418 を見直すことによる震源再解析結果を報告した 一方, 奄美大島の南に位置する与路島等で実施した津波堆積物を調べるボーリング調査を紹介し,1911 年喜界島津波より古い時代のこの海域の巨大津波の発生を検討した また, この海域における過去の巨大津波の発生を推定するために, 奄美大島のリーフ上に点

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目 次 1. 想定する巨大地震 強震断層モデルと震度分布... 2 (1) 推計の考え方... 2 (2) 震度分布の推計結果 津波断層モデルと津波高 浸水域等... 8 (1) 推計の考え方... 8 (2) 津波高等の推計結果 時間差を持って地震が

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2 被害量と対策効果 < 死者 負傷者 > 過去の地震を考慮した最大クラス あらゆる可能性を考慮した最大クラス 対策前 対策後 対策前 対策後 死者数約 1,400 人約 100 人約 6,700 人約 1,500 人 重傷者数約 600 人約 400 人約 3,000 人約 1,400 人 軽傷者

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第 1 章実施計画の適用について 1. 実施計画の位置づけ (1) この 南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画 に基づく宮崎県実施計画 ( 以下 実施計画 という ) は 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法 ( 平成 14 年法律第 92 号 以下 特措法 と

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近畿地方整備局 資料配付 配布日時 平成 23 年 9 月 8 日 17 時 30 分 件名土砂災害防止法に基づく土砂災害緊急情報について 概 要 土砂災害防止法に基づく 土砂災害緊急情報をお知らせします 本日 夕方から雨が予想されており 今後の降雨の状況により 河道閉塞部分での越流が始まり 土石流

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<ハード対策の実態 > また ハード対策についてみると 防災設備として必要性が高いとされている非常用電源 電話不通時の代替通信機能 燃料備蓄が整備されている 道の駅 は 宮城など3 県内 57 駅のうち それぞれ45.6%(26 駅 ) 22.8%(13 駅 ) 17.5%(10 駅 ) といずれも

宮崎県沿岸の概要 ( 今回の津波浸水想定の対象範囲 ) 北部域延長約 170km 中部域約 80km 北部域約 170km 入り組んだリアス式の崖海岸が多い地形 中部域延長約 80km 沿岸漂砂が連続する砂浜を中心とする海岸であり 海岸線は ほぼ直線的 南部域約 150km 海岸線総延長約 400k

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177 箇所名 那珂市 -1 都道府県茨城県 市区町村那珂市 地区 瓜連, 鹿島 2/6 発生面積 中 地形分類自然堤防 氾濫平野 液状化発生履歴 なし 土地改変履歴 大正 4 年測量の地形図では 那珂川右岸の支流が直線化された以外は ほぼ現在の地形となっている 被害概要 瓜連では気象庁震度 6 強

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図 東北地方太平洋沖地震以降の震源分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 ) 図 3 東北地方太平洋沖地震前後の主ひずみ分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 )

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9 箇所名 江戸川区 -1 都道府県東京都 市区町村江戸川区 地区 清新町, 臨海町 2/6 発生面積 中 地形分類 盛土地 液状化発生履歴 近傍では1855 安政江戸地震 1894 東京湾北部地震 1923 大正関東地震の際に履歴あり 土地改変履歴 国道 367 号より北側は昭和 46~5 年 南

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国土技術政策総合研究所 研究資料

Microsoft PowerPoint 越山先生資料 (1).ppt

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自然災害科学 J.JSNDS 33-4(2015) 417 オープンフォーラム報告 平成 26 年度日本自然災害学会主催 オープンフォーラム の開催報告 南九州 南西諸島海域における巨大津波災害の想定 1. フォーラムの概要平成 26 年 9 月 23 日, 鹿児島大学稲盛会館を会場に, 南九州 南西諸島海域における巨大津波災害の想定 をメインテーマとし, 一般市民を対象とした講演とパネルディスカッションが実施された 2011 年の東北地方太平洋沖地震では約 2 万人の犠牲者という従来の想定を超える大災害となったことを受け, 中央防災会議 地震 津波対策専門調査会 は, 今後の地震 津波の想定に際してはあらゆる可能性を考慮した最大クラスのものを検討すべき, との提言を行っている 今回のオープンフォーラムは, 南九州 南西諸島海域において想定すべき巨大津波災害について, この地域の専門家による最新の研究成果を市民にわかりやすく伝えるとともに, パネルディスカッションによりこの課題を一般市民とともに議論することを目的としたものである なお, このオープンフォーラムは日本自然災害学会と鹿児島大学地域防災教育研究センターが共同で主催したもので, 京都大学防災研究所, 一般財団法人防災研究協会の後援のもとに実施された 当日は, 日本自然災害学会会長, 高橋和雄長崎大学名誉教授の開会挨拶に引き続き, 鹿児島大学南西島弧地震火山観測所の後藤和彦教授による 鹿児島県南西諸島海域における巨大地震 津波について と題する講演, 宮崎大学工学部の村上啓介准教授による 宮崎日向灘海岸における巨大地震津波の想定と地域の減災の取組みについて と題する講演, 琉球大学工学部の仲座栄三教授の 八重山明和大津波と沖縄の巨大地震津波の想定について と題する講演, 地震工学研究開発センターの野中哲也代表取締役による 津波数値シミュレーションの最前線 と題する講演が行われた 休憩後, 以上 4 件の講演者をパネリストとし, 鹿児島大学地域防災教育研究センターの岩船昌起特任教授をコーディネーターとして, 南九州 南西諸島海域における巨大津波災害の想定 と題するパネルディスカッションを, 一般参加者からのコメント 質疑応答を交えて実施した オープンフォーラムの参加者数は102 名であり, 地元の防災機関関係者 マスコミをはじめ, 主婦, 学生, 高校の先生など多様な一般市民の参加を得た また当日の稲盛会館ロビーにおいてはゲリラ豪雨の予測技術の実用化を目指して, 鹿児島大学地域防災教育研究センターと日本気象協会との共同研究による鹿児島大学郡元キャンパスの10 分後の天気が確認できるデジタルサイネージが展示され, 見学者より好評を得た 2. 講演 (1) 鹿児島県南西諸島海域における巨大地震 津波について後藤和彦 ( 鹿児島大学南西島弧地震火山観測所教授 ) 記録に残る南西諸島域で過去に発生した最大の地震である1911 年喜界島近海の巨大地震 ( マグニチュード8.0) に対して, 後藤自身が2011~2013 年に喜界島, 奄美大島で実施した聞き取り調査と, 古い地震資料

418 を見直すことによる震源再解析結果を報告した 一方, 奄美大島の南に位置する与路島等で実施した津波堆積物を調べるボーリング調査を紹介し,1911 年喜界島津波より古い時代のこの海域の巨大津波の発生を検討した また, この海域における過去の巨大津波の発生を推定するために, 奄美大島のリーフ上に点在する巨礫が津波起源であるかどうか, 喜界島のサンゴ礁段丘が間歇的地震性隆起であるかどうかについて, 過去の研究論文を参照しながら, 講演者の見解を披露した 写真 1 後藤教授による講演 (2) 宮崎日向灘海岸における巨大地震津波の想定と地域の減災の取組みについて村上啓介 ( 宮崎大学工学部准教授 ) マグニチュード9クラスの南海トラフ巨大地震が発生すると県内で35,000 人の死者が予測されている宮崎県において, 最大クラスの津波発生時の宮崎市, 延岡市, 日向市などの浸水域予測が報告された また過去に宮崎県を襲った地震津波の発生履歴と個々の津波被災の特徴などについて説明があった 当地にお 写真 2 村上准教授による講演

自然災害科学 J.JSNDS 33-4(2015) 419 いては,1662 年,1769 年,1968 年などの日向灘沖を震源とする津波とともに,1707 年宝永地震や1854 年安政南海地震,1946 年昭和南海地震など東 南海道を震源とする地震でも大きな被害が発生したことが報告された 最後に宮崎県や宮崎市の津波減災の取り組みを紹介し, 津波避難場所の配置や避難困難区域の抽出結果などが示された (3) 八重山明和大津波と沖縄の巨大地震津波の想定について仲座栄三 ( 琉球大学工学部教授 ) 仲座は沖縄県先島地方に大災害をもたらした1771 年明和大津波の実態から論を起こし, 津波石やそれに付着したサンゴ化石の年代測定に基づく, 当該海域の過去の大津波の発生に関する琉球大学地質学グループの研究成果を紹介した そうした既往研究を総括すると, 琉球諸島においては明和津波以前にも津波石を発生させる規模の大津波が過去数千年の間に7 回程度発生したと考えることが定説のようになっていると述べた しかし, 仲座自身が2012 年に現地を調査した結果からは, 巨大な津波石を発生させるような大津波は, 少なくとも過去 2000 年に遡って明和大津波のただ一つであると説明した この根拠として, 津波石の元の位置と現在の位置の推定移動距離と方向に関する考察, 発掘調査から明らかになった地層内の津波痕跡の結果を挙げている この研究は, 現地調査から過去の巨大津波の発生を推定していく点で学術的に興味深いものであると同時に, 沖縄県における巨大津波災害の想定に係わる実務的に重要な成果と考えられる 写真 3 仲座教授による講演 (4) 津波数値シミュレーションの最前線野中哲也 ( 地震工学研究開発センター代表取締役 ) この講演では, 地震工学研究開発センターが理化学研究所のスーパーコンピューター 京 を利用して開発した3 次元津波解析による津波浸水シミュレーションが紹介された 従来の2 次元津波浸水解析とは異なり,3 次元解析では都市を構成する建物群, 道路, 河川, 橋梁などの形状を3 次元的に計算に組み込むことができるため, 建物間の路上の流れ, 建物の背後に津波が回り込む様子, 構造物による津波の進行方向や流速の変化など, 詳細な浸水状況を再現することができる 広域 3 次元解析では膨大な計算時間を要するという欠点があるが, この研究では津波波源を含む遠洋海域では平面 2 次元解析とし, 沿岸海域から陸域では3 次元解析として両者を接続するハイブリッドモデルが提案された 講演では, 宮崎市市街への3 次元津波浸水予測シミュレーションなどがアニメーションを使ってデモンストレーションされ, 実際

420 の河川, 橋梁, 建物などが圧倒的な解像度で再現された3 次元地形上の津波氾濫挙動が示された こうした先端的な解析技術の開発は, 津波から自治体などの防災拠点, 避難ビル, 病院, 学校などの重要な建物を守る検討ツールとして, また津波対策, 避難計画, 防災計画, 復興計画などの立案などに活用されるものと考える 写真 4 野中氏による講演 3. パネルディスカッション講演を頂いた4 名の講師が登壇し, 鹿児島大学地域防災教育研究センターの岩船昌起特任教授をコーディネーターとして, パネルディスカッションが行われた ディスカッションでは, 当該海域で想定される巨大津波の規模と頻度, 津波到達予想時間と津波高さ, 台風想定で設定された防潮堤の高さと想定される津波高さとの関係 などの問題が提起され, パネラーが地元の担当海域について回答した 歴史資料の乏しい当該海域では回答が難しい場合もあるが, 参加した市民にとっては関心の高い問題であり, 市 写真 5 パネルディスカッション

自然災害科学 J.JSNDS 33-4(2015) 421 民とともに考える機会として, あえてこのような問題設定を行った 津波高さや津波到達時間に関して, スーパーコンピューターを用いることにより, 警報の発表までの時間の短縮や, 空間的予報精度の向上が可能か, との質問があり,3 次元高速津波シミュレーション技術の将来的な有用性が回答された また津波防波堤建設を巡って, 海との関わりや景観 観光 自然保護との調和をいかに考えるかという問題提起とフロアからの意見の開陳があった 最後に, 鹿児島大学地域防災教育研究センター下川悦郎特任教授が閉会の挨拶を行い, 東北地方太平洋沖地震津波の大災害の教訓を受けて, 南九州 南西諸島海域のように地震 津波に関する基礎データが不足する海域においても, 過去の記録や痕跡を掘り起こし当該地域の巨大災害の長期評価をする努力を続けるべきとの趣旨の発言があり, その重要性を参加者一同が再認識した ( 記鹿児島大学浅野敏之 )