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これまでの取り組み 平成 20 年 3 月に管内酪農場所有の育成牛が BVD ウイルス 2 型の PI 牛と確認された 過去に BVD ウイルス 2 型の PI 牛は確認されたことはなく 初の事例となった [3] 本県では こうした状況を契機に 本病の防疫対策を検討するため 平成 20 年度から 21 年度にかけて本病の抗 体保有状況を調査するため 管内 10 市町 100 戸 516 頭について BVD ウイルス 1 型 2 型の中和抗体検査 を実施した その結果 1 型 2 型共に約 60% の農場において抗体保有牛が確認され 約 40% の牛が抗体を 保有しており また 預託や導入等移動歴のある牛の抗体保有率は 1 型が約 80% 2 型が 75% であるの に対し 自家育成牛はそれぞれ約 26% 約 24% であり 移動歴のある牛の抗体保有率が有意に高かっ [4] た (P<0.01) 調査の概要 今回の調査では 新たなPI 牛産出を防止するため 特徴のある管内 A B 二農場をモデルとして対策を検討した A 農場は飼養している全ての成牛が預託もしくは導入等の移動歴を持つ農場である B 農場は平成 20 年 3 月にPI 牛が確認された農場である 検査方法として中和抗体検査法を用い 抗体価 2 倍以上の牛を保有牛 2 倍未満を非保有牛とした BVDウイルス1 型はNOSE 株 2 型はKZ -91CP 株を用い MDBK-SY 細胞によって判定した また 検査材料は血清を用いた A 農場の調査結果 A 農場は成牛 35 頭 育成 10 頭が飼養されており つなぎ牛舎 対尻式の飼養形態で 北海道を主体として預託や導入を実施しており 自家育成は実施していない 当該農場の成牛の抗体保有状況を ( 図 1) に示す 1 型は35 頭中 27 頭 2 型は35 頭中 28 頭が抗体を保有し 1 型 2 型共に約 80% の成牛が抗体を保有していた 成牛の抗体価の分布状況は ( 図 2) に示すとおり 非保有牛から抗体価 2048 倍の牛まで バラツキがみられた また 非保有牛の多くは特定の農場に預託されており 預託先や導入元によって抗体保有状況に違いがみられた 50

図 1 成牛の抗体保有状況図 2 成牛の抗体価分布 A 農場の対策とワクチン接種 調査より A 農場は預託や導入が多いことから外部からのウイルス侵入の機会が多いが 成牛の抗体価分布ではバラツキが大きく 抗体を持たない成牛が妊娠中に感染するリスクが高いと考えられた そこで PI 牛産出を防止するため 牛群に免疫を付与する必要があると考え 抗体価 2 倍以下の22ヶ月齢から65ヶ月齢の成牛 8 頭について不活化ワクチンを接種し その抗体価の推移を調査した ( 図 3) 今回使用したワクチンは6 種不活化ワクチン ( 京都微研 : キャトルウィン-6) で 1 回目を平成 22 年 10 月 8 日に 2 回目を12 月 9 日に接種し 1 回目は接種後 34 日 2 回目は接種後 13 日の抗体価を検査した その結果 1 回接種後では1 型 2 型共に2 頭で抗体価が上昇し 2 回接種後では1 型は8 頭全頭 2 型は7 頭で抗体価が上昇した 図 3 6 種不活化ワクチン接種結果 51

B 農場の調査結果 B 農場は平成 20 年 3 月に2 型のPI 牛を確認した酪農場であり 当時は成牛は38 頭 育成牛 20 頭 平成 2 1 年には成牛 34 頭 育成牛 25 頭が飼養されていた B 農場はつなぎ牛舎 対尻式であり 牛の移動が比較的少なく 確認されたPI 牛も18 年 8 月生まれの自家産牛であった このことから 18 年初めに本農場にウイルスの侵入があり 抗体を保有していない妊娠初期 ~ 中期の母牛が感染したため PI 牛が産出されたものと推察された PI 牛が確認されたことを受け 平成 20 年 4 月に飼養牛 58 頭全頭のBVDウイルス2 型の抗体検査を実施した ( 図 4) その結果 非保有牛は5 頭で そのうち3 頭がPI 牛であることが判明し その後順次淘汰され 現在 B 農場にはPI 牛がいないことが確認されている また 抗体保有牛は58 頭中 53 頭と 91.4% にのぼり さらに そのうち50 頭が抗体価 256 倍以上という高値を示した 図 4 2 型抗体保有状況 B 農場の対策および結果 このように 牛の移動が少ないB 農場においてもウイルス侵入の危険性があり 非保有牛が妊娠中に感染した場合 PI 牛が産出される可能性が存在する そこで 妊娠時の感染によるPI 牛産出を防止するため 自家育成牛に対して妊娠前にワクチンを接種して免疫力を付与することに重点を置くこととした しかし ワクチンメーカーによると 生ワクチンでは移行抗体価が8 倍を超えると 不活化ワクチンでは1 型は2 倍 2 型は4 倍を超えるとワクチンブレイクを起こすとされている しかし B 農場ではほとんどの成牛が高い抗体価を保有しており 移行抗体価も高いと考えられる そこで 子牛 9 頭について移行抗体の消長を調査し ワクチンの接種適期を検討した 52

その結果 1 型 2 型共に約 8ヶ月齢で全ての牛の移行抗体が消失するものと推察された ( 図 5 6) また 自家育成牛 11 頭について 移行抗体価が4 倍以下であることを確認した上でワクチンを1 回接種し 13 日後に抗体検査を実施した ( 表 2) に示すとおり No.1からNo.10までには5 種生ワクチン ( 京都微研 :5 種混合生ワクチン ) を No.11には6 種不活化ワクチン ( 京都微研 : キャトルウィン-6) を接種した なお No.10と11については約 1 年前に6 種不活化ワクチンを接種していた 結果 NO.1から9までは抗体価の上昇はみられなかったが ワクチン接種歴のあるNo.10と11は抗体価が上昇した 図 5 1 型の移行抗体価図 6 2 型の移行抗体価 表 2 ワクチン接種結果 まとめおよび今後の対策 今回特徴的な二農場をモデルとし その調査結果から以下が判明した 1A 農場など牛の移動歴の 多い農場の成牛は約 80% が抗体を保有し その抗体価は預託先や導入元によってバラツキがあること 2 抗体価 2 倍以下の成牛に 6 種不活化ワクチンを接種すると 2 回接種ではほぼ全ての成牛において抗 53

体価が上昇すること 3PI 牛が存在する農場は牛群の抗体保有率 抗体価共に高く 移行抗体消失時期は 1 型 2 型共に約 8ヶ月齢と推察されること 45 種生ワクチン1 回接種後の調査では抗体価の上昇が確認できなかったこと 5 過去に接種歴のある牛は接種間隔が約 1 年と空いても抗体価が上昇していたこと 以上を踏まえると PI 牛が産出されないようにするため ワクチンにより牛群に免疫を付与し 万が一農場にBVDウイルスが侵入して妊娠牛に感染しても防御できる状態にすることが重要だと考えられる 具体的には 自家育成牛については 移行抗体を考慮し約 8ヶ月齢から種付け前の段階までに2 回ワクチンを接種する必要があると考えられる また 下牧牛や導入牛 成牛についてはワクチン歴を把握し 過去にワクチンを1 度も接種していない牛やワクチン歴が不明な牛には2 回 過去に1 回以上接種している牛には1 回接種する必要があると考えられる 今後は上記の方法を利用しながら より効果的なBVD 対策を推進していきたい 引用文献 1) 加茂前仁弥ら : 第 43 回兵庫県家畜保健衛生業績発表会, 演題 11 番 (2008) 2) 小谷道子ら : 平成 18 年度鳥取県畜産技術業績発表会集録, 演題 12 番 (2006) 3) 松本哲ら : 平成 20 年度神奈川県家畜保健衛生業績発表会, 演題 8 番 (2009) 4) 松本哲ら : 平成 21 年度神奈川県家畜保健衛生業績発表会, 演題 5 番 (2010) 54