2009 年度会計システム ( 取引処理 )No.5 担当 : 河合久 櫻井康弘 成田博 No.5 総勘定元帳システムの基本構造 4 - 独立型取引処理システムの損益計算 - 1. 決算 手記簿記において期末時点で作成される精算表は, 試算表に記載された勘定残高を収益 費用グループと資産 負債 純資産 ( 資本 ) グループに分け, 前者を損益計算書, 後者を貸借対照表として書き移した一覧表である. また, 精算表は, 試算表に決算整理事項を加減し損益計算書と貸借対照表に分ければ, 決算処理手続きを概観できる一覧表となる. しかし, コンピュータ会計システムでは, 精算表を出力する機能を備えるものは少ない. なぜならば, 精算表は単純には試算表を損益計算書と貸借対照表とに分割したもので, 試算表と同じ内容であるために作成されない場合が多いのである. たとえば, わが国で市販されている会計パッケージ ソフトでは, 合計残高試算表は損益計算書の部と貸借対照表の部に分割されて出力され, 精算表を出力できるソフトはない. また, 決算整理仕訳は, 通常の取引と同じように入力され, それは決算前の合計残高試算表の勘定残高に加減され, 決算時の合計残高試算表が精算表に相当するものとして出力される. 実習 5-1 年次試算表作成サブシステムの構築 実習の目的 この実習では, 手作業の簿記における精算表作成に相当する, 決算整理仕訳を反映した合計残高試算表を作成する機能を有する 年次試算表作成サブシステム の構築をおこなう. 実習データの準備 Excelブック 5_1 年次試算表作成サブシステム を個人のメモリー媒体にダウンロードして, このExcelブックを開く. 実習 3-9-(1) 棚卸計算法にもとづいた計算式の定義 1 商品 金額の表示 シート [ 試算表 ( 貸借対照表 )] と [ 試算表 ( 損益計算書 )] のセル番地 E3にそれぞれ 当期残高 と入力する. シート [ 更新残高 ] のセル番地 C1に 当期残高 と入力する. シート [ 試算表 ( 貸借対照表 )] のセル番地 B13をクリック.13 行目はシート [ データ処理 ] でデータ処理された商品勘定の 前月繰越 借方合計 貸方合計 当期残高 の金額を参照する形で金額表示する. そのための計算式を入力する. キーボードから = 記号を入力し, シート [ データ処理 ] のセル番地 C8をクリックし,Enterキーを押す. セル番地 C13には, = 合計残高試算表!C8 という計算式が入力される. セル番地 B13をクリック フィルハンドルをセル番地 E13までドラッグ. 2 売上総利益 の表示 シート [ 試算表 ( 損益計算書 )] のセル番地 B10をクリック.B10には, 期首商品棚卸高 と 仕入 金額を合計するための計算式 =SUM(B8:B9) を入力する. B10の計算式をセル番地 C10~E10の範囲へコピーする. セル番地 C10をクリック フィルハンドルをセル番地 E10までドラッグ. セル番地 B12をクリック.B12には, 前月繰越 欄の 売上原価 を求めるための計算式( 期首商品棚卸高 + 仕入 - 期末商品棚卸高 ) を入力. セル番地 B12の計算式を, セル番地 C12~E12の範囲へコピーする. セル番地 B12をクリック フィルハンドルをセル番地 E12までドラッグ. セル番地 B13をクリック.B13には, 前月繰越 欄の 売上総利益 を求めるための計算式( 売上 - 売上原価 ) を入力. セル番地 B13の計算式をセル番地 C13~E13の範囲へコピーする. セル番地 B13をクリック フィルハンドルを番地 E13までドラッグ. - 22 -
Accounting System 実習 5-2 決算整理仕訳の入力コンピュータ会計システムでは 決算整理仕訳は, 通常の取引と同じように会計取引ファイルに入力され格納される. しかし, 決算整理仕訳を通常取引と識別するために決算整理仕訳を特定するデータ項目が設定されそれにもとづいてデータが格納されることになる. 実習の目的 ここでの実習は, 決算整理事項にもとづいて決算整理仕訳をシステム上に入力し格納するために, 取引入力サブシステムに決算整理仕訳用の会計取引ファイルを定義する. モデルでは, 会計取引ファイルを月別に構成していたように, 決算整理仕訳は1つのファイルに格納することとする. 実習データの準備 Excelブック 2_2 取引入力サブシステム を開く. 実習 3-10 決算整理仕訳の入力 1 決算整理仕訳入力用の会計取引ファイルの生成 シート [ 入力フォーム ] のシート見出しの上でマウスの右ボタンをクリック 表示されたショートカット メニューの< 移動またはコピー (M)>をクリック. [ シートの移動またはコピー ] 画面の [ コピーを作成する (C)] をオン [OK] ボタンをクリック. シート [ 入力フォーム (2)] のシート見出しの上でマウスの右ボタンをクリック 表示されたショートカット メニューの [ 名前の変更 (R)] をクリック. シート [ 入力フォーム (2)] に 2008 年度決算 と入力して,Enterキーを押す. 2 決算整理仕訳の入力 次の 決算整理事項 にもとづいて, 決算整理仕訳を入力する. なお, 日付はすべて 3 月 31 日 とする. 決算整理事項 ----------------------------------------------------------------------------- 1 期末商品棚卸高 本社営業部 多摩営業部 松本営業部 合計 3,685,425 3,260,375 1,428,500 8,374,300 2 減価償却 ( 本社管理部 ) (1) 建物 ( 取得価額 8,800,000) 定率法耐用年数 20 年償却率 0.05 減価償却累計額 4,000,000 (2) 備品 ( 取得価額 1,500,000) 定額法耐用年数 5 年残存価額は取得価額の10% (3)3 月 30 日取得の備品 ( 取得価額 360,000) 定率法耐用年数 4 年償却率 0.625 月割計算にて計上する 3 その他 (1) 交通費未払い ( 未払費用勘定使用 ) 本社営業部 5,000 多摩営業部 7,000 松本営業部 8,000 本社管理部 4,000 小計 24,000( 消費税 1,200) (2) 受取利息の未収分 26,000( 未収金勘定使用 ) (3) 消費税の処理仮受消費税勘定と仮払消費税勘定の残高を相殺し, その差額を未払消費税勘定の貸方に計上する. なお, 仮受消費税勘定と仮払消費税勘定の残高とは3 月末日の残高であるが, 決算整理仕訳においても交通費の未払計上時の仮払消費税額を加算すること. -------------------------------------------------------------------------------------------------------- - 23 -
2009 年度会計システム ( 取引処理 )No.5 担当 : 河合久 櫻井康弘 成田博 2. 棚卸資産の処理 独立型取引処理システムに適した棚卸資産評価の方法は, 棚卸計算法である. 棚卸計算法は, 期中の在庫の増減を記録せずに期末 ( 決算 ) 時点で売上原価を把握するため, 取引処理システムの目的を財務諸表作成目的に限定するならば棚卸計算法を採用することにまったく問題はない. そのため独立型取引処理システムは, 業務処理システムと総勘定元帳システムとが分断されたシステム環境であるから, 商品の増減に関する詳細なデータは必要としない代わりに, 決算時点の処理として総勘定システム上に棚卸計算法にもとづいた売上原価算定の仕組みを構築する必要がある. 独立型取引処理システムの損益計算方法は, 棚卸計算法を前提とした3 分法の派生的な方法としての5 勘定法が用いられる. コンピュータ会計システムでは, 入力で用いられた勘定は出力でも用いられるという具合に, 出力を前提とする入力方法が採用される場合が多い. このようなケースは, 貸借対照表に表示される 商品 勘定と,3 分法にもとづく決算整理仕訳の 繰越商品 勘定との関係にみられる. 貸借対照表上の表示項目としては 繰越商品 勘定ではなく 商品 勘定が適切な表示項目となるから, 決算整理仕訳時の入力においては出力を前提として貸借対照表の表示項目である 商品 勘定を用いる ( シート 試算表 ( 貸借対照表 ) を確認). したがって, モデルにおいても勘定マスターファイルに 繰越商品 勘定は登録されておらず, 売上原価を算定するための棚卸資産に関する決算整理仕訳では 商品 (170) 勘定を用いる( 図表 3-22). 図表 3-22にもとづいて, 売上原価算定のための棚卸資産に関する仕訳を入力する. 図表 3-22 3 分法にもとづく仕訳 減価償却の処理は間接法により, 資産ごとに仕訳を入力する ( 減価償却費の合計は 528,750). 3 月末日の仮受消費税勘定の残高は 2,897,700である. 仮払消費税勘定の残高には決算整理仕訳における交通費の未払計上時の仮払消費税額を加算すること. 図表 3-23は, すべての入力された決算整理仕訳を示している. 図表 3-23 決算整理仕訳 2_2 取引入力サブシステム を上書き保存する. Excel 画面左上の<Office>ボタンをクリック [ 上書き保存 (A)] をクリック. 実習 5-3 年次試算表作成サブシステムの運用 : 決算処理 実習の目的 この実習では, 年次試算表作成サブシステムを運用して, 決算処理をおこなう. 実習 5-2 で入力した決算整理仕訳を,GLマスターファイルに格納されている3 月末の残高データに加減し, 期末の合計残高試算表を作成する. 実習データの準備 Excelブック 2_2 取引入力サブシステム を開く. Excelブック 2_1マスターファイル を開く. Excelブック 5_1 年次試算表作成サブシステム を開く. - 24 -
Accounting System 実習 5-3-(1) 決算整理仕訳データの入力 1 決算整理仕訳ファイルの入力 Excelブック 2_2 取引入力サブシステム のシート [2008 年度決算 ] のセル番地 A2~F12を範囲選択 < ホーム>リボンの<クリップボード>グループから<コピー >ボタンをクリック. Excelブック 5_1 年次試算表作成サブシステム のシート [ データ入力 ] のセル番地 A2をクリック <ホーム>リボンの<クリップボード>グループから< 貼り付け>ボタンの下部をクリック. 表示されたメニューから [ 形式を選択して貼り付け (S)] をクリック [ 形式を選択して貼り付け ] 画面の [ 貼り付け ] の [ 値と数値の書式 (U)] をクリックし,[OK] ボタンをクリック. 2 GLマスターファイルの入力 Excelブック 2_1マスターファイル のシート [GLマスター] のセル番地 E1~E32を範囲選択 コピー. Excelブック 5_1 年次試算表作成サブシステム のシート [ データ入力 ] のセル番地 K1をクリック 形式を選択して貼り付け ( 値と数値の書式 ). 3 プログラムの実行 < 表示 >リボンの<マクロ>グループ 表示された [ マクロ ] 画面の [ マクロ名 (M)] の 年次合計残高試算表作成 をクリック [ 実行 (R)] ボタンをクリック. 4 決算処理結果の確認 シート [ 試算表 ( 貸借対照表 )] を開き, 商品 勘定の金額を確認する( 図表 3-24). 決算整理仕訳を反映した 商品 勘定の 期末残高 欄の金額は, 正当に期末の商品棚卸金額 ( 8,374,000) を示していることが確認できる. 図表 3-24 貸借対照表 シート [ 試算表 ( 損益計算書 )] を開き, 売上原価 項目を構成するそれぞれの勘定の当期残高を確認する ( 図表 3-26). 図表 3-25 売上原価項目が適切に表示されていない損益計算書 - 25 -
2009 年度会計システム ( 取引処理 )No.5 担当 : 河合久 櫻井康弘 成田博 3. 5 勘定法 図表 3-26のとおり売上原価項目に関する勘定の当期残高は, 適切な金額を示していないことがわかる. 第 1に, 期首商品棚卸高 および 期末商品棚卸高 の 期末残高 欄には, 何も金額が示されていないことが確認できる. 第 2に, 仕入 の行には,3 分法による仕訳の結果, 期首商品棚卸高 ( 7,762,000) と期末商品棚卸高 ( 8,374,300) の金額が反映され, 仕入 の 当期残高 欄には, 当期中の 仕入 ( 39,495,000) ではなく 売上原価( 38,882,700=7,762,000+39,495,000-8,374,300) の金額が示されていることが確認できる. このように,3 分法による処理では, 仕入勘定において売上原価を期末に算定することを目的としている. これをコンピュータ処理にそのまま用いると, 仕入勘定は当期中には仕入金額を示し, 期末には売上原価金額を示すことになり, 仕入勘定にはまったく意味のことなる金額が示されることになる. このような3 分法にもとづいた仕訳は, コンピュータ会計システムではそのまま用いることができず, もしこの仕訳を前提にする場合はプログラムを変更する必要がある. そもそも, コンピュータ会計システムでは, 演算はプログラム上で行うのであるから, 売上原価に関しても仕入勘定の中で仕訳によって把握するのではなくプログラム上の演算によっておこなわれる. したがって, 売上原価を正当に演算するためには, 売上原価の計算要素である 期首商品棚卸高, 当期仕入高 および 期末商品棚卸高 の金額が必要であり, それらの金額を格納するための 勘定 が設けられ, 同時にこれらの勘定は損益計算書上の売上原価に関する表示項目としても利用される. 以上のように, 手作業簿記で学習した3 分法による決算整理仕訳はコンピュータ会計システムではそのまま適用することはできない. コンピュータ会計システムでは, 商品売買取引に 売上 と 仕入 勘定を使用することは3 分法にもとづく処理と相違ないが, 決算整理仕訳において 期首商品棚卸高, 商品 および 期末商品棚卸高 の勘定を利用した5 勘定法を採用する. 実習 5-3-(2) 5 勘定法による損益計算 1 決算整理仕訳ファイルの修正 5 勘定法により, 実習 3-10 で入力した棚卸資産処理の仕訳を, 仕入 (615) 勘定に替わり期首商品棚卸高 (610), 期末商品棚卸高 (620) に修正入力する. Excelブック 2_2 取引入力サブシステム のシート [2008 年度決算 ] のセル番地 C2とE3の勘定コードを正しい勘定コードに修正入力する. 2 決算整理仕訳ファイルの再入力 Excelブック 2_2 取引入力サブシステム のシート [2008 年度決算 ] のセル番地 A2~G8を範囲選択 コピー. Excelブック 5_1 年次試算表作成サブシステム のシート [ データ入力 ] のセル番地 A2をクリック 形式を選択して貼り付ける ( 値と数値の書式 ). 3 合計残高試算表プログラムの実行 < 表示 >リボンの<マクロ>グループ 表示された [ マクロ ] 画面の [ マクロ名 (M)] の 年次合計残高試算表作成 をクリック [ 実行 (R)] ボタンをクリック. 4 決算処理結果の確認 シート [ 試算表 ( 損益計算書 )] を開き, 売上原価 の項目を構成するそれぞれ勘定科目の金額を確認する ( 図表 3-26). - 26 -
Accounting System 図表 3-26 売上原価項目が正しく表示された損益計算書 図表 3-26のように, 当期残高 欄には, 期首商品棚卸高, 仕入 および 期末商品棚卸高 の金額が正当に表示され, 売上原価 ( 38,882,800) も表示されている. このよに, コンピュータ会計システムでは, プログラム ( モデルでは, 各自が定義した計算式 ) によって合計残高試算表の作成の都度 売上原価を計算することになる. 5 勘定法の仕訳方法は 決算時に損益計算書上の売上総利益を算定 表示し, 同時に貸借対照表上の商品残高を確定するのに有効である. すなわち 合計残高試算表上に出力表示される勘定科目と同じ勘定科目を仕訳入力の際にも用いる ( 出力を予定した入力方法に依存している ). ちなみに, わが国で市販されている中小企業を対象とした会計パッケージ ソフトのほとんどが,5 勘定法を採用している. これまで実習をつうじて確認したように, コンピュータ会計システムでは, データの入力がおこなわれればすべての帳簿は同時的に出力可能であり, 損益情報も表示しうる. しかし, たとえ即時的に情報出力が可能だとしても, 決算整理仕訳の入力がおこなわれなければ正確な損益情報は出力されないことになる. 結局, 手記簿記の3 分法であれコンピュータ会計システムの5 勘定法であれ企業においてその採用が多いのは, 棚卸計算法を前提とした, 取引処理において有効な損益情報の出力を期待するのではなく, 記帳手続やデータ処理の合理化に期待が大きいからである. 5 総勘定元帳マスター ファイル (3 月残高 ) の更新 シート [ 更新残高 ] シートのセル番地 C2~C32を範囲選択 コピー. Excelブック 2_1マスターファイル のシート [G/Lマスター] を開き, セル番地 F2をクリック 形式を選択して貼り付ける ( 値と数値の書式 ). Excelブック 2_1マスターファイル と 5_1 年次試算表作成サブシステム を上書き保存する.Excel 画面左上の<Office>ボタンをクリック [ 上書き保存 (A)] をクリック. 4. 総勘定元帳システムのまとめ 各帳簿間に手続き上の 1 連動性 はない 手作業の複式簿記における総勘定元帳の残高確定機能は, 2 プログラム によって代替される 手作業の複式簿記における試算表の点検目的は希薄となり, 要約表の性格が強くなる また, 3 精算表 は作成されず, その機能は試算表に組み込まれる 勘定組織が 4 勘定マスター に定義されることによって, システムへの入力可能な勘定が特定されるとともに, 各勘定の金額を正確に計算することを保証する 5 会計取引ファイル は, 各帳簿産出モジュールで共有され共通のインプットとなり, 各会計帳簿は同時的に産出される また, そのファイルの内容は, 出力可能な情報を特定する プログラムによって確定される残高は 6 GL マスター ファイル に格納され, それを介して試算表作成モジュールと元帳作成モジュールは連携する - 27 -