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スライド 1

各部門精度管理調査結果報告 ( 細胞検査 ) はじめに 細胞検査における精度管理調査は 日々のスクリーニング作業において誤判定を起こさないよう 自施設の判定基準が他施設と十分な同一性を保持しているかを確認することを目的としている 平成 30 年度の精度管理調査はフォトサーベイ 10 問としてた 精度

乳腺40 各論₂ 化膿性乳腺炎 (suppulative mastitis) 臨床像 授乳の際に乳頭の擦過創や咬傷から細菌が侵入し, 乳房に感染症を生じるものである 乳汁 排出不良によって起こるうっ滞性乳腺炎とは区別する 起炎菌は連鎖球菌や黄色ブドウ球菌である 自発痛, 腫脹, 硬結, 圧痛, 発赤

第58回日本臨床細胞学会 Self Assessment Slide

最初に事後指導項目規定をお示し致します これらは 陰性スメアに対して行っております まず 取り扱い項目は要医療 要治療の 2 項目あります 要医療扱いの細胞所見は 一つ目に 炎症を伴う強度細胞異型の見られるもの 二つ目として 萎縮像に炎症を伴った強度細胞異型の認められるもの 三つ目として 核異型の伴

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平成 30 年度青臨技細胞診精度管理調査報告書 八戸市立市民病院臨床検査科病理 須藤安史 はじめに 今年度の青臨技細胞診精度管理調査では フォトサーベイを実施した 評価対象問題では 各施設において細胞診業務を行う上で 日常遭遇する基本的な細胞像を適確に判定するための一定の水準と精度が保たれていること

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

ベセスダシステム2001の報告様式 ーASC-US、ASC-Hの細胞像と臨床的意義ー

第46回日本臨床細胞学会秋期大会 細胞検査士会要望教育シンポジウム

細胞学的検査 はじめに 参加申し込みのあった登録衛生検査所 9 施設, 一般病院等 50 施設を対象に実施した. 回答があったのは登録衛生検査所が 9 施設, 一般病院等が 50 施設で合計 59 施設, 回収率は 100% であった. また, 参加施設数は昨年に比して登録衛生検査所が同数であったが

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モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

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平成28年度 千臨技細胞診検査研究班精度管理報告

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れない 採取後 95% エタノールによって固定し パパニコロウ染色を実施した 標本は最初に細胞検査士によってスクリーニングされ 病理医によって確定診断された 細胞診標本の再評価は 著者と他 5 名の細胞検査士が行い病理医と評価した 判定はベセスダシステム 2001 に準拠し 上皮内腺癌の感度 scr

組織所見 ( 写真 4,5): 異型上皮細胞が間質および脂肪組織に索状, 管状に浸潤して おり, 浸潤性乳管癌 ( 硬癌 ) の所見である. 設問 2 78 歳, 女性. 左乳房上 C 領域の腫瘤 選択肢 1. 線維腺腫 2. 乳管内乳頭腫 3. 乳管癌 4. 小葉癌 5. 悪性リンパ腫 写真 4

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図 1 乳管上皮内癌と小葉上皮内癌 (DCIS/LCIS) の組織像 a: 乳頭状増殖を示す乳管癌 (low grade).b: 篩状 (cribriform) に増殖する DCIS は, 乳管内に血管増生を伴わない時は,comedo 壊死を形成することがあるが, 本症例のように血管の走行があると,

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記述式子宮内膜細胞診報告様式における細胞診判定区分異型内膜上皮細胞(ATEC)

症例4 消化器

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細胞診クラス分類 日本母性保護産婦人科医会 1978年 子宮頸部細胞診報告様式改定 クラス クラス Ⅰ クラス Ⅱ クラス Ⅲ Ⅲa 正常 異常細胞を認めるが良性 悪性を疑うが断定できない 悪性を少し疑う 軽度 中等度異形成を推定 このクラスから5 程度に癌が検出される Ⅲb 悪性をかなり疑う 高度

高知赤十字病院医学雑誌第 2 2 巻第 1 号 年 5 原著 尿細胞診 Class Ⅲ(AUC) の臨床細胞学的検討 ~ 新報告様式パリシステムの適用 ~ 1 黒田直人 1 水野圭子 1 吾妻美子 1 賴田顕辞 2 奈路田拓史 1 和田有加里 2 宇都宮聖也 2 田村雅人

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

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平成 29 年度細胞検査サーベイ報告 細胞 ( フォトサーベイ ) はじめに 今回の細胞検査は例年どおりフォトサーベイを行った 昨年度同様 各設問につき判定区分と推定病変を設け 回答していただくようにした また回答状況をよりよく把握するために わからないとした理由や細胞所見などを書いていただける欄を

設問1 子宮頚部擦過(TACAS)

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10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

/ NILM (negative for intraepithelial lesion or malignancy) IUD!"#$% CIN SIL(TBS*) &'()* +,'()* -'()*./01!"#$!"%&'#&(%&)*+'$,)(&-'./0001 2

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目 次 はじめに... 独立行政法人国立病院機構北海道がんセンター臨床検査科病理主任平紀代美 Ⅰ. Liquid-based cytology(lbc) とは... 1 Ⅱ. 体腔液検体処理方法... 1 Ⅲ. 固定液の違いによる標本の違い (BD サイトリッチ レッド保存液 or BD サイトリッ

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32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

16 岡山県臨床細胞学会 症 例 巨大嚢胞内の一部に良性乳管上皮を伴う男性乳癌の 1 例 成富真理, 畠 榮, 日野寛子, 高須賀博久, 物部泰昌 川崎医科大学附属川崎病院病理部 背景巨大嚢胞内腔側壁の一部に良性乳管上皮を伴う男性乳癌の1 例を経験したので, 細胞像を中心に報告する. 症例 70 代


1 除菌後胃癌の特徴と診断のポイント 新潟県立がんセンター新潟病院内科 小林正明 要点 除菌治療前の内視鏡検査で気付かなかった病変は 除菌後に形態変化 ( 平坦 陥凹化 ) して さらに発見しづらくなる場合があるため 治療前の検査は慎重に行う必要があります 除菌後に発見される病変には 従来の胃癌に比

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子宮頸がんと子宮体がん 卵管 子宮体癌 子宮頸癌 子宮体癌 自覚症状初期は無症状不正性器出血 好発年齢 30~40 代 (20~30 代で急増 ) 閉経後の 50 代以降 卵巣 子宮頸癌 リスクファクター 高リスク型 HPV 感染 肥満 高血圧 糖尿病 未経産婦 エストロゲン製剤の長期使用など 腟

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Photo. 1 大脳皮質 / 圧挫標本 a) パパニコロウ染色 (Pap, 対物 40) 正常組織では, 神経細胞, 星膠細胞, 乏突起膠細胞がバランスよく出現しているが, 胞体や突起, 線維とも不明瞭である. 神経基質は微細な網目状構造として認める. b) GFAP 免疫染色 (GFAP, 対物

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子宮頸がん 1. 子宮頸がんについて 子宮頸がんは子宮頸部に発生するがんです ( 図 1) 約 80% は扁平上皮がんであり 残りは腺がんですが 腺がんは扁平上皮がんよりも予後が悪いといわれています 図 1 子宮頸がんの発生部位 ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染は子宮頸がんのリスク因子です

問題 6 65 歳 女性 不正性器出血 子宮頸部 ブラシ擦過 1. HSIL( 中等度異形成 ) 2. HSIL( 上皮内癌 ) 3. AIS( 上皮内腺癌 ) 4. 非角化型扁平上皮癌 5. 小細胞癌 問題 7 75 歳 女性 不正性器出血 子宮内膜 ブラシ擦過 1. 角化型扁平上皮癌 2. 粘液

2. 分泌期内膜 3. 子宮内膜増殖症 4. 類内膜腺癌 G1 5. 漿液性腺癌 問題 6 43 歳 女性 不正出血 子宮内膜エンドサイト 1. 子宮内膜増殖症 2. 類内膜腺癌 G1 3. 類内膜腺癌 G3 4. 明細胞腺癌 5. 子宮内膜間質肉腫 問題 7 48 歳 女性 不正出血 子宮内膜吸引

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2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

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Ⅰ. 女性性器の超音波検査 一般目標子宮 卵巣 卵管 腟 外陰の超音波検査における基本事項と正常および病的状態の超音波所見を理解し, 診断および治療に結び付けることができる. 解剖 生理 [ 子宮 ] (a-1) 経腹走査による子宮の超音波像を説明できる. (c-2) 経腟走査による子宮の超音波像を

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

ける発展が必要です 子宮癌肉腫の診断は主に手術進行期を決定するための子宮摘出によって得られた組織切片の病理評価に基づいて行い 組織学的にはいわゆる癌腫と肉腫の2 成分で構成されています (2 近年 子宮癌肉腫は癌腫成分が肉腫成分へ分化した結果 組織学的に2 面性をみる とみなす報告があります (1,

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

子宮頸部細胞診新報告様式について 子宮頸癌 子宮頸部細胞診における ベセスダシステム 2001 導入の意義 ー病理医の立場からー 早期発見が可能となった 本邦女性の死亡数は減少している しかし 20代 30代女性の罹患数や死亡数が増加 この年代においては 臓器別では最多 川崎医科大学 病理学2 現代

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平成14年度研究報告

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

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検査項目情報 1174 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4F. 性腺 胎盤ホルモンおよび結合蛋白 >> 4F090.HCGβ サブユニット (β-hcg) ( 遊離 ) HCGβ サブユニット (β-hcg) ( 遊離 ) Department of Clinical Lab

問題 6 44 歳 女性 不正出血 子宮頸管 ブラシ擦過 1.NILM( 頸管腺細胞 ) 2.NILM( 扁平上皮化生細胞 ) 3.LSIL( 軽度異形成 ) 4.AIS ( 上皮内腺癌 ) 問題 7 49 歳 女性 腹部腫瘤 卵巣腫瘤 捺印 1. ブレンナー腫瘍 2. 顆粒膜細胞腫 3. 漿液性腺

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検査項目情報 トータルHCG-β ( インタクトHCG+ フリー HCG-βサブユニット ) ( 緊急検査室 ) chorionic gonadotropin 連絡先 : 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10)


僕が見た21世紀の 産婦人科医療


乳管内乳頭腫!"#$!"%&'( )*+,-./,01/ /789:;/<=> 乳頭腫 乳頭状癌 二種類の細胞 一種類の細胞 アポクリン化生あり アポクリン化生なし 核クロマチン正 複雑な腺管構造 明瞭な間質結合織が介在 ghij "kl?ma ef" -cd bcd 平滑筋アクチン

方法について教えてください A 妊娠中の接種に関する有効性および安全性が確立されていないため 3 回接種を完了する前に妊娠していることがわかった場合には一旦接種を中断し 出産後に残りの接種を行うようにしてください 接種が中断しても 最初から接種し直す必要はありません 具体的には 1 回目接種後に妊娠

調査 統計 歯科治療における細胞診の有用性 - 東京歯科大学千葉病院臨床検査部における細胞診の統計 - 1),2) 村上聡 * 松坂賢一 1),3) 監物真 3) 塚本葉月 1) 田村美智 1) 秦暢宏 川原由里香 1) 草野義久 1) 劉潁鳳 1) 杜岩 1) 辛承一 1) 井上孝 1) 東京歯科

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内膜腺管の拡張 線毛上皮化生 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会 細胞診アトラス 子宮体部内膜シリーズ (13) 患者年齢 50 歳代性別女性検体種類 : 子宮内膜擦過 ( エンドサイト ) 臨床所見 : 閉経 子宮内膜厚 6.8mm 細胞判定 疑陽性 Ⅲ 細胞診断 白血球 内膜間質細胞 macrophage を背景に嚢胞状や球状に拡張した腺管をみる ( 写真 1 2) また好酸性上皮化生 線毛上皮化生 ( 写真 3) や核腫大を示す内膜表層細胞 およびわずかに腺管の分岐もみられる 癌を示唆するような細胞異型は認めない 細胞所見からは単純型子宮内膜増殖症が最も疑われるが 閉経後であることや内膜が厚いことなどから疑陽性として要経過観察とした 細胞診と同時に実施した生検では単純型子宮内膜増殖症であった ( 写真 4) 細胞診断のポイント 内膜腺上皮は単純管状腺であるため生理的変動はあるものの 性周期による内膜腺の太さはほぼ一定である つまり嚢胞状や同一腺管における最大幅 / 最小幅比の増大は構造異型として認識する これらの腺管拡張の判定指標は 最大拡張腺管の直径線上にある核数が 40 個以上であること 腺管の最大幅が最小幅の 2 倍以上であることなどが挙げられる しかし実際は少数であれば正常ないし良性でも出現することがあるため出現数や出現率を考慮する必要がある 出現数や出現率は検体採取法や検体処理法に左右されるので自施設で最適な基準を決める必要がある 写真 ( 細胞像 組織像 ) 分岐腺管 ( 左 ) 嚢胞状に拡張した腺管 ( 中央 ) 球状を呈する腺管 写真 1:Papanicolaou 染色 4 写真 2:Papanicolaou 染色 10 線毛を有する化生細胞拡張した内膜腺管 ( 腺管細胞は線毛上皮化生 )( 上 ) 球状を呈する腺管 ( 下 ) 写真 3:Papanicolaou 染色 100 写真 4:H E 染色 10

内膜腺管の分岐および拡張 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 子宮体部内膜シリーズ (14) 患者年齢 50 歳代性別女性検体種類 : 子宮内膜擦過 ( ブラシ ) 臨床所見 : 閉経 不正性器出血 細胞判定 陰性 Ⅱ 細胞診断 白血球および内膜間質細胞を背景に土管状の腺管をみる ( 写真 1) 腺管は細いものが主体で構成細胞は N/C 比が高く核優勢であるが 小型で核縁不整などの細胞異型は認めない 数ヶ所で腺管は分岐や拡張を呈し構造異型を疑う ( 写真 2 3) 閉経していることも考慮し施行した生検では増殖期腺管をみるが明らかな増殖症の所見は認めなかった ( 写真 4) 細胞診断のポイント 内膜腺上皮は単純管状腺で ときに腺底部にて分岐をみるがその頻度は多くない つまり樹枝状分岐や分岐した腺管の増加 それに伴う腺管の盲端部の増加は構造異型と認識される しかし実際は少数であれば正常ないし良性でも出現することがあるため出現数や出現率を考慮する必要がある 出現数や出現率は検体採取法や検体処理法に左右されるので自施設で最適な基準を決める必要がある 写真 ( 細胞像 組織像 ) 腺管の最大幅と最小幅が 2 倍以上の拡張腺管 分岐を示す腺管 写真 1:Papanicolaou 染色 10 写真 2:Papanicolaou 染色 10 分岐を示す腺管 生検では特に異常を認めない 写真 3:Papanicolaou 染色 10 写真 4:H E 染色 10 2013.3 Ver1

トロホブラスト AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 子宮体部内膜シリーズ (15) 患者年齢 50 歳代性別女性検体種類 : 子宮内膜擦過 ( エンドサイト ) 臨床所見 : 不正性器出血 鑑別すべき所見 絨毛癌 細胞判定 陰性 Ⅱ 細胞診断 合胞性の多核巨細胞と共に大型の異型細胞を大型集団 シート状集団ないし孤在性にみる ( 写真 1 3) 異型細胞は多辺形で細胞結合は不明瞭である また 核の大小不同 核形不整 核小体の肥大をみる ( 写真 4) 細胞質に粘液は認めない 比較的細胞異型が強いが 背景に腫瘍性の壊死物質や炎症細胞の浸潤などはなく 集団内の核は比較的揃っている ジンチチウム型トロホブラストの出現が主体であるため 妊娠に由来するトロホブラストとした ( 写真 2) 細胞診断のポイント 正常妊娠および絨毛性疾患の鑑別は主体となるトロホブラストの種類とその異型度が鑑別の参考になる ジンチチウム型は正常妊娠時に多く 正常妊娠時 > 胞状奇胎 > 侵入奇胎の順に出現の割合は減少するが どれも異型に乏しい また 絨毛癌での出現は稀であるが異型は強い ラングハンス型は正常妊娠時に少なく 正常妊娠時 < 胞状奇胎 < 侵入奇胎 < 絨毛癌の順に出現率は高く異型も強くなることが多い 写真 ( 細胞像 ) ジンチチウム型トロホブラスト ( 弱拡大 ) ジンチチウム型トロホブラスト ( 中拡大 ) 写真 1:Papanicolaou 染色 X10 写真 2:Papanicolaou 染色 X20 ラングハンス型トロホブラスト ( 中拡大 ) 壊死物質や炎症細胞の浸潤は認めない 写真 3:Papanicolaou 染色 X20 ラングハンス型トロホブラスト ( 強拡大 ) 写真 4:Papanicolaou 染色 X40

好酸性上皮化生 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 子宮体部内膜シリーズ (16) 患者年齢 40 歳代性別女性検体種類 : 子宮内膜擦過 ( ブラシ ) 臨床所見 : 月経中 過多月経 細胞判定 疑陽性 Ⅲ 細胞診断 少量の白血球と散在性に出現する内膜間質細胞を背景に内膜腺上皮細胞と内膜間質細胞の集団をみる 内膜間質細胞を被う内膜腺上皮細胞はライトグリーン好性で厚めの細胞質をもち 一部に線毛をみる ( 写真 1) 核は類円形が主体であるが軽い核形不整もみられる 集団からほつれかけている細胞では細胞質は多辺形で化生細胞様であり核の腫大をみる ( 写真 2) 土管状の内膜腺上皮細胞には細胞異型は認めないが 1ヶ所に腺増生を疑う集団を認めたため内膜増殖症の存在を否定できず要生検とした ( 写真 3) 生検では腺増生の所見はなく 好酸性上皮化生で縁取られ拡張した内膜腺管を認め単純型子宮内膜増殖症と診断された ( 写真 4) 細胞診断のポイント 内膜腺上皮細胞は様々な化生を起こす 好酸性上皮化生は頻度の高い化生の1つであり 線毛上皮化生も合併することが多い 多辺形でライトグリーン好性の細胞質や間質細胞を覆う所見に注目すれば同定は可能である しかし しばしば内膜増殖症や癌と合併するため 好酸性上皮化生をみた場合には化生のない内膜腺細胞の細胞異型や構造異型をよく観察することが必要である 写真 ( 細胞像 組織像 ) 間質細胞を覆う好酸性上皮化生細胞 核は腫大し細胞質は多辺形を呈する 写真 1:Papanicolaou 染色 20 写真 2:Papanicolaou 染色 40 腺増生を疑う細胞集団 好酸性上皮化生 写真 3:Papanicolaou 染色 20 写真 4:H E 染色 20 2013.3 Ver1

粘液上皮化生 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 子宮体部内膜シリーズ (17) 患者年齢 40 歳代性別女性検体種類 : 子宮内膜擦過 ( エンドサーチ ) 臨床所見 : 不正性器出血 鑑別すべき所見 頸管腺上皮細胞 細胞判定 陰性 Ⅱ 細胞診断 内膜腺上皮細胞の粘液上皮化生 ( 写真 1) 細胞質に粘液をみる( 写真 2) 頸部腺上皮細胞と類似の所見を示すが 周囲には頸部腺上皮細胞のコンタミを示唆する所見はみない また この標本では好酸性上皮化生細胞も混在して認めた ( 写真 3) 細胞診断のポイント 通常の内膜腺上皮細胞の中に頸管腺上皮細胞に類似した高円柱状で粘液を充満した胞体をもち 核が基底に位置している細胞を粘液上皮化生という 頸管腺上皮細胞に類似するため診断には頸部からの混入を否定する必要がある 写真 ( 細胞像 組織像 ) 頸管腺上皮細胞に類似した内膜腺上皮細胞の粘液上皮化生 写真 1:Papanicolaou 染色 X20 高円柱状の細胞質内に粘液をみる 写真 2:Papanicolaou 染色 X40 好酸性上皮化生細胞 写真 3:Papanicolaou 染色 X40 セルブロック標本 写真 4:H E 染色 X20

内膜被覆上皮細胞の偽乳頭状増生 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 子宮体部内膜シリーズ (18) 患者年齢 50 歳代性別女性検体種類 : 子宮内膜擦過 ( エンドサーチ ) 臨床所見 : 不正性器出血 細胞判定 陰性 Ⅱ 細胞診断 内膜間質細胞集団 ( 写真 1 左 ) シート状の内膜腺上皮細胞集団( 写真 1 中央 ) 土管状の内膜腺上皮細胞集団 ( 写真 1 右 ) をみる 正常内膜腺上皮細胞に比較して大型で軸となる血管などの間質部分をもたない偽乳頭状の細胞集団をみる ( 写真 2) 偽乳頭状集団を構成する細胞は密に重積し核形不整をみるが 核クロマチンは濃染せず核小体の肥大はみない ( 写真 3) セルブロック標本では 通常は1 層である内膜被覆上皮細胞の偽乳頭状増生をみる ( 写真 4) 細胞診断のポイント 内膜腺上皮細胞の偽乳頭状増生は主に機能性出血や月経などの内膜剥離でみられる良性の表層合胞体化生や乳頭状上皮化生である 内膜増殖症や類内膜腺癌などでもみられるが 内膜増殖症や類内膜腺癌では軸になる血管などの間質部分をもつ真の乳頭状構造もみられる点が異なる 真の乳頭状構造では軸となる血管の太さや血管から垂直に増殖する上皮細胞の増殖の程度が増殖症と癌の鑑別に参考となる 写真 ( 細胞像 組織像 ) 内膜間質細胞集団 :( 左 ) 内膜腺上皮細胞 シート状 : ( 中央 ) 土管状内膜腺上皮細胞集団 :( 右 ) 写真 1:Papanicolaou 染色 X10 血管などの間質部分をもたない偽乳頭状の細胞集団 写真 2:Papanicolaou 染色 X20 核クロマチンは濃染せず 核小体の肥大はない 写真 3:Papanicolaou 染色 X40 内膜被覆上皮の乳頭状増生 写真 4:H E 染色 X10 2013.3 Ver1

樹枝状集塊および扁平上皮化生 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 子宮体部内膜シリーズ (19) 患者年齢 30 歳代性別女性検体種類 : 子宮内膜擦過 ( ブラシ ) 臨床所見 : 月経開始後 6 日 超過多月経 鑑別すべき所見 間質細胞集簇内の血管 細胞判定 陽性 Ⅴ 細胞診断 部分的な壊死性背景を伴い 腺系異型細胞 扁平上皮系異型細胞および扁平上皮化生細胞をみる 腺系異型細胞は集団でみられ 一部に血管を軸とした腺上皮細胞の乳頭状構造をみる ( 写真 1) また 腺上皮細胞は血管に対して垂直に発育し それがいくつにも分岐して樹枝状の集塊を形成している ( 写真 2) 扁平上皮系細胞は核異型の乏しい扁平上皮化生細胞が主体を占めるが 核異型のある異型扁平上皮細胞もみられる ( 写真 3) 腺系異型細胞から扁平上皮化生細胞への移行像があり これらの細胞所見より扁平上皮への分化を伴う類内膜腺癌を疑う 細胞診断のポイント 樹枝状集塊の存在は子宮内膜異型増殖症以上の病変を推定する上で重要な所見である 間質細胞の集簇はしばしば正常でも出現するが この集簇内を血管が走行すると上皮細胞の乳頭状構造や樹枝状構造として誤認する可能性があるので注意を要する 集塊を構成する細胞が内膜間質細胞の場合は血管周囲の柵状配列や細胞間の結合性は示さない 尚 組織診でも扁平上皮への分化を伴う類内膜腺癌の像をみた ( 写真 4) 写真 ( 細胞像 組織像 ) 樹枝状に分岐する乳頭状集塊 写真 1:Papanicolaou 染色 X4 血管を軸として上皮細胞が血管に垂直に発育する 写真 2:Papanicolaou 染色 X40 腺系異型細胞から扁平上皮化生細胞への分化をみる 写真 3:Papanicolaou 染色 X40 細胞診と同様の endometrioid adenocarcinoma with squamous differentiation の所見をみる 写真 4:H E 染色 X10

石灰化小体 ( 砂粒体 ) ~ 異物肉芽腫様反応に伴う~ AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 子宮体部内膜シリーズ (20) 患者年齢 40 歳代性別女性検体種類 : 子宮内膜擦過 ( 抜去したIUDを塗抹 ) 臨床所見 : 月経開始後 10 日 子宮内避妊具 IUDを挿入中 鑑別すべき所見 結核など特異肉芽腫や癌に伴う石灰化小体 細胞判定 陰性 Ⅱ 細胞診断 背景にはリンパ球 マクロファージ 類上皮細胞 多核巨細胞を認め肉芽腫様変化を示す また石灰化小体もみられる ( 写真 1 2) 内膜腺上皮細胞は少数であるが 核径増大と核小体の腫大した再生性変化を示す ( 写真 3 4) IUDを挿入中であること 腺癌を示唆する異型細胞を認めないこと 既往歴および臨床所見に他の肉芽腫性炎症を疑う所見がないことからIUDによる炎症性変化と推定される 細胞診断のポイント 石灰化小体は同心円状の層状構造を呈するため粘液などの物質と形態学的に区別される 特異肉芽腫と異物肉芽腫様反応は多核巨細胞の形態に違いはあるが両者の鑑別は困難である また石灰化小体も形態から形成された原因を特定することは困難である よって肉芽腫様変化や石灰化小体を形成する要因 (IUD, 結核 癌など ) は臨床情報などを加味して検索する必要がある 写真 ( 細胞像 組織像 ) macrophage に囲まれた石灰化小体をみる ( 中拡大 ) macrophage に囲まれた石灰化小体をみる ( 強拡大 ) 写真 1:Papanicolaou 染色 X20 写真 2:Papanicolaou 染色 X40 再生性変化を示すシート状の上皮細胞集団 ( 中拡大 ) 再生性変化を示すシート状の上皮細胞集団 ( 強拡大 ) 写真 3:Papanicolaou 染色 X20 写真 4:Papanicolaou 染色 X40 2013.3 Ver1

石灰化小体 ( 砂粒体 ) ~ 漿液性腺癌に伴う~ AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 子宮体部内膜シリーズ (21) 患者年齢 50 歳代性別女性検体種類 : 子宮内膜擦過 ( ブラシ ) 臨床所見 : 閉経 子宮筋腫あり 子宮内膜 12mm 鑑別すべき所見 結核など特異肉芽腫や異物肉芽腫様反応に伴う石灰化小体 細胞判定 陽性 Ⅴ 細胞診断 背景には多くの赤血球 少数の白血球や内膜間質細胞をみる 若干の核腫大を示す内膜腺上皮細胞とともに細胞質が泡沫状でN/C 比は中 ~ 大 核は類円形 核縁は不整で微細顆粒状の核クロマチンと大型の核小体を有する異型細胞の重積性集塊をみる ( 写真 1 2) 石灰化小体は異型細胞の集塊内に存在するものや macrophage に囲まれているものを認めた ( 写真 3 4) これらの細胞所見より漿液性腺癌と診断した 細胞診断のポイント 漿液性腺癌は壊死を伴うことが多く 壊死はアルカリ性を呈するためアルカリ性で溶けにくいカルシウムの沈着が起こる このような退行性変化に伴って起こる石灰沈着を異栄養性石灰沈着という これは細胞の壊死に関連してみられるもので 血清カルシウム値が正常であっても また代謝異常がなくても起こる 何らかのカルシウム代謝異常とそれに伴う高カルシウム血症に起因し 正常組織中に石灰沈着をみる転移性石灰沈着との鑑別が求められるが 形態では形成された原因を区別できない よって石灰化小体をみる場合は形成された要因や臨床情報などを加味して検索する必要がある 写真 ( 細胞像 ) 癌細胞集団の中心部に石灰化小体をみる 核小体著明な癌細胞集団 写真 1:Papanicolaou 染色 X40 写真 2:Papanicolaou 染色 X40 癌細胞集団の中心部に石灰化小体をみる 写真 3:Papanicolaou 染色 X40 macrophage に囲まれた石灰化小体 写真 4:Papanicolaou 染色 X40

参考文献 1) 加来恒壽ほか : 女性性器の正常組織像と生理的形態変化, 図説産婦人科 VIEW25 臨床病理学,32-51, メジカルビュー社, 東京,1996 2) 加来恒壽ほか : 子宮内膜 卵管, 図説産婦人科 VIEW25 臨床病理学,108-129, メジカルビュー社, 東京,1996 3) 杉下匡ほか : 現代の婦人科細胞診,44-49,116-119,158-177, 金原出版, 東京,1990 4) 宮地徹ほか : 子宮内膜, 改訂産婦人科病理学診断図譜,150-228, 杏林書院, 東京,1987 5) 柴田偉雄 : 扁平上皮系細胞の見方, 鑑別を主体とした細胞診断学,41-51, 名古屋大学出版, 愛知,1989 6) 則松良明ほか : 子宮内膜増殖症および類内膜腺癌 G1 の細胞像に関する検討, 日臨細胞誌 1998;Vol37:650-659. 7) 蒲貞行ほか : 女性ホルモン補充療法における子宮内膜細胞診, 日臨細胞誌 1996; Vol35:538-548.

ガイドライン作成委員会 ( 病理細胞検査 ) - 子宮体部内膜シリーズ (13)~(21)- 監修 越川卓 ( 愛知県立大学看護学部 ) 作成委員長角屋雅路 ( 知多市民病院 ) 作成委員 佐藤初代 ( 豊川市民病院 ) 作成委員 今井律子 ( 東海市民病院 ) 作成委員 田中浩一 ( 厚生連豊田厚生病院 ) 協力日本細胞診断学推進協会細胞検査士会愛知県支部 愛知県臨床検査標準化協議会 愛知県臨床検査標準化ガイドライン 細胞診アトラス - 子宮体部内膜シリーズ (13)~(21)- 発行 平成 25 年 3 月 発行所愛知県臨床検査標準化協議会 発行者伊藤宣夫 編集者岸孝彦 鈴木博子 田中浩一