金融収支 ( 外貨準備を除く ) 金融収支 + 誤差脱漏 2 25 21 215 ( 年 ) 図表 2 海外資本の流出入年次別推移 6, 5, 4, 3, 2, 1, -1, -2, -3, -4, 2 25 21 215 その他貸出現預金債券株式直接投資 ( 年 )
3 / 6 図表 3 国内資本の流出入年次別推移 1, -1, -2, -3, -4, その他貸出現預金債券株式直接投資 -5, 2 25 21 215 ( 年 ) 図表 4 海外からの現預金の流出入額 ( 四半期別 ) と中国 5 年国債金利差 ( 月次 ) (% % pt ) 5 6 4 3 2 1-1 -2-3 -4-5 現預金の流出入額 ( 右軸 ) 本土金利 (A) 香港金利 (B) 金利差 (A)-(B) 4 2-2 -4-6 ( 年 / 月 ) ( 出所 )Bloomberg 中国国家外貨管理局より大和総研作成 (2) 足元では資金流出圧力が和らぐ なお 足元では資金流出圧力は和らいできている 年初より急落した人民元の対ドル為替レートは安定してきており 為替介入等により急減が続いていた外貨準備高も 1 月の減少幅 995 億ドルに対して 2 月における減少幅は 286 億ドルに留まった また 銀行の外貨為替業務における取引額の動向をみても 直近の人民元を外貨に交換する動きは弱まってきているようだ
4 / 6 図表 7 は中国の銀行が非金融機関の顧客向けに提供した外貨為替取引の取引額を示している 215 年 8 月には人民元から外貨への両替を行う取引が急増したが 直近の 2 月の同取引額は減 少している 1 図表 5 オンショア オフショア人民元為替相場推移 図表 6 外貨準備高推移 ( 月次 ) ( 人民元 / ドル ).164 オフショア人民元 ( 兆ドル ) 4. 3 兆 9,932 億ドル 1,5.162.16.158.156.154.152.15 人民元高 人民元安.148 215/1 215/7 216/1 ( 年 / 月 ) ( 出所 )Bloomberg より大和総研作成 オンショア人民元 3.5 3. 2.5 2. 1.5 1..5 3 兆 2,23 億ドル 前期比増減 ( 右軸 ) 外貨準備高. -1,5 25 27 29 211 213 215 ( 年 ) ( 注 ) 為替レートは月末の終値を使用 1, 5-5 -1, 図表 7 銀行の対顧客外貨為替取引額 ( 月次 ) ( 十億ドル ) 25 2 15 1 5-5 -1-15 -2 外貨から人民元への両替 (+) 人民元から外貨への両替 (-) 差し引き 元買い圧力 元売り圧力 -25 26/1 27/1 28/1 29/1 21/1 211/1 212/1 213/1 214/1 215/1 216/1-25. -2. -15. -1. -5.. 5. 1. 15. 2. 25. ( 年 / 月 ) 1 なお 2 月は 8 日 ~12 日が旧正月のため休日であったという特殊要因も一部影響している可能性がある
5 / 6 2. 足元における資金流出圧力低下の背景 こうした資金流出圧力の低下には 米国の利上げ観測に関する変化 (3 月会合での利上げの見送り等 ) や 資本規制における対応等が影響しているとみられる 資本規制に関しては 中国は現行の資本規制で十分との見解を示しているが 同時に従来の資本規制の実施の徹底や細則の追加等といった細かな対応を行っている 従来の資本規制の実施の徹底に関しては 国境を跨いだ異常な資金の動きに対する監視を強めている また 追加された細則としては 人民元の先物売り契約に対する準備金の義務化や 銀聯カードの海外での使用に対する規制強化 外貨両替の上限枠の貸与に対する監視強化等がある ( 図表 8) なお トービン税( 金融取引税 ) が導入されるか否かといった議論もあるが 国家外貨管理局は 3 月 22 日の記者会見で目下は現行の外貨管理ツールで十分であるとし トービン税は研究段階にある政策ツールのひとつであるとしている 図表 8 215 年 8 月以降の資本規制における資金流出への主な対応 発表時期実施時期内容 215 年 8 月 215 年 1 月 15 日 先物為替取引を提供する金融機関に対し 人民売り予約契約額の 2% 分の準備金を中国人民銀行に預けることを義務化 準備金への付与金利は % 215 年 9 月 216 年 1 月 1 日銀聯カードによる海外でのキャッシュの引き出しに年間 1 万元の上限を設定 215 年 12 月 216 年 1 月 1 日 年間 5 万ドルの外貨との両替規制枠を他者と預貸した者を登録する全国統一の要注意リストを導入 216 年 2 月未定 銀聯カードによる海外での保険購入に 1 契約あたり 5 ドルの上限を設ける予定を発表 ( 未実施 ) 3. 対外債務残高 215 年末の対外債務残高は 4 兆 6,225 億ドルとなり前年末から 2,13 億ドルの減少となった 同一の統計で遡ることのできる 24 年以来初の残高減少となる 内訳をみると やはり借入れの返済が進んだことから海外からの貸出残高が大きく減少している 建値通貨別債務では人民元と米ドル建て債務の返済が進んでいる 資金流出の規模の大きさが注目されがちだが かねてから問題視されていた米ドル建て債務の返済が進んでいる点はポジティブに受け止めることもできるであろう 特に中国の中央政府管轄下にある国有企業等はオプション取引が制限されていることもあり 為替ヘッジによるカバー率が低いのではないかといった懸念もあった こうした背景からも米国の利上げが議論されるようになってからは ドル建て債務の問題は重要視されていた なお 中国は資本規制により 海外からの出資に制限がある このため 中国本土内企業はオフショアで債券及び株式を発行することにより資金を調達しているケースがある こうした
6 / 6 オフショアでの資金調達は国際収支統計でのカバー率が不明であることには留意が必要であろ う 図表 9 対外債務残高年次別推移 5, 45, 4, 35, 3, 25, 2, その他貸出現預金債券 ( 証券投資 ) 株式 ( 証券投資 ) 直接投資 15, 1, 5, 24 25 26 27 28 29 21 211 212 213 214 215 ( 年 ) 図表 1 建値通貨別対外債務 9, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 人民元米ドル香港ドルユーロ日本円 2, 1, 215/3 215/6 215/9 215/12 ( 年 / 月 ) ( 注 1) 中国国家外貨管理局発表値のため 国際決済銀行による建値通貨別債務残高の統計とは差異がある ( 注 2) 債務には借入 ( 海外から中国本土への貸出 ) の他 債券や貿易信用 預金などが含まれる