便の異常 ( 上 ) 名古屋掖済会病院消化器科 部長林繁和 便は健康のバロメーターです 便をよく観察することは健康状態を知り 病気の予防にもつながります そして重大な病気の発見にも役立つことがあり 健康管理には欠かせないものです 便の形や硬さ 色 臭いについて述べ 病気とも関係の深い便秘 下痢 血便についてさらに詳しくお話します 1. 便の形 硬さ便の形や硬さは水分量によって決まります 健康な便は 70~80% の水分を含み これより多ければ下痢になり 少なければ硬い便になります 健康的な便の形は 小さめのバナナのような太さと長さが理想的とされます コロコロした便は 過敏性腸症候群でしばしばみられます 太く短い便は 水分量の少ない便秘の人にみられるもので 排便時にいきみ 痔になりやすくなります 細い便は 水分の取り過ぎや消化不良によって起こります あまりにも細くて排便困難を伴う時は 腸が細くなるような大腸癌や腸の炎症などの病気が考えられます 水様便はいわゆる下痢便で 食中毒や腸の炎症 消化不良が考えられます この場合油っぽい感じがあるときは 膵臓の病気により脂肪が消化されない場合が考えられます 2. 便の色理想的な便の色は 赤ちゃんでみられる黄色ですが 健康な成人の場合黄色みがかった褐色をしています 便の色は 胆汁に含まれる胆汁色素 ( ビリルビン ) によって左右されます 胆汁色素は十二指腸で分泌され 食物に混じって小腸から大腸へと進む間に色が変化し, 腸内がアルカリ性なら緑褐色 酸性なら黄色からオレンジ色になります このような腸内の環境を司っているのが腸内の細菌です 一回の排便量を約 260g とすると そのなかには実に 78 兆個の細菌がウヨウヨしています そのうち腸の働きを助けるビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌は約 20% で 残り 80% がウェルシュ菌やクロストリジウムなどの臭くて有害な物質を作り出す悪玉菌です 赤ちゃんの便が黄色いのは 善玉菌の代表であるビフィズス菌が 95% 以上を占め, この菌が酢酸や乳酸を作り 腸内は強い酸性となるから
です また 下痢の時は 腸内に留まる時間が短いため胆汁が化学変化をおこさないため黄色くなります 一方 肉などたんぱく質が多い食事だったり 便秘をしていると 悪玉菌によって腐敗がおこり 腸内はアルカリ性となり 便は黒ずんだ褐色となります 白っぽい便は 胆汁の通り道が胆道や膵臓の癌あるいは胆石でふさがれた場合におこります 墨のように真っ黒だったり コールタールのような便はタール便といいますが 食道 胃 十二指腸から出血している可能性があり 胃潰瘍 胃癌 十二指腸潰瘍などが疑われます 鉄剤などの飲み薬で便が黒っぽくなることもあります 大腸からの出血は普通は赤いのですが 便秘で腸内に長く留まっていると黒く変色することもあります 血便については別項で詳しく述べます 3. 便の臭い便には極めて多数の細菌が含まれ この細菌こそが便のくさい臭いの素であり その臭いは腸内細菌の状態を反映するものです 糖質がビフィズス菌のような善玉菌によって分解される場合は酢酸や酪酸を生じますが これらはやや酸っぱい臭いで悪臭ではありません 悪臭を放つのはインドール スカトール 硫化水素 アミンなどで これらはおもにタンパク質が腸内のウェルシュ菌やクロストリジウムなどの悪玉菌によって分解されて発生するためで 肉の食べ過ぎや不規則な生活 運動不足 ストレスなどでも起こりますます このような場合は生活習慣を改善し 食物繊維の豊富な食物やヨーグルトを摂取するなど腸内に善玉菌を増やすようにしましょう 4. 便秘 3 日以上排便がない場合を便秘といいますが 排便があっても量が不十分であったり ( 35g 未満 ) 排便に時間がかかったり ( 10 分以上 ) 排便後すっきりしないなどの不快感が残る場合も便秘の状態です 便秘には器質性のものと機能性のものがあります 器質性便秘は生まれつき腸の形に異常があるものもありますが 重要なのは大腸癌や腸の炎症によるもので 専門医の受診をお勧めします 一般的な便秘の多くは機能性便秘で これはさらに けいれん性便秘 弛緩性便秘 直腸性便秘 に分かれます けいれん性便秘 はストレスなどの心理的要因から自律神経が乱れ 大腸の下部がけいれんをおこして便の通過が妨げられるもので ウサギのフンのようなコロコロした便となります このタイプの便秘は若い人に多く
見られ 不規則な生活の人 ストレスの多い人に多く このひどい状態が 過敏性腸症候群 といわれるものです 弛緩性便秘 は大腸の筋肉がゆるんで蠕動運動 ( ぜんどううんどう ) が弱く 便を押し出せずおこるもので 体力が低下した場合にみられます 直腸性便秘 は便が順調に直腸に達したのにそれを感じる神経が鈍くなって 直腸で渋滞するものです これら機能性便秘を解消 予防する方法を簡単に述べます まず第一は 食生活を見直すことです 朝食はきちんと食べること 食事内容は肉食に偏らないようにし 腸内の善玉菌を増やすはたらきのある食物繊維が豊富な食事を心がけることです 第二に 水分をたっぷりとることです 朝 起きがけに一杯の水を飲むと 胃結腸反射 がおこり 排便が促されます 第三は 運動を心がけることです 運動不足は腸の運動も低下させ 弛緩性便秘の原因になります 腹筋運動や横隔膜を鍛える腹式呼吸が効果的ですが ウォーキングでも十分です 便意を我慢しないですむよう 生活のリズムを整えて排便の時間を確保することも大切です 便秘が慢性化すると悪玉菌のつくる毒素が発癌物質を作り そのせいで大腸癌をはじめ乳癌やその他の癌 肝臓や腎臓の病気 高血圧症 高脂血症など生活習慣病にもかかりやすくなります 便秘をあなどってはいけません
便の異常 ( 下 ) 名古屋掖済会病院消化器科 部長林繁和 5. 下痢下痢をおこす原因としては 1 消化吸収されにくい食品のとりすぎ 腸の吸収力が低下 2 自律神経の異常 腸の蠕動運動 ( ぜんどううんどう ) が活発になり過ぎて食べ物の通過時間が短くなる 3 腸に病変がある 腸液が多量に分泌される の 3 つがあり 結果として腸内容物の水分量が多いまま排せつされて 下痢になってしまいます この下痢には急性と慢性があります 急性下痢は暴飲暴食や食あたり 冷たいものの飲み過ぎなどで起こり 一時的なものです 腸管が細菌やウィルス感染を起こした時も下痢が起きますが 腸の中の感染による毒素を早く体外に出そうとする体の防御反応ですので 下痢は止めない方がよく ただ 出たぶんだけ水分を補う必要があります 慢性下痢には 潰瘍性大腸炎やクローン病など腸の病気による場合と過敏性腸症候群の下痢型によるものがあります 潰瘍性大腸炎では たいていは血液の混じった下痢便です クローン病は若い人に多く 腸管のあちこちに潰瘍や炎症が起こる原因不明の病気ですが 特に小腸のクローン病では 炎症によって腸管が細くなって腸閉塞などを引き起こす恐れがあります 手術で炎症や潰瘍部を取り除いても再発することが多く, 早期発見が重要です 大腸に異常のない小腸型クローン病では 過敏性腸症候群の下痢型と紛らわしいことがあります 下痢で体重が減り続けるようなら 専門医の受診をお勧めします 過敏性腸症候群は消化器系の心身症と呼ばれ ストレスによって腸の運動が活発となり 下痢をおこしたり 逆に腸が緊張して便秘になったり 下痢と便秘が交互にきたりします 診断基準は 1 検査で異常がみあたらない 2 腹痛が伴い 便をすると軽くなる 3 そのような腹痛が 3 週間以上続く 4 年に 6 回以上症状がある などが挙げられます 35 歳以下の若い人が圧倒的に多いのも特徴です 自分で重大な症状だと思い込み, 悩むことによってますます症状が出る傾向もあります 神経性の下痢だからたいしたことはない と気軽に考えれば そのうちに良くなることも多いようです 本症と診断されると まず整腸剤を飲んで様子を見ます それでも症状が続く場合は 精神安定剤を処方することもあります 日々の生活でストレスを解消するよう心がけ 規則正しい生活をすることが大
切です 食事療法は 便秘型では食物繊維をたっぷり摂取することを心が けることですが 下痢型では刺激物や消化の悪いものを避けることが大切 です 6. 血便血便とは下部消化管 特に大腸からの出血の際にみられるもので 新鮮血が便に混じったり 便表面に付着したり 新鮮血そのものが排泄されることをいいます かつては血便といえば赤痢が恐れられましたが 今日でも血便を自覚すれば誰しもが 大腸癌ではないか と不安を感じるものです 実際に癌である頻度はそれほど高くなく 痔からの出血のことが多いのですが その他に様々な病気で血便はみられます 出血部位が大腸の深部すなわち肛門より遠くなるほど少量の出血では肉眼でわからないのですが 肛門に近くなるほど便の周囲に鮮血の付着が見られ少量の出血でも血便として自覚されやすくなります しかし 血便があってもたいした出血でないから とか 痔からの出血 と自己診断して放置されると 癌であった場合手遅れとなってしまいます 明らかに痔がある場合でも 癌やポリープなどが併発していることもしばしばありますので 必ず大腸の X 線造影検査もしくは内視鏡検査が必要です 癌の心配のないような若い人では 腹痛 下痢 便秘などの訴えに対して必ずしもすぐに大腸検査をしないで薬で様子をみてもよいのですが 血便があれば若い人に多い潰瘍性大腸炎のこともあるので 年齢に関係なく大腸検査はしたほうがよいでしょう 大腸検査は通常前日の食事制限や下剤の投与が必要ですが 激しい下痢症状を伴う血便では 来院当日にぬるめのお湯による浣腸だけで緊急に内視鏡検査を行います それによって速やかに出血の原因となっている病気の診断がなされ 治療方針もくだされます 少量の血便は大腸ポリープや癌 軽症の潰瘍性大腸炎のことがあります 突然発症する血液性の下痢便では 薬剤性大腸炎 虚血性大腸炎 感染性腸炎 大腸憩室出血などがあります 薬剤性大腸炎は 主にペニシリン系の抗生物質を飲んだ後に激しい腹痛とともに大腸粘膜のび らん 出血をきたすもので 以前は非常に多かったのですが 最近では抗生物質の安易な投与が避けられ減っています 虚血性大腸炎は 大腸粘膜の部分的な虚血 ( 血流不全 ) によるび らん 出血を起こすもので 動脈硬化が原因とされていましたが 若い人にもしばしばみられ 頑固な便秘による腸管内圧の亢進や排便のための強い蠕動運動による大腸粘膜の虚血も 原因の一つに
考えられています 腸炎ビブリオ カンピロバクター サルモネラなどの食中毒菌の感染による腸炎でも 10~20% は血便を訴えますが この場合は下痢が主体で血液の混ざる量はそれほど多くありません 最近話題となっている病原性大腸菌 O-157 による腸炎では 激しい腹痛とともに新鮮血そのものというような血便をきたすことがありますが 菌の出す毒素が腸の血管を収縮して虚血を引き起こすので 内視鏡検査で虚血性大腸炎に似た所見がみられます 大腸憩室は 強い蠕動によって腸の内圧が高まり腸壁の一部が外側に飛び出し小さな袋状になったもので その中に便がたまって炎症をおこしたり出血したりします この大腸憩室出血は かなり大量のことがあります たいていは保存的治療で治りますが 何度も出血をくり返すことがよくあります 持続する粘血便性下痢では 潰瘍性大腸炎やアメーバ赤痢のことがあります 潰瘍性大腸炎は 近年若い人を中心に著しく増加していますが 原因不明なため完全に治り切ることが困難です 重症例では発熱 腹痛を伴いますが 軽症例では血便が唯一の症状です アメーバ赤痢は 潰瘍性大腸炎と症状も内視鏡所見もよく似ることがありますが 原因はアメーバ原虫にあり 診断が確定すれば駆虫薬で完治します 海外で感染することが多いとされていましたが 最近では国内感染例も珍しくなく 性行為によって感染する疾患としても注目されています 7. まとめ以上 便の異常に絶えず気を配り 折にふれて食事をはじめとするライフスタイルの見直しをすることにより健康増進を図っていただき 必要に応じて専門医を受診されることをお勧め致します