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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

平成24年7月x日

学位論文の要約

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ


別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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平成14年度研究報告

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

第6号-2/8)最前線(大矢)

4. 発表内容 : 1 研究の背景超高齢社会を迎えた日本では 骨粗しょう症の患者数は年々増加しつつあり 1300 万人と 推測されています 骨粗しょう症では脊椎や大腿骨を骨折しやすくなり その結果 寝たきり に至ることも多く 患者の生活の質 (QOL) を著しく低下させるため その対策が重要な課題

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

Microsoft Word CREST中山(確定版)

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

生物時計の安定性の秘密を解明

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

PowerPoint プレゼンテーション

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果


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研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

シトリン欠損症説明簡単患者用

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

記 者 発 表(予 定)

記 者 発 表(予 定)

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報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

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いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

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「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

研究の背景 1 細菌 ウイルス 寄生虫などの病原体が人体に侵入し感染すると 血液中を流れている炎症性単球注と呼ばれる免疫細胞が血管壁を通過し 感染局所に集積します ( 図 1) 炎症性単球は そこで病原体を貪食するマクロファ 1 ージ注と呼ばれる細胞に分化して感染から体を守る重要な働きをしています

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

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卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

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Microsoft Word - 学位論文内容の要旨 .doc

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

研究成果報告書

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マクロファージの運命決定に関与する新たな生体システムの解明 ~ 破骨細胞の誕生は代謝状態に依存する ~ < キーワード > 免疫 破骨細胞 マクロファージ 分化 代謝状態 エピジェネティクス 概要細胞はいつ どうやって自分の運命を知るのでしょうか 従来の理解によると 様々なサイトカイン 成長因子が細胞の分化 運命を制御すると考えられてきました この度 大阪大学免疫学フロンティア研究センターの西川恵三助教と石井優教授らの研究グループは 免疫に関するマクロファージ系細胞の1つで関節リウマチなどの慢性炎症で骨を破壊 吸収する破骨細胞への分化 運命決定が サイトカインだけでなく その細胞の置かれた環境 ( 特に代謝状態 ) が細胞内のエピジェネティクス * を調節することで巧妙に調節されるという 全く新しい概念を明らかにしました * エピジェネティクス : 本稿では DNA のメチル化修飾により 塩基配列に変化がないまま遺伝子発現のオン / オフが 切り替わること をさします 研究の背景と成果細胞を取り巻く外部環境からの刺激は 細胞の生存や増殖だけでなく 細胞分化の運命を決定する重要な要素となります 例えば 骨吸収活性を介して骨の恒常性を維持したり 慢性炎症時に過剰な骨破壊を誘導したりするマクロファージ系細胞である破骨細胞の形成には 骨芽細胞や周辺の免疫細胞が発現する RANKL や M-CSFなどのサイトカインによって制御されることが明らかにされてきました 一方で 細胞周囲の栄養環境 ( 酸素や糖など ) も 細胞にとって必須の要素となります 栄養素を取り込み 代謝経路を通じて産生されるエネルギーや様々な細胞構成成分 ( 代謝産物 ) は 細胞の種類に依らない普遍的な重要性を担っていることがよく知られていますが これらは単に細胞のエネルギー状態を制御しているだけなのでしょうか 本研究では 細胞の運命決定 機能変化には その細胞が置かれている代謝状態が関与することを初めて示しました 1

本研究成果が社会に与える影響破骨細胞の分化にかかわる新たな様式が分かることで 新たな骨破壊抑制薬の開発につながることが期待されます 近年 全国民の4 人に1 人が65 歳以上の超高齢社会を迎えている本邦では 加齢に伴う骨粗鬆症の患者数増加が大きな社会問題となっています 特に エピジェネティクス制御酵素 Dnmt3a の阻害剤 TF3 を用いた研究成果は 本機構が骨疾患において新たな創薬標的として有望であることを示しています 同時に TF3 は食品由来因子であるため 食事やサプリメントによって骨破壊を予防する新たな試みも考えられます 特記事項本研究は 独立行政法人科学技術振興機構 (JST) の戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出 研究領域 ( 宮坂昌之研究総括 ) における研究課題 次世代の生体イメージングによる慢性炎症マクロファージの機能的解明 ( 研究代表者 : 石井優 ) の一環として行われました 掲載論文 雑誌 Keizo Nishikawa, Yoriko Iwamoto, Yasuhiro Kobayashi, Fumiki Katsuoka, Shin-ichi Kawaguchi, Tadayuki Tsujita, Takashi Nakamura, Shigeaki Kato, Masayuki Yamamoto, Hiroshi Takayanagi and Masaru Ishii. DNA methyltransferase 3a regulates osteoclast differentiation by coupling to an S-adenosylmethionine producing metabolic pathway. Nature Medicine 2015 年 2 月 24 日 ( 火 ) オンライン掲載 ( ロンドン : 2 月 23 日 16 時 ) 2

詳しい解説 1. マクロファージ系破骨細胞における好気的代謝の役割ミトコンドリアは 酸素を消費する代謝経路 ( 好気的代謝 ) の担い手であり 重要なエネルギー産生器官として知られています 生体内に存在するエネルギー需要の高い細胞は ミトコンドリアを生合成し豊富にもつことで 細胞内代謝のプログラムを変化させることが多々見受けられます その細胞の一つに破骨細胞があり 実際に ミトコンドリアに富んだ破骨細胞内の好気的代謝は非常に高い状態にあることが知られています この破骨細胞で特化した好気的代謝の役割を明らかにするにあたって 破骨細胞の網羅的なメタボローム解析を行い 破骨細胞分化に伴って上昇する代謝産物の同定を試みました その結果 メチオニンの代謝産物である S-アデノシルメチオニン (SAM) が上昇することを見出しました ( 図 1) ミトコンドリアの電子伝達系に対する阻害剤を用いた実験の結果 破骨細胞の好気的代謝を介して SAM の産生が高まることが明らかとなりました また SAM 合成酵素に対する阻害剤を用いた解析によって SAM の産生が破骨細胞分化に重要であることを見出しました 2. 破骨細胞分化と細胞内代謝を結びつけるエピジェネティク制御 SAMがかかわる分子メカニズムを明らかにするために SAMの標的分子の同定を試みました 破骨細胞の分化過程で取得したトランスクリプトームデータを用いて 破骨細胞の分化に伴って発現が誘導されるSAM 代謝酵素を探索したところ DNA 上のシトシン残基にメチル基を転移する酵素 Dnmt3aを同定しました Dnmt3aは これまで 胚発生や神経細胞の分化における役割が知られていましたが 骨代謝にかかわる機能は明らかにされていませんでした コンディショナルノックアウトの手法を用いて 破骨細胞特異的にDnmt3a 遺伝子を破壊したマウスを調べたところ 破骨細胞の数と骨吸収が減少し 骨量が著しく増加することが分かりました ( 図 2) これは Dnmt3aの働きが失われたことで破骨細胞の分化促進が行われないためだと考えられます 詳細な解析を進めた結果 破骨細胞分化におけるDnmt3aの役割が明らかとなりました すなわち Dnmt3aは (1) 自身がもつDNAメチル基転移の酵素活性を介して DNAのメチル化によって遺伝子の発現制御にかかわること (2) 中でも 破骨細胞分化の抑制にかかわる転写因子 Irf8の発現を抑制することで 破骨細胞の分化促進にかかわること (3) Irf8の発現抑制にかかわるDNAメチル化制御にはDnmt3aとSAMによる協調的作用が重要であることを明らかにしました 3. 破骨細胞の代謝エピジェネティク制御を標的とした骨破壊抑制治療近年のがん治療薬の開発研究において エピジェネティク制御を創薬標的として利用する試みが進んでいます そこで 本研究成果で明らかにした破骨細胞分化にかかわる DNA メチル化制御に注目し 新たな創薬標的としての是非を検討しました 破骨細胞の異常な活性化が病因とされる慢性疾患の一つとして 骨粗鬆症が知られています そこで 本研究では 卵巣を摘出する手術によって骨粗鬆症を発症させた閉経後骨粗鬆症モデルマウスを用いて治療実験を行いました 卵巣を摘出後 病態モデルマウスでは骨吸収が亢進し 骨量の減少が認められます これに対して 破骨細胞特異的に Dnmt3a 遺伝子を破壊したマウスでは 骨破壊が抑制されることが明らかとなりました ( 図 3) この結果から Dnmt3a が骨破壊抑制治療の創薬標的となることが考えられます そこで 次に Dnmt3a の酵素活性を阻害する化合物を探索したところ 紅茶に含まれる 3,3 - 二没食子酸テアフラビン (TF3) が有力な候補化合物となることを見出しました 実際に TF3 を用いた治療実験に取り組んだ結果 骨破壊を有意に改善することが明らかとなりました 3

図の説明 SAM の相対産生量 図 1 破骨細胞の好気的代謝に依存した S-アデノシルメチオニン (SAM) の産生と機能骨髄細胞由来の単球 マクロファージ系の細胞に対して RANKL( 破骨細胞分化因子 ) と M-CSF( マクロファージコロニー刺激因子 ) を処理することで破骨細胞の分化誘導を行い これに伴って産生が高まる代謝産物を探索したところ SAM の上昇が観察されました ( 左図 ) この SAM の上昇は ミトコンドリア呼吸鎖の阻害剤 (Antimycin A や Oligomycin) によって阻害されることから 好気的代謝に依存することが示唆されます 次に SAM がもつ破骨細胞分化における役割を明らかにするために SAM 合成酵素の阻害剤 (Cycloleucine) を用いた実験を試みました その結果 SAM 合成を阻害することで 破骨細胞分化が抑制されました ( 右図 ) 骨密度 (%) 破骨細胞数 (/10mm) 図 2 破骨細胞特異的に Dnmt3a 遺伝子を欠損したマウスの骨表現型 Dnmt3a の遺伝子座に loxp が挿入された flox マウスと Rank 遺伝子座に Cre が挿入された Cre マウスを交配することで 破骨細胞特異的に Dnmt3a 遺伝子を欠損したマウスを作出しました マイクロ CT 並びに骨形態計測による解析の結果 長管骨内の破骨細胞数の減少とともに 海綿骨の増加が観察されました 4

グラフ縦軸は 左から順に 骨密度 骨中破骨細胞数 貪食された骨表面の割合 そして骨中ミネラル量を示す 図 3 閉経後骨粗鬆症病態モデルマウスを用いた 紅茶由来成分 TF-3(3,3 - 二没食子酸テアフラビン ) の治療効果の解析野生型及び Dnmt3a 遺伝子欠損マウスに対して卵巣摘出手術を行い 作出した閉経後骨粗鬆症モデルマウスに対して TF-3 を投与することで治療実験を実施しました 卵巣摘出によって誘導される破骨細胞数の増加と骨量低下に対して Dnmt3a 遺伝子の欠損マウスは抵抗性を示しました さらに TF-3 の投与によっても 同様に破骨細胞数の増加と骨量低下に対して阻害効果が観察されました 5