不整脈の種類と治療について ~ カテーテル アブレーションとは?~ 沼津市立病院循環器内科 原英幸 2015 年 7 月 11 日沼津市立病院第 19 回市民公開講座
心臓はどのようにして動く?
心臓は刺激伝導系を介した心筋の興奮により動きます 洞結節 正常の電気信号の発生場所 右心房 左心房 心房の興奮 ( 収縮 ) 房室結節 右心室 左心室 正常の電気が心房を通過した後にいったん集まる場所 心室の興奮 ( 収縮 )
正常の 1 心拍 ( 心臓が 1 回動く ) 心室 ( 下の部屋 ) 心房 ( 上の部屋 )
正常の心臓の動き 正常の心臓は 1 分間に約 50-100/ 分の速さで規則正しいリズムで動きます 正常洞調律と呼びます QRS QRS P P
血圧計の音を聴いてみましょう! ピッピッピッピッピッ 心臓から血液が駆出されると 脈として触れます
脈のとり方を練習しましょう 脈の乱れを感じたら 脈をとりましょう 脈をとるには ひと指し指と中指先を押さえつけて脈を感じます 15 秒間に脈がいくつ打つかを数えます その数を 4 倍すれば 脈拍数です 脈の乱れがいつもと違っていたり 動悸やめまいなどの症状が強かったら 我慢しないですぐに相談してください
正常の脈とは? 1 分間に 50 回 -100 回の速さの規則正しいリズム 心臓が正常のリズム ( 動き ) であれば 脈も正常です 早すぎない! 遅すぎない! 乱れない!
不整脈とは? 正常の脈ではない状態! (1) 早すぎる (2) 遅すぎる (3) 脈が飛ぶ (4) 全く不規則になる
不整脈の診断手順 (1) 1 分間にどのくらい打つか? (2) 規則性は?
症状による不整脈の鑑別 (1) 規則正しくて早い心拍の動悸がする 洞性頻脈 徐々に速くなり 徐々におさまる 発作性頻拍症 ( 発作性上室性頻拍 心房粗動 心房頻拍 心室頻拍 ) 突然出現し 突然おさまる (2) 時々脈が飛ぶ ドキンとする 心房性期外収縮 心室性期外収縮 (3) 不規則でバラバラの心拍の動悸がある 発作性心房細動 突然 バラバラの脈になる 持続性心房細動 いつもバラバラの脈 (4) 意識消失や一過性の失神を呈する場合 心室頻拍 心室細動 高度の徐脈 緊急対応が必要!
脈拍の異常の見つけ方 脈拍数 + 3つのパターン (1) 規則正しいリズム (2) 時々脈がとぶ (3) 全くバラバラの組み合わせでおよその診断をします
脈の打ち方のパターン (1) 規則正しいリズム (2) 時々脈がとぶ (3) 全くバラバラ
早すぎる脈 ( 頻脈 )
規則正しく早い心拍の動悸がする場合 (1) 徐々に早くなり 徐々おさまる 正常の脈が早いだけで 心配なし ( 洞性頻脈 ) (2) 突然早くなり 突然おさまる 不整脈の発作です! 病院へ行きましょう ( 発作性上室性頻拍 心房粗動 心房頻拍 心室頻拍等)
洞性頻脈 発作性上室性頻拍 心房粗動 (2:1 伝導 ) 心室頻拍
発作性頻拍症の症状の特徴 急に規則正しくすごく早い脈になる 脈が数えられないくらい早い じっとしているのに 走った後のような動悸が続く 30 分や1 時間等 長時間持続することがある 動悸は急に止まる
遅すぎる脈 ( 徐脈 )
洞結節 右心房 左心房 房室結節 右心室 左心室
脈の打ち始めの異常 ( 洞不全症候群 )
房室結節の異常 ( 房室ブロック )
洞停止 P P P P 高度房室ブロック P P P P 時々脈が止まり 気が遠くなることがある 脈が遅く 力が入らない すぐ病院に行きましょう! ペースメーカーが必要かも知れません
R on T を契機とした多形性心室頻拍から心室細動に移行 意識が消失し 脈を触れない心室頻拍 や心室細動が出現した場合は 心肺蘇生 を行うとともに 電気除細動が必要です
不整脈とは? 正常の脈ではない状態! (1) 早すぎる (2) 遅すぎる (3) 脈が飛ぶ (4) 全く不規則になる
期外収縮 : 予定される次の脈より早く打つ脈時々脈がとぶ 上室性期外収縮 心室性期外収縮
脈とびがあったら 心臓に病気がなければ特に心配ありません ストレスや疲れをとってゆっくり休養しましょう タバコやお酒 カフェイン類の摂取が多ければ控えましょう 心臓の悪い人や動悸がひどい場合は 病院へ行き ましょう
不整脈とは? 正常の脈ではない状態! (1) 早すぎる (2) 遅すぎる (3) 脈が飛ぶ (4) 全く不規則になる
全くバラバラで不規則な脈は心房細動です!
心房細動の不利な点 (1) 動悸 倦怠感 運動能力の低下等が生じる (2) 心房収縮の欠如により心機能が低下する (3) 脳梗塞など塞栓症のリスクが増加する
CHADS2 スコア 心房細動を放置した場合の脳梗塞の危険性を簡便に予測するための指標 C = Congestive heart failure( 心不全 ) H = Hypertension( 高血圧症 ) D = Diabetes mellitus( 糖尿病 ) A = Age(75 歳以上 ) S = Stroke / TIA( 脳梗塞 ) の既往 1 点 2 点
CHADS2 スコアと脳梗塞の年間発症率 (%) 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 18.2 12.5 8.5 5.9 4 1.9 2 0 点 1 点 2 点 3 点 4 点 5 点 6 点 CHADS2 スコア
持続期間による分類 (1) 発作性心房細動 1 週間以内で正常の脈に戻る (2) 持続性心房細動 1 週間以上持続する (3) 長期持続性 ( 慢性 ) 心房細動 1 年以上ずっと心房細動が続く
心房細動の治療方針 発作性心房細動 持続性心房細動 慢性心房細動 リズム コントロール ( 洞調律維持 ) レート コントロール ( 心拍数 ) 抗凝固薬による抗血栓療法
高周波カテーテル アブレーション カテーテル アブレーション法 (Catheter Ablation = ABL) WPW 症候群例 カテーテル電極 左房 左室 対極板 Kent 束 頻拍症の発生源あるいは カテーテルの先端と背 その旋回路の一部をカテーテル 部に貼付した対極板の 先端電極と背部に貼付した 対極板との間での通電により 間で高周波通電を行う 焼灼することによって 頻拍症の根治を目指す治療法 高周波発生装置
カテーテルアブレーションとは? カテーテル先端と対極板間で 300-750KHz の高周波通 電を行い カテーテル先端に生じる 50~60 の熱によっ 極付カテーテルを心臓内へ挿入し 高周波通電により組織を焼灼 整脈のフォーカスや経路を急性壊死させる方法 て局所心筋を焼灼し 不整脈を根治させる 1 9 8 2 年 : 難治性上室性頻拍に対してカテーテルを介して房室接合部に 焼灼部は凝固壊死や浮腫が生じるが 直流通電し 房室ブロックを作成した 1ヶ月以上経過 すると 結合組織に置換される 1 9 9 0 年以降 : " large t ip" カテーテルを用いた高周波アブレーションの成績が向上してきた 7 Fr 電極 3-5 m m 5-6 m m 1987 年副伝導路症候群に対して臨床応用が始まる
アブレーション カテーテルの冷却による焼灼効率の変化 アブレーションカテーテルが冷却されると より深い心筋にも焼灼効果が及ぶ
Contact Force Sensing Ablation Catheter Europace 2014;16:2335-340.
Cryo-balloon Ablation( 冷凍焼灼術 )
アブレーションが可能な主な不整脈 1. 発作性上室性頻拍症 2. 心室性期外収縮 心室頻拍 3. 心房頻拍 3. 心房粗動 4. 心房細動
アブレーションが可能な主な不整脈 1. 発作性上室性頻拍症 2. 心室性期外収縮 心室頻拍 3. 心房頻拍 3. 心房粗動 4. 心房細動
発作性上室性頻拍症 (1) WPW 症候群 ( 副伝導路症候群 ) P S V T 心房 副伝導路 (2) 房室結節リエントリー性頻拍 A V NRT の至適通電部位 f ast pat hway His 束 Todaro の腱索 房室結節 右心房右心室 房室結節 アブレーション カテーテル 冠静脈洞 三尖弁輪 slow pat hway 心室 いずれもカテーテル アブレーションによる治療が可能
発作性上室性頻拍症の治療 (1) 薬物治療 発作頻度が少なければワソランなどの薬剤の頓服 止まらなければ抗不整脈薬の静注で対応 発作頻度が多ければ抗不整脈薬の定期内服 (2) カテーテル アブレーション 薬剤抵抗性の場合や根治を希望される場合 ( 手術時間 2 時間前後 成功率 95% 以上 )
(1) WPW 症候群 ( 副伝導路症候群 ) WPW 症候群 ( 正常洞調律 ) 心房 ケント束 房室結節 デルタ波 心室
心室筋
カテーテル 副伝導路へのアプローチアブレーションプローチ法 心房 弁上ア弁上アプローチプローチ 冠動脈冠動脈 電極カテーテルテル三尖弁 副伝導路副伝導路 弁下アプローチ 弁下アプローチ 心室
WPW 症候群へのアブレーション ( 左側副伝導路の一例 ) 冠静脈洞 冠静脈洞 左心房 ABL 左心房 ABL 左心室 左心室 右前斜位像 左前斜位像
高周波通電開始 デルタ波消失 I II III avr avl avf V1 V2 V3 V4 V5 V6
アブレーション前 アブレーション後 I II V1 V5 A V A V HiS ABL A V A V CS Proximal A V A V Middle A V A V Distal RVA
(2) 房室結節回帰性頻拍 A V NRT の至適通電部位洞調律時は Fast Pathway を順行する f ast pat hway 右心房 Todaro の腱索 His 束 房室結節 右心室 slow pat hway アブレーション カテーテル 冠静脈洞 三尖弁輪
頻拍の旋回路 A VSlow NRT Pathway の至適通電部位 房室結節 Fast Pathway 心房を介して興奮が旋回する f ast pat hway 右心房 Todaro の腱索 His 束 房室結節 右心室 slow pat hway アブレーション カテーテル 冠静脈洞 三尖弁輪
房室結節回帰性頻拍へのアブレーション ASlow V NRT Pathway の至適通電部位に通電することにより 伝導特性が変化し 頻拍が停止する f ast pat hway 右心房 Todaro の腱索 His 束 房室結節 右心室 slow pat hway アブレーション カテーテル 冠静脈洞 三尖弁輪
房室結節回帰性頻拍へのアブレーション 右心房 冠静脈洞 His 束 右心房 His 束 冠静脈洞 ABL ABL 右前斜位像 左前斜位像
アブレーション前後での房室伝導曲線の変化 房室伝導時間 : A2-H2 (ms) 200 アブレーション前 Slow Pathway 150 Fast Pathway 100 50 0 100 200 300 400 500 心房刺激頻度 :A1-A2 (ms)
アブレーション前後での房室伝導曲線の変化 房室伝導時間 : A2-H2 (ms) 200 アブレーション前 Slow Pathway 150 100 アブレーション後 Fast Pathway 50 0 100 200 300 400 500 心房刺激頻度 :A1-A2 (ms)
アブレーションが可能な主な不整脈 1. 発作性上室性頻拍症 2. 心室性期外収縮 心室頻拍 3. 心房頻拍 3. 心房粗動 4. 心房細動
心室性期外収縮 ( 右室流出路起源 ) Ⅰ V1 Ⅱ Ⅲ av R V2 V3 V4 av L av F V5 V6 左脚ブロック + 上方軸で 胸部誘導での移行帯 (R/S=1) が V3 より下
心室性期外収縮 ( 左室流出路起源 ) I V1 II V2 III V3 avr avl avf V4 V5 V6 右室流出路起源に比べ II,III,aVF の R 波が高い 胸部誘導での移行帯 (R/S=1) が V3 より上
( 右室流出路起源 ) 心室性期外収縮の通電部位 肺動脈 肺動脈 ABL ABL 右心室 右心室 右前斜位像 左前斜位像
( 左室流出路起源 ) 心室性期外収縮の通電部位 大動脈 大動脈 左冠動脈 ABL 左冠動脈 ABL 左心室 左心室 右前斜位像 左前斜位像
3-D Mapping System (EnSite NavX)
Ensite NavX による心室性期外収縮起源の同定
治療前 治療後
アブレーションが可能な主な不整脈 1. 発作性上室性頻拍症 2. 心室性期外収縮 心室頻拍 3. 心房頻拍 3. 心房粗動 4. 心房細動
Ensite Aray を用いた心房性期外収縮起源の同定
アブレーションが可能な主な不整脈 1. 発作性上室性頻拍症 2. 心室性期外収縮 心室頻拍 3. 心房頻拍 3. 心房粗動 4. 心房細動
心房粗動 1 分間に 250-300 の頻度で 三尖弁周囲の右房内を興奮が旋回する 三尖弁と下大静脈間 ( 右房峡部 ) を必ず通過する
Atrial Flutter Post-Ablation 心房粗動へのアブレーション 右心房 CS CS IVC IVC 下大静脈 TV TV 三尖弁 右心房 CS CS IVC IVC 下大静脈 TV 三尖弁 TV 心房粗動は右房内を 反時計方向に規則正しく 興奮が旋回する Blocking Line Line 三尖弁と下大静脈間にブロックラインを作成すれば心房粗動が停止する
心房粗動のアブレーション 右房 右房 右室 右室 右前斜位 30 左前斜位 45 三尖弁輪から下大静脈まで ( 右房峡部 ) に対し線状に焼灼 ( 約 2cm) する
心房粗動の停止 TA ABL CS
アブレーションが可能な主な不整脈 1. 発作性上室性頻拍症 2. 心室性期外収縮 心室頻拍 3. 心房頻拍 3. 心房粗動 4. 心房細動
心房細動 (1) 心房全体が無秩序に興奮し P 波の代わりに細動波と呼ばれる細かい基線のゆれがみられる (2) 心室へは不規則に興奮が伝わるため R-R 間隔は一定せず 絶対性不整脈 となる
心房細動の発生機序と治療 心房細動のトリガーとなる心房性期外収縮は 90% 以上が肺静脈入口部起源である 左右 4 本の肺静脈入口部周囲の左房心筋を高周波で焼灼し 左房と肺静脈を電気的に隔離することにより 期外収縮の心房への侵入をブロックし 心房細動を予防する 左房 - 肺静脈電気的隔離術
肺静脈内からの期外収縮による心房細動への移行 II V1 P P LSPV5 LSPV4 LSPV3 LSPV2 LSPV1 LIPV5 LIPV4 LIPV3 LIPV2 LIPV1 RSPV5 RSPV4 RSPV3 RSPV2 RSPV1 HBE CS2 CS1 発火 ( 期外収縮 ) 心房細動 右上肺静脈 左上肺静脈 左下肺静脈
心房細動の引き金となる期外収縮の発生部位 Haïssaguerre M. et. al, New England Journal of Medicine, 1998:339,659-666
心房細動の引き金となる期外収縮の発生部位 Haïssaguerre M. et. al, New England Journal of Medicine, 1998:339,659-666
心房細動の引き金となる期外収縮の発生部位 Haïssaguerre M. et. al, New England Journal of Medicine, 1998:339,659-666
左房 肺静脈 CT 肺動脈 左上肺静脈 右上肺静脈 左下肺静脈 左心房 右下肺静脈
アブレーションによる焼灼ライン 左右 4 本の肺静脈の周囲の筋肉を高周波で焼灼し 左房と肺静脈を電気的に隔離して心房細動を予防する
肺静脈入口部の焼灼 右肺静脈 左肺静脈 Circulation.2003;107:2004-2010
肺静脈入口部の焼灼 期外収縮発生部位 右肺静脈 左肺静脈 Circulation.2003;107:2004-2010
肺静脈入口部の焼灼 期外収縮発生部位 右肺静脈 アブレーションポイント 左肺静脈 Circulation.2003;107:2004-2010
アブレーション後の心房細動再発 伝導再開部位 再発の原因は肺静脈 - 左房の伝導再開が殆ど 術後 2 日から 1 ヶ月の間に起こることが多い
アブレーション後の心房細動再発 伝導再開部位 再発の原因は肺静脈 - 左房の伝導再開が殆ど 術後 2 日から 1 ヶ月の間に起こることが多い 心房細動が再発!
アブレーション後の再発例は再隔離による根治を行う 通電追加部位 再発例 2 回目のアブレーションを約 3 ヶ月後に行う 焼灼不十分な部位を再度焼灼すれば 90% は治癒する
EnSite NavX による伝導再開部位の同定
済生会泉尾病院不整脈グループのスタッフ (2011 年 )
発作性心房細動の成績 ( 薬剤なしでの根治率 ) 1 回目のアブレーションで根治 : 63% ( 約 6.5 割 ) 2 回目のアブレーションで根治 (3 ヶ月以降に施行 ) : 89% ( 約 9 割 )
当院におけるアブレーション治療件数 ( 症例数 ) 60 50 40 30 20 10 0 2012 年 2013 年 2014 年
入院期間 一般のアブレーション ( 心房細動以外 ) 1 泊 2 日 ( 検査当日入院 翌日退院 ) ~ 3 泊 4 日 ( 検査前日入院 翌々日退院 ) 心房細動のアブレーション 4 泊 5 日 ~5 泊 6 日 ( 初回 2 回目とも )
長らくのご清聴ありがとうございました!