44 た 等価球面値で屈折異常を有する割合は 57 眼 61% となり 遠視に比し近視の割合が高率に認められた 屈折異常の程度は ± 5D 以上の屈折値を 強度 として分類した ( 図 4) 2) 強度近視 21 眼 (37 %) 強度遠視 4 眼 (3.5%) で 屈折異常を有する 57 眼中 4

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13 Ⅱ-1-(2)-2 経営の改善や業務の実行性を高める取組に指導力を発揮している Ⅱ-2 福祉人材の確保 育成 Ⅱ-2-(1) 福祉人材の確保 育成計画 人事管理の体制が整備されている 14 Ⅱ-2-(1)-1 必要な福祉人材の確保 定着等に関する具体的な計画が確立し 取組が実施されている 15

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発表論文 43 重症心身障害児 者の療育における視覚を活かす支援への取り組み 1. 屈折と眼位 小町祐子 ( 国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科 ) 新井田孝裕 ( 国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科 ) 鈴木賢治 ( 国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科 ) 靭負正雄 ( 国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科 ) 山田徹人 ( 国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科 ) 谷口敬道 ( 国際医療福祉大学保健医療学部作業療法学科 ) 平野大輔 ( 国際医療福祉大学小田原保健医療学部作業療法学科 ) 恩田幸子 ( 国際医療福祉リハビリテーションセンターなす療育園 ) 関森英伸 ( 国際医療福祉リハビリテーションセンターなす療育園 ) 金子忍 ( 国際医療福祉リハビリテーションセンターなす療育園 ) 下泉秀夫 ( 国際医療福祉リハビリテーションセンターなす療育園 ) 青木恭太 ( 宇都宮大学工学研究科 ) 村山慎二郎 ( 宇都宮大学大学院工学研究科 ) 1. 緒言 重複障がい児 者は強度の屈折異常や眼位異常を合併している割合が高いため 視機能評価の重要性が報告されている 1-3) このような特別支援教育を必要とする児へのより質の高い療育のためには 現状を正しく把握し それぞれに合ったアプローチを行っていくことが重要である 自発的な応答が得られにくい重症心身障がい児 者 ( 以下重障児者 ) においてもその発達 療育援助をおこなう上で 外部からの感覚入力は重要な役割を果たすと考えられ 視覚刺激も例外ではない 施設で直接療育に携わる作業療法士等の立場からも 重障児者の視覚機能に関する情報を必要と感じているという声が多く聞かれる 視覚刺激が良好な状態で入力されているか否かを知るためには 彼らの視覚認知機能を客観的に評価することが重要なポイントであるが 視機能評価は自覚的応答に頼る検査が多く 現状では客観的な評価法は十分確立されていない そこで 評価の難しい重障児者の視覚認知機能を的確に捉える評価法の構築を目的として 多職種が連携して研究に着手することとした 今回 第 1 段階として 屈折と 眼位の評価をおこない その結果を検討した 2. 対象および方法 対象は 重症心身障害児施設に入所中の重障児者 50 名 年齢は 3 歳 ~ 49 歳 平均 20.2 歳であった 原疾患の内訳は 脳性麻痺 20 名 (40%) 染色体異常 7 名 (14%) の他 感染症による脳炎 外傷等による挫傷などであった ( 図 1) 重障児者は一般に図 2 に示す大島の分類で判定される 4) 本研究対象者は 太線内の 1,2,3,4 の重症心身障がい もしくはその周辺群に含まれ ほとんどの対象者は自力での移動 発話は困難であった 図 1 研究対象者の原疾患の内訳 連絡先 :komachi@iuhw.ac.jp 受稿 :2010/12/6

44 た 等価球面値で屈折異常を有する割合は 57 眼 61% となり 遠視に比し近視の割合が高率に認められた 屈折異常の程度は ± 5D 以上の屈折値を 強度 として分類した ( 図 4) 2) 強度近視 21 眼 (37 %) 強度遠視 4 眼 (3.5%) で 屈折異常を有する 57 眼中 40% 強が 強度 と判定された 図 2 大島の分類 視機能の評価は屈折値および眼位とし 検査の可否と得られた結果について検討をおこなった 屈折値の評価は 基本的にハンディレフラクトメータ ( レチノマックス K-plus 2) を用い 不可能な場合には検影法による他覚的屈折検査でおこなった 眼位の定性は角膜反射法にて判定した 3. 結果 対象 50 名 100 眼中に角膜混濁 4 眼 小眼球 1 眼 義眼 2 眼が認められた 他覚的屈折検査は これら 7 眼を除いた 93 眼で測定可能であった また 眼位の定性は 両眼の角膜反射が観察可能な 47 例で判定可能であった 他覚的屈折値は等価球面値に換算し -1D 未満の近視 1.9D 以下の遠視を 正視 として分類したところ ( 図 3) 正視 36 眼 (39%) 近視 53 眼 (57%) 遠視 4 眼 (4%) であっ 図 4 等価球面値度数の屈折異常程度分類乱視については全く認められなかったものはなく 程度分類の割合では 2D 以下の乱視 51 眼 (54%) 2D 以上の乱視 42 眼 (45%) で そのうち 29 眼に 3D 以上の乱視が認められた ( 図 5) 図 5 乱視の程度 図 3 等価球面値の屈折分類 眼位の評価は 対象者の多くが中心固視やその持続が困難であったり 眼球運動失行様の状態にあるため 固視目標および遮蔽試験等を用いた正確な判定は困難であった そのため 角膜反射による大まかな定性にて判定をおこなうこととなった

小町 新井田 鈴木 他 視覚リハ研究 1(1) 45 眼位ずれの有無については 義眼と角膜混濁により両眼の角膜反射が観察不能であった 3 名を除き 47 名中 30 名 (64.5%) に恒常性の斜視を認めた また 間歇性斜視が 14 名 (30%) であり なんらかの形で眼位ずれを認めたものが 44 例 (94.5%) を占めた 眼位異常が全く認められなかったものは 3 名 (6.5%) であった ( 図 6) 眼位の定性は 外斜視 27 例 (57.5%) 間歇性外斜視 12 例 (25.5%) 内斜視 3 例 (6.5 %) 内斜位斜視 2 例 (4%) で 外斜傾向を示すものが 83% を占めた ( 図 7) 眼位ずれを認めた 44 例中 17 例 (39%) に上下斜視の合併が見られた また 眼振を合併したものも 17 例 (39%) 認められた 図 6 眼位図 7 眼位の定性 4. 考按 重障児者の療育における感覚刺激の重要性から機能評価の重要性が指摘されており 視機能 評価についても各研究者によってさまざまな試行がなされてきた 5-9) 一方 視機能評価の観点からは重複障がい 特に知的障がいを併せ持った児の屈折異常 眼位異常の合併が高頻度かつ高度であると感じている臨床家も多く 過去の報告でもその傾向は指摘されてきた 1) 本研究の結果 重障児者では高度な屈折異常の割合は過去の報告よりもさらに高率であった 等価球面値で ± 5D を超える屈折異常 3D を超える乱視の割合が多く認められた 特に 近視の割合が過去の報告にない高い割合となった 対象児者の年齢分布に対し 近視傾向を示した原因として 1) 強度の乱視を有する対象者が多く 等価球面値に換算すると乱視の影響で近視になってしまった 2) 調節麻痺剤を用いない自然瞳孔での計測 3) 検査や器械に対する恐怖や緊張のために調節が強く働き近方視を維持したまま調節の弛緩がほとんどできなかったこと の3 点が考えられた このため 正確な屈折状態を確認する目的で 対象者のうち 8 歳 ~ 20 歳の比較的若年者 5 名に対し 後日改めて調節麻痺剤であるシクロペントラート塩酸塩を用いて調節麻痺下の屈折検査を実施した 等価球面値にて平均 1.78D(range:0.38 ~ 3.88D) 調節が弛緩し 屈折値として近視が減少したが 全体的に近視傾向であることには 変わりはなかった これまで 発達障害児や低視力者の調節介入の程度に関しては十分な検討がなされていない 今回の再検査はまだ 5 名に留まっているため詳細な検討は今後に委ねるが 再検査で調節弛緩の大きい ( すなわち調節介入の強い ) 対象者は 日常の反応性がやや高い印象を持っている 今後 調節麻痺検査を進め 大島の分類と合わせた検討も進めていく予定である 眼位ずれは約 95% の対象者に認められ 過去の報告と同等か やや高率であった 特に恒常性の眼位ずれを認める対象が多いという結果であった 本研究の対象者は脳の解剖学的な構造異常を呈する例が多く この構造異常が眼位や眼球運動の異常の原因となっている可能性がある また 視覚入力はほぼ正常であっても認知機能の発達障がいによって視覚情報の統合や

46 選択が不十分であるため 固視の持続や両眼視機能の発達が阻害され 共同運動が未成熟なまま眼位ずれを来たしている可能性も考えられる 知的障がい児 者における眼球運動では 注意や行動調整機能との関連性が明らかにされている 10-12) さらに 眼球運動失行症のように反射性の運動は正常であるが命令や意思に基づく随意運動が障害されている状態がてんかんや脳性麻痺に合併する場合もあり 13) 本研究対象者の中にはこれらが含まれている可能性もある このように重障児者は さまざまな異常を併せ持っており 恒常性の眼位ずれの要因としては 先に述べた強度の屈折異常に起因する感覚入力系の異常に加え 脳の構造異常や発達障害に起因する認知 統合系や出力系の異常が相互に連関して影響していると考えられる 一般に感覚情報の8 割が視覚から得られるといわれ 乳幼児の発達段階における視覚入力系の異常は視覚認知面だけでなく運動発達面にまで影響を及ぼすことが 先天視覚障がい児の観察研究からも明らかになっている 4) 心身に障がいを負った場合でも その軽重に関わらず発達段階において適切な視覚刺激が与えられることは 認知 運動発達の援助のためには重要なポイントとなる 特に発達初期段階における神経系の可塑性は脳損傷を補うほどの機能形成に寄与することが示唆されており 14) 視知覚形成についてもその重要性は同じといえる 前述の眼位ずれを例にとっても 早期から屈折異常等の視覚入力環境を良好に整えることによって視知覚形成を促すことは 運動制御においても良好な影響を与える可能性がある しかしながら 現実には視覚反応の乏しい重障児者の視知覚形成に対する療育者の姿勢は積極的とは言えず 視知覚形成のための指導が不十分なため二次的障がいに陥っている可能性も指摘されている 15) 視機能評価は自覚的応答に頼る検査が多いこともあり 現在 特別支援教育が必要な児童に対する療育 支援の現場では視覚について十分に検討されているとは言いがたい 客観的視機能評価法も存在はするが 被検者の協力が得られなければ評価の精度は低下し 正確な結果が得られにくいのが現状である 近年 重 複障がい 特に知的な障がいを併せもつ児童が増えてきている盲学校からは 子どもたちの視機能評価が難しいという教員の声も聞かれる このため 児童 生徒の身体状況全般を管理する学校医ばかりでなく 視能訓練士や小児眼科専門医が盲学校に出向いて視機能評価をおこない 医療と教育の連携をとってよりよい療育環境の整備に努めている事例も散見されるようになってきた 幼小児の視機能検査に精通した視能訓練士が教育の現場に出向いて随時視機能評価をおこない 成長発達に伴った変化を的確に捉えて情報提供し よりよい視覚環境を整えて発達援助の一旦を担っていくことは大変重要な取り組みである 本研究対象者のような重障児者の療育においても同様であり 自発活動が少ない児という理由で より良好な感覚刺激環境 その一端としての視環境を看過ごしてよいというものではない 生活上 よりよい環境を整えることが 質の高い療育に繋がっていくと考えられる 実際に現場で療育にあたっているリハビリテーション関連職種 また 日々の生活を支える看介護職からは その支援の中で視覚に関する詳細な情報が必要であるとの要望が寄せられている 今回 検査への協力を得ることが難しい重障児者 50 例の視機能評価に成功したことは 1) 対象者の生活の場に出向いて評価をおこなったこと 2) 特に療育を主に担当している作業療法士に常に同席してもらい 連携して評価をおこなったことが その理由として考えられる 重障児者では 高頻度に強度屈折異常や眼位異常を合併するが その一方で 眼鏡装用の困難な場合が多く 他職種と密接に連携しながら根気よく眼鏡装用指導を行うことに加え 視知覚形成を促す訓練の導入が不可欠と考えられる そのためには 3 歳児健診に眼科評価項目が含まれたように 重障児者においても環境適応力が高い幼小期から客観的に視機能を評価できる方法を確立し 視機能に対する治療訓練をより早期より療育の中に導入していくことが重要と考えられた

小町 新井田 鈴木 他 視覚リハ研究 1(1) 47 謝辞 本研究は日本学術振興会科学研究費補助金 : 基盤 (B) 課題番号 22330260 の助成を受けて行った 文献 1) 佐島毅 : 知的障害幼児の視機能評価に関する研究. 風間書房.2009 2) 林京子, 内田冴子 : 重複障害児の視機能の特性と視能訓練の工夫. 日視会誌 38.287-296, 2009 3) 新井千賀子, 中澤惠江, 他 : 自覚的応答が困難な重複障害児の遮光眼鏡の選定. 日視会誌 28,263-266.2000 4) 大島一良 : 重症心身障害の基本的問題, 公衆衛生 35,648-655.1971 5) 笠井景子, 村井亜美, 他 : 発達遅延のある子供の視力評価. 日視会誌 23,171-176.1995 6) 片桐和雄, 小池俊英, 北島善夫 : 重症心身障害児の認知発達とその援助. 北大路書房.1999 7) 大江啓賢, 小林巌, 他 : 重症心身障害児 者における視機能評価の試み. 東京学芸大紀要 56.427-431,2005 8) 瀬尾歩, 長谷川しのぶ, 他 : 視覚機能の著しい低下が疑われた重症心身障害児 者に対する視運動 性眼振法を用いた視力測定の試み. 北海道作業療法 24(1),13-20.2007 9) 伊藤史絵, 中村桂子, 他 : ダウン症児の屈折管理と眼合併症の検討. 日視会誌 38,177-184, 2009 10) 葉石光一 : 知的障害児 者の眼球運動機能と行動調整機能. 発達障害研究 27(1),20-27,2005 11) 岡耕平, 三浦利章 : 知的障害者における視覚 - 運動協応研究の動向. 大阪大学大学院人間科学研究科紀要 33,143-162,2007 12)Ghasia F, Brunstrom J, et al:frequency and Severity of Visual Sensory and Motor Deficits in Children with Cerebral Palsy: Gross Motor Function Classification Scale.Invest Ophthalmol Vis Sci 49(2),572-580,2008 13)Martin JAG,Kaye LC, et al:congenital ocular motor apraxia associated with idiopathic generalized epilepsy in monozygotic twins. Dev Med Child Neurol 46, 428 430,2004 14) 松田直, 大坪明徳 : 重複障害児の視覚機能の発達について- 後頭部に髄膜脳瘤のみられた事例を中心として-. 国立特殊教育総合研究所研究紀要 11,89-97,1984 15) 寺田信一, 小池敏英, 他 : 重症心身障害者における視覚受容過程の特徴 - 閃光視覚誘発電位の出現様相と対光反射 視覚応答行動との関連 -. 特殊教育学研究 25(4),1-11,1988