研究成果報告書

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

研究成果報告書

学位論文の要約 免疫抑制機構の観点からの ペプチドワクチン療法の効果増強を目指した研究 Programmed death-1 blockade enhances the antitumor effects of peptide vaccine-induced peptide-specific cyt

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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研究成果報告書

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞


結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

Powered by TCPDF ( Title 造血器腫瘍のリプログラミング治療 Sub Title Reprogramming of hematological malignancies Author 松木, 絵里 (Matsuki, Eri) Publisher P

報道関係者各位

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

センシンレンのエタノール抽出液による白血病細胞株での抗腫瘍効果の検討

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研究成果報告書

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

がん免疫療法モデルの概要 1. TGN1412 第 Ⅰ 相試験事件 2. がん免疫療法での動物モデルの有用性がんワクチン抗 CTLA-4 抗体抗 PD-1 抗体 2

肝クッパ 細胞を簡便 大量に 回収できる新規培養方法 農研機構動物衛生研究所病態研究領域上席研究員山中典子 2016 National Agriculture and Food Research Organization. 農研機構 は国立研究開発法人農業 食品産業技術総合研究機構のコミュニケーショ

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研究成果報告書

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

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論文の内容の要旨

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

長期/島本1

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血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

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( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)

転移を認めた 転移率は 13~80% であった 立細胞株をヌードマウス皮下で ~1l 増殖させ, その組

H24_大和証券_研究業績_p indd

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第6号-2/8)最前線(大矢)

平成 28 年 2 月 1 日 膠芽腫に対する新たな治療法の開発 ポドプラニンに対するキメラ遺伝子改変 T 細胞受容体 T 細胞療法 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 脳神経外科学の夏目敦至 ( なつめあつし ) 准教授 及び東北大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 下瀬川徹

様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 22 年 6 月 16 日現在 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :2008~2009 課題番号 : 研究課題名 ( 和文 ) 心臓副交感神経の正常発生と分布に必須の因子に関する研究 研究課題名 ( 英文 )Researc

Powered by TCPDF ( Title 前転移ニッチの性状解析に基づく癌転移抑制戦略の考案 Sub Title Development of anti-metastatic strategy based on analysis of premetastatic

研究成果報告書

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一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

研究成果報告書

主論文 Role of zoledronic acid in oncolytic virotherapy : Promotion of antitumor effect and prevention of bone destruction ( 腫瘍融解アデノウイルス療法におけるゾレドロン酸の役割 :

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

STAP現象の検証の実施について

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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上原記念生命科学財団研究報告集, 31 (2017)

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第一章自然免疫活性化物質による T 細胞機能の修飾に関する検討自然免疫は 感染の初期段階において重要な防御機構である 自然免疫を担当する細胞は パターン認識受容体 (Pattern Recognition Receptors:PRRs) を介して PAMPs の特異的な構造を検知する 機能性食品は

周期的に活性化する 色素幹細胞は毛包幹細胞と同様にバルジ サブバルジ領域に局在し 周期的に活性化して分化した色素細胞を毛母に供給し それにより毛が着色する しかし ゲノムストレスが加わるとこのシステムは破たんする 我々の研究室では 加齢に伴い色素幹細胞が枯渇すると白髪を発症すること また 5Gy の

令和元年 10 月 18 日 がん免疫療法時の最適なステロイド剤投与により生存率アップへ! 名古屋大学大学院医学系研究科分子細胞免疫学 ( 国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野分野長兼任 ) の西川博嘉教授 杉山大介特任助教らの研究グループは ステロイド剤が免疫関連有害事象 1 に関連するよう

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

141225がん新薬開発HP公開用ファイル.pptx

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

ウシの免疫機能と乳腺免疫 球は.8 ~ 24.3% T 細胞は 33.5 ~ 42.7% B 細胞は 28.5 ~ 36.2% 単球は 6.9 ~ 8.9% で推移し 有意な変動は認められなかった T 細胞サブセットの割合は γδ T 細胞が最も高く 43.4 ~ 48.3% で CD4 + T 細

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平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

制御性 T 細胞が大腸がんの進行に関与していた! 腸内細菌のコントロールによる大腸がん治療に期待 研究成果のポイント 免疫細胞の一種である制御性 T 細胞 1 が大腸がんに対する免疫を弱めることを解明 逆に 大腸がんの周辺に存在する FOXP3 2 を弱発現 3 する細胞群は がん免疫を促進すること

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

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様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 23 年 6 月 16 日現在 機関番号 :32612 研究種目 : 研究活動スタート支援研究期間 :2009~2010 課題番号 :21890247 研究課題名 ( 和文 ) がん微小環境における間質細胞 間葉系幹細胞による免疫抑制機構の解明と克服法の開発研究課題名 ( 英文 ) Elucidation of the mechanism of immunosuppression by me microenvironments 研究代表者谷口智憲 (YAGUCHI TOMONORI) 慶應義塾大学 医学部 助教研究者番号 :40424163 研究成果の概要 ( 和文 ): 本研究では がん微小環境における間葉系幹細胞 (MSC) の免疫学的役割を解析した 骨髄由来の MSC はがん局所に遊走し がん細胞の増殖を増長させている可能性がマウスモデルを用いて示された ヒト MSC は IL6,VEGF などの免疫抑制分子を産生し 樹状細胞を抑制して免疫抑制を誘導している事も分かった 以上より 担癌生体では骨髄由来の MSC ががん局所で免疫抑制を誘導している事 MSC が治療ターゲットとなりうることが示唆された 研究成果の概要 ( 英文 ): In this study, we evaluated the immunological roles of mesenchymal stem cells (MSC) in cancer microenvironment. GFP chimeric mouse models showed that bone marrow-derived MSC migrated to caner tissues and augmented the tumor growth. Human MSC inhibited dendritic cells functions through the production of a variety of immunosuppressive cytokines such as IL6 and VEGF. These results suggested that MSC induced caner immune evasion in the cancer microenvironment and can be an attractive target for the restoration of immune competence of cancer patients. 交付決定額 ( 金額単位 : 円 ) 直接経費 間接経費 合 計 2009 年度 1,070,000 321,000 1,391,000 2010 年度 970,000 291,000 1,261,000 総 計 2,040,000 612,000 2,652,000 研究分野 : 腫瘍免疫科研費の分科 細目 : 実験病理学キーワード : 間葉系幹細胞 腫瘍免疫回避 がん免疫療法 1. 研究開始当初の背景近年 ヒト腫瘍抗原が同定され 様々ながんワクチン ( 能動免疫法 ) の臨床試験が実施されたが 期待されたほど十分な効果は認められていない しかし 能動免疫法では効果がなかった抗原でも その抗原特異的な培養 T 細胞を投与する養子免疫療法を行った場合には RECIST 基準で奏功率 72% という 劇的な治療効果も報告されている (Dudley ME et al. J Clin Oncol 26 5233-9 2008) これらの臨床試験の比較 解析から 能動免疫法の抗腫瘍効果が十分でない原因の一つは 担がん生体における免疫抑制的な環境が引き起こす腫瘍免疫逃避であると考えられている そこで 本研究申請者の所属する慶應義塾大学医学部先端医科学研究所では この

腫瘍免疫逃避を克服するために がん細胞による各種免疫細胞への作用を解析し がん微小環境における免疫抑制の分子機構を明らかにしてきた 特に 本研究申請者は 免疫療法前の腫瘍の GeneChip 解析で 治療抵抗性への関与が示唆されている Wnt/β-catenin 経路の腫瘍における活性化の意義を研究してきた その結果 腫瘍における Wnt/β-catenin 経路の恒常的活性化は IL10 などの免疫抑制物質の産生を誘導し それによって 樹状細胞 (DC:dendritic cell) や抗腫瘍細胞傷害性 T 細胞 (CTL) の機能低下を起こすことで 腫瘍免疫逃避の根源的な原因となっていることを明らかにした また β-catenin 阻害剤による免疫抑制の解除と免疫療法の効果増強の可能性を示した 一方腫瘍組織においては 間質細胞ががん細胞の進展に関与するとの報告があるが 間質細胞による免疫細胞への作用 ひいては がん細胞と免疫細胞と間質細胞の三者の相互作用については まだほとんど研究されていない 最近 腫瘍間質細胞には 骨髄由来間葉系幹細胞 (mesenchymal stem cell: MSC) がかなり含まれており がん細胞の転移などに関与することが報告されている (Chiba H et al. Stem cells 26 2523 2008, Karnoub A E et al. Nature 449 557 2007) 以前から 培養された MSC には免疫抑制作用が報告されており 造血幹細胞移植時の急性 GVHD の治療を目的に臨床の場でも使用されている (Le blanc K et al. Lancet 37 1579 2008) ほどであるが 腫瘍組織中のMSC の免疫細胞への影響については全く報告がない 当研究室では 最近 癌細胞が上皮間葉転換 (EMT) を起こして転移するときには 様々な免疫抑制性サイトカインや免疫抑制性細胞を誘導して 免疫抑制環境を構築し 転移を促進することを見いだした (Kudo et al. Cancer cell 2009) 興味深い事に 研究申請者は EMT をおこした癌細胞が産生する免疫抑制因子は 培養 MSC が産生する因子とほぼ同等であることを見いだした さらに 申請者の行った予備実験では 培養 MSC をがん細胞と同時に移植することにより 腫瘍増殖が促進されることを確認した したがって 腫瘍組織における免疫抑制環境の構築には がん細胞だけでなく MSC も含んだ間質細胞も関与している可能性が高く その解除のためには 申請者がこれまでの研究で示してきたようながん細胞を標的とした治 療に加えて 間質細胞を標的にした治療法の開発が重要であると考えられた また これまで MSC は骨髄単核球を数週間培養した後の付着細胞としてしか分離できず 培養操作を経ているため それが 必ずしも生体内の MSC と同等である保証はなかった 最近 我々が共同研究を行っている慶應義塾大学生理学教室では 2 つの抗体を用いて マウス及びヒトの MSC を従来の数十万倍に濃縮し 培養操作を経ないで直接骨髄から分離する方法を開発した (Morikawa S et al. Biochem Biophys Res Commun 379 114 2009) この方法を用いれば より生体内の状態に近い MSC を用いて MSC が腫瘍免疫応答に与える影響を解析できると考えられた 2. 研究の目的本研究では がん組織の間質細胞 特に骨髄由来の間葉系幹細胞 (mesenchymal stem cell: M S C ) が各種免疫細胞に対して及ぼす作用 また がん細胞 免疫細胞 間質細胞の三者の相互作用を検討し がん微小環境における免疫抑制の分子機構を解明する 3. 研究の方法 (1) マウス MSC の分離および培養マウス骨髄を乳鉢を用いて粉砕し 更にコラゲナーゼ処理を 37 度で一時間行い CD45 および TER119 陰性分画の中で Sca-1 および PDGFRα 陽性の分画をセルソーターを用いて分離した 分離した細胞 (PαS 細胞 ) は MEMα +GlutaMax +10%FCS で培養した (2) ヒト MSC の分離法ヒト骨髄球を二種類のマーカーで染色しセルソーターを用いて分離した 分離した細胞は DMEM+10%FCS+bFGF(20ng/ml) で培養した (3)GFP キメラマウスの作製 腫瘍の移植まず EGFP マウス骨髄をコラゲナーゼ処理し骨髄球を採取する もしくはさらに上記の方法で MSC を分離する 野生型 C57BL/6 マウス (WT マウス ) の骨髄からも骨髄球を分離する GFP 血球キメラマウスは 10.5Gy の放射線照射された WT マウスに 上記 EGFP マウス由来骨髄球を静注移植することで作製し 約 60 日後 血球の 90% 以上が EGFP を発現していることを FACS で確認している

GFP MSC キメラマウスは 10.5Gy の放射線照射された WT マウスに 上記 EGFP マウス由来 MSC および WT マウス由来骨髄球を静注移植することで作製した 腫瘍を移植する場合は側腹部に 5x10 5 の癌細胞を移植した MSC を移植する場合は 2.5x10 5 個移植した 移植 2 週間後に腫瘍を摘出 コラゲナーゼ処理後 FACS を用いて MSC を解析した A 腫瘍体積 ( mm 3 ) (4) 癌細胞 MC38 B16 などの癌細胞株は ATCC より購入し RPMI1640+10%FCS で培養した B 日数 ( 日 ) MC38 αs MC38+GFP-P 0.01% 0.1 (5) サイトカインの濃度測定 MSC を 24 時間培養液中で培養しその上清中に含まれるサイトカインを Bioplex(Biorad 社 ) を用いて網羅的に解析 測定した GF (6) ヒト樹状細胞の誘導健常人より末梢血を採血し フィコール遠心分離法で単核球を分離 CD14 磁気ビーズ (Miltenyi 社 ) を用いて CD14 陽性単核球を分離した この細胞を GM-CSF (100ng/ml) と IL-4 (50ng/ml) 存在下で 6 日間培養し樹状細胞に分化させた MSC が樹状細胞に与える影響を解析するときは この過程で MSC の培養上清を 20% 含む状態で培養した Day6 に LPS (1ug/ml) で刺激 24 時間後に上清を回収し産生されたTNFα やIL12をELISAで測定した 4. 研究成果 (1) 培養 MSC は腫瘍の増殖を促進する MSC が腫瘍の悪性形質の一つである増殖に影響を与えるかを in vivo で評価した PDGFRα+, Sca1+ 細胞 (PαS 細胞 ) を MSC としてマウス骨髄より分離 培養し 大腸がん細胞 (MC38) とともにマウスに皮下移植し腫瘍の増殖を観察した その結果 MC38は MSC と共に移植された場合 単独で皮下移植された場合に比べて増殖が亢進することが分かった ( 図 1A) このことから MSC はがんの増殖に対して何らかの影響を与えていることが示唆された また この腫瘍中には 移植から二週間後でも GFP 陽性の MSC 由来の細胞が存在することが分かった ( 図 1B) FSC FSC 図 1:MSC(PαS 細胞 ) は腫瘍組織内で癌増殖を促進する (A)PαS と共移植された MC38 がん細胞は増殖が促進した (B) 腫瘍組織内には GFP 陽性の PαS 由来の細胞が認められた (2)MSC はがん局所に遊走する がん局所に骨髄由来の MSC が移動してくるかどうかについて 2 種類のマウスモデルを構築し検討した 最初のマウスモデルでは GFP マウスの骨髄をコラゲナーゼ処理し MSC をより多く回収した状態で野生型 (WT) マウスに移植し 骨髄由来の MSC 及び血球が GFP で標識されているマウス (GFP- 血球キメラマウス ) を作製した このマウスに悪性黒色腫 肉腫 大腸癌など各種マウスの癌細胞株を皮下移植し 腫瘍が増大した時点で組織中の GFP 陽性かつ MSC マーカー陽性 (PDGFRα, Sca1) 細胞の割合を FACS にて測定した その結果 大腸癌細胞株および悪性黒色腫で骨髄由来 MSC が腫瘍中に遊走することが分かった ( 図 2A) 2 つめのマウスモデルでは GFP マウスより骨髄 MSC (PDGFRα+, Sca1+) を WT マウスより骨髄細胞を採取し WT マウスに骨髄移植し MSC 由来の細胞のみが GFP でマーキングされたキメラマウスを作製した このマウスに大腸がん細胞を皮下に移植したところ 2-3 週間後に腫瘍局所に GFP 陽性細胞を認めた ( 図 2B) このことからも 骨髄由来の MSC が癌局所に移動していることが分かった

今後 これらのがん局所の MSC の遺伝子プロファイルを GeneChip などを用いて網羅的に解析し骨髄 MSC と比較 がんの悪性形質にどのように影響を与えるかを解析する MSC はがん局所に移動しかつ 一部はがん細胞と融合する可能性が示唆された 今後このような融合細胞ががんの微小環境中でがん細胞の悪性形質にどのように影響を及ぼすかを解析していく予定である A B16 B MC38 図 2: MSC(PαS 細胞 ) は骨髄から癌組織局所に移動する (A) GFP- 血球キメラマウスに皮下移植された B16 メラノーマ組織内 および MC38 大腸がん組織内には GFP 陽性の PαS 細胞が存在する (B) GFP-MSC キメラマウスに皮下移植された MC38 大腸がん組織内には GFP 陽性の PαS 細胞が存在する 図 3: がん組織内で MSC と腫瘍細胞は融合する (A) B16 培養 GFP-PαS GFP-PαS と B16 の融合細胞 (GFP-PαS/B16) の GFP および gp100 の発現を免疫染色で解析した B16 では gp100 のみ GFP-PαS では GFP のみ 融合細胞では GFP と gp100 両方の発現がみられた (4) ヒト MSC は免疫抑制物質を産生し 樹状細胞を抑制する ヒトの骨髄より二つのマーカーを用いて MSC をソーティングし数種類の MSC クローンを作製 産生しているサイトカインを測定したところ 特に IL6 VEGF MCP-1 などがどのクローンでも高産生されていた ヒト MSC が樹状細胞に与える影響を評価するために MSC の培養上清を 20% 含む状態でヒト単球を樹状細胞に分化させ LPS で刺激し産生されるサイトカインを測定した IL12 や TNFα などの炎症性サイトカインは MSC の上清の添加により減少し 免疫抑制性サイト間である IL10 の産生は増加した ( 図 4) 以上の結果より 本マーカーでヒト骨髄球より分離された培養 MSC は樹状細胞の機能を抑え 免疫抑制を誘導する可能性が示唆された (3)MSC はがん局所で癌細胞と融合する 上記の図 2A の悪性黒色腫細胞株 B16 を用いたモデルでは 腫瘍中の GFP 陽性 MSC 細胞をソーティングし培養した その中の 1 クローンは DNA 含有量が B16 と骨髄 MSC の合計に等しかった さらに GFP 陽性であるが メラノサイト特異的蛋白である gp100 が陽性であった ( 図 3) 以上のことからこのクローンは B16 と骨髄由来 MSC の融合細胞であると推測された このことから 骨髄中の 図 4: ヒト MSC は樹状細胞の活性化を抑制するヒト MSC の各クローン (A-2~C30) の培養上清は LPS 刺激による樹状細胞からの IL12 TNFα の産生を抑制し IL10 の産生を増加させる

5. 主な発表論文等 ( 研究代表者 研究分担者及び連携研究者には下線 ) 雑誌論文 ( 計 5 件 ) 1. Yaguchi T, Sumimoto H, Kudo-Saito C, Tsukamoto N, Ueda R, Iwata-Kajihara T, Nishio H, Kawamura N, Kawakami Y. The mechanisms of cancer immunoescape and development of overcoming strategies. Int J Hematol (2011) 93: 294 300 査読有 http://www.springerlink.com/content/c478p2 46673x144p/fulltext.pdf 2. Tahara H, Yaguchi T (57 人中 53 番目 ) et al. Emerging concepts in biomarker discovery; The US-Japan workshop on immunological molecular markers in oncology. J Transl Med. 7: 45 2009 査読有 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19534 815 6. 研究組織 (1) 研究代表者谷口智憲 (YAGUCHI TOMONORI) 慶應義塾大学 医学部 助教研究者番号 :40424163 学会発表 ( 計 14 件 ) 1. Yaguchi T, Goto Y, Kido K, Mochimaru H, Sakurai T, Tsukamoto N, Kudo-Saito C, Fujita T, Sumimoto H, Kawakami Y., Immune escape of human melanoma via activated Wnt/β-catenin signaling., 14 th International Congress of Immunology 2010, Kobe International Convention Center, 2010/8/25 2. 河上裕 住本秀敏 工藤千恵 塚本信夫 植田良 梶原知子 川村直, 谷口智憲, シンポジウム2 次世代がん免疫療法の開発に向けた基礎 応用研究 がん免疫逃避機構とその制御, 第 14 回日本がん免疫学会, KKR ホテル熊本, 2010/7/23 3. 谷口智憲 岩田 - 梶原知子 川村直 工藤 - 斉藤千恵 住本秀敏 河上裕 MAPK signaling is a potential target for improvement of immunotherapy through reversal of immunosuppressive tumor microenvironment. 第 39 回日本免疫学会総会 大阪 2009 年 12 月 2-4 日