CAD/CAM で作製したワックスおよびの寸法精度 77 原著日本歯科理工学会誌 Vol. 35 No. 4 5 77 83 016 CAD/CAM で作製したワックスおよびの寸法精度 1, 石田祥己 宮坂 平 青柳有祐 青木春美 三浦大輔 Dimensional accuracy of the wax pattern created by CAD/CAM and the cast crown Yoshiki ISHIDA 1,, Taira MIYASAKA, Harumi AOKI, Yusuke AOYAGI and Daisuke MIURA Dental high speed wax cutting machine, CAD/CAM, Dimensional accuracy, Wax pattern, 3D scanning The STL data of the dental crown, which fits the abutment model, was created using only the 3D CAD software enlarged to 100, 101, and 10, and was also created from 3D scanned data and the dental CAD software with a cement space of 0, 50, and 100 mm. Using six types of STL data, wax patterns were created by the dental high speed wax cutting machine. The dimensional accuracy of the wax patterns and the fit with the model were assessed, and then the patterns were casted and the same investigations of the cast crown were carried out. Using a specific enlargement ratio of inner and outer diameters, the inner and outer diameters closest to the designed values were obtained. The inner diameter of the wax patterns and cast crowns created from the scanned data, became smaller than the STL data of the model, even if a cement space of 100 mm was secured. The best fit was obtained at an expansion rate of 10 or with a cement space of 100 mm from the fitting test. Using the best fit designed data, there was no significant difference between a wax pattern and a cast body in the dimensional accuracy or fit test. キーワード 歯科用高速ワックス加工機 CAD/CAM 寸法精度 ワックス 3D スキャン 支台模型に適合するクラウンの STL データを 3D CAD のみを用いて構築し 拡大率を 100 101 10 としたデータ および支台模型をスキャンしたデータから歯科用 3D CAD を用いて構築し セメントスペース 0 50 100 mm としたデータの 6 種類から歯科用高速ワックス加工機で作製したワックスおよびについて寸法精度および適合性を比較検討した この結果 内径と外径は それぞれ異なる拡大率とすることにより設計値に近い値が得られた 支台模型のスキャンデータからワックスやを作製した場合は セメントスペースを 100 mm 増加させても内径は模型の STL データより小さな値となった 適合性試験では 拡大率が 10 で セメントスペースが 100 mm で最も優れた適合性を示した また 適合性の優れた設計では 寸法精度および膨縮率についてワックスとの間に有意な差は認められなかった 原稿受付 016 年 3 月 15 日 受理 016 年 6 月 16 日 1 日本歯科大学生命歯科学講座 10 8159 東京都千代田区富士見 1 9 0 日本歯科大学生命歯学部歯科理工学講座 10 8159 東京都千代田区富士見 1 9 0 1 Department of Life Science Dentistry, The Nippon Dental University 1 9 0, Fujimi, Chiyoda ku, Tokyo 10 8159 Department of Dental Materials Science, School of Life Dentistry at Tokyo, The Nippon Dental University 1 9 0, Fujimi, Chiyoda ku, Tokyo 10 8159
78 Vol. 35 No. 4 5 緒 言 近年 歯科医療のデジタル化が進んでおり その中で も CAD/CAM システムの発展は著しいものがある 1, わが国においても 014 年 4 月 1 日 歯科用 CAD/CAM システムを用いたハイブリッドレジンブロックによる歯冠補綴が先進医療から健康保険に導入され 小臼歯に対し保険適用となり 3,4 さらに条件付きながら大臼歯への保険適用が可能となった 3,4 これに伴い 歯科用 CAD/CAM システムの普及が一層進んでいる しかし 従来の歯科用 CAD/CAM システムは コンポジットレジン 4 陶材 1,5,6 ジルコニア 7,8 などからなるブロックやプレートから歯冠補綴物を削り出して作製するものが多く これら従来の機材では鋳造操作を要する金属などへの応用は難しいと考えられる 最近の傾向としては 歯冠補綴治療には審美性や金属アレルギーの観点からメタルフリーが求められているが メタルフリー治療 9 11 とした場合には歯冠補綴物破損の可能性という問題があるため 場合により金属を含む歯冠補綴が必要になることもある そのため 鋳造を要する金属からなる歯冠補綴の重要性は依然高いままであり 今後も使われ続けて行く技術であると言える これを裏付ける事実として 鋳造用ワックスを CAD/CAM により作製するためのシステムとして ワックスディスクからを削り出すことができる歯科用高速ワックス加工機が登場した 1 CAD/CAM により作製したワックスは 最終的な微調整を人の手によって行うことが可能であり その後の通常の歯科鋳造操作により金属補綴物作製への応用が可能である また 機械加工であるため 熟練を要せずに誰にでも高い寸法精度で容易に鋳造用を作製することが可能である この時 ワックス作製には STL データを使用するため 今後の光学印象など さらに進化が予想される歯科医療のデジタル化にも対応可能である しかし 歯科用 CAD/CAM システムを使用してワックスを作製し その寸法精度を検討した基礎的研究はほとんど見当たらない そこでわれわれは この歯科用高速ワックス加工機を用いて支台模型に適合するようなワックスを作製し この寸法精度について検討することを目的として研究を行った また このワックス作製時に支台への適合性を高めるためのデータ加工についても検討し 評価を行った 実験材料および方法 本研究では 歯頸部の外径 10 mm 高さ 10 mm 1/10 テーパーを付与した支台模型金型 F 001 日本メック を用いて実験を行った 実験に用いた支台模型 図 支台模型金型およびクラウン 断面図 の寸法図 歯科用 CAD ソフトで設計したコーピングの STL データ画像金型を図 1 a に示す この支台模型金型に適合するフルクラウンの 3D 模型となる STL データを 二種類の方法で構築した 一つ目の方法として 3D CAD ソフトのみを用いて 仮想空間上でフルクラウンを構築した すなわち 歯頸部の内径 10 mm 外径 13 mm 内面の深さ 10 mm 外形高さ 11 mm とし 内面および外形に 1/10 テーパーを付与したフルクラウンを 3D CAD ソフト icad SX 富士通 を用いて作製した このようにして作製したフルクラウン 以下 IC を図 1 b に示す 二つ目の方法として 支台模型金型をスキャンしたデータから仮想空間上に支台模型を再現し その再現した模型上に適合するように 3D CAD ソフトを用いて構築した すなわち 3D スキャナ DORA 3D Dental Scanner デジタルプロセス で支台模型金型を 3D スキャンして STL データを取得し そのデータ上で支台模型に適合するように歯科用 CAD ソフト exocad exocad を用いてフルクラウンの STL データを作成した この時 歯科用 CAD ソフトでは先に作製したフルクラウンの形状が設計できないため 最もフルクラウンの形状に近いコーピングとして設計した このようにして作製したコーピング 以下 EX の STL 画像を図 に示す なお 3D スキャンを行うに際し 支台模型金型が金属製であることから 3D スキャナが投影するの反射により 3D スキャンがスムーズに行えないため 前処理材の白
CAD/CAM で作製したワックスおよびの寸法精度 79 色パウダー CEREC Optispray Sirona Dental Systems を薄く塗布してから 3D スキャンを行い STL データを 取得した このようにして作製したフルクラウンの各 STL データをもとに 歯科用高速ワックス加工機 WAXY デジタルプロセス を用いてワックスディス ク ミリングワックス T14 D.C.L タニモト からワッ クスの削り出しを行った なお 削り出し条件は切削スピードを抑えた最も精度の高い条件とし 切削には直径 1 mm の専用工具を使用した この時 設計したままのデータから削り出したワックスは作製後の支台模型金型への適合性に劣ることがわかったため 3D CAD ソフトで作成した STL データについては最初の設計値を 100 の大きさとして 元の設計値を 101 10 に拡大したワックスを作製した 以下 それぞれを IC 100 IC 101 IC 10 と略す 一方 支台模型金型のスキャンデータを用いて歯科用 CAD ソフトで作製したの STL データの場合は 3D CAD ソフトの制限により全体の寸法を倍率で指定して拡大縮小できないため クラウン内部の軸面と咬合面にそれぞれセメントスペースを 0 50 100 m m 付与したワックスを作製した 以下 それぞれを EX 000 EX 050 EX 100 と略す IC の寸法については デジタル顕微鏡 VHX 000 キーエンス を用いて倍率 00 にて観察し 同倍率で内径 外径および深さの測定を行った 測定精度 1 m m この各測定値と拡大を行う前の設計値 IC 100 または EX 000 の設計値 との差 mm を求めた 次に 設計したクラウンの STL データと支台模型金型のスキャンした STL データの比較を行い 支台模型金型を用いた適合性試験が可能であると判断し これらワックスの適合性試験として 作製したワックスを支台模型金型に軽く適合させ その上に 100 g の錘を乗せて支台模型金型ショルダー部とワックスのマージン部の間隙 a をデジタル顕微鏡で測定した 用いた支台模型金型の歯頸部の直径が 10 mm であり 側面のテーパーは 1/10 であるため 下記の式より膨縮率を求めた ワックスが原型より大きくなった場合は 支台模型の頭部 A とショルダー部 B の可撤式リングを取り外した後に 同様に適合させてワックス歯頸部とリング撤去後のショルダー部との間隙を測定し リングの厚みを差し引くことで a を算出した 13 膨縮率 (%)= a(mm)/10 10(mm) 100 なお 試料が収縮した場合は符号をマイナス 膨張した場合はプラスとした 観察および測定を終えたワックスは直径 1.5 mm のスプルー スプルーピンチューブ中 大榮歯科 を咬合面に植立し 表面活性剤 シュールキャストスプレー ジーシー を塗布したのちにフォーマーに取り付けた 次いで クリストバライト系埋没材 イデアベスト ジーシー を用いて 混水比 0.30 で 1 分間真空練和した後 ライニング材 ニューキャスティングライナー ジーシー を二重に内貼りした鋳造リング内で埋没した 練和終了 時間後 鋳型を 700 に加熱し K メタル 67 Cu 0 Zn 1 Ag 1 Si 合金 自作 13 を都市ガス 空気炎にて融解し遠心鋳造機 No.49 林鋳造機 で鋳造した このについても ワックスの時と同様にデジタル顕微鏡で表面の観察を行い IC については内径 外径および深さの測定を行い 拡大を行う前の設計値 100 大の設計値 との差 mm を求めた また についてもワックスの時と同様に適合性試験を行った すなわち を支台模型金型に軽く適合させ その上に 100 g の錘を乗せて支台模型ショルダー部とのマージン部の間隙を測定して膨縮率を計算した が膨張した場合は 前述と同様に支台の咬合面部とショルダー部の可撤式リングなどをはずして膨縮率を測定した 全実験の繰り返しは 5 回として すべてのの作製 鋳造をランダム化して行った n 5 測定値の統計処理 a 0.05 および a 0.01 は IC の外径 内径 深さの差については測定部位ごとに ワックスとの各拡大率での Tukey による平均値の多重比較を行い さらに拡大率間の平均値についても Tukey による多重比較を行った スキャンデータから作製しセメントスペースを変化させた EX についても 同様に 外径 内径 深さの差について Tukey による多重比較を行い それぞれ付与したセメントスペース間についても多重比較を行った また 支台模型金型に適合させて求めた膨縮率についても同様に 測定部位と拡大率または付与したセメントスペースについて Tukey による多重比較を行い 同じ拡大率またはセメントスペースについても多重比較を行った 結果 3D CAD ソフトのみから設計したクラウン型および金型の 3D スキャンデータから歯科用 CAD ソフトで設計したコーピングをそれぞれ歯科用高速ワックス加工機により削り出して作製したワックスについて 咬合面を上方とし マージン側を下方とした外観を図 3 に示す クラウン型では設計どおりに外形は角張った形が再現されており コーピングでは丸みを帯びた形となっ
80 Vol. 35 No. 4 5 ている 作製したワックスのマージン部側から内面を観察した全体像と内面の最深部表面および歯頸部外側側面の拡大写真を図 4 に示す 全体像では切削加工時に切削用バーが動いた跡と思われる筋が認められ 特に EX では 設計段階ですでに咬合面隅角部が軸面より膨らんだ丸みを帯びた形状であり 内面の最上部の線角部は丸みを帯びて大きめに削り取った形状となっており 実際のワックスもそのような形状となるように余分に削除されていた また 歯頸部外側側面では切削痕が認められ 小さな段差が多数存在した IC のワックスおよびこれらのを鋳造したの各部測定値と 100 大の設計値との差 mm についての結果を表 1 に示す 表より内径にお図 種の CAD ソフトで設計したデータを用いて歯科用高速ワックス加工機により作製されたの全体写真 いては IC 100 のとの間に高度な有意差 p 0.01 が認められた 外径については 内径と同じく IC 100 でとの間に高度な有意差 p 0.01 が認められ 深さについては IC 101 でとの間に高度な有意差 p 0.01 が認められた 各拡大率の間にはすべて高度な有意差が認められた p 0.01 また 同様に EX についても ワックスとこれらのについて スキャンデータから作成した STL データとの差 mm の結果を表 に示す 表より 深さについて EX 050 でワックスととの間に高度な有意差 p 0.01 が認められ 外径については EX 100 でワックスととの間に高度な有意差 p 0.01 が認められ これ以外のワックスととの間には有意差が認められなかった 拡大率の間では 内径 外径 深さについて ももセメントスペース 50 mm と 100 mm との間で有意差が認められず 内径についてはセメントスペース 0 m m と 50 m m との間で有意差が認められなかった これ以外のすべての組合せで有意差が認められた p 0.05 支台模型金型の寸法を EX 000 設計時の STL データと比較すると EX 000 設計時の STL データにおいて 内径では 400 mm 外径では 80 mm 深さでは 87 mm 大きな値を示し 内面の形状も支台模型金型と同一であったため適合性試験を行うこととした すなわち 作製し マージン部から内面を観察した全体像 内面の最深部表面の拡大像 歯頸部外側側面の拡大像 図 3D CAD ソフトで設計したデータを用いて作製したおよびそのの拡大写真
CAD/CAM で作製したワックスおよびの寸法精度 81 表 3D CAD ソフトで設計したワックス IC およびこれらのを鋳造したの各部測定値と 100 大の設計値との差 拡大率 内径 100 0.158 0.014 0.104 0.03 101 0.00 0.031 a 0.01 0.04 a 10 0.090 0.013 b 0.091 0.019 b 外径 100 0.79 0.07 0.185 0.041 101 0.161 0.006 c 0.131 0.00 c 10 0.051 0.00 d 0.06 0.043 d 深さ 100 0.01 0.01 e 0.050 0.009 e 101 0.136 0.013 0.176 0.017 10 0.8 0.035 f 0.45 0.019 f 単位 mm SD 同一文字間には有意差は認められない 表 歯科用 CAD ソフトで設計したワックス EX およびこれらのを鋳造したの各部測定値とスキャンデータから作成した STL データとの差 セメントスペース 内径 0 mm 0.10 0.017 a 0.159 0.030 a 50 mm 0.088 0.00 b 0.104 0.04 b 100 mm 0.053 0.0 c 0.063 0.03 c 外径 0 mm 0.309 0.031 d 0.64 0.011 d 50 mm 0.005 0.051 e 0.07 0.019 e 100 mm 0.015 0.00 0.069 0.019 深さ 0 mm 0.005 0.0 f 0.005 0.00 f 50 mm 0.111 0.06 0.074 0.010 100 mm 0.094 0.004 g 0.068 0.013 g 単位 mm SD 同一文字間には有意差は認められない たワックスおよびこれらのを鋳造したを支台模型金型に適合させたときの浮き上がり量から算出した膨縮率 について IC および EX の結果をまとめて表 3 に示した 表より IC については 表 作製したワックスおよびこれらのを鋳造したを支台模型金型に適合させたときの浮き上がり量から算出した膨縮率 拡大率 各拡大率においてととの間に有意差は認められなかった 拡大率の違うすべての組合せ間で高度な有意差 p 0.01 が認められた 他方 EX については EX 000 のみ高度な有意差 p 0.01 が認められた 考 1985 年にドイツシーメンス社 現シロナ は Mör- mann が開発したチェアサイドで加工できるシステムとしてセレックを発売した 1,14 18 歯科用 CAD/CAM システムの元祖ともいえる装置である 当時のシステムは陶材から削り出すことが主であったが 歯科材料および技術の進歩とともにジルコニア チタン コンポジットレジンと切削加工可能な材料が増えていった 14 17,19 しかし 従来の CAD/CAM システムでは切削工具のサイズや角度などの制限により 複雑な形状の加工は難しいという欠点が存在する 16,19 1 また これらの材料では鋳造が不可能であり 金属に置き換えることができない 金属の鋳造による歯冠補綴治療は依然日常的に行われており 歯科にとって代替の効かない技術であると考えられる 9 11 他方 近年の 3D プリンターの出現に伴い これを用いた歯冠補綴物作製が可能となってきている 3D プリンターでは造形方法によって作製できるものは異なるが 鋳造用の作製 16,1 や レーザー積層造形法であればチタンやコバルトクロムを用いた歯冠補綴物 15,19 が作製可能である この 3D プリンターでは一層ずつ積層により造形していくため 造形完了には時間がかかることが知られている 3 また 3D プリンターで作製するはレジンがほとんどであるが 作製後の寸法精度についての報告は少な IC 察 100 1.938 0.186 a.081 0.176 a 101 0.43 0.07 b 0.350 0.16 b 10 0.08 0.030 c 0.17 0.019 c セメントスペース EX 0 mm 0.34 0.070 0.777 0.136 50 mm 0.110 0.03 d 0.48 0.114 d 100 mm 0.007 0.009 e 0.193 0.016 e 単位 SD 同一文字間には有意差は認められない
8 Vol. 35 No. 4 5 く 人手による微調整法を含めて実用化には不明な点が多い 本研究で使用した歯科用高速ワックス加工機では ワックスからなるディスクより切削加工を行うことから 作製されるのはワックスである そのため従来どおりの技工操作による鋳造や手技による微調整が可能である また ワックスディスクは従来の CAD/ CAM システムで使用されている材料に比べてきわめて軟らかいため 作製時間の大幅な短縮が可能であり 切削器具の摩耗による寸法精度の低下も少ないと考えられるため 鋳造の作製という点ではきわめて優れた方法であると言える 本研究では このようにして作製したワックスについて 寸法精度を検討し の寸法精度についても検討を行った この結果 IC に関しては 内径および外径でもも 100 大の設計値より小さくなることがわかった また IC 10 においても外径は 100 大の設計値より小さく 内径では IC 101 でほぼ設計値と同じ大きさになった 深さについては IC 100 でほぼ 100 大の設計値と同じ値を示し それ以上でより大きな値を示した 以上のことから 3D CAD ソフトのみからワックスを作製すると 内径 外径ともに小さくなる傾向を示すため 内径では 1 外径では 程度の拡大を行い 深さ方向は拡大しないという補正を行うことにより 設計値どおりのやが得られると考えられる 本研究で使用した歯科用高速ワックス加工機は高精度 高負荷 高剛性 高速性が注目されているパラレルリンク機構 1,3,4 を有している また ワックスディスクが 180 反転することにより ワックスディスクの表裏の両面から削り出すシステムになっている この時 設計値との誤差が生ずる原因としては 加工機の切削工具を駆動するシステムによる影響が考えられる 歯科用高速ワックス加工機においては 作製後の補綴物は技工士の手による最終調整を経ることを前提としているため クラウンで言えば 咬合高径や外側は大きく 内側は小さめになるように入力データを補正して切削しているものと考えられる しかし どの程度の自動的な補正が行われるかは加工機の切削工具を駆動するシステムに依存しており この駆動システムについては全くのブラックボックスであるため予測は不可能である しかし 上述のように設計時の STL データを拡大させるなどの加工により その寸法補正は可能であることが明らかになった 支台模型金型のスキャンデータから歯科用 CAD ソフトで設計したコーピングについて同様に検討を行った結果 内径については ワックスと測定した STL データとの間にはセメントスペースを 100 m m 程度に大きく取らないと有意差は認められなかったが では 50 m m で有意差が認められた しかし 外径や深さに比べるとその差は小さかった 外径については セメントスペースが増えると大きくなる傾向を示し 深さについてもセメントスペースの付与でやや大きくなった セメントスペースの付与により内径および深さはセメントスペース分だけ大きくなるのは設計時の STL データに関してのことであり 外径や深さが セメントスペースが増加すると大きくなるという傾向についての適切な説明は理論的には不可能である ただし 加工機の特徴として中ぐり加工時と外形切削とでは切削工具が被研削材に当たる方向が異なるため 内径と外径で仕上げの精度に差が出ることは考えられる また 深さ方向に関しても 切削工具の切削部位が他と異なるため内径や外径と異なる精度となると考えられる しかし セメントスペースの付与による外径の増加は切削工具の動作とは無関係のように思われるため 原因は不明である 内径については セメントスペースを 100 m m まで増加させても設計値より小さな値となり 適合精度という点で問題となると考えられるが 表 3 に示した適合性試験の結果からは適合性に優れていることがわかる この原因は スキャンした STL データからワックス削り出しのデータを 3D CAD ソフトで作成するときに ソフト的に適合させるためのセメントスペースの付与などを考慮した処理が行われているのではないかと予想され 加工時の切削工具を駆動させるソフトや駆動システムによる補正が行われた状態で ワックスの削り出しが行われたのではないかと予想される 支台模型金型を用いて 実際に作製したワックスおよびの適合性試験を行った結果の表 3 からは IC では 設計値を 10 としたものでもわずかな浮き上がりがあり セメントスペースを考慮すると設計値を 3 程度大きくしたもので成形する必要があると考えられる また EX では セメントスペースを 50 m m としてもわずかな浮き上がりを示し セメントスペース 100 mm でほぼ膨縮率ゼロとなった このことから EX においても同様に設計値に 100 m m 以上のセメントスペースを付与する必要があると考えられる 支台模型金型の 3D スキャンを行った時にはホワイトパウダーを塗布しており 取り込んだ模型は原型より大きいサイズとなっているはずであるが パウダーの厚み 40 60m m 5 はあまり影響していないと考えられる この模型に適合するクラウンがセメントスペースを 100 m m も取らないと適合性に欠けるという結果からは 上述のようにブラックボックス化されている 3D CAD ソフトと切削機の切削工具駆動ソフトの特徴と考えられる
CAD/CAM で作製したワックスおよびの寸法精度 83 このように IC および EX の結果から 3D CAD ソフトの特徴と CAM の特徴を知ったうえで補綴物を設計する必要性が大きいことがわかった このような特徴を知ったうえでデータ加工を行うことにより 歯科用高速ワックス加工機を用いて適合性に優れたやを作製することが可能であることが明らかとなった 結論 種の方法で支台模型に適合するように STL データを作成し 歯科用高速ワックス加工機で作製したワックスおよびについて寸法精度および膨縮率を測定し 比較検討した結果 以下の結論を得た 1 IC では 内径は 101 に拡大し 外径は 10 に拡大したものが最も設計値に近い値を示した EX では 内径はセメントスペースを 100 mm 増加させても支台金型模型をスキャンしたときの STL データより小さな値となった 3 適合性試験では IC では 10 の拡大率で最も良い適合性を示し EX ではセメントスペースとして 100 mm で最も優れた適合性を示した 4 IC 101 IC10 EX 050 EX 100 など適合性の優れた設計では 寸法精度および膨縮率についてワックスとの間に有意な差は認められなかった 謝辞ワックスの切削加工に多大なご尽力を頂いたテクニカルセンター DNC ミリングセンター関東の伊藤隆文様に感謝の意を表します 文献 1 Sannino G, Germano F, Arcuri L, Bigelli E, Arcuri C, Barlattani A. CEREC CAD/CAM chairside system. Oral Implantol 014 7 57 70. Ruse ND, Sadoun MJ. Resin composite blocks for dental CAD/CAM applications. J Dent Res 014 93 13 134. 3 Lauvahutanon S, Takahashi H, Oki M, Arksornnukit M, Kanehira M, Finger WJ. In vitro evaluation of the wear resistance of composite resin blocks for CAD/CAM. Dent Mater J 015 34 495 50. 4 Lauvahutanon S, Takahashi H, Shiozawa M, Iwasaki N, Asakawa Y, Oki M, et al. Mechanical properties of composite resin blocks for CAD/CAM. Dent Mater J 014 33 705 710. 5 Kollmuss M, Kist S, Goeke JE, Hickel R, Huth KC. Comparison of chairside and laboratory CAD/CAM to conventional produced all ceramic crowns regarding morphology, occlusion, and aesthetics. Clin Oral Investig 016 0 791 797. 6 Goldberg MB, Siegel SC, Rezakani N. Unique CAD/CAM three quarter crown restoration of a central incisor a case report. Gen Dent 013 61 36 40. 7 Santos GCJr, Boksman LL, Santos MJ. CAD/CAM technology and esthetic dentistry a case report. Compend Contin Educ Dent 013 34 764 770. 8 Ortorp A, Kihl ML, Carlsson GE. A 5 year retrospective study of survival of zirconia single crowns fitted in a private clinical setting. J Dent 01 40 57 530. 9 Studart AR, Filser F, Kocher P, Lüthy H, Gauckler LJ. Cyclic fatigue in water of veneer framework composites for all ceramic dental bridges. Dent Mater 007 3 177 185. 10 Studart AR, Filser F, Kocher P, Gauckler LJ. Fatigue of zirconia under cyclic loading in water and its implications for the design of dental bridges. Dent Mater 007 3 106 114. 11 Wang RR, Lu CL, Wang G, Zhang DS. Influence of cyclic loading on the fracture toughness and load bearing capacities of all ceramic crowns. Int J Oral Sci 014 6 99 104. 1 間瀬俊明 藤原稔久 松下直久 グラビアとインタビュー精密工学の最前線歯科用 CAD/CAM システム 精密工学会誌 015 81 197 00. 13 後藤真一 相馬弘子 第 6 章歯科精密鋳造 宮坂平 宮川行男 新版歯科理工学実習指針 1 医歯薬出版 014 p.64 74 14 Miyazaki T, Hotta Y, Kunii J, Kuriyama S, Tamaki Y. A review of dental CAD/CAM current status and future perspectives from 0 years of experience. Dent Mater J 009 8 44 56. 15 Zandparsa R. Digital imaging and fabrication. Dent Clin North Am 014 58 135 158. 16 van Noort R. The future of dental devices is digital. Dent Mater 01 8 3 1. 17 Mörmann WH. The evolution of the CEREC system. J Am Dent Assoc 006 137 7S 13S. 18 Davidowitz G, Kotick PG. The use of CAD/CAM in dentistry. Dent Clin North Am 011 55 559 570. 19 Ishida Y Miyasaka T. Dimensional accuracy of dental casting patterns created by 3D printers. Dent Mater J, 016 35 50 56. 0 宮坂平 3D プリンターによる作業模型とクラウン制作 日歯理工誌 014 33 81 84. 1 Torabi K, Farjood E, Hamedani S. Rapid prototyping technologies and their applications in prosthodontics, a Review of Literature. J Dent Shiraz Univ Med Sci 015 16 1 9. Bae EJ, Kim HY, Kim WC, Kim JH. In vitro evaluation of the bond strength between various ceramics and cobalt chromium alloy fabricated by selective laser sintering. J Adv Prosthodont 015 7 31 316. 3 Horvath J. Mastering 3D printing. Apress Springer 015. p. 45 46. 4 内山勝 パラレルマニピュレータの機構と特性 日本ロボット学会誌 199 10 715 70 5 Kumar KP, Manjunath S. CEREC in dentistry. JIARM 014 636 649.