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助手席で水滴をいっぱいつけ咲き乱れている野菊がくすっと笑ったような気がした 花の丈は70センチメートルほどあろうか 外は濃密な霧雨で おんぼろトラックの間欠ワイパーが数秒おきにフロントガラスの歪んだ景色を拭いては現実の景色に戻してゆく 拭かれてくっきり見えた景色は瞬く間に崩れ始める 車窓の景色が雨に流れてゆく様を見るのが好きだ ワイパーが風景を描き変えるように一挙に戻すのを見ているのがまた好きだ ただぼおーっと眺めていられる 雨は昨日から続いていた 白い野菊が四本 枝分かれしてかなりの数の小さな花をつけている その花々がてんでばらばらに横向きに咲いて ひっそりとしながらもにぎやかで華やかな光を放つ 白い花は自己主張しているようで していないようで その辺がほかの花の色と違う ほとんど掃除をしない古ぼけたトラックの助手席が そこだけ急に明るくなった まるで幼稚園の少女達が乗り込んだみたいだ おしゃべりができないので ものめずらしそうに周りを見回している 花が上を向いていないのには訳がある 彼女達は数十分前まで道路脇の斜面になぜか真横に伸びていた 茎は横に伸びているが 花は一斉に空に向かって咲き霧雨の細かい粒を吸っていた 玄関脇の瓶(かめ)が頭をよぎる 高さ70~80センチほどの何の変哲もない茶色いセトモノの瓶 軒下に突っ立って 降り続く雨を口元まで溜めていた あの瓶にこの菊を投げ込んだらどうだろう やってみよう と思った 思ったら 手が出ていた 手折った ぽきぽきと軽い音 まるでそれを待っていたようだ その菊を抱えて2トントラックの助手席側ドアを開け イスとコンソールボックスの間に押し込んだ バタンとドアを閉めた それだけ 必然的に花は横向きになる それだけのこと 新聞紙にくるまれることもなく少し窮屈な空間に置かれた野菊は 車体の振動に合わせて揺れながら静かに立っている ヒーターをつけたから暑いだろう 寒いんだ 草むらを長いこと歩いてね ズボンが濡れちまった 雨の中の野の花が好きなのさ 撮っていたんだ ズボンが濡れているなんて 気がつかなかった 霧雨で風がないと最高 花が生き生きしてる 花と向き合うって別世界なんだ そこ狭いだろう 家に帰ったら大きなカメに入れてやるよ 明日も雨らしいね 夢はいつも突然覚める 国道からわが家へ向かう道 右へウィンカーを出す 東風3メートル 気温13 ワイパーが動き電光掲示板がくっきり見えた
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