胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

学位論文の要約

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が


報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

のとなっています 特に てんかん患者の大部分を占める 特発性てんかん では 現在までに 9 個が報告されているにすぎません わが国でも 早くから全国レベルでの研究グループを組織し 日本人の熱性痙攣 てんかんの原因遺伝子の探求を進めてきましたが 大家系を必要とするこの分野では今まで海外に遅れをとること

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生物時計の安定性の秘密を解明

第6号-2/8)最前線(大矢)

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

報道発表資料 2001 年 3 月 8 日 独立行政法人理化学研究所 脳内の食欲をつかさどるメカニズムの一端を解明 - ムスカリン性受容体欠損マウスはいつでも腹八分目 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 脳の食欲をつかさどる情報伝達にはムスカリン性受容体が必須であることを世界で初めて発見し

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( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 8 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 GABA 抑制の促進がアルツハイマー病の記憶障害に関与 - GABA 受容体阻害剤が モデルマウスの記憶を改善 - 物忘れに始まり認知障害へと徐々に進行していくアルツハイマー病は 発症すると究極的には介護が欠か

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

Microsoft Word - 熊本大学プレスリリース_final

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

様式)

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

を確認しました 本装置を用いて 血栓形成には血液中のどのような成分 ( 白血球 赤血球 血小板など ) が関与しているかを調べ 血液の凝固を引き起こす トリガー が何であるかをレオロジー ( 流れと変形に関わるサイエンス ) 的および生化学的に明らかにすることとしました 2. 研究手法と成果 1)

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

論文の内容の要旨

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 20 日 独立行政法人理化学研究所 アルツハイマー病の原因となる アミロイドベータ の産生調節機構を解明 - 新しいアルツハイマー病治療薬の開発に有望戦略 - 高年齢化社会を迎え 認知症に対する対策が社会的な課題となっています 国内では 認知症

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Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

平成24年7月x日

平成14年度研究報告

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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物学的現象をはっきりと掌握することに成功した論文である との高い評価を得ています 2. 研究成果ブフネラゲノムの全塩基配列の決定に当たっては 全ゲノムショットガンシークエンス法 4 を用いました 今回ゲノム解析に成功したのは エンドウヒゲナガアブラムシ (Acyrthosiphon pisum) の

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

図ストレスに対する植物ホルモンシグナルのネットワーク

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

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報道発表資料 2002 年 5 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 科学技術振興事業団 生物の 腹 と 背 を分けるメカニズムの一端を解明 - 体軸形成を担うカルシウムシグナルの標的遺伝子を発見 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) と科学技術振興事業団 ( 沖村憲樹理事長 ) は 東京大学と共同で 生物の初期発生時において 腹 と 背 を決める情報伝達に使われるカルシウムシグナルのメカニズムの一端を明らかにしました 理研脳科学総合研究センター ( 伊藤正男所長 ) 発生神経生物研究チームの御子柴克彦チームリーダー ( 東京大学医科学研究所教授 ) 実吉岳郎研究員らによる研究成果です 生物の初期発生において 腹と背を分ける体軸の形成は 背側に神経管が発達するなど一つの受精卵が細胞集団を作り上げていく上で重要な役割を果たしています 研究グループでは今回 免疫系に関与するカルシウム依存性転写調節因子 1 NF-AT にカルシウムシグナルが作用することによって 腹側化 2 シグナルとして働くことを明らかにするとともに NF-AT が 背側化と関連する GSK-3β と呼ばれる酵素に作用し 腹側化を促すことを見いだしました この GSK-3β は 脳の老化との関連が指摘されています 本成果は 初期発生におけるカルシウムシグナルの働きが 免疫反応や老化などを含む基本的な生命現象のメカニズムと深く関与することを初めて明らかにするだけでなく 薬剤や環境ホルモンなどの物質がカルシウムシグナルに与える影響を解明することにより 形態異常に関する新しい知見が得られることが期待されるなど 臨床医学的にも大きな貢献が期待されるものです 本研究成果は 科学技術振興事業団の創造科学技術推進事業 御子柴細胞制御プロジェクト ( 代表研究者 : 御子柴克彦 ) および国際共同研究事業 カルシウム振動プロジェクト ( 代表研究者 : 御子柴克彦 ) の一環として得られたものであり 英国の科学雑誌 nature ( 5 月 16 日号 ) に掲載されます 1. 背景 Ca 2+ シグナルは 細胞内 Ca 2+ 濃度の一過的上昇 持続的上昇 Ca 2+ 濃度の上昇と降下を繰り返す Ca 2+ 振動など多様な濃度変化の様式を持ち その違いを利用し細胞内情報伝達に重要な役割を果たしています 一方 躁鬱 ( そううつ ) 病の治療薬であるリチウムを 生物の初期発生時に作用させると背側活性を持つことが古くから知られています しかし リチウムの背側化活性の作用メカニズムは 発生生物学者の長い間の謎でした 理研脳科学総合研究センター発生 神経研究チームでは モデル動物を用いた機能喪失実験による解析手法を用いて リチウムの作用点の一つであるイノシトール代謝回転経路の 中でも特に脳の生理活性と強く関係すると考えられている イノシトール 1,4,5 三リン酸 (IP3) およびその受容体(IP3R) とカルシウムシグナルについて研究を行ってきました 研究の結果 IP3R に対する特異的機能阻害抗体を用いて 将来の腹側で IP3R の機能を阻害すると腹側の細

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹軸に沿った IP3-Ca 2 + の勾配があるかどうかの問題 IP3-Ca 2+ シグナル伝達系の上流及び下流で働く分子の実体は何かについての問題 そして 他の腹側化 あるいは背側化因子との関係 相互作用の問題 などの解明が待たれています 2. 研究成果と手法 Ca 2+ シグナルは 先に述べたように多様な濃度変化の様式を持ち 複数の転写調節因子が Ca 2+ 振動の頻度の違いをそれぞれの活性の使い分けに利用していることが分かっています このような Ca 2+ シグナルの働きを解読しうる転写調節因子の一つ nuclear factor of activated T-cell(NF-AT) は Ca 2+ / カルモデュリン (CaM) 依存性脱リン酸化酵素のカルシニューリン (Cn) の制御を受ける転写調節因子です Cn/NF-AT 経路は 免疫系では T 細胞活性化を中心に解析されており 神経系では IP3 受容体の発現を調節しているほか 心肥大や骨格筋の分化に関与していることも報告されています このように多様な機能を持つ Cn/NF-AT 経路ですが 体軸形成に関してどのような機能を持つかはまったく不明でした そこで アフリカツメガエルをモデル動物として用いて実験を行ったところ 以下の研究成果が得られました 1) 腹側化シグナルである IP3-Ca 2+ シグナル伝達系の下流で働く分子を同定することを目的に Cn/NF-AT 経路が腹側化シグナルとして機能するかを検討しました 転写調整因子 NF-AT を阻害した表現型は IP3 受容体を阻害した場合と同様に背側化の特徴的な表現型である異所性の体軸 ( 二次軸 ) が形成されました ( 図 1-2) さらに NF-AT を過剰に発現 ( 活性化 ) させると 背側 ( 神経管など ) が消失します ( 図 2) この結果から 転写調整因子 NF-AT が腹側化シグナルとして作用していることが分かりました 2) IP3-Ca 2+ シグナル伝達系と Cn/NF-AT 経路との関係を調べるため IP3 受容体の阻害によって二次軸が形成された個体に対して 活性化させた転写調整因子 NF-AT を共発現させたところ 二次軸が消失し 個体の形状が回復しました ( 図 3) このことは IP3-Ca 2+ シグナル伝達系よりも Cn/NF-AT 経路が下流にあることを意味しています 3) 発生初期の分泌性細胞間シグナルの 1 つである Wnt は 初期発生や形態形成過程で生じる細胞間相互作用を仲介する物質 ( 糖タンパク質 ) の一つです Wnt 経路には現在のところその機能から二つのグループ 背側化活性を持つ Wnt/β-catenin 経路 と G タンパク質を介して Ca 2+ 動員を起こすとされる Wnt/Ca 2+ 経路 の二つに分けられます この Wnt/Ca 2+ 経路と NF-AT との関係を解析したところ Wnt/β-catenin 経路の活性を抑制する点 や 得られる表現型が酷似している点 さらに Wnt/Ca 2+ 経路は細胞内 Ca 2 動員を起こす点 などから Wnt/Ca 2+ 経路は Cn/NF-AT 経路の上流にあることが予想されます そこで Wnt/Ca 2+ 経路が直接 NF-AT を活性化させるか否かを検討したところ 培養細胞において Wnt/Ca 2+ 経路が NF-AT に依存的な転写を活性化したこと や

NF-AT の核内移行を促進したこと などから Wnt/Ca 2+ 経路が Cn/NF-AT 経路を活性化させる上流経路であることが強く示唆されました 4) 最後に Wnt/β-catenin 経路と転写調整因子 NF-AT との関係を調べました NF-AT を阻害すると 背側化シグナルである Wnt/β-catenin 経路に特異的な標的遺伝子産物である Xnr3 siamois が誘導されました すなわち NF-AT 経路の抑制が Wnt/β-catenin 経路を活性化したことを意味しています そこで Wnt/β-catenin 経路との作用点がどこであるかを 不活性化した NF-AT と Wnt/β-catenin 経路を抑制する方向に働く 負の調節因子 (frzb, 顕性不活性型 dsh Glycogen Synthase Kinase 3β [GSK3-β] 顕性不活性型 T-cell Factor 3 [Tcf3]) との共発現により解析しました ( 図 4) NF-AT 阻害による siamois Xnr3 の発現誘導は GSK3β および顕性不活性型 Tcf3 によって消失していることから NF-AT 経路は Wnt/β-catenin 経路を少なくとも β-catenin より上流 dsh より下流で負に制御していると考えられます これらの成果から ツメガエルの背腹軸形成時において IP3-Ca 2+ シグナル伝達系は Wnt/Ca 2+ 経路を上流とし Cn/NF-AT 経路を介して 背側化シグナルである Wnt/β-catenin 経路の活性を阻害することで腹側化シグナルとして機能していることが明らかになりました ( 図 5) Wnt により惹起される細胞内シグナル伝達のネットワークは 形態形成だけでなく細胞増殖 形質転換 ( がん化 ) 細胞の極性決定に関連する多くの因子が関与していますが 上記の解析結果から 発生初期の極めて重要な背中と腹の決定が 免疫系学で一般的に使われている転写因子である NF-AT を介していることが明らかになったことは極めて重要です 本研究成果は 発生初期における生物の体軸の形成にカルシウムシグナルが関与していることを詳細に解明することに成功するとともに 初期発生におけるカルシウムシグナルの働きが免疫反応や老化等を含む基本的な生命現象のメカニズムと深く関与することを世界に先がけて 初めて明らかにできたことを意味しています 3. 今後の展開 GSK3-β は 脳の老化などの原因による神経細胞死を引き起こす際に 神経細胞内で活性化されている酵素の一つとして見いだされており アルツハイマー病との関連も指摘されています この酵素の活性により体軸形成の異常が消失するという今回の私たちの成果は GSK3-β の活性が脳の老化だけでなく初期発生と密接に関連するという極めて興味深い結果を示しています また 初期発生時の身体の形成にカルシウムメッセンジャーの働きが深く関与することは 健全な脳や身体の発達など体作りの仕組みを解明する上で今後新しい知見をもたらすとともに カルシウムメッセンジャーに対する薬品や物質の作用を解析することで 副作用の少ない薬品の開発や 環境ホルモンがカルシウムメッセンジャーに作用して形態異常に及ぼす影響の検討が可能になるなど臨床医学的にも大きな寄与が期待されます ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター

発生神経生物研究チームチームリーダー御子柴克彦 Tel : 048-449-5315 / Fax : 048-467-9745 Tel : 03-5449-5316 / Fax : 03-5449-5420( 東大医科研 ) 脳科学研究推進部田中朗彦 Tel : 048-467-9596 / Fax : 048-462-4914 科学技術振興事業団国際室佐藤雅之 黒澤郁夫 Tel : 048-226-5630 / Fax : 048-462-4914 ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室嶋田庸嗣仁尾明日香 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 図 1 腹側を背側へ変換 1IP3 受容体を阻害すると 二次軸が形成される (IP3 受容体からの Ca 2+ 放出が背腹軸を決める ) 2 転写因子 NF-AT を阻害すると 二次軸が形成される ( 図中 B,C)

図 2 転写因子 NF-AT を過剰に活性化すると背側 ( 神経管など ) が消失する 図 3 IP3 受容体の阻害による二次軸の形成が活性化 NF-AT で回復する

図 4 転写因子 NF-AT の阻害によりおきる二次軸形成が GSK-3β の過剰発現で回復する

図 5 二胚軸形成 背側化 ( 神経化 ) 腹側化 の決定に関わる模式図