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C. 全身性の皮疹を主体とするもの 475 病理所見表皮は中央で真皮に食い込むようにして塊状に増殖する. また, 細胞質内に細かい顆粒が認められ, これが融合して好酸性の封入体 軟属腫小体 (molluscum body) を形成する( 図.18). 合併症 診断典型的な皮疹がみられれば診断は容易. アトピー性皮膚炎をもつ小児に好発し, 掻破により個疹がはっきりしない場合もある. 成人発症例で, とくに顔面に突然多発した場合は,AIDS を合併している可能性がある. 図.18 伝染性軟属腫の病理組織像 治療トラコーマ鑷子などで摘除する. そのほか, 凍結療法や 40 % 硝酸銀塗布などを行う. 数か月で自然消退するため, 自覚症状に乏しい場合は経過観察することもある. C. 全身性の皮疹を主体とするもの viral infections with generalized skin lesions 1. 麻疹 measles 麻疹ウイルスによる感染症. いわゆる はしか. 小児に好発し, 数年間隔で流行. 春に多い. 2 週間前後の潜伏期を経て, 発熱と感冒様症状で初発し ( カタル期 ), 解熱するとともに口腔粘膜に白色斑 ( コプリック斑 ) をみる. まもなく再度発熱し ( 二峰性発熱 ), カタル症状とともに全身に皮疹をみる.3 4 日で急激に解熱し, 皮疹は落屑, 色素沈着を残して治癒. 中耳炎, 肺炎, 脳炎,SSPE などの合併症に注意する. 症状俗称 はしか.10 14 日間の潜伏期を経て発症する. 臨床経過から, カタル期 ( 発症約 5 日目まで ), 発疹期 ( 発症約 10 日目まで ), 回復期の 3 期に分類される ( 図.19,.20). 1カタル期 ( 前駆期 ) 3 4 日間,38 前後の発熱とともに鼻汁やくしゃみ, 眼脂, 咳などの感冒様症状をきたし, この時期の気道分泌物や涙液, 唾液が最も強力な感染源となる. カタル期末期の約 1 2 日間, 解熱するとほぼ同時に口内の頬粘膜, ときに歯肉まで点状の白 図.19 麻疹 (measles)

476 章ウイルス感染症 図.20 麻疹の経過 色斑が認められる コプリック斑 (Koplik s spots), 図.21. 2 発疹期一時的な解熱の後, 皮疹の出現や感冒様症状の悪化とともに熱の再上昇が認められ, これが 3 4 日間持続する ( 二峰性の発熱 ). やや暗赤色調の浮腫性紅斑が耳後部や頬部から始まり, 体幹から四肢へと拡大する. 紅斑は拡大 融合して不正型 網状となる. 3 回復期発疹期を過ぎると急速に解熱し, 皮疹は落屑, 色素沈着を残して治癒する. 4 修飾麻疹不完全な免疫をもった状態で麻疹ウイルスに感染した場合, 臨床経過が非典型的, 軽症で発症する. これを修飾麻疹 (modified measles) という. 母体由来抗体を有する生後 3 か月未満の乳児, ガンマグロブリン製剤を予防的に投与された場合や, ワクチン接種後数年以上経過した場合などで生じる. 図.21 コプリック斑 (Koplik s spots) 合併症肺炎, 中耳炎, 麻疹脳炎, 亜急性硬化性全脳炎 (subacute sclerosing panencephalitis;sspe) に注意を要する. とくに肺炎や脳炎は死因になりうる. また, 本症罹患中に結核の増悪を認めることがある. 病因麻疹ウイルス ( パラミクソウイルス科モリビウイルス属 ) による. 生後 3 か月までの乳児は, 通常は母体からの受動免疫のため罹患せず, 乳児後半から幼児期に罹患することが多い. 感染力は強く, ウイルスは空気感染によって体内に侵入し, 鼻咽頭の上皮細胞内で増殖, ウイルス血症となる. 本症はほぼ全例で顕性感染し, 罹患後は強い終生免疫を獲得する. 日本の学校保健安全法によって管理を受ける, 皮膚科領域での学校感染症と出席停止期間 診断 鑑別診断末梢血液検査では, 白血球減少 ( 好中球数およびリンパ球数ともに減少 ) と LDH 上昇を認める. また, ペア血清を用いた抗体価測定, カタル期の気道分泌物などからのウイルス分離, しょうこうねつ PCR 法なども行われる. 風疹, 突発性発疹, 猩紅熱, 薬疹, 多形紅斑, 川崎病, 敗血症などとの鑑別を要する ( 図.22). 治療安静, 保温, 解熱薬や鎮咳薬投与などを対症的に行う. 細菌感染の合併に対しては抗菌薬を使用し, 重症の場合はガンマグロブリン製剤を用いることもある.

C. 全身性の皮疹を主体とするもの 477 予防本症を診断した医師は 7 日以内に保健所に届出を行わなければならない ( 全数把握,5 類感染症 ). 学校保健安全法により, 解熱後 3 日経過するまで出席停止措置となる. 感染源との接触後 5 日以内であれば, 筋注用ガンマグロブリン製剤を使用することで予防または軽減化が可能である. 接触後 72 時間以内であればワクチン接種も有効. 予防接種には高度弱毒生ワクチンが用いられ, 免疫獲得率は 95% 以上である. 日本では, 麻疹 風疹混合ワクチン (MR ワクチン ) を, 生後 12 か月と小学校入学前 1 年間に計 2 回接種する ( 予防接種法 ). 2. 風疹 rubella 風疹ウイルスによる感染症. いわゆる 三日ばしか. 皮疹, リンパ節腫脹 ( とくに耳介後部リンパ節 ), 発熱の 3 主徴. 皮疹と発熱は同時にみられ, 軽い瘙痒を伴う丘疹性紅斑が顔 面から全身へ広がる. 融合せず, 落屑や色素沈着を残さずに 治癒. 妊娠早期に妊婦が罹患すると, 児に先天性風疹症候群を起こ すことがある. ワクチンの妊婦への接種は禁忌. 症状俗称 三日ばしか. 本症の臨床経過を図. に記す.2 3 週間の潜伏期ののち, 全身のリンパ節の腫脹をみる. とくに耳介後部や頸部リンパ節の腫脹が気づかれやすく, 腫脹は数週間持続する. ただし, リンパ節腫脹をきたさない症例もあり, その場合は突然の皮疹や発熱からはじまる. 数日後, 軽度の発熱とともに, 軽い瘙痒を伴う丘疹性紅斑が全身に広がる ( 図.24). 通常は孤立性で融合せず, 落屑や色素沈着を起こさずに 3 5 日で消退する点で, 麻疹とは異なる. 約半数の患者でフォルシュハイマー斑 (Forschheimer spots) と呼ばれる点状出血様粘膜疹が口蓋に認められる. 合併症 合併症には脳炎および髄膜炎, 血小板減少性紫斑病 ( 小児症 例 ), 関節炎 ( 成人症例 ) がある. また, 妊娠 5 か月以内の母 親に感染すると, 産まれてくる児に障害をきたすことがあり, 図.22 麻疹の鑑別疾患 これを先天性風疹症候群 (congenital rubella syndrome;crs) という.

478 章ウイルス感染症 図. 風疹の経過 病因風疹ウイルス ( トガウイルス科ルビウイルス属の RNA ウイルス ) は飛沫感染や接触感染により上気道から侵入し, 所属リンパ節で増殖しウイルス血症を起こして発症する. 一度罹患すると終生免疫が得られるが, まれに再感染する例もある. 好発年齢は 5 15 歳で, 春から夏にかけて 3 10 年ごとに流行する. 検査所見 診断 鑑別診断末梢血検査では, 白血球減少と血小板減少を認め, 異型リンパ球の出現がみられる. ペア血清により抗体価の上昇をみる. 臨床経過と流行状況から診断することが多い. 麻疹, 突発性発疹など他のウイルス性疾患, 猩紅熱などが鑑別診断となる ( 図.22 参照 ) a 治療 予防治療は対症療法で十分である. 本症を診断した医師は 7 日以内に保健所に届出を行わなければならない ( 全数把握,5 類感染症 ). 皮疹出現の前後 1 週間はウイルス排泄があり感染性があるため, 学校保健安全法では紅斑性発疹が消退するまで出席停止措置がとられる. 風疹ワクチンは生ワクチンであるため, 妊婦への予防接種は禁忌である. 日本では, 麻疹 風疹混合ワクチン (MR ワクチン ) を, 生後 12 か月と小学校入学前 1 年間に計 2 回接種する ( 予防接種法 ). 3. 突発性発疹 exanthema subitum,roseola infantum ヒトヘルペスウイルス (HHV) の 6 型,7 型による感染症. 乳幼児に好発. 突然の高熱が 3 4 日持続, 解熱とともに全身に麻疹様発疹. 皮疹は融合せず, 色素沈着などを残さずに 2 3 日で消退. 熱性痙攣を合併することがある. b 図.24 風疹 (rubella) ab 症状約 2 週間の潜伏期を経て, 突然の高熱 (38 39 ) で発症する. 高熱は 3 4 日持続するが, 児は元気であることが多い. しばしば下痢や軽度の咳を伴う. 解熱とほぼ同時に, 顔面と体幹に淡紅色斑を生じる. 皮疹は融合せず, 色素沈着などを残さずに 2 3 日で消退する ( 図.25). 6 15% の症例で発熱時に熱性痙攣を伴う. ごくまれに急性脳炎や肝機能障害を合併

C. 全身性の皮疹を主体とするもの 479 する. 病因 HHV-6 の B 型と HHV-7 によるとされる.HHV-6 は唾液を介して感染するが, 通常は母親由来の受動免疫により新生児は発症しない. よって生後 6 か月から 3 歳までの幼児に発症する. 診断 治療特徴的な臨床経過から診断可能. 約 2/3 の例で, 口蓋垂の根ろほう本部分のリンパ濾胞が腫脹発赤し, 診断の参考になる. 治療は対症療法になるが, アスピリンは Reye 症候群の危険があるため用いないほうがよい. 図.25 突発性発疹の経過 4. 伝染性紅斑 erythema infectiosum 同義語 : 第 5 病 (fifth disease) a ヒトパルボウイルス B19 による感染症. いわゆる りんご病. 頬が紅潮し, 上下肢に丘疹性紅斑が現れ, 紅斑は融合しレー ス状となる.1 週間程度で, 落屑や色素沈着を残さずに治癒. 妊婦が感染すると胎児水腫を起こす危険がある. 溶血性貧血患 ろう者が感染すると急性赤芽球癆をきたし, 著明な貧血を起こす. 症状俗称 りんご病. 春 初夏にかけて流行する. 年長児や学童期に好発するが, 成人例も少なくなく, とくに小児から感染しやすい母親や看護師など女性が多い. 潜伏期は 4 14 日であり, 前駆症状に乏しいが, インフルエンザ様のカタル症状がみられる場合がある. 突然, 平手で頬を打たれたような紅斑 平手打ち様紅斑 (slapped cheek) が両頬に現れ,1 4 日で消退する ( 図.26). 顔面の皮疹に 1 2 日遅れて上肢伸側, ついで下肢伸側に直径 1 cm 程度の紅斑が出現する. 次第に融合したのち, 中心部から消退するためふちどりが残ってレース模 b 図.26 伝染性紅斑 (erythema infectiosum) a slapped cheekb 痘瘡 ( 天然痘 :smallpox)

480 章ウイルス感染症 様状の紅斑となり, 特徴的な所見となる. 体幹でも紅斑が生じるがレース状にはならない. 皮疹は 1 週間程度で, 落屑や色素沈着を残さずに消退する. 成人例では平手打ち様紅斑が目立たず, 四肢の非特異的紅斑と関節痛, 抗核抗体上昇がみられ, 膠原病と鑑別を要することがある. 妊娠 20 週未満の妊婦が感染すると, 胎児水腫や胎児死亡をみることがある. 溶血性貧血や免疫不全患者では, 赤血球数の急激な減少 急性赤芽球癆による低形成発作 (aplastic crisis) が起こり, 著明な貧血をきたす. 病因 DNA 型パルボウイルス科に属する, ヒトパルボウイルス B19 の飛沫感染による. 経気道感染で侵入し, 感染 4 7 日で骨髄の赤芽球内で増殖, ウイルス血症をきたす. 顕性感染は幼児で 70%, 成人で 30% である. 治療皮疹以外の症状が強い場合には対症療法を行う. 治癒後も数週間は, 日光曝露や運動などによって皮疹の再燃をみることがある. 5.G ジアノッティ ianotti-c クロスティ rosti 症候群 Gianotti-Crosti syndrome 同義語 : 小児丘疹性肢端皮膚炎 (papular acrodermatitis of childhood) 丘疹が下肢に出現, 上行して上肢や顔面まで広がる特徴的な経過をとる. B 型肝炎ウイルスやEBウイルスの初感染による. 幼児に多い. 症状生後 6 か月 12 歳の幼小児に好発する. 下肢や殿部に対称性に, 直径 3 4 mm 程度の淡紅色 暗赤色の扁平丘疹が孤立 図.271 Gianotti-Crosti 症候群 (Gianotti-Crosti syndrome) Gianotti-Crosti 症候群と Gianotti-Crosti 病

C. 全身性の皮疹を主体とするもの 481 性に突然多発し,3 4 日で急速に上行して上肢, 顔面まで拡大する. とくに両頰部, 両上肢伸側に浸潤を伴う紅色丘疹の多発, 融合局面は特徴的 ( 図.27). 体幹や手掌足底に生じることは少ない. 軽度の瘙痒を伴うが,B 型肝炎ウイルスによるものは自覚症状を欠くことが多い. 約 1 か月後に軽度の落屑を伴って消退する. 表在リンパ節腫脹や肝腫大, 肝酵素の上昇ならびに発熱, 食欲不振, 下痢, 風邪症状を認めることがある. 病因 B 型肝炎ウイルス,EB ウイルスのほか, サイトメガロウイルス, コクサッキーウイルス,RS ウイルス, ロタウイルスなどによるものが報告されている. これらが初感染し, アレルギー反応として特徴的な皮疹を生じると考えられている.EB ウイルスによるものの頻度が高い. 治療 経過通常は自然治癒するため経過観察でよい.B 型肝炎ウイルスによる場合, 皮疹が消退した後も HBs 抗原陽性が続けば, そのままキャリアに移行する場合がある. 図.272 Gianotti-Crosti 症候群 (Gianotti-Crosti syndrome) 6. 手足口病 hand-foot-mouth disease コクサッキーウイルス A16 型やエンテロウイルス 71 型などによる発疹症. 乳幼児に好発. 潜伏期間は数日. 四肢末端と口腔粘膜にびらん, 丘疹や小水疱を形成し,4 7 日で消失する. エンテロウイルス 71 型による場合, 髄膜炎の合併に注意する. 水分補給に注意する以外は, 特別な治療を行わないことが多い. 症状 2 5 日間の潜伏期を経て発症し, 約半数の症例で 1 2 日間の微熱や感冒様症状が先行する. 口腔病変はほぼ全例でみられる. 頬粘膜や舌に直径 2 3 mm の紅斑が数個 数十個生じ, 次第に紅暈を伴う水疱, びらん, アフタ性潰瘍を形成する. 疼痛が強く, 飲水困難のため脱水をきたすことがある. 四肢病変は約 2/3 の症例でみられる. 手掌足底のほか, 膝関節や殿部などに, 紅暈を伴う楕円形の小水疱が散在する ( 図.28). 楕円の長軸が皮膚紋理の流れに沿っていることが多い. 瘙痒はないが若干の圧痛を伴うことがある. これらの病変は 7 10 日で消失する. エンテロウイルス 71 型が原因の場合, まれに無 a b 図.281 手足口病 (hand-foot-mouth disease) a b

482 章ウイルス感染症 菌性髄膜炎を合併する. 図.282 手足口病 病因 疫学コクサッキーウイルス A16 型とエンテロウイルス 71 型が主. ウイルスは腸管で増殖し, 糞便や咽頭分泌液中に排泄する. 経口 飛沫 接触感染し, しばしば施設内流行を起こす. 症状が消失しても 2 4 週間は糞便中にウイルス排泄がみられ, 感染源になる.10 歳以下の乳幼児に好発し, 夏季に流行をみる. 治療 予後水分補給に注意する以外は, 特別な治療を行わずとも回復する. 高熱, 頭痛, 嘔吐が続く場合は髄膜炎の合併を疑う. 終生免疫が成立するが, 原因ウイルスが複数あるため, 本症に 2 回以上罹患することがある. 7. 伝染性単核球症 infectious mononucleosis a EB ウイルスの初感染による. 思春期に好発. 高熱, 咽頭痛, 頸部リンパ節腫脹が特徴的. 風疹様, 蕁麻疹様, 多形紅斑など多彩な皮疹. 治療は対症療法が中心. ペニシリン系抗菌薬やアスピリンは禁忌. b 症状 潜伏期は 1 2 か月である. 頭痛や全身倦怠感といった前駆 症状が数日続いた後, 高熱 (39 ) と強い咽頭痛で始まる. 皮疹は約 20% の症例で認められ, 第 4 10 病日に出現する ( 図.29). 皮疹は多彩で, 風疹様 蕁麻疹様の紅斑, 多形紅斑などがみられ, 数日で自然軽快する. 咽頭痛を細菌性咽頭炎と誤診し, 抗菌薬 ( とくにペニシリン系 ) を投与すると, 過敏反応が惹起されて皮疹が増悪する. 全身, とくに頸部リンパ節の著しい腫脹と圧痛を認める. 肝脾腫をきたし, 肝機能異常も伴う. 発熱は 7 10 日持続し, 体温の下降とともに他の症状も次第に消退する. 合併症には, 血小板減少症, 溶血性貧血, 髄膜炎, 脳炎,Guillain-B ギランバレー arré 症候群など. c 図.291 伝染性単核球症 (infectious mononucleosis) abc 病因 疫学 EB ウイルス (E エプスタイン pstein-b バー arr virus;ebv) の初感染によって起 こる. 一度感染すると終生免疫が得られるが, 常時口腔内に EBV を排泄し, 容易に経口, 経気道感染する. 侵入した EBV

C. 全身性の皮疹を主体とするもの 483 表.2 小児の伝染性単核球症の診断基準 (Sumaya を改変 ) 図.30 EB ウイルス関連抗体価の推移と病期 7 2009 99 は咽頭粘膜上皮細胞で増殖して所属リンパ節へ至る.B 細胞表面の CD21 蛋白を介し, 潜伏感染をして B 細胞を不死化させる. この B 細胞が細胞性免疫 (CD8 + T 細胞や NK 細胞など ) を惹起して発症すると考えられている. 健常成人の 90% 以上が既感染であり, 通常は3 歳までに初感染を受け潜伏感染に終わる. 学童期以降に初感染すると, 約半数で本症となる. 好発年齢は 14 18 歳で, 年間を通して発生する. 小児は母親から, 思春期以降は異性から感染することが多く,kissing disease と呼ばれる. 検査所見 白血球の増加を認め, とくに異型リンパ球 (atypical lymphocyte) と呼ばれる大型の細胞が多数出現する. これは EBV に感染した B 細胞ではなく, 感染細胞を排除すべく活性化した CD8 + T 細胞である. 肝機能異常を反映した AST,ALT,ALP 値の上昇, 感染 B 細胞が産生する抗体によるポリクローナルなガンマグロブリンの上昇を認める. 以前はヒツジ赤血球に対する凝集能亢進を測定する P ポール aul-b バンネル unnel 反応を診断に利用したが, 現在では用いない. 各種 EBV 抗体価の測定 ( 図.30) が診断に有用である. 表.2 に小児の診断基準を示す. 治療特別な治療法はなく, 安静と対症療法を行う. アスピリンは Reye 症候群の危険性があるため, また, ペニシリン系抗菌薬は過敏反応をきたす危険があるため禁忌である. まれに本症から慢性活動性 EB ウイルス感染症へ移行することがある.