2017 年 8 月 JETRO ジャカルタ事務所作成 インドネシアにおける FIT 制度について 1. 序論 インドネシアにおける電力事業は基本的に国営企業の一つである PLN( インドネシア国有電力会社 ) のみが可能であり IPP 事業者は PLN との間で売電契約を結ぶことにより収益を得て 発電所の建設や運転資金を賄うことになる この売電価格は政府承認の基エネルギー鉱山資源省によって決められている PLN の収入は売電収入となるが 民間に対して低く抑えられた電力料金により慢性的な赤字になっているため IPP 事業者への支払いを含む発電コストを補てんするための公的補助金を 10 年以上にわたり受けている 国家発展にかかわる重要インフラの一つである電力は根本的に不足しており 2019 年完成予定の 35GW 増強計画があるものの 予定期間での実現はかなり難しくなっている 発電 送電事業コストは政府と PLN 独自の資金では当然不足しており JICA などの ODA2 国間援助や多国間援助資金と共に 民間による IPP 事業に頼るところが大きくなっている IPP 事業促進の意向もあり FIT(Feed In Tariff/ 固定価格買取り ) 制度を設けて 売電価格を高めに設定することで再生可能エネルギーの開発を促している また IPP 事業開発のための膨大な数の許認可も 2015 年に BKPM( 投資調整庁 ) に集約され 簡素化が図られるとともに各税金面での優遇処置がとられてきている 2. FIT 制度の買取り価格 インドネシアは住民が居住している島だけでも 5000 以上もある ( これが電力事業者にとっての分散化電源供給という 他国と異なる大きな問題の一つでもある ) ため 地理的条件から各々の発電コストは大きく異なってくる 従って政府が制定する発電コスト ( 最新平均で約 7.39 セント /kwh) も地域ごとに大きく異なり 2 倍以上の差がある 買取り価格を含む FIT 制度に関する記載のある条例 ( エネルギー鉱物資源大臣規則 ) の主なものだけでも以下の通りとなっており 今年に入ってからも数カ月おきに修正されているのが現状である エネルギー鉱物資源大臣規則 2015 年 No.44 2016 年 No.21 2017 年 No.12, 43, 47( 水力関連 ), 50( 手続き関連 ) 禁無断転載 1
最新条例価格 2017 年 No.12 から 最新の買い取り価格は再可能エネルギーの種類ごとに以下の通りなる Regulation of the MEMR ( エネルギー鉱山資源省 /Minister of Energy and Mineral Resources) Kind of EBT Tariff/ Rate Conditions PLTS 85% BPP local (max) BPP Local > BPP National PLTB 85% BPP local (max) BPP Local > BPP National PLTA <10 MW BPP local (max) BPP Local > BPP National PLTBm 85% BPP local (max) BPP Local > BPP National PLTBg 85% BPP local (max) BPP Local > BPP National PLTSa BPP local (max) BPP Local > BPP National PLTP BPP local (max) BPP Local > BPP National PLTA Laut 85% BPP local (max) BPP Local > BPP National ( 注 ) EBT PLTS PLTB : Renewable Energy : Solar power plant : Wind power plant PLTA <10 MW : Small Hydro power plant( 小水力 ) PLTM<1MW : Micro Hydro power plant( マイクロ水力 ) PLTBm PLTBg : Biomass power plant : Biogas power plant PLTSa : Waste power plant( ごみ処理発電 ) PLTP PLTA Laut BPP : Geo thermal power plant : Sea water Power Plant :Cost of Production (Local BPP and the national average BPP in the previous year as determined by the Minister based on the proposal of PT PLN) 禁無断転載 2
以下に同じく地域ごと 発電種類の発電コストグラフ化を示す 太陽光 風力 バイオマス バイオガス 潮流発電 ( セント USD/kWh) 水力 ごみ処理発電 地熱発電 ( セント USD/kWh) ( 出所 ) エネルギー鉱物資源省プレゼン資料 (2017 年 8 月 ) より作成 禁無断転載 3
水力 ごみ処理発電 地熱発電については 比較的開発の進んでいる場所における価格 ( グラフ左側 ) は 関係者間での話し合いにて決定する 一方 それ以外の地域における 10MW 以下の小水力 地熱 ごみ処理発電については 100% 価格で買い取る 他方 太陽光 風力 バイオマス バイオガス 潮流発電については 発電コスト ( 建設 運転 ) が制定された国の発電コストを上回れば 制定されたコストの 85% でしか買い取ってもらえない という事は 建設コストの低い非常に優良な案件以外にしか 投資家は開発に興味を示さないことになると予測される なお ほぼ同じ制度を採用している他国 ( 日本 中国 英国 フランス ) の場合 買取り価格が発電コストを上回っている 私見ではあるが 買い取り価格を高く設定した場合 政府が後押ししたとしても PLN は支払額が増えるためなかなか契約をしようとしない よって低く設定することにより PLN の契約件数を増やす意図があると思われる エネルギー鉱物資源省のプレゼン資料によると 2017 年 No.12 のあと 8 月 10 日時点ですでに 64 件の売電価格が 14 の地域で合意されている なお PLN のプレゼン資料によると 地熱発電においては炭鉱掘削後発電の見込みが明確になったもの との記載がある 試掘前の計画段階で PLN と合意できるのかどうか問題となる可能性が高い 3. FIT 制度買取り期間 2017 年 8 月時点における PLN の資料によれば PLN との売電 買取り期間は以下の通りとなる * 太陽光 バイオマス バイオガス マイクロ水力 * 小水力 * 地熱発電 :25 年間 :30 年間 :30 年間 今回の制度発祥以前では お互いの合意により買取り期間をさらに延長 ( たとえば 2 年プラス ) 出来る 形であったが 買取り期間はすべからず 30 年を超えないとしている しかしながらインドネシアの習慣 上からも何らかの理由を付けて延長できる可能性もあると考えられる BOT(Built Operate Transfer) 契約においては 買取り期間を過ぎた場合 PLN 側に移管する必要があ る 一方で 今回の制度以前に契約されたもの ( たとえば BOO 契約 ) に対してどうなるのか? という点 においては 記載が無いため今度の省令を待つかお互いの合意によるものと思われる 4. FIT 制度のインセンティブ 2010 年 No.94 において税務関連優遇処置の記載があったが これは再生可能エネルギー事業者に対す るものと明確になっておらず 2011 年に発行された大統領令 No.52 に以下の通り変更されている 禁無断転載 4
*6 年間にわたり所得税が 30% 減額される * 固定資産の原価償却期間が加速される * 外国投資家に対する所得税 ( 投資配当金に対する ) は 10% までとする * 損失補てん ( 事業が赤字の場合の ) 期間は 5 年以上 10 年以内とする また 2006 年 No.17 にて外国からの機材輸入に関する関税の免除が記載されている ただし インドネシア国内で製造されていないものであるとか 建設にかかわる建機や資材は免税対象であるが 実際の発電にかかわる機材は免税とならないなど明確になっていない点もある その後きちんとした記載のある変更省令は見当たらないが 現時点で内容変更を検討中との情報があり 近日新たな省令が発行されるものと思われる 一方で PLN 資料および 2017 年 No.12 によれば 契約した運転開始日を短縮できた場合 PLN との間で合意すればインセンティブが得られる また逆に運開日が遅延した場合は 契約に基づき LD(Liquidated Damage: 罰金とは異なり想定 確定損失分の補てん ) の支払いが要求されるのは 他の一般の契約でも同様である また Force Majeure が生じた場合や 何らかの事由により発電が出来なくなった場合当の取り扱いについても記載がある 5. さいごに インフラ関連の省令のみならず 各種一般法例もたびたび改訂されることが多い当地においては FIT 関連制度も様子を見つつ変わっていくのが現状である よって上記した関連情報についてはすぐに変更となる可能性が非常高いため 都度関係者と確認する必要がある また当地独自の慣習からも協議の上決める と言うような表現が多々見られることから 実施 遂行にあたっては十分な調整が必要となる 関係者も省令等の改正を良く知らない場合もあるので注意が必要である ただし 当然ながら新たな省令が発行された場合でも既契約 合意済の価格 期間 インセンティブ条件等は変更されないとしている また現政府の基本方針である地方の活性化を考えれば 西ジャワや大都市付近への優遇策は厳しくなる一方で 未開発地域への優遇策はますます進んでいくものと思われる 以 上 禁無断転載 5
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