2016 年 12 月 19 日 17 時 ~ 記者レクチャー @ 文部科学省 細胞死を司る カルシウム動態の制御機構を解明 - アービット (IRBIT) が小胞体ーミトコンドリア間の Ca 2+ の移動を制御 -
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アポトーシス : プログラムされた細胞死多細胞生物にみられる細胞の死に方の一つ 不要になった細胞や損傷を受けた細胞が積極的に自滅して個体を健全な状態に保つメカニズム 胎児の手の水かき 両生類の尾の退化 神経回路網の形成等虚血 酸化ストレス 感染 DNA 損傷などの外界ストレスによる細胞死 アポトーシスの異常 癌化 形態形成異常 神経発達障害 2
小胞体からミトコンドリアへの過剰量の Ca 2+ 流入がアポトーシスを引き起こす 小胞体 Ca 2+ 貯蔵タンパク合成 小胞体ーミトコンドリア接触部位 細胞ストレス Ca 2+ ミトコンドリア 過剰な Ca 2+ 移動 小胞体 核 細胞 ミトコンドリア機能障害 ミトコンドリア エネルギー産生 細胞死誘導因子の放出 細胞死 3
イノシトール三リン酸受容体 () 小胞体の膜上にあるカルシウムチャネル (Ca 2+ の通り道となるタンパク質 ) アービット (IRBIT) に結合し 通常はその活性を抑制しているタンパク質 Ca 2+ イノシトール三リン酸受容体 () P アービット IP 3 小胞体 (Ca 2+ 貯蔵庫 ) Ca 2+Ca2+ Ca 2+ Ca2+ Ca 2+ Ca2+ Ca2+ Ca 2+ Ca 2+ Ca2+ Ca 2+ Ca 2+ Ca 2+Ca2+ 4
Bcl-2 ファミリータンパク質 アポトーシスを制御するタンパク質群 約 20 種類存在する ミトコンドリアからの細胞死誘導因子の放出を制御する アポトーシスを誘導するグループと抑制するグループに分類される ミトコンドリア Bcl-2 ファミリー アポトーシス促進 Bax, Bad など アポトーシス抑制 Bcl-2, Bcl-xL, Bcl2l10 など 細胞死 細胞死誘導因子 5
研究目的 アポトーシスの分子機構を明らかにするために 小胞体 - ミトコンドリア間の Ca 2+ の動きと それを制御するアービットと Bcl2l10 の役割を解析した 6
Bcl2l10 とアービットは共に に結合して そのカルシウム放出活性を抑制する 細胞質のカルシウム濃度 刺激 コントロール Bcl2l10 アービット Bcl2l10 + アービット Ca 2+ Ca 2+ Bcl2l10 アービット P Ca Ca 2+ Ca Ca 2+ 2+ 2+ Ca2+ Ca2+ 時間 ( 秒 ) のカルシウム放出活性を測定した Bcl2l10( 赤 ) あるいはアービット ( 黄 ) を過剰発現させると 活性が抑制された Bcl2l10とアービットの両方 ( 緑 ) を過剰発現させると 活性がさらに抑制された 7
アービット欠損細胞はアポトーシスをおこしにくい コントロールスタウロスポリンツニカマイシン 正常な細胞 アービット欠損細胞 細ア胞ポのト割ー合シ ( ス % を ) おこした 正常な細胞アービット欠損細胞 スタウロスポリン ツニカマイシン : アポトーシスを誘導する薬剤 コントロール スタウロスポリン ツニカマイシン 細胞にスタウロスポリンあるいはツニカマイシンを添加し アポトーシスを誘導した アポトーシスをおこした細胞を 活性型カスパーゼ 3( アポトーシスで活性化する酵素 ) の染色で検出した ( 緑色のシグナル ) アービットはアポトーシスを促進する機能があると考えられる 8
赤枠内がミトコンドリア 水色枠内が小胞体を示す 正常な細胞に比べ アービットが欠損した細胞では 小胞体 - ミトコンドリア接触部位 ( 赤枠と水色枠の接点 ) が減少している 電子顕微鏡による小胞体 - ミトコンドリア接触部位の観察正常な細胞アービット欠損細胞小胞体と接触しているミトコンドリア ( % ) 接触部位の長さ ( ナノメートル ) 正常な細胞アービット欠損細胞 9
アービット欠損細胞では小胞体 - ミトコンドリア接触部位が減少している 正常な細胞 アービット欠損細胞 小胞体とミトコンドリアの共局在 緑 : 小胞体紫 : ミトコンドリア小胞体とミトコンドリアが重なったところは白く見える 正常な細胞 アービット欠損細胞 アービット欠損細胞にアービットを発現 アービット欠損細胞に変異型アービットを発現 10
アービット Bcl2l10 は タンパク質複合体として 小胞体 - ミトコンドリア接触部位にある アービット GAPDH VDAC Bcl2l10 Cyt c ミトコンドリア ( 粗精製 ) アービット VDAC Bcl2l10 タンパク質複合体の分離 個々のタンパク質の分離 細胞分画法 ブルーネイティブゲル電気泳動法 11
アービット欠損細胞では小胞体からミトコンドリアへのカルシウムの移動が減少している細胞質のカルシウムミトコンドリアのカルシウム正常な細胞アービット欠損細胞正常な細胞アービット欠損細胞正常細胞アービット欠損細胞正常細胞アービット欠損細胞アゴニスト刺激アゴニスト刺激カルシウム濃度カルシウム濃度 12 カルシウム濃度カルシウム濃度正常細胞に比べ アービット欠損細胞ではミトコンドリアのカルシウム上昇量が小さい正常細胞に比べ アービット欠損細胞では小胞体からのカルシウム放出量が多いにもかかわらず
アービット欠損細胞ではストレス刺激によるミトコンドリアの Ca 2+ の濃度上昇が小さい ミトコンドリアの Ca 2+ 正常な細胞 アービット欠損細胞 コントロール スタウロスポリンツニカマイシン ミトコンドリア内のカルシウム濃度 コントロール スタウロスポリンツニカマイシン 正常な細胞 アービット欠損細胞 細胞にスタウロスポリンあるいはツニカマイシンを添加しミトコンドリア内の Ca 2+ 濃度を測定した 13
アービットが小胞体 - ミトコンドリア間の Ca 2+ の動きとアポトーシスを制御するメカニズム 通常 アポトーシス 小胞体 Ca 2+ Ca 2+ ストレス刺激 Ca 2+ Ca 2+ 小胞体 正常な細胞 Bcl IRB P Bcl IRB P Bcl IRB Bcl IRB ミトコンドリア ミトコンドリア 小胞体 Ca 2+ ストレス刺激 Ca 2+ 小胞体 アービット欠損細胞 Bcl Bcl ミトコンドリア ミトコンドリア 14
アポトーシスを起こすストレス 小胞体 正常な細胞 小胞体 アービット欠損細胞 B I アービットの脱リン酸化がおきる B Bcl2l10 は残っている Ca 2+ の大量移動 Ca 2+ 移動 ミトコンドリア ミトコンドリア アポトーシス アポトーシス細胞死 15 細胞死抵抗性
今後の展望 今回私達が進めてきたアービットのアポトーシスに関する研究は生命現象に於ける基本的なメカニズムと考えられます 個体の各臓器 組織, 細胞に於ける本現象の共通性 特異性を把握しながら 研究を進めて行く事が必要と考えます アービット Bcl2l10 を介する細胞内の Ca 2+ 動態の制御機構をさらに解析することで また各分子のホモログ 及びこれらの分子に結合するなどして関与する新規分子をさらに解析することで 今回発見した現象のメカニズムをより深く解明ができることと思います またアポトーシスの機能不全によって引き起こされると考えられる多くの疾患の発症の分子機構の解明が期待できます 16
論文情報 報道解禁日 : 日本時間 2016 年 12 月 20 日午後 9 時 新聞は 21 日朝刊論文タイトル : IRBIT controls apoptosis by interacting with the Bcl-2 homolog, Bcl2l10, and by promoting ER-mitochondria contact 著者名 : Benjamin Bonneau, Hideaki Ando, Katsuhiro Kawaai, Matsumi Hirose, Hiromi Takahashi-Iwanaga, Katsuhiko Mikoshiba 雑誌名 : elife DOI: 10.7554/eLife19896 17
謝辞 本研究は以下の支援を受けて遂行しました 深謝申しあげます 1. 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 国際共同研究 (ICORP) カルシウム振動プロジェクト ( 代表研究者 : 御子柴克彦 ) 発展研究 (SORST) カルシウム振動 ( 研究代表者 : 御子柴克彦 ) 2. 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究 (S)( 御子柴克彦 ) 3. 日本学術振興会 外国人特別研究員 ( ベンジャミン ボノー (Benjamin Bonneau)) 4. 理化学研究所 基礎科学特別研究員 ( ベンジャミン ボノー (Benjamin Bonneau)) 18
ご清聴ありがとうございました 19