2030 年のエネルギーの考え方 ~ リスクガバナンスを中心に据えて ~ @EcoLead 03.19.2015 安井至 ( 独 ) 製品評価技術基盤機構 理事長本年 3 月末にて退職決定東京大学名誉教授 国際連合大学元副学長 http://www.yasuienv.net/ 1
ベストミックス 約束草案を混沌の中で決める 本来であれば 国民的議論によって決めるべき問題である ところが 福島第一原発事故以来 純粋な原子力関係の事項は当然として 温暖化を重視する考えすら 原子力推進派を利するものであると理解され メディアを含めて国民の意見が二分割された 必要な対応 = ロジック + コミュニケーション 1. 誰にでも分かる論理体系 ( ロジック ) を作り上げること 実際には誰にでも分かることはあり得ないが! 2. 本来 科学的に95% 以上正しい事実を伝達し それに基づいて主張を行うべき ( できれば 中学生レベルでも分かるように ) 2
手法はリスクガバナンス 一般社会がリスクという概念を理解することは大変難しいが それ以外に方法論はないことを理解してもらう その理由は これまでの人間活動は 自らの欲求を満たすことを最優先して行われてきたが 近年 人間活動が相対的に大きくなって 地球温暖化や生物多様性喪失が大きなリスクとして 人類の前に立ちはだかっている その他のものを含め あらゆるリスクを適正にハンドリングすることで 初めて 自らの欲求を満たすことが可能になる それにはリスクガバナンスが手法になる 3
リスクの大きな環境関連事象 ダボス会議の評価 気候変動 異常気象 水関連リスク 生態系の崩壊 自然崩壊 環境破壊 食料危機 資源経済ナショナリズム 不適切な都市化 財政危機 地球の破綻の記述化石燃料が最大の原因 気候変動 生物多様性の喪失 金属資源の枯渇 化石燃料の枯渇 人口爆発と食料危機 環境汚染 対策費用の不足 7
人類史上のターニングポイント 人類の最初の富 = 食糧は お天気任せ 運任せ 1769 年 : ジェームズ ワットの蒸気機関の発明によって 人力のみではできない作業が可能になった 格差が拡大しはじめた 1950 年 :1906 年発明のハーバー ボッシュ法を使用し 莫大なエネルギー消費によって窒素肥料が生産 食糧の生産量が急増した 人口増加が起きると同時に 格差が一気に拡大した 現時点 : 被害者意識を持つ人々が増えた 日本の状況は 東日本大震災 福島第一原発事故で 大きく変わった 被害者意識への対応が中心課題になった 中東諸国の独裁政権の崩壊によって 西欧の富の独占に対抗して原理主義が力を持つようになった 12
1. 明確なロジックの構築 真実の伝達とリスクガバナンス メディアの両論併記を % 表示で打ち破れ! %= 正しいと主張する識者の割合 メディアは 識者は信じられないとして排除これを特定の思想を持つ市民は受け入れた 13
3 種類の一次エネルギー (100% 事実 ) ヒトが使える一次エネルギーは たった 3 種 化石燃料 = 石油 石炭 天然ガス 樹林 植物 藻類などが起源 数 1000 万年から数億年前か核融合 元は かつて地球に降り注いでいた太陽エネルギー 核燃料 = もともと宇宙起源 質量とエネルギーの変換によって作られた E=mc 2 ( アインシュタインの式 ) 自然エネルギー 核融合 基本的に現時点の太陽エネルギーの利用 他の二種がストック型に対し フロー型 超新星爆発 14
エネルギーを考える基本的枠組みそれが 3E+S である (95%) E:Energy Security E:Environment E:Efficiency & Cost S:Safety の 4 点 いずれも リスク & ベネフィットで考察することが可能 推奨する方法論は リスクガバナンス 以上の 4 点について それぞれのリスクガバナンスを考えるという方法 リスクガバナンスとは 元祖である IRGC によれば 上からの リスク統治 ではない リスクガバナンスの定義は むしろ ステークホルダーとのコミュニケーションによって ボトムアップで 自然にリスクが統治されること である 15
2. 科学的に 95% 以上正しい事実の伝達 真実 と一般社会の理解の乖離 1: 地球温暖化の理解 2: 原発の本質と安全性 3: 自然エネルギー導入 4:3E+Sで考える政策 17
1: 地球温暖化の科学的知見ー 95% 以上正しいと思われること 気候システムの温暖化に疑う余地はない ( 真実度 99%) 人為起源の温室効果ガスが 20 世紀半ば以降に観測された温暖化の支配要因 ( 95%) 2 目標を達成するには 2050 年に地球レベルで 40~70% 削減 (2010 年比 ) 21 世紀末までに排出をほぼゼロ (95%) すなわち CO2 は廃棄物で 地球の大気は廃棄物の最終処分場だと考えるべき (95%) ただし 目標温度を決めれば 処理できる廃棄物 CO2 の上限は決まってくる (95%) 将来 CO2 排出を止めても 温度低下には 100 年以上 (95%) 18
地球の大気は最終処分場! CO2 は廃棄物数 10 年後の残余容量ゼロ温度上昇を変えれば容量増加 数 10 年後に残余容量ゼロに埋立高さを変えれば容量増加 19
2: 福島第一原発と再稼働する原発のリスク 福島第一原発のリスク たとえ東日本大震災が起きなかったとしても 同規模の津波が起きれば 放射性物質の大放出が確実に起きる程度の安全性であった (99%) これを防止するために必要な投資は 今回の経験をもとに推定すれば 100 億円以下だったと推測される (95%) 再稼働する原発のリスク 安全目標は 大量の放射性物質 ( セシウム 137 の放出量が 100 テラベクレルを越える ) を含む重大事故の発生頻度を 1 基あたり 100 万年に 1 回以下 とした ( 事実 ) 注 :100 テラベクレルは 福島原子力発電所事故での放出量の 100 分の1 程度である ( 事実 ) 再稼働を目指す原発への安全投資総額 2.2 兆円 21
3: 自然エネルギーの導入 ( 真実度 95%) 太陽電池の導入は簡単だが すでに問題発生 本命は地熱だが 導入に長期間を要する 斜め掘りを行う場合の最適地の探索 ポテンシャル1420 万 kw そのうち200 万 kwぐらいは容易? 中小水力も良いが 量的に少ないので 膨大な件数 ポテンシャルの 1/8 とすれば 200 万 kw 程度? 太陽光は余りにも不安定 ( 1/8) Zero Energy House 用 風力は環境的には洋上風力 ( 1/3~1/4) だが高価 福島沖の設置は 電力網があるので多少有利 石炭火力は バイオマス混焼を義務化 バイオマス200PJ 分として 80PJ 分の電力がゼロカーボン化 これは電力からの二酸化炭素 2% 削減で200 万 kw 相当 自然エネルギーへの期待は +1500 万 kw でまだ不足 22
4: エネルギーを考える大原則 3E+S でバランスよく考えること (95%) E1: Energy Security エネルギー安全保障 E2: Efficiency=Cost 効率性 コスト E3: Environment 環境特性 S: Safety 安全性 E1: 特に 液体燃料の供給が途絶しないことが重視されている 3E+S のいずれもが リスクとベネフィットで解釈が可能である 23
三種類の一次エネルギー 2-1. 化石燃料の長期リスク 2-2. 原子力の長期リスク 2-3. 自然エネルギーの長期リスク 24
海面上昇と異常気象による環境難民問題 バングラデシュの海面上昇による国土の喪失 2008 28
単純石炭発電は 2030 年を超えられない技術 現時点でのコスト以外のメリットなし 将来 地球レベルでの気候変動適応策に無限の資金が必要になる 規制の段階的適用をする バイオマスの混焼を義務化 2025 年 しかし 国産バイオマスをどうやって使う? 森林の皆伐をそろそろ行うべき時点財産権と環境税の相殺 CCS を義務化 2035 年から ただし 日本国内でのCCSには限界か 年間 1 億トンとしても その輸送をどうする cf. 原油輸入量が年間 2 億トン CCS 義務化を環境税化しバックフィットを強制 石炭発電の効率が60% になれば許容可能? 29
石油系の燃料はまだまだ十分にある ただし値段次第 32
21 世紀前半のカーボンバジェットが 1500GtCO2 なら化石燃料は? 石炭の 81% 石油の 42% 天然ガスの 46% が余剰 CCS 処理で水素源? 8. August 2013 www.regjeringen.no/contentassets/17f83dcdadd24dad8c5220eb491a42b5/04_rystad_energy_production_under_2ds pdf 33
化石燃料の長期リスク点数は 2030 年時点個人見解 E:Energy Security のリスクガバナンス 3 点 (5 点満点 ) 原油価格の変動がこのところ非常に大きい 国家間の問題によって 原油の輸送が止まる危機は増大しつづけている E:Environment のリスクガバナンス 3 点 (5 点満点 ) どの化石燃料も 埋蔵量が尽きる前に 気候変動リスクが限界を超す 価格が低下すると 大型の自動車が売れるなど CO2 発生増大 CCS なしの石炭は長期的には論外であるが 価格が問題で合意されない もしも CCS を受け入れるのであれば 化石燃料の使用が許容され 結果 的に長期間使われ 世界の安定度に貢献する 石炭の単純火力がすべての対策を台無しにする 環境税 排出権の 出費が増えて 短命に終わるというビジネスリスクが非常に大きい E:Economic Efficiency のリスクガバナンス 4 点 (5 点満点 ) 化石燃料の価格変動 価格低下で省エネマインドが消滅する 枯渇が早まる S:Safety のリスクガバナンス 3 点 (5 点満点 ) Safety の実態は Environment とほぼ同義 リスクはほぼ気候変動リスク と海面上昇による土地の喪失リスク それに 淡水供給量の減少リスク 34
三種類の一次エネルギー 2-1. 化石燃料の長期リスク 2-2. 原子力の長期リスク 2-3. 自然エネルギーの長期リスク 35
2050 年以降期待できる & 予想される状況とイノベーション 原子力の Safety 現在の 3.5 世代原発の安全性を遥かに凌駕する第 4 世代のモジュール型炉が開発されている いわゆる Walk Away Type ができている 使用済み核燃料の処理 この問題は 2100 年ぐらいまで片付かないだろう 最終的には プレートに埋め込む処分以外に Herman Dalyの条件を満たす処理方法は無い しかし 国際的に合意されるには そのぐらいの時間が掛かるだろう 核燃料リサイクルは 自然エネルギーでやれるだけの電力網ができれば 不要になる 36
最終処分は最大の問題 プルトニウムなどの長寿命核種のため放射線強度が高い 消滅処理技術も無いわけではない 専用炉も必要かもしれない フィンランドのオンカロ ( 最終処分場 ) があるオルキルオト島は 雇用対策? しかし 10 万年はホモ サピエンスの歴史の半分の時間で 余りにも長い 定常状態にするには 別の処理法か 37
東芝 4S 原子炉 小型のナトリウム冷却高速炉 最初に装荷した燃料を交換することなく 30 年間運転可能 自然現象を活用した安全設計 ( 人的操作がなくても自然に炉停止 除熱 ) http://www.toshiba.co.jp/nuclearenergy/jigyounaiyou/4s.htm 38
地球深部掘削船 ちきゅう 39
小型原発ならそのまま処理できる?? 10 万年 = プレートが 10km 移動する時間 プレートの移動速度は ~10cm/ 年 ( 太平洋プレートの場合 ) 海溝から一定の距離には火山はない プレートが100kmもぐりこむと 脱水して融点が下がり 溶融してマグマになる そこまで行くのに100 万年かかるので 放射線が外部に漏れる可能性はない 当然 現時点では海洋投棄禁止条約 ( ロンドン条約 ) に反する行為か ( 海底に穴を掘ればどうなのか?) 40
原子力の長期リスク点数は 2030 年時点個人見解 E:Energy Security のリスクガバナンス 5 点 ウランの供給は比較的余裕があるが 世界の原子炉の数が 1000 基を超すあたりから 若干の供給不安が起きる しかし ウランだけが核燃料ではない トリウムへの移行がインドなどを中心に行われる したがって Energy Security が重大になる可能性はかなり低い E:Environment のリスクガバナンス 4 点 放射性物質の異常放出によるリスクは いかなる設備においても 常にゼロではない 他国で巨大事故が起きれば 国内でも停止の憂き目にあう可能性大 E:Economic Efficiency のリスクガバナンス 3 点 原発の安全性を高める要請から 原発の発電コストは 安いとは言え ないものになる S:Safety のリスクガバナンス 4 点 巨大な原発ほど採算性が高いために 制御不能ぎりぎりの大容量 原発が開発される そのため パッシブ セーフティーが重要視されない場合が多発する 41
三種類の一次エネルギー 2-1. 化石燃料の長期リスク 2-2. 原子力の長期リスク 2-3. 自然エネルギーの長期リスク 42
2050 年以降期待できる & 予想される状況とイノベーション 自然エネルギーの Economic Efficiency 2013 年に 27.4 兆円あった日本の 鉱物性燃料 の輸入が 2 050 年以降になって ほぼ 1/10 に 次世代二次電池の輸出が 10 兆円を超すか 高温岩体発電が実用になっている 不安定な電力に対応できる電力網ができている 人口の半分程度の台数の乗用車が 20kWh 以上の電池を搭載しており Vehicle to Grid の一部になっている 電力網の幹線 ( 背骨 ) は 直流送電になっている 福島沖には浮体型の風力発電が林立している 海洋エネルギー 津軽海峡 明石海峡 鳴門海峡には潮力発電 44
自然エネルギーの長期リスク点数は 2030 年時点 E:Energy Security のリスクガバナンス 5 点 基本的に地域エネルギーなので リスクは低い E:Environmentのリスクガバナンス 5 点 バードストライクなどは 対応が不可能ではない 低周波音は 住居との距離を取ること 洋上風力が主体になれば 自動的に解決 E:Economic Efficiencyのリスクガバナンス 2 点 最大のリスクは不安定さを補償しようとすると高くつくこと 系統強化をしようとするとかなりのコスト 電池の大量導入は普通の方法では不可能 しかし 長期的解はあるかもしれない 例えば 電気自動車のバッテリーの活用 日本のような資源の無い国にとって エネルギーの自給が可能になれば全く新しい国の成立ち方を考えることができるようになる それには 不安定さをそのまま受け入れるという認識の変化が不可欠だが これはかなり価値観を変える必要がある S:Safety のリスクガバナンス 4 点 最悪の状況では エネルギー供給不足の事態が発生しかねない 病院などでそれが起きれば 命に関わるが 対応は不可能ではない 46
一次エネルギーのリスク ガバナンスの観点からの評価 2030 年頃? Energy Security Safety 原子力 Energy Security 5 4 3 2 1 0 Efficiency & Cost 注 : 再稼働原発の Efficiency & Cost は 4~5 点 Environment Safety 化石燃料 Energy Security 5 4 3 2 1 0 Efficiency & Cost Safety Efficiency & Cost Environment Safety Environment 再エネ Energy Security 5 4 3 2 1 0 Efficiency & Cost Environment 47
3. 第四 ( 省エネ ) 第五 ( ライフスタ イル ) の エネ源 の重要性 48
第四のエネ源 : 省エネ省エネ技術を極限まで活用 日本のさらなる省エネはかなり難しい 北海道の冬でも エアコン暖房を可能に 地中熱をヒートポンプの熱源に活用 河川水も同様に 都市部での冬に 下水の熱をヒートポンプでくみ上げて使用 都市排熱 地中熱の活用 限界削減費用の考え方を変える 二国間クレジット JCM による途上国の低炭素化 日本の技術 ( 最新のものでなくても可 ) を移転することで アジア アフリカの国々の省エネ 低炭素化を支援 49
限界削減費用のような考え方も常に正しい訳ではない リチャード A ムラー カリフォルニア大学バークレー校 既存のオフィスビルの追加断熱のような重要な対策が 限界削減費用を用いると考慮の外 追加投資によってビルの資産価値が向上 ビルの賃料の上昇が期待できる といった発想にはならない 50
日本の技術で海外で省エネ = 国際貢献 51
第五のエネ源 : ライフスタイル CO2 排出の要素分解式 満足サービス Service Satisfaction 省エネ Energy Saving 低炭素エネルギー源 Low ー C E. Resources 52
米国 Opower というベンチャー Smart Meter( 電力消費量がインターネットで分かる ) を活用して 人々の行動を変えることで 省電力を実現している会社 カリフォルニア州の PG&E( 電力 ガス会社 ) 等と提携 方法 気温などから 消費量の増加を予測 もし 増加が大と予測された場合には 消費者にメール 明日 11 時から14 時までの消費量をXX 以下に抑えて貰えたら ご褒美として 8ドル差し上げます XXは その家の実績を用いて Opowerが適切な値を提案 cf. 日本流 : 明日の 11 時から 14 時には消費電力が増大するので 電力単価が 2 倍になります 53
日本の大目標 = フロー経済への転換 自然エネルギーへ化石燃料はCCSが必須 核燃料長期的には枯渇する ( 汚染は論外 ) 廃棄物 (CO2 核燃料) 地球の処理能力内 物質資源すべて有限 再生をする 金属 鉱物資源 自然エネで丁寧リサイクル 再生可能資源 生物資源 再生速度の範囲内で使用 淡水資源 再生速度の範囲内で使用 環境資源 ( 生態系 ) 各種環境維持機能かなり脆弱 保全が必要 54
結論 対応すべき地球環境問題はほぼ 2 種類 気候変動含む淡水供給問題土地の冠水 生物多様性最悪のシナリオを早く見つける 鉱物資源は 気候変動 & 生物多様性との関係で配慮 = 具体的には 3R できるだけ水平リサイクル ただし 鉄に限り 今世紀中は土木 建設用ニーズがあるのでカスケードリサイクルで良い とりあえず持続可能社会へは 3 種の対応で 1. イノベーション消費者の感性への対応が重要 2. 社会システム変更 ソフトロー =ISO26000など for Global Company ハードロー =?? 個人的には国際環境連帯税 3. ライフスタイル変更 1. と深く関係する 56
付録 : ベストミックス 約束草案シミュレータを作りました 黄色いセルにだけ入力する http://www.yasuienv.net/ からダウンロード可能 57