目次 小児予防接種の現状 岩手県立久慈病院小児科 石井まり 予防接種とは 予防接種の種類 スケジュールなど 予防接種各論 病気 ワクチン 副反応など 今後の課題など 2012 年 2 月 29 日 予防接種の役割 感染症 母から子に臍の緒を通じて与えられる免疫 ( 病気に対する抵抗力 ) は 生後徐々に失われていく そのため赤ちゃん自身で免疫を作って病気を予防する必要がある 予防接種です その助けとなるのが予防接種 感染症とは ウイルスや細菌などの微生物が体内に入り 体内で増殖することにより発症する病気のこと ウイルスや細菌に一度感染すると 体の中にその病気に対する免疫がついて この記憶は体の中に長く残る 多くの病気は一度かかると二度とかからない ( 例外 ) インフルエンザは毎年少しずつ性質を変化させるウイルスで 一生のうちに何度か かかることがある 予防接種とは 予防接種の有効性 感染症の原因となるウイルスや細菌 または細菌が作り出す毒素の力を弱めて予防接種液 ( ワクチン ) を作り これを体に接種して その病気に対する免疫 ( 抵抗力 ) を作ることをいいます お子さんの体質 その時の体調などによって免疫ができないこともある 不活化ワクチンでは 免疫ができてもしばらくすると少しずつ減っていくので 一定の間隔で追加接種が必要となる
ワクチン接種後の免疫反応 定期接種 抗体価 抗体価 十分な免疫をつけるために何度か接種する 自然感染に近いかたちで免疫がつき 接種回数が 1-2 回程度 定期接種 法律で決められた接種 決められた期間内であれば公費で無料で受けられる BCG 三種混合 ポリオ MR( 麻疹風疹 ) 日本脳炎 二種混合など 任意接種 生ワクチン 任意接種 感染力が強い病気で 接種が望ましいもの 原則自己負担だが 自治体によって補助が出るところもある ヒブ 肺炎球菌 おたふく 水痘 HPV( 子宮頸癌 ) B 型肝炎 A 型肝炎など 生ワクチン ウイルスや細菌は生きているが 病原性を弱めたもの 接種するとその病気に自然にかかった状態とほぼ同じ免疫力がつく ウイルスや細菌が体に中で徐々に増えるので 1-3 週間後に軽くかかった様な症状が出ることがある BCG( 結核 ) ポリオ MR( 麻疹 風疹 ) おたふくかぜ 水痘 ( みずぼうそう ) など 不活化ワクチン トキソイド 不活化ワクチン 病原性を無くした細菌やウイルスの一部を使う 生ワクチンに比べて免疫力が弱いので 何回か接種する 三種混合 二種混合 日本脳炎 インフルエンサ A 型肝炎 B 型肝炎 ヒブ 肺炎球菌ワクチンなど トキソイド 細菌の産生する毒素 ( トキシン ) を取りだし 免疫を作る能力は持っているが 毒性は無いようにしたもの ジフテリア 破傷風
ワクチンの接種間隔 予防接種を受ける時 体調の良いときに受けるのが原則 母子手帳 赤ちゃん手帳を必ず持参してください 予診票 予防接種を受けるとき 事前に確認すること 1 熱やその他で体調は悪くないか? 2 接種できる年齢であるか? 3 ここ 1 か月で病気にかかったか? 4 まわりで何か病気が流行っていないか? 5 ワクチン同士の接種間隔はあいているか? 6 持病があるか? 7 ひきつけを起こしたことはあるか? 予防接種を受けるとき 予防接種を受けた後は 事前に確認すること 8 薬や食べ物にアレルギーはあるか? 9 身内で免疫不全の人はいるか? 10 今までに受けた予防接種で具合が悪くなったことはあるか? 116 か月以内に輸血やガンマグロブリンの注射を受けたか? 30 分程度は受けたところでお子さんの様子をみる 接種したところは清潔に 入浴してもいいが 接種部位をこすらない 当日は運動を避ける 接種したところが異常に腫れたり 体調が悪くなった場合は診察を受ける
予防接種の種類 結核 結核は 肺結核の患者が咳などをしたときに結核菌が飛散し感染する 日本の結核患者はかなり減ったが それでも 2 万人を超える患者が毎年発生している 感染すると血液やリンパを介して肺や髄膜 胸膜 骨 関節 腎臓などに拡がる 中でも肺結核が約 80% を占める 発病は感染後 1 年以内のことが多いが 体の中に潜んでいて 10 年以上たって発病することもある 患者の半数は 60 歳以上だが 小児 若年者の結核もある 薬で治すことができる 結核 BCG 結核に対する免疫は母からもらえない 乳幼児は結核に対する抵抗力が弱く 重症になることがある 生後 3~6 か月までに受ける 効果は 10-15 年 結核性髄膜炎を 80% 肺結核を 50% 予防できる BCG コッホ現象 副反応 : 接種後 2-3 週間で接種した部分に赤いポツポツができ 一部に小さいうみができる 4 週間後がピークで その後かさぶたとなり 3 か月後くらいまでに治る 異常反応ではない コッホ現象 : 接種後 10 日以内に接種部位が赤く腫れ 化膿し 2-4 週間後に瘢痕化して治るといった場合はすでに結核菌に感染している可能性がある すぐに医療機関を受診 異常反応
三種混合 二種混合 ジフテリア 三種混合 (DPT) D(Diphtheria): ジフテリア P(Pertussis): 百日咳 T(Tetanus): 破傷風 二種混合 (DT) ジフテリア (D) とは 咳やくしゃみで感染 主に喉がやられる 高熱 喉の痛み 犬が吠えるような咳 嘔吐などの症状 喉が腫れて気道を塞ぎ 窒息死もある 発病 2-3 週後に菌の出す毒素により心臓の筋肉や神経にダメージを与えることがある 国内での患者報告はないが 海外からの持ち込みに注意 ジフテリア 百日咳 百日咳 (P) とは 咳やくしゃみで感染 普通の風邪のような症状で始まる 続いて咳がひどくなり 連続性に咳き込むようになる 一度咳こむと止まらないため 息が吸いづらく 赤ちゃんがかかると重症化する 肺炎や脳炎などを起こすこともある 熱は出ても微熱程度 近年 大きい子や成人の百日咳流行が問題となっている 百日咳 破傷風 破傷風 (T) とは 破傷風菌はヒトからヒトへの感染ではない 土の中にひそんでいて 傷口からヒトへ感染する 菌の出す毒素で口が開かなくなったり けいれんを起こしたり 死亡することもある 患者の半数は自分では気づかない程度の軽い傷が原因 感染する機会は常にある
破傷風 DPT DT ワクチン 三種混合 (DPT) ポリオ Ⅰ 期 3-8 週の間隔をあけて DPT による初回接種 3 回を その終了後 1 年 ~1 年半で追加接種 Ⅱ 期 11~12 歳で二種混合 (DT) による追加接種を 1 回 副反応 注射部位が赤く腫れたり しこりができたりする 3 回目では接種した人の半分くらいにみられる 免疫がついたことによる反応なので あまり心配しないように ポリオ ( 急性灰白髄炎 ) とは 小児まひ とも呼ばれ 1960 年代前半までは流行を繰り返していた ポリオウイルスによる感染症で 人から人へ感染する 口から入ったウイルスが腸の中で増え 便の中に排泄され この便を介して他の人に感染する 感染しても多くの場合症状が出ない しかし ウイルスが脊髄の一部に入りこみ 手足に麻痺を起すことがある 麻痺は一生残り 特効薬は今のところない 日本ではポリオは根絶されたが 海外から入ってくる可能性はある ( ナイジェリア インド パキスタン アフガニスタンなど ) ポリオワクチン 麻疹 ポリオワクチンは飲むワクチン 3 か月から 7 歳半までの間に 41 日以上あけて 2 回飲む 効果は一生続く ひどい下痢をしている場合は効果が弱まるので延期を 弱毒生ワクチンであり 極めてまれに麻痺を起す人がいる (1/486 万回接種 ) ワクチンを飲んだ人から 1 か月にわたって便中にウイルスが排泄される そこから感染し 極めてまれに麻痺を起すこともある (1/789 万回接種 ) 麻疹 ( はしか ) とは 麻疹ウイルスの空気感染で起こる病気 発熱 咳 鼻汁 めやに 発疹が主な症状 麻疹にかかると気管支炎 肺炎 中耳炎 脳炎などを合併することがある 感染して数年 ~10 年後に 脳内に潜伏していたウイルスが原因で 亜急性硬化性全脳炎 (SSPE) という慢性脳炎になることがある 予防接種を受けずに麻疹にかかると数千人に 1 人の割合で死亡する
麻疹 風疹 合併症 風疹とは 風疹ウイルスの飛沫感染によって起こる 潜伏期間は 2-3 週間 軽い風邪様の症状で始まり 発疹 発熱 後頸部リンパ節腫脹 眼球結膜充血などがみられる 発疹や発熱は 3 日間で治ることが多いため 三日ばしか とも呼ばれる 風疹にかかると関節痛 血小板減少性紫斑病 脳炎を合併することがある 妊婦が妊娠早期にかかると 先天性風しん症候群と呼ばれる心臓の奇形 白内障 聴力障害を持った児が生まれる可能性が高くなる 風疹 風疹 麻疹 風疹ワクチン 麻疹 風疹ワクチン ワクチンの副反応 : 弱毒生ワクチンであり 接種して 1 週間くらいから発熱や発疹がみられることがある 接種したところが赤く腫れたりする軽い副反応の他 まれにアナフィラキシーショックや血小板減少性紫斑病 脳炎 けいれんなど起こることがある
日本脳炎 日本脳炎 日本脳炎は 蚊 ( コガタアカイエカ ) が媒介する日本脳炎ウイルスによって起こる感染症 感染しても多くは無症状 しかし 感染した 100~1000 人に 1 人が脳炎を発症する 脳炎を発症すると麻痺を残したり 死亡することもある 日本での患者発生は毎年 10 人以下だが ブタの抗体検査から西日本を中心にウイルスの存在が確認されている 治療法は確立されておらず ワクチンで予防することが大切 日本脳炎ワクチン 日本脳炎ワクチン ワクチンは日本脳炎ウイルスを不活化し 精製したもの 副反応は 発熱などが接種後 24 時間以内にみられることがある また 極めてまれにショック アナフィラキシー様症状 * 急性散在性脳脊髄炎 (ADEM) けいれん 血小板減少性紫斑病などがある * 急性散在性脳脊髄炎 ワクチン接種後に数日から数週間程度で発熱 頭痛 けいれん 運動障害などの症状が出る 神経系の後遺症を残すことが 10% 程度ある 日本脳炎ワクチン ヒブ ヒブ (Hib) とは インフルエンザ菌 b 型 という細菌の略称で 冬に流行するインフルエンザの原因である インフルエンザウイルス とは全く別のもの ヒトからヒトへ飛沫感染する ヒブが原因で起こるものは髄膜炎 喉頭蓋炎 肺炎 敗血症などがある