15群(○○○)-8編

Similar documents
format

<4D F736F F F696E74202D2091E FCD91BD8F6489BB82C691BD8F E835A83582E >

15群(○○○)-8編

15群(○○○)-8編

<4D F736F F F696E74202D2091E6824F82518FCD E838B C68CEB82E894AD90B B2E >

DVIOUT-ma

Microsoft PowerPoint - 第06章振幅変調.pptx

Microsoft PowerPoint 情報通信工学8章.ppt [互換モード]

050920_society_kmiz.odp

Microsoft PowerPoint - ⑥説明者(太刀川).ppt

<4D F736F F F696E74202D C092425F D8A7789EF89C88A778BB38EBA816A8C6791D CC82B582AD82DD2E >

局アンテナを用いることで, 通信の信頼性や通信速度の向上を実現する. 下り回線に適用する場合は送信電力の低減を可能とし, 上り回線に適用する場合は端末の消費電力を低減できる. さらに,Massive MIMO では指向性が非常に狭くなるため, 対象とするユーザ以外の干渉を自動的に回避できる効果を有す

まま送信する電気 OSDM-PON ( 図 2 (a)) から検討を始める. つづいて, 光信号を伝送する本来の光 OSDM-PON ( 図 2 (b)) の実現性の検討を行う. 本研究では, 検討の第 1 歩として, 次の条件でシミュレーションにより検討を行う. (1) 各ユーザ速度を 1 Gbp

エリクソンの5Gに対する展望と取り組み

インターリーブADCでのタイミングスキュー影響のデジタル補正技術

Microsoft Word - 02__⁄T_ŒÚ”�.doc

送信信号合成モジュール開発資料

通信概論2011第2-3週.ppt

Microsoft PowerPoint - ①無線通信システム概要12

Microsoft PowerPoint - 第08.1章DS-CDMA_原理.pptx

3. 測定方法 測定系統図 測定風景写真

PowerPoint プレゼンテーション

資料 ISDB-T SB 信号から FM 受信機への干渉実験結果 1 実験の目的および方法 実験の目的 90~108MHz 帯のISDB-T SB 信号からFM 放送波への影響について干渉実験を行う 実験方法 FM 放送波を 89.9MHz に ISDB-T SB 信号を 90~10

背景 オフィスや家庭での無線 LAN 利用に加えて スマートフォンの普及に伴い空港 駅や競技場 イベント会場におけるモバイルデータ オフロードが増えています さらに モノがインターネットにつながる IoT *2 (Internet of Things) などの進展によって 無線 LAN の通信量 (

航空無線航行システム (DME) 干渉検討イメージ DME:Distance Measuring Equipment( 距離測定装置 ) 960MHz から 1,215MHz までの周波数の電波を使用し 航空機において 当該航空機から地表の定点までの見通し距離を測定するための設備 SSR:Secon

SAP11_03

Microsoft Word _5G無線アクセス技術

PowerPoint プレゼンテーション

150MHz 帯デジタルデータ通信設備のキャリアセンスの技術的条件 ( 案 ) 資料 - 作 4-4

資料2-3 要求条件案.doc

UWB a) Accuracy of Relative Distance Measurement with Ultra Wideband System Yuichiro SHIMIZU a) and Yukitoshi SANADA (Ultra Wideband; UWB) UWB GHz DLL

本 文

出岡雅也 旭健作 鈴木秀和 渡邊晃 名城大学理工学部

通信理論

例 e 指数関数的に減衰する信号を h( a < + a a すると, それらのラプラス変換は, H ( ) { e } e インパルス応答が h( a < ( ただし a >, U( ) { } となるシステムにステップ信号 ( y( のラプラス変換 Y () は, Y ( ) H ( ) X (

PowerPoint プレゼンテーション

15群(○○○)-8編

第 4 週コンボリューションその 2, 正弦波による分解 教科書 p. 16~ 目標コンボリューションの演習. 正弦波による信号の分解の考え方の理解. 正弦波の複素表現を学ぶ. 演習問題 問 1. 以下の図にならって,1 と 2 の δ 関数を図示せよ δ (t) 2

Microsoft Word - H5-611 送信タイミング等.doc

ディジタル信号処理

スライド 1

Kumamoto University Center for Multimedia and Information Technologies Lab. 熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI 宮崎県美郷

1.千葉工業大学(長)修正版

untitled

Microsoft PowerPoint - aep_1.ppt [互換モード]

NIKKEI ELECTRONICS

PowerPoint プレゼンテーション

THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS TECHNICAL REPORT OF IEICE. UWB UWB

横浜市環境科学研究所

RLC 共振回路 概要 RLC 回路は, ラジオや通信工学, 発信器などに広く使われる. この回路の目的は, 特定の周波数のときに大きな電流を得ることである. 使い方には, 周波数を設定し外へ発する, 外部からの周波数に合わせて同調する, がある. このように, 周波数を扱うことから, 交流を考える

Presentation Title Arial 28pt Bold Agilent Blue

4 1 7 Ver.1/ MIMO MIMO Multiple Input Multiple Output MIMO = = MIMO LAN IEEE802.11n MIMO Alamouti STBC Space Time Block Code

untitled

線形システム応答 Linear System response

LTE移動通信システムのフィールドトライアル

ボンドグラフと熱伝導解析による EHA熱解析ツールの開発

生活の中の無線通信

Microsoft Word - MWE2009久保田 doc

討を行った.UWB MIMO 伝送方式の開発においては IR (Impulse Radio) 方式を用いた MIMO 伝送によるインプラント通信の伝送実験を行い, その特性評価を行う. UWB 帯パルスを用いた位置推定方式においては, パルスの到来時間を推定することによって送受信間距離を推定する方式

15群(○○○)-8編

2 1. LAN LAN Aug. 02, 2008 Copyright 2008 Niigata Internet SOCiety & I.Suzuki All Rights Reserved LAN LAN WLAN

電波法関係審査基準 ( 平成 13 年 1 月 6 日総務省訓令第 67 号 ) の一部を改正する訓令案新旧対照表 ( 下線部は変更箇所を示す ) 改正案 現行 別紙 2 ( 第 5 条関係 ) 無線局の目的別審査基準 別紙 2 ( 第 5 条関係 ) 無線局の目的別審査基準 第 1 ( 略 ) 第

技術協会STD紹介

Keysight Technologies LTE規格に準拠したトランスミッタのACLR測定

改訂版のまえがき 著者は,1990 年代はじめ, それまで行っていた衛星通信の研究から, 地上系移動通信の研究にテーマを変えた 移動通信の研究開発そのものは, 先達の 研究によってすでに高度なレベルに進んでいたので, 後入りには後入りのやり 方でこの分野に入り込みたいと思った そこで, 当時の学術論

Microsoft PowerPoint - H22制御工学I-10回.ppt

Microsoft PowerPoint - Main1996

資料 2028-AHG-3-2 情報通信審議会情報通信技術分科会公共無線システム委員会技術的条件作業班既存放送業務との検討アドホックグループ 検討用資料 平成 21 年 12 月 9 日 1

画像処理工学

はじめに

PowerPoint Presentation

反射係数

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - 受信機.ppt[読み取り専用]

画像解析論(2) 講義内容

遅延デジタルフィルタの分散型積和演算回路を用いたFPGA実装の検討

第3回卒業論文進捗報告

2004年度情報科学科卒論アブスト テンプレート

Distributed Communication Timing Control for Sensor Network

15群(○○○)-8編

高速バックボーンネットワークにおける公平性を考慮した階層化パケットスケジューリング方式

スマートメーター通信機能基本仕様に対する意見 について Ⅲ. 無線マルチホップネットワークのシステム概要 Ⅲ- 3. 通信ユニット概要ハードウェアアンテナについて 平成 24 年 4 月 20 日 三菱マテリアル株式会社電子材料事業カンパニーセラミックス工場電子デバイス開発センター 1

第1種映像伝送サービスの技術参考資料

PowerPoint プレゼンテーション

スライド 1

No89 地上デジタル放送受信機(その1・概説)

他無線システムとの干渉検討とラボ内試験の実施方法について

新技術説明会 様式例

電気通信事業法の技術基準 1( 端末設備 ) ( 目的 ) 第一条この法律は 電気通信事業の公共性にかんがみ その運営を適正かつ合理的なものとするとともに その公正な競争を促進することにより 電気通信役務の円滑な提供を確保するとともにその利用者の利益を保護し もつて電気通信の健全な発達及び国民の利便

<4D F736F F F696E74202D208FEE95F18F88979D8D488A A2E B8CDD8AB B83685D>

日立コミュニケーションテクノロジーとアルバリオン社がモバイルWiMAXシステムを共同開発―広帯域移動無線アクセスシステム分野で戦略的なパートナーシップ関係を確立―

Microsoft Word - SPARQアプリケーションノートGating_3.docx

Microsoft PowerPoint - chapter6_2013.ppt [互換モード]

format

Microsoft PowerPoint - machida0206

マスターからスレーブと スレーブからマスターへの 2 つの経路について時間差を計算する必要があります まずマスターからスレーブへの経路について時刻の差を算出します : 最初のタイムスタンプは T1 です マスターが Sync メッセージを送信した正確な時刻であり Sync メッセージがイーサネットポ

スペクトルに対応する英語はスペクトラム(spectrum)です

5GHz 作 15-4 DFS 試験時の通信負荷条件定義について 2019 年 3 月 1 日 NTT 東芝 クアルコムジャパン 1

Microsoft PowerPoint B_AP件歴史講演.pptx

Microsoft PowerPoint - spe1_handout10.ppt

Transcription:

4 群 ( モバイル 無線 )- 1 編 ( 無線通信基礎 ) 6 章ダイバーシチ技術 概要 無線伝搬路は一般に, 複数の経路からなるマルチパス伝搬路であり, 定在波が発生する. このため, 受信レベルが頻繁に落ち込むフェージングという現象が発生し, 無線通信の伝送特性を著しく劣化させる. この劣化を補償する技術の一つとして, ダイバーシチ技術があげられる. ダイバーシチとは, 複数の互いに相関の低い受信波を得て, これらの受信波を合成もしくは選択することにより, 受信レベルの落込みを軽減する方法である. すべての受信波のレベルが同時に落ち込む確率は, 一つの受信波のレベルが落ち込む確率よりも低くなるという原理に基づいている. 受信波間の相関が高くなると, この確率低減の効果が失われるので, ダイバーシチにおいては, いかに相関の低い複数の受信波を得るかが重要な課題となってくる. 本章の構成 本章の構成は, まず 6-1 節において, 相関の低い複数の受信波を得るブランチ構成法を説明する. 次に 6-2 節において, 受信波を選択もしくは合成するダイバーシチ合成法について述べ,6-3 節において DS-CDMA(Direct Spread Code Division Multiple Access) 方式で用いられているダイバーシチ技術について詳述する. 最後に 6-4 節において, ユーザ間で伝搬特性が独立に変動することに基づくマルチユーザダイバーシチについて解説する. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 1/(9)

4 群 - 1 編 - 6 章 6-1 ブランチ構成法 複数の相関の低い受信波を得るために, 空間, 偏波, 角度, 周波数及び時間の違いを利用する方法がある. これらのブランチ構成法をブランチ数 2 の場合を例に図 6 1 に示す 1). 図 6 1 ブランチ構成法 1. 空間ダイバーシチ : 空間的に十分離した複数の受信アンテナを用いる方法であり, 移動局受信の場合には, アンテナ間隔を半波長程度離せば無相関に近い受信波を得ることができる. 一方, 基地局受信の場合には, 移動局受信と異なり受信波の到来角の広がりが数度と小さいために, アンテナ間隔を十波長程度離す必要がある. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 2/(9)

2. 偏波ダイバーシチ : 垂直及び水平偏波をそれぞれ受信する 2 本のアンテナを用いる方法であり, 空間ダイバーシチのように受信アンテナを空間的に離す必要はないが, ブランチ数は最大 2 までしかとれない. 近年, アンテナ間隔を広げずに済むことから,MIMO (Multiple Input Multiple Output) 伝送などへの適用が検討されている. 3. 角度ダイバーシチ : 指向性の異なる複数の受信アンテナを用いる方法であり, 受信波の到来角が十分広がっている場合に適している. 4. 周波数ダイバーシチ : 同一信号を複数の異なる周波数で送信する方法で, 狭帯域信号の場合には複数のキャリア周波数を用いて送信し, 受信側ではこのキャリア周波数に対応したバンドパス フィルタを用いて信号を分離抽出する. 一方, 広帯域信号の場合には複数のキャリア周波数を用いる必要はなく, 等化器などの受信手段で周波数ダイバーシチ効果が得られる. 5. 時間ダイバーシチ : 同一信号を時間間隔をおいて複数回送信する方法で, 伝送路のインパルス応答が時間変動する場合に効果的である. 誤り検出された場合に再送を行う ARQ (Automatic repeat request) は, この時間ダイバーシチの一種であり, 異なる符号化を施した信号を再送し, 複数の受信信号を用いて復号する HARQ(Hybrid ARQ) が第 3.5 世代携帯電話方式 HSDPA(High Speed Downlink Packet Access) へ導入されている. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 3/(9)

4 群 - 1 編 - 6 章 6-2 ダイバーシチ合成 複数の相関の低い受信波が得られた後, これらの受信波を合成する基本的な方法として, 選択合成法, 等利得合成法, 最大比合成法がある. これらの構成を図 6 2 に示す. 図 6 2 ダイバーシチ合成 選択合成法は, 複数の受信波の内, 最大の信号対雑音比 (SNR: Signal to Noise Ratio) を有する受信波を選択する方法である. しかしながら, すべての受信波を用いて合成すれば,SNR をより改善することができる. 等利得合成法と最大比合成法は, この種の合成を行う. 等利得合成法は, すべての受信波の位相が同位相になるよう位相調整して合成する. このように合成すれば, 受信波は互いに打ち消し合うことなく,SNR を選択合成法よりも増加させることができる. 最大比合成法は, すべての受信波の位相が同位相になるよう位相調整した後, 合成波の SNR が最大となるように, 各受信波にその包絡線を乗算して合成する. このとき, 合成波の SNR は各受信波の SNR の和となることが知られている. このように, 最大比合成法は SNR を最大にする合成法であり, 等利得合成法よりも SNR を改善できる.3 種の合成法の中で信号処理が一番複雑となるが, 近年の LSI 技術の進歩によりハードウェアでの実現が容易となっている. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 4/(9)

4 群 - 1 編 - 6 章 6-3 DS-CDMA のダイバーシチ技術 第 3 世代携帯電話方式の多元接続として DS-CDMA が採用されている.DS-CDMA においては, 複数のユーザが同一周波数帯域を同時に使用するが, ユーザごとに異なる拡散符号が割り振られ, 拡散符号の違いにより個々のユーザの識別を行っている.DS-CDMA の送信機では, この拡散符号を狭帯域のベースバンド信号に乗算することで, 広帯域の送信信号を生成している. なお, 拡散符号の自己相関関数は通常, 時間差が 0 のとき鋭いピークが現れる. 6-3-1 RAKE 合成 RAKE 合成は DS-CDMA の受信方法であり, 詳細を以下で説明する. なお,RAKE とは熊手を意味する. まず受信機では, 元のベースバンド信号を抽出するために, 相関器により受信信号と拡散符号の相関を求める. この操作を逆拡散という. 無線伝搬路は図 6 3(a) に示すように, 遅延時間の異なる複数の経路 ( パス ) からなり, ここでは 3 パスの場合を考え, パス i (=1, 2, 3) の遅延時間はτ i とする. このとき, 拡散符号の自己相関関数が鋭いピークをもつため, 相関器出力の時系列は図 6 3(b) に示すように, パスの遅延時間に対応して三つのピークが現れる. 図 6 4 に示す RAKE 受信機は, 最初に, この相関器出力のピーク値を取り出す. 次に, パスの複素包絡線を推定し, その推定値の複素共役をピーク値に乗算し足し合わせる. この操作は, パスに対応する相関器出力のピーク値を, 同一位相になるよう位相調整した後, パスの包絡線を乗算して合成しているので, 最大比合成に相当する. このように RAKE 合成は, 無線伝搬路の複数のパスを分離抽出して最大比合成を行っているので, パスダイバーシチ効果が得られ, フェージングによる受信レベルの落ち込みやフェージング変動を軽減できる. 図 6 3 遅延分散 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 5/(9)

図 6 4 RAKE 受信機の構成 6-3-2 ルートダイバーシチ DS-CDMA に基づくセルラ方式では, 全セルで同一周波数帯域を用いて通信を行う. このため, 図 6 5 に示すように複数の基地局からの信号を移動局で受信したり, 逆に移動局からの信号を複数の基地局で受信できる 2). これをルートダイバーシチという. 図 6 5 ルートダイバーシチの原理 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 6/(9)

下り回線において, セル境界にいる移動局は複数の基地局からの信号を受信でき, これらの信号を最大比合成すれば,SNR が増加し下り回線の伝送特性を改善できる. 更に, 移動局がセル間を移動中の場合には, 通信先の基地局を変更しなければならないが, 使用している通信チャネルを解放する前に, 移る先 ( ハンドオーバ先 ) の基地局との通信チャネルを設定できる. これをソフトハンドオーバという. なお,TDMA(Time Division Multiple Access) や FDMA(Frequency Division Multiple Access) に基づくセルラ方式では, 使用している通信チャネルを解放した後に, ハンドオーバ先の通信チャネルを設定しており, 通信が途絶え瞬断を引き起こしていた. このようなハードハンドオーバに対し, ソフトハンドオーバではハンドオーバ処理時の瞬断は発生しない. 一方, 上り回線において, 移動局からの信号を受信する複数の基地局は, 受信データに加えて, 受信信号の信頼度に関する情報, 例えば CRC(Cyclic Redundancy Check) のチェック電子結果や受信 SINR(Signal to Interference and Noise Ratio) を合わせて RNC(Radio Network Controller) に送る.RNC は, 複数の基地局から送られた受信データの中から, 信頼度の最も高い受信データを選択する. すなわち, 選択合成を行い, 合成後のデータを上位局へ伝送する. 6-3-3 送信ダイバーシチ送信ダイバーシチとは, 基地局が複数のアンテナを用いて送信する技術である. 移動局の受信アンテナ数を増やさずに済むため, 移動機の回路規模と消費電力を抑えつつ, ダイバーシチ効果を得ることができる.DS-CDMA セルラ方式である W-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access) では, 大別してオープンループモードとフィードバックモードの二種類の送信ダイバーシチを用いている. (1) オープンループモードオープンループモードとは, 移動機からのフィードバック情報を必要としない送信ダイバーシチであり,STTD(Space Time block coding based Transmit Diversity) と TSTD(Time Switched Transmit Diversity) がある. STTD はアラモウチ (Alamouti) が提案した STBC(Space Time Block Code) 3) と等価であり, その構成を図 6 6 に示す.2 シンボルの S 1 と S 2 を送信するとき,2 シンボル長の時間間隔で, 基地局送信アンテナ 1 から S 1, S 2 の順番で送信し, 基地局送信アンテナ 2 からは-S* 1, S* 2 の順番で送信する. なお, は複素共役を表す. このように送信すると, 移動機の受信アンテナは 1 本にもかかわらず,2 ブランチの最大比合成と同等のダイバーシチ効果が得られる. なお, この 2 ブランチは, 基地局アンテナ 1 から移動局アンテナまでの経路と, 基地局アンテナ 2 から移動局アンテナまでの経路に対応している. 図 6 6 STTD の構成 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 7/(9)

TSTD は基地局が送信アンテナを周期的に切り替える方式で, 同時刻では一つの送信アンテナのみが選択されている. 移動局では, 複数の異なる経路を通った信号が受信されるので, ダイバーシチ効果が得られる. そのほかに,W-CDMA で採用されていないが, 送信アンテナごとに同一信号を異なる遅延時間で遅延させて送信する送信ダイバーシチがある. これは遅延送信ダイバーシチとも呼ばれ 4), その構成を図 6 7 に示す. このような送信を行うと, 長い遅延時間を有するパスを恣意的に発生させることができ, 受信側でパスダイバーシチの効果が期待できる.CDTD(Cyclic Delay Transmit Diversity) は, アンテナごとに異なる循環遅延を与える遅延送信ダイバーシチであり, 次世代携帯電話方式への導入が検討されている. 図 6 7 遅延送信ダイバーシチの構成 (2) フィードバックモードフィードバックモードは, 移動局からのフィードバック情報を用いて, 送信信号の振幅や位相を制御する方法である. この位相や振幅は, 移動局の受信アンテナにおいて送信信号が最適に合成されるように制御される. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 8/(9)

4 群 - 1 編 - 6 章 6-4 マルチユーザダイバーシチ 一つの通信チャネルを, 複数のユーザの中から 1 ユーザを選択し割り当てる問題を考える. 個々のユーザが通信チャネルを用いたとき, 伝送路のインパルス応答はユーザごとに独立に変動するものとし, そのときの伝送品質, 例えば SNR の情報は制御系で完全に得られるものと仮定する. このとき,SNR が最大となるユーザに通信チャネルを割り当てれば, 通信システム全体の通信路容量, すなわちスループットを最大にできる. これをマルチユーザダイバーシチという 5). 上記のように SNR が最大となるユーザに常に割り当てると, スループットを最大にすることができるが, 基地局に近いユーザにのみ通信チャネルが割り当てられ, 基地局から遠い場所にいるユーザには通信する機会が与えられないという問題が発生する. このユーザ間の不公平性の問題を解決するため,PR(Proportional Fairness) などのスケジューリング アルゴリズムが検討されている.PR は, 時刻 t の有限時間平均 SNR T(t) に対する瞬時 SNR R(t) の比, すなわち R(t)/T(t) を選択基準とし, この比が最大となるユーザへ時刻 t の通信チャネルを割り当てる. このようにすると, ある時刻に瞬時 SNR が平均値に較べて高くなるユーザへ通信チャネルが割り当てられ, 基地局から遠い場所にいるユーザにも通信機会が与えられるので, 不公平性の問題が緩和される. しかしながら, ユーザ間の公平性を保つため, 通信システム全体のスループットは最大値に較べ若干劣化する. 参考文献 1) 奥村善久, 進士昌明監修, 移動通信の基礎, 第 7 章, 電子情報通信学会,1986. 2) 木下耕太著, やさしい IMT-2000- 第 3 世代移動通信方式 -, 第 3 章, 電気通信協会, オーム社, 2001. 3) S.M. Alamouti, A simple transmit diversity technique for wireless communications, IEEE Journal on Selected Areas in Communications, vol.16, no.8, pp.1451-1458, Oct. 1998. 4) H. Suzuki, Performance of a new adaptive diversity equalization for digital mobile radio, Electronics Lett., vol.26, no.10, pp.626-627, May 1990. 5) P. Viswanath, D.N.C. Tse, and R. Laroia, Opportunistic beamforming using dumb antennas, IEEE Trans. Inf. Theory, vol.48, no.6, pp.1277-1294, June 2002. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 9/(9)