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Transcription:

20. ミュンヘン国際空港の地下水対策 (1) はじめにミュンヘン (München) はドイツ南部の都市でアルプス山脈の北麓に位置し バイエルン州の州都である 今回の話題にとりあげたミュンヘン国際空港はここから北東約 28km のところに位置する なおミュンヘン空港の正式名は Flughafen München Franz Josef Strauß( フランツ ヨーゼフ シュトラウス空港 ) で ドイツでは 2 番目 ヨーロッパでは7 番目に旅客が多い空港である 1955 年に旧ミュンヘン リエム空港の拡張が計画されたが 1960 年に発生した航空機事故 ミュンヘン空港ミュンヘン市 図 1 ミュンヘン空港の位置 により 多くの犠牲者を出したことから新空港を郊外に建設する必要性が高まった 1963 年に 新空港立地調査委員会 が発足し 3 年後の 1966 年に新空港の適地として 一旦ミュンヘン市の南にある Hofoldinger Forst が選定されたが 1969 年にこれが変更され 最終的に Erding-Nord が選定された この地域は湿地帯 ( 図 2) が広く分布していて空港建設にはこの浅いところにある地下水対策に加えて周辺地域の水環境保 全対策が重要な課題であった 建設開始までに 17 年を要し さらに操業が始まった 1992 年までに 30 年を要したのはこのような問題も大きく関わっていたものと思われる 図 2 Erdinger Moos ( 湿地帯 ) Erdinger Moos の景観

さて もうだいぶ前の話になるが 1995 年 10 月に財団法人北海道河川防災研究センターの企画による ドイツ オランダにおける水環境保全対策の視察団に加えていたき この地を訪れる機会を得た ドイツでは ライン マイン ドナウ運河 と ミュンヘン国際空港 の環境対策が視察の主な対象になった 環境に配慮して設計された空港建物そのものにも目が惹かれたが 空港とそれをとりまく周辺部との一体化を考慮した広い緑地帯の配置や その各所に設けられたビオトープはわが国の空港環境の遠く及ばない雰囲気が感じられた 今回はそれらの中から地下水対策について紹介する 空港周辺の緑地帯 空港周辺 ( 北側 ) のビオトープ 表層土 不圧地下水 ( 第四紀層 ) 賦圧層 被圧地下水 ( 第三紀層 ) 図 5 空港付近の地質概念 (2) Erdinger Moos の周辺この地方はアルプス造山運動最末期のモラッセ層 ( 造山運動の最盛期に拡大した急峻山地の周辺部に堆積した砂礫相の厚い地層 ) が広く かつ厚く堆積していて その上部を更新世の氷河堆積物が覆い ミュンヘン砂礫平原をつくっている ( 図 3) ミュンヘン空港はこの砂礫平原の北のはずれにあたり アルプス山脈から流れ出すイザール川などの大小河川が合流してつくる湿地帯 すなわち Erdinger Moos の地に計画された なおこの地方は第四紀氷期の編年の模式地になっており ミュンヘンの郊外には ウルム氷期 の名のもとになった Würm 川が流れている ( 図 4) 氷河堆積物の厚さはアルプス山脈の麓では 90mほどの厚さを有するが 空港付近では 10m 前後と薄くなり その上位を腐植質土が覆っている ( 図 5)

6 ミュンヘン空港 くう ミュンヘン砂礫平原 ( ウルム氷期堆積物 ) 図 3 ミュンヘン地域の地質図 この砂礫平原を構成する氷河堆積物は不圧地下水を存在させ 下位の第三紀層 ( モラッセ層 ) はその上部の粘性土層を賦圧層とした被圧地下水を存在させている その水質は一般に良質なため 地域市町村の水道水源として広く利用されている 砂礫平原の北縁に近い空港付近では不圧地下水面の位置は地表に近く 自然状態で地表下 1~2mの間を変動している なお被圧性を示す第三紀層の地下水位は不圧地下水面よりやや高いところにある 第四紀層中の不圧地下水の流れは地表の水系と同じく北東方向で その流速は 2~5 m/day である また透水係数は 5 10-3 m/sec である

(3) 空港周辺の水環境 Erdinger Moos はその名のとおり元々湿地帯であり これを耕作可能な土地にするためには地下水位を下げる必要があった この地域に網目のように張り巡らされた排水路は 地域の農民によって永い時間を掛けてつくりあげられてきたものである その他にも湧水を水源とする自然河川が多く見られる ( 図 4,6) 空港建設に際してはこれらの水流を敷地外に迂回させたり 暗渠を設ける必要があったが ( 図 7) 同時にその水環境に影響が及ぶのを避けることも求められた 例えば空港建設をめぐっては 5,000 件を超える訴訟が起こったが その中には地下水への影響問題も含まれている 造成面積が当初の計画だった 2,300ha から 1,500ha に縮小される一方 敷地外に 450ha のビオトープが買収されたのもこのような背景によるものである Erdinger Moos 図 4 イザール川流域

1111111111111111111111 Erdinger Moos の自然河川 5k 図 6 空港建設前の水系 アルプス山脈に水源を持つ Isar 川 Isal Kanal 図 7 空港建設に伴う水系の改変 図 7 空港建設によって改変された水系 空港西側に設けられた Ludwigs Kanal

(4) 地下水対策地下水面が浅いと言うことはこの空港にとっては大きな障害となった すなわち滑走路 誘導路 エプロンでの凍結や 降霜 結氷 霧などが発生しやすくなるためである このため 空港の北側と南側に地下水の流動方向を斜めに切るかたちに 2 本の排水路が設けられた この排水路は空港中央部の地下水面が空港敷地内の凍結深度とされる 1m より浅くはならないように設計された 図 8 はその概念図であり 図 9 は排水路の位置である 排水路は写真にあるように規模が大きく 空港の景観によくとけ込んでいるように見える 図 8 ミュンヘン空港における地下水面の制御と涵養システム 図 9 には夏期の地下水面も示されているが 地下水はこの地域の水系と同じように北東に向かって流れており 動水勾配は約 2% でかなり大きいと言える また図 10 はこの排水システムによって制御された冬期 ( 高水位期 ) の地下水位低下量の分布であるが 空港施設部分での水位低下は計画どおりに再現されている このような効果が得られる一方で 下流地域 ( 北側 ) ではこのシステムによる影響を抑えることも求められた すなわち地下水位低下による生態系への影響や水道水源として広く利用されている水質の良い下位の第三紀層中の地下水への影響の回避である そこで一旦排出された水をもとに戻すための浸透プラントも空港敷地の北側境界部に建設された このプラントは 120~450l/sec の能力を有する1 機のポンプステーションと 水を

均等に導くための全長 5km の配管 ( 図 11,12) に沿って並ぶ 44 ヵ所の浸透シャフト ( 図 13) 及び浸透シャフト毎に連結された 3 本の還元井 ( 総数 132 本 ) から成っている 図 9 排水路の位置と夏期における地下水面図 排水路 排水路の位置 図 10 制御された冬期 ( 高水位期 ) の地下水位低下量の分布

浸透ライン ポンプステーション ポンプステーション 水位低下ゾーンから排出された地下水 は一旦貯水池に集められ 簡易処理さ 図 11 地下水位低下ゾーン ( 黄線 ) と浸透ライン ( 青線 ) れたのち ポンプステーションに送ら れる 図 12 空港敷地北側境界に設けられた浸透プラント 還元井の深度はこの辺りの第四紀層が約 10mの厚さを有することから 10mに統一された また掘削口径はいずれも 350mm ケーシング径は 150mm である その差にあたる 200 分のスペースにはフィルター材として礫が充填されている ( 図 14) なおケーシングにはポリ塩化ビニール管が使用されており その最下部は閉塞されている 地下水の人工涵養においてしばしば遭遇する問題は還元井の目詰まりである 特にこのあたりの地下水は微粒物質を多く含んでおり また鉄分も多く含まれているため 目詰まり対策には苦慮しているようである

地下水 還元井の口元 図 13 浸透シャフト 浸透シャフトの内部 各シャフトには 3 本の還元井が連結されている 還元井のスクリーン 図 14 還元井の構造

管内に付着したスケール 左の写真はケーシング内部の様子で 浮遊物の付着や 鉄バクテリアによるスケールが当初 1 年程度だったものが 6,7 年後には 3~4 週間といった短い時間で形成されるようになってきているとのことである したがって井戸の再生作業もその間隔で行わなければならない また時には井戸の掘り直しの必要も生じる 浚渫作業は次のようにして行われる まず図 15 にあるような 錘をつけたブラシをゆっくりと孔底まで降ろし その後これを 勢いよく引き上げて地下水を呼び込むとともにスケールを剥ぎ取り 分散させるといった作業が繰り返される いわゆるサージングである その後 図 16 の揚水装置をスクリーン部分に挿入して地下水を揚水し 洗浄が行われる 図 15 管内浚渫装置 図 16 揚水装置 以上に述べてきた地下水対策の効果を確認するための観測井は空港敷地内外の 250 ヵ所に設置されており 1974 年以来観測が続けられている また地下水の水質に関するモニタリングは 15 ヵ所のポイントにおいて年 4 回行われていて年報として公表され

ている そしてもし何らかのアクシデントが生じた場合にはこれらのシステムは外部と完全に遮断されるようになっている (5) おわりに筆者らが訪問したのは 1992 年の空港操業開始後 3 年後のことであり それからもう 10 年以上になる 当時から課題になっていた地下水涵養施設の機能低下は一番気になる点である 関係情報を得ようとしたが 2005 年版の空港環境報告中の Water management の項で 地下水の定期観測によればその収支には異常は認められない とだけ触れられているのみである 今のところそれ以外の情報は得ていない この話題をまとめるに際して 多くの資料を参考にさせていただいたが とりわけ視察の折りに頂いた空港のパンフレットや関係者からの説明と資料を多く参考にさせていただいた ここに土木技術水管理局の Helmut Hofstetter 氏から説明をいただいている際の写真をあげて感謝の気持ちとしたい 注 ) 本文中の図類はビデオテープから起こ したものが多く 一部に図化しにくい箇所 Helmut Hofstetter 氏と筆者 や判読出来なかった部分もある その際は 筆者の知見に照らして加筆したところも ある