研究速報 JARI Research Journal 21863 * 圧縮水素容器の破裂圧力に及ぼす液圧シリーズ試験の影響 Influences of Hydraulic Sequential Tests on the Burst Strength of Compressed-hydrogen Tanks 冨岡純一 *1 増田竣亮 *1 田村浩明 *1 田村陽介 *2 Jun-ichi TOMIOKA Shunsuke MASUDA Hiroaki TAMURA Yohsuke TAMURA Abstract One of the topics for Phase 2 of GTR13 (HFCV) activity is the study of an appropriate burst pressure of tanks. For this study, we evaluated any degradation and variability of the burst pressure due to hydraulic sequential tests on 7MPa compressed-hydrogen tanks. When the burst pressure after the hydraulic sequential testing was compared with the initial burst pressure, the pressure proved to have dropped by a few percent while the variation increased. The main factor for the increase in the burst pressure variation was considered to be the drop test comprising the sequential tests. 1. まえがき 国連基準 GTR13 (HFCV) 1) が 213 年 6 月の UN/ECE/WP29( 自動車基準調和世界フォーラム ) で採択された.GTR13 (HFCV) では, 容器寿命時 (End-of-Life) の残留破裂強度で 18%NWP (Nominal Working Pressure: 公称使用圧力 ) を確 保することで, 全使用期間にわたって容器の強度 を保証するという基本方針を採っている. この方 針に沿って新たに耐久性確認のための液圧シリー ズ試験が導入された. 液圧シリーズ試験は, End-of-Life の残留破裂強度を確認するため, 容器 の生産時点から, 車両に搭載され使用期限を迎え るまでの生涯に受ける負荷を想定し, 従来の各国 規格 基準 (CSA-HGV2 2),JARI S1 3),EC79 4) 等 ) で行われている落下試験や常温圧力サイクル 試験等の各種試験を連続して 1 個の容器に与える 連続負荷試験である. しかしながら, 現行 GTR13 (HFCV) では, 新品容器の初期破裂圧力の規定と して, 従来基準で実績となっている最小破裂圧力 225%NWP が適用されたが, 容器の低コスト化お よび軽量化の観点で, より適正な最小破裂圧の規 定が求められている. そのため GTR13 (HFCV) *1 一般財団法人日本自動車研究所電動モビリティ研究部 *2 一般財団法人日本自動車研究所電動モビリティ研究部博士 ( 工学 ) * 本速報は JSAE 著作権規則に基づく JSAE2184182 の転載である. の改定審議 (Phase2 審議 ) にむけて,End-of-Life で 18%NWP の破裂圧力保証を実現するための 適切な初期破裂圧力の規定方法 ( 例えば初期破裂 圧力規定の廃止, または 225%NWP から 2%NWP への低減等 ) を検討する必要がある. 本研究では,End-of-Life の残留破裂圧力規定と 相関のある適切な初期破裂圧力を検討するため, 残留破裂圧力に及ぼす液圧シリーズ試験の影響を 調査することを目的とした. 具体的には, 新品容 器の初期破裂圧力と液圧シリーズ試験後容器の残留破裂圧力をサンプルサイズ n=1 以上で調査し, その結果から, 液圧シリーズ試験による破裂圧力 の低下量とばらつきの変動を求め, その要因を考 察する. 最後に, 適切な初期破裂圧力の規定につ いて提案する. 2. 実験方法 2. 1 供試容器 試験には, 同一ロット ( 連続生産 ) の自動車用圧 縮水素容器を使用した.Table 1 に使用した容器 の仕様を示す.Type4 容器は, プラスチックライ ナー全体を CFRP (Carbon Fiber Reinforced Plastics) でフルラップした容器である. なお, 本研究では, 現在入手可能な EC79 基準で設計された容器を使 - 1 -
用した. Table 1 Specifications of tested Type4 tank Container type Nominal working pressure Volume Application criteria Liner material Reinforcing material, Molding method 2. 2 初期破裂試験方法 Type4 7 MPa 36 L EC79 Plastic CFRP, Filament winding 初期 (Beginning of Life: BOL) の破裂圧力デー タを得るため, 新品容器の破裂試験を行った (n=1). 破裂試験は GTR13 (HFCV) の Burst test (hydraulic) による方法で, 非腐食性液体により加 圧することで実施した. なお, 初期破裂試験条件 を,BOL-A と称する. 2. 3 GTR13 に規定される液圧シリーズ試験方法 GTR13 (HFCV) の液圧シリーズ試験概要を, Fig. 1 に示す. 液圧シリーズ試験は, 以下の試験 を連続で行う試験である. 1 落下試験 2 表面ダメージ試験 3 薬品暴露 + 常温圧力サイクル試験 4 高温 高圧保持試験 5 低温 高温圧力サイクル試験 6 残存破裂強度確認試験 1 落下試験の概要を Fig. 2 に示す. 落下試験は, 容器 1 個に対して三方向に落下させる方法と, 容 器 3 個に対してそれぞれ一方向ずつ落下させる方法があるが, 本研究では, 前者の方法で実施した. >1.8m Horizontal Position Fig. 2 Drop test 2 表面ダメージ試験は, 表面傷付けと振り子試 験を含む. 表面傷付けの概要を Fig. 3 に, 振り子 試験の概要を Fig. 4 に示す. 表面傷付けでは, 直 胴部の所定の 2 箇所にそれぞれ傷 A と傷 B の切り 込みを入れた. 振り子試験は, 直胴部の所定の 5 箇所に対して同条件で行った. Flaw A Depth :1.25mm Length: 25mm Vertical Position >488J (about 1.5m) Cylidrical Part Flaw B.75mm 2mm >1.8m 45 angle Position Fig. 3 Surface flaw generation Pendulum Specimen 1 2 66 22 4 22 3 High temperature 5 static pressure test Fig. 1 Verification test for performance durability (hydraulic sequential tests) 6 3J Fig. 4 Pendulum impacts 3~5は, 規定の環境下で非腐食性液体による加圧サイクルを行う試験である. 圧力サイクル試験には,12 MPa 増圧機と恒温槽からなる環境圧 - 2 -
Burst Pressure [%] 力サイクル試験装置を用いた. 試験は, 恒温槽内 に供試容器をセットして, 恒温槽を目標とする温 度に制御し, 増圧機で容器を加圧することで実施した (Fig. 5). 3. 実験結果 3. 1 初期破裂試験結果 初期の破裂試験 (BOL-A) の結果, 破裂圧力のばらつきは 1% 弱だった (n=1). また, 破裂の起点 は全ての容器で直胴部 (Cylindrical Part) だった. Thermostatic chamber Test tank Fig. 5 Test apparatus and setting up of test tank 6 残存破裂強度確認試験は, 初期 (BOL) 破裂試 験と同様の方法で実施した. ただし,18%NWP の圧力で昇圧を一時停止し, その圧力で 4 分間保 持し, 破裂するかどうか確認したうえで, 昇圧を 再開し, 破裂するまで昇圧を続けた. 2. 4 End-of-Life 試験条件の検討 End-of-Life の残留破裂圧力を確認するための 試験である GTR13 の液圧シリーズ試験を行うに は約三ヶ月 / 回という長期間を要する.n=1 以上 のデータを迅速に取得するため, 液圧シリーズ試 験の代替となり, かつ時間短縮を可能とする試験 条件を検討した. 具体的には, 下記 3 つの試験条 件について各 n=4 で実施し, 結果を比較検討する ことで,End-of-Life の残留破裂圧力を確認するた めの試験として適切な条件を End-of-Life 試験と して選択した. :GTR13 の液圧シリーズ試験 ( 破裂試験含む ) :GTR13 の液圧シリーズ試験から 4 高温 高圧保持試験を除いた試験 ( 破裂試験含む ) EOL-D: 常温圧力サイクル試験 (11, 回 ) + 破裂試験 12MPa intensifier 3. 2 End-of-Life 試験条件の検討結果 End-of-Life 試験の各条件 (,C,D, 各 n=4) の破裂圧力を, 初期の破裂試験 (BOL-A) 結果 の平均値を 1% としたときの相対値で比較した (Fig. 6). 平均値で比較すると,End-of-Life 試験 の破裂圧力は, いずれも初期から数 % の低下が見 られた. また, 各 End-of-Life 試験の条件の違い による破裂圧力の違いは見られなかった. 次に, 各容器の破裂の起点を調査した. その結果,BOL-A( 初期 ) の場合, 全ての容器の破裂の起 点は直胴部だったことに対し, および の場合, 破裂の起点が直胴部の場合とエン ドプラグ側の鏡部 () の場合があった (Fig. 7). 一方,EOL-D の場合,BOL-A と同様に 全ての容器の破裂の起点は直胴部だった.EOL-D は, 破裂の形態が とは異なるため, 液圧 シリーズ試験の代替試験としては不適切と判断で きた. と は破裂圧力および破裂の 形態が同等であるため, は液圧シリーズ試 験の代替試験と見なすことができる. よって, と を End-of-Life 試験条件とし, 時間短縮が可能となる の n 増し試験 (6 本 ) を実施することとした. 12 1 8 6 4 2 A B C D n=1, 4, 4, 4 Fig. 6 Comparison of EOL test conditions BOL-A EOL-D Average - 3 -
Burst Pressure [%] Burst Pressure [%] Fig. 7 Bursting point of EOL test tanks 3. 3 初期と End-of-Life の破裂圧力 初期の破裂圧力 (BOL-A,n=1) と End-of-Life の破裂圧力 ( および の合計 n=14) を比較した (Fig. 8). その結果,End-of-Life の破 裂圧力は, 初期の破裂圧力から平均値で 5% 程度 低下した. また, 初期の破裂圧力のばらつきは ± 1% 弱だったが,End-of-Life の破裂圧力のばらつ きは平均値に対して +1%/-15% 程度であり, 圧力 の低い側にばらつきが増加した. 12 1 8 6 4 2 Cylindrical Part A B+C n=1, 4+1 Fig. 8 Burst pressure at BOL and EOL 各条件の破裂の起点を場所ごとに集計して Table 2 に示す.BOL-A( 初期 ) の場合, 全ての容器 の破裂の起点は直胴部だったことに対し, および の場合, 破裂の起点が直胴部の場 合とエンドプラグ側の鏡部の場合が半々であった. なお, エンドプラグ側の鏡部は, 落下試験におい て垂直落下の衝撃を受ける部分である. また, と の破裂圧力データを破裂の起点 で分けて比較した (Fig. 9). 破裂の起点が直胴部の 場合の破裂圧力のばらつきは ±1% 程度だったの に対し, 破裂の起点が鏡部の場合は圧力の低い側 にばらつきが増加した. End Plug BOL-A Average Table 2 Bursting point Cylindrical Part (End Plug side) BOL-A 1 2 2 5 5 12 1 8 6 4 2 Fig. 9 Comparison of burst pressure by bursting point 4. 考察 4. 1 破裂圧力低下の要因について 初期 (BOL-A) の破裂の起点は全て直胴部だった ことに対し,End-of-Life 試験 (,C) の破裂の 起点は, 直胴部とエンドプラグ側の鏡部の場合が あった. エンドプラグ側の鏡部は, 落下試験にお いて垂直落下の衝撃を受ける部分のため, その衝 撃により CFRP に何らかの損傷が発生し, 容器強 度が低下したものと考えられる. よって, 鏡部から破裂した容器の破裂圧力の低下とばらつき増加 の主要因は, 落下試験による損傷と考えられる. また,End-of-Life 試験 (,C) の破裂の起点が 直胴部だった容器についても初期 (BOL-A) の破裂 圧力と比較して低下が見られた. この破裂圧力低 下の主要因は, 表面ダメージ試験であると考えら れる. 表面ダメージ試験では, 直胴部の容器表面 に傷付けと振り子による損傷を与えるため, 容器 表面の CFRP が直接的に損傷し, 破裂圧力が低下 する要因となる. Cylindrical Dome Part Part n=7, 7 Average EOL-D の常温圧力サイクル試験では, 平均値 で比較すると初期から数 % 低下したが,,C - 4 -
Burst Pressure [%NWP] と比べて破裂圧が高い容器もあり, また,n 数が 少ないこともあり, ばらつきの可能性が高い. ま た,CFRP 試験片および CFRP 容器の疲労試験後の残留強度は低下しないとの報告 5),6) がある. よ って, 圧力サイクル試験による破裂圧力への影響 は小さいと考えられる. ただし, 液圧シリーズ試 験では, 上記の落下試験や表面ダメージ試験後に 圧力サイクル試験を実施するため, 圧力サイクル 試験によって落下試験や表面ダメージ試験で受け た CFRP の損傷レベルが拡大する可能性もある. なお,4 高温 高圧保持試験については, 高温 高圧保持試験の有無 ( と ) の比較を した結果, 破裂圧力と破裂の形態が同等であった. また, 室温での調査結果ではあるが,CFRP はス トレスラプチャー特性 ( 長時間の静的引張荷重による強度低下特性 ) を評価した結果, 長時間の静的 引張荷重の影響を受けにくいという報告 7) がある. よって,CFRP 容器の高温 高圧保持試験は破裂 圧力低下の要因ではないと考えられる. さらに, ストレスラプチャー特性の温度依存性を調査する ことで, より高精度な検証が可能となる. 4. 2 初期破裂圧力の規定方法について 容器破裂圧力の適正化において,End-of-Life で 18%NWP の破裂圧力保証を実現することに 対し, 初期破裂圧力の規定をなくしてもよいか, または, 初期破裂圧力を End-of-Life の残留破裂圧力規定と相関のある適切な値に設定できるか検 討する必要がある. ここでは, 劣化による強度低 下およびばらつき増加を含めて,End-of-Life で 18%NWP が確保される初期破裂圧力を検討す る. 初期破裂圧力の平均値を BPBOL,End-of-Life の残留破裂圧力の平均値を BPEOL とすると, 取得 したデータから, 初期のばらつきは BPBOL±1%, EOL のばらつきは PBEOL+1%/-15%,BPBOL と PBEOL を比較した劣化率は約 5% であった. この ばらつきと劣化率を用いて,End-of-Life の最小残 留破裂圧力が 18%NWP 以上となるように BPBOL を設定した模式図が Fig. 1 である. この 図から, 初期の最小破裂圧力が 2%NWP 以上で あれば,End-of-Life で 18%NWP の残留破裂圧 力が確保されることが分かる. また, 本結果を用 いると新品容器の最小破裂圧力が 225%NWP の 現行規定では,End-of-Life の最小残留破裂圧力が 2%NWP 程度になり, End-of-Life で 18%NWP 以上という要件に対し, 結果として過剰な設計になっていると言うこともできる. これ らのことから, 初期の最小破裂圧力は, 現状の規 定値 225%NWP に対し,End-of-Life の残留破裂 圧力規定と相関のある 2%NWP への低減が可 能であると考えられる. ただし, 今回取得した破裂強度の劣化とばらつ きのデータは,1 型式容器のデータであるため, 他の型式, 他の製造メーカーの容器の確認により, 一般解としての妥当性確認が必要と思われる. ま た, 今回使用した容器は, 欧州の EC79 基準で設 計された容器であり,GTR13(HFCV) 基準で設計 された容器でも同様の結果が得られるか確認することで, より精度の高い検証が可能となる. 24 22 2 18 5. まとめ Fig. 1 Degradation between BOL and EOL 7 MPa-Type4 容器を用いて, 新品容器の初期 破裂圧力と End-of-Life の残留破裂圧力のデータ を取得し, 液圧シリーズ試験が破裂圧力に及ぼす 影響を調査した結果, 以下のことが分かった. 新品容器の破裂圧力のばらつきは ±1% 弱だっ た. BP BOL +1% -1% 2%NWP Beginning of life -5% End-of-Life の残留破裂圧力は, 初期の破裂圧力 から平均値で 5% 程度低下した. End-of-Life の残留破裂圧力のばらつきは, 平均 値に対して +1%/-15% だった. +1% -15% 18%NWP End of life BP EOL 新品容器の破裂の起点は全て直胴部だったが, End-of-Life の破裂の起点は, 表面ダメージ試験 で損傷を受ける直胴部の場合と落下試験におい - 5 -
て垂直落下の衝撃を受けるプラグ側の鏡部の場 合があった. 以上の結果から, 供試容器の液圧シリーズ試験 による破裂圧力低下およびばらつき増加の主要因 は, 落下試験と表面ダメージ試験であると考えら れる. また, 供試容器の劣化 ばらつきデータか ら, 初期の最小破裂圧力は, 現状の規定値 225%NWP に対し,End-of-Life の残留破裂圧力 規定と相関のある 2%NWP への低減が可能で あると考えられる. 今後, 落下試験の影響を明らかにするため, 落 下試験による容器損傷の非破壊検査や落下試験の 破裂圧力への影響調査を実施する予定である. ま た, 落下試験後の圧力サイクルによる落下試験の容器損傷レベルの拡大について調査する予定であ る. 本研究は, 国立研究開発法人新エネルギー 産 業技術総合開発機構 (NEDO) の委託により実施し た 水素利用技術研究開発事業 / 燃料電池自動車 及び水素供給インフラの国内規制適正化, 国際基 準調和 国際標準化に関する研究開発 / 自動車用 圧縮水素容器の基準整備 国際基準調和に関する 研究開発 の成果の一部をまとめたものである. 参考文献 1) Global technical regulation No. 13 - Global technical regulation on hydrogen and fuel cell vehicles, United Nations (213) 2) ANSI HGV 2-214 - Compressed hydrogen gas vehicle fuel containers, CSA (214) 3) 圧縮水素自動車燃料装置用容器の技術基準 JARI S 1, 高圧ガス保安法容器保安規則例示基準,JARI (24) 4) Regulation (EC) No 79 - Type-approval of hydrogenpowered motor vehicles, European Union (29) 5) 山田敏弘ほか :FRP 複合容器用一方向炭素繊維強化複合材の疲労特性, 圧力技術,Vol.47,No.3,p.47-53 (29) 6) 冨岡純一ほか : 自動車用圧縮水素容器 (VH4) の破裂強度に及ぼす圧力サイクルの影響, 自動車研究,Vol.3, No.6,p.17-2 (28). 7) 山田敏弘ほか :FRP 複合容器用一方向炭素繊維強化複合材の静的引張特性, 圧力技術,Vol.47,No.6,p.19-27 (29) - 6 -