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2.FSW の概要 2. FSW とは FSW は 99 年に英国溶接研究所 (TWI) によって開発された接手法であり, その工程の概略を図 2 に示す 4) FSW は, ショルダーとプローブから構成される回転工具 ( 以降, ツールと呼ぶ ) を材料に接触させて摩擦熱を発生させてから, プローブを接部に挿入して, 摩擦熱により軟化した部分を撹拌することで接する方法である FSW は, 現在の車両構造材として使用されている 5 系 (Al-Mg 金 ),6 系 (Al-Mg-Si 金 ), 7 系 (Al-Zn-Mg 金 ) の各アルミニウム金について適用が可能であるとされている 2. 2 高強度アルミニウム金への FSW の適用 FSW は図 2 に示したように, ツール回転に伴う塑性変形と摩擦発熱で接される そのときの入熱量 (Q) は () 式で与えられる 5) 3 Q = 3/ 4π R P N µ / V () プ圧入停引上げ ブ ダ 工具回 ここで,R: ショルダ径 (m),p: ツール荷重 (N),N: ツール回転数,V: 接速度 (m/s),m: 摩擦係数である そのため,FSW の接の良否は接ツールの材質, ツールの挿入深さ 回転数 送り速度やショルダー形状, ツールへの負荷荷重が影響するようになる ここでプローブの挿入深さは一定に制御されるので, 実質的には接ツールの回転数, ツールの送り速度, ツールの材質が主な課題となる ツールの送り速度と回転数の組みわせが不適である際, 図 3 のようなかじりの欠陥発生が認められるようになる 6) 6 系金ではこの組みわせ範囲が広いが,7 系金の場の適用範囲には不明な点が多い また,FSW では, ツールの被接材への負荷荷重が重要となる この負荷荷重には回転数, ショルダー径, ショルダー形状が影響するが, 被接材料の変形抵抗の影響が特に大きい 図 2 4) 摩擦攪拌接の工程 従来のアーク溶接では高エネルギーのアーク熱を使用しているが,FSW は摩擦熱で接する接方法である 従来のアーク溶接と比較すると, 次のような利点を有する 余盛りがなく, 仕上げが不要になるために, アーク溶接に対して作業性で優位性を持つ 摩擦熱のみで接することから, 材料組織の熱影響に対する変化はアーク溶接に比べて少ない 2 つの板が継ぎわさった部材 ( 以降, 継手という ) の結晶粒が微細化することで, アーク溶接の継手よりも強度は著しく高くなる また, 再加熱を行うことにより, 母材に近いレベルにまで強度が回復し, 継手の強度の劣化に関する問題はない 一方, 欠点としては, 接強度などの基準がないことなどが挙げられる このような欠点がある半面, 従来のアルミニウム金の溶接に比べて作業上及び特性上に利点が多いことから 4), アルミニウム金製の車両製造の接方法として有用であると考えられ, 新幹線電車をはじめ通勤車両の組立で適用されるに至っている 図 3 7 系アルミ金汎用材の FSW の接線における欠陥例 ( かじりの例 ) 6) 図 4 に接条件を検討した報告例を示す 7 系のアルミニウム金は,5 系や 6 系と比較して材質の高温変形抵抗が高い そのため, ツールに与える押し込み負荷荷重は 5 系や 6 系金を接する時よりも大きな荷重を必要とするようになる 7 系金のような高負荷荷重が必要な接では,() 式から計算されるように, 入熱量が大きくなる結果, 摩擦熱が増加して図 3 のような欠陥発生をもたらす可能性がある そこで本研究では,FSW の接が困難であるとされる 7 系のアルミニウム金について, 欠陥の発生がなく, 接部の硬さが向上するような方法を検討するために, 材質の金属組織に存在する析出物をあらかじめ微 52 RTRI REPORT Vol. 26, No. 2, Dec. 22

細に制御し, その後に再結晶処理により変形抵抗を下げ, 接中の摩擦熱を利用して析出物を整える方法を考えた 荷 4 ミ ム 3. 実験方法 3. 試験材 下 6 4 45 おける温抵 (k 図 4 2 重 温度 5) 接条件の検討例 速 : /min 本試験材では,7 系金として, 表 に示すよう な化学成分の 775 金を用いた 材料は精密鋳造法に よって作成した 図 5 に鋳造したままの素材の金属組 織を示す 金属組織は,(a) に示すように結晶粒径が 以上であり,(b) に示すように粒界に最大 程度の析出物が見られる状態である 表 試験材の化学成分 ( 単位は重量パーセント ) Si Mg Fe Cu Zn Mn Al. 2.6.26.6 5.75.3 bal 5 H 度 ( ) 加熱保持することで, 目的とする性質に金属組織を調質する必要がある この調質処理が時効処理である これらの処理は一般的に熱処理型のアルミニウム金で行われる 本研究では, 圧延加工後に見られる素材内の析出物の寸法をナノスケールで細かく分散させることを目的とするため, 一般的な処理温度より低めに設定し, 溶体化処理を 743K h, 時効処理を 673K 8h で行った 時効処理後の圧延加工は熱間で行い, 圧延は温度が 373 K であり, 圧下率を 96% として与えた この状態では加工による歪で変形抵抗が高いため, その後, 変形抵抗を下げるために再結晶化処理を行った 再結晶処理では, 完全に再結晶した状態と, 未完全な再結晶状態を比較するため,473K(473K 処理材とする ) と 573K(573K 処理材とする ) で行った 473K 処理材は, 一部分を再結晶化した状態であり,573K 処理材は完全に再結晶化した状態である 再結晶化処理は, 熱間圧延した材料を加熱炉に入れて行った 加熱時間は析出物の粗大化を防ぐために 8s とした 再結晶化処理した材料の金属組織について観察した 観察試料は処理材を精密切断で切り出した後に研磨と腐食処理を行ってレーザ顕微鏡を用いて観察を行った また, 析出物の状態を調べるために透過型電子顕微鏡 (TEM) による観察を行った TEM の観察試料は, レーザ顕微鏡による金属組織観察片を用い, 電解研磨及びツインジェット研磨機を用いて処理を行った 3. 3 FSW の施工及び接材の観察接は, 再結晶処理を行った素材に対し, 図 6 に示す方法で FSW によって行った ツの圧 回 せ面 μm μm ツ ( の状 図 5 鋳造したままの素材の金属組織 方向 材 ショ 3. 2 材料のナノ処理及び金属組織観察本研究では, 高強度アルミニウム金に FSW の適用を検討するために, 金属組織の析出物をナノレベルで制御した ナノレベルでの制御では, 図 5 に示す鋳造したままの素材に溶体化処理と時効処理を行い, その後に熱間圧延を行った 鋳造したままの素材の状態では, 金属組織が不均一であることから均一化する必要がある 溶体化処理とは加熱保持後に急冷し, 材料組織を均一化し, 一度, 準安定状態にする処理である このような準安定状態では機械的性質が低いため, 引き続き所定の温度に 板図 6 試験方法の概略図本研究では, 再結晶処理により変形抵抗を下げ, 接中の摩擦熱を利用して析出物を整える方法を考えている そこで, 析出物を整えるためには, 接中の摩擦熱を蓄積し, 接部で温度勾配を持たせ, その熱勾配で組織の微細化を図ることが必要になる 一般的な FSW では, 鉄製のツールが適用されている この鉄製ツールで RTRI REPORT Vol. 26, No. 2, Dec. 22 53

は, 熱伝導が大きいために接部に十分熱が蓄積することが難しく, また, 熱勾配の制御も難しい そこで, 新たに考案したセラミック製ツールを用い, 裏当て板には熱伝導の小さい材質を使う方法を検討した 7) 本研究で用いたセラミック製ツールは蓄熱性の高い窒化珪素製であり, 裏当て板に SUS34 ステンレス鋼板を用いて接した 接ツールの形状は, ショルダ径が 2, プローブ径が 6, プローブ長さが 3 である ツール寿命を延ばすためプローブ部には凸形のテーパー形状に設計されているものを用いた FSW は, ツールが一般的に接面に対して角度を与えて挿入される 本研究での接条件は, ツールの挿入角度を接面に対して 3 の傾斜を与え, ツール回転数は rpm, 接速度 5-5/min, 接長 5 とした 接は, 板材の長手方向に対して行った 接後に接部の外観観察を行い, 接断面の金属組織を観察した 接断面の金属組織の観察は接材の接線に対する垂直断面について行い, 観察試験片は精密切断機によって切断後, 研磨及び腐食処理を行って得た 観察は光学顕微鏡を用いた また, 接速度 5,,25/min の試料に対して, 接後, 接材の断面に対してビッカース硬さ試験を行った 測定面は, 接方向と垂直な面とし, 接中心部から板厚中心方向に, 水平方向に.5 間隔で片側 まで測定を行った 測定には, 微小硬度試験機を用い, 測定荷重.96N, 荷重保持時間 s で行った 4. 実験結果及び考察 4. 材料のナノ処理および金属組織の確認 FSW の接に用いた処理材の金属組織を図 7 及び図 8 に示す 図 7 及び図 8 の (a) はレーザ顕微鏡で金属組織のミクロ観察を行った結果で,(b) は TEM で析出物の状態を観察した結果を示す 473K 及び 573K で処理した材料の結晶粒は図 7(a) 及び図 8(a) に示すように, 図 5(a) の鋳造したままの素材と比べて微細である 473K と 573K の処理材における結晶粒の大きさには大きな差が認められなかった しかし, 図 7(b) 及び図 8(b) に示すように, 析出物の大きさには処理温度の差が明瞭に認められ,473K 処理材の方が大きかった μ nm a 結粒状 b 析出状図 7 473K 処理材の金属組織観察結果 ( 結粒状 b 析出状 図 8 4. 2 接材の接部の外観 代表的な例として, 接速度 5/min で接した 時の接線の外観を図 9 に示す 図 9(a) は 473K 処 理材の接線であり,(b) は 573K 処理材の接線を示 す 接線には, 一般的な FSW 材と同様, ツールの回 転痕跡が見られる また, 接線の端部には, 金属のバ リの発生が認められる バリはブラシで除去できる状態 のものであった また, いずれの接速度の条件で接 した接体の接線も図 9 のような状態が認められ, 本 研究で調べた接条件では, 図 3 に示すようなかじりは 認められなかった 6) 図 9 m 573K 処理材の金属組織観察結果 4 K 処材 min K m 材 m ) 7 K (b K 処理材 nm 接速度 5/min で摩擦攪拌接した接 材の接線の外観観察結果 4. 3 接断面の金属組織観察結果 接断面の金属組織の代表的な観察結果として, 473K 処理材に接速度を 5/min で接した時の マクロ観察結果を図 に示す 一般的に,FSW の接 部の断面の金属組織には, 摩擦攪拌層, 塑性流動層, 熱 影響層が認められ, 摩擦攪拌層内に, 介在物が凝集した オニオンリング と呼ばれる介在物の凝集組織が認め られる 8) 向 54 RTRI REPORT Vol. 26, No. 2, Dec. 22

特集 材料技術 A RS 層 擦 拌層 min 母材 5 図 / 代表的な接断面金属組織 473K 処理材 接速度 5/min 本研究で接した接部の断面を観察した結果 図 5 / に示すように摩擦攪拌層 塑性流動層 熱影響層が 認められている これは 一般的な FSW の接材で見 られる組織層であるが オニオンリングは認められず ) 図 2 in 573K 処理材の接部断面金属組織 組織変化がワイングラスのような形で接上面に広がっ ている状態で認められている このオニオンリングとの 図 a に 473K 処理材を 75/min で接した 相違については解析中であるが 接時にステンレス製 接部断面マクロ組織観察を示す 接部の断面を観 の裏当て板を設置したため 摩擦熱が裏に放出され 温 察すると 界面部に欠陥の発生が認められた また 度勾配が発生したことによると考えられる /min 以上で行った際 接層内に流動不良が認 また FSW では ツールの回転運動の接線方向が接 められた 一方 573K 処理材では 473K 処理材に比 方向と一致する場に最も大きな速度成分となり 反 べて欠陥の発生はなく 良好な接断面が認められた 対側では速度成分が最小値となる 最大速度成分を与え 573K 処理材で 接速度を 5/min で接した る側を前進側 AS 側 advancing side と呼び 反対側 結果を図 2 a 25/min で接した結果を図 2 b を後退側 RS 側 retreating side と呼ぶ4 被接材 に示す の高温での塑性流動はこの速度成分の影響を受け 形成 接速度が 5/min と 25/min とで断面金属 される接領域は AS 側と RS 側とで非対称な形状とな 組織を比較した場 断面に認められる熱影響層の幅 るのが一般的である 本研究の接材でも AS 側と RS は 5/min では広いが 25/min では狭い状態 側とでは 接領域は非対称であった であった 一方 攪拌部の幅は 25/min の方が 5/min よりも広く 断面金属組織が接速度の影 響を受けることがわかった 4. 4 断面硬さ測定結果 図 3 a に 473K 処理材 b に 573 処理材の断面 硬さ測定結果を示す 図にはショルダ径の外側及びプ ( ローブ径範囲を同時に示した 平均母材硬さは 473K 処 断面 クロ組 理材で 3HV 573K 処理材で 97HV である 攪拌部の 硬さは母材の硬さに依存せずほぼ同等の値を示すことが 分かった また 硬さ分布は接部を中心に上に凸の分 布を示していた 一般的な 775 金の FSW での接 材の断面硬さ分布は 微細析出物が再固溶するために 下に凸となるが 本研究で認められた硬さ分布は上に凸 μm ) 図 473K 処理材で接速度を 75/min で接 であり 接部の硬さを増加できるような接手法であ ると考えられる この理由としては 結晶粒微細化もし くは微細析出物の増加が考えられる した時の断面金属組織 RTRI REPORT Vol. 26, No. 2, Dec. 22 55

さ H ) ロ min min min ル 径 - - 5 接から ( )4 K 処理 さ (Hv 4 ー min min ョ ダ 接心部ら距 図 3 (b) K 接材の断面硬さ測定結果 5. まとめ 文 献 本研究では, 析出物の制御とセラミックツールの適用により,FSW の接が困難であるとされる 7 系のアルミニウム金について, 欠陥の発生がなく, 接部の硬さが向上するような方法を検討した その結果, 粗大な析出物が存在する 473K 処理材では, 空隙や流動不良の内部欠陥が認められたが, 析出物が微細に分散した 573K 処理材では欠陥の発生が認められなかった このことから, 析出物の大きさの相違に伴い変形抵抗の影響があると考えられる また, 本研究で検討した FSW の方法では, 硬さ分布が接部で増加し, 一般的な硬さ分布の傾向とは逆の傾向が認められた 以上から, 析出物をナノ微細分散した後に完全再結晶化を行い, 施工時に蓄熱性のあるセラミックツールを用いることにより, 高強度アルミニウム金の FSW での接性は向上できると考えられる 今後は, 接部の金属組織を観察して欠陥の発生メカニズムを調べるとともに接強度を確認する予定である ) 鈴木康文 : アルミニウム金による鉄道車両の軽量化と今後の課題, 軽金属,Vol.6,No.,pp.565-57, 2 2) 松本二郎 : 車体軽量化のためのアルミニウム金の適用とその溶接の問題点, 圧力技術,Vol.3,No.3, pp. 54-68, 993 3) 塔本徹, 阪口章 : アルミニウム金製車両について, 溶接学会誌,Vol.4, No.6, pp. 56-522, 97 4) 柴柳敏哉 : 摩擦攪拌接の材料組織学的描像, 軽金属, Vol.57, No.9, pp.46-473, 27 5) 岡村久宣, 青田欣也, 高井英夫, 江角昌邦 : 摩擦攪拌接 (FSW) の開発状況と適用上の課題, 溶接学会誌,Vol.75, No.5, pp. 436-444, 23 6) 鈴木信行, 地西徹 :7475 アルミニウム金の超塑性成形に伴う摩擦撹拌接部の変形, 軽金属,Vol.54, No.2, pp.55-555, 24 7) 石川武, 藤井英俊, 玄地一夫, 岩木俊一, 松岡茂樹, 野城清 : オーステナイト系ステンレス鋼の高品質 高速度摩擦攪拌接, 鉄と鋼,Vol.94, No., pp.539-544, 28 8) 岡村久宣 : 摩擦攪拌接 (FSW) の特徴と日本における適用状況, 溶接学会誌,Vol.69, No.7, pp.565-57, 2 56 RTRI REPORT Vol. 26, No. 2, Dec. 22